上田岳弘（うえだたかひろ）-芥川賞受賞作家｜芥川賞のすべて・のようなもの

芥川賞のすべて・のようなもの

第160回

＝受賞者＝
上田岳弘
町屋良平

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Last Update●[R6]2024/7/18

	Ueda Takahiro
	生没年月日【注】	昭和54年/1979年☆月☆日～
	受賞年齢	39歳10ヵ月
	経歴	兵庫県明石市生まれ。早稲田大学法学部卒。法人向けソリューションメーカーの立ち上げに参画。平成25年/2013年「太陽」で新潮新人賞受賞。
	受賞歴・候補歴	\|候補\| 第43回新潮新人賞（平成23年/2011年）「真夜中の歩き方」第45回新潮新人賞（平成25年/2013年）「太陽」 \|候補\| 第27回三島由紀夫賞（平成25年/2013年度）「太陽」 \|候補\| 第152回芥川賞（平成26年/2014年下期）「惑星」第28回三島由紀夫賞（平成26年/2014年度）「私の恋人」 \|候補\| 第154回芥川賞（平成27年/2015年下期）「異郷の友人」 \|候補\| 第38回野間文芸新人賞（平成28年/2016年）『異郷の友人』 \|候補\| 第39回野間文芸新人賞（平成29年/2017年）『塔と重力』第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞［文学部門］（平成29年/2017年度）『塔と重力』第160回芥川賞（平成30年/2018年下期）「ニムロッド」 \|候補\| 第36回織田作之助賞（令和1年/2019年）『キュー』第46回川端康成文学賞（令和4年/2022年）「旅のない」 \|候補\| 第40回織田作之助賞（令和5年/2023年）『最愛の』第30回島清恋愛文学賞（令和5年/2023年度）『最愛の』
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第152回候補

「惑星(わくせい)」（『新潮』平成26年/2014年8月号）

媒体・作品情報

誌名	「新潮」別表記表紙「The Shincho Monthly」「今年110年目の文芸誌」併記
巻号	第111巻第8号別表記8月号/1315号
印刷/発行年月日	発行平成26年/2014年8月7日　発売平成26年/2014年7月7日
発行者等	編集兼発行者矢野優　印刷者北島義俊　印刷所大日本印刷株式会社（東京都）
発行所	株式会社新潮社（東京都）
総ページ数	356	表記上の枚数	目次 190枚	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×24行 ×2段
本文ページ	7～70 （計64頁）	測定枚数	197枚

書誌

平成26年/2014年11月・新潮社刊『太陽・惑星』所収

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　上田岳弘　35歳
選考委員		評価	行数	評言
小川洋子	52歳	●	7	「最強人間、最高製品、という無機質な言葉から私はどうしても魅力的なイメージの広がりを感じ取れなかった。」
奥泉光	58歳	■	12	「興味をもって楽しく読んだ。その興味と楽しさはＳＦ小説を読むスリルで、だからたとえば、大勢の人間たちが繋がってできあがった「肉の海」が、どんな仕組みで栄養を得ているのかといった、疑似科学的解説が欲しいと感じた。」
高樹のぶ子	68歳	○	29	「万物万象、時間も含めて相対的だとするテーマを、映像ではなく文学にするとこうなるだろう。人間についてではなく人類について考えている。」「作品中で言及されている映画「惑星ソラリス」の影響は否定出来ないが、随所に鋭く射し込まれた批評精神が、荒唐無稽なＳＦと割り切ることの出来ない光り方をしていた。」
山田詠美	55歳	●	21	「〈だが進歩させるほどに、逃げ場は塞がれていき、出口であると思っていたものが、憧憬を持ち続けられるかもしれないと思っていたものが、既存のものと同じだけ味気ない、何らの外部性も持たない、ただの現実の付属物にすぎないと思うに至る〉……（引用者中略）これ、何言いたいのかさっぱり解んない。……ねえ、もっと簡単に書けないの？　そんなにもったいぶるほど、アイディア満載の作品とはとても思えないけど？」
宮本輝	67歳	●	16	「作者の企みが先走って、途中から観念的な文明論に捕まってしまっている。」「最大の難点は長すぎるということだ。半分の枚数で書けていたら、観念の要点もおのずと収斂されたであろうと思う。」
堀江敏幸	51歳	■	16	「言葉の受け取り手が消えた地平から言葉を起こしているかぎり世界は揺れないだろう。この物語の「私」が目指しているのは、むしろ揺れの収束を拒むことなのに。」
島田雅彦	53歳	△	27	「今後、従来型の小説には見られなかった形式を積極的に導入する若い作家が増えてゆくだろうが、読者の共感をあてにできないハンディを背負う以上、背景や細部の作り込みを徹底しないと、せっかくの新奇な形式も見劣りしてしまうので注意が必要である。」
村上龍	62歳	―	0
川上弘美	56歳	■	11	「細部は、とても面白かった。生き生きしていた。ただ、「最終結論」という状態が、今まで見知っている「ＳＦっぽい未来」のようにしか想像できなかったのです。」
選評出典：『文藝春秋』平成27年/2015年3月号

第154回候補

「異郷(いきょう)の友人(ゆうじん)」（『新潮』平成27年/2015年12月号）

媒体・作品情報

誌名	「新潮」別表記表紙「The Shincho Monthly」「今年111年目の文芸誌」併記
巻号	第112巻第12号別表記12月号/1331号
印刷/発行年月日	発行平成27年/2015年12月7日　発売平成27年/2015年11月7日
発行者等	編集兼発行者矢野優　印刷者北島義俊　印刷所大日本印刷株式会社（東京都）
発行所	株式会社新潮社（東京都）
総ページ数	356	表記上の枚数	表紙・背・目次 240枚	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×25行 ×2段
本文ページ	7～82 （計76頁）	測定枚数	243枚

書誌

平成28年/2016年1月・新潮社刊『異郷の友人』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　上田岳弘　36歳
選考委員		評価	行数	評言
宮本輝	68歳	●	9	「前々回の「惑星」と同様に、初めに大きく風呂敷をひろげておいたにもかかわらず、その風呂敷の畳み方に窮して、最後は尻切れとんぼになってしまった。」
小川洋子	53歳	■	8	「読んでいる間、言葉の力によってしかたどり着けない場所へ連れて行ってもらえない、というもやもやが最後まで拭えなかった。」
奥泉光	59歳	■	13	「（引用者注：「ホモサピエンスの瞬間」と共に）小説らしい企みのある作品だった。しかし、ともにその企みが不発に終わった感が否めない。」
山田詠美	56歳	△	17	「いかすアイディアがいくつも出て来る。」「知識も豊富っぽいし、頭のいい人が書いた小説なんだなーっ。でも、そんな頭のいい人が、何故それらの締めに津波を使ってしまうのか。」
島田雅彦	54歳	△	23	「作者の意識の冒険を読者に追体験させることによって、リアリティを獲得することになっているので、勢い任せで推敲不十分なコトバを放り出せば、読者は唖然と作者の背中を見送るしかない。振り返ると誰もいない孤独を味わうために書いているのでなければ、アイデアマンとしての発想を説得力込みで実らせた方がよい。」
高樹のぶ子	69歳	―	0
川上弘美	57歳	□	17	「（引用者注：「何」を「どのように」書くかという、小説にとって大きな問題において）この小説の「どうやって」と、「何」のつながりかたは、心地よいものでした。ひとことで「何」といえるものではないものを、作者上田さんは、明瞭な「どのように」でもって、広げたり縮めたりしながら表現していった。」「（引用者注：「異類婚姻譚」と共に）二作を、少しずつ、推しました。」
堀江敏幸	52歳	■	14	「「吾輩」と「僕」は「人間」になるだけで、ホモサピエンスにはならない。「吾輩」のかつての姿である猫のように、語りは板塀の上をつたい、あやうい均衡の持続を最後に壊す。見えない他者と意識をシェアするために、それは果たして有効だろうか。」
村上龍	63歳	―	0
選評出典：『文藝春秋』平成28年/2016年3月号

第160回受賞

「ニムロッド」（『群像』平成30年/2018年12月号）

媒体・作品情報

誌名	「群像」別表記表紙・背「Gunzo」併記
巻号	第73巻第12号
印刷/発行年月日	発行平成30年/2018年12月1日　印刷平成30年/2018年11月7日　発売平成30年/2018年11月7日
発行者等	編集人佐藤辰宣　発行人唐木厚　印刷人金子眞吾　印刷所凸版印刷株式会社（東京都）
発行所	株式会社講談社（東京都）
総ページ数	388	表記上の枚数	表紙・背・目次・本文 200枚	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×25行 ×2段
本文ページ	6～69 （計64頁）	測定枚数	201枚

書誌

平成31年/2019年1月・講談社刊『ニムロッド』

『文藝春秋』平成31年/2019年3月号

令和3年/2021年2月・講談社／講談社文庫『ニムロッド』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　上田岳弘　39歳
選考委員		評価	行数	評言
高樹のぶ子	72歳	○	28	「最終章でこの作品は飛翔する。ビットコインからも、それを採掘するらしいサーバーからも、都会的な男女関係からも離陸して、言葉の翼だけになる。この翼は絶望と諦念を燃料に、まるで人類の希望と見まがうばかりに、強く美しく飛行する。」
小川洋子	56歳	■	13	「ページを閉じた時、コンピュータのスイッチが切れたように、手触りも残さないまま“僕”は消えてしまった。無から無を生むシステムの中でしか生きられない人間の哀しさを、もっと混沌とした状態で感じ取りたかった。」
島田雅彦	57歳	○	20	「小説家志望の男、ビットコインを「発掘」する男、飛行機開発の夢と挫折のエピソードが、バベルの塔の建設やイカロスの失墜といった神話的元型の現代的変奏となっている。」「ただNAVERまとめに依拠している部分が多過ぎるのは手抜き。」
吉田修一	50歳	◎	29	「地上から塔の頂上へと、軽々と読者を運んでいく垂直の跳躍力こそがこの作家最大の魅力であると思う。今回はその跳躍力と、ダメな飛行機というコミカルなメタファが奇跡的な相乗効果を生み、稀に見る完成度の高い小説となっている。」
山田詠美	59歳	◎	20	「ここには小説のおもしろさすべてが詰っている。それらしい表現などひとつも使っていないのに、何故だろう、すごくエロティックな空気に作品全体が包まれているように感じた。」「（引用者注：「1R1分34秒」と共に）推した。」
奥泉光	62歳	□	18	「同じ作家の過去の作品に比して過剰性が抑えられており、少し淋しく思ったものの、旧約聖書神話を根幹に据えつつ、人類の営為の虚しさとそれへの愛惜を、仮想通貨や小説内SF小説などを織り込みつつ描いた一篇に高い完成度があるのを自分は認めた。」
宮本輝	71歳	□	11	「ビットコインやバベルの塔や小説中小説や「駄目な飛行機」といった玩具（引用者中略）が必要不可欠なつながりを持って有機的に作用している。作家としての技術的成長を感じて、私は授賞に賛成した。」
川上弘美	60歳	○	18	「この物語に適した言葉の選びかた、物語のはこび、細部の描きかた、読者の驚かせかた、などがとても優れていて、小説としての強度を感じます。」
堀江敏幸	55歳	△	13	「無から何かを掘り出す仮想通貨で言葉をつくる無謀さすら、未完の塔のなかで完結させてしまう力業だ。ただし、書くという営為と結ばれる「駄目な飛行機」たちの事例を、参照文献からもっと遠くに飛翔させ、過剰に再編集していたら、言葉の貨物室としての荷室は、さらに重量を増しただろう。」
選評出典：『文藝春秋』平成31年/2019年3月号

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