第72回

第71回第73回

昭和49年/1974年下半期 昭和50年/1975年1月16日決定発表／『文藝春秋』昭和50年/1975年3月号選評掲載

選考委員　 丹羽文雄 70歳 吉行淳之介 50歳 大岡昇平 65歳 井上靖 67歳 永井龍男 70歳 瀧井孝作 80歳 中村光夫 63歳 舟橋聖一 70歳 安岡章太郎 54歳 選評総行数　 23 28 18 20 16 27 25 40 31 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 阪田寛夫　「土の器」 122枚 49歳 評 ○ 10 □ 13 ― 0 ○ 9 ◎ 7 ○ 8 □ 5 △ 11 ○ 16 日野啓三　「あの夕陽」 72枚 45歳 評 ◎ 12 ○ 7 ■ 4 ○ 7 □ 8 ○ 11 ○ 17 □ 6 ○ 17 三浦清宏　「赤い帆」 77枚 44歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 中上健次　「鳩どもの家」 110枚 28歳 評 △ 5 △ 2 ■ 2 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 ○ 5 ― 0 梅原稜子　「夏の家」 86枚 32歳 評 ― 0 △ 2 △ 2 △ 4 ― 0 ― 0 △ 3 ■ 6 ― 0 岡松和夫　「熊野」 60枚 43歳 評 ― 0 ■ 2 ○ 3 △ 5 △ 2 ■ 7 ― 0 △ 6 ― 0 山本孝夫　「胸の暗がり」 106枚 51歳 評 ― 0 △ 1 □ 4 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 6 ― 0     欠席 書面回答             年齢/枚数の説明   見方・注意点

丹羽文雄70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数23　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 阪田寛夫 49歳 全 ○ 10 「新人らしからぬ作品である。端正に出来上っている。」「「あの夕陽」はまちがっても直木賞にはなれないが、「土の器」は直木賞にも通用する。小説が上手すぎるのだろう。器用すぎる。吉行君が、この人は芥川賞にも直木賞にも通用するということに無神経になって書いていると評した。」 日野啓三 45歳 全 ◎ 12 「前作の「此岸の家」「浮ぶ部屋」にくらべて、一段と冴えている。小説家としての腹のすわりを感じさせる。」「正直にいって日野君がこれほどのものを早々に書ける人とは思っていなかった。」「大物になる素質を備えている。」 三浦清宏 44歳 全 ― 0   中上健次 28歳 全 △ 5 「この描写力はたのもしい。が、これだけでは常識の線を越えていないといわれても仕方がない。しかし作者はまだ若いようである。この描写力は是非大切にしてほしい。」 梅原稜子 32歳 全 ― 0   岡松和夫 43歳 全 ― 0   山本孝夫 51歳 全 ― 0

他の選考委員 吉行淳之介 大岡昇平 井上靖 永井龍男 瀧井孝作 中村光夫 舟橋聖一 安岡章太郎

吉行淳之介50歳×各候補作

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題妥当な受賞　総行数28　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 阪田寛夫 49歳 全 □ 13 「私は阪田・日野両氏の作品が他作品を数歩離しているとみていた」「瀧井さんが「ぬるい」とおっしゃったが、これはおもしろい表現の鋭い批評である。」「今度のものは、その「ぬるさ」がふんわりした品格のある良さになってきた、とおもった。芥川賞と直木賞の候補にときどきなって、最後に芥川賞を受賞した例は珍しいのではなかろうか。」 日野啓三 45歳 全 ○ 7 「私は阪田・日野両氏の作品が他作品を数歩離しているとみていた」「連作の一つともいえるわけで、（引用者中略）独立した短篇として鑑賞できにくい点があった。前作よりも良い、あるいは悪い、と意見が分れたが、当然の授賞とおもう。」 三浦清宏 44歳 全 ― 0   中上健次 28歳 全 △ 2 「まだ若いし筆力があるので、今後がたのしみである。」 梅原稜子 32歳 全 △ 2 「おわりの三ページがよかった。」 岡松和夫 43歳 全 ■ 2 「前作のほうがよかったので、今回はあまり論議されなかった。」 山本孝夫 51歳 全 △ 1 「おもしろく読んだ。」   「芥川賞の予想ほどアテにならないものはない。私自身についていえば、二十数年前、三回目の候補になったとき、「今回は安岡・吉行の二作授賞間違いなし」という予想がつたわってきた。私もその気になって、「間もなく賞金が入るから」と友人と飲み歩いたら、落選して借金に苦しんだ。」

他の選考委員 丹羽文雄 大岡昇平 井上靖 永井龍男 瀧井孝作 中村光夫 舟橋聖一 安岡章太郎

大岡昇平65歳×各候補作

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題岡松氏の「熊野」　総行数18　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 阪田寛夫 49歳 全 ― 0   日野啓三 45歳 全 ■ 4 「むずかしい主題に取組んでるが、やや混迷の気配が見えるので、作風に転換が見られてからでよい、と思った。」 三浦清宏 44歳 全 ― 0   中上健次 28歳 全 ■ 2 「筆力がある。ただし題材と構成がやや平凡。」 梅原稜子 32歳 全 △ 2 「未熟だが、女性の生き方と感覚に新味があると思った。」 岡松和夫 43歳 全 ○ 3 「無難な出来栄なので、（引用者注：同じく実績のある日野啓三ではなく）その方に一票を投じた。」 山本孝夫 51歳 全 □ 4 「現代の結核患者の悲哀を一応リアルに描き出している。」「他の委員の賛成があれば、これでもよいと思った。」   「全体としてあまりすぐれた作品がないように思ったが、二期該当作なしは適当でないので、これまでの実績を考慮した銓衡がいいように思われた。」

他の選考委員 丹羽文雄 吉行淳之介 井上靖 永井龍男 瀧井孝作 中村光夫 舟橋聖一 安岡章太郎

井上靖67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題佳作二篇　総行数20　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 阪田寛夫 49歳 全 ○ 9 「作家としてのでき上がっている眼が感じられる点で目立っていた。」「この小説の面白さは、作者の観察の正確さから出て来るもので、そういう意味では大人の小説である。」 日野啓三 45歳 全 ○ 7 「作家としてのでき上がっている眼が感じられる点で目立っていた。」「前回、前々回の候補作と較べると、題材が地味で、小説としては見せ場のない部分を取り扱っているが、それだけに、作者の力量はこの作品に於て、最もよく出ていると思った。」 三浦清宏 44歳 全 ― 0   中上健次 28歳 全 ― 0   梅原稜子 32歳 全 △ 4 「授賞作二篇のほかでは、（引用者中略）書ききれていないことが残念ではあるが、たいへん野心的な主題と組んだ（引用者中略）「夏の家」（引用者中略）を採る。」 岡松和夫 43歳 全 △ 5 「授賞作二篇のほかでは、多少小説になり過ぎてはいるが、戦争でねじ曲ってゆく一人の女の運命を、少年の眼を通して捉えている（引用者中略）「熊野」（引用者中略）を採る。」 山本孝夫 51歳 全 ― 0     「候補作七篇、それぞれに面白かった」

他の選考委員 丹羽文雄 吉行淳之介 大岡昇平 永井龍男 瀧井孝作 中村光夫 舟橋聖一 安岡章太郎

永井龍男70歳×各候補作

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題やりきれない暗さ　総行数16　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 阪田寛夫 49歳 全 ◎ 7 「今回ははっきり「土の器」と「あの夕陽」に絞られるのではないかと予想した。」「この作があって救われた。主人公への作者の愛情が、それを囲んだ一族の人物を描出するのに過不足なく役立ち、一老女の終焉がやわらか味のある物語として伝わってくる。」「一作ならば「土の器」を選ぶつもりであった。」 日野啓三 45歳 全 □ 8 「今回ははっきり「土の器」と「あの夕陽」に絞られるのではないかと予想した。」「冷え切った筆致は、この作者独自のもので、いささかの動揺もない。」「それにしても、この作者の連作の、読後におそってくるやりきれない暗さはなんであろう。」 三浦清宏 44歳 全 ― 0   中上健次 28歳 全 △ 2 「筆力を買い、これからの作者というべきか。」 梅原稜子 32歳 全 ― 0   岡松和夫 43歳 全 △ 2 「味の濃い作品である。それで損も得もあるが、損得はもちろん作者にとって問題ではあるまい。」 山本孝夫 51歳 全 ― 0

他の選考委員 丹羽文雄 吉行淳之介 大岡昇平 井上靖 瀧井孝作 中村光夫 舟橋聖一 安岡章太郎

瀧井孝作80歳×各候補作

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題凝視小説　総行数27　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 阪田寛夫 49歳 全 ○ 8 「読みごたえのある力作と見た。私はひきこまれて読んだが、わかりやすい文章は結構だが、しかし、一般向きで弱く平凡で、私は、この作家の目に、もっときびしさが見えてきて、もっと実感が出たら尚好きだが、この作家が自分の文体を確立したら、私は申分がないと思った。」 日野啓三 45歳 全 ○ 11 「前の連作、「此岸の家」と「浮ぶ部屋」と似通うが、前の二作よりも、これは筆に粘りが出て、線も太く、文章は強くなった、と私は見た。人物も部屋も風景もありありと目に映って好かった。」 三浦清宏 44歳 全 ― 0   中上健次 28歳 全 ― 0   梅原稜子 32歳 全 ― 0   岡松和夫 43歳 全 ■ 7 「素直な少年の目に映ったままを描いたもので、一応読ませるが、しかし、これは読物小説の域を出ないようだ。」「前回の候補作、「小蟹のいる村」の方がずっと好かった。」 山本孝夫 51歳 全 ― 0

他の選考委員 丹羽文雄 吉行淳之介 大岡昇平 井上靖 永井龍男 中村光夫 舟橋聖一 安岡章太郎

中村光夫63歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題対照的な二作　総行数25　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 阪田寛夫 49歳 全 □ 5 「ある特異な精神力を持つ老母の死という刺戟の強い題材を、過不足ない筆致で最後まで破綻なく描ききった中篇で、「あの夕陽」と正反対の作風であることが、或る安定感をあたえ、二作授賞は妥当と思われます。」 日野啓三 45歳 全 ○ 17 「一番すぐれていると思いましたが、これをすぐ当選作として推せるかというと、いろいろ疑問がのこりました。」「うまさの点では誰にもひけをとらぬ代りに、氏の作品には何か口のうますぎる人の打明け話をきかされているようなところがあって、主人公の心の動きに素直について行けません。」「ことによると氏の新しさかも知れませんが、いずれにせよ、氏の告白が文学作品として完成するのは、容易ならぬことでしょう。」 三浦清宏 44歳 全 ― 0   中上健次 28歳 全 ― 0   梅原稜子 32歳 全 △ 3 「稚拙なところが目立ちますが、現代の女性心理の一面がおのずからでているところに或る素質が感じられ、次作を期待させます。」 岡松和夫 43歳 全 ― 0   山本孝夫 51歳 全 ― 0

他の選考委員 丹羽文雄 吉行淳之介 大岡昇平 井上靖 永井龍男 瀧井孝作 舟橋聖一 安岡章太郎

舟橋聖一70歳×各候補作

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題「土の器」と「あの夕陽」　総行数40　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 阪田寛夫 49歳 全 △ 11 「きめこまかく丹念に書きこまれていて量感もある。」「ガンによる臨終は概ね長い。作者の作意ではなく、ありのままの写実である。ただ齢に不足のない老母の死は、所詮随筆的であって、ほんとうにロマネスクなのは、愛人との生と死の葛藤であろう。」 日野啓三 45歳 全 □ 6 「身辺的なこの作だけでは、評価しきれないものがある。芥川賞にそういう銓衡規定はないのであるが、前回及び前々回との三連作を通してみて、誰れもがこれを捨て切れなかった。」 三浦清宏 44歳 全 ― 0   中上健次 28歳 全 ○ 5 「思ったより、席上買われなかったが、私には面白かった。この作で授賞といかないまでも、将来性はある人と思う。戦後生れだというから、まだ先が長い。」 梅原稜子 32歳 全 ■ 6 「男との曖昧な性関係を、アンニュイな感じで手際よくまとめている。」「アパートの引越しなど日常的な身辺のことになると、筆が鈍くなる。」 岡松和夫 43歳 全 △ 6 「長すぎる。」「膠臭い人形職人もその情婦も、無気味に書けている。子供から見ているので底が浅くなる。」「医者の赤ん坊を、博多の川へ投げ込むところで終りにしたら、好短篇になったかもしれないのに……。」 山本孝夫 51歳 全 ■ 6 「ユーモラスな書きっ振りだが、何もかも都合よく出来すぎている。」「九州の病院から見知越の二人の看護婦が来るあたりでまとめられないこともあるまいのに、その後が蛇足であった。」

他の選考委員 丹羽文雄 吉行淳之介 大岡昇平 井上靖 永井龍男 瀧井孝作 中村光夫 安岡章太郎

安岡章太郎54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題日野、阪田の健闘　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 阪田寛夫 49歳 全 ○ 16 「二作（引用者注：「土の器」と「あの夕陽」）が最も優れていると思った。」「私の最も感銘し、かつ同感したのは、「怪我の話とか、大手術中に麻酔がきれて構わず讃美歌をうたった話とか、肉体の痛みを素材にした話」が、じつに「泥絵風の呪力ではなくて、逆に痛みだけが抽き出されて物質化されてくるという感じ」に、主人公が聞いていていい気持になるというあたりだ。」 日野啓三 45歳 全 ○ 17 「二作（引用者注：「土の器」と「あの夕陽」）が最も優れていると思った。」「（引用者注：「此岸の家」「浮ぶ部屋」を含め）主題は一貫して、失われた“殖民地”の故郷をどう取戻すかであるが、主人公がそこに何を託しているかといえば、自身の“自我”というようなものであろう。」 三浦清宏 44歳 全 ― 0   中上健次 28歳 全 ― 0   梅原稜子 32歳 全 ― 0   岡松和夫 43歳 全 ― 0   山本孝夫 51歳 全 ― 0

他の選考委員 丹羽文雄 吉行淳之介 大岡昇平 井上靖 永井龍男 瀧井孝作 中村光夫 舟橋聖一

阪田寛夫49歳×各選考委員　 「土の器」 短篇 122枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 70歳 全 ○ 10 「新人らしからぬ作品である。端正に出来上っている。」「「あの夕陽」はまちがっても直木賞にはなれないが、「土の器」は直木賞にも通用する。小説が上手すぎるのだろう。器用すぎる。吉行君が、この人は芥川賞にも直木賞にも通用するということに無神経になって書いていると評した。」 吉行淳之介 50歳 全 □ 13 「私は阪田・日野両氏の作品が他作品を数歩離しているとみていた」「瀧井さんが「ぬるい」とおっしゃったが、これはおもしろい表現の鋭い批評である。」「今度のものは、その「ぬるさ」がふんわりした品格のある良さになってきた、とおもった。芥川賞と直木賞の候補にときどきなって、最後に芥川賞を受賞した例は珍しいのではなかろうか。」 大岡昇平 65歳 全 ― 0   井上靖 67歳 全 ○ 9 「作家としてのでき上がっている眼が感じられる点で目立っていた。」「この小説の面白さは、作者の観察の正確さから出て来るもので、そういう意味では大人の小説である。」 永井龍男 70歳 全 ◎ 7 「今回ははっきり「土の器」と「あの夕陽」に絞られるのではないかと予想した。」「この作があって救われた。主人公への作者の愛情が、それを囲んだ一族の人物を描出するのに過不足なく役立ち、一老女の終焉がやわらか味のある物語として伝わってくる。」「一作ならば「土の器」を選ぶつもりであった。」 瀧井孝作 80歳 全 ○ 8 「読みごたえのある力作と見た。私はひきこまれて読んだが、わかりやすい文章は結構だが、しかし、一般向きで弱く平凡で、私は、この作家の目に、もっときびしさが見えてきて、もっと実感が出たら尚好きだが、この作家が自分の文体を確立したら、私は申分がないと思った。」 中村光夫 63歳 全 □ 5 「ある特異な精神力を持つ老母の死という刺戟の強い題材を、過不足ない筆致で最後まで破綻なく描ききった中篇で、「あの夕陽」と正反対の作風であることが、或る安定感をあたえ、二作授賞は妥当と思われます。」 舟橋聖一 70歳 全 △ 11 「きめこまかく丹念に書きこまれていて量感もある。」「ガンによる臨終は概ね長い。作者の作意ではなく、ありのままの写実である。ただ齢に不足のない老母の死は、所詮随筆的であって、ほんとうにロマネスクなのは、愛人との生と死の葛藤であろう。」 安岡章太郎 54歳 全 ○ 16 「二作（引用者注：「土の器」と「あの夕陽」）が最も優れていると思った。」「私の最も感銘し、かつ同感したのは、「怪我の話とか、大手術中に麻酔がきれて構わず讃美歌をうたった話とか、肉体の痛みを素材にした話」が、じつに「泥絵風の呪力ではなくて、逆に痛みだけが抽き出されて物質化されてくるという感じ」に、主人公が聞いていていい気持になるというあたりだ。」

他の候補作 日野啓三 「あの夕陽」 三浦清宏 「赤い帆」 中上健次 「鳩どもの家」 梅原稜子 「夏の家」 岡松和夫 「熊野」 山本孝夫 「胸の暗がり」

日野啓三45歳×各選考委員　 「あの夕陽」 短篇 72枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 70歳 全 ◎ 12 「前作の「此岸の家」「浮ぶ部屋」にくらべて、一段と冴えている。小説家としての腹のすわりを感じさせる。」「正直にいって日野君がこれほどのものを早々に書ける人とは思っていなかった。」「大物になる素質を備えている。」 吉行淳之介 50歳 全 ○ 7 「私は阪田・日野両氏の作品が他作品を数歩離しているとみていた」「連作の一つともいえるわけで、（引用者中略）独立した短篇として鑑賞できにくい点があった。前作よりも良い、あるいは悪い、と意見が分れたが、当然の授賞とおもう。」 大岡昇平 65歳 全 ■ 4 「むずかしい主題に取組んでるが、やや混迷の気配が見えるので、作風に転換が見られてからでよい、と思った。」 井上靖 67歳 全 ○ 7 「作家としてのでき上がっている眼が感じられる点で目立っていた。」「前回、前々回の候補作と較べると、題材が地味で、小説としては見せ場のない部分を取り扱っているが、それだけに、作者の力量はこの作品に於て、最もよく出ていると思った。」 永井龍男 70歳 全 □ 8 「今回ははっきり「土の器」と「あの夕陽」に絞られるのではないかと予想した。」「冷え切った筆致は、この作者独自のもので、いささかの動揺もない。」「それにしても、この作者の連作の、読後におそってくるやりきれない暗さはなんであろう。」 瀧井孝作 80歳 全 ○ 11 「前の連作、「此岸の家」と「浮ぶ部屋」と似通うが、前の二作よりも、これは筆に粘りが出て、線も太く、文章は強くなった、と私は見た。人物も部屋も風景もありありと目に映って好かった。」 中村光夫 63歳 全 ○ 17 「一番すぐれていると思いましたが、これをすぐ当選作として推せるかというと、いろいろ疑問がのこりました。」「うまさの点では誰にもひけをとらぬ代りに、氏の作品には何か口のうますぎる人の打明け話をきかされているようなところがあって、主人公の心の動きに素直について行けません。」「ことによると氏の新しさかも知れませんが、いずれにせよ、氏の告白が文学作品として完成するのは、容易ならぬことでしょう。」 舟橋聖一 70歳 全 □ 6 「身辺的なこの作だけでは、評価しきれないものがある。芥川賞にそういう銓衡規定はないのであるが、前回及び前々回との三連作を通してみて、誰れもがこれを捨て切れなかった。」 安岡章太郎 54歳 全 ○ 17 「二作（引用者注：「土の器」と「あの夕陽」）が最も優れていると思った。」「（引用者注：「此岸の家」「浮ぶ部屋」を含め）主題は一貫して、失われた“殖民地”の故郷をどう取戻すかであるが、主人公がそこに何を託しているかといえば、自身の“自我”というようなものであろう。」

他の候補作 阪田寛夫 「土の器」 三浦清宏 「赤い帆」 中上健次 「鳩どもの家」 梅原稜子 「夏の家」 岡松和夫 「熊野」 山本孝夫 「胸の暗がり」

三浦清宏44歳×各選考委員　 「赤い帆」 短篇 77枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 70歳 全 ― 0   吉行淳之介 50歳 全 ― 0   大岡昇平 65歳 全 ― 0   井上靖 67歳 全 ― 0   永井龍男 70歳 全 ― 0   瀧井孝作 80歳 全 ― 0   中村光夫 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 70歳 全 ― 0   安岡章太郎 54歳 全 ― 0	他の候補作 阪田寛夫 「土の器」 日野啓三 「あの夕陽」 中上健次 「鳩どもの家」 梅原稜子 「夏の家」 岡松和夫 「熊野」 山本孝夫 「胸の暗がり」

中上健次28歳×各選考委員　 「鳩どもの家」 短篇 110枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 70歳 全 △ 5 「この描写力はたのもしい。が、これだけでは常識の線を越えていないといわれても仕方がない。しかし作者はまだ若いようである。この描写力は是非大切にしてほしい。」 吉行淳之介 50歳 全 △ 2 「まだ若いし筆力があるので、今後がたのしみである。」 大岡昇平 65歳 全 ■ 2 「筆力がある。ただし題材と構成がやや平凡。」 井上靖 67歳 全 ― 0   永井龍男 70歳 全 △ 2 「筆力を買い、これからの作者というべきか。」 瀧井孝作 80歳 全 ― 0   中村光夫 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 70歳 全 ○ 5 「思ったより、席上買われなかったが、私には面白かった。この作で授賞といかないまでも、将来性はある人と思う。戦後生れだというから、まだ先が長い。」 安岡章太郎 54歳 全 ― 0	他の候補作 阪田寛夫 「土の器」 日野啓三 「あの夕陽」 三浦清宏 「赤い帆」 梅原稜子 「夏の家」 岡松和夫 「熊野」 山本孝夫 「胸の暗がり」

梅原稜子32歳×各選考委員　 「夏の家」 短篇 86枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 70歳 全 ― 0   吉行淳之介 50歳 全 △ 2 「おわりの三ページがよかった。」 大岡昇平 65歳 全 △ 2 「未熟だが、女性の生き方と感覚に新味があると思った。」 井上靖 67歳 全 △ 4 「授賞作二篇のほかでは、（引用者中略）書ききれていないことが残念ではあるが、たいへん野心的な主題と組んだ（引用者中略）「夏の家」（引用者中略）を採る。」 永井龍男 70歳 全 ― 0   瀧井孝作 80歳 全 ― 0   中村光夫 63歳 全 △ 3 「稚拙なところが目立ちますが、現代の女性心理の一面がおのずからでているところに或る素質が感じられ、次作を期待させます。」 舟橋聖一 70歳 全 ■ 6 「男との曖昧な性関係を、アンニュイな感じで手際よくまとめている。」「アパートの引越しなど日常的な身辺のことになると、筆が鈍くなる。」 安岡章太郎 54歳 全 ― 0

他の候補作 阪田寛夫 「土の器」 日野啓三 「あの夕陽」 三浦清宏 「赤い帆」 中上健次 「鳩どもの家」 岡松和夫 「熊野」 山本孝夫 「胸の暗がり」

岡松和夫43歳×各選考委員　 「熊野」 短篇 60枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 70歳 全 ― 0   吉行淳之介 50歳 全 ■ 2 「前作のほうがよかったので、今回はあまり論議されなかった。」 大岡昇平 65歳 全 ○ 3 「無難な出来栄なので、（引用者注：同じく実績のある日野啓三ではなく）その方に一票を投じた。」 井上靖 67歳 全 △ 5 「授賞作二篇のほかでは、多少小説になり過ぎてはいるが、戦争でねじ曲ってゆく一人の女の運命を、少年の眼を通して捉えている（引用者中略）「熊野」（引用者中略）を採る。」 永井龍男 70歳 全 △ 2 「味の濃い作品である。それで損も得もあるが、損得はもちろん作者にとって問題ではあるまい。」 瀧井孝作 80歳 全 ■ 7 「素直な少年の目に映ったままを描いたもので、一応読ませるが、しかし、これは読物小説の域を出ないようだ。」「前回の候補作、「小蟹のいる村」の方がずっと好かった。」 中村光夫 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 70歳 全 △ 6 「長すぎる。」「膠臭い人形職人もその情婦も、無気味に書けている。子供から見ているので底が浅くなる。」「医者の赤ん坊を、博多の川へ投げ込むところで終りにしたら、好短篇になったかもしれないのに……。」 安岡章太郎 54歳 全 ― 0

他の候補作 阪田寛夫 「土の器」 日野啓三 「あの夕陽」 三浦清宏 「赤い帆」 中上健次 「鳩どもの家」 梅原稜子 「夏の家」 山本孝夫 「胸の暗がり」

山本孝夫51歳×各選考委員　 「胸の暗がり」 短篇 106枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 70歳 全 ― 0   吉行淳之介 50歳 全 △ 1 「おもしろく読んだ。」 大岡昇平 65歳 全 □ 4 「現代の結核患者の悲哀を一応リアルに描き出している。」「他の委員の賛成があれば、これでもよいと思った。」 井上靖 67歳 全 ― 0   永井龍男 70歳 全 ― 0   瀧井孝作 80歳 全 ― 0   中村光夫 63歳 全 ― 0   舟橋聖一 70歳 全 ■ 6 「ユーモラスな書きっ振りだが、何もかも都合よく出来すぎている。」「九州の病院から見知越の二人の看護婦が来るあたりでまとめられないこともあるまいのに、その後が蛇足であった。」 安岡章太郎 54歳 全 ― 0	他の候補作 阪田寛夫 「土の器」 日野啓三 「あの夕陽」 三浦清宏 「赤い帆」 中上健次 「鳩どもの家」 梅原稜子 「夏の家」 岡松和夫 「熊野」