選評の概要
126. 127. 128. 129. 130.131. 132. 133. 134. 135.
136. 137. 138. 139. 140.
141. 142. 143. 144. 145.
146. 147. 148. 149. 150.
151. 152. 153. 154. 155.
156. 157. 158. 159. 160.
161.
生没年月日【注】 | 昭和21年/1946年4月9日~ | |
在任期間 | 第126回~第161回(通算18年・36回) | |
在任年齢 | 55歳8ヶ月~73歳2ヶ月 | |
経歴 | 本名=鶴田信子、旧姓=高木。山口県防府市生まれ。東京女子大学短期大学部教育学科卒。出版社勤務、結婚、出産、離婚を経て、同人誌『らむぷ』に参加。昭和55年/1980年再婚、文學界新人賞に作品を応募したことがきっかけで同誌に作品が掲載されはじめる。 | |
受賞歴・候補歴 |
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芥川賞候補歴 | 第84回候補 「その細き道」(『文學界』昭和55年/1980年12月号) 第86回候補 「遠すぎる友」(『文學界』昭和56年/1981年11月号) 第89回候補 「追い風」(『文學界』昭和58年/1983年3月号) 第90回受賞 「光抱く友よ」(『新潮』昭和58年/1983年12月号) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 高樹のぶ子 55歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
29歳 |
○ | 17 | 「視点を幼く据えた書き方(幼さ装い)の弱点である認識の小ささや小説全体としての情報量の少さを、母親の会話で見事にクリアしている。(引用者中略)いきおい小説空間が大人のものになった。」 | |
法月ゆり | (39歳) |
○ | 23 | 「強引に物語を作り読ませる力があり、アメリカの小村での体験をワクワクドキドキしながら読んだ。私は○印。」「法月さんには今後も人間を動かし、面白くて怖くてかつ人間の深みに届く物語を作って本賞を取って欲しい。」 |
「初めての選考にのぞみ、二つの事を考えた。文学賞は人が書き人が択ぶのだから常に相対評価。その半期で最良の一作を択ぶことに徹する。」「もう一つは、作品本位とはいうものの先に期待が持てるかどうかを一考したい。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』平成14年/2002年3月号 |
選考委員 高樹のぶ子 56歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
36歳 |
◎ | 21 | 「二作(引用者注:「しょっぱいドライブ」と「銃」)に○をつけたが、前者(引用者注:「しょっぱいドライブ」)の方が頭ひとつ出ている印象だった。」「受賞作として推すことにためらいは無かった。候補六作中、人間と人間関係を描ききったのはこの一作だけだと言ってもいい。」「決して大きい作品ではないが、厚味のある秀作になっている。」 | |
中村文則 | 25歳 |
○ | 22 | 「二作(引用者注:「しょっぱいドライブ」と「銃」)に○をつけた」「賛成票が集まれば、受賞作として推したいと思ったが、叶わなかった。これは銃に対する男の意識がテーマになっている。」「深読みすれば、核を持った人間の心理も想起させる。文章のドライブ感に才能を感じたのだが。」 |
選評出典:『文藝春秋』平成15年/2003年3月号 |
選考委員 高樹のぶ子 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
27歳 |
○ | 18 | 「運命的で理不尽な暴力の被害者が、暴力で応報せず、自らの恐怖の感覚を克服することで生きのびようとする観念小説だ。」「地表があちこちで動いているとき、深い岩盤にまで人間探求の杭を打ち込もうとする試みは、その重さと不自由さゆえ反時代的に見える。しかしそのような小説はちょっと前にも、その昔にも、さらにその昔にもあった。ならばこの先にもあり得るはずだ。」 | |
伊藤たかみ | 34歳 |
○ | 7 | 「いくつかの印象的な場面に短篇の才能を感じる。とりわけ最後の無言電話を放置した中で母親と和解する終り方は秀逸だ。」 |
選評出典:『文藝春秋』平成17年/2005年9月号 |
選考委員 高樹のぶ子 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
伊藤たかみ | 34歳 |
◎ | 20 | 「積極的に推した」「自分たちの気取りや流出しかける情緒を、片っぱしから自嘲自爆でひっくり返していく運び方に、才能を感じる。」「風俗嬢とのプレイのあと、“からりと疲れた”の一文。あざといと思いつつも、あざとさも力ではないかと思った。」 |
39歳 |
△ | 17 | 「(引用者注:“私”と“太っちゃん”の)二人の信頼関係はきちんと書かれているし心地良く読めるのだが、このような(引用者注:どちらかが先に死んだら相手のパソコンのハードディスクの記録を消す約束をしている)仕組みが置かれる以上、ハードディスクの中に何が入っているかが気になる。」「何かもうひとつ、短篇としてのコワさが欲しかった。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成18年/2006年3月号 |
選考委員 高樹のぶ子 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
鹿島田真希 | 33歳 |
◎ | 47 | 「意識的に選び取られた文体が中身に相応しく、今回の候補作の中では一番良かった。」「文体に新奇なものを求めたのではなく、この現実を表現するために、是非とも女房文学のテイストが必要だったのだと思う。」「私達が女房文学を雅と感じるのは、流れるような仮名和文の韻律があるからで、その仮装束をあえて纏わせたこの作品を私は強く推したが、あと一歩及ばなかった。」 |
35歳 |
■ | 24 | 「知的でテクニカルな才能を感じさせるけれど、生死のかかったアンネの世界に比べて、女の園の出来事が趣味的遊戯的で、違和感がぬぐえなかった。頭で考えられ、嵌め込まれた二つの世界だが、差別が発生する本質は同じだ、という他の委員の意見が印象に残った。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成22年/2010年9月号 |
選考委員 高樹のぶ子 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
いとうせいこう | 52歳 |
◎ | 67 | 「小説を書く目的として最も相応しくないのがヒューマニズムだということも、作者は知っている。この作品をヒューマニズムの枠組で読まれることなど望まず、作者としては樹上の死者のDJを愉しんで貰いたかったのではないか。」「小説に出来ることはその程度だ。その程度しか出来ないという哀しみから、書く蛮勇はうまれる。」「今回の候補作中、もっとも大きな小説だったと、選考委員として私も、蛮勇をふるって言いたい。」 |
33歳 |
△ | 8 | 「まず私は女性の内向きでネガティブな攻撃性が苦手である。冒頭の一文からつまずき、文学的評価は他の委員に譲るしかなかった。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成25年/2013年9月号 |
選考委員 高樹のぶ子 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
岩城けい | 42歳 |
◎ | 31 | 「母語とは何かという問題、異国で表現することの困難さに真正面から挑み、切実で美しい世界を見せてくれた。」「この小説は、母語での表現を決意するまでの苦闘の「説明」であり、同時に「結果」ともなっている。すぐれた作品を芥川賞に選ぶ事が出来なくて残念だ。作者にとってだけでなく、日本語の文学賞である芥川賞がこの作品を取り込むことで、内側から相対化をはかるチャンスでもあったのに。」 |
30歳 |
■ | 22 | 「作者は才能がある。」「しかしそれでも、じくじくと不可解な出来事が続き、思わせぶりに終わってしまった感じが残った。もうすこし突き詰めるか妖しく爆発して欲しかった。」「夫は日常と非日常のどちらの住人なのか。夫の存在が都合良く後退しているのが気になった。」 | |
「大事なことはそれが、人について考えさせ、人を励まし、人に滋養を与えるプロダクツかどうかということ。ひと言で言えば「感動」の有る無し、文字通り、感じて動かされるもののこと。」「どのような種類の感動か、何に対しての感動かは様々だ。書かれている中身への共感もあるが、特別な手法しかとることが出来ない作者、その切実さに心を奪われ揺さぶられることで、作品が異様に輝くこともある。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』平成26年/2014年3月号 |
選考委員 高樹のぶ子 68歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
40歳 |
○ | 33 | 「描写も視点を人称で固定せず、伝聞の中に視点が流れ込んで行き、まるで生きものとなったカメラが一冊の写真集に閉じこめられた過去にまで入り込み語ってくれる。読者を混乱させかねないこの手法が、箱庭のようなささやかな世界を時間の厚味で包み、過去と未来を境界なく繋ぐ効果を生むのは希有なことで、ノスタルジックな磁場なくしては許されないだろう。」 | |
戌井昭人 | 42歳 |
○ | 13 | 「土着ファンタジーとして面白かった。」「最後にカタルシスも用意されて、これまでの候補作中もっとも完成度が高かった。受賞作にしたかったが不遇な土砂崩れに巻き込まれ、一命を取り止めたものの受賞ならず。」 |
選評出典:『文藝春秋』平成26年/2014年9月号 |
選考委員 高樹のぶ子 69歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
29歳 |
◎ | 20 | 「死にたい、と口癖のように言う祖父のために、孫息子は死を叶えてやろうとするが、本当は生にしがみついているのを知る。祖父のずるさがユーモラスでかなしく、ここにある生と死の息苦しさは、日本中に蔓延している社会問題でもある。」 | |
滝口悠生 | 32歳 |
○ | 14 | 「青春のみずみずしい記憶がノスタルジックで新鮮な感動を与えてくれる。」「曖昧な時制や夢妄想に頼るのではなく「わかりやすい構造」で「深い感興」を生み出すことこそ、もっとも困難な文学的試みである。実人生の実感が無ければそれは不可能なことなのだから。」 |
35歳 |
■ | 11 | 「優れたところは他の選者に譲る。私が最後まで×を付けたのは、破天荒で世界をひっくり返す言葉で支えられた神谷の魅力が、後半、言葉とは無縁の豊胸手術に堕し、それと共に本作の魅力も萎んだせいだ。」 | |
「今回はレベルの高い候補作が揃った。」「六編のうち五編が男性作家と思われ、いずれも時代や社会的な状況、時間の流れを意識して書かれている。個の内面が外部世界と繋がっている。」「これは文学にとっても芥川賞にとっても光明だが、それだけ外部世界は逼迫しているということでもある。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』平成27年/2015年9月号 |
選考委員 高樹のぶ子 73歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
李琴峰 | 29歳 |
○ | 14 | 「直球ド真ん中に投げ込まれた恋愛小説。」「この作品は、女性が女性に向ける恋情の哀しさを描いて、切なく真っ直ぐだ。恋情というのは強い。漢詩も良く効いている。」 |
39歳 |
△ | 24 | 「新進作家らしからぬトリッキーな小説で、語り手と語られる女が、重なったり離れたりしながら、最後には語られる女が消えて、その席に語り手が座っている。」「不確かさを不確かなままに書き置くことが出来るのが女性の強みだが、裏に必死な切実さが感じられなければ、ただの無責任な奔流になる。さてこの先、いくらかでも理路を通すか、さらなる大奔流で、実存を薙ぎ倒すか。」 | |
「「愛」と「哀」の消えた砂漠を、女性たちの感性が、自己中心的で幼いながらも、一所懸命に、地下水脈となって潤している光景が見えてきます。その地下水脈の源には、ともかくも身体の感覚がありますが、男たちは頭脳が成長し過ぎたせいか、世界と繋がる五感を失って見えます。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』令和1年/2019年9月号 |