選評の概要
97. 98. 99. 100.101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113. 114. 115.
116. 117. 118. 119. 120.
121. 122. 123. 124. 125.
126. 127.
生没年月日【注】 | 昭和4年/1929年6月14日~平成14年/2002年10月14日 | |
在任期間 | 第97回~第127回(通算15.5年・31回) | |
在任年齢 | 58歳0ヶ月~73歳0ヶ月 | |
経歴 | 東京生まれ、朝鮮育ち。東京大学文学部社会学科卒。在学中より大岡信、佐野洋らと同人誌『二十代』を出す。卒業後、読売新聞社入社、外報部記者としてベトナム戦争やソウルを取材。そのかたわら小説執筆を続ける。 | |
受賞歴・候補歴 |
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芥川賞候補歴 | 第64回候補 「めぐらざる夏」(『文學界』昭和45年/1970年10月号) 第70回候補 「此岸の家」(『文芸』昭和48年/1973年8月号) 第71回候補 「浮ぶ部屋」(『文藝』昭和49年/1974年6月号) 第72回受賞 「あの夕陽」(『新潮』昭和49年/1974年9月号) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 日野啓三 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
奥泉光 | 35歳 |
◎ | 33 | 「今回は大方の賛同を得られないことを覚悟の上で、敢えて(引用者中略)推した。」「今回の候補作中、最も枚数が長かったのに、退屈することなく読み続けさせる妙な力があった。」「粗い文章と雑な構成にもかかわらず、主人公の魅力が強く心に残った。男というのは観念的な孤独なイキモノなのだ。」 |
30歳 |
■ | 12 | 「「ピュアで乾いた物質性」を愛する女子学生の感性を、私は理解し共感さえできるが、それだけに終りの方になって、(引用者中略)自分自身を愛する夢をみようと願う主人公の心事は、不徹底に思われる。」「主人公は「友人よりも青い石の方を」選ぶ感性と生き方を貫いてほしかった。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成4年/1992年3月号) |
選考委員 日野啓三 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
多和田葉子 | 32歳 |
◎ | 14 | 「最初はとくに印象強くなかったのに再読しながら、細かな陰影の豊かさに驚いた(最初はいったい何を読んでいたんだ)。」「この作者は独得の文体をもっていると思った。」「外国で異質のものにさらされての違和感ないし怯えが、自分という存在への違和感とうまく重なっている。この文章はこれから小説を書けると感じた。」 |
36歳 |
■ | 6 | 「最初から異例に高得点を得たことは、私には率直にいって意外だった。」「機械と人間の関係の感覚が私には古風に感じられる。機械と人間との身体的、神経的関係は、もっと妖しく微妙なものに変質しつつある気がする。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成4年/1992年9月号) |
選考委員 日野啓三 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
石黒達昌 | 32歳 |
○ | 9 | 「私は底深い悲しみと恐れをもって読んだ。」「最後の二匹が仄かに光りながら死んでゆく箇所に、私は涙を流しかけた。人類という種の最期を思った。多分全くの虚構の物語を、緊迫して支え続ける科学論文調の特異な文体の“静かな力”はほとんど美しい。」 |
37歳 |
□ | 13 | 「受賞は、私としては少し意外でもあり、また当然であるようにも思えた。この作品にはこれまでの氏の作品と同じように、あるいはそれ以上の力がある。」「書物から集めた戦場の情景や地質学的知識などを承知の上で使い、それらを講談調の物語形式で強引につなぎ合わせてゆく観念の腕力。それはこの数年間の受賞作に目だった内向きの繊細な感性の求心力とは、違うヴェクトルである。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成6年/1994年3月号) |
選考委員 日野啓三 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
小浜清志 | 43歳 |
○ | 9 | 「私は最も興味深く読んだのだが、小説の構造と文章が余りに古風なことは否めない。このような、現在のわれわれからは遠い採集狩猟時代的な女シャーマンの超現実的なような話が、実はかえっていまとても新鮮」 |
38歳 |
△ | 10 | 「前回の「二百回忌」よりすぐれているか劣るか、という点で評価が分かれた。」「私は「二百回忌」の方が印象強かったが、地方都市で十何歳かまで育ってから、いきなり東京に住むと、東京はこんな風に見えるものだ、という河野多惠子さんの意見にはそうかもしれない、と思った。」 | |
39歳 |
■ | 7 | 「どうしてもごてごてして読みにくかった。旧来の保証ずみでない新しい小説の作り方、書き方に、私は無理解ではないつもりだが、もう一段、小説的抽象性への想像力の集中が必要なように思われる。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成6年/1994年9月号) |
選考委員 日野啓三 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
38歳 |
◎ | 29 | 「「蛇を踏んでしまった」というさり気ない書き出しの切れ味がいい。そうしてごく普通の若い女性が、日常生活の中で心ならずも神話的領域に触れてしまう。」「前作に比べて格段に強くしなやかになった作者の文章の力が、現代日本の若い女性たちの深層意識の見えない戦い――というひとつの劇的世界を文章表現の次元に作り上げた。」 | |
リービ英雄 | 45歳 |
○ | 8 | 「時代的体験の切実さ、(引用者中略)想像力のスケール、それを記述する作者の交ぜ織り(ルビ:インターテクスチャー)的な文章表現と構成の豊かな新鮮さで、私を魅了したが多くの賛成を得られなかった。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成8年/1996年9月号) |
選考委員 日野啓三 72歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
長嶋有 | 28歳 |
◎ | 37 | 「三度読み直しながら考えに考えてマル印をつけた」「透き徹るように新鮮なこの短篇に出会ったことで、今回の選考を私は長く記憶するだろう。」「とくに新しい思想や哲学があるわけでもなさそうなのに、この作品は新しい、と本能的に感ずる。」「何よりも、自分が犬になって、「凛として」サイドカーに行儀よく坐っているイメージの、言い難い象徴的魅力。」 |
45歳 |
□ | 41 | 「宗教と呪術の次元が重層する日本人の無意識の現実に、玄侑氏はほの暗くやさしく触れようとする。」「妻君の最後の呟きは、まさに普通の日本人の「無我」の境位を自然に言い当てているようで良い気持ちになることができた。」「ただ私としては、題材が題材なだけに文章全体がくすんできらめきが乏しいこと(引用者中略・注:などの)疑念から、積極的な評価(マル印)は控えた。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十九巻』平成14年/2002年12月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成13年/2001年9月号) |
選考委員 日野啓三 72歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
29歳 |
○ | 40 | 「(引用者注:「ゆううつな苺」と共に)小学生の息子と中学生の娘から見られた親たちの姿が、くっきりとしっかりと書かれている。」「驚くのは、彼ら幼いはずの視点人物が無意識のうちにとっている“距離感”の見事さだ。」「子供たち自身も、一個の他者として実存している。」「北海道の冬の海の上に垂れこめる冬空の冷気と陰鬱さとが最も記憶に残った。」 | |
大道珠貴 | 35歳 |
○ | 36 | 「(引用者注:「猛スピードで母は」と共に)小学生の息子と中学生の娘から見られた親たちの姿が、くっきりとしっかりと書かれている。」「驚くのは、彼ら幼いはずの視点人物が無意識のうちにとっている“距離感”の見事さだ。」「子供たち自身も、一個の他者として実存している。」「女子中学生は若干不良っぽいが、その分生きる味気なさも知っている。」 |
「しばらくぶりで気持ちいい新年を迎えている。誰が受賞したかということ(多分に偶然の結果だ)ではなくて、今回の候補者たちの何人かは、ともに日本文学の新しい未来を予感させるものを秘めていたからだ。池澤夏樹の『スティル・ライフ』の時以来、こういうことはしばらくぶりだが、時にはそういうこともあるのだ。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』平成14年/2002年3月号 |