選評の概要
94. 95.96. 97. 98. 99. 100.
101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113. 114. 115.
116. 117. 118. 119. 120.
121. 122. 123. 124.
生没年月日【注】 | 昭和3年/1928年1月25日~平成13年/2001年4月14日 | |
在任期間 | 第94回~第124回(通算15.5年・31回) | |
在任年齢 | 57歳11ヶ月~72歳11ヶ月 | |
経歴 | 旧名義=塩野俊彦。東京市浅草区生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒。山川方夫らと第二次・第三次『三田文学』に参加。 | |
受賞歴・候補歴 |
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芥川賞候補歴 | 第46回候補 「解禁」(『新潮』昭和36年/1961年8月号) 第47回候補 「睡蓮」(『文學界』昭和37年/1962年5月号) 第48回候補 「奢りの春」(『文學界』昭和37年/1962年12月号) 第61回受賞 「深い河」(『新潮』昭和44年/1969年6月号) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 田久保英夫 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
新井満 | 40歳 |
◎ | 15 | 「今回の候補作品を読んでいて、「苺」に出あった時、ほっとした。」「人の生命は、知らぬまに纜をとかれた帆船のようなものだ。(引用者中略)これはその白い帆に当る見えない大きな力を、風の気配や鐘の音など、小説的な点景のなかに表現している。」「吉行氏の影響が色濃く、シオランの言葉やワイエスの絵にやや依存しすぎている。しかし、私はからくも賞の水準をクリアしたと思ったし、比較の上では最高点をえたが、残念ながら、ほかの委員の方々の賛同をえられなかった。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和62年/1987年3月号) |
選考委員 田久保英夫 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
42歳 |
○ | 16 | 「十七歳の娘の眼を通した筆致と意図がうまく融け合って、自然のうちに血縁という不思議な〈煮鍋〉の光景を現出している。」「不気味さもあり、ユーモアもある。祖母と娘が風呂に入る情景、「心中」した二本の杉が髪のように葉をからみ合わせる描写など、まことに鮮かだ。」「ただ全体に文章がゆるみ気味で、最後に理に落ちそうな危険はあるが、今後この女流がどんな特異な世界を展開してくれるか、たのしみである。」 | |
新井満 | 41歳 |
○ | 15 | 「(引用者注:「鍋の中」が受賞するなら)同時授賞でいい、と私は思った。しかし、この作品は前回の「苺」ほど、すっきりと仕上っていない。」「しかし、この作者には日常のなかで不可視なもの、耳に聴えぬものながら、人間の生活の源泉を支えるものへの鋭敏な感受性と、それを小説に表現しようとする力業があり、それを認めたいと思う。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和62年/1987年9月号) |
選考委員 田久保英夫 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
大岡玲 | 30歳 |
◎ | 6 | 「最も新鮮な魅力を感じた。」「文章は荒いが、作者にはテーゼから反措定へと働く徹底した内的な運動力があり、都市や海中を描く感性もゆたかだ。私はこういう作こそ、百回目の冒険に、と推したが、ほとんど賛同は得られなかった。」 |
37歳 |
○ | 12 | 「私は何より癌を病む米国人宣教師マイクと、主人公の父親松吉との交流に惹かれた。」「カリフォルニアの留学から戻った農家の娘や、看護士をつとめる主人公の妻の死の経緯など、いくつか描き方に隙間があるが、私はこの作者の生と死を貫く垂直な視線に、一票を入れた。」 | |
33歳 |
■ | 11 | 「異国間の血と文化の問題を、言葉の「音(ルビ:おん)」と息づきからとらえた感覚はまことに鮮かだ。」「この主題は政治の局面ぬきで、全民族の視野を含めて描くべきではないか、という疑問が残る。また由煕と「私」は、作者という一人の存在の分身の趣きがつよく、その結果、意図が鮮明に、露骨に出るわりに、人物の肉づけは薄い。」 | |
「八編の候補作はボリュームたっぷりの力編が多く、容易に優劣がつけにくかった。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成1年/1989年3月号) |
選考委員 田久保英夫 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
大岡玲 | 30歳 |
○ | 15 | 「とくに注目した。」「私は一票をいれた。前作の荒っぽいなかに見えた思考の生動力、イメージの鮮鋭さは、この作にもあり、文章はなお柔軟になっている。」「現代の〈寺〉と〈広告〉という背反したものの間に、虚点のように身をおき、行動する〈ぼく〉、それは大乗的な理念の肉づけされた運動さながら興味深いが、しかし後半、廃棄物処理場や反対運動と背景が拡がるにつれ、虚構が浮き出し、「御前」や「ぼく」の肉づけが薄くなった。」 |
「今回はかなり票が割れた。それが時間のかかった理由の一つだろう。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成1年/1989年9月号) |
選考委員 田久保英夫 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
31歳 |
○ | 14 | 「私は(引用者中略)結局大岡氏と荻野さんの作品に絞った。」「コンピューターやサブリミナルテープを通して、徹底した知能犯的な意識で、裏側から人間支配を企む男を、その観察者・同伴者の友人の眼で追っている。」「これは現代生活に潜む切実な主題でもあって、それに執拗にとりくむ力業に、私は注目した。」 | |
荻野アンナ | 33歳 |
○ | 13 | 「私は(引用者中略)結局大岡氏と荻野さんの作品に絞った。」「かなりの才筆だが、何よりこの作品の魅力は、フランス人の男と旅行する情景のような女性らしい濃い感覚と、果敢な言葉の駆動力だろう。」 |
50歳 |
□ | 10 | 「軽やかで抑えた筆が血縁や人間のかかわりの陰影を捉えている。もう一歩内へ踏みこめば、その造型が毀れかねない手前で、支えているのが巧い。またこの自然な巧さが、今後の不安でもある。」 | |
「今回の候補作は、全体に質が揃っていた。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成2年/1990年3月号) |
選考委員 田久保英夫 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
44歳 |
◎ | 16 | 「陶淵明の〈桃源郷〉を思わせる土地と、主人公の郷里岐阜の揖斐川に近い山村を重ねたところが、独創的だ。」「この作品のよさは、(引用者中略)現実の様相の下にも、千年以上も前から人が夢み、求めた桃源郷のような異空間が、たえず働きかけてくることに、眼を注いでいる点だ。」「後半ストーリーの展開に追われ、やや長すぎるとは思うが、私はこの作者の果敢な表現への執心にひかれた。」 | |
小川洋子 | 28歳 |
○ | 20 | 「作中では彼ら(引用者注:K君と、一緒に暮す女)が死んでいるとは、ひと言も書いてない。」「これはおそらく作者の意図でもあり、悪くないのだが、しかし、この世界と異界を二重露出するには、何かもう一手、技術的な配慮がいる。」「とは言っても、(引用者中略)作者のこれまで一貫して追ってきた主題(引用者中略)が最もいい形で表現されている。私は「村の名前」と同時受賞と、考えていた」 |
「今回はほとんどの作品が、密度の濃い論議を呼んだ。それだけ一長一短、力が籠っていたのだろう。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成2年/1990年9月号) |
選考委員 田久保英夫 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
石黒達昌 | 32歳 |
◎ | 23 | 「スリリングなのは、明寺がハネネズミは「永遠に近い寿命を持つが、生殖と死が同時」など、さまざまな仮説を立て、それを検証していく経過だ。」「ここにはハネネズミの死滅が、外からの感染症なのか、内からの生態系なのか、という問いがあって、冒頭の明寺と榊原の「急逝」という言葉に、現代文明の恐怖に通じるメッセージも、潜んでいるように思われる。人物写真の挿入など、作者のプレイのしすぎもあるが、私はこれを推した。」 |
37歳 |
■ | 5 | 「候補四回目の実績や能力が、認められたといえよう。」「今度の作品は、言葉の過剰な使い方、何人も殺し殺される話のつくりすぎ、反面で中心の殺人事件の曖昧さなど、私にはうけ入れかねた。」 | |
「今回はいろいろな面で、小さなメスの刃さきを、受け手の私自身つきつけられるような思いがした。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成6年/1994年3月号) |
選考委員 田久保英夫 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
中村邦生 | 48歳 |
○ | 27 | 「私は(引用者中略)眼をひかれた。」「都会で、さまざまな他人と関わりつつ暮す人間として、こういう生の逆説的な対処法(引用者注:「決断」より、誠実に「その場しのぎ」をする)を認めるか認めないかは、興味深い主題だ。」「全体にインテリ臭い意識の屈折の出すぎるのが欠点だ。それが作品の狙いを見えにくくしてしまう。けれども私は、現代小説にこうした独特な静かな音律のような語り口があっていい、と思い、あえて一票を投じたが、残念ながら多くの支持を得られなかった。」 |
「今回はひさびさに「なし」の結果が出たが、最後まで二作(引用者注:「ドッグ・ウォーカー」「光の形象」)が問題となった。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成7年/1995年3月号) |
選考委員 田久保英夫 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
中村邦生 | 49歳 |
◎ | 12 | 「私は(引用者中略)推した。」「森の闇の中に、視覚、聴覚、触覚を、独特の鋭敏さで具体的に働かせている。」「ただ、前の候補作もそうだが、どこか作の根底に、知的に処理された弱さがある。せっかく森に踏みこんだのなら、もっと主要な人間から野性的な力づよい生命感や蘇生感が漲ってもいい、と思う。」 |
48歳 |
■ | 23 | 「いかにも沖縄らしい太陽と海の光を感じる。」「しかし、私は「豚の報い」には幾つか抵抗があって、(引用者中略)票を投じえなかった。」「ラストで主人公が父の骨を前にして、ここに自分の御嶽を造ろう、ときめるのは、無理に思えた。」「最初から白骨を検証せず、父ときめてしまうのも不自然に思えた。」「全体に現実の重力より、作者の目ざす方向に話が走りすぎる欠点を感じる。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成8年/1996年3月号) |
選考委員 田久保英夫 68歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
38歳 |
○ | 18 | 「殊に注目した。」「昔からの道成寺縁起や秋成の「蛇性の婬」、あるいは現代の作品さえ思い起し、使い古されたような抵抗感を覚えた。しかし、この筆力は相当なもので、しだいにその抵抗を乗りこえさせ、色濃く関係や想念を展開して、私はときに立ちどまり、ときにひと息に読んだ。」「私は最終的に、「天安門」とこれと二作に票を入れた。」 | |
リービ英雄 | 45歳 |
○ | 20 | 「殊に注目した。」「成育する国も言語も、三つに分裂し、自己同一の場を求める内的なつよい欲求が、ここから感得できる。」「ただ、(引用者中略)中国語、英語、日本語とさまざまにくり返され、かえってイメージが抽象的に錯綜して、訴求力を弱めている。」「私は最終的に、「天安門」と(引用者中略・注:「蛇を踏む」と)二作に票を入れた。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成8年/1996年9月号) |
選考委員 田久保英夫 71歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
松浦寿輝 | 45歳 |
◎ | 20 | 「四十半ばの病後の男を設定しながら、作者の生命の水位は高いと感じた。」「ここでは眼の前に現象する世界と、他界との微妙なあわいが、粘りづよい筆致で捉えられている。」「これはネガティブな作品のようだが、実はこの生の世界の短さ小ささに反して、背後の見えない世界の遥かな大きさを感じさせるという意味で、先鋭な作品だ。私はこの一作を推した。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成11年/1999年9月号) |