選評の概要
32. 33. 34. 35.36. 37. 38. 39. 40.
41. 42. 43. 44. 45.
46. 47. 48. 49. 50.
51. 52. 53. 54. 55.
56. 57. 58. 59. 60.
61. 62. 63. 64. 65.
66. 67. 68. 69. 70.
71. 72. 73. 74. 75.
76. 77. 78. 79. 80.
81. 82. 83. 84. 85.
86. 87. 88. 89.
生没年月日【注】 | 明治40年/1907年5月6日~平成3年/1991年1月29日 | |
在任期間 | 第32回~第89回(通算29年・58回) | |
在任年齢 | 47歳7ヶ月~76歳1ヶ月 | |
経歴 | 北海道上川郡旭川町(現・旭川市)生まれ、静岡県育ち。京都帝国大学文学部哲学科卒。毎日新聞大阪本社入社、学芸部員となる。昭和26年/1951年退社後、創作に専念。 | |
受賞歴・候補歴 |
|
|
サブサイトリンク | ||
個人全集 | 『井上靖小説全集』全32巻(昭和47年/1972年10月~昭和50年/1975年5月・新潮社刊) 『井上靖全集』全28巻・別巻(平成7年/1995年4月~平成12年/2000年4月・新潮社刊) |
|
芥川賞候補歴 | 第22回受賞 「闘牛」(『文學界』昭和24年/1949年12月号) 第22回候補 「猟銃」(『文學界』昭和24年/1949年10月号) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 井上靖 50歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
大江健三郎 | 22歳 |
◎ | 13 | 「(引用者注:「裸の王様」と共に)作風は対蹠的であるが、それぞれ特異な資質と芥川賞作品として推すにふさわしいある新しさを持っていた。」「「死者の奢り」に一票を投じた。」「本当の意味で小説の面白さというものは、(引用者注:「裸の王様」よりも)「死者の奢り」の方にあって、またその面白さの質や才能の質が上等ではないかと思ったからである。要するに私は大江氏の才能、資質の方をより珍重したわけである。」 |
27歳 |
□ | 15 | 「(引用者注:「死者の奢り」と共に)作風は対蹠的であるが、それぞれ特異な資質と芥川賞作品として推すにふさわしいある新しさを持っていた。」「当選にはいささかの不満もない。新風爽やかな独自の才能であることは衆目の見るところである。」 | |
「こんどは大江健三郎氏の「死者の奢り」と開高健氏の「裸の王様」の二作が際立って光っていたので、他の候補作品はみな影が薄く感じられた。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第五巻』昭和57年/1982年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和33年/1958年3月号) |
選考委員 井上靖 52歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
49歳 |
◎ | 11 | 「優れた作品の持っている響きのようなものが、絶えずこちらの心に伝わって来た。この作品には、人間の執念の悲しさや憤ろしさが、特異な構成とスタイルの中に捉えられてあって、心理の深部のあやめの解きほぐし方はなかなか鮮やかである。」 | |
古田芳生 | 39歳 |
○ | 4 | 「(引用者注:「解体以前」と共に)組織と人間の問題を追求した今日的作品であるが、この種の作品の中では共に力作であると思った。」「私は(引用者注:「解体以前」より)「三十六号室」の方をとった。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第六巻』昭和57年/1982年7月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和34年/1959年9月号) |
選考委員 井上靖 53歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
坂口䙥子 | 46歳 |
◎ | 13 | 「第一に推した。」「蕃人たちの原始的感情の美しさと、その悲劇的運命とを、手ぎわよく一枚の織物に編んだところに感心した。またところどころはっとするような感覚的に冴えた描写もあった。」 |
29歳 |
□ | 15 | 「清純な小説であり、これだけ汚れのない作品になると、却って新しくさえ見える。これが当選作たることにいささかも異存はないが、きびしく言えば非難するところのない作品としての物足りなさは、やはりあるようだ。」 | |
「どれも一応面白く読んだ。」「特に優れた作品もなかった替りに、ひどく見劣りする作品もなかった。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第六巻』昭和57年/1982年7月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和36年/1961年3月号) |
選考委員 井上靖 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
佐江衆一 | 27歳 |
○ | 4 | 「私は(引用者中略)上位に置いた。」「候補作の中で一番難しい主題と取組み、欠点も露わではあったが、一応フレッシュな感覚の作品となり得ていたからである。」 |
伊藤桂一 | 43歳 |
○ | 6 | 「私は(引用者中略)上位に置いた。」「随筆風の作品で小説としては弱いうらみはあったが、併し、端正な文章にも魅力があったし、三つの挿話のどれも、妙にあとまで印象に残るものを持っていた。」 |
「こんどの候補作は七篇ともそれぞれ面白く読んだ。」「銓衡の結果は幾つかに割れて、授賞作を決めることはできず、その点、今度の候補作家は不運だったと言わなければなるまい。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第六巻』昭和57年/1982年7月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和36年/1961年9月号) |
選考委員 井上靖 56歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
清水寥人 | 43歳 |
◎ | 11 | 「私は「機関士ナポレオンの退職」、「砧」、「感傷旅行」といった順位にしました。」「素朴なものが美しく出ている作品で、読後心が暖まるような感動を受けました。職場文学の臭みのないところもよく、人間もよく描けていると思います。ただ授賞作として強く押し出すだけの新しさのないことが残念でした。」 |
森泰三 | (42歳) |
○ | 12 | 「私は「機関士ナポレオンの退職」、「砧」、「感傷旅行」といった順位にしました。」「読物になってしまいそうなところを危く踏みこたえている作品で、文章も確りしていますし、書きにくい材料をよくこなしていて、作者の力倆は相当なものだと思います。作者は女主人公を最後に死なせていますが、これはかなり問題」 |
35歳 |
△ | 12 | 「私は「機関士ナポレオンの退職」、「砧」、「感傷旅行」といった順位にしました。」「作者の資質という点では、恐らく候補作家中で一番光っていると思いました。私はこの作品が未整理で、未完成であるという点で推すのを躊躇しましたが、あるいはそうしたところをこの作品の新しさと見るべきであるかも知れません。大成して戴きたいと思います。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第六巻』昭和57年/1982年7月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和39年/1964年3月号) |
選考委員 井上靖 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
黒部亨 | 36歳 |
◎ | 6 | 「私には面白かった。子供の世界を取り扱った作品であるが、そのまま大人の世界の諷刺にもなっていて、ただ一つの新風を感じさせられた作品であった。」「私はこの作品を推すつもりで委員会に出席した」 |
37歳 |
□ | 8 | 「前作「さい果て」に見たはっとするような冴えた箇処はなかった。併し、夫婦間の心理的機微を描いて、この作者はいささかの危気もない。」「芥川賞が何らかの形で新人の新風を求めるものだとすれば、その点多少物足りぬ気がしないでもないが、作家としての将来性には何の不安もない。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第七巻』昭和57年/1982年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和40年/1965年9月号) |
選考委員 井上靖 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
33歳 |
◎ | 9 | 「文章も確りしており、浮いたところや背のびしているところのないのがよかった。母の死の理由がはっきりしていないのはこの作の大きな欠点となっているが、そうした欠点を持ちながらもなお、作品のこころだけはこちらに迫って来るようなところがある。」「第一位に推したゆえんである。」 | |
なだいなだ | 36歳 |
○ | 10 | 「登場人物もそれぞれうまく書いており、手慣れた危げのない作風で、「北の河」と一二を争うものと思っていたが、意外に支持者は少かった。」「作者が主題から身を引いているところがこの作の力を弱めていることは事実であろう。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第七巻』昭和57年/1982年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和41年/1966年3月号) |
選考委員 井上靖 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
萩原葉子 | 45歳 |
◎ | 16 | 「この作品は、少くとも三好達治という詩人が本質的に持っていた純粋な面だけは逃さないで、ちゃんと描き出しているだろうと思った。小説としてはかなり欠点の指摘できる作品だが、それでもなお読後感にはこちらを揺すぶって来る強いものがあった。」「(引用者注:「天上の花」か「眼なき魚」かの)二作のうち一作をということになったら「天上の花」を、」 |
選評出典:『芥川賞全集 第七巻』昭和57年/1982年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和41年/1966年9月号) |
選考委員 井上靖 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
阪田寛夫 | 41歳 |
◎ | 5 | 「面白く読んだ。」「音楽好きの一家の音楽始末書とでもいったものを軽く諷刺的に描いた作品だが、なかなか気の利いたしゃれたものである。私はこの作品を一位に推した」 |
23歳 |
△ | 13 | 「一種爽快さの感じられる書き方である。作者が最年少であるにも拘らず、候補作の中では、この作品に一番腕の確かなものを感じた。」「このような題材は、本当はもっと他の取り扱い方をすべきものではなかったという、そういう思いが、読み終ったあとに残った。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第七巻』昭和57年/1982年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和42年/1967年3月号) |
選考委員 井上靖 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
34歳 |
○ | 11 | 「私には面白かった。」「一見古い書き方で、老軍人の生涯を丹念に綴っている。」「作者は意識してこうした手法を用いており、書かねばならぬことは全部拾い上げてしまっている。みごとである。」 | |
佐江衆一 | 34歳 |
○ | 13 | 「私には面白かった。」「なかなかいい短篇である。」「人生の截断面の切り方はなかなか鮮かだと思った。殊に主人公の妻の唐突な行動は、唐突ではあるが、はっとするようなものを持っている。」 |
丸谷才一 | 42歳 |
○ | 8 | 「私には面白かった。」「この作家は既に一家を成しており、他の候補作のような初々しさはないが、フィクションで、この書きにくい主題と取り組む力量は相当なものである。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第七巻』昭和57年/1982年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和43年/1968年3月号) |
選考委員 井上靖 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
花輪莞爾 | 35歳 |
◎ | 5 | 「一番面白かった。現代社会機構の怪奇さを諷刺した作品で、文章も、筋立ても相当なものである。久しぶりで神経の行き届いた知的な作品にぶつかった思いだったが、残念ながら当選作としての支持は得られなかった。」 |
金石範 | 44歳 |
○ | 9 | 「(引用者注:「渋面の祭」の)次に面白かった」「文章も達者であるし、ひたむきに一人の人間を描こうと食いさがっている作品である。直木賞向きの作品であるという見方もできるが、その直木賞的なところがなかなかいいと思った。」「文学する根源的なものが失われていない感じで、全篇を貫いている素朴さが却って新鮮に見えるから不思議である。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第八巻』昭和57年/1982年9月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和46年/1971年9月号) |
選考委員 井上靖 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
36歳 |
◎ | 17 | 「感深く読んだ。」「私はこんどの、多少これまでとは異った資質を感じさせる作品が一番いいと思った。気負ったところがなく、らくに自分のペースで仕事をしており、作品全体に鳴っているようなもののあるのが感じられる。」「最後の銓衡で、私は(引用者中略)推した。」 | |
後藤みな子 | 35歳 |
○ | 8 | 「感深く読んだ。」「長崎で原爆を受けた人たちの問題を正攻法で堂々と、しかも冷静正確な文章で描いている。すでに他の文学賞を受けているということもあって、銓衡においては最後まで残らなかったが、なみなみならぬ力作であることは否めない。」 |
33歳 |
△ | 9 | 「しゃれた新鮮な感じの作品として評価されたが、私にはよく判らなかった。」「一番の問題は、読んでいて絶えず心象が定着しないもどかしさと焦らだちを覚えることだった。」「しかし、才能ある新人ということで、この作家の授賞にいささかも異存はない。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第九巻』昭和57年/1982年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和47年/1972年3月号) |
選考委員 井上靖 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
39歳 |
○ | 11 | 「うまいという点では抜群であった。余分なことは何も書いていないし、筆も浮いたところはない。正面には押し出さないが、ヒューマンなものが底を流れているのも気持よかった。」「材料はいくらでも深刻になるが、それをこのように明るく、軽く描いたところは、この作者の才能であると見ていいと思った。」「(引用者注:「誰かが触った」「いつか汽笛を鳴らして」「仕かけのある静物」のうち)どれが授賞作であってもいいと思った。」 | |
37歳 |
○ | 7 | 「この作品から感じられるものは、才能というより、作者の坐り方のいちずな手がたさだ。地味だが、ひたむきに引張って読ませて行くところはみごとである。」「(引用者注:「誰かが触った」「いつか汽笛を鳴らして」「仕かけのある静物」のうち)どれが授賞作であってもいいと思った。」 | |
富岡多恵子 | 36歳 |
○ | 9 | 「作った小説であるし、作った小説としての新しさと面白さを持っている。」「(引用者注:「誰かが触った」「いつか汽笛を鳴らして」「仕かけのある静物」のうち)どれが授賞作であってもいいと思った。」「主題がもうひとつはっきり描けていないところが、この作品の弱味であったかも知れない。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第九巻』昭和57年/1982年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和47年/1972年9月号) |
選考委員 井上靖 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
36歳 |
○ | 9 | 「目立っていた。」「すがすがしく風の通っている作品で、ところどころ網膜にやきついてくるような鮮やかな場面もあって、作品の舞台になっている外地も、その外地に生きてゆく主人公の気持も生活も、よく描かれてあった。すっきりと仕上がっている。」 | |
富岡多恵子 | 37歳 |
○ | 8 | 「目立っていた。」「しゃれた作品である。」「上等に仕上がっている。こういう遊びの形で人間を描くことは難しいが、父親も、娘も、その心の触れ合いも、造花の中にちゃんと仕舞われている。達者だが、埃りはない。」 |
43歳 |
△ | 8 | 「作品に対する坐り方を変えてしまえば、これはこれで他の二作(引用者注:「ベティさんの庭」「窓の向うに動物が走る」)の持たぬ強さがあると言えよう。初心だけしか生み出せぬものが、多少もたれっぽく読む者の心に迫ってくる。私はこの作品は推さなかったが、推す人の推す理由は判らないではなかった。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第九巻』昭和57年/1982年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和48年/1973年3月号) |
選考委員 井上靖 70歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
高橋揆一郎 | 49歳 |
◎ | 8 | 「一番面白く、読みごたえのあるものであった。人間の業を取り扱っているが、最後までその主題にしぼって作り、構成し、書いているところはみごとだと思った。無知と貧しさと悲惨さの中にいる女主人公の、周囲の者に対するそれぞれの気持も、まあ過不足なく書けていると言っていい。」 |
29歳 |
□ | 3 | 「若さがよく出ている明快な作品で、好意を以て読んだ。」 | |
43歳 |
■ | 7 | 「私は、氏の場合、芥川賞によって推し出される必要もないであろうと思ったし、この作品に於ける限りは人間関係を一つのカンバスに嵌め込んだ新しい試みはあるにしても、読後、その試み以上のものは出ていないと思った。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十一巻』昭和57年/1982年12月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和52年/1977年9月号) |
選考委員 井上靖 70歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
中野孝次 | 53歳 |
◎ | 9 | 「上位に置いた。」「小説的配慮はなされていないが、それだけに少年の心と姿はよく描かれていて、刻みつけてゆくような多少強引な書き方の中に、ある迫力を感じた。」 |
30歳 |
○ | 6 | 「(引用者注:「鳥屋の日々」に次いで)上位に置いた。」「久しぶりの抒情小説といった感じで、実にうまい読みものである。読みものであっても、これだけ達者に書いてあれば、芥川賞作品として採りたくなる。」 | |
30歳 |
△ | 7 | 「これはこれで充分面白く読んだ。ただ、こうした土俗的世界を取り扱う場合、こうした世界を取り扱わざるを得ない作者の心の落款のようなものが捺されてなければならないが、それは感じられなかった。」 | |
「候補作八篇、それぞれ特色があって面白く読んだ」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十一巻』昭和57年/1982年12月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和53年/1978年3月号) |
選考委員 井上靖 71歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
中野孝次 | 53歳 |
○ | 8 | 「一番よみごたえがあった。しゃれたところなどなく、むしろ不器用に書いているが、とにかく戦時下の、私などの知らない一つの青春を、ひたむきに書こうとし、書ききっていると思う。」「(引用者注:「鑿(のみ)」と共に)候補作の七篇の中で、作者がどうしても書かなければならぬ主題と取り組んでいる」 |
30歳 |
□ | 7 | 「銓衡の席上で、誰かが青春を、青春の時点で書いていると言っていたと思うが、確かにそういう作品だと思う。汚れのないのびのびとした筆である。」 | |
50歳 |
□ | 7 | 「うまい作品である。一人の五十近い女を書こうとして、正面から組んでいる。前の「観音力疾走」の凄さはないが、それだけにうまくなっている。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十二巻』昭和58年/1983年1月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和53年/1978年9月号) |
選考委員 井上靖 71歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
増田みず子 | 30歳 |
○ | 5 | 「私の場合、一作を選ぶとなると、増田みず子「桜寮」ということになる。書けていないところも、多少押しつけがましいところもあるが、短篇の形で、何かを書こうとした、少くともそれを意識して筆を執った唯一つの作品と言えるかと思った。」 |
「候補作七篇、一応どれも面白く読んだが、特に優れていて、多数の人に読んで貰いたいという作品はなかった。芥川賞となると、何らかの意味で、これが今年の新人であると、強く押し出すだけのものがないと困る。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十二巻』昭和58年/1983年1月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和54年/1979年3月号) |
選考委員 井上靖 73歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
尾辻克彦 | 43歳 |
○ | 12 | 「一番面白かった。」「どことなく古ものめいた、つぎはり小説とでもいったような面白さがある。一見素朴を装っているが、なかなかしゃれたものである。しかし、最後の詰めは利いていないばかりか、決してうまいとは言えない。」 |
「候補作どれも一応面白く読んだが、特に傑出したものはなかった。どの作品にもいいところはあったが、どこかに困るところもあった。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十二巻』昭和58年/1983年1月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和55年/1980年9月号) |
選考委員 井上靖 73歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
43歳 |
◎ | 11 | 「(引用者注:「裸足」と共に)光っていた。」「何よりも作者の資質と才能を感じる。それも派手な眼につくものではないが、作者の身についている危気のないもの、信用していいものである。」「当選作としては軽いという批評もあるかも知れないが、その軽さがいいという見方もあるだろう。いずれにしても、これだけの資質なら、資質だけを推してもいいだろうと思う。」 | |
木崎さと子 | 41歳 |
○ | 8 | 「(引用者注:「父が消えた」と共に)光っていた。」「材料も面白いし、取り扱っている主題も面白いが、結局は書き切れず、ものあり気に終ってしまったのは惜しいと思う。しかし、それにも拘らず、ある新しさは感じられる。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十二巻』昭和58年/1983年1月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和56年/1981年3月号) |
選考委員 井上靖 75歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
南木佳士 | 30歳 |
○ | 6 | 「気持よく纏っているが、スケッチの域を出ないという評が出ると、それに対抗するだけのものは持っていなかった。」「スケッチであるにしても、作者の眼はすみずみまで行き届いており、短いタッチで書いているところにも、ある爽やかさがあった。」 |
「前回に続いて、こんどもまた芥川賞作品としておし出せる新鮮な力作を得られなかったことは残念である。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十二巻』昭和58年/1983年1月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和57年/1982年9月号) |