第125回

第124回第126回

平成13年/2001年上半期 平成13年/2001年7月17日決定発表／『文藝春秋』平成13年/2001年9月号選評掲載

選考委員　 河野多恵子 75歳 石原慎太郎 68歳 古井由吉 63歳 宮本輝 54歳 日野啓三 72歳 池澤夏樹 56歳 三浦哲郎 70歳 村上龍 49歳 黒井千次 69歳 選評総行数　 32 39 40 38 78 38 35 28 35 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 玄侑宗久　「中陰の花」 142枚 45歳 評 ◎ 15 ○ 24 ○ 40 ○ 16 □ 41 ○ 7 □ 18 □ 3 □ 14 阿部和重　「ニッポニアニッポン」 229枚 32歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 □ 7 ― 0 ◎ 17 ― 0 ― 0 ■ 3 佐川光晴　「ジャムの空壜」 212枚 36歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ● 2 ― 0 ― 0 □ 12 ― 0 ● 3 清水博子　「処方箋」 178枚 33歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 4 ― 0 ■ 3 ― 0 ― 0 ● 3 長嶋有　「サイドカーに犬」 85枚 28歳 評 ◎ 14 △ 8 ― 0 ■ 3 ◎ 37 ■ 8 △ 9 ● 25 △ 7 和田ゆりえ　「光への供物」 92枚 (43歳) 評 ― 0 ■ 4 ― 0 ■ 3 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 △ 5                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

河野多恵子75歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題自然に決まる　総行数32　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 玄侑宗久 45歳 全 ◎ 15 「第一回目の投票で、すでに充分過半数以上の票を得ていた。」「私は三回の投票すべて、この二作（引用者注：「中陰の花」「サイドカーに犬」）に○を入れた。」「前回の候補作よりも確実に進歩していた。無駄な迂回がなくなり、しかもすっきり仕上ったことで作品が痩せるのではなく、豊かになっていて嬉ばしい。」 阿部和重 32歳 全 ― 0   佐川光晴 36歳 全 ― 0   清水博子 33歳 全 ― 0   長嶋有 28歳 全 ◎ 14 「第二回目の投票で、半数の票を得た。」「私は三回の投票すべて、この二作（引用者注：「中陰の花」「サイドカーに犬」）に○を入れた。」「おどろくほどカンのよい人である。（引用者中略）省略――それも新しい省略の仕方をひそかに発見しつつあるらしい点から見ても、関心を抱かずにはいられない。「サイドカーに犬」は書くに足りるモチーフをもち、それがよく表現されていた。」 和田ゆりえ (43歳) 全 ― 0     「今回の選考会は至って順調に進んで早目に好結果が得られた。」

他の選考委員 石原慎太郎 古井由吉 宮本輝 日野啓三 池澤夏樹 三浦哲郎 村上龍 黒井千次

石原慎太郎68歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題正統な主題　総行数39　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 玄侑宗久 45歳 全 ○ 24 「たいそう重い主題を扱っているが、その視点が僧侶のそれであるという点で説得性がある。」「現実に僧籍にある人がその職業的体験の中でこうした問題にまともに視点を据えてかかるというのは逆に珍しいし、作者の僧侶としての誠実さを感じさせもする。」 阿部和重 32歳 全 ― 0   佐川光晴 36歳 全 ― 0   清水博子 33歳 全 ― 0   長嶋有 28歳 全 △ 8 「結婚という黙約で成り立つ家庭というものの現代的なもろさをいい感触の文体で描いてはいる。」「ただ母親不在という体験が一種のノスタルジーとして語られているのはむしろこの作品の弱さのような気がするが。いずれにせよこの作家の才能は確かなもののような気がする。」 和田ゆりえ (43歳) 全 ■ 4 「受賞作の「中陰の花」に似た重い主題を扱ってはいるが、いま一つ触れてくるものが無い。いかにも借り物の主題という感が否めない。」   「今回は全体に候補作の水準が高く、選考委員の間にさしたる異論もなしに受賞作が決まった。」

他の選考委員 河野多恵子 古井由吉 宮本輝 日野啓三 池澤夏樹 三浦哲郎 村上龍 黒井千次

古井由吉63歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題穏やかな霊異　総行数40　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 玄侑宗久 45歳 全 ○ 40 「霊障を病む心は、霊異を求める心でもある。そして霊異はどうしても時代の表象に染まる。和尚はおのずと霊異をめぐる穏和な困惑のコンサルタントの役を担う。そのような場に置いてこそ、この「中陰の花」は、おかしく開く。」「依存の極致が、かえって依存から自由である、かのような「たたずまい」を見せる。「たたずまい」という言葉がこの際適切であるかどうかわからないが、私は目を惹かれた。」 阿部和重 32歳 全 ― 0   佐川光晴 36歳 全 ― 0   清水博子 33歳 全 ― 0   長嶋有 28歳 全 ― 0   和田ゆりえ (43歳) 全 ― 0	他の選考委員 河野多恵子 石原慎太郎 宮本輝 日野啓三 池澤夏樹 三浦哲郎 村上龍 黒井千次

宮本輝54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「小説」の練り　総行数38　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 玄侑宗久 45歳 全 ○ 16 「安定した文章で、前作に散見されて幾人かの委員に指摘された構成上の傷の修復に努めて、それがうまく是正されている。」「この指摘された自分の欠点をすみやかに直せるというのは、出来そうで出来ない技である。」「前作の失敗を糧にして、あらたな作品を生み出したということに私は氏の才能を感じた。」 阿部和重 32歳 全 □ 7 「他の候補作よりも高い点をつけたが、強くは推せなかった。阿部氏は、いつも、いまの時代に話題となる素材を組み合わせて小説を作ってしまう。うまい下手は別にして、そういう作り方に、なにかしら「あてこみ」のようなものを感じる。」 佐川光晴 36歳 全 ● 2 「いちおう小説だというだけで、それ以上の何かがない。」 清水博子 33歳 全 ■ 4 「粘着力のある文章だが、三行で済むことを十枚も書いてはいけない。」 長嶋有 28歳 全 ■ 3 「私には淡彩すぎて芥川賞には推せなかった。もうひと味どころか、二味も三味も足りない。」 和田ゆりえ (43歳) 全 ■ 3 「途中から突然ゆるんで、最初のサウナの場面がほとんど無に帰したと思う。」   「今回は、これが芥川賞の候補作かと憮然となる作品は一篇もなく、どれもそれぞれ持ち味があって、楽しく読んだ。」

他の選考委員 河野多恵子 石原慎太郎 古井由吉 日野啓三 池澤夏樹 三浦哲郎 村上龍 黒井千次

日野啓三72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題“物”の光　総行数78　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 玄侑宗久 45歳 全 □ 41 「宗教と呪術の次元が重層する日本人の無意識の現実に、玄侑氏はほの暗くやさしく触れようとする。」「妻君の最後の呟きは、まさに普通の日本人の「無我」の境位を自然に言い当てているようで良い気持ちになることができた。」「ただ私としては、題材が題材なだけに文章全体がくすんできらめきが乏しいこと（引用者中略・注：などの）疑念から、積極的な評価（マル印）は控えた。」 阿部和重 32歳 全 ― 0   佐川光晴 36歳 全 ― 0   清水博子 33歳 全 ― 0   長嶋有 28歳 全 ◎ 37 「三度読み直しながら考えに考えてマル印をつけた」「透き徹るように新鮮なこの短篇に出会ったことで、今回の選考を私は長く記憶するだろう。」「とくに新しい思想や哲学があるわけでもなさそうなのに、この作品は新しい、と本能的に感ずる。」「何よりも、自分が犬になって、「凛として」サイドカーに行儀よく坐っているイメージの、言い難い象徴的魅力。」 和田ゆりえ (43歳) 全 ― 0

他の選考委員 河野多恵子 石原慎太郎 古井由吉 宮本輝 池澤夏樹 三浦哲郎 村上龍 黒井千次

池澤夏樹56歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題共感の有無について　総行数38　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 玄侑宗久 45歳 全 ○ 7 「前回の候補作よりずっと上手になった。筋立てがすっきりしてわかりやすい（その分軽くなったという気もするが）。今の日本の地方のもう若くない人々の思想を、宗教と死生観をキーワードにうまく表現している。安定した力がある。」 阿部和重 32歳 全 ◎ 17 「おもしろかった。」「ぼくはこの話に乗った。作者と共に主人公の動きを追うことができた。共感した。」「今回この作品を評価したのはほとんどぼく一人だった。技術的な問題点が多数指摘されたが、共感できないとどうしても欠点探しに走る。」 佐川光晴 36歳 全 ― 0   清水博子 33歳 全 ■ 3 「ぼくも（引用者中略）『処方箋』に対して、共感なきまま技術的な批判をした。」 長嶋有 28歳 全 ■ 8 「読む者の共感を得やすく巧みに作られている。」「一九八〇年代の前半というよき時代への郷愁を誘う仕掛けもよくできている。しかしそれ以上ではない。何かが足りなくて、その何かは相当に大事な何かなのだ。」 和田ゆりえ (43歳) 全 ― 0

他の選考委員 河野多恵子 石原慎太郎 古井由吉 宮本輝 日野啓三 三浦哲郎 村上龍 黒井千次

三浦哲郎70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数35　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 玄侑宗久 45歳 全 □ 18 「（引用者注：「ジャムの空壜」と共に）強い支持を集めることがあったら敢えて反対はしないと思っていた」「期待通り文章も構成も手堅く安定していて、安心して読めたが、前作に比べて感覚の躍動が抑えられて妙におとなしくなっているのが少々寂しく思われた。」「なによりも残念だったのは、紙縒のタペストリーについてどうしても鮮明なイメージが描けず、したがって末尾のウメさんの葬式の場面で肝腎の中陰の花のゆらめきを言葉でしか感じることができなかったことであった。」 阿部和重 32歳 全 ― 0   佐川光晴 36歳 全 □ 12 「（引用者注：「中陰の花」と共に）強い支持を集めることがあったら敢えて反対はしないと思っていた」「文章が明快で闊達な作品だが、夾雑物が多すぎるのではないか。」「肉屋でアルバイトをするところはとてもよく書けているのだが、作品のなかで必要な部分とそうでない部分を切りさばく作業はあまりうまくいっていないというほかはない。」 清水博子 33歳 全 ― 0   長嶋有 28歳 全 △ 9 「辛い現実を描いた作品ながら、気持よく読めた。母が家を出てから毎日夕食を作りに自転車で通っている洋子さんというノッポの女がよく書けている。」「小味だが、捨て難い作品であった。」 和田ゆりえ (43歳) 全 ― 0     「今回は進んで推したい作品はなかった」

他の選考委員 河野多恵子 石原慎太郎 古井由吉 宮本輝 日野啓三 池澤夏樹 村上龍 黒井千次

村上龍49歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数28　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 玄侑宗久 45歳 全 □ 3 「わたしの関心と遠い作品なので感想は控えたい。ただその筆力は間違いないと判断したので、最終投票では受賞に賛成の票を入れた。」 阿部和重 32歳 全 ― 0   佐川光晴 36歳 全 ― 0   清水博子 33歳 全 ― 0   長嶋有 28歳 全 ● 25 「わたしは受賞に反対した。」「（引用者注：揺らいでいる核家族という）家族状況の中では確かに旧来の「葛藤」はないかも知れないが、その代わりに「他者との出会い」があるはずだ。『サイドカーに犬』には、葛藤はもちろんなく、しかし「他者との出会い」も描かれていなかった。つまり時代に適応できない家族の物語を書くに当たって、葛藤を排除しただけで、結局は旧来の手法をなぞったものではないかと思ったのである。」 和田ゆりえ (43歳) 全 ― 0	他の選考委員 河野多恵子 石原慎太郎 古井由吉 宮本輝 日野啓三 池澤夏樹 三浦哲郎 黒井千次

黒井千次69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題迷う自由　総行数35　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 玄侑宗久 45歳 全 □ 14 「臨済宗の寺を預る僧侶の日常生活が、夫婦をはじめとする人間関係や衣食住の細部を通して浮かび上るところに作品の強みがある。」「現職の僧が教義や戒律に縛られることなく、迷う自由の中に生きている姿に共感を覚える。ただ、末尾に登場する紙縒の網のイメージが掴みにくかった。」「先回の候補作「水の舳先」に比してややおとなしく整い過ぎた感は残るものの、作者の持つ力量と可能性は明らかであり、受賞に賛成の票を投じた。」 阿部和重 32歳 全 ■ 3 「意図はわかってもそれが力となって押し寄せて来ない。主人公の反抗に理由が与えられ過ぎているのではあるまいか。」 佐川光晴 36歳 全 ● 3 「生真面目な主人公に魅力がない。むしろこれは生殖に主題を絞った小説にすべきではなかったろうか。」 清水博子 33歳 全 ● 3 「精神の病いの向うに何かを見たいのに、それが現れぬもどかしさを感じる。」 長嶋有 28歳 全 △ 7 「好短篇といえる。妙に爽やかな風が吹き抜けている。」「同時にまた、少し恰好よくまとまり過ぎているのではないか、との疑問も生じる。」 和田ゆりえ (43歳) 全 △ 5 「前半のサウナ風呂に出入りする女性達の肉体群像に生々しさがあり、描写力に惹かれた。しかし女主人公が「供物」となる後半の展開にうまく繋がらず、作品の割れてしまった点がなんとも惜しい。」

他の選考委員 河野多恵子 石原慎太郎 古井由吉 宮本輝 日野啓三 池澤夏樹 三浦哲郎 村上龍

玄侑宗久45歳×各選考委員　 「中陰の花」 中篇 142枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 河野多恵子 75歳 全 ◎ 15 「第一回目の投票で、すでに充分過半数以上の票を得ていた。」「私は三回の投票すべて、この二作（引用者注：「中陰の花」「サイドカーに犬」）に○を入れた。」「前回の候補作よりも確実に進歩していた。無駄な迂回がなくなり、しかもすっきり仕上ったことで作品が痩せるのではなく、豊かになっていて嬉ばしい。」 石原慎太郎 68歳 全 ○ 24 「たいそう重い主題を扱っているが、その視点が僧侶のそれであるという点で説得性がある。」「現実に僧籍にある人がその職業的体験の中でこうした問題にまともに視点を据えてかかるというのは逆に珍しいし、作者の僧侶としての誠実さを感じさせもする。」 古井由吉 63歳 全 ○ 40 「霊障を病む心は、霊異を求める心でもある。そして霊異はどうしても時代の表象に染まる。和尚はおのずと霊異をめぐる穏和な困惑のコンサルタントの役を担う。そのような場に置いてこそ、この「中陰の花」は、おかしく開く。」「依存の極致が、かえって依存から自由である、かのような「たたずまい」を見せる。「たたずまい」という言葉がこの際適切であるかどうかわからないが、私は目を惹かれた。」 宮本輝 54歳 全 ○ 16 「安定した文章で、前作に散見されて幾人かの委員に指摘された構成上の傷の修復に努めて、それがうまく是正されている。」「この指摘された自分の欠点をすみやかに直せるというのは、出来そうで出来ない技である。」「前作の失敗を糧にして、あらたな作品を生み出したということに私は氏の才能を感じた。」 日野啓三 72歳 全 □ 41 「宗教と呪術の次元が重層する日本人の無意識の現実に、玄侑氏はほの暗くやさしく触れようとする。」「妻君の最後の呟きは、まさに普通の日本人の「無我」の境位を自然に言い当てているようで良い気持ちになることができた。」「ただ私としては、題材が題材なだけに文章全体がくすんできらめきが乏しいこと（引用者中略・注：などの）疑念から、積極的な評価（マル印）は控えた。」 池澤夏樹 56歳 全 ○ 7 「前回の候補作よりずっと上手になった。筋立てがすっきりしてわかりやすい（その分軽くなったという気もするが）。今の日本の地方のもう若くない人々の思想を、宗教と死生観をキーワードにうまく表現している。安定した力がある。」 三浦哲郎 70歳 全 □ 18 「（引用者注：「ジャムの空壜」と共に）強い支持を集めることがあったら敢えて反対はしないと思っていた」「期待通り文章も構成も手堅く安定していて、安心して読めたが、前作に比べて感覚の躍動が抑えられて妙におとなしくなっているのが少々寂しく思われた。」「なによりも残念だったのは、紙縒のタペストリーについてどうしても鮮明なイメージが描けず、したがって末尾のウメさんの葬式の場面で肝腎の中陰の花のゆらめきを言葉でしか感じることができなかったことであった。」 村上龍 49歳 全 □ 3 「わたしの関心と遠い作品なので感想は控えたい。ただその筆力は間違いないと判断したので、最終投票では受賞に賛成の票を入れた。」 黒井千次 69歳 全 □ 14 「臨済宗の寺を預る僧侶の日常生活が、夫婦をはじめとする人間関係や衣食住の細部を通して浮かび上るところに作品の強みがある。」「現職の僧が教義や戒律に縛られることなく、迷う自由の中に生きている姿に共感を覚える。ただ、末尾に登場する紙縒の網のイメージが掴みにくかった。」「先回の候補作「水の舳先」に比してややおとなしく整い過ぎた感は残るものの、作者の持つ力量と可能性は明らかであり、受賞に賛成の票を投じた。」

他の候補作 阿部和重 「ニッポニアニッポン」 佐川光晴 「ジャムの空壜」 清水博子 「処方箋」 長嶋有 「サイドカーに犬」 和田ゆりえ 「光への供物」

阿部和重32歳×各選考委員　 「ニッポニアニッポン」 中篇 229枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 河野多恵子 75歳 全 ― 0   石原慎太郎 68歳 全 ― 0   古井由吉 63歳 全 ― 0   宮本輝 54歳 全 □ 7 「他の候補作よりも高い点をつけたが、強くは推せなかった。阿部氏は、いつも、いまの時代に話題となる素材を組み合わせて小説を作ってしまう。うまい下手は別にして、そういう作り方に、なにかしら「あてこみ」のようなものを感じる。」 日野啓三 72歳 全 ― 0   池澤夏樹 56歳 全 ◎ 17 「おもしろかった。」「ぼくはこの話に乗った。作者と共に主人公の動きを追うことができた。共感した。」「今回この作品を評価したのはほとんどぼく一人だった。技術的な問題点が多数指摘されたが、共感できないとどうしても欠点探しに走る。」 三浦哲郎 70歳 全 ― 0   村上龍 49歳 全 ― 0   黒井千次 69歳 全 ■ 3 「意図はわかってもそれが力となって押し寄せて来ない。主人公の反抗に理由が与えられ過ぎているのではあるまいか。」

他の候補作 玄侑宗久 「中陰の花」 佐川光晴 「ジャムの空壜」 清水博子 「処方箋」 長嶋有 「サイドカーに犬」 和田ゆりえ 「光への供物」

佐川光晴36歳×各選考委員　 「ジャムの空壜」 中篇 212枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 河野多恵子 75歳 全 ― 0   石原慎太郎 68歳 全 ― 0   古井由吉 63歳 全 ― 0   宮本輝 54歳 全 ● 2 「いちおう小説だというだけで、それ以上の何かがない。」 日野啓三 72歳 全 ― 0   池澤夏樹 56歳 全 ― 0   三浦哲郎 70歳 全 □ 12 「（引用者注：「中陰の花」と共に）強い支持を集めることがあったら敢えて反対はしないと思っていた」「文章が明快で闊達な作品だが、夾雑物が多すぎるのではないか。」「肉屋でアルバイトをするところはとてもよく書けているのだが、作品のなかで必要な部分とそうでない部分を切りさばく作業はあまりうまくいっていないというほかはない。」 村上龍 49歳 全 ― 0   黒井千次 69歳 全 ● 3 「生真面目な主人公に魅力がない。むしろこれは生殖に主題を絞った小説にすべきではなかったろうか。」	他の候補作 玄侑宗久 「中陰の花」 阿部和重 「ニッポニアニッポン」 清水博子 「処方箋」 長嶋有 「サイドカーに犬」 和田ゆりえ 「光への供物」

清水博子33歳×各選考委員　 「処方箋」 中篇 178枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 河野多恵子 75歳 全 ― 0   石原慎太郎 68歳 全 ― 0   古井由吉 63歳 全 ― 0   宮本輝 54歳 全 ■ 4 「粘着力のある文章だが、三行で済むことを十枚も書いてはいけない。」 日野啓三 72歳 全 ― 0   池澤夏樹 56歳 全 ■ 3 「ぼくも（引用者中略）『処方箋』に対して、共感なきまま技術的な批判をした。」 三浦哲郎 70歳 全 ― 0   村上龍 49歳 全 ― 0   黒井千次 69歳 全 ● 3 「精神の病いの向うに何かを見たいのに、それが現れぬもどかしさを感じる。」	他の候補作 玄侑宗久 「中陰の花」 阿部和重 「ニッポニアニッポン」 佐川光晴 「ジャムの空壜」 長嶋有 「サイドカーに犬」 和田ゆりえ 「光への供物」

長嶋有28歳×各選考委員　 「サイドカーに犬」 短篇 85枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 河野多恵子 75歳 全 ◎ 14 「第二回目の投票で、半数の票を得た。」「私は三回の投票すべて、この二作（引用者注：「中陰の花」「サイドカーに犬」）に○を入れた。」「おどろくほどカンのよい人である。（引用者中略）省略――それも新しい省略の仕方をひそかに発見しつつあるらしい点から見ても、関心を抱かずにはいられない。「サイドカーに犬」は書くに足りるモチーフをもち、それがよく表現されていた。」 石原慎太郎 68歳 全 △ 8 「結婚という黙約で成り立つ家庭というものの現代的なもろさをいい感触の文体で描いてはいる。」「ただ母親不在という体験が一種のノスタルジーとして語られているのはむしろこの作品の弱さのような気がするが。いずれにせよこの作家の才能は確かなもののような気がする。」 古井由吉 63歳 全 ― 0   宮本輝 54歳 全 ■ 3 「私には淡彩すぎて芥川賞には推せなかった。もうひと味どころか、二味も三味も足りない。」 日野啓三 72歳 全 ◎ 37 「三度読み直しながら考えに考えてマル印をつけた」「透き徹るように新鮮なこの短篇に出会ったことで、今回の選考を私は長く記憶するだろう。」「とくに新しい思想や哲学があるわけでもなさそうなのに、この作品は新しい、と本能的に感ずる。」「何よりも、自分が犬になって、「凛として」サイドカーに行儀よく坐っているイメージの、言い難い象徴的魅力。」 池澤夏樹 56歳 全 ■ 8 「読む者の共感を得やすく巧みに作られている。」「一九八〇年代の前半というよき時代への郷愁を誘う仕掛けもよくできている。しかしそれ以上ではない。何かが足りなくて、その何かは相当に大事な何かなのだ。」 三浦哲郎 70歳 全 △ 9 「辛い現実を描いた作品ながら、気持よく読めた。母が家を出てから毎日夕食を作りに自転車で通っている洋子さんというノッポの女がよく書けている。」「小味だが、捨て難い作品であった。」 村上龍 49歳 全 ● 25 「わたしは受賞に反対した。」「（引用者注：揺らいでいる核家族という）家族状況の中では確かに旧来の「葛藤」はないかも知れないが、その代わりに「他者との出会い」があるはずだ。『サイドカーに犬』には、葛藤はもちろんなく、しかし「他者との出会い」も描かれていなかった。つまり時代に適応できない家族の物語を書くに当たって、葛藤を排除しただけで、結局は旧来の手法をなぞったものではないかと思ったのである。」 黒井千次 69歳 全 △ 7 「好短篇といえる。妙に爽やかな風が吹き抜けている。」「同時にまた、少し恰好よくまとまり過ぎているのではないか、との疑問も生じる。」

他の候補作 玄侑宗久 「中陰の花」 阿部和重 「ニッポニアニッポン」 佐川光晴 「ジャムの空壜」 清水博子 「処方箋」 和田ゆりえ 「光への供物」

和田ゆりえ(43歳)×各選考委員　 「光への供物」 短篇 92枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 河野多恵子 75歳 全 ― 0   石原慎太郎 68歳 全 ■ 4 「受賞作の「中陰の花」に似た重い主題を扱ってはいるが、いま一つ触れてくるものが無い。いかにも借り物の主題という感が否めない。」 古井由吉 63歳 全 ― 0   宮本輝 54歳 全 ■ 3 「途中から突然ゆるんで、最初のサウナの場面がほとんど無に帰したと思う。」 日野啓三 72歳 全 ― 0   池澤夏樹 56歳 全 ― 0   三浦哲郎 70歳 全 ― 0   村上龍 49歳 全 ― 0   黒井千次 69歳 全 △ 5 「前半のサウナ風呂に出入りする女性達の肉体群像に生々しさがあり、描写力に惹かれた。しかし女主人公が「供物」となる後半の展開にうまく繋がらず、作品の割れてしまった点がなんとも惜しい。」	他の候補作 玄侑宗久 「中陰の花」 阿部和重 「ニッポニアニッポン」 佐川光晴 「ジャムの空壜」 清水博子 「処方箋」 長嶋有 「サイドカーに犬」