高山羽根子（たかやまはねこ）-芥川賞受賞作家｜芥川賞のすべて・のようなもの

芥川賞のすべて・のようなもの

第163回

＝受賞者＝
高山羽根子
遠野　遥

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Last Update●[R3]2021/12/10

	Takayama Haneko
	生没年月日【注】	昭和50年/1975年☆月☆日～
	経歴	富山県生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科卒。
	受賞歴・候補歴	第1回創元SF短編賞［佳作］（平成22年/2010年）「うどん　キツネつきの」第2回林芙美子文学賞（平成28年/2016年）「太陽の側の島」 \|候補\| 第36回日本ＳＦ大賞（平成27年/2015年度）『うどん　キツネつきの』 \|候補\| 第160回芥川賞（平成30年/2018年下期）「居た場所」 \|候補\| 第39回日本ＳＦ大賞（平成30年/2018年度）『オブジェクタム』 \|候補\| 第161回芥川賞（平成31年・令和1年/2019年上期）「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」 \|候補\| 第18回センス・オブ・ジェンダー賞（平成30年/2018年度）『オブジェクタム』 \|候補\| 第41回野間文芸新人賞（令和1年/2019年）「如何様」第163回芥川賞（令和2年/2020年上期）「首里の馬」 \|候補\| 第33回三島由紀夫賞（令和1年/2019年度）「首里の馬」 \|候補\| 第42回日本ＳＦ大賞（令和3年/2021年度）『暗闇にレンズ』
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第160回候補

「居(い)た場所(ばしょ)」（『文藝』平成30年/2018年冬季号［11月］）

媒体・作品情報

誌名	「文藝」
巻号	第57巻第4号別表記冬/winter
印刷/発行年月日	発行平成30年/2018年11月1日
発行者等	編集人尾形龍太郎　発行人小野寺優　印刷人北島義斉　印刷所大日本印刷株式会社（東京都）
発行所	株式会社河出書房新社（東京都）
総ページ数	680	表記上の枚数	目次 147枚	基本の文字組（1ページ当り）	29字 ×26行 ×2段
本文ページ	194～236 （計43頁）	測定枚数	147枚

書誌

平成31年/2019年1月・河出書房新社刊『居た場所』所収

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　高山羽根子　43歳
選考委員		評価	行数	評言
高樹のぶ子	72歳	■	14	「透明感のある風を感じさせる。」「ＳＦ的な楽しさがあるが、壺の中の奇妙な水とか、タッタというイタチのような生きものとか、思わせぶりなまま放置されたものを、もう少し回収して欲しかった。」
小川洋子	56歳	◎	20	「三作に絞られたあとの二回めの投票で、私は『居た場所』に丸をつけた。」「あらゆるエピソードがつながりを切断された状態で放置される中、唯一、タッタだけが小説の底に一続きの足音を響かせている。」「言葉が消え、暗がりの中に毛の手触りだけが取り残されるラストは、空虚でありながら独自の妖しさを放っていた。」
島田雅彦	57歳	△	13	「風景や場所を異化するインスタレーションを畳み掛け、読者の意表を突く。外国人の眼差しに映る日本はそういうものかも知れない。」
吉田修一	50歳	□	21	「これを一種の変身譚として読めば、最終的に主人公が人間から妖怪や魔物に変身するのではなく、ベトナム人と思われる主人公が普通に帰化申請して日本人に変身しただけという着地点がたいそう斬新で面白く、となると、今作に漂う不気味さや警戒心、また不信感などがそのまま現代日本の深層意識として読めなくもない。佳品。」
山田詠美	59歳	△	11	「女の居た場所に男が追い付き、二人の場所が重なり合い、そして、またずれて……そうやって微生物さながらに発酵して行く関係が何ともいじらしい。」「もう少し、背景の事情説明が欲しかった。」
奥泉光	62歳	■	20	「リアリズムの文体で描かれた世界に僅かずつ「ずれ」を持ち込み異化効果を生み出す技法は、古典的なものではあるが、うまく使われて、不思議に魅力ある一篇となって結実している。が、どんなスタイルであれ、小説なるものが呼び込むべき「過剰さ」がなく、そこが物足りないと感じた。」
宮本輝	71歳	○	39	「「居た場所」を推したが、どこか推し切れないものを抱いていた。」「主人公の妻は、おそらく中国からさほど遠くない小さな島に生まれて、少女時代にベトナムあたりに働きに行ったのであろう。いまは廃墟となったその町を訪ねていくのだが、廃墟をさまよっているうちに自分が住んでいた部屋をみつける。そこで起こる奇妙な出来事がいったい何の暗喩なのかが、私にはどうしてもわからなかった。」「読者の想像力にゆだねるにしても、これでは不親切過ぎる。」
川上弘美	60歳	■	10	「たくさんのとてもいいとっかかりがありました。なのに、それらが放置されてしまっている。辿りつきそうで、辿りつけなかった場所を思うもどかしさがありました。」
堀江敏幸	55歳	△	14	「異郷の島で生まれ、日本人と結婚した女性が、かつて一人暮らしをしていた土地を訪ねる。」「「居た場所」ではなく「居る場所」の茫漠さこそ本作の魅力なのだが、それを十分に表現するには、もう少し「規定」の強化が必要かもしれない。」
選評出典：『文藝春秋』平成31年/2019年3月号

第161回候補

「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」（『すばる』令和1年/2019年5月号）

媒体・作品情報

誌名	「すばる」別表記表紙「subaru」併記　裏表紙・奥付「昴」併記
巻号	第41巻第5号別表記5月号
印刷/発行年月日	発売平成31年/2019年4月6日
発行者等	編集者羽喰涼子　発行者徳永真　印刷所大日本印刷株式会社
発行所	株式会社集英社（東京都）
総ページ数	324	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	26字 ×23行 ×2段
本文ページ	10～50 （計41頁）	測定枚数	118枚

書誌

令和1年/2019年7月・集英社刊『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　高山羽根子　44歳
選考委員		評価	行数	評言
小川洋子	57歳	◎	18	「（引用者注：「むらさきのスカートの女」と共に）推した。」「自由気ままな語りの裏に、性的暴行を受けた女性の、自らを肯定できない屈折が潜んでいる。」「高山さんは、書かないことでしか書けないことを書いた。貴重な問いを突きつける作品だと思う。」
高樹のぶ子	73歳	■	16	「雪虫、ダウンの羽毛、おばあちゃんの背中、どれも白くて美しいが、肝心要のことを外した書き方が、効果的というより、焦点をぼかされた感じがした。」
奥泉光	63歳	■	11	「対象の捉え方に独自のセンスがあって、とりわけ描かれた人物像は不思議な魅力を放つ。しかし一篇の小説として完結させなければならないという命令の窮屈さが、小説世界をいくぶん小さくしてしまった印象をもった。」
山田詠美	60歳	□	14	「変態〈お腹なめおやじ〉に本当はなめられているのに〈なめられていないほうの女子〉に分類されてしまった少女の受難は、大人になる過程でも続く。主人公が止めることないその歩みを、真摯に描いていると感じた。」
島田雅彦	58歳	■	12	「ディテール、表現がアイデアに満ち、「いいね」を効率よく稼いでいるのだが、フェティシズムのバリエーションが続くだけで上滑りしてしまっている。」
川上弘美	61歳	□	12	「作者高山さんの持つ小説家としての力を喜ばしく思いつつも、ほんのわずか、わずかだけ、何かが保留になっていると感じてしまったのです。次点でした。」
宮本輝	72歳	■	18	「（引用者注：前の候補作「居た場所」と）共通するわかりづらさは、抑制のしすぎ、省略のしすぎではなく、「書かなさ過ぎ」であって、「書き過ぎ」よりも始末に負えない。核心を解く鍵はたったの一行、もしくは二行でいいが、それがなければ小説の芯が見えなくなる。」
吉田修一	50歳	◎	53	「本作に○をつけて選考会に臨んだ。まず、この人の文章には質感がある。」「主人公の女性がこれまでの人生で受けてきた性被害の風景がとても軽やかに、まるで笑い話のように語られていく。（引用者中略）最後まで読むと、そこには笑い飛ばすことでしか乗り越えられなかった切実な悔しさが滲み出てくる。」「タイトルがボブ・ディランの楽曲から取られていることもあり、これからの令和という時代が、デモと社会的弱者の時代になるのではないかという暗示としても読めた。」
堀江敏幸	55歳	△	17	「語り手は、過去に受けたいくつかの性的被害を淡々と語る一方で、高校の同期の男にされたことの真偽は明示しない。」「選ぶべき方向を曖昧に開く結末は印象的だが、羽虫から雪虫へとつながる周到なイメージの連鎖に凭（原文ルビ：よ）りかかりすぎたかもしれない。」
選評出典：『文藝春秋』令和1年/2019年9月号

第163回受賞

「首里(しゅり)の馬(うま)」（『新潮』令和2年/2020年3月号）

媒体・作品情報

誌名	「新潮」別表記表紙「The Shincho Monthly」「今年116年目の文芸誌」併記
巻号	第117巻第3号別表記3月号/1382号
印刷/発行年月日	発行令和2年/2020年3月7日　発売令和2年/2020年2月7日
発行者等	編集兼発行者矢野優　印刷者北島義斉　印刷所大日本印刷株式会社（東京都）
発行所	株式会社新潮社（東京都）
総ページ数	420	表記上の枚数	表紙・背・目次 230枚	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×25行 ×2段
本文ページ	59～131 （計73頁）	測定枚数	232枚

書誌

令和2年/2020年7月・新潮社刊『首里の馬』

『文藝春秋』令和2年/2020年9月号

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　高山羽根子　45歳
選考委員		評価	行数	評言
平野啓一郎	45歳	□	25	「沖縄、資料館、遠隔クイズ、宮古馬といった各要素の結びつきは、理解できるものの、やや苦しい。」「他方、「孤独」故に、三人称一元視点のナラティヴには、しばしば論評的な平板さがあった。それでも、この想像力と構想力を評価することに異存はなかった。」
吉田修一	51歳	○	24	「高山さんはおそらく「孤独な場所」というものが一体どんな場所なのか、その正体を、手を替え品を替え、執拗に真剣に、暴こうとする作家なのだと思います。」「沖縄の描き方やその向き合い方の過不足はおいておいたとしても、宮古馬の登場のさせ方は鮮烈で、この宮古馬もまた孤独の象徴だと読めば、そこには体温があり、怯えがあり、臭いがあり、疲れもある。」
松浦寿輝	66歳	◎	32	「ずば抜けて面白い。きわめて「馬鹿々々しい」発想の小説だが、この「馬鹿々々しさ」は小説という物語形式の本質的魅力に触れているめざましい達成だと思う。」「非日常のＳＦ的世界と、沖縄というフォークロア空間との間の絶妙な釣り合い。奇抜なユーモアに満ちた思考実験として第一級の作品と思う。」
小川洋子	58歳	△	11	「人間が生きている痕跡を選別せず、平等に尊ぶ意味を問い掛けてくる。」「結局、人と人をつなぐのは、実体のある何かではなく、それが去ったあとの痕跡、幻なのだと思わされる。」
島田雅彦	59歳	△	17	「過去の高山作品がコトバへの拘泥と単発的なイメージの逆転のコレクションだったとすれば、今回は世界観の提示という領域に踏み込んだ。」「この小説自体が特異なデータを集めただけの小さな資料館になってしまっては駄目で、もっと沖縄と世界の孤独が身体化されていれば、よかった。」
山田詠美	61歳	○	11	「この作者の小説には、いくつもの世界がパラレルに存在していて、それをつなぐ鍵となるものが、今回は沖縄の宮古馬。その馬に乗った作者の視点が物語を牽引し、文学にしか出来ない冒険に読者を誘（ルビ：いざな）ってくれる。」
川上弘美	62歳	◎	12	「『首里の馬』の中にある静かな絶望と、その絶望に浸るまいという意志に、感じ入りました。一読、すぐに○をつけました。再読し、さらにこの小説の奥行をさぐりたくなりました。」
奥泉光	64歳	□	18	「世界のあらゆる事象が、どんなに詰まらなく見えるものであれ、かならず存在の痕跡を残すのだとの思いが細部から匂い立つ。複数のエピソードの有機的なつながりが掴みにくく、それらを包みこむのであろう沖縄の舞台設定がいまひとつ効果を発揮していないなどの不満はあるものの、受賞作にふさわしい佳篇だと評価した。」
堀江敏幸	56歳	△	19	「宮古馬の末脚では届かない無鑑査の記憶をどこに保管するのか。それを問うているはずなのに、四コーナーを気持ちよく回ると迷い馬の脚で差し切れそうな言葉のほうが多くなって、直線までの距離が見えてしまう。息を整えすぎたその一点がやや気になる。」
選評出典：『文藝春秋』令和2年/2020年9月号

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