選評の概要
97. 98. 99. 100.101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113. 114. 115.
116. 117. 118. 119. 120.
121. 122. 123. 124. 125.
126. 127. 128. 129. 130.
131. 132. 133. 134. 135.
136. 137. 138. 139. 140.
141. 142. 143. 144. 145.
146.
生没年月日【注】 | 昭和7年/1932年5月28日~ | |
在任期間 | 第97回~第146回(通算25年・50回) | |
在任年齢 | 55歳1ヶ月~79歳7ヶ月 | |
経歴 | 本名=長部舜二郎。東京(現・中野区)出身。東京大学経済学部卒。富士重工業入社。在職中より同人誌等で創作を続ける。昭和45年/1970年退社。 | |
受賞歴・候補歴 |
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芥川賞候補歴 | 第60回候補 「穴と空」(『層』7号[昭和43年/1968年9月]) 第61回候補 「時間」(『文芸』昭和44年/1969年2月号) 第62回候補 「星のない部屋」(『文學界』昭和44年/1969年10月号) 第63回候補 「赤い樹木」(『文學界』昭和45年/1970年4月号) 第64回候補 「闇の船」(『文學界』昭和45年/1970年9月号) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 黒井千次 56歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
吉本ばなな | 23歳 |
○ | 5 | 「ストーリーの設定は荒唐無稽ながら、そこから放射される十九歳の女性主人公の心情にはなにかひたすらなものがあり、爽やかな読後感を与えられた。ウソとホントがひとかたまりになって示されるところに若さの魅力を覚える。」 |
42歳 |
□ | 16 | 「主人公の性的不能の描き方には最後まで疑問が残った。にもかかわらず、現代の尖端の一角に手を伸ばし、なんとかそれを掴もうとする意欲と小説づくりの力量が僅かながらも他の候補作の先を行く感があり、最終的には支持の一票を投じて受賞に同意した。」 | |
「今回の候補作六篇は、突出する作品がなかったかわりに、いずれも夫々の可能性を秘め、次作を読んでみたい、という気持ちに誘われた。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和63年/1988年9月号) |
選考委員 黒井千次 56歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
33歳 |
◎ | 18 | 「候補作の八篇を読み、最も強い刺戟と手応えを覚えた」「日本と韓国との民族にまたがる問題を、個人のアイデンティティーの視野のもとに扱った作品は、李氏の以前の作品を含めて幾つか読んで来ているが、それが「言葉」の領域のドラマとしてこれほど鋭く突出した小説を他に識らない。由煕の痛々しい吃音性が、言葉というものの底深い肉体感を鮮烈に刻み上げている。」 | |
37歳 |
○ | 7 | 「完成度は他をぬきんでていた。医師の書く小説が、時として人間を患者ふうに扱う弊がありがちなのに対し、主人公を看護士に設定したのが成功のもとではなかったか。」 | |
清水邦夫 | 52歳 |
○ | 7 | 「前々回の候補作「BARBER・ニューはま」に比して格段に優れた好短篇だった。」「氏の戯曲とは全く異なる素材による小説を読んでみたいものだ、とふと感じた。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成1年/1989年3月号) |
選考委員 黒井千次 57歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
荻野アンナ | 33歳 |
◎ | 17 | 「注目した。」「速度のある知的文体は力強く(時にはやや空転もするが)、去り行く若き日々ともう若くはない現在の日常とに立つ主人公のコントラストが鮮やかである。終始この作品を推したが、残った三編を二編に絞りこむ段階で多数の支持を得られず、残念だった。」「三作(引用者注:「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」)は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」 |
50歳 |
□ | 7 | 「穏やかな筆致が人間の温もりと小説の面白さを浮かび上らせる作品だった。眼の前にあるものを自然に受け入れる成熟した視線に好感を覚える。」「三作(引用者注:「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」)は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」 | |
31歳 |
□ | 7 | 「作者が一貫して現代そのものに取り組もうとする姿勢を支持したい。“計算機”と呼ばれる人物が必ずしも十全には理解出来なかった面もあるけれど、この主題にこだわり、更に危険な賭けを続行するよう願っている。」「三作(引用者注:「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」)は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」 | |
「全般にレベルの高かった」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成2年/1990年3月号) |
選考委員 黒井千次 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
39歳 |
◎ | 14 | 「秀作である。」「本作は筆の走りを抑えて、都会からUターンした男の淡い諦めを滲ませた鬱屈と、外国人相手の娼婦であったと噂される老女の過去への思いとが、巧みに結び合わされて形の整った小説を生み出すことに成功した。」「そこには、まだ狂ったように走る光の点や、掌に掬われた温かな空気の感触もしっかり書き留められている。」 | |
伊藤比呂美 | 42歳 |
◎ | 7 | 「語りの文章の快さに惹かれた。」「とりわけ、末尾に近い「びーちとぱーく」の光景は秀逸である。このような散文作品も芥川賞の領域の一画を占めていいのではないか、と推したが、多くの賛同は得られなかった。」 |
43歳 |
■ | 10 | 「宗教という重いテーマに取り組む意欲とストーリーを運ぶ力量は充分に感じられるが、時に力み過ぎた文章が硬直を起し、対象を精確に捉えかねる点が気にかかった。また、全編のテーマである神の問題を引き受ける筈の告解をめぐる部分が、ほとんど会話のみで描かれていることにも不満を覚えた。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成10年/1998年9月号) |
選考委員 黒井千次 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
伊藤比呂美 | 43歳 |
◎ | 12 | 「先々回候補にあがった「ハウス・プラント」の続編ともいえるが、独立した短編として読め、こちらの方がよくまとまっている。」「天候や動植物に注がれる視線に力があり、影絵とは反対の光絵があると感じた。」「小説の中には小鳥が跳ねるような散文があってもいいだろうし、むしろそれによってのみ捉えることの叶う世界がここに現出している、と考えて推したのだが、少数意見にとどまった。」 |
「今回の候補作品がとりわけ低調であったとは思えない。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成11年/1999年9月号) |
選考委員 黒井千次 68歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
37歳 |
◎ | 15 | 「人と人との関りの内にある微妙な温もりを知的な言葉で刻み込もうとした大作品であるといえよう。民族の歴史の孕む必然と個々の偶然との織り成す人間の生の光景が、幾つものエピソードを通して浮上する。」 | |
黒川創 | 39歳 |
○ | 7 | 「祖父、父、主人公と三代の生き方を追う力作であり、戦前、戦中、戦後を夫々の形で生きた家族像に惹かれた。現代史の中で人間の生はどうしたら完結するか、という問いかけは読後にずっしり残る。」 |
42歳 |
△ | 11 | 「様々の材料を集めて組み合わせ、積み上げ、小説の世界を生み出そうとした作品である。」「視点の広がりとストーリーを編み出す力は確かに認められるが、話の展開に比して人間の魂の凹凸の上を言葉が滑らかに進み過ぎる感が否めない。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十九巻』平成14年/2002年12月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成13年/2001年3月号) |
選考委員 黒井千次 75歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
楊逸 | 43歳 |
○ | 23 | 「結婚というものを何よりも生活上の必要として捉えるリアルな視点が新鮮である。」「主人公の夫が充分に描かれず、姑の病気や死の方にウェイトのかかった末尾に不満は覚えるが、日本人のあまり書かなくなってしまった世界を突きつけられたような感慨を覚えた。日本語の表現に致命的な問題があるとは感じなかった。」 |
31歳 |
□ | 18 | 「前回候補作『わたくし率 イン 歯ー、または世界』に見られた言葉のエネルギーが持続力を持つものであることを証明する作品であった。」「女ばかりの二泊三日を通して、女であることの心身の実像を「泣き笑い」の如く描き出す。息の長い文章は「わたし」の語る大阪弁に支えられてはじめて成立すると思われる。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成20年/2008年3月号 |
選考委員 黒井千次 76歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
岡崎祥久 | 39歳 |
○ | 6 | 「どこか惚けたような味わいに独得なものがあり、単なる作り物には止まらぬ面白さがあると感じたのだが、他の支持は全く得られなかった。」 |
44歳 |
△ | 32 | 「他の候補作とは質の異なる作品である、との印象を受けた。」「荒削りではあっても、そこには書きたいこと、書かれねばならぬものが充満しているのを感じる。」「ただ、激動する時代を生きる人間の歳月をこのような書き方で描くとしたら、それは長篇小説がふさわしかったろう。その素材を中篇といった長さに押し込んでしまったところに構成上の無理がある。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成20年/2008年9月号 |