選評の概要
137. 138. 139. 140.141. 142. 143. 144. 145.
146. 147. 148. 149. 150.
151. 152. 153. 154. 155.
156. 157. 158. 159. 160.
161. 162. 163. 164. 165.
166. 167. 168. 169. 170.
171.
生没年月日【注】 | 昭和33年/1958年4月1日~ | |
在任期間 | 第137回~(通算17.5年・35回) | |
在任年齢 | 49歳3ヶ月~ | |
経歴 | 東京都生まれ。お茶の水女子大学理学部生物学科卒。大学在学中にSF小説を発表。中学・高校教員を務めたのち結婚。平成6年/1994年、再デビューを果たす。 | |
受賞歴・候補歴 |
|
|
サブサイトリンク | ||
芥川賞候補歴 | 第113回候補 「婆」(『中央公論文芸特集』平成7年/1995年夏季号[6月]) 第115回受賞 「蛇を踏む」(『文學界』平成8年/1996年3月号) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 川上弘美 49歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
37歳 |
◎ | 13 | 「(引用者注:「主題歌」と共に)切実さがあると私は思った。」「実は多くの人がかかえる、「生きて言葉を使って人と関係を持たねばならぬということ」の覚束なさを、ていねいに表現している。」「私は(引用者注:「アサッテの人」と「主題歌」の)両作品を推した。」 | |
柴崎友香 | 33歳 |
◎ | 12 | 「(引用者注:「アサッテの人」と共に)切実さがあると私は思った。」「「普通」の「楽しい」生活の中にある、明るいような昏いような不思議な空虚さが、痛切に描かれていると思う。」「私は(引用者注:「アサッテの人」と「主題歌」の)両作品を推した。」 |
「初めて臨んだ芥川賞の候補作六作は、いずれも私にとっては読みごたえがあるものだった。みんな面白かったです。まる。そう言っておしまいにしたいのだけれど、そうはゆかない。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』平成19年/2007年9月号 |
選考委員 川上弘美 50歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
30歳 |
○ | 16 | 「揺れていない。「このように書こう」として、ちゃんと「このように書いている」。」「どんなことを書こうという時も、ごまかさず最後まで詰めて考え、書き表しているから、だと思います。」「わたしは「女の庭」と「ポトスライムの舟」を、少しずつ推しました。」 | |
鹿島田真希 | 32歳 |
○ | 12 | 「語り手が、ときどき利口になってしまっていて、せっかくの気持ち悪い揺れが、正しい揺れになってしまう。魅力的な小説を書く作者だと思います。」「わたしは「女の庭」と「ポトスライムの舟」を、少しずつ推しました。」 |
選評出典:『文藝春秋』平成21年/2009年3月号 |
選考委員 川上弘美 51歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
44歳 |
◎ | 23 | 「自分の記憶を、もしも巻き戻して見ようとするならば、このような状態になるのかもしれないと、読んでいる間じゅう思っていました。」「「物語」を作りあげるという利便に与しないこの作者の書いた「物語」を、いつか読んでみたいものだと思いました。」「(引用者注:「まずいスープ」と共に)最終的に推しました。」 | |
戌井昭人 | 37歳 |
◎ | 13 | 「こまかで具体的な事々の書きぶり、すなわち選ぶ言葉やリズムが、とても好きでした。好き、の先に、さらに手ごわい何ものかがあればと、惜しみます。」「(引用者注:「終の住処」と共に)最終的に推しました。」 |
選評出典:『文藝春秋』平成21年/2009年9月号 |
選考委員 川上弘美 52歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
鹿島田真希 | 33歳 |
◎ | 16 | 「わたしは一番に推しました。」「古代現代訳調の文体が、「女」という身体と精神を持つことのあれこれ、についての語りに、客観性を与えているのだと思います。考えて書いている。そしてまた、考えすぎないで、書いている。両方なのが、いいのです。今まで見たことのない驚きが、生まれ得ていると思いました。」 |
35歳 |
□ | 23 | 「全体にただよう諧謔が、とても好きです。」「アイデンティティーを否定しなければアンネが生きてゆけなかった、という(引用者中略)その苦しみと、「乙女」であることについての主人公のアイデンティファイのしかたのつながりにかんしては、わたしはほんの少しの危惧を感じました。「乙女」という言葉だけで、「乙女性」を表現しているから、ではないでしょうか。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成22年/2010年9月号 |
選考委員 川上弘美 52歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
田中慎弥 | 38歳 |
◎ | 39 | 「この作品ではじめて、作者は語ろうとしていることと視座との幸福な一致を得たのではないかと、読みながら思いました。」「三回、わたしはこの小説を読みました。読むたびに、好きになりました。最初に読んだ時には素通りしてしまった魅力的な言葉、表現が、読むたびにあらわれるのです。この作品を、わたしは一番に力をこめて推しました。」 |
43歳 |
△ | 8 | 「すでに自分の「型」を見つけています。その「型」を、どのように磨いてゆくのか。または壊してゆくのか。読者を裏切ることを恐れずに、これから先も何かをこころみて下さることを、期待します。」 | |
26歳 |
■ | 23 | 「読む快楽を十分に感じながら読みつつ、わたしはいくつかの表現に首をかしげました。(引用者中略)この小説のように、一つ一つの言葉の粒だちによって何かを表現しようとする場合には、「意匠としての言葉のゆらぎ」にあらざる「単なる表現の揺れ」は、ごくオーソドックスな小説よりも遥かに大きな疵となってしまうのではないかと思うのです。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成23年/2011年3月号 |
選考委員 川上弘美 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
75歳 |
○ | 19 | 「この家庭に入りこんでくるいやらしい女に対して、あまりに元々の家の住み手が無批判すぎません? などと思う自分は、卑俗なのかなあと不安になったりもしつつ、やはりここにある日本語はほんとうに美しいなあと、うっとりしたことでした。」「(引用者注:「獅子渡り鼻」とともに)○をつけました。」 | |
小野正嗣 | 42歳 |
○ | 44 | 「作中に書かれている「大きな力」。これはつまり、自然そのものであると、わたしは解釈しました。本作は、自然そのものの不思議を描こうとした作品なのではないでしょうか。」「(引用者注:「abさんご」とともに)○をつけました。」 |
選評出典:『文藝春秋』平成25年/2013年3月号 |
選考委員 川上弘美 56歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
40歳 |
◎ | 24 | 「(引用者注:「どろにやいと」「メタモルフォシス」と共に)それぞれに香るものがありました。」「不穏さが満ちていて、その不穏さはこの作者の作品にはいつもたゆたっていたものではありますが、たくらみを凝らした見せよう、というものを作者が試してみたことが面白いと思ったのです。」「(引用者注:「メタモルフォシス」と共に)推しました。」 | |
羽田圭介 | 28歳 |
◎ | 18 | 「(引用者注:「春の庭」「どろにやいと」と共に)それぞれに香るものがありました。」「実直な描きように、気持ちが明るみました。」「主人公サトウの心の内が、一歩一歩、素朴なほどにていねいに描かれていました。」「(引用者注:「春の庭」と共に)推しました。」 |
選評出典:『文藝春秋』平成26年/2014年9月号 |
選考委員 川上弘美 56歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
44歳 |
◎ | 38 | 「作者には、書きたいことがある。そしてきっと、伝えたい相手もいる。その切実さを感じました。」「小説というかたちで差し出したからこそ、作者の書いたことは伝わったのだと思います。それでこそ、小説を書く甲斐があるというものではないでしょうか。」「第一に推し(引用者中略)ました。」 | |
高橋弘希 | 35歳 |
○ | 15 | 「読みながら、うまいなあ、と思いました。」「戦争のことを書いているのに、戦争のことを書いてあることが、読んでいる途中から意識されなくなったからです。でも、そこにこそ、危うさがあるようにも思うのです。この作品にある「かなしみ」を表現するにあたって、「戦争」は本当に必要だったのか。」「次点に(引用者中略)推しました。」 |
選評出典:『文藝春秋』平成27年/2015年3月号 |
選考委員 川上弘美 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
36歳 |
◎ | 11 | 「おそろしくて、可笑しくて、可愛くて(選評で「可愛い」という言葉を初めて使いました)、大胆で、緻密。圧倒的でした。」「(引用者注:「美しい距離」と共に)強く推しました。」 | |
山崎ナオコーラ | 37歳 |
◎ | 18 | 「一見巷にあふれているものの名前を使った小説に見えて、実は多くの新しい名づけがなされている小説なのだと、わたしは読みました。」「それから、作中の人たちのことを思って、すこし泣きました。」「(引用者注:「コンビニ人間」と共に)強く推しました。」 |
「何年か選考をしてきて、少しわかったことがあります。いい小説は、今まで誰も気づかなかった何かに、名前を与えてくれている、ということです。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』平成28年/2016年9月号 |
選考委員 川上弘美 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
今村夏子 | 37歳 |
◎ | 10 | 「作者は、誰も教えることのできない、「どう書けばその小説を小説たらしめることができるのか」ということを、すでによく知っている。第一に、推しました。」 |
38歳 |
□ | 22 | 「作者は、小説を読む時の快楽をわかっている、と感じました。なぜなら、この小説の中には、その快楽がたしかにあるからです。」「この作者は、どのくらい意識して書いているのだろう。たぶん、大いに意識しているのではないか。苦しいことです。その苦しさに、どのくらい耐えられるのかを、次の小説まで待ってから見てもいいのではないかと思い、今回わたしはこの作品を第一には推さず、次点としました。」 | |
「小説の、細部にいつも興味があります。」「描かれている細部だけではなく、描かれていない細部のことまでも想像してしまうようになった時には、すなわちその小説にすっかり引きこまれている、という法則が、わたしにはあります。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』平成29年/2017年9月号 |
選考委員 川上弘美 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
松尾スズキ | 55歳 |
◎ | 19 | 「斎藤聖にやられて、目がくらんで、ともかくこの作品に○をつけました。選考委員みんながそうだと思っていたら、そうではなくて、びっくりしました。」「読んだあと、ともかくわたしはへんなところへ連れてゆかれてしまったのです。作中のスイスやフランスではなく、もっとずっとへんなところでした。小説を読むよろこびは、これだ。そう感じたのでした。」 |
38歳 |
■ | 22 | 「怖い小説です。怖いけれど、自分にひきつけて考えられる物語でもあるところがすばらしい。ただ、読後わたしは、どこにも行けないような気がしてしまったのです。」「ここまで大きくなってきた作者の高橋さんには、次の作品で、ぜひどこかに連れていってもらいたい……。いやいや、こんな頼みはもちろん気にしないでいいのですよ。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成30年/2018年9月号 |
選考委員 川上弘美 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
千葉雅也 | 41歳 |
○ | 18 | 「今回の五作の中で、わたしが一番心ひかれた作品です。読みながら、いろいろなことを考えました。考えはそこにとどまらず、連想が広がり、その時には小説をお休みして、自分の連想の中をただよいました。」「わたし自身にとっては、いちばん心地よい「読書」の体験をすることができたのです。」 |
31歳 |
■ | 16 | 「小説の中の時間と空間を広げてゆこうという作者の試みが感じられたのは確かなのですが、それがうまくいっていたかどうかは、微妙なところでした。ゆらぎ、たゆたい、おぼろとなってゆく小説世界の中で、いつの間にか時間や空間がゆがんだり行ったり来たりする作者独特の手法を広げようとしたことは、大いに買いたいと思います。」 | |
選評出典:『文藝春秋』令和2年/2020年3月号 |
選考委員 川上弘美 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
砂川文次 | 30歳 |
◎ | 37 | 「今回の作品の中でわたしにとって一番無謀なことに挑もうとしているのは、砂川文次さんでした。」「作者は、ただ描写しているのです。突然の理不尽がふりかかった時、人はどのように苦しみ怒り耐え放心しそれでも生きつづけるかを示すために。「新型コロナ禍」という言葉は影も出てこないこの小説を読みながら、わたしは「今この時」について何回連想させられ何回考えさせられたことでしょう。一番に推そうと思い、選考の場に臨みました。」 |
21歳 |
△ | 9 | 「必要にして充分な描写の力、」「(引用者注:「母影」「コンジュジ」と共に)どれも見るべきものが多くありました。みんな、うまいのです、ほんとうに。」 | |
「小説家たちは、「今この時」のことを書く。」「誰にも正確に測ることのできないことを書く。それはとても無謀なことであり、難しいことであり、不安なことに違いありません。そこに挑んでいる同時代の小説家たちを、わたしは尊敬します。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』令和3年/2021年3月号 |
選考委員 川上弘美 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
千葉雅也 | 42歳 |
◎ | 23 | 「読みながら、「なんとこの作家は正直に書こうとしているのだろう」と、感銘を受けました。」「「正直」に書くためには、方法が必要です。その方法とは、自分で自分の「声」をつくりだし、その「声」に責任をもつことです。自分の声なんだから、声を出し切らなきゃ、と言いかえてもいいかもしれません。一番に推しました。」 |
31歳 |
△ | 15 | 「なんといっても、〈ニホン語〉の造形がすばらしかった。」「作者が自身の内をしっかりと見つめなければできなかった造形でしょう。ただ、島と外部との関係を説明する時に使われた「声」は、作者だけの声ではなかったのではないか。惜しかったです。」 | |
41歳 |
■ | 12 | 「せっかくの作者自身の「声」があまりスムーズに発声されていないように、わたしには感じられてしまいました。」「元から自身の中にすでに存在していた「よそからの声」を、「よそから」の形のままに借りてしまったのではないか。」 | |
「小説を読んでいる時に、「この作家は正直に書いている」と感じることが、ときどきあります。」「けれどいったい、「小説における正直」さの定義とは何なのか。」「読者であるわたしが、その作家の「正直」さを、どうやって判断しうるのか。できるわけがないのです、実際のところ。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』令和3年/2021年9月号 |
選考委員 川上弘美 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
31歳 |
◎ | 53 | 「(引用者注:「我が友、スミス」と共に)○をつけました。」「わたしはとても胸苦しく読みました。」「胸苦しいのは、その文章の表現する意味が胸苦しいからではなく、たとえば若冲の絵を見ている時に胸苦しさを感じるのにも似た理由に因るものなのだと思うのです。過剰に細密なものを見たとき、わたしたちは讃嘆すると同時に、苦しくもなるのではないでしょうか。」 | |
石田夏穂 | 30歳 |
◎ | 21 | 「(引用者注:「ブラックボックス」と共に)○をつけました。」「何回笑いくずれたことでしょう。皮肉に笑わされることもあれば、文章の余白に笑わされることもあれば、言葉の置き方の緩急に笑わされることもありました。この作者の、自身の小説に対する客観性が素晴らしいからだと思います。」 |
選評出典:『文藝春秋』令和4年/2022年3月号 |
選考委員 川上弘美 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
34歳 |
○ | 41 | 「(引用者注:「N/A」と共に)○をつけました。」「わたしは読みながら、芦川と二谷に心を奪われてしまった。押尾も、もちろん好き。周囲のほかの同僚たちも面白い。やがてかれら全員が、簡単にはほぐれない一つの球体をなして、どんどん輝きを放ってくる。」「作られた人たちのはずなのに、作者の手をずいぶん離れて、作者も思っていなかった行動を、かれらはしていったのではないでしょうか。」 | |
年森瑛 | 27歳 |
○ | 20 | 「(引用者注:「おいしいごはんが食べられますように」と共に)○をつけました。」「ある規格におさめられてしまうことを拒否している語り手、という存在は、多くの小説にあらわれてきましたが、この小説の語り手は、言葉の表層だけではなく、そこに本当に存在している人間としての実感をこめて、何かを拒否しているように感じられたのです。語り手が、作者のたくらみを表現するだけの道具にはとどまらず、自立している。」 |
選評出典:『文藝春秋』令和4年/2022年9月号 |
選考委員 川上弘美 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
43歳 |
◎ | 23 | 「客観性ある描きよう、幾重にもおりたたまれているけれど確実に存在するユーモア、たくみな娯楽性。小説、というものの勘どころを、知悉している作者だと思いました。一番に推しました。」 | |
乗代雄介 | 37歳 |
◎ | 22 | 「作者は、いつも「小説を書く」ことをたいへんに意識しているように感じられます。その意識が、今回の作品の中では、書かれていることとなめらかに溶けあっており、読んでいてなんと楽しい時間だったことか。」「(引用者注:「ハンチバック」と共に)強く推しました。」 |
「今まで知らなかったことを読むと、それで救われたりなぐさめられたりは必ずしもしないけれど、「ああ、まだ世界には自分の知らない空間があるのだから、行きづまっている今の自分にも、きっと楽に息ができる空間があるのではないか」と、思えるのです。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』令和5年/2023年9月号 |