第67回

第66回第68回

昭和47年/1972年上半期 昭和47年/1972年7月19日決定発表／『文藝春秋』昭和47年/1972年9月号選評掲載

選考委員　 大岡昇平 63歳 井上靖 65歳 吉行淳之介 48歳 安岡章太郎 52歳 中村光夫 61歳 丹羽文雄 67歳 永井龍男 68歳 瀧井孝作 78歳 舟橋聖一 67歳 選評総行数　 41 25 27 31 30 23 17 34 50 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 宮原昭夫　「誰かが触った」 143枚 39歳 評 ◎ 25 ○ 11 ○ 16 ◎ 8 ○ 17 ○ 6 △ 9 △ 14 ○ 24 畑山博　「いつか汽笛を鳴らして」 153枚 37歳 評 □ 11 ○ 7 ○ 17 △ 7 △ 15 ○ 8 △ 8 □ 7 □ 10 山田智彦　「家を出る」 62枚 36歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 △ 4 ― 0 ■ 4 ― 0 ― 0 △ 4 津島佑子　「狐を孕む」 119枚 25歳 評 △ 4 ― 0 ― 0 △ 5 △ 3 △ 5 ― 0 ― 0 ― 0 森泰三　「冬へ」 82枚 (50歳) 評 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 3 △ 3 ― 0 ― 0 ― 0 △ 10 後藤みな子　「三本の釘の重さ」 98枚 35歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 鄭承博　「裸の捕虜」 99枚 48歳 評 △ 3 ― 0 ― 0 ■ 5 ― 0 ― 0 ― 0 △ 6 △ 6 富岡多恵子　「仕かけのある静物」 37枚 36歳 評 △ 4 ○ 9 ― 0 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 森内俊雄　「春の往復」 174枚 35歳 評 △ 3 ― 0 △ 3 ■ 4 ― 0 ― 0 ― 0 ○ 6 ― 0 中川芳郎　「島の光」 188枚 29歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

大岡昇平63歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

総行数41　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮原昭夫 39歳 全 ◎ 25 「最初から一番票が集った。私も票をつけた一人だが、一抹の不安はまたは不満はそのあまりにもうまく仕上げられていることだった。」「芥川賞の性格からいって、この作品の受賞は、日本のハンセン氏病対策の歴史の上で「いのちの初夜」「小島の春」に続く位置を占めるかも知れない。作者がこのように明るく問題を提出したことに、一つの芸術意志が感じられるのだが、問題の切実性が、芸術性をゆるがせた珍しい例となっていると思った。」 畑山博 37歳 全 □ 11 「在日朝鮮人というアクチュアルな問題を取扱っている。」「テーマの扱い方と叙述において、「誰かが触った」の斉一性に及ばないが、作者の姿勢に切実なものが感じられ、最後には同じくらいの票が集って来た。私は二作授賞に賛成した。」 山田智彦 36歳 全 ― 0   津島佑子 25歳 全 △ 4 「今期は題材的にも技法上にも特色のある作品が多かった。」「まだ形が整っていないが、いわゆる感覚ではなく、ものの考え方に新しさがあると思った。」 森泰三 (50歳) 全 ― 0   後藤みな子 35歳 全 ― 0   鄭承博 48歳 全 △ 3 「今期は題材的にも技法上にも特色のある作品が多かった。」 富岡多恵子 36歳 全 △ 4 「今期は題材的にも技法上にも特色のある作品が多かった。」 森内俊雄 35歳 全 △ 3 「今期は題材的にも技法上にも特色のある作品が多かった。」 中川芳郎 29歳 全 ― 0

他の選考委員 井上靖 吉行淳之介 安岡章太郎 中村光夫 丹羽文雄 永井龍男 瀧井孝作 舟橋聖一

井上靖65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

総行数25　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮原昭夫 39歳 全 ○ 11 「うまいという点では抜群であった。余分なことは何も書いていないし、筆も浮いたところはない。正面には押し出さないが、ヒューマンなものが底を流れているのも気持よかった。」「材料はいくらでも深刻になるが、それをこのように明るく、軽く描いたところは、この作者の才能であると見ていいと思った。」「（引用者注：「誰かが触った」「いつか汽笛を鳴らして」「仕かけのある静物」のうち）どれが授賞作であってもいいと思った。」 畑山博 37歳 全 ○ 7 「この作品から感じられるものは、才能というより、作者の坐り方のいちずな手がたさだ。地味だが、ひたむきに引張って読ませて行くところはみごとである。」「（引用者注：「誰かが触った」「いつか汽笛を鳴らして」「仕かけのある静物」のうち）どれが授賞作であってもいいと思った。」 山田智彦 36歳 全 ― 0   津島佑子 25歳 全 ― 0   森泰三 (50歳) 全 ― 0   後藤みな子 35歳 全 ― 0   鄭承博 48歳 全 ― 0   富岡多恵子 36歳 全 ○ 9 「作った小説であるし、作った小説としての新しさと面白さを持っている。」「（引用者注：「誰かが触った」「いつか汽笛を鳴らして」「仕かけのある静物」のうち）どれが授賞作であってもいいと思った。」「主題がもうひとつはっきり描けていないところが、この作品の弱味であったかも知れない。」 森内俊雄 35歳 全 ― 0   中川芳郎 29歳 全 ― 0

他の選考委員 大岡昇平 吉行淳之介 安岡章太郎 中村光夫 丹羽文雄 永井龍男 瀧井孝作 舟橋聖一

吉行淳之介48歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

総行数27　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮原昭夫 39歳 全 ○ 16 「巧みさの点では抜群だが、モチーフが弱いために、その巧みさが浮いた感じになるのが難とおもった。」「私はこの二作（引用者注：「誰かが触った」と「いつか汽笛を鳴らして」）に、一番良い点を入れておいた。」「宮原氏が、「文學界」新人賞を「石のニンフ達」で受賞したとき、私はたまたま委員をしていて一票を積極的投じた。」「以来、この賞の候補になるのが（引用者中略）四回目だそうで、力量のある作家に間違いない。」 畑山博 37歳 全 ○ 17 「主人公のマイナスの要素に焦点を当て（もちろん、そこにこの作品の眼目がある）、それがつぎつぎと現れてくるので、いささか食傷の気分になったが、これは力作のあまりのことであろう。」「私はこの二作（引用者注：「誰かが触った」と「いつか汽笛を鳴らして」）に、一番良い点を入れておいた。」「畑山氏の「一坪の大陸」が「群像新人賞」の佳作第一席になったとき、世評はあまりよくなかったが、私は感心した。」「以来、この賞の候補になるのが（引用者中略）四回目だそうで、力量のある作家に間違いない。」 山田智彦 36歳 全 ― 0   津島佑子 25歳 全 ― 0   森泰三 (50歳) 全 ― 0   後藤みな子 35歳 全 ― 0   鄭承博 48歳 全 ― 0   富岡多恵子 36歳 全 ― 0   森内俊雄 35歳 全 △ 3 「惜しかった」「この作品の後半の部分だけを、夾雑物を除いて書いたならば、有力な作品になったであろう。」 中川芳郎 29歳 全 ― 0     「いきなり落すには惜しい作品が揃っていたが、圧倒的な作品がなく、授賞作がきまるまで時間がかかった。」

他の選考委員 大岡昇平 井上靖 安岡章太郎 中村光夫 丹羽文雄 永井龍男 瀧井孝作 舟橋聖一

安岡章太郎52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮原昭夫 39歳 全 ◎ 8 「極めて明るいタッチで描いて成功した作品である。」「私は宮原氏の作品を推したが、二本立ての授賞になったのは、それなりの理由があることだと思う。」 畑山博 37歳 全 △ 7 「身体的な欠陥になやむ男を主人公に、一人称で描いたものだが、この苦痛は個人的なものであるだけに一層重厚である。」「二本立ての授賞になったのは、それなりの理由があることだと思う。」 山田智彦 36歳 全 △ 4 「感銘をうけた。短篇としても小味であり、賞の対象にはなりにくいものだが、何年か前の文學界新人賞の頃にくらべて、この作家が着実に成熟していることが窺えた。」 津島佑子 25歳 全 △ 5 「決して十分小説になっているとはいえないが、これまでの作品のいたずらに装飾的な言葉の多かったのにくらべて、今回の作品は何かをつかみかけていることがわり、今後を期待させるものがある。」 森泰三 (50歳) 全 ■ 3 「素直な筆致で、共感は得られたが、なにぶん古めかし過ぎて、後半は陳腐であった。」 後藤みな子 35歳 全 ― 0   鄭承博 48歳 全 ■ 5 「題材からいえば最も面白かったが、残念ながら枚数が短か過ぎた。」 富岡多恵子 36歳 全 ― 0   森内俊雄 35歳 全 ■ 4 「前半ともかく後半は自転車旅行の速度感がよく描出されて面白かった。但し、聖書の引用やアフォリズムの多用は、いずれも生煮えであって何かの転機でこれがあらためられれば、と思う。」 中川芳郎 29歳 全 ― 0     「こんどの候補作はツブがそろっており、平均して皆、かなりの水準に達していると思う。」

他の選考委員 大岡昇平 井上靖 吉行淳之介 中村光夫 丹羽文雄 永井龍男 瀧井孝作 舟橋聖一

中村光夫61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮原昭夫 39歳 全 ○ 17 「一番非のうちどころのない作品でした。」「しかしあまりそつ（原文傍点）がなさすぎて、モチイフの薄弱さを疑わせるのが、この小説の弱点で、審査員各自が胸底に持っていたこの不満が決定間際に表面化したために、第一回の投票で圧倒的な多数を得たにかかわらず、この作品の単独授賞は容易に決定しなかったのです。」 畑山博 37歳 全 △ 15 「性格が対蹠的で、互に相補う観のあるこの二つの小説（引用者注：「誰かが触った」と「いつか汽笛を鳴らして」）の当選は、自然でした。」「しかし僕個人としては、畑山氏の作品はそれほど買えません。」「「ぼくの原点」が、そのまま作者によって肯定されているのが問題です。作者の資性と思われるユーモアとはにかみが生きてこないのはそのためでしょう。」 山田智彦 36歳 全 ― 0   津島佑子 25歳 全 △ 3 「面白く読みました。」 森泰三 (50歳) 全 △ 3 「面白く読みました。」 後藤みな子 35歳 全 ― 0   鄭承博 48歳 全 ― 0   富岡多恵子 36歳 全 △ 2 「面白く読みました。」 森内俊雄 35歳 全 ― 0   中川芳郎 29歳 全 ― 0

他の選考委員 大岡昇平 井上靖 吉行淳之介 安岡章太郎 丹羽文雄 永井龍男 瀧井孝作 舟橋聖一

丹羽文雄67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

総行数23　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮原昭夫 39歳 全 ○ 6 「いくらも深刻に描ける材料を、さらりとまとめたところが成功であった。実際の病院は、こういう工合には運ばれていないだろうと想像されるが、こういう見方も成立すると考えたい。すくなくとも従来の偏見をいくらかでも訂正してくれたことは救いになる。」 畑山博 37歳 全 ○ 8 「力量のある作家のとっておきの材料といった印象をうけた。」「小説の進行中に少年時代の級友のことが主人公の魂の底で低音となって鳴りつづけてくれることを願ったが、途中は忘れてしまったような扱いが、僅かに不満であった。」 山田智彦 36歳 全 ■ 4 「材料の扱い方が狭すぎたようである。父と母に筆を向けるべきであった。」 津島佑子 25歳 全 △ 5 「いかにも太宰治の娘さんらしい感覚のあふれたものだった。こうした才能は大切に育てたい。」「太宰治をはねかえすほどに大きくなるには、他の作家の経験しない苦しみがあることが想像される。」 森泰三 (50歳) 全 ― 0   後藤みな子 35歳 全 ― 0   鄭承博 48歳 全 ― 0   富岡多恵子 36歳 全 ― 0   森内俊雄 35歳 全 ― 0   中川芳郎 29歳 全 ― 0

他の選考委員 大岡昇平 井上靖 吉行淳之介 安岡章太郎 中村光夫 永井龍男 瀧井孝作 舟橋聖一

永井龍男68歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

総行数17　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮原昭夫 39歳 全 △ 9 「作者の手腕も磨かれたもので、さながら舞台を見るように、人物も場面も的確に描出されている。」「作の主題は啓蒙的な意味すら持ち、ややもすれば難解過剰な表現におち入り易い新人の手法とは比べものにならぬ出来ばえを示しているが、一口に云ってこの才能は、あるいは直木賞好みかとも考えてみた。」 畑山博 37歳 全 △ 8 「全篇を通じて、主人公は執拗に追跡される。」「追うのは自虐の刃である。」「逃れようとする自己、逃すまいとする自己、その葛藤の中に人間の卑小さや妄執が露呈される。愉快な小説でないことは、最初に作者が承知しているのである。」 山田智彦 36歳 全 ― 0   津島佑子 25歳 全 ― 0   森泰三 (50歳) 全 ― 0   後藤みな子 35歳 全 ― 0   鄭承博 48歳 全 ― 0   富岡多恵子 36歳 全 ― 0   森内俊雄 35歳 全 ― 0   中川芳郎 29歳 全 ― 0

他の選考委員 大岡昇平 井上靖 吉行淳之介 安岡章太郎 中村光夫 丹羽文雄 瀧井孝作 舟橋聖一

瀧井孝作78歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

総行数34　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮原昭夫 39歳 全 △ 14 「文章もうまいが、軽くスラスラしすぎて図式のようで、実感が淡かった。」「色いろの場面が、隔離病院内の子供の患者たちの、学校教師の目から描かれて、この学校教師は芝居の狂言まわしとも見えて、実感は淡かった。技巧の勝った小説と見えた。」 畑山博 37歳 全 □ 7 「悲しい心持の切実な物語だが、文章が稍くだくだしいのが、少し惜しい。強い簡潔の筆なら尚よかったが……。」 山田智彦 36歳 全 ― 0   津島佑子 25歳 全 ― 0   森泰三 (50歳) 全 ― 0   後藤みな子 35歳 全 ― 0   鄭承博 48歳 全 △ 6 「明るい素朴な筆でいきいきと描いてあった。」 富岡多恵子 36歳 全 ― 0   森内俊雄 35歳 全 ○ 6 「暖かい心持がよく出て居て、佳作と思った。平凡な材料でもあと味がよかった。」 中川芳郎 29歳 全 ― 0

他の選考委員 大岡昇平 井上靖 吉行淳之介 安岡章太郎 中村光夫 丹羽文雄 永井龍男 舟橋聖一

舟橋聖一67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

総行数50　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮原昭夫 39歳 全 ○ 24 「第一回銓衡の結果、宮原支持が九票あった。」「ところが、第二、第三の銓衡で、難色が出て来た。作者の書きたいことが、冒頭の部分で鮮かに描出されているにもかかわらず、中半から以後の小説の運びがあまりにも巧妙に出来ていて、通俗的にさえ見えると言うのである。」 畑山博 37歳 全 □ 10 「兎口の主人公に現実感、迫真力などがすぐれており、殊に竹竿でくじゃくを殺すところが生ま生ましい程に書けている。」 山田智彦 36歳 全 △ 4 「心に留った。」「前回の「実験室」は力作だったが、「家を出る」はちょっと甘かった。」 津島佑子 25歳 全 ― 0   森泰三 (50歳) 全 △ 10 「心に留った。」「上手な短篇だが、永井委員が「新生新派だ」と評価を下したので、各委員ともシュンとなり、それ以上の論駁はなかった。」「主人公がお幸さんに、手を出しそうでいて、とうとう手を付けずに別れて行くのは、近頃の小説では珍しい余韻だが、それが大層自然らしいとも言い切れない。」 後藤みな子 35歳 全 ― 0   鄭承博 48歳 全 △ 6 「心に留った。」「馬を殺して焼いて食うところに凄味があるが、最後の汲取口から脱走して汽車で豊野乗換え、名古屋まで逃げて行くところで、力が脱け、人からの聞書のようにそらぞらしくなるのは惜しい。」 富岡多恵子 36歳 全 ― 0   森内俊雄 35歳 全 ― 0   中川芳郎 29歳 全 ― 0

他の選考委員 大岡昇平 井上靖 吉行淳之介 安岡章太郎 中村光夫 丹羽文雄 永井龍男 瀧井孝作

宮原昭夫39歳×各選考委員　 「誰かが触った」 短篇 143枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 ◎ 25 「最初から一番票が集った。私も票をつけた一人だが、一抹の不安はまたは不満はそのあまりにもうまく仕上げられていることだった。」「芥川賞の性格からいって、この作品の受賞は、日本のハンセン氏病対策の歴史の上で「いのちの初夜」「小島の春」に続く位置を占めるかも知れない。作者がこのように明るく問題を提出したことに、一つの芸術意志が感じられるのだが、問題の切実性が、芸術性をゆるがせた珍しい例となっていると思った。」 井上靖 65歳 全 ○ 11 「うまいという点では抜群であった。余分なことは何も書いていないし、筆も浮いたところはない。正面には押し出さないが、ヒューマンなものが底を流れているのも気持よかった。」「材料はいくらでも深刻になるが、それをこのように明るく、軽く描いたところは、この作者の才能であると見ていいと思った。」「（引用者注：「誰かが触った」「いつか汽笛を鳴らして」「仕かけのある静物」のうち）どれが授賞作であってもいいと思った。」 吉行淳之介 48歳 全 ○ 16 「巧みさの点では抜群だが、モチーフが弱いために、その巧みさが浮いた感じになるのが難とおもった。」「私はこの二作（引用者注：「誰かが触った」と「いつか汽笛を鳴らして」）に、一番良い点を入れておいた。」「宮原氏が、「文學界」新人賞を「石のニンフ達」で受賞したとき、私はたまたま委員をしていて一票を積極的投じた。」「以来、この賞の候補になるのが（引用者中略）四回目だそうで、力量のある作家に間違いない。」 安岡章太郎 52歳 全 ◎ 8 「極めて明るいタッチで描いて成功した作品である。」「私は宮原氏の作品を推したが、二本立ての授賞になったのは、それなりの理由があることだと思う。」 中村光夫 61歳 全 ○ 17 「一番非のうちどころのない作品でした。」「しかしあまりそつ（原文傍点）がなさすぎて、モチイフの薄弱さを疑わせるのが、この小説の弱点で、審査員各自が胸底に持っていたこの不満が決定間際に表面化したために、第一回の投票で圧倒的な多数を得たにかかわらず、この作品の単独授賞は容易に決定しなかったのです。」 丹羽文雄 67歳 全 ○ 6 「いくらも深刻に描ける材料を、さらりとまとめたところが成功であった。実際の病院は、こういう工合には運ばれていないだろうと想像されるが、こういう見方も成立すると考えたい。すくなくとも従来の偏見をいくらかでも訂正してくれたことは救いになる。」 永井龍男 68歳 全 △ 9 「作者の手腕も磨かれたもので、さながら舞台を見るように、人物も場面も的確に描出されている。」「作の主題は啓蒙的な意味すら持ち、ややもすれば難解過剰な表現におち入り易い新人の手法とは比べものにならぬ出来ばえを示しているが、一口に云ってこの才能は、あるいは直木賞好みかとも考えてみた。」 瀧井孝作 78歳 全 △ 14 「文章もうまいが、軽くスラスラしすぎて図式のようで、実感が淡かった。」「色いろの場面が、隔離病院内の子供の患者たちの、学校教師の目から描かれて、この学校教師は芝居の狂言まわしとも見えて、実感は淡かった。技巧の勝った小説と見えた。」 舟橋聖一 67歳 全 ○ 24 「第一回銓衡の結果、宮原支持が九票あった。」「ところが、第二、第三の銓衡で、難色が出て来た。作者の書きたいことが、冒頭の部分で鮮かに描出されているにもかかわらず、中半から以後の小説の運びがあまりにも巧妙に出来ていて、通俗的にさえ見えると言うのである。」

他の候補作 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 山田智彦 「家を出る」 津島佑子 「狐を孕む」 森泰三 「冬へ」 後藤みな子 「三本の釘の重さ」 鄭承博 「裸の捕虜」 富岡多恵子 「仕かけのある静物」 森内俊雄 「春の往復」 中川芳郎 「島の光」

畑山博37歳×各選考委員　 「いつか汽笛を鳴らして」 中篇 153枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 □ 11 「在日朝鮮人というアクチュアルな問題を取扱っている。」「テーマの扱い方と叙述において、「誰かが触った」の斉一性に及ばないが、作者の姿勢に切実なものが感じられ、最後には同じくらいの票が集って来た。私は二作授賞に賛成した。」 井上靖 65歳 全 ○ 7 「この作品から感じられるものは、才能というより、作者の坐り方のいちずな手がたさだ。地味だが、ひたむきに引張って読ませて行くところはみごとである。」「（引用者注：「誰かが触った」「いつか汽笛を鳴らして」「仕かけのある静物」のうち）どれが授賞作であってもいいと思った。」 吉行淳之介 48歳 全 ○ 17 「主人公のマイナスの要素に焦点を当て（もちろん、そこにこの作品の眼目がある）、それがつぎつぎと現れてくるので、いささか食傷の気分になったが、これは力作のあまりのことであろう。」「私はこの二作（引用者注：「誰かが触った」と「いつか汽笛を鳴らして」）に、一番良い点を入れておいた。」「畑山氏の「一坪の大陸」が「群像新人賞」の佳作第一席になったとき、世評はあまりよくなかったが、私は感心した。」「以来、この賞の候補になるのが（引用者中略）四回目だそうで、力量のある作家に間違いない。」 安岡章太郎 52歳 全 △ 7 「身体的な欠陥になやむ男を主人公に、一人称で描いたものだが、この苦痛は個人的なものであるだけに一層重厚である。」「二本立ての授賞になったのは、それなりの理由があることだと思う。」 中村光夫 61歳 全 △ 15 「性格が対蹠的で、互に相補う観のあるこの二つの小説（引用者注：「誰かが触った」と「いつか汽笛を鳴らして」）の当選は、自然でした。」「しかし僕個人としては、畑山氏の作品はそれほど買えません。」「「ぼくの原点」が、そのまま作者によって肯定されているのが問題です。作者の資性と思われるユーモアとはにかみが生きてこないのはそのためでしょう。」 丹羽文雄 67歳 全 ○ 8 「力量のある作家のとっておきの材料といった印象をうけた。」「小説の進行中に少年時代の級友のことが主人公の魂の底で低音となって鳴りつづけてくれることを願ったが、途中は忘れてしまったような扱いが、僅かに不満であった。」 永井龍男 68歳 全 △ 8 「全篇を通じて、主人公は執拗に追跡される。」「追うのは自虐の刃である。」「逃れようとする自己、逃すまいとする自己、その葛藤の中に人間の卑小さや妄執が露呈される。愉快な小説でないことは、最初に作者が承知しているのである。」 瀧井孝作 78歳 全 □ 7 「悲しい心持の切実な物語だが、文章が稍くだくだしいのが、少し惜しい。強い簡潔の筆なら尚よかったが……。」 舟橋聖一 67歳 全 □ 10 「兎口の主人公に現実感、迫真力などがすぐれており、殊に竹竿でくじゃくを殺すところが生ま生ましい程に書けている。」

他の候補作 宮原昭夫 「誰かが触った」 山田智彦 「家を出る」 津島佑子 「狐を孕む」 森泰三 「冬へ」 後藤みな子 「三本の釘の重さ」 鄭承博 「裸の捕虜」 富岡多恵子 「仕かけのある静物」 森内俊雄 「春の往復」 中川芳郎 「島の光」

山田智彦36歳×各選考委員　 「家を出る」 短篇 62枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 ― 0   井上靖 65歳 全 ― 0   吉行淳之介 48歳 全 ― 0   安岡章太郎 52歳 全 △ 4 「感銘をうけた。短篇としても小味であり、賞の対象にはなりにくいものだが、何年か前の文學界新人賞の頃にくらべて、この作家が着実に成熟していることが窺えた。」 中村光夫 61歳 全 ― 0   丹羽文雄 67歳 全 ■ 4 「材料の扱い方が狭すぎたようである。父と母に筆を向けるべきであった。」 永井龍男 68歳 全 ― 0   瀧井孝作 78歳 全 ― 0   舟橋聖一 67歳 全 △ 4 「心に留った。」「前回の「実験室」は力作だったが、「家を出る」はちょっと甘かった。」	他の候補作 宮原昭夫 「誰かが触った」 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 津島佑子 「狐を孕む」 森泰三 「冬へ」 後藤みな子 「三本の釘の重さ」 鄭承博 「裸の捕虜」 富岡多恵子 「仕かけのある静物」 森内俊雄 「春の往復」 中川芳郎 「島の光」

津島佑子25歳×各選考委員　 「狐を孕む」 短篇 119枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 △ 4 「今期は題材的にも技法上にも特色のある作品が多かった。」「まだ形が整っていないが、いわゆる感覚ではなく、ものの考え方に新しさがあると思った。」 井上靖 65歳 全 ― 0   吉行淳之介 48歳 全 ― 0   安岡章太郎 52歳 全 △ 5 「決して十分小説になっているとはいえないが、これまでの作品のいたずらに装飾的な言葉の多かったのにくらべて、今回の作品は何かをつかみかけていることがわり、今後を期待させるものがある。」 中村光夫 61歳 全 △ 3 「面白く読みました。」 丹羽文雄 67歳 全 △ 5 「いかにも太宰治の娘さんらしい感覚のあふれたものだった。こうした才能は大切に育てたい。」「太宰治をはねかえすほどに大きくなるには、他の作家の経験しない苦しみがあることが想像される。」 永井龍男 68歳 全 ― 0   瀧井孝作 78歳 全 ― 0   舟橋聖一 67歳 全 ― 0

他の候補作 宮原昭夫 「誰かが触った」 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 山田智彦 「家を出る」 森泰三 「冬へ」 後藤みな子 「三本の釘の重さ」 鄭承博 「裸の捕虜」 富岡多恵子 「仕かけのある静物」 森内俊雄 「春の往復」 中川芳郎 「島の光」

森泰三(50歳)×各選考委員　 「冬へ」 短篇 82枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 ― 0   井上靖 65歳 全 ― 0   吉行淳之介 48歳 全 ― 0   安岡章太郎 52歳 全 ■ 3 「素直な筆致で、共感は得られたが、なにぶん古めかし過ぎて、後半は陳腐であった。」 中村光夫 61歳 全 △ 3 「面白く読みました。」 丹羽文雄 67歳 全 ― 0   永井龍男 68歳 全 ― 0   瀧井孝作 78歳 全 ― 0   舟橋聖一 67歳 全 △ 10 「心に留った。」「上手な短篇だが、永井委員が「新生新派だ」と評価を下したので、各委員ともシュンとなり、それ以上の論駁はなかった。」「主人公がお幸さんに、手を出しそうでいて、とうとう手を付けずに別れて行くのは、近頃の小説では珍しい余韻だが、それが大層自然らしいとも言い切れない。」	他の候補作 宮原昭夫 「誰かが触った」 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 山田智彦 「家を出る」 津島佑子 「狐を孕む」 後藤みな子 「三本の釘の重さ」 鄭承博 「裸の捕虜」 富岡多恵子 「仕かけのある静物」 森内俊雄 「春の往復」 中川芳郎 「島の光」

後藤みな子35歳×各選考委員　 「三本の釘の重さ」 短篇 98枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 ― 0   井上靖 65歳 全 ― 0   吉行淳之介 48歳 全 ― 0   安岡章太郎 52歳 全 ― 0   中村光夫 61歳 全 ― 0   丹羽文雄 67歳 全 ― 0   永井龍男 68歳 全 ― 0   瀧井孝作 78歳 全 ― 0   舟橋聖一 67歳 全 ― 0	他の候補作 宮原昭夫 「誰かが触った」 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 山田智彦 「家を出る」 津島佑子 「狐を孕む」 森泰三 「冬へ」 鄭承博 「裸の捕虜」 富岡多恵子 「仕かけのある静物」 森内俊雄 「春の往復」 中川芳郎 「島の光」

鄭承博48歳×各選考委員　 「裸の捕虜」 短篇 99枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 △ 3 「今期は題材的にも技法上にも特色のある作品が多かった。」 井上靖 65歳 全 ― 0   吉行淳之介 48歳 全 ― 0   安岡章太郎 52歳 全 ■ 5 「題材からいえば最も面白かったが、残念ながら枚数が短か過ぎた。」 中村光夫 61歳 全 ― 0   丹羽文雄 67歳 全 ― 0   永井龍男 68歳 全 ― 0   瀧井孝作 78歳 全 △ 6 「明るい素朴な筆でいきいきと描いてあった。」 舟橋聖一 67歳 全 △ 6 「心に留った。」「馬を殺して焼いて食うところに凄味があるが、最後の汲取口から脱走して汽車で豊野乗換え、名古屋まで逃げて行くところで、力が脱け、人からの聞書のようにそらぞらしくなるのは惜しい。」	他の候補作 宮原昭夫 「誰かが触った」 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 山田智彦 「家を出る」 津島佑子 「狐を孕む」 森泰三 「冬へ」 後藤みな子 「三本の釘の重さ」 富岡多恵子 「仕かけのある静物」 森内俊雄 「春の往復」 中川芳郎 「島の光」

富岡多恵子36歳×各選考委員　 「仕かけのある静物」 短篇 37枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 △ 4 「今期は題材的にも技法上にも特色のある作品が多かった。」 井上靖 65歳 全 ○ 9 「作った小説であるし、作った小説としての新しさと面白さを持っている。」「（引用者注：「誰かが触った」「いつか汽笛を鳴らして」「仕かけのある静物」のうち）どれが授賞作であってもいいと思った。」「主題がもうひとつはっきり描けていないところが、この作品の弱味であったかも知れない。」 吉行淳之介 48歳 全 ― 0   安岡章太郎 52歳 全 ― 0   中村光夫 61歳 全 △ 2 「面白く読みました。」 丹羽文雄 67歳 全 ― 0   永井龍男 68歳 全 ― 0   瀧井孝作 78歳 全 ― 0   舟橋聖一 67歳 全 ― 0	他の候補作 宮原昭夫 「誰かが触った」 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 山田智彦 「家を出る」 津島佑子 「狐を孕む」 森泰三 「冬へ」 後藤みな子 「三本の釘の重さ」 鄭承博 「裸の捕虜」 森内俊雄 「春の往復」 中川芳郎 「島の光」

森内俊雄35歳×各選考委員　 「春の往復」 中篇 174枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 △ 3 「今期は題材的にも技法上にも特色のある作品が多かった。」 井上靖 65歳 全 ― 0   吉行淳之介 48歳 全 △ 3 「惜しかった」「この作品の後半の部分だけを、夾雑物を除いて書いたならば、有力な作品になったであろう。」 安岡章太郎 52歳 全 ■ 4 「前半ともかく後半は自転車旅行の速度感がよく描出されて面白かった。但し、聖書の引用やアフォリズムの多用は、いずれも生煮えであって何かの転機でこれがあらためられれば、と思う。」 中村光夫 61歳 全 ― 0   丹羽文雄 67歳 全 ― 0   永井龍男 68歳 全 ― 0   瀧井孝作 78歳 全 ○ 6 「暖かい心持がよく出て居て、佳作と思った。平凡な材料でもあと味がよかった。」 舟橋聖一 67歳 全 ― 0	他の候補作 宮原昭夫 「誰かが触った」 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 山田智彦 「家を出る」 津島佑子 「狐を孕む」 森泰三 「冬へ」 後藤みな子 「三本の釘の重さ」 鄭承博 「裸の捕虜」 富岡多恵子 「仕かけのある静物」 中川芳郎 「島の光」

中川芳郎29歳×各選考委員　 「島の光」 中篇 188枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大岡昇平 63歳 全 ― 0   井上靖 65歳 全 ― 0   吉行淳之介 48歳 全 ― 0   安岡章太郎 52歳 全 ― 0   中村光夫 61歳 全 ― 0   丹羽文雄 67歳 全 ― 0   永井龍男 68歳 全 ― 0   瀧井孝作 78歳 全 ― 0   舟橋聖一 67歳 全 ― 0	他の候補作 宮原昭夫 「誰かが触った」 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 山田智彦 「家を出る」 津島佑子 「狐を孕む」 森泰三 「冬へ」 後藤みな子 「三本の釘の重さ」 鄭承博 「裸の捕虜」 富岡多恵子 「仕かけのある静物」 森内俊雄 「春の往復」