第160回

第159回第161回

平成30年/2018年下半期 平成31年/2019年1月16日決定発表／『文藝春秋』平成31年/2019年3月号選評掲載

選考委員　 高樹のぶ子 72歳 小川洋子 56歳 島田雅彦 57歳 吉田修一 50歳 山田詠美 59歳 奥泉光 62歳 宮本輝 71歳 川上弘美 60歳 堀江敏幸 55歳 選評総行数　 84 86 86 127 92 100 89 82 83 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 上田岳弘　「ニムロッド」 201枚 39歳 評 ○ 28 ■ 13 ○ 20 ◎ 29 ◎ 20 □ 18 □ 11 ○ 18 △ 13 町屋良平　「1R1分34秒」 177枚 35歳 評 △ 12 △ 16 ○ 11 ○ 28 ◎ 18 □ 16 △ 11 ◎ 8 ○ 19 鴻池留衣　「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」 227枚 31歳 評 ― 0 ■ 10 ● 13 ● 13 ■ 13 △ 19 ■ 6 ■ 13 ■ 14 砂川文次　「戦場のレビヤタン」 116枚 28歳 評 ● 11 ■ 12 ● 13 ■ 20 ■ 13 ■ 12 △ 11 ■ 13 ■ 10 高山羽根子　「居た場所」 147枚 43歳 評 ■ 14 ◎ 20 △ 13 □ 21 △ 11 ■ 20 ○ 39 ■ 10 △ 14 古市憲寿　「平成くん、さようなら」 239枚 34歳 評 ● 9 ● 15 ● 16 ● 16 ● 24 ■ 12 ● 4 ■ 20 ■ 13                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

高樹のぶ子72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題飛翔　総行数84　（1行=13字） 候補 評価 行数 評言 上田岳弘 39歳 全 ○ 28 「最終章でこの作品は飛翔する。ビットコインからも、それを採掘するらしいサーバーからも、都会的な男女関係からも離陸して、言葉の翼だけになる。この翼は絶望と諦念を燃料に、まるで人類の希望と見まがうばかりに、強く美しく飛行する。」 町屋良平 35歳 全 △ 12 「見えざる世界を相手に、自らの身体を追い詰めることで自己発見し武装する、というのは古今東西、変わらぬ若者の姿なのだろう。」「身体に限定された繰り返しの表現が、遮二無二に繰り出されるパンチを想起させる。確信的に、書きたいことだけを書いている。」 鴻池留衣 31歳 全 ― 0   砂川文次 28歳 全 ● 11 「現場のディテールがあるだけに、その中に在る死が観念的に空回りしている。観念ではない死を実感させるには、何か生の輝きが必要なのかも知れない。たとえば「ゲルニカ」の中の一輪の花。」 高山羽根子 43歳 全 ■ 14 「透明感のある風を感じさせる。」「ＳＦ的な楽しさがあるが、壺の中の奇妙な水とか、タッタというイタチのような生きものとか、思わせぶりなまま放置されたものを、もう少し回収して欲しかった。」 古市憲寿 34歳 全 ● 9 「客観的には恵まれている男がなぜ安楽死を希うか、に読者の興味は向かう。安易な理由（難病）でなく、死を望むほどの説得力ある苦悩が描かれていれば、それはそのまま現代社会への批評になっただろう。」   「一般論として、メディアに流通している候補者のイメージは、周回遅れのスタートを強いる。なぜか。年齢もキャリアも時には性別さえも捨象して公正に読もうとするとき、すでに在るイメージは邪魔になるからだ。」

他の選考委員 小川洋子 島田雅彦 吉田修一 山田詠美 奥泉光 宮本輝 川上弘美 堀江敏幸

小川洋子56歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題タッタの足音　総行数86　（1行=13字） 候補 評価 行数 評言 上田岳弘 39歳 全 ■ 13 「ページを閉じた時、コンピュータのスイッチが切れたように、手触りも残さないまま“僕”は消えてしまった。無から無を生むシステムの中でしか生きられない人間の哀しさを、もっと混沌とした状態で感じ取りたかった。」 町屋良平 35歳 全 △ 16 「彼（引用者注：主人公）が初めてウメキチとトレーニングするシーンの、肉体を通した緻密な会話は忘れがたい。頭脳から遠く離れた場所で、体は圧倒的な美を表現する。言葉の届かないところにこそ書かれるべきものがある、という真実を証明している。」 鴻池留衣 31歳 全 ■ 10 「仕掛けは興味深かった。ただそれが、小説の面白さに広がってゆかず、アイデアの域に留まっていたのが残念だ。」 砂川文次 28歳 全 ■ 12 「最も印象的だったのは、恐怖のあまり鉄塔に魅入られた新入りが、戦車へ近づいてゆく場面だ。」「頭の中で出来事を組み立て直し、意味を見出そうとするのではなく、ただありのままを描写する、という緊張に耐えることが、言葉の威力を引き出すには必要だと思う。」 高山羽根子 43歳 全 ◎ 20 「三作に絞られたあとの二回めの投票で、私は『居た場所』に丸をつけた。」「あらゆるエピソードがつながりを切断された状態で放置される中、唯一、タッタだけが小説の底に一続きの足音を響かせている。」「言葉が消え、暗がりの中に毛の手触りだけが取り残されるラストは、空虚でありながら独自の妖しさを放っていた。」 古市憲寿 34歳 全 ● 15 「無邪気なほどに幼い死生観に取りつかれている平成くんの魅力が、十分に伝わってこなかったのは、安楽死が合法化された日本社会の描き方に、否応なく読者を引きずり込むだけの力がなかったからだろう。」

他の選考委員 高樹のぶ子 島田雅彦 吉田修一 山田詠美 奥泉光 宮本輝 川上弘美 堀江敏幸

島田雅彦57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題バベルタワーの住人　総行数86　（1行=13字） 候補 評価 行数 評言 上田岳弘 39歳 全 ○ 20 「小説家志望の男、ビットコインを「発掘」する男、飛行機開発の夢と挫折のエピソードが、バベルの塔の建設やイカロスの失墜といった神話的元型の現代的変奏となっている。」「ただNAVERまとめに依拠している部分が多過ぎるのは手抜き。」 町屋良平 35歳 全 ○ 11 「安部公房の短編『時の崖』を思わせる試合中のボクサーの意識の流れが圧巻である。」「技術論と友情のブレンド比も絶妙で、主人公とウメキチのホモ・ソーシャル関係に胸キュンとなる読者も多かろう。」 鴻池留衣 31歳 全 ● 13 「全編、ウィキペディアの記述という体裁を抜きに読んだら、人気バンドのクロニクルがメリハリのない文章で綴られているだけという印象の方が強かった。」 砂川文次 28歳 全 ● 13 「生の充実を求め、微温的な日本を脱するというかつてのバックパッカー、あるいは戦場カメラマンの苛立ちが反復されているような既視感を抱いてしまった。」 高山羽根子 43歳 全 △ 13 「風景や場所を異化するインスタレーションを畳み掛け、読者の意表を突く。外国人の眼差しに映る日本はそういうものかも知れない。」 古市憲寿 34歳 全 ● 16 「「死にたい」といって、他者の同情や注目を集める「時代の寵児」の自分至上主義を突き放す批評やヒューモアが欠如しており、結果的に三人称で書かれた自分史ポルノの域を出ていない。」

他の選考委員 高樹のぶ子 小川洋子 吉田修一 山田詠美 奥泉光 宮本輝 川上弘美 堀江敏幸

吉田修一50歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数127　（1行=13字） 候補 評価 行数 評言 上田岳弘 39歳 全 ◎ 29 「地上から塔の頂上へと、軽々と読者を運んでいく垂直の跳躍力こそがこの作家最大の魅力であると思う。今回はその跳躍力と、ダメな飛行機というコミカルなメタファが奇跡的な相乗効果を生み、稀に見る完成度の高い小説となっている。」 町屋良平 35歳 全 ○ 28 「平坦な道を歩いていると、ふと詩の欠片が落ちていたような驚きがある。それも仰々しいアフォリズムではない。普段私たちが使い捨てる言葉が、この作者にかかると、小さな花になる。そしてこの花は、実際の花と同様、自分が花だと気づいていないから尚、美しい。」 鴻池留衣 31歳 全 ● 13 「八十年代に活躍した架空のロックバンドのパクリバンドをやっているという設定は魅力的だが、あまりに文章が粗雑。」 砂川文次 28歳 全 ■ 20 「この作者のデビュー作「市街戦」を文學界新人賞に推した一人なのだが、今作はいただけない。」「ある程度の体験や資料から一定のリアリティはあるものの、逆に（引用者注：デビュー作に比べて）小説的リアリティからは遠ざかってしまった。」 高山羽根子 43歳 全 □ 21 「これを一種の変身譚として読めば、最終的に主人公が人間から妖怪や魔物に変身するのではなく、ベトナム人と思われる主人公が普通に帰化申請して日本人に変身しただけという着地点がたいそう斬新で面白く、となると、今作に漂う不気味さや警戒心、また不信感などがそのまま現代日本の深層意識として読めなくもない。佳品。」 古市憲寿 34歳 全 ● 16 「書かれていることの隅から隅まで最新・最先端なのに、どこにも新しさを感じないという不思議な小説で、作家としてはナルシズムをもっとコントロールすべきだし、文学としては人間を描いて時代を浮かび上がらせるべきであって、時代のために人間を使うのは危険だと思う。」

他の選考委員 高樹のぶ子 小川洋子 島田雅彦 山田詠美 奥泉光 宮本輝 川上弘美 堀江敏幸

山田詠美59歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「選評」　総行数92　（1行=13字） 候補 評価 行数 評言 上田岳弘 39歳 全 ◎ 20 「ここには小説のおもしろさすべてが詰っている。それらしい表現などひとつも使っていないのに、何故だろう、すごくエロティックな空気に作品全体が包まれているように感じた。」「（引用者注：「1R1分34秒」と共に）推した。」 町屋良平 35歳 全 ◎ 18 「文章全体から、この作者、そして登場人物たちの「引くに引けない感じ」が漂って来て胸にせまる。途中、いくつもしびれるフレーズが出て来て、思わず拍手したくなった。」「（引用者注：「ニムロッド」と共に）推した。」 鴻池留衣 31歳 全 ■ 13 「壮大なようでいて、結構せこいこの話。もっとおもしろくなる余地はいくらでもある。途中、スラップスティックの様相を呈して来たあたりから、アイディア倒れになってしまった。」 砂川文次 28歳 全 ■ 13 「石油精製施設周辺の埃っぽい感じがよく伝って来て上手い。でも、それは、小説の上手さとは別物のような気がする。ところどころに大仰な一文が見得を切るように表われる。」 高山羽根子 43歳 全 △ 11 「女の居た場所に男が追い付き、二人の場所が重なり合い、そして、またずれて……そうやって微生物さながらに発酵して行く関係が何ともいじらしい。」「もう少し、背景の事情説明が欲しかった。」 古市憲寿 34歳 全 ● 24 「死をこのような形で取り上げるのなら、もっと徹底的に軽々しく扱って欲しかった。」「この作者は、発表の翌朝、ＴＶのワイドショーで、「純文学にはうじうじする主人公が多いけど、自分の作品は自己肯定だから駄目だった」というような落選の弁を述べていたが、これまたマジですか？　自己肯定ではなく自己過信の間違いではないのか。」

他の選考委員 高樹のぶ子 小川洋子 島田雅彦 吉田修一 奥泉光 宮本輝 川上弘美 堀江敏幸

奥泉光62歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数100　（1行=13字） 候補 評価 行数 評言 上田岳弘 39歳 全 □ 18 「同じ作家の過去の作品に比して過剰性が抑えられており、少し淋しく思ったものの、旧約聖書神話を根幹に据えつつ、人類の営為の虚しさとそれへの愛惜を、仮想通貨や小説内SF小説などを織り込みつつ描いた一篇に高い完成度があるのを自分は認めた。」 町屋良平 35歳 全 □ 16 「プロボクサーの日常を徹底して描くことが過剰さを生んで、読者に言葉が迫ってくる。」「同じ作者の前作「しき」ではやや甘さが目立ったが、これは作者の個性なのであって、今回の作品では、ストイックにトレーニングを重ねる主人公を描くなかで、「甘さ」がうまく生かされた。」 鴻池留衣 31歳 全 △ 19 「過剰性ということでは、（引用者中略・注：候補作のなかで）一番ともいえて、自分は一定の評価をした。ウィキペディアの体裁をとる構成や、「僕」と表記されるかたり手が「僕」という名前の人物だったりと、魅力的なアイデアがいくつもある。が、残念なことに、それらがあまり生かされない。」 砂川文次 28歳 全 ■ 12 「描かれる細部は、的確ではあるけれど、どこか既視感を免れず、展開される思弁は文学臭が強すぎて、リアルなものの手触りを削いでしまった感がある。」 高山羽根子 43歳 全 ■ 20 「リアリズムの文体で描かれた世界に僅かずつ「ずれ」を持ち込み異化効果を生み出す技法は、古典的なものではあるが、うまく使われて、不思議に魅力ある一篇となって結実している。が、どんなスタイルであれ、小説なるものが呼び込むべき「過剰さ」がなく、そこが物足りないと感じた。」 古市憲寿 34歳 全 ■ 12 「安楽死法が成立した平成日本という「並行世界」が描かれ、それがどれだけの批評性を持ちうるかがポイントになるが、その評価は自分にはむずかしかった。」   「今回は最初の投票で、受賞作となった二作に票が集まり、とくに強い反対もなく、すんなりと選考は進んだ。」

他の選考委員 高樹のぶ子 小川洋子 島田雅彦 吉田修一 山田詠美 宮本輝 川上弘美 堀江敏幸

宮本輝71歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題空想力と構想力　総行数89　（1行=13字） 候補 評価 行数 評言 上田岳弘 39歳 全 □ 11 「ビットコインやバベルの塔や小説中小説や「駄目な飛行機」といった玩具（引用者中略）が必要不可欠なつながりを持って有機的に作用している。作家としての技術的成長を感じて、私は授賞に賛成した。」 町屋良平 35歳 全 △ 11 「プロボクサーとしてはたぶん今後多くは望めないであろう青年の（引用者中略）ストイックさ、過酷さをひたむきに書きつづけて最後まで読ませる。」「今後の可能性を感じて授賞に反対しなかった。」 鴻池留衣 31歳 全 ■ 6 「途中までは読物としておもしろかったが、真ん中あたりからまったくのエンターテインメントと化した。」 砂川文次 28歳 全 △ 11 「私は惹かれた。」「ただ読後の感想は、これまでの傭兵物と変わりがないというのが難で票は少なかった。」 高山羽根子 43歳 全 ○ 39 「「居た場所」を推したが、どこか推し切れないものを抱いていた。」「主人公の妻は、おそらく中国からさほど遠くない小さな島に生まれて、少女時代にベトナムあたりに働きに行ったのであろう。いまは廃墟となったその町を訪ねていくのだが、廃墟をさまよっているうちに自分が住んでいた部屋をみつける。そこで起こる奇妙な出来事がいったい何の暗喩なのかが、私にはどうしてもわからなかった。」「読者の想像力にゆだねるにしても、これでは不親切過ぎる。」 古市憲寿 34歳 全 ● 4 「今風なものを今風に書いて一丁上がりとしたかに感じてしまう。」   「近未来的な作品ありファンタジックな作品あり、シリアスな作品ありで、今回は多彩な候補作が集まった。若い作家がそれぞれの世界を持ち始めた証であるなら、それは喜ばしい現象である。」

他の選考委員 高樹のぶ子 小川洋子 島田雅彦 吉田修一 山田詠美 奥泉光 川上弘美 堀江敏幸

川上弘美60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題想像する　総行数82　（1行=13字） 候補 評価 行数 評言 上田岳弘 39歳 全 ○ 18 「この物語に適した言葉の選びかた、物語のはこび、細部の描きかた、読者の驚かせかた、などがとても優れていて、小説としての強度を感じます。」 町屋良平 35歳 全 ◎ 8 「小説の中に書かれていない登場人物たちの会話を、行動を、行った場所を、食べたものを、あざやかに想像しながら読みました。もうそれだけで、いい小説だといえるのではないでしょうか。一番に推しました。」 鴻池留衣 31歳 全 ■ 13 「いくつかの大変にセンスいいアイディアのある作品です。ただ、遠近法がどこか狂っている感じがするのです。」 砂川文次 28歳 全 ■ 13 「銃を持ち戦う、という営為の質感が、中途半端にしか表現されていないと感じたのですが、それはおそらく作者の「思い」が、少しばかり不用意に生の言葉で語られてしまったからなのではないでしょうか。」 高山羽根子 43歳 全 ■ 10 「たくさんのとてもいいとっかかりがありました。なのに、それらが放置されてしまっている。辿りつきそうで、辿りつけなかった場所を思うもどかしさがありました。」 古市憲寿 34歳 全 ■ 20 「平成くんが、わたしはけっこう好きでした。」「けれど、二度めに読んだ時には、実は平成くんに、もうあまり興味が持てなくなっていたのです。もしかするとそのあたりが、小説としての弱さなのかもしれない。」

他の選考委員 高樹のぶ子 小川洋子 島田雅彦 吉田修一 山田詠美 奥泉光 宮本輝 堀江敏幸

堀江敏幸55歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題規定と自由　総行数83　（1行=13字） 候補 評価 行数 評言 上田岳弘 39歳 全 △ 13 「無から何かを掘り出す仮想通貨で言葉をつくる無謀さすら、未完の塔のなかで完結させてしまう力業だ。ただし、書くという営為と結ばれる「駄目な飛行機」たちの事例を、参照文献からもっと遠くに飛翔させ、過剰に再編集していたら、言葉の貨物室としての荷室は、さらに重量を増しただろう。」 町屋良平 35歳 全 ○ 19 「規定要素の安易な並びがなかった。冴えないボクサーである「ぼく」の語りは、負けた「試合の記憶とビデオの自分の動きとの符号と差異」を、また、ありえたかもしれない結果を幾度も想い描きながら、安楽に負けたいという気持ちを徐々に封じて、厳しい減量に耐える。」「自身を借り物ではない「駄目な飛行機」にしたうえでその先を見ようとする「ぼく」の倫理に、信頼を寄せたい。」 鴻池留衣 31歳 全 ■ 14 「ここで必要なのは、辻褄合わせの小説的な記述ではなく、他者による頻繁な削除と編集を前にした、書き手自身の怯えではないか。」 砂川文次 28歳 全 ■ 10 「人はなにをしても悪魔を生み出すとの自省が、ときに訓辞のように響いて、冒頭に吹いていた、肌をかすめる乾いたあの風を減じていくのが惜しい。」 高山羽根子 43歳 全 △ 14 「異郷の島で生まれ、日本人と結婚した女性が、かつて一人暮らしをしていた土地を訪ねる。」「「居た場所」ではなく「居る場所」の茫漠さこそ本作の魅力なのだが、それを十分に表現するには、もう少し「規定」の強化が必要かもしれない。」 古市憲寿 34歳 全 ■ 13 「感じられたのは、（引用者中略・注：フィギュアスケートの）「規定」があった昭和時代の匂いである。安と楽と死を組めば、安楽死ができるのかどうか。これは創作全般に関わる問題だろう。」

他の選考委員 高樹のぶ子 小川洋子 島田雅彦 吉田修一 山田詠美 奥泉光 宮本輝 川上弘美

上田岳弘39歳×各選考委員　 「ニムロッド」 中篇 201枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高樹のぶ子 72歳 全 ○ 28 「最終章でこの作品は飛翔する。ビットコインからも、それを採掘するらしいサーバーからも、都会的な男女関係からも離陸して、言葉の翼だけになる。この翼は絶望と諦念を燃料に、まるで人類の希望と見まがうばかりに、強く美しく飛行する。」 小川洋子 56歳 全 ■ 13 「ページを閉じた時、コンピュータのスイッチが切れたように、手触りも残さないまま“僕”は消えてしまった。無から無を生むシステムの中でしか生きられない人間の哀しさを、もっと混沌とした状態で感じ取りたかった。」 島田雅彦 57歳 全 ○ 20 「小説家志望の男、ビットコインを「発掘」する男、飛行機開発の夢と挫折のエピソードが、バベルの塔の建設やイカロスの失墜といった神話的元型の現代的変奏となっている。」「ただNAVERまとめに依拠している部分が多過ぎるのは手抜き。」 吉田修一 50歳 全 ◎ 29 「地上から塔の頂上へと、軽々と読者を運んでいく垂直の跳躍力こそがこの作家最大の魅力であると思う。今回はその跳躍力と、ダメな飛行機というコミカルなメタファが奇跡的な相乗効果を生み、稀に見る完成度の高い小説となっている。」 山田詠美 59歳 全 ◎ 20 「ここには小説のおもしろさすべてが詰っている。それらしい表現などひとつも使っていないのに、何故だろう、すごくエロティックな空気に作品全体が包まれているように感じた。」「（引用者注：「1R1分34秒」と共に）推した。」 奥泉光 62歳 全 □ 18 「同じ作家の過去の作品に比して過剰性が抑えられており、少し淋しく思ったものの、旧約聖書神話を根幹に据えつつ、人類の営為の虚しさとそれへの愛惜を、仮想通貨や小説内SF小説などを織り込みつつ描いた一篇に高い完成度があるのを自分は認めた。」 宮本輝 71歳 全 □ 11 「ビットコインやバベルの塔や小説中小説や「駄目な飛行機」といった玩具（引用者中略）が必要不可欠なつながりを持って有機的に作用している。作家としての技術的成長を感じて、私は授賞に賛成した。」 川上弘美 60歳 全 ○ 18 「この物語に適した言葉の選びかた、物語のはこび、細部の描きかた、読者の驚かせかた、などがとても優れていて、小説としての強度を感じます。」 堀江敏幸 55歳 全 △ 13 「無から何かを掘り出す仮想通貨で言葉をつくる無謀さすら、未完の塔のなかで完結させてしまう力業だ。ただし、書くという営為と結ばれる「駄目な飛行機」たちの事例を、参照文献からもっと遠くに飛翔させ、過剰に再編集していたら、言葉の貨物室としての荷室は、さらに重量を増しただろう。」

他の候補作 町屋良平 「1R1分34秒」 鴻池留衣 「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」 砂川文次 「戦場のレビヤタン」 高山羽根子 「居た場所」 古市憲寿 「平成くん、さようなら」

町屋良平35歳×各選考委員　 「1R1分34秒」 中篇 177枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高樹のぶ子 72歳 全 △ 12 「見えざる世界を相手に、自らの身体を追い詰めることで自己発見し武装する、というのは古今東西、変わらぬ若者の姿なのだろう。」「身体に限定された繰り返しの表現が、遮二無二に繰り出されるパンチを想起させる。確信的に、書きたいことだけを書いている。」 小川洋子 56歳 全 △ 16 「彼（引用者注：主人公）が初めてウメキチとトレーニングするシーンの、肉体を通した緻密な会話は忘れがたい。頭脳から遠く離れた場所で、体は圧倒的な美を表現する。言葉の届かないところにこそ書かれるべきものがある、という真実を証明している。」 島田雅彦 57歳 全 ○ 11 「安部公房の短編『時の崖』を思わせる試合中のボクサーの意識の流れが圧巻である。」「技術論と友情のブレンド比も絶妙で、主人公とウメキチのホモ・ソーシャル関係に胸キュンとなる読者も多かろう。」 吉田修一 50歳 全 ○ 28 「平坦な道を歩いていると、ふと詩の欠片が落ちていたような驚きがある。それも仰々しいアフォリズムではない。普段私たちが使い捨てる言葉が、この作者にかかると、小さな花になる。そしてこの花は、実際の花と同様、自分が花だと気づいていないから尚、美しい。」 山田詠美 59歳 全 ◎ 18 「文章全体から、この作者、そして登場人物たちの「引くに引けない感じ」が漂って来て胸にせまる。途中、いくつもしびれるフレーズが出て来て、思わず拍手したくなった。」「（引用者注：「ニムロッド」と共に）推した。」 奥泉光 62歳 全 □ 16 「プロボクサーの日常を徹底して描くことが過剰さを生んで、読者に言葉が迫ってくる。」「同じ作者の前作「しき」ではやや甘さが目立ったが、これは作者の個性なのであって、今回の作品では、ストイックにトレーニングを重ねる主人公を描くなかで、「甘さ」がうまく生かされた。」 宮本輝 71歳 全 △ 11 「プロボクサーとしてはたぶん今後多くは望めないであろう青年の（引用者中略）ストイックさ、過酷さをひたむきに書きつづけて最後まで読ませる。」「今後の可能性を感じて授賞に反対しなかった。」 川上弘美 60歳 全 ◎ 8 「小説の中に書かれていない登場人物たちの会話を、行動を、行った場所を、食べたものを、あざやかに想像しながら読みました。もうそれだけで、いい小説だといえるのではないでしょうか。一番に推しました。」 堀江敏幸 55歳 全 ○ 19 「規定要素の安易な並びがなかった。冴えないボクサーである「ぼく」の語りは、負けた「試合の記憶とビデオの自分の動きとの符号と差異」を、また、ありえたかもしれない結果を幾度も想い描きながら、安楽に負けたいという気持ちを徐々に封じて、厳しい減量に耐える。」「自身を借り物ではない「駄目な飛行機」にしたうえでその先を見ようとする「ぼく」の倫理に、信頼を寄せたい。」

他の候補作 上田岳弘 「ニムロッド」 鴻池留衣 「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」 砂川文次 「戦場のレビヤタン」 高山羽根子 「居た場所」 古市憲寿 「平成くん、さようなら」

鴻池留衣31歳×各選考委員　 「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」 中篇 227枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高樹のぶ子 72歳 全 ― 0   小川洋子 56歳 全 ■ 10 「仕掛けは興味深かった。ただそれが、小説の面白さに広がってゆかず、アイデアの域に留まっていたのが残念だ。」 島田雅彦 57歳 全 ● 13 「全編、ウィキペディアの記述という体裁を抜きに読んだら、人気バンドのクロニクルがメリハリのない文章で綴られているだけという印象の方が強かった。」 吉田修一 50歳 全 ● 13 「八十年代に活躍した架空のロックバンドのパクリバンドをやっているという設定は魅力的だが、あまりに文章が粗雑。」 山田詠美 59歳 全 ■ 13 「壮大なようでいて、結構せこいこの話。もっとおもしろくなる余地はいくらでもある。途中、スラップスティックの様相を呈して来たあたりから、アイディア倒れになってしまった。」 奥泉光 62歳 全 △ 19 「過剰性ということでは、（引用者中略・注：候補作のなかで）一番ともいえて、自分は一定の評価をした。ウィキペディアの体裁をとる構成や、「僕」と表記されるかたり手が「僕」という名前の人物だったりと、魅力的なアイデアがいくつもある。が、残念なことに、それらがあまり生かされない。」 宮本輝 71歳 全 ■ 6 「途中までは読物としておもしろかったが、真ん中あたりからまったくのエンターテインメントと化した。」 川上弘美 60歳 全 ■ 13 「いくつかの大変にセンスいいアイディアのある作品です。ただ、遠近法がどこか狂っている感じがするのです。」 堀江敏幸 55歳 全 ■ 14 「ここで必要なのは、辻褄合わせの小説的な記述ではなく、他者による頻繁な削除と編集を前にした、書き手自身の怯えではないか。」

他の候補作 上田岳弘 「ニムロッド」 町屋良平 「1R1分34秒」 砂川文次 「戦場のレビヤタン」 高山羽根子 「居た場所」 古市憲寿 「平成くん、さようなら」

砂川文次28歳×各選考委員　 「戦場のレビヤタン」 短篇 116枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高樹のぶ子 72歳 全 ● 11 「現場のディテールがあるだけに、その中に在る死が観念的に空回りしている。観念ではない死を実感させるには、何か生の輝きが必要なのかも知れない。たとえば「ゲルニカ」の中の一輪の花。」 小川洋子 56歳 全 ■ 12 「最も印象的だったのは、恐怖のあまり鉄塔に魅入られた新入りが、戦車へ近づいてゆく場面だ。」「頭の中で出来事を組み立て直し、意味を見出そうとするのではなく、ただありのままを描写する、という緊張に耐えることが、言葉の威力を引き出すには必要だと思う。」 島田雅彦 57歳 全 ● 13 「生の充実を求め、微温的な日本を脱するというかつてのバックパッカー、あるいは戦場カメラマンの苛立ちが反復されているような既視感を抱いてしまった。」 吉田修一 50歳 全 ■ 20 「この作者のデビュー作「市街戦」を文學界新人賞に推した一人なのだが、今作はいただけない。」「ある程度の体験や資料から一定のリアリティはあるものの、逆に（引用者注：デビュー作に比べて）小説的リアリティからは遠ざかってしまった。」 山田詠美 59歳 全 ■ 13 「石油精製施設周辺の埃っぽい感じがよく伝って来て上手い。でも、それは、小説の上手さとは別物のような気がする。ところどころに大仰な一文が見得を切るように表われる。」 奥泉光 62歳 全 ■ 12 「描かれる細部は、的確ではあるけれど、どこか既視感を免れず、展開される思弁は文学臭が強すぎて、リアルなものの手触りを削いでしまった感がある。」 宮本輝 71歳 全 △ 11 「私は惹かれた。」「ただ読後の感想は、これまでの傭兵物と変わりがないというのが難で票は少なかった。」 川上弘美 60歳 全 ■ 13 「銃を持ち戦う、という営為の質感が、中途半端にしか表現されていないと感じたのですが、それはおそらく作者の「思い」が、少しばかり不用意に生の言葉で語られてしまったからなのではないでしょうか。」 堀江敏幸 55歳 全 ■ 10 「人はなにをしても悪魔を生み出すとの自省が、ときに訓辞のように響いて、冒頭に吹いていた、肌をかすめる乾いたあの風を減じていくのが惜しい。」

他の候補作 上田岳弘 「ニムロッド」 町屋良平 「1R1分34秒」 鴻池留衣 「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」 高山羽根子 「居た場所」 古市憲寿 「平成くん、さようなら」

高山羽根子43歳×各選考委員　 「居た場所」 短篇 147枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高樹のぶ子 72歳 全 ■ 14 「透明感のある風を感じさせる。」「ＳＦ的な楽しさがあるが、壺の中の奇妙な水とか、タッタというイタチのような生きものとか、思わせぶりなまま放置されたものを、もう少し回収して欲しかった。」 小川洋子 56歳 全 ◎ 20 「三作に絞られたあとの二回めの投票で、私は『居た場所』に丸をつけた。」「あらゆるエピソードがつながりを切断された状態で放置される中、唯一、タッタだけが小説の底に一続きの足音を響かせている。」「言葉が消え、暗がりの中に毛の手触りだけが取り残されるラストは、空虚でありながら独自の妖しさを放っていた。」 島田雅彦 57歳 全 △ 13 「風景や場所を異化するインスタレーションを畳み掛け、読者の意表を突く。外国人の眼差しに映る日本はそういうものかも知れない。」 吉田修一 50歳 全 □ 21 「これを一種の変身譚として読めば、最終的に主人公が人間から妖怪や魔物に変身するのではなく、ベトナム人と思われる主人公が普通に帰化申請して日本人に変身しただけという着地点がたいそう斬新で面白く、となると、今作に漂う不気味さや警戒心、また不信感などがそのまま現代日本の深層意識として読めなくもない。佳品。」 山田詠美 59歳 全 △ 11 「女の居た場所に男が追い付き、二人の場所が重なり合い、そして、またずれて……そうやって微生物さながらに発酵して行く関係が何ともいじらしい。」「もう少し、背景の事情説明が欲しかった。」 奥泉光 62歳 全 ■ 20 「リアリズムの文体で描かれた世界に僅かずつ「ずれ」を持ち込み異化効果を生み出す技法は、古典的なものではあるが、うまく使われて、不思議に魅力ある一篇となって結実している。が、どんなスタイルであれ、小説なるものが呼び込むべき「過剰さ」がなく、そこが物足りないと感じた。」 宮本輝 71歳 全 ○ 39 「「居た場所」を推したが、どこか推し切れないものを抱いていた。」「主人公の妻は、おそらく中国からさほど遠くない小さな島に生まれて、少女時代にベトナムあたりに働きに行ったのであろう。いまは廃墟となったその町を訪ねていくのだが、廃墟をさまよっているうちに自分が住んでいた部屋をみつける。そこで起こる奇妙な出来事がいったい何の暗喩なのかが、私にはどうしてもわからなかった。」「読者の想像力にゆだねるにしても、これでは不親切過ぎる。」 川上弘美 60歳 全 ■ 10 「たくさんのとてもいいとっかかりがありました。なのに、それらが放置されてしまっている。辿りつきそうで、辿りつけなかった場所を思うもどかしさがありました。」 堀江敏幸 55歳 全 △ 14 「異郷の島で生まれ、日本人と結婚した女性が、かつて一人暮らしをしていた土地を訪ねる。」「「居た場所」ではなく「居る場所」の茫漠さこそ本作の魅力なのだが、それを十分に表現するには、もう少し「規定」の強化が必要かもしれない。」

他の候補作 上田岳弘 「ニムロッド」 町屋良平 「1R1分34秒」 鴻池留衣 「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」 砂川文次 「戦場のレビヤタン」 古市憲寿 「平成くん、さようなら」

古市憲寿34歳×各選考委員　 「平成くん、さようなら」 中篇 239枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 高樹のぶ子 72歳 全 ● 9 「客観的には恵まれている男がなぜ安楽死を希うか、に読者の興味は向かう。安易な理由（難病）でなく、死を望むほどの説得力ある苦悩が描かれていれば、それはそのまま現代社会への批評になっただろう。」 小川洋子 56歳 全 ● 15 「無邪気なほどに幼い死生観に取りつかれている平成くんの魅力が、十分に伝わってこなかったのは、安楽死が合法化された日本社会の描き方に、否応なく読者を引きずり込むだけの力がなかったからだろう。」 島田雅彦 57歳 全 ● 16 「「死にたい」といって、他者の同情や注目を集める「時代の寵児」の自分至上主義を突き放す批評やヒューモアが欠如しており、結果的に三人称で書かれた自分史ポルノの域を出ていない。」 吉田修一 50歳 全 ● 16 「書かれていることの隅から隅まで最新・最先端なのに、どこにも新しさを感じないという不思議な小説で、作家としてはナルシズムをもっとコントロールすべきだし、文学としては人間を描いて時代を浮かび上がらせるべきであって、時代のために人間を使うのは危険だと思う。」 山田詠美 59歳 全 ● 24 「死をこのような形で取り上げるのなら、もっと徹底的に軽々しく扱って欲しかった。」「この作者は、発表の翌朝、ＴＶのワイドショーで、「純文学にはうじうじする主人公が多いけど、自分の作品は自己肯定だから駄目だった」というような落選の弁を述べていたが、これまたマジですか？　自己肯定ではなく自己過信の間違いではないのか。」 奥泉光 62歳 全 ■ 12 「安楽死法が成立した平成日本という「並行世界」が描かれ、それがどれだけの批評性を持ちうるかがポイントになるが、その評価は自分にはむずかしかった。」 宮本輝 71歳 全 ● 4 「今風なものを今風に書いて一丁上がりとしたかに感じてしまう。」 川上弘美 60歳 全 ■ 20 「平成くんが、わたしはけっこう好きでした。」「けれど、二度めに読んだ時には、実は平成くんに、もうあまり興味が持てなくなっていたのです。もしかするとそのあたりが、小説としての弱さなのかもしれない。」 堀江敏幸 55歳 全 ■ 13 「感じられたのは、（引用者中略・注：フィギュアスケートの）「規定」があった昭和時代の匂いである。安と楽と死を組めば、安楽死ができるのかどうか。これは創作全般に関わる問題だろう。」

他の候補作 上田岳弘 「ニムロッド」 町屋良平 「1R1分34秒」 鴻池留衣 「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」 砂川文次 「戦場のレビヤタン」 高山羽根子 「居た場所」