第130回

第129回第131回

平成15年/2003年下半期 平成16年/2004年1月15日決定発表／『文藝春秋』平成16年/2004年3月号選評掲載

選考委員　 宮本輝 56歳 古井由吉 66歳 石原慎太郎 71歳 黒井千次 71歳 村上龍 51歳 池澤夏樹 58歳 山田詠美 44歳 河野多恵子 77歳 三浦哲郎 72歳 高樹のぶ子 57歳 選評総行数　 46 42 63 44 54 48 44 45 46 44 評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 金原ひとみ　「蛇にピアス」 140枚 20歳 評 ◎ 19 ― 0 ■ 18 ○ 15 ◎ 42 △ 9 △ 9 ○ 31 □ 12 ○ 14 綿矢りさ　「蹴りたい背中」 170枚 19歳 評 ○ 22 ○ 36 ― 0 ○ 16 □ 5 △ 13 ○ 8 ○ 20 ■ 13 ◎ 33 絲山秋子　「海の仙人」 187枚 37歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 4 ― 0 ◎ 5 ■ 10 ― 0 ― 0 ― 0 島本理生　「生まれる森」 175枚 20歳 評 △ 5 ― 0 ― 0 ■ 7 ― 0 ■ 7 ■ 12 ― 0 □ 21 ― 0 中村航　「ぐるぐるまわるすべり台」 140枚 34歳 評 ― 0 ― 0 ○ 8 ■ 4 ― 0 ■ 7 △ 5 ― 0 ― 0 ― 0                     年齢/枚数の説明   見方・注意点

宮本輝56歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題伸びようとする力　総行数46　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 ◎ 19 「読み始めたとき、私は「ああまたこのて（原文傍点）の小説か」と思ったのだが、読み終えたとき、妙に心に残る何かがあった。それで日を置いてもう一度読み直した。」「作品全体がある哀しみを抽象化している。そのような小説を書けるのは才能というしかない。私はそう思って（引用者中略）受賞作に推した。」 綿矢りさ 19歳 全 ○ 22 「「インストール」と今回の「蹴りたい背中」に至る短期間に、綿矢さんの世界は目をみはるほどに拡がっている。ディティールが拡がったという言い方が正しいかもしれない。」「確かに十九歳の世界はまだまだ狭い。」「だが私は（引用者中略）「蹴りたい背中」に伸びゆく力を感じた。伸びゆく年代であろうとなかろうと才能がなければ伸びてはいかない。」 絲山秋子 37歳 全 ― 0   島本理生 20歳 全 △ 5 「今回は少し力足らずだった。しかし、いずれは自分の花を咲かせる力を持っている。」 中村航 34歳 全 ― 0

他の選考委員 古井由吉 石原慎太郎 黒井千次 村上龍 池澤夏樹 山田詠美 河野多恵子 三浦哲郎 高樹のぶ子

古井由吉66歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題がらんどうの背中　総行数42　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 ― 0   綿矢りさ 19歳 全 ○ 36 「「蹴りたい背中」とは乱暴な表題である。ところが読み終えてみれば、快哉をとなえたくなるほど、的中している。」「最後に人を避けてベランダに横になり背を向けた男が振り返って、蹴りたい「私」の、足の指の、小さな爪を、少し見ている。何かがきわまりかけて、きわまらない。そんな戦慄を読後に伝える。」 絲山秋子 37歳 全 ― 0   島本理生 20歳 全 ― 0   中村航 34歳 全 ― 0     「共通のテーマによる課題作を読んでいるような気がしたものだ。「非現実の中で」あるいは「無意味と気怠さと」。テーマはそんなところか。答案はいずれも行き届いたものだった。」	他の選考委員 宮本輝 石原慎太郎 黒井千次 村上龍 池澤夏樹 山田詠美 河野多恵子 三浦哲郎 高樹のぶ子

石原慎太郎71歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題現代における青春の形　総行数63　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 ■ 18 「私には現代の若もののピアスや入れ墨といった肉体に付着する装飾への執着の意味合いが本質的に理解出来ない。選者の誰かは、肉体の毀損による家族への反逆などと説明していたが、私にはただ浅薄な表現衝動としか感じられない。」 綿矢りさ 19歳 全 ― 0   絲山秋子 37歳 全 ― 0   島本理生 20歳 全 ― 0   中村航 34歳 全 ○ 8 「タッチも良く一番面白く読めた。」「今日のよろずバーチャルなものごとについての一種の文明批判とも読める気もする。」   「今回の候補作の作者はいずれも若い、ということでそれぞれの主題がそれぞれの青春についてであったことは当然のことだろうが、それにしてもこの現代における青春とは、なんと閉塞的なものなのだろうか。」「すべての作品の印象は読んでいかにもスムースだが、軽すぎて読後に滞り残るものがほとんどない。」

他の選考委員 宮本輝 古井由吉 黒井千次 村上龍 池澤夏樹 山田詠美 河野多恵子 三浦哲郎 高樹のぶ子

黒井千次71歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題一人称の必然性　総行数44　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 ○ 15 「（引用者注：一人称で書かれた候補作四篇のうち）「蛇にピアス」における〈私〉が最も必然性を備えた一人称であると思われた。」「一人称の持つ直截さが存分に活用された末に、殺しをも含む粗暴な出来事の間から静かな哀しみの調べが漂い出す。その音色は身体改造にかける夢の傷ましさを浮かび上らせるかのようだ。」 綿矢りさ 19歳 全 ○ 16 「読み終った時この風変りな表題に深く納得した。新人の作でこれほど内容と題名の美事に結びつく例は稀だろう。」「背中を蹴るという行為の中には、セックス以前であると同時にセックス以後をも予感させる広がりが隠れている。この感性にはどこか関西風の生理がひそんでいそうな気がする。」 絲山秋子 37歳 全 ■ 4 「（引用者注：「ぐるぐるまわるすべり台」と共に）小説世界を作ろうとする姿勢には共感しても、意図が結実していない憾みを覚えた。」 島本理生 20歳 全 ■ 7 「女友達の描き方には温かなリアリティーを感じるが、主人公の妊娠に至る経過や女友達の母親の死に方などが書かれていないことに不満が残る。」 中村航 34歳 全 ■ 4 「（引用者注：「海の仙人」と共に）小説世界を作ろうとする姿勢には共感しても、意図が結実していない憾みを覚えた。」

他の選考委員 宮本輝 古井由吉 石原慎太郎 村上龍 池澤夏樹 山田詠美 河野多恵子 三浦哲郎 高樹のぶ子

村上龍51歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題細部と全体　総行数54　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 ◎ 42 「最初読んだときは、妙な居心地の悪さを感じた。その居心地の悪さは（引用者中略）作者の才能が作品の細部に表れていないということだった。」「だが、再度読み返し、麒麟と龍の刺青を入れたあと主人公がわけもわからず生きる力を失っていく箇所を読んで、わたしの異和感がほぐれていった。」「突出した細部ではなく、破綻のない全体を持つ小説もあるということだ。」「推そうと思い、反対意見が多くあるはずだと、良いところを箇条書きにして選考会に臨んだが、あっさりと受賞が決まってしまった。」 綿矢りさ 19歳 全 □ 5 「破綻のない作品で、強く推すというよりも、受賞に反対する理由がないという感じだった。」 絲山秋子 37歳 全 ― 0   島本理生 20歳 全 ― 0   中村航 34歳 全 ― 0     「選考会の翌日、若い女性二人の受賞で出版不況が好転するのでは、というような不毛な新聞記事が目についた。当たり前のことだが現在の出版不況は構造的なもので若い作家二人の登場でどうにかなるものではない。」

他の選考委員 宮本輝 古井由吉 石原慎太郎 黒井千次 池澤夏樹 山田詠美 河野多恵子 三浦哲郎 高樹のぶ子

池澤夏樹58歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題若い人々　総行数48　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 △ 9 「なにしろ痛そうな話なので、ちょっとひるんだ。道具立ては派手だが、これもまた一種の純愛なのだろう。」 綿矢りさ 19歳 全 △ 13 「高校における異物排除のメカニズムを正確に書く伎倆に感心した。その先で、（引用者中略）人と人の仲を書く。すなわち小説の王道ではないか。」 絲山秋子 37歳 全 ◎ 5 「ふわふわと気持ちよく読めて推したのだが、賛同を得られなかった。こういう作風の評価は分析ではなく好悪で決まってしまうから。」 島本理生 20歳 全 ■ 7 「前回（第百二十八回）の候補作と同じく何かが欠けているという感じがつきまとう。話の展開では性が重要なのに、それがすっぱり省かれている。」 中村航 34歳 全 ■ 7 「矛盾することを言うと、「夏休み」の路線でこの賞は取れないだろうが、しかしぼくはあちらの方がおもしろかった。」   「この賞の選考委員はぼくも含めてみな中年以上だから、若い人々に対する偏見がある。今の子供たちには文学はわからないと言ってしまうことが多い。」「そんなことはないと実証するには作品が必要。その意味で今回受賞の二作（引用者注：「蛇にピアス」「蹴りたい背中」）は見事だった。」

他の選考委員 宮本輝 古井由吉 石原慎太郎 黒井千次 村上龍 山田詠美 河野多恵子 三浦哲郎 高樹のぶ子

山田詠美44歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数44　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 △ 9 「良識あると自認する人々（物書きの天敵ですな）の眉をひそめさせるアイテムに満ちたエピソードの裏側に、世にも古風でピュアな物語が見えて来る。」「ラストが甘いようにも思うけど。」 綿矢りさ 19歳 全 ○ 8 「もどかしい気持、というのを言葉にするのは難しい。その難しいことに作品全体を使ってトライしているような健気さに心惹かれた。その健気さに安易な好感度のつけ入る隙がないからだ。」 絲山秋子 37歳 全 ■ 10 「〈そんな詩みたいな暮らしがしてみたいわ〉と、女が言う。」「話が進むにつれて、その詩は、どんどん過剰になって行き、とうとう最後には、冬のソナタ？」 島本理生 20歳 全 ■ 12 「素直だ。好感が持てる、と称すべきなのだろう。でも、文学に好感なんて、そんなに必要か？」「お行儀が良いものは、退屈と紙一重。この作品は、その中間にいる。」 中村航 34歳 全 △ 5 「自分なりのリアリティを追いかける際の道草具合が、ものすごくキュートだ。と、思ったのは私だけ……（泣）。」

他の選考委員 宮本輝 古井由吉 石原慎太郎 黒井千次 村上龍 池澤夏樹 河野多恵子 三浦哲郎 高樹のぶ子

河野多恵子77歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題二受賞作について　総行数45　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 ○ 31 「主人公が彫ってもらう刺青に関する部分は簡略で、全篇中そこだけ鮮明さも足りない。が、この部分で強い印象を与える描き方がなされていたならば、作品は割れていたことだろう。」「結末も、見事なものだ。読書はここで、主人公と殺されたアマとの繋がりの深さを陰画のかたちで今更ながら訴えられる。」「非常に若い（引用者注：受賞した二人の）両作者が、非常に若い人物を描きながら若さの衒いや顕示がなく、視力は勁い。」 綿矢りさ 19歳 全 ○ 20 「彼等（引用者注：〈私〉と〈にな川〉）はまさしく高校一年生である実感に満ち、同時にそれを越えて生活というものを実感させる。」「非常に若い（引用者注：受賞した二人の）両作者が、非常に若い人物を描きながら若さの衒いや顕示がなく、視力は勁い。」 絲山秋子 37歳 全 ― 0   島本理生 20歳 全 ― 0   中村航 34歳 全 ― 0

他の選考委員 宮本輝 古井由吉 石原慎太郎 黒井千次 村上龍 池澤夏樹 山田詠美 三浦哲郎 高樹のぶ子

三浦哲郎72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数46　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 □ 12 「ピアスや刺青の世界には全く不案内で、終始目をまるくして読んだが、驚いた。芯のある大人びた文章で、しっかりと書いてある。」「ところどころで理解を越えた表現に遭遇して面食らったものの、全体として面白く読むことができた。」 綿矢りさ 19歳 全 ■ 13 「この人の文章は書き出しから素直に頭に入ってこなかった。たとえば『葉緑体？　オオカナダモ？　ハッ。っていうこのスタンス。』という不可解な文章。私には幼さばかりが目につく作品であった。」 絲山秋子 37歳 全 ― 0   島本理生 20歳 全 □ 21 「すぐれたバランス感覚と率直な文章で難問を抱えている女子大生の暮らしを静かで落ち着いた作品に仕立て上げている島本理生さんの力量に感心したが、その候補作「生まれる森」には全く疑義がなかったわけではない。」「好意を寄せはじめている相手の男性（彼は親友の兄でもある）の母の死の真相が遂に語られずに終わっている」「おそらく意識的に伏せたのだろうが、それは何故なのか。」 中村航 34歳 全 ― 0

他の選考委員 宮本輝 古井由吉 石原慎太郎 黒井千次 村上龍 池澤夏樹 山田詠美 河野多恵子 高樹のぶ子

高樹のぶ子57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題期待と感慨　総行数44　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 金原ひとみ 20歳 全 ○ 14 「『蹴りたい背中』が一番良く『蛇にピアス』が二番だった。」「おそらく作者の人生の元手がかかっているであろう特異な世界を実にリアルに描いている。」「社会との関わりは作者の手にあまり小さな破綻となったが、作品全体の求心力は失われなかった。今後の方向は見えないが才能のある人だ。」 綿矢りさ 19歳 全 ◎ 33 「『蹴りたい背中』が一番良く『蛇にピアス』が二番だった。」「醒めた認識が随所にあるのは、作者の目が高校生活という狭い範囲を捉えながらも決して幼くはないことを示していて信用が置ける。作者は作者の周辺に流行しているだろうコミック的観念遊びに足をとられず、小説のカタチで新しさを主張する愚にも陥らず、あくまで人間と人間関係を描こうとしている。」 絲山秋子 37歳 全 ― 0   島本理生 20歳 全 ― 0   中村航 34歳 全 ― 0

他の選考委員 宮本輝 古井由吉 石原慎太郎 黒井千次 村上龍 池澤夏樹 山田詠美 河野多恵子 三浦哲郎

金原ひとみ20歳×各選考委員　 「蛇にピアス」 短篇 140枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 宮本輝 56歳 全 ◎ 19 「読み始めたとき、私は「ああまたこのて（原文傍点）の小説か」と思ったのだが、読み終えたとき、妙に心に残る何かがあった。それで日を置いてもう一度読み直した。」「作品全体がある哀しみを抽象化している。そのような小説を書けるのは才能というしかない。私はそう思って（引用者中略）受賞作に推した。」 古井由吉 66歳 全 ― 0   石原慎太郎 71歳 全 ■ 18 「私には現代の若もののピアスや入れ墨といった肉体に付着する装飾への執着の意味合いが本質的に理解出来ない。選者の誰かは、肉体の毀損による家族への反逆などと説明していたが、私にはただ浅薄な表現衝動としか感じられない。」 黒井千次 71歳 全 ○ 15 「（引用者注：一人称で書かれた候補作四篇のうち）「蛇にピアス」における〈私〉が最も必然性を備えた一人称であると思われた。」「一人称の持つ直截さが存分に活用された末に、殺しをも含む粗暴な出来事の間から静かな哀しみの調べが漂い出す。その音色は身体改造にかける夢の傷ましさを浮かび上らせるかのようだ。」 村上龍 51歳 全 ◎ 42 「最初読んだときは、妙な居心地の悪さを感じた。その居心地の悪さは（引用者中略）作者の才能が作品の細部に表れていないということだった。」「だが、再度読み返し、麒麟と龍の刺青を入れたあと主人公がわけもわからず生きる力を失っていく箇所を読んで、わたしの異和感がほぐれていった。」「突出した細部ではなく、破綻のない全体を持つ小説もあるということだ。」「推そうと思い、反対意見が多くあるはずだと、良いところを箇条書きにして選考会に臨んだが、あっさりと受賞が決まってしまった。」 池澤夏樹 58歳 全 △ 9 「なにしろ痛そうな話なので、ちょっとひるんだ。道具立ては派手だが、これもまた一種の純愛なのだろう。」 山田詠美 44歳 全 △ 9 「良識あると自認する人々（物書きの天敵ですな）の眉をひそめさせるアイテムに満ちたエピソードの裏側に、世にも古風でピュアな物語が見えて来る。」「ラストが甘いようにも思うけど。」 河野多恵子 77歳 全 ○ 31 「主人公が彫ってもらう刺青に関する部分は簡略で、全篇中そこだけ鮮明さも足りない。が、この部分で強い印象を与える描き方がなされていたならば、作品は割れていたことだろう。」「結末も、見事なものだ。読書はここで、主人公と殺されたアマとの繋がりの深さを陰画のかたちで今更ながら訴えられる。」「非常に若い（引用者注：受賞した二人の）両作者が、非常に若い人物を描きながら若さの衒いや顕示がなく、視力は勁い。」 三浦哲郎 72歳 全 □ 12 「ピアスや刺青の世界には全く不案内で、終始目をまるくして読んだが、驚いた。芯のある大人びた文章で、しっかりと書いてある。」「ところどころで理解を越えた表現に遭遇して面食らったものの、全体として面白く読むことができた。」 高樹のぶ子 57歳 全 ○ 14 「『蹴りたい背中』が一番良く『蛇にピアス』が二番だった。」「おそらく作者の人生の元手がかかっているであろう特異な世界を実にリアルに描いている。」「社会との関わりは作者の手にあまり小さな破綻となったが、作品全体の求心力は失われなかった。今後の方向は見えないが才能のある人だ。」

他の候補作 綿矢りさ 「蹴りたい背中」 絲山秋子 「海の仙人」 島本理生 「生まれる森」 中村航 「ぐるぐるまわるすべり台」

綿矢りさ19歳×各選考委員　 「蹴りたい背中」 中篇 170枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 宮本輝 56歳 全 ○ 22 「「インストール」と今回の「蹴りたい背中」に至る短期間に、綿矢さんの世界は目をみはるほどに拡がっている。ディティールが拡がったという言い方が正しいかもしれない。」「確かに十九歳の世界はまだまだ狭い。」「だが私は（引用者中略）「蹴りたい背中」に伸びゆく力を感じた。伸びゆく年代であろうとなかろうと才能がなければ伸びてはいかない。」 古井由吉 66歳 全 ○ 36 「「蹴りたい背中」とは乱暴な表題である。ところが読み終えてみれば、快哉をとなえたくなるほど、的中している。」「最後に人を避けてベランダに横になり背を向けた男が振り返って、蹴りたい「私」の、足の指の、小さな爪を、少し見ている。何かがきわまりかけて、きわまらない。そんな戦慄を読後に伝える。」 石原慎太郎 71歳 全 ― 0   黒井千次 71歳 全 ○ 16 「読み終った時この風変りな表題に深く納得した。新人の作でこれほど内容と題名の美事に結びつく例は稀だろう。」「背中を蹴るという行為の中には、セックス以前であると同時にセックス以後をも予感させる広がりが隠れている。この感性にはどこか関西風の生理がひそんでいそうな気がする。」 村上龍 51歳 全 □ 5 「破綻のない作品で、強く推すというよりも、受賞に反対する理由がないという感じだった。」 池澤夏樹 58歳 全 △ 13 「高校における異物排除のメカニズムを正確に書く伎倆に感心した。その先で、（引用者中略）人と人の仲を書く。すなわち小説の王道ではないか。」 山田詠美 44歳 全 ○ 8 「もどかしい気持、というのを言葉にするのは難しい。その難しいことに作品全体を使ってトライしているような健気さに心惹かれた。その健気さに安易な好感度のつけ入る隙がないからだ。」 河野多恵子 77歳 全 ○ 20 「彼等（引用者注：〈私〉と〈にな川〉）はまさしく高校一年生である実感に満ち、同時にそれを越えて生活というものを実感させる。」「非常に若い（引用者注：受賞した二人の）両作者が、非常に若い人物を描きながら若さの衒いや顕示がなく、視力は勁い。」 三浦哲郎 72歳 全 ■ 13 「この人の文章は書き出しから素直に頭に入ってこなかった。たとえば『葉緑体？　オオカナダモ？　ハッ。っていうこのスタンス。』という不可解な文章。私には幼さばかりが目につく作品であった。」 高樹のぶ子 57歳 全 ◎ 33 「『蹴りたい背中』が一番良く『蛇にピアス』が二番だった。」「醒めた認識が随所にあるのは、作者の目が高校生活という狭い範囲を捉えながらも決して幼くはないことを示していて信用が置ける。作者は作者の周辺に流行しているだろうコミック的観念遊びに足をとられず、小説のカタチで新しさを主張する愚にも陥らず、あくまで人間と人間関係を描こうとしている。」

他の候補作 金原ひとみ 「蛇にピアス」 絲山秋子 「海の仙人」 島本理生 「生まれる森」 中村航 「ぐるぐるまわるすべり台」

絲山秋子37歳×各選考委員　 「海の仙人」 中篇 187枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 宮本輝 56歳 全 ― 0   古井由吉 66歳 全 ― 0   石原慎太郎 71歳 全 ― 0   黒井千次 71歳 全 ■ 4 「（引用者注：「ぐるぐるまわるすべり台」と共に）小説世界を作ろうとする姿勢には共感しても、意図が結実していない憾みを覚えた。」 村上龍 51歳 全 ― 0   池澤夏樹 58歳 全 ◎ 5 「ふわふわと気持ちよく読めて推したのだが、賛同を得られなかった。こういう作風の評価は分析ではなく好悪で決まってしまうから。」 山田詠美 44歳 全 ■ 10 「〈そんな詩みたいな暮らしがしてみたいわ〉と、女が言う。」「話が進むにつれて、その詩は、どんどん過剰になって行き、とうとう最後には、冬のソナタ？」 河野多恵子 77歳 全 ― 0   三浦哲郎 72歳 全 ― 0   高樹のぶ子 57歳 全 ― 0	他の候補作 金原ひとみ 「蛇にピアス」 綿矢りさ 「蹴りたい背中」 島本理生 「生まれる森」 中村航 「ぐるぐるまわるすべり台」

島本理生20歳×各選考委員　 「生まれる森」 中篇 175枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 宮本輝 56歳 全 △ 5 「今回は少し力足らずだった。しかし、いずれは自分の花を咲かせる力を持っている。」 古井由吉 66歳 全 ― 0   石原慎太郎 71歳 全 ― 0   黒井千次 71歳 全 ■ 7 「女友達の描き方には温かなリアリティーを感じるが、主人公の妊娠に至る経過や女友達の母親の死に方などが書かれていないことに不満が残る。」 村上龍 51歳 全 ― 0   池澤夏樹 58歳 全 ■ 7 「前回（第百二十八回）の候補作と同じく何かが欠けているという感じがつきまとう。話の展開では性が重要なのに、それがすっぱり省かれている。」 山田詠美 44歳 全 ■ 12 「素直だ。好感が持てる、と称すべきなのだろう。でも、文学に好感なんて、そんなに必要か？」「お行儀が良いものは、退屈と紙一重。この作品は、その中間にいる。」 河野多恵子 77歳 全 ― 0   三浦哲郎 72歳 全 □ 21 「すぐれたバランス感覚と率直な文章で難問を抱えている女子大生の暮らしを静かで落ち着いた作品に仕立て上げている島本理生さんの力量に感心したが、その候補作「生まれる森」には全く疑義がなかったわけではない。」「好意を寄せはじめている相手の男性（彼は親友の兄でもある）の母の死の真相が遂に語られずに終わっている」「おそらく意識的に伏せたのだろうが、それは何故なのか。」 高樹のぶ子 57歳 全 ― 0

他の候補作 金原ひとみ 「蛇にピアス」 綿矢りさ 「蹴りたい背中」 絲山秋子 「海の仙人」 中村航 「ぐるぐるまわるすべり台」

中村航34歳×各選考委員　 「ぐるぐるまわるすべり台」 短篇 140枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 宮本輝 56歳 全 ― 0   古井由吉 66歳 全 ― 0   石原慎太郎 71歳 全 ○ 8 「タッチも良く一番面白く読めた。」「今日のよろずバーチャルなものごとについての一種の文明批判とも読める気もする。」 黒井千次 71歳 全 ■ 4 「（引用者注：「海の仙人」と共に）小説世界を作ろうとする姿勢には共感しても、意図が結実していない憾みを覚えた。」 村上龍 51歳 全 ― 0   池澤夏樹 58歳 全 ■ 7 「矛盾することを言うと、「夏休み」の路線でこの賞は取れないだろうが、しかしぼくはあちらの方がおもしろかった。」 山田詠美 44歳 全 △ 5 「自分なりのリアリティを追いかける際の道草具合が、ものすごくキュートだ。と、思ったのは私だけ……（泣）。」 河野多恵子 77歳 全 ― 0   三浦哲郎 72歳 全 ― 0   高樹のぶ子 57歳 全 ― 0	他の候補作 金原ひとみ 「蛇にピアス」 綿矢りさ 「蹴りたい背中」 絲山秋子 「海の仙人」 島本理生 「生まれる森」