選評の概要
91. 92. 93. 94. 95.96. 97. 98. 99. 100.
101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113. 114. 115.
116. 117. 118. 119. 120.
121. 122. 123. 124. 125.
126. 127. 128. 129. 130.
131. 132. 133.
生没年月日【注】 | 昭和6年/1931年3月16日~平成22年/2010年8月29日 | |
在任期間 | 第91回~第133回(通算21.5年・43回) | |
在任年齢 | 53歳3ヶ月~74歳3ヶ月 | |
経歴 | 青森県八戸市生まれ。早稲田大学文学部仏文学科卒。大学在学中に同人誌『非情』の創刊に参加、新潮社の同人雑誌賞を受賞。 | |
受賞歴・候補歴 |
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個人全集 | 『三浦哲郎自選全集』全13巻(昭和62年/1987年9月~昭和63年/1988年9月・新潮社刊) | |
芥川賞候補歴 | 第44回受賞 「忍ぶ川」(『新潮』昭和35年/1960年10月号) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 三浦哲郎 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
石和鷹 | 51歳 |
◎ | 10 | 「打ちひしがれてはまた奮い立っておのれの家庭にのしかってくる〈目に見えぬ何ものかの意志〉に立ち向う家長の姿に、人間というもののけなげさと哀しさが滲み出ている。」「ただ、普通の病妻物にしたくないばかりに凝らした工夫が、結果的にわかりにくい個所を生じたのは不運であった。私自身はそこのところを無理なく読めたのでこれを推したが、わずかに及ばなかった。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十三巻』平成1年/1989年2月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和60年/1985年9月号) |
選考委員 三浦哲郎 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
石和鷹 | 52歳 |
◎ | 13 | 「私は(引用者中略)最も有力だと思っていた。」「一読して確かに打ってくるものがある。今度は病妻の死を中心に据えているだけに、前作よりも引き締まって完成度の高い作品になっている。」「これだけを切り離して完全に独立した一篇として見た場合の評価は多少違ったものになるかもしれないという不安はあった。連作小説というものの厄介なところである。」 |
55歳 |
□ | 15 | 「重厚な作品である。」「力量を充分認めた上でいうのだが、この作品を読んでいるうちにところどころ文章が主婦の作文めいてきて、そこから作者の生の声がきこえてくるのが気掛かりであった。読後の重い感銘のなかに、婦人の口から二十年間のうらみつらみを聞かされたような一種の鬱陶しさが混じるのは、多分そのせいである。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和61年/1986年3月号) |
選考委員 三浦哲郎 57歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
岩森道子 | 52歳 |
◎ | 10 | 「謙虚ですがすがしい作品である。」「とりわけ婆さんの言動がいい。快活な文体も悪くなかった。ただ、不満をいえば、作品が現代に取り残された一つの異境への一日訪問記風に纏まりすぎていて余韻が乏しい点である。けれども、〈雪迎え〉の美しいシーンは今後忘れることがないだろう。」 |
42歳 |
□ | 4 | 「古井戸の場面に感心した。全体としては行間から作意がありありと見える点など不満もあるが、最後の評決では作者の豊かな力量を認めて授賞に賛成した。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和63年/1988年9月号) |
選考委員 三浦哲郎 57歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
37歳 |
◎ | 14 | 「南木佳士氏と清水邦夫氏を推すつもりで選考会に出席した。」「変貌する別荘地の病院を中心にそこの自然と住人たちの生活を、リズミカルでしっとりと落ち着いた文章で厚み豊かに描き出すことに成功している。」「百回記念の芥川賞にふさわしい出色の作品だと思う。」 | |
清水邦夫 | 52歳 |
◎ | 13 | 「南木佳士氏と清水邦夫氏を推すつもりで選考会に出席した。」「纏まりと完成度という点ではこれまでで随一といっていいだろう。」「今度の作品の地の文はまことにきちんと書かれている。」「私は、清水氏の小説作品の代表作としてこれを推したが、惜しくも二票差で及ばなかった。」 |
33歳 |
△ | 7 | 「この作者が荒々しいまでに攻撃的だった文体を捨てて説得力に富んだ冷静な文体を獲得しすっかり身につけていることをまず喜びたい。けれども、扱っている言語の問題が複雑なせいか、私はよく納得できない個所がすくなくなかった。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成1年/1989年3月号) |
選考委員 三浦哲郎 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
清水邦夫 | 53歳 |
◎ | 21 | 「私は(引用者中略)推した。」「会話はもとより、それを支える文章もこれまでとは見違えるような、神経のゆき届いた隙のないものになっている。」「出色の作だと思ったのだが、わずかに及ばなかった。」 |
44歳 |
■ | 9 | 「私は中国が好きだから興味を持って読んだが、話の面白さは認めるにしても、注文も多かった。」「私はこの作品全体に、作家の心ではなしにいささか鈍い商社マンの神経を感じたにすぎなかった。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成2年/1990年9月号) |
選考委員 三浦哲郎 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
28歳 |
○ | 14 | 「小川氏の文体は、簡潔で正確な上に、乾いているというほどではないが至って湿り気のすくない、ひんやりとした感触が快い。」「ただ、このような選考には私情が無縁のものと知りつつも、現実に染色体が欠損したまま生まれた肉親を持つ身にとっては、どうしても結末の部分を平静に受け入れられなかったことを恥と共に告白しておかねばならない。」 | |
福元正實 | 57歳 |
○ | 11 | 「異色作で、私には面白かった。無愛想といってもいいほどの地味な文章が、不如意な世の中を象徴しているようで、行間に作者の苦笑がにじんでいる。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成3年/1991年3月号) |
選考委員 三浦哲郎 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
多田尋子 | 59歳 |
◎ | 23 | 「強く惹かれた。」「多田さん、新味がないなどという批判に動揺してはいけません。新味なんて、じきに消えてなくなるものです。あなたのこれまでの人生の消えない真実をためらわずにお書きなさい。それが本当の小説というものなのですから。」 |
46歳 |
△ | 8 | 「素材の面白さにつられて一気に読んだ。人間の眠り、あるいは眠っている人間というものを、外側からこれほどつぶさに考察した作品が珍しいことは認めるにしても、私は作品の構成にいくつかの難点を数えることができた。」 | |
34歳 |
■ | 5 | 「私は、この人はアウトサイダーとして自分の才能を最大限に発揮できる人だと思っているから、ちとお気の毒という気がしないでもない。芥川賞に囚われぬことを祈ります。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成3年/1991年9月号) |
選考委員 三浦哲郎 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
多田尋子 | 59歳 |
◎ | 15 | 「私は、今回も(引用者中略)推した。この人の、平易で気取りのない、けれども勘所をきちんと抑えている文章にも、私は感心している。」「若い女性が主人公のせいか作品全体が少々くだけすぎた感がなきにしもあらずだが、出来映えは前作より上ではないかと思う。」「人間のかたくなさ、身勝手さのぶつかり合いを通して、人生というものの重さ、生きるということの厄介さを、象徴的に描き出しているところが、この作品の手柄だと思う。」 |
30歳 |
△ | 11 | 「清澄な文章に敬意を表しておこう。」「読んでいて一種の爽快感をおぼえた。」「けれども、この「至高聖所」ではルームメイトが芝居の台本を書き出すあたりから明晰さを欠く場面が目立つようになる。私としては、次作を待ちたい気持だった。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成4年/1992年3月号) |
選考委員 三浦哲郎 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
中村邦生 | 49歳 |
◎ | 23 | 「いいと思った。」「読んでいると、自分もナイトハイクのグループに加わって夜の森を歩いているような錯覚に陥りそうになる。」「この作品が独自で、不思議な重量感を持っているのは、グループを構成している人々、ひとりひとりの人生の陰影が、実に注意深い手つきで掬い上げられ、さりげなく静寂の底に沈められているからである。」「世の中には、このような静かな作品を望んでいる読者がすくなくないことを私は確信している。」 |
48歳 |
■ | 10 | 「私はこの作者の、少々荒っぽいが読ませる力を認めるものの、沖縄の風土や習俗が適切に取り入れられているという点には賛成しかねた。この作品の主人公は、風葬された父親の骨を拾うという個人的な目的のために、御嶽(ルビ:ウタケ)へお参りして豚の厄落しをしたいと素朴に願っている女たちを利用するのである。」「私には、沖縄文学として底の浅さが感じられてならなかった。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成8年/1996年3月号) |
選考委員 三浦哲郎 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
塩野米松 | 49歳 |
○ | 11 | 「親しみを感じながら楽しく読んだ。」「いつもながら登場人物たちの血色がよく、みな生き生きとして人間臭いのが好ましかった。」「ただ、今回の作品は手が込んでいて、収束に手間取り、冗漫な部分が散見されるのは惜しかった。」 |
38歳 |
□ | 14 | 「しっとりとして冷たい情感をたたえた文章に感心した。近年、これほどそつのない文章を駆使する新人とは出会わなかったような気がする。ただ、私は(引用者中略)蛇という生きものに堪え難い恐怖と嫌悪を抱くようになっている。(引用者中略)それにしても、素材に対する恐怖や嫌悪が作品の評価に影響を及ぼしてはいけないのである。反省している。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成8年/1996年9月号) |
選考委員 三浦哲郎 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
辻章 | 53歳 |
◎ | 7 | 「よいと思った。」「どうしても書きたい、書かずにはいられない素材と四つに取り組んでいる作者の気魄が全篇に漲っていて、充実感がある。古風といわれればそうに違いないが、地味ながら胸を打ってくる佳品であることには変わりがない。」 |
43歳 |
□ | 10 | 「筆力という点でぬきんでていた。文章もしなやかで、どの場面の描写も力強くめりはりが利いていて印象的であった。」「行間から激しい主張と怨念のようなものが脈々と伝わってくる。ただ、部分的にはともかく、全体として見れば粗く強引にすぎて納得しかねる面があったことを指摘しておかねばならない。」 | |
39歳 |
△ | 8 | 「前作とあまりにも作風が違うので驚いた。今回の作品は文章も内容もよく整っていて、この作者の最良作だと思うが、これまでの荒々しい熱気が影をひそめて妙におとなしく纏まっているところが、いささか食い足りなかった。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成10年/1998年9月号) |
選考委員 三浦哲郎 69歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
佐藤洋二郎 | 51歳 |
◎ | 9 | 「いいと思った。」「地味でいささか古風に見えるが、よく刈り込まれた密度の濃い佳作である。」「もともと力のある人だから、この賞の候補は初めてと聞いて意外な気がした。これが大きな飛躍のきっかけになれば幸いである。」 |
46歳 |
□ | 9 | 「前作の「幽(かすか)」に比べると欲張りすぎで、都合よく作りすぎた個所が目立ち、かならずしも作者の最良の作品とは思えないのだが、最終的には、文体の魅力と、どんなに詰め込んでも綻びの不安を感じさせない才能の大きさと安定感に、一票を投じた。」 | |
38歳 |
● | 9 | 「私は所詮この人のいい読者ではなく、常にも増してエネルギッシュだということのほかは正直いってこの作品のよさがわからなかった。町田氏は、作家として当然のことながら今後も言葉にこだわりつづける由で、それには私も大いに賛成だが、そのこだわりがただの言葉遊びの駄洒落や語呂合わせに終わることのないようにと祈らずにはいられない。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十九巻』平成14年/2002年12月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成12年/2000年9月号) |
選考委員 三浦哲郎 70歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
法月ゆり | (39歳) |
◎ | 25 | 「書面で、(引用者中略)推す旨を伝えておいた。」「これは一読して候補作中抜群に面白かった。」「どのページをひらいても、深さ六フィートの地中から叔母の無言の呟きがきこえてきて人間というものの奇怪さについて考えさせられる。端倪すべからざる作品だと思う。」 |
29歳 |
△ | 11 | 「引用者注:「ゆううつな苺」と共に)よく書けていると感心したが、(引用者中略)才能のある書き手なのに、依然として好評だった前作のエリアから一歩も踏み出せずにいるのがちょっと不満であった。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成14年/2002年3月号 |