第121回

第120回第122回

平成11年/1999年上半期 平成11年/1999年7月15日決定発表／『文藝春秋』平成11年/1999年9月号選評掲載

選考委員　 日野啓三 70歳 三浦哲郎 68歳 石原慎太郎 66歳 黒井千次 67歳 池澤夏樹 54歳 田久保英夫 71歳 宮本輝 52歳 古井由吉 61歳 河野多恵子 73歳 選評総行数　 34 32 54 36 38 31 37 32 36 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 藤野千夜　「恋の休日」 65枚 37歳 評 ― 0 □ 8 ● 2 △ 8 ● 2 ― 0 ■ 4 ― 0 △ 4 大塚銀悦　「壺中の獄」 137枚 48歳 評 ― 0 ■ 4 ■ 6 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 伊藤比呂美　「ラニーニャ」 132枚 43歳 評 △ 12 ― 0 ■ 3 ◎ 12 □ 15 △ 5 ● 9 ― 0 ― 0 松浦寿輝　「幽（かすか）」 129枚 45歳 評 △ 18 ◎ 17 ■ 5 △ 10 ○ 12 ◎ 20 ■ 16 △ 32 ― 0 若合春侑　「掌の小石」 110枚 40歳 評 ― 0 ■ 3 ■ 5 ● 2 ■ 2 ― 0 ■ 3 ― 0 ― 0 玄月　「おっぱい」 63枚 34歳 評 △ 2 ― 0 ● 6 ■ 3 ― 0 ― 0 ■ 3 ― 0 ― 0 青来有一　「信長の守護神」 158枚 40歳 評 ― 0 ■ 2 ○ 15 ― 0 ■ 2 ― 0 △ 9 ― 0 △ 5                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

日野啓三70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題もう一作見たい　総行数34　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 藤野千夜 37歳 全 ― 0   大塚銀悦 48歳 全 ― 0   伊藤比呂美 43歳 全 △ 12 「△印をつけた。」「万一、強く推す委員が半数を越えればそれもいいだろう、と思っていた。」「ある種の強さがある。だが（引用者中略）私には率直に言って退屈だった。一部の委員が強調した詩的文体の流れのリズムに、私の感性が同調できなかったせいかもしれないし、子連れ再婚家族の実情ももう新鮮ではなかった。」 松浦寿輝 45歳 全 △ 18 「△印をつけた。」「万一、強く推す委員が半数を越えればそれもいいだろう、と思っていた。」「日常現実と非現実の境界線上というふしぎなエネルギー場を描こうとした野心的な作品で、（引用者中略）私は小説表現上の経験主義者ではないが、境界線上の意識への、向こう側からの風圧は、もっと黒々と不気味だ。境界線上で作品が静止している、という印象を持った。」 若合春侑 40歳 全 ― 0   玄月 34歳 全 △ 2 「△印をつけた。」 青来有一 40歳 全 ― 0     「実を言うと、今回は受賞作はないだろう、という予感（予断ではない）をもって、選考会に出た。一週間ほど前に一応全候補作を読んでいたのだが、数日後まで感動ないし驚きが生き続ける作品がなかったからだ。」

他の選考委員 三浦哲郎 石原慎太郎 黒井千次 池澤夏樹 田久保英夫 宮本輝 古井由吉 河野多恵子

三浦哲郎68歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数32　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 藤野千夜 37歳 全 □ 8 「悪くなかった。この作者は人間関係を書く際の節度をよく心得ている。」「浅さ軽さが食い足らなさにもなるのだが、よい素材に恵まれれば、びっくりするような作品を書く人だろう。」 大塚銀悦 48歳 全 ■ 4 「まだ五十前の主人公にもはや晩年などとはいわせずに当分目をぎらぎらさせていてもらいたいと思った。」 伊藤比呂美 43歳 全 ― 0   松浦寿輝 45歳 全 ◎ 17 「感心した。なによりも文章がいい。」「ちかごろの新しい人で、この作者のように自分の文体をしっかりと身につけているのは稀有なことではないかと思う。文章ばかりではなく、作品の結構も緻密でほとんど破綻が見当らない。」「私は、選考会でこの作品を推したが、残念ながらわずかに及ばなかった。」 若合春侑 40歳 全 ■ 3 「前二作に籠っていた濃密な情念が嘘のように消えていたのは寂しかった。」 玄月 34歳 全 ― 0   青来有一 40歳 全 ■ 2 「筆力は認めるが、今度の作品では風景はともかく人間の描き方に粗雑さが目立った。」

他の選考委員 日野啓三 石原慎太郎 黒井千次 池澤夏樹 田久保英夫 宮本輝 古井由吉 河野多恵子

石原慎太郎66歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題主題の欠落　総行数54　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 藤野千夜 37歳 全 ● 2 「男と女の関わりの取り変わりのスケッチの域を出ていない。」 大塚銀悦 48歳 全 ■ 6 「いつものおどろおどろしい語り口は一種のゲテモノ趣味として面白いのだが、選者の誰かがこの作家は葛西橋を渡って川のこちら側に来てしまったら何も書けまいといっていたが、いかにもという気がする。」 伊藤比呂美 43歳 全 ■ 3 「詩人らしいいつもの手慣れた語り口だが、前作と比べ甲斐もなく退屈である。」 松浦寿輝 45歳 全 ■ 5 「ある味わいを感じさせるが文章の区切り方がまちまちだし同じ言葉の重用が多く作品全体の印象を阻害している。」 若合春侑 40歳 全 ■ 5 「以前の候補作とはがらり変わった作風だが、作品の密度の稀薄さからその必然性が感じられない。」 玄月 34歳 全 ● 6 「こうした主題が持つはずの内面のひだに触れておらず、印象はただ他愛ない。」 青来有一 40歳 全 ○ 15 「面白く読んだが、他の選者の支持は意外に少なかった。この作家は段々にその腕を上げて来ていると思う。」「これがもし長編にしたてられていたなら、アーサー・ヘイリーの成功作ほどのものにはなっていたろうに。ただ枚数の制限のせいでか、終りに近い部分でのドラッグの扱い方はいかにも安易という気はするが。」   「今回総じて感じられたことは、作品の肝心な主題の存在感がいかにも稀薄ということだった。」

他の選考委員 日野啓三 三浦哲郎 黒井千次 池澤夏樹 田久保英夫 宮本輝 古井由吉 河野多恵子

黒井千次67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題更なる凝縮を　総行数36　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 藤野千夜 37歳 全 △ 8 「短い作ながら人物の背景に目配りが利き、小さな絵だとしても水彩画ではなく油彩である。」「恋の週日などどこにもないのかもしれない、とふと想像させるあたりに、風通しのよさと新しさへの可能性がひそんでいる。」 大塚銀悦 48歳 全 ― 0   伊藤比呂美 43歳 全 ◎ 12 「先々回候補にあがった「ハウス・プラント」の続編ともいえるが、独立した短編として読め、こちらの方がよくまとまっている。」「天候や動植物に注がれる視線に力があり、影絵とは反対の光絵があると感じた。」「小説の中には小鳥が跳ねるような散文があってもいいだろうし、むしろそれによってのみ捉えることの叶う世界がここに現出している、と考えて推したのだが、少数意見にとどまった。」 松浦寿輝 45歳 全 △ 10 「優れた場面は（引用者注：現実にも心象にも）いずれにも傾かぬ均衡の上で静かに揺れる面白さがあるのに対し、冗長な部分には作者の手つきの透けて見える恨みが残る。好感を抱きつつも、更なる凝縮が欲しいと思った。」 若合春侑 40歳 全 ● 2 「何を目指しているのかが掴めず、」 玄月 34歳 全 ■ 3 「人物はそれぞれ興味深いところがあるのに、中心を欠いて全体がうまく噛み合っていない。」 青来有一 40歳 全 ― 0     「今回の候補作品がとりわけ低調であったとは思えない。」

他の選考委員 日野啓三 三浦哲郎 石原慎太郎 池澤夏樹 田久保英夫 宮本輝 古井由吉 河野多恵子

池澤夏樹54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題受賞作なしの理由　総行数38　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 藤野千夜 37歳 全 ● 2 「いかにも軽い。」 大塚銀悦 48歳 全 ― 0   伊藤比呂美 43歳 全 □ 15 「おもしろかった。」「この文体に乗ってしまうとなかなか降りられない。」「ぼくは楽しくこの話を読んだ。」「とはいえ授賞となると話は別。この文体は詩ではあっても散文ではないという意見はなかなか論破しがたかった。」 松浦寿輝 45歳 全 ○ 12 「欠点は多々ある。文体がゆるい。」「プロットのとどこおりもあるし、もっと短い話に向いたアイディアを無理に伸ばした感は拭えない。」「しかし、隠遁者の暮らしという日本文学古来のテーマは見事に再利用されているし、事件らしい事件もないままに読ませる吉田健一風の展開も悪くない。」「ここで賞を出してもいいのではないかと思ったが、多数意見にはならなかった。」 若合春侑 40歳 全 ■ 2 「大河小説の冒頭のようで短篇として終わっていない。」 玄月 34歳 全 ― 0   青来有一 40歳 全 ■ 2 「目的の見えないうまさで、心許ない。」   「授賞の閾値をどこに置くかはすべての賞につきまとう問題である。」「今回などはもっとも判断がむずかしい例だったようだ。」

他の選考委員 日野啓三 三浦哲郎 石原慎太郎 黒井千次 田久保英夫 宮本輝 古井由吉 河野多恵子

田久保英夫71歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題生命の水位　総行数31　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 藤野千夜 37歳 全 ― 0   大塚銀悦 48歳 全 ― 0   伊藤比呂美 43歳 全 △ 5 「女主人公の〈あたし〉の活力と作者の活力が並走しているのに、快さを感じたが、〈あたし〉が他人との関係のなかで、あまりに自意識を殺しすぎ、解放的なことに疑問が残った。」 松浦寿輝 45歳 全 ◎ 20 「四十半ばの病後の男を設定しながら、作者の生命の水位は高いと感じた。」「ここでは眼の前に現象する世界と、他界との微妙なあわいが、粘りづよい筆致で捉えられている。」「これはネガティブな作品のようだが、実はこの生の世界の短さ小ささに反して、背後の見えない世界の遥かな大きさを感じさせるという意味で、先鋭な作品だ。私はこの一作を推した。」 若合春侑 40歳 全 ― 0   玄月 34歳 全 ― 0   青来有一 40歳 全 ― 0	他の選考委員 日野啓三 三浦哲郎 石原慎太郎 黒井千次 池澤夏樹 宮本輝 古井由吉 河野多恵子

宮本輝52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題目線と位置　総行数37　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 藤野千夜 37歳 全 ■ 4 「（引用者注：「おっぱい」と共に）後味は悪くないが、作品そのものの弱さは、いかんともしがたい。」 大塚銀悦 48歳 全 ― 0   伊藤比呂美 43歳 全 ● 9 「論議の対象として最後まで残った」「私にはひどく退屈で、前回の候補作と似たような設定で似たようなことを書いて、しかもしつこく長いという感想しかない。」 松浦寿輝 45歳 全 ■ 16 「論議の対象として最後まで残った」「一見うまい。」「けれども、どこかに失礼な言い方をすれば、いんちき臭さを感じる。」「この作者は、たしかに頭のいい人なのだろう。」「高見から書いたという臭さは、いかんともしがたく「幽（かすか）」の底に漂っている。」「私はこの小説のあちこちに、なにかしら傲慢なものを感じて、一票を投じることができなかった。」 若合春侑 40歳 全 ■ 3 「もっとひらきなおって、思い切り自分の好きなものを書いてみたらいかがかと思う。」 玄月 34歳 全 ■ 3 「（引用者注：「恋の休日」と共に）後味は悪くないが、作品そのものの弱さは、いかんともしがたい。」 青来有一 40歳 全 △ 9 「論議の対象として最後まで残った」「これまでの作者のものよりも落ち着きがある。」「だが、話を作ろうとしすぎて、夾雑物ばかりが枝を拡げてしまい、芯が弱くなった。」

他の選考委員 日野啓三 三浦哲郎 石原慎太郎 黒井千次 池澤夏樹 田久保英夫 古井由吉 河野多恵子

古井由吉61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題実際の幽明　総行数32　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 藤野千夜 37歳 全 ― 0   大塚銀悦 48歳 全 ― 0   伊藤比呂美 43歳 全 ― 0   松浦寿輝 45歳 全 △ 32 「幽明の境を伝える言葉をわれわれ現代人は持たない、とまず断念すべきなのだろう。」「現実であり、きわめて脱れがたく実際であるものが、人の魂とは言わず生命の消長の――何が長であり、何が消であるか、わからないのだが――その加減により、幻想のはたらきもいらず、さながら幽になり得る。それがわれわれにとって、かろうじて人に伝えられる幽明の境なのではないか。死者の手引きによってその住まいに移った、と早くから読者に思わせるのは、得策ではなかろう。」 若合春侑 40歳 全 ― 0   玄月 34歳 全 ― 0   青来有一 40歳 全 ― 0	他の選考委員 日野啓三 三浦哲郎 石原慎太郎 黒井千次 池澤夏樹 田久保英夫 宮本輝 河野多恵子

河野多恵子73歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題個性というもの　総行数36　（1行=24字） 候補 評価 行数 評言 藤野千夜 37歳 全 △ 4 「モチーフは淡いが、しばしば活きた表現に出会った。」 大塚銀悦 48歳 全 ― 0   伊藤比呂美 43歳 全 ― 0   松浦寿輝 45歳 全 ― 0   若合春侑 40歳 全 ― 0   玄月 34歳 全 ― 0   青来有一 40歳 全 △ 5 「候補になるたびに進歩を示している。今回の作品では、四分の三ほどのところまでは、しっかりした手応えがあった。」   「小説には、その作者独特のものが表われていなくてはならない。独特のものというのは、個性の意味である。」「小説の人称（引用者中略・注は）普通には三人称か一人称である。どちらにも、それぞれ利点と弱点がある。書こうとしている小説の人称を決めるには、先ずそのことをよく考えてみなくてはならない。」「文章は容れ物でもなければ、衣裳でもない。」「右のことを七候補作中の五作に、私はそれぞれ複数で強く感じた。」

他の選考委員 日野啓三 三浦哲郎 石原慎太郎 黒井千次 池澤夏樹 田久保英夫 宮本輝 古井由吉

藤野千夜37歳×各選考委員　 「恋の休日」 短篇 65枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 70歳 全 ― 0   三浦哲郎 68歳 全 □ 8 「悪くなかった。この作者は人間関係を書く際の節度をよく心得ている。」「浅さ軽さが食い足らなさにもなるのだが、よい素材に恵まれれば、びっくりするような作品を書く人だろう。」 石原慎太郎 66歳 全 ● 2 「男と女の関わりの取り変わりのスケッチの域を出ていない。」 黒井千次 67歳 全 △ 8 「短い作ながら人物の背景に目配りが利き、小さな絵だとしても水彩画ではなく油彩である。」「恋の週日などどこにもないのかもしれない、とふと想像させるあたりに、風通しのよさと新しさへの可能性がひそんでいる。」 池澤夏樹 54歳 全 ● 2 「いかにも軽い。」 田久保英夫 71歳 全 ― 0   宮本輝 52歳 全 ■ 4 「（引用者注：「おっぱい」と共に）後味は悪くないが、作品そのものの弱さは、いかんともしがたい。」 古井由吉 61歳 全 ― 0   河野多恵子 73歳 全 △ 4 「モチーフは淡いが、しばしば活きた表現に出会った。」

他の候補作 大塚銀悦 「壺中の獄」 伊藤比呂美 「ラニーニャ」 松浦寿輝 「幽（かすか）」 若合春侑 「掌の小石」 玄月 「おっぱい」 青来有一 「信長の守護神」

大塚銀悦48歳×各選考委員　 「壺中の獄」 短篇 137枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 70歳 全 ― 0   三浦哲郎 68歳 全 ■ 4 「まだ五十前の主人公にもはや晩年などとはいわせずに当分目をぎらぎらさせていてもらいたいと思った。」 石原慎太郎 66歳 全 ■ 6 「いつものおどろおどろしい語り口は一種のゲテモノ趣味として面白いのだが、選者の誰かがこの作家は葛西橋を渡って川のこちら側に来てしまったら何も書けまいといっていたが、いかにもという気がする。」 黒井千次 67歳 全 ― 0   池澤夏樹 54歳 全 ― 0   田久保英夫 71歳 全 ― 0   宮本輝 52歳 全 ― 0   古井由吉 61歳 全 ― 0   河野多恵子 73歳 全 ― 0	他の候補作 藤野千夜 「恋の休日」 伊藤比呂美 「ラニーニャ」 松浦寿輝 「幽（かすか）」 若合春侑 「掌の小石」 玄月 「おっぱい」 青来有一 「信長の守護神」

伊藤比呂美43歳×各選考委員　 「ラニーニャ」 短篇 132枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 70歳 全 △ 12 「△印をつけた。」「万一、強く推す委員が半数を越えればそれもいいだろう、と思っていた。」「ある種の強さがある。だが（引用者中略）私には率直に言って退屈だった。一部の委員が強調した詩的文体の流れのリズムに、私の感性が同調できなかったせいかもしれないし、子連れ再婚家族の実情ももう新鮮ではなかった。」 三浦哲郎 68歳 全 ― 0   石原慎太郎 66歳 全 ■ 3 「詩人らしいいつもの手慣れた語り口だが、前作と比べ甲斐もなく退屈である。」 黒井千次 67歳 全 ◎ 12 「先々回候補にあがった「ハウス・プラント」の続編ともいえるが、独立した短編として読め、こちらの方がよくまとまっている。」「天候や動植物に注がれる視線に力があり、影絵とは反対の光絵があると感じた。」「小説の中には小鳥が跳ねるような散文があってもいいだろうし、むしろそれによってのみ捉えることの叶う世界がここに現出している、と考えて推したのだが、少数意見にとどまった。」 池澤夏樹 54歳 全 □ 15 「おもしろかった。」「この文体に乗ってしまうとなかなか降りられない。」「ぼくは楽しくこの話を読んだ。」「とはいえ授賞となると話は別。この文体は詩ではあっても散文ではないという意見はなかなか論破しがたかった。」 田久保英夫 71歳 全 △ 5 「女主人公の〈あたし〉の活力と作者の活力が並走しているのに、快さを感じたが、〈あたし〉が他人との関係のなかで、あまりに自意識を殺しすぎ、解放的なことに疑問が残った。」 宮本輝 52歳 全 ● 9 「論議の対象として最後まで残った」「私にはひどく退屈で、前回の候補作と似たような設定で似たようなことを書いて、しかもしつこく長いという感想しかない。」 古井由吉 61歳 全 ― 0   河野多恵子 73歳 全 ― 0

他の候補作 藤野千夜 「恋の休日」 大塚銀悦 「壺中の獄」 松浦寿輝 「幽（かすか）」 若合春侑 「掌の小石」 玄月 「おっぱい」 青来有一 「信長の守護神」

松浦寿輝45歳×各選考委員　 「幽（かすか）」 短篇 129枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 70歳 全 △ 18 「△印をつけた。」「万一、強く推す委員が半数を越えればそれもいいだろう、と思っていた。」「日常現実と非現実の境界線上というふしぎなエネルギー場を描こうとした野心的な作品で、（引用者中略）私は小説表現上の経験主義者ではないが、境界線上の意識への、向こう側からの風圧は、もっと黒々と不気味だ。境界線上で作品が静止している、という印象を持った。」 三浦哲郎 68歳 全 ◎ 17 「感心した。なによりも文章がいい。」「ちかごろの新しい人で、この作者のように自分の文体をしっかりと身につけているのは稀有なことではないかと思う。文章ばかりではなく、作品の結構も緻密でほとんど破綻が見当らない。」「私は、選考会でこの作品を推したが、残念ながらわずかに及ばなかった。」 石原慎太郎 66歳 全 ■ 5 「ある味わいを感じさせるが文章の区切り方がまちまちだし同じ言葉の重用が多く作品全体の印象を阻害している。」 黒井千次 67歳 全 △ 10 「優れた場面は（引用者注：現実にも心象にも）いずれにも傾かぬ均衡の上で静かに揺れる面白さがあるのに対し、冗長な部分には作者の手つきの透けて見える恨みが残る。好感を抱きつつも、更なる凝縮が欲しいと思った。」 池澤夏樹 54歳 全 ○ 12 「欠点は多々ある。文体がゆるい。」「プロットのとどこおりもあるし、もっと短い話に向いたアイディアを無理に伸ばした感は拭えない。」「しかし、隠遁者の暮らしという日本文学古来のテーマは見事に再利用されているし、事件らしい事件もないままに読ませる吉田健一風の展開も悪くない。」「ここで賞を出してもいいのではないかと思ったが、多数意見にはならなかった。」 田久保英夫 71歳 全 ◎ 20 「四十半ばの病後の男を設定しながら、作者の生命の水位は高いと感じた。」「ここでは眼の前に現象する世界と、他界との微妙なあわいが、粘りづよい筆致で捉えられている。」「これはネガティブな作品のようだが、実はこの生の世界の短さ小ささに反して、背後の見えない世界の遥かな大きさを感じさせるという意味で、先鋭な作品だ。私はこの一作を推した。」 宮本輝 52歳 全 ■ 16 「論議の対象として最後まで残った」「一見うまい。」「けれども、どこかに失礼な言い方をすれば、いんちき臭さを感じる。」「この作者は、たしかに頭のいい人なのだろう。」「高見から書いたという臭さは、いかんともしがたく「幽（かすか）」の底に漂っている。」「私はこの小説のあちこちに、なにかしら傲慢なものを感じて、一票を投じることができなかった。」 古井由吉 61歳 全 △ 32 「幽明の境を伝える言葉をわれわれ現代人は持たない、とまず断念すべきなのだろう。」「現実であり、きわめて脱れがたく実際であるものが、人の魂とは言わず生命の消長の――何が長であり、何が消であるか、わからないのだが――その加減により、幻想のはたらきもいらず、さながら幽になり得る。それがわれわれにとって、かろうじて人に伝えられる幽明の境なのではないか。死者の手引きによってその住まいに移った、と早くから読者に思わせるのは、得策ではなかろう。」 河野多恵子 73歳 全 ― 0

他の候補作 藤野千夜 「恋の休日」 大塚銀悦 「壺中の獄」 伊藤比呂美 「ラニーニャ」 若合春侑 「掌の小石」 玄月 「おっぱい」 青来有一 「信長の守護神」

若合春侑40歳×各選考委員　 「掌の小石」 短篇 110枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 70歳 全 ― 0   三浦哲郎 68歳 全 ■ 3 「前二作に籠っていた濃密な情念が嘘のように消えていたのは寂しかった。」 石原慎太郎 66歳 全 ■ 5 「以前の候補作とはがらり変わった作風だが、作品の密度の稀薄さからその必然性が感じられない。」 黒井千次 67歳 全 ● 2 「何を目指しているのかが掴めず、」 池澤夏樹 54歳 全 ■ 2 「大河小説の冒頭のようで短篇として終わっていない。」 田久保英夫 71歳 全 ― 0   宮本輝 52歳 全 ■ 3 「もっとひらきなおって、思い切り自分の好きなものを書いてみたらいかがかと思う。」 古井由吉 61歳 全 ― 0   河野多恵子 73歳 全 ― 0	他の候補作 藤野千夜 「恋の休日」 大塚銀悦 「壺中の獄」 伊藤比呂美 「ラニーニャ」 松浦寿輝 「幽（かすか）」 玄月 「おっぱい」 青来有一 「信長の守護神」

玄月34歳×各選考委員　 「おっぱい」 短篇 63枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 70歳 全 △ 2 「△印をつけた。」 三浦哲郎 68歳 全 ― 0   石原慎太郎 66歳 全 ● 6 「こうした主題が持つはずの内面のひだに触れておらず、印象はただ他愛ない。」 黒井千次 67歳 全 ■ 3 「人物はそれぞれ興味深いところがあるのに、中心を欠いて全体がうまく噛み合っていない。」 池澤夏樹 54歳 全 ― 0   田久保英夫 71歳 全 ― 0   宮本輝 52歳 全 ■ 3 「（引用者注：「恋の休日」と共に）後味は悪くないが、作品そのものの弱さは、いかんともしがたい。」 古井由吉 61歳 全 ― 0   河野多恵子 73歳 全 ― 0	他の候補作 藤野千夜 「恋の休日」 大塚銀悦 「壺中の獄」 伊藤比呂美 「ラニーニャ」 松浦寿輝 「幽（かすか）」 若合春侑 「掌の小石」 青来有一 「信長の守護神」

青来有一40歳×各選考委員　 「信長の守護神」 中篇 158枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 日野啓三 70歳 全 ― 0   三浦哲郎 68歳 全 ■ 2 「筆力は認めるが、今度の作品では風景はともかく人間の描き方に粗雑さが目立った。」 石原慎太郎 66歳 全 ○ 15 「面白く読んだが、他の選者の支持は意外に少なかった。この作家は段々にその腕を上げて来ていると思う。」「これがもし長編にしたてられていたなら、アーサー・ヘイリーの成功作ほどのものにはなっていたろうに。ただ枚数の制限のせいでか、終りに近い部分でのドラッグの扱い方はいかにも安易という気はするが。」 黒井千次 67歳 全 ― 0   池澤夏樹 54歳 全 ■ 2 「目的の見えないうまさで、心許ない。」 田久保英夫 71歳 全 ― 0   宮本輝 52歳 全 △ 9 「論議の対象として最後まで残った」「これまでの作者のものよりも落ち着きがある。」「だが、話を作ろうとしすぎて、夾雑物ばかりが枝を拡げてしまい、芯が弱くなった。」 古井由吉 61歳 全 ― 0   河野多恵子 73歳 全 △ 5 「候補になるたびに進歩を示している。今回の作品では、四分の三ほどのところまでは、しっかりした手応えがあった。」

他の候補作 藤野千夜 「恋の休日」 大塚銀悦 「壺中の獄」 伊藤比呂美 「ラニーニャ」 松浦寿輝 「幽（かすか）」 若合春侑 「掌の小石」 玄月 「おっぱい」