第41回

第40回第42回

昭和34年/1959年上半期 昭和34年/1959年7月21日決定発表／『文藝春秋』昭和34年/1959年9月号選評掲載

選考委員　 石川達三 54歳 丹羽文雄 54歳 舟橋聖一 54歳 井伏鱒二 61歳 中村光夫 48歳 永井龍男 55歳 川端康成 60歳 佐藤春夫 67歳 井上靖 52歳 瀧井孝作 65歳 宇野浩二 67歳 選評総行数　 30 31 45 17 30 35 27 31 24 37 45 評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 斯波四郎　「山塔」 82枚 49歳 評 ◎ 10 ◎ 31 △ 17 ○ 14 ○ 15 △ 16 ○ 13 ○ 20 ◎ 11 △ 12 △ 7 垣花浩涛　「解体以前」 119枚 37歳 評 ― 0 ― 0 △ 7 ― 0 ● 3 ― 0 △ 10 ― 0 △ 4 ● 3 ・ 2 中村英良　「眼」 72枚 (30歳) 評 ― 0 ― 0 ■ 2 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 6 ― 0 ■ 2 ● 2 ― 0 北杜夫　「谿間にて」 78枚 32歳 評 △ 8 ― 0 ― 0 △ 3 ■ 3 △ 7 ● 3 ○ 18 ■ 3 ◎ 13 △ 24 吉村昭　「貝殻」 63枚 32歳 評 ― 0 ― 0 ■ 2 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 2 ● 2 ― 0 林青梧　「橋《九月十一日》」 121枚 29歳 評 ― 0 ― 0 ■ 5 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ● 1 ● 1 ― 0 佃実夫　「ある異邦人の死」 106枚 33歳 評 △ 8 ― 0 ◎ 9 ― 0 ● 6 ● 8 ○ 4 ○ 17 ■ 3 ○ 5 ■ 4 古田芳生　「三十六号室」 99枚 39歳 評 △ 9 ― 0 ― 0 ○ 10 ■ 3 △ 10 △ 10 ― 0 ○ 4 ■ 2 ・ 1       欠席             欠席 年齢/枚数の説明   見方・注意点

石川達三54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題新人を推す　総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 ◎ 10 「私はもっと難行するだろうと思っていたが、「山塔」の良さを認める人が多かったので、予想されたほどむつかしくなかった。」「娯楽性の少い小説で、殊に冒頭のあたり解りにくいが、後半は冴えている。」「類似品のすくない作風である。リアリズム万能とでも云うようなちかごろの文壇に、こういう作家の登場はなかなか意味ふかいものがある。」「（面白かった）ということ以外の別のものがある。それが貴重なものだと私は思う。」 垣花浩涛 37歳 全 ― 0   中村英良 (30歳) 全 ― 0   北杜夫 32歳 全 △ 8 「昆虫採集者の面白い話を書いているが、その話を聞く（私）という人物がマイナスになっている。」「モーパッサンの短篇などに、この種の技法は多いが、この作品の場合、それが成功していないようである。」「私には面白かった。」 吉村昭 32歳 全 ― 0   林青梧 29歳 全 ― 0   佃実夫 33歳 全 △ 8 「よく調べた資料と作者のフィクションとが交錯しているが、フィクションの部分が見劣りして、雑音のようになっている。」「資料を追及しながら自然に人物を浮き彫りにして行くような方法に拠る方が、密度の高い良いものになったのではないかと思う。」「私には面白かった。」 古田芳生 39歳 全 △ 9 「非常におもしろい。」「どんな社会小説が生れるのかと思わせるが、社会小説にはなり切れずに、三十六号室の崩壊によって結末がつけられている。かんたんに崩壊させないで、三十六号室という問題を追及して見たかった。」「私には面白かった。」

他の選考委員 丹羽文雄 舟橋聖一 井伏鱒二 中村光夫 永井龍男 川端康成 佐藤春夫 井上靖 瀧井孝作 宇野浩二

丹羽文雄54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題斯波四郎のこと　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 ◎ 31 「芥川賞にいつかこのような文学があらわれることを、私はながいあいだ待っていた。」「特異な作家であり、今日彼と類似をもとめることはまったく不可能である。」「「山塔」にも、かなりひとり合点のところがある。が、それを埋合わせするに十分な魅力がある。」「たくさん書ける作家ではない。ジャーナリズムの要求に応じて書きとばすようになれば、斯波四郎は霧散してしまうだろう。」 垣花浩涛 37歳 全 ― 0   中村英良 (30歳) 全 ― 0   北杜夫 32歳 全 ― 0   吉村昭 32歳 全 ― 0   林青梧 29歳 全 ― 0   佃実夫 33歳 全 ― 0   古田芳生 39歳 全 ― 0	他の選考委員 石川達三 舟橋聖一 井伏鱒二 中村光夫 永井龍男 川端康成 佐藤春夫 井上靖 瀧井孝作 宇野浩二

舟橋聖一54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題精進された畸形　総行数45　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 △ 17 「彼、柴田四郎の長く鬱屈したものが、曾て一度も外側へ溢れ出ず、内向また内向して、手工芸風に凝結した一例である。」「古風であるかと思えば、新しい。それが渾然としていると云っては、賞めすぎだ。むしろ、畸形である。」「当夜の会では、井上（靖）氏が「山塔」にあまり力コブを入れるので、（引用者中略）その分だけ減点したくなったのは事実だ。」 垣花浩涛 37歳 全 △ 7 「教員というものに対する既成の先入観があっては、蹤いてゆけない読者もあるだろう。」「花袋の「田舎教師」の頃の反響とくらべると、世界は寛大になったものだ。今回の受賞には足りなかったが、筆力に将来性はある。」 中村英良 (30歳) 全 ■ 2 「最後の数行で作りすぎた。」 北杜夫 32歳 全 ― 0   吉村昭 32歳 全 ■ 2 「骨組が足りないが、前作「鉄橋」よりは読めた。」 林青梧 29歳 全 ■ 5 「心を惹かれた。「第七車輌」以来、この人の朝鮮物には、馴染を重ねた。然し、「橋」が前作より傑れているとは思わなかった。「橋」にあつかわれた逮捕事件は面白いが、各人物に熱が足りないようである。」 佃実夫 33歳 全 ◎ 9 「私は（引用者中略）推したが、こういう伝記を元にした小説の、史実と虚構の間をよく確めることは、実際には難かしい。批評する側も、多少モラエスについて調べないと、カンだけでは判定を下しにくいのではないか。永井龍男氏のように、厳しく云えば、この作は、たしかに小説以前かも知れない。然し私は、作者の冒険に同情して、永井氏が減点しただけ、増点しておいた。」 古田芳生 39歳 全 ― 0     「今回は、概して粒が揃った。」

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 井伏鱒二 中村光夫 永井龍男 川端康成 佐藤春夫 井上靖 瀧井孝作 宇野浩二

井伏鱒二61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選後感　総行数17　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 ○ 14 「個性があるという点では（引用者中略・注：一票を）入れたいが、ところどころ表現に小さな無理があるので迷わされた。」「（引用者注：「山塔」と「三十六号室」の）二つのうち、どちらかが取りあげられる話になったらそれに賛成する。――私は病気で銓衡会に出席できなかったので、そういう意味のことを（引用者中略）電話で伝えておいた。」「文章に無理があると私が解したのは、人の使い古した言葉を避けようとして、それの度が過ぎているためかもわからない。」 垣花浩涛 37歳 全 ― 0   中村英良 (30歳) 全 ― 0   北杜夫 32歳 全 △ 3 「自分の嗜好から云えば（引用者中略）挙げたいが、第二章以下が形の上で平板に終っているので挙げかねた。」 吉村昭 32歳 全 ― 0   林青梧 29歳 全 ― 0   佃実夫 33歳 全 ― 0   古田芳生 39歳 全 ○ 10 「力作という点では（引用者中略）一票を入れたいが、報告的なところが気になるので迷わされた。」「（引用者注：「山塔」と「三十六号室」の）二つのうち、どちらかが取りあげられる話になったらそれに賛成する。――私は病気で銓衡会に出席できなかったので、そういう意味のことを（引用者中略）電話で伝えておいた。」   「今度は作品が揃っていると思われたので選ぶのに迷った。」

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 舟橋聖一 中村光夫 永井龍男 川端康成 佐藤春夫 井上靖 瀧井孝作 宇野浩二

中村光夫48歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「山塔」の必然性　総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 ○ 15 「地味でわがままな作品ですが、とりつきにくい代りに、そこに展開される世界は、はっきり作者のものです。」「人間がいるとか、人生が感じられるとかいう評語はそこからでるわけです。」「小説として欠点はいろいろあっても、作者は小説を書かずにいられぬ人であり、「山塔」はその必然性を充分感じさせます。問題は、このモチイフの必然性だけが裸で歩いているような作風にどう肉をつけて行くかですが、受賞がこれを促す転機になればと思います。」 垣花浩涛 37歳 全 ● 3 「（引用者注：「三十六号室」と）似かよった出来で、」 中村英良 (30歳) 全 ― 0   北杜夫 32歳 全 ■ 3 「話は面白いが、前後に無駄が多すぎます。この無駄は偶然のものでなく、作者の筆をとる態度の根本につながるようです。」 吉村昭 32歳 全 ― 0   林青梧 29歳 全 ― 0   佃実夫 33歳 全 ● 6 「材料にもたれすぎ、同時にところどころ勝手な解釈が挿入されていて、この不思議な異邦人（引用者注：モラエスのこと）の肖像が、浅い作者の独断に終っています。」「これでは普通の伝記以下と思われます。」 古田芳生 39歳 全 ■ 3 「（引用者注：「解体以前」と）似かよった出来で、古田氏の方がいくぶんすぐれていると思われます。」

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 舟橋聖一 井伏鱒二 永井龍男 川端康成 佐藤春夫 井上靖 瀧井孝作 宇野浩二

永井龍男55歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題棄権　総行数35　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 △ 16 「（引用者注：私は）「前半が脆いように感じたが」と、述べた」「中村光夫が「他の候補作は、小説の中に小説があるだけだが、この作品には人生がある」という意味の言葉を、微笑まじりに述べられたが、どうやらその評語が、授賞のメドをついているようだ。」 垣花浩涛 37歳 全 ― 0   中村英良 (30歳) 全 ― 0   北杜夫 32歳 全 △ 7 「健康な作品で、快く読めた。」「挿話としてではなく、昆虫採集人をまともに書いたなら、さらに重量ある作品になっていたろうと思う。」 吉村昭 32歳 全 ― 0   林青梧 29歳 全 ― 0   佃実夫 33歳 全 ● 8 「予選作八篇中から、候補作品を選ぶ際に、私が「積極的反対を示した」のは、「ある異邦人の死」」「伝記や事実に彩色をほどこしても、小説にはならないという意味で、「ある異邦人の死」の丹念さを私は認め兼ねる。殊に、異邦人という特殊な題材の場合。」 古田芳生 39歳 全 △ 10 「「三十六号室」の主題に、私はもっとも惹かれたが、その扱い方には賛成出来なかった。」「もしこの（引用者注：冒頭の）題銘にゴーゴリの言葉を選ぶような作者の眼であったならば、「三十六号室」という皮肉な主題は、諷刺画として相当な効果を挙げたろうと私考する。」   「「谿間にて」「山塔」「ある異邦人の死」「三十六号室」の四篇が残り、授賞作票決ということになって、私は棄権した。」「選後、佐佐木茂索氏が「前回に授賞作があったら、今回は該当者なしということになっていたかも知れないね」ともらした感想に、私も同意を表した。」

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 舟橋聖一 井伏鱒二 中村光夫 川端康成 佐藤春夫 井上靖 瀧井孝作 宇野浩二

川端康成60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題意外と賛成　総行数27　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 ○ 13 「私は「山塔」に同情を、さらにすすんで同感を寄せていた。しかし、委員の多くが「山塔」を推すだろうとは考えられなかったので、これは私の迂闊であった。」「心の描き出した世界であろうが、その心の歌のわりに、風景はややぼんやりとし、風景のなかの人物はさらにあいまいで、悪く言えば、この種の類型とも思え、全体に感傷がいちじるしい。けれども、純粋の心象に貫かれて、特異な魅力をこめている。このような作品が芥川賞に選ばれたことは私には意外であり、賛成であった。」 垣花浩涛 37歳 全 △ 10 「（引用者注：「三十六号室」「眼」と共通して）今日の「流行小説」と言えるだろう。組織と人間に触れて、人間不信、自己喪失というような嫌悪から破滅に落ちてゆく。」「追いこみの結末は、私などには誇張が過ぎるように思われる。」「（引用者注：「三十六号室」と共に）作者の設置した人間関係のまがりくねりを、かなりよく追っている。」 中村英良 (30歳) 全 ■ 6 「（引用者注：「三十六号室」「解体以前」と共通して）今日の「流行小説」と言えるだろう。組織と人間に触れて、人間不信、自己喪失というような嫌悪から破滅に落ちてゆく。」「追いこみの結末は、私などには誇張が過ぎるように思われる。」 北杜夫 32歳 全 ● 3 「蝶を採集する台湾の山などの書き方に足りないものがあるようで、実感があふれ出て来ない。」 吉村昭 32歳 全 ― 0   林青梧 29歳 全 ― 0   佃実夫 33歳 全 ○ 4 「一票を入れておいた。モラエスをよく調べ、むしろ抑え気味の明らかな文章で、量感もある作品と思った。」 古田芳生 39歳 全 △ 10 「（引用者注：「解体以前」「眼」と共通して）今日の「流行小説」と言えるだろう。組織と人間に触れて、人間不信、自己喪失というような嫌悪から破滅に落ちてゆく。」「追いこみの結末は、私などには誇張が過ぎるように思われる。」「着想もすぐれ、これが入賞してもよさそうにも見える。」「（引用者注：「解体以前」と共に）作者の設置した人間関係のまがりくねりを、かなりよく追っている。」

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 舟橋聖一 井伏鱒二 中村光夫 永井龍男 佐藤春夫 井上靖 瀧井孝作 宇野浩二

佐藤春夫67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題この独自の作風を　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 ○ 20 「（引用者注：「谿間にて」「山塔」「ある異邦人の死」のうちから）第一位のものを決定するに困難を感じて、それは衆議によって決してもらうつもりで審査の席に出た。」「とっつきは悪いが、じっくり読むと底光りするものがある。少しく老人性センチメンタリズムのあるのが気になるが。その難を補って余りある独自の世界の創造がある。」 垣花浩涛 37歳 全 ― 0   中村英良 (30歳) 全 ― 0   北杜夫 32歳 全 ○ 18 「（引用者注：「谿間にて」「山塔」「ある異邦人の死」のうちから）第一位のものを決定するに困難を感じて、それは衆議によって決してもらうつもりで審査の席に出た。」「北杜夫君は見るから最も年少らしく文学歴も最も浅いらしいから授賞はもう少し待ってもよいと思う。その文学精神は最も純粋で高いのが好もしいし着眼点もよいが作法的に未熟な点もある。とは云え前の作品より一作一作とよくなって来ているのは頼もしい。」 吉村昭 32歳 全 ― 0   林青梧 29歳 全 ― 0   佃実夫 33歳 全 ○ 17 「（引用者注：「谿間にて」「山塔」「ある異邦人の死」のうちから）第一位のものを決定するに困難を感じて、それは衆議によって決してもらうつもりで審査の席に出た。」「モラエス伝を巧妙に小説化して成功していると思うが、この特異の取材と特異な作風とは看る人によって評価はまちまちになるであろう。やや直木賞的におもしろく書きすぎているような難がないでもないが、作者の力量は十分現われている。」 古田芳生 39歳 全 ― 0

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 舟橋聖一 井伏鱒二 中村光夫 永井龍男 川端康成 井上靖 瀧井孝作 宇野浩二

井上靖52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「山塔」を推す　総行数24　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 ◎ 11 「優れた作品の持っている響きのようなものが、絶えずこちらの心に伝わって来た。この作品には、人間の執念の悲しさや憤ろしさが、特異な構成とスタイルの中に捉えられてあって、心理の深部のあやめの解きほぐし方はなかなか鮮やかである。」 垣花浩涛 37歳 全 △ 4 「（引用者注：「三十六号室」と共に）組織と人間の問題を追求した今日的作品であるが、この種の作品の中では共に力作であると思った。」 中村英良 (30歳) 全 ■ 2 「野心的な作品であるが、読後の印象は作りものの薄手さを持っていた。」 北杜夫 32歳 全 ■ 3 「最後まで面白く読んだが、蝶を追いかける人物を正面から書いたらもっと力強い作品になったと思う。」 吉村昭 32歳 全 ■ 2 「素直さを取るが、所詮小品にすぎない。」 林青梧 29歳 全 ● 1 「氏の前作に及ばず、」 佃実夫 33歳 全 ■ 3 「文章も確りしており、調べも行き届いた作品だが、もう一つ魅力がなく、読後の印象は稀薄だった。」 古田芳生 39歳 全 ○ 4 「（引用者注：「解体以前」と共に）組織と人間の問題を追求した今日的作品であるが、この種の作品の中では共に力作であると思った。」「私は（引用者注：「解体以前」より）「三十六号室」の方をとった。」

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 舟橋聖一 井伏鱒二 中村光夫 永井龍男 川端康成 佐藤春夫 瀧井孝作 宇野浩二

瀧井孝作65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題北杜夫を推す　総行数37　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 △ 12 「何か面白い所もあるが、何かよくわからない、作者のひとり合点のような所もあった。」「よくわからないのは、未だ熟さない、こなれない、欠点もあると見た。ともかく、この人には妙な独自の何かがあると思った。何かがある点では好意を持つが……。」 垣花浩涛 37歳 全 ● 3 「二頁程読んで、だらしのないフヤケた筆にはついて行けず、読むのを止めた。」 中村英良 (30歳) 全 ● 2 「半分程読んで、あとは不可解でよみきれず止めた。」 北杜夫 32歳 全 ◎ 13 「図抜けて佳いと思った。」「この人のものは前にも予選作品を読んだが、それは何を書いてあったか今はおぼえてないが、（引用者中略）それからみると格段の進歩ではないかしら。」「昆虫採集マニヤの人物を点景とした、一つの風景画を見るような美しい感じの小説で、この風景小説の意味でも新しいと思った。」「作者はこの小説を打込んで書いてまた脱皮したものがあるようにも考えられた。」 吉村昭 32歳 全 ● 2 「前回の候補作に遠く及ばず。」 林青梧 29歳 全 ● 1 「前回の候補作に遠く及ばず。」 佃実夫 33歳 全 ○ 5 「（引用者注：「谿間にて」の次に）佳いかと思った。」「ともかく読ませる筆で、モラエスという老年の西洋人の阿波の徳島での孤栖の生活が、詳細に描かれていた。古風のような描写だが、面白く読ませる、相当の力作だと見た。」 古田芳生 39歳 全 ■ 2 「構想は面白いようだが、描写はヘタだと思った。」

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 舟橋聖一 井伏鱒二 中村光夫 永井龍男 川端康成 佐藤春夫 井上靖 宇野浩二

宇野浩二67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題独断的選評　総行数45　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 斯波四郎 49歳 全 △ 7 「このぐらいなら、と思い、」「『山塔』が受賞したのは、「まず」と思う」 垣花浩涛 37歳 全 ・ 2   中村英良 (30歳) 全 ― 0   北杜夫 32歳 全 △ 24 「ちょいと面白い小説ではあるが、この作者が以前に発表した幾つかの作品の中にはこれよりすぐれた小説があった、と思った。ところが、これを書くため、ふと思い出して、少し念を入れて読んでみて、私は、この小説はなかなか『見所』のある作品だと考えた。」「しかし、これは、惜しいけど……と思った。」 吉村昭 32歳 全 ― 0   林青梧 29歳 全 ― 0   佃実夫 33歳 全 ■ 4 「妙に凝ってあるが、その凝り方が凝りすぎ、唯しいていえば、趣向は面白いとしても、モラエスというどうにも書ける『異邦人』をもっとよく、現してほしかった。」 古田芳生 39歳 全 ・ 1

他の選考委員 石川達三 丹羽文雄 舟橋聖一 井伏鱒二 中村光夫 永井龍男 川端康成 佐藤春夫 井上靖 瀧井孝作

斯波四郎49歳×各選考委員　 「山塔」 短篇 82枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川達三 54歳 全 ◎ 10 「私はもっと難行するだろうと思っていたが、「山塔」の良さを認める人が多かったので、予想されたほどむつかしくなかった。」「娯楽性の少い小説で、殊に冒頭のあたり解りにくいが、後半は冴えている。」「類似品のすくない作風である。リアリズム万能とでも云うようなちかごろの文壇に、こういう作家の登場はなかなか意味ふかいものがある。」「（面白かった）ということ以外の別のものがある。それが貴重なものだと私は思う。」 丹羽文雄 54歳 全 ◎ 31 「芥川賞にいつかこのような文学があらわれることを、私はながいあいだ待っていた。」「特異な作家であり、今日彼と類似をもとめることはまったく不可能である。」「「山塔」にも、かなりひとり合点のところがある。が、それを埋合わせするに十分な魅力がある。」「たくさん書ける作家ではない。ジャーナリズムの要求に応じて書きとばすようになれば、斯波四郎は霧散してしまうだろう。」 舟橋聖一 54歳 全 △ 17 「彼、柴田四郎の長く鬱屈したものが、曾て一度も外側へ溢れ出ず、内向また内向して、手工芸風に凝結した一例である。」「古風であるかと思えば、新しい。それが渾然としていると云っては、賞めすぎだ。むしろ、畸形である。」「当夜の会では、井上（靖）氏が「山塔」にあまり力コブを入れるので、（引用者中略）その分だけ減点したくなったのは事実だ。」 井伏鱒二 61歳 全 ○ 14 「個性があるという点では（引用者中略・注：一票を）入れたいが、ところどころ表現に小さな無理があるので迷わされた。」「（引用者注：「山塔」と「三十六号室」の）二つのうち、どちらかが取りあげられる話になったらそれに賛成する。――私は病気で銓衡会に出席できなかったので、そういう意味のことを（引用者中略）電話で伝えておいた。」「文章に無理があると私が解したのは、人の使い古した言葉を避けようとして、それの度が過ぎているためかもわからない。」 中村光夫 48歳 全 ○ 15 「地味でわがままな作品ですが、とりつきにくい代りに、そこに展開される世界は、はっきり作者のものです。」「人間がいるとか、人生が感じられるとかいう評語はそこからでるわけです。」「小説として欠点はいろいろあっても、作者は小説を書かずにいられぬ人であり、「山塔」はその必然性を充分感じさせます。問題は、このモチイフの必然性だけが裸で歩いているような作風にどう肉をつけて行くかですが、受賞がこれを促す転機になればと思います。」 永井龍男 55歳 全 △ 16 「（引用者注：私は）「前半が脆いように感じたが」と、述べた」「中村光夫が「他の候補作は、小説の中に小説があるだけだが、この作品には人生がある」という意味の言葉を、微笑まじりに述べられたが、どうやらその評語が、授賞のメドをついているようだ。」 川端康成 60歳 全 ○ 13 「私は「山塔」に同情を、さらにすすんで同感を寄せていた。しかし、委員の多くが「山塔」を推すだろうとは考えられなかったので、これは私の迂闊であった。」「心の描き出した世界であろうが、その心の歌のわりに、風景はややぼんやりとし、風景のなかの人物はさらにあいまいで、悪く言えば、この種の類型とも思え、全体に感傷がいちじるしい。けれども、純粋の心象に貫かれて、特異な魅力をこめている。このような作品が芥川賞に選ばれたことは私には意外であり、賛成であった。」 佐藤春夫 67歳 全 ○ 20 「（引用者注：「谿間にて」「山塔」「ある異邦人の死」のうちから）第一位のものを決定するに困難を感じて、それは衆議によって決してもらうつもりで審査の席に出た。」「とっつきは悪いが、じっくり読むと底光りするものがある。少しく老人性センチメンタリズムのあるのが気になるが。その難を補って余りある独自の世界の創造がある。」 井上靖 52歳 全 ◎ 11 「優れた作品の持っている響きのようなものが、絶えずこちらの心に伝わって来た。この作品には、人間の執念の悲しさや憤ろしさが、特異な構成とスタイルの中に捉えられてあって、心理の深部のあやめの解きほぐし方はなかなか鮮やかである。」 瀧井孝作 65歳 全 △ 12 「何か面白い所もあるが、何かよくわからない、作者のひとり合点のような所もあった。」「よくわからないのは、未だ熟さない、こなれない、欠点もあると見た。ともかく、この人には妙な独自の何かがあると思った。何かがある点では好意を持つが……。」 宇野浩二 67歳 全 △ 7 「このぐらいなら、と思い、」「『山塔』が受賞したのは、「まず」と思う」

他の候補作 垣花浩涛 「解体以前」 中村英良 「眼」 北杜夫 「谿間にて」 吉村昭 「貝殻」 林青梧 「橋《九月十一日》」 佃実夫 「ある異邦人の死」 古田芳生 「三十六号室」

垣花浩涛37歳×各選考委員　 「解体以前」 短篇 119枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川達三 54歳 全 ― 0   丹羽文雄 54歳 全 ― 0   舟橋聖一 54歳 全 △ 7 「教員というものに対する既成の先入観があっては、蹤いてゆけない読者もあるだろう。」「花袋の「田舎教師」の頃の反響とくらべると、世界は寛大になったものだ。今回の受賞には足りなかったが、筆力に将来性はある。」 井伏鱒二 61歳 全 ― 0   中村光夫 48歳 全 ● 3 「（引用者注：「三十六号室」と）似かよった出来で、」 永井龍男 55歳 全 ― 0   川端康成 60歳 全 △ 10 「（引用者注：「三十六号室」「眼」と共通して）今日の「流行小説」と言えるだろう。組織と人間に触れて、人間不信、自己喪失というような嫌悪から破滅に落ちてゆく。」「追いこみの結末は、私などには誇張が過ぎるように思われる。」「（引用者注：「三十六号室」と共に）作者の設置した人間関係のまがりくねりを、かなりよく追っている。」 佐藤春夫 67歳 全 ― 0   井上靖 52歳 全 △ 4 「（引用者注：「三十六号室」と共に）組織と人間の問題を追求した今日的作品であるが、この種の作品の中では共に力作であると思った。」 瀧井孝作 65歳 全 ● 3 「二頁程読んで、だらしのないフヤケた筆にはついて行けず、読むのを止めた。」 宇野浩二 67歳 全 ・ 2

他の候補作 斯波四郎 「山塔」 中村英良 「眼」 北杜夫 「谿間にて」 吉村昭 「貝殻」 林青梧 「橋《九月十一日》」 佃実夫 「ある異邦人の死」 古田芳生 「三十六号室」

中村英良(30歳)×各選考委員　 「眼」 短篇 72枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川達三 54歳 全 ― 0   丹羽文雄 54歳 全 ― 0   舟橋聖一 54歳 全 ■ 2 「最後の数行で作りすぎた。」 井伏鱒二 61歳 全 ― 0   中村光夫 48歳 全 ― 0   永井龍男 55歳 全 ― 0   川端康成 60歳 全 ■ 6 「（引用者注：「三十六号室」「解体以前」と共通して）今日の「流行小説」と言えるだろう。組織と人間に触れて、人間不信、自己喪失というような嫌悪から破滅に落ちてゆく。」「追いこみの結末は、私などには誇張が過ぎるように思われる。」 佐藤春夫 67歳 全 ― 0   井上靖 52歳 全 ■ 2 「野心的な作品であるが、読後の印象は作りものの薄手さを持っていた。」 瀧井孝作 65歳 全 ● 2 「半分程読んで、あとは不可解でよみきれず止めた。」 宇野浩二 67歳 全 ― 0	他の候補作 斯波四郎 「山塔」 垣花浩涛 「解体以前」 北杜夫 「谿間にて」 吉村昭 「貝殻」 林青梧 「橋《九月十一日》」 佃実夫 「ある異邦人の死」 古田芳生 「三十六号室」

北杜夫32歳×各選考委員　 「谿間にて」 短篇 78枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川達三 54歳 全 △ 8 「昆虫採集者の面白い話を書いているが、その話を聞く（私）という人物がマイナスになっている。」「モーパッサンの短篇などに、この種の技法は多いが、この作品の場合、それが成功していないようである。」「私には面白かった。」 丹羽文雄 54歳 全 ― 0   舟橋聖一 54歳 全 ― 0   井伏鱒二 61歳 全 △ 3 「自分の嗜好から云えば（引用者中略）挙げたいが、第二章以下が形の上で平板に終っているので挙げかねた。」 中村光夫 48歳 全 ■ 3 「話は面白いが、前後に無駄が多すぎます。この無駄は偶然のものでなく、作者の筆をとる態度の根本につながるようです。」 永井龍男 55歳 全 △ 7 「健康な作品で、快く読めた。」「挿話としてではなく、昆虫採集人をまともに書いたなら、さらに重量ある作品になっていたろうと思う。」 川端康成 60歳 全 ● 3 「蝶を採集する台湾の山などの書き方に足りないものがあるようで、実感があふれ出て来ない。」 佐藤春夫 67歳 全 ○ 18 「（引用者注：「谿間にて」「山塔」「ある異邦人の死」のうちから）第一位のものを決定するに困難を感じて、それは衆議によって決してもらうつもりで審査の席に出た。」「北杜夫君は見るから最も年少らしく文学歴も最も浅いらしいから授賞はもう少し待ってもよいと思う。その文学精神は最も純粋で高いのが好もしいし着眼点もよいが作法的に未熟な点もある。とは云え前の作品より一作一作とよくなって来ているのは頼もしい。」 井上靖 52歳 全 ■ 3 「最後まで面白く読んだが、蝶を追いかける人物を正面から書いたらもっと力強い作品になったと思う。」 瀧井孝作 65歳 全 ◎ 13 「図抜けて佳いと思った。」「この人のものは前にも予選作品を読んだが、それは何を書いてあったか今はおぼえてないが、（引用者中略）それからみると格段の進歩ではないかしら。」「昆虫採集マニヤの人物を点景とした、一つの風景画を見るような美しい感じの小説で、この風景小説の意味でも新しいと思った。」「作者はこの小説を打込んで書いてまた脱皮したものがあるようにも考えられた。」 宇野浩二 67歳 全 △ 24 「ちょいと面白い小説ではあるが、この作者が以前に発表した幾つかの作品の中にはこれよりすぐれた小説があった、と思った。ところが、これを書くため、ふと思い出して、少し念を入れて読んでみて、私は、この小説はなかなか『見所』のある作品だと考えた。」「しかし、これは、惜しいけど……と思った。」

他の候補作 斯波四郎 「山塔」 垣花浩涛 「解体以前」 中村英良 「眼」 吉村昭 「貝殻」 林青梧 「橋《九月十一日》」 佃実夫 「ある異邦人の死」 古田芳生 「三十六号室」

吉村昭32歳×各選考委員　 「貝殻」 短篇 63枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川達三 54歳 全 ― 0   丹羽文雄 54歳 全 ― 0   舟橋聖一 54歳 全 ■ 2 「骨組が足りないが、前作「鉄橋」よりは読めた。」 井伏鱒二 61歳 全 ― 0   中村光夫 48歳 全 ― 0   永井龍男 55歳 全 ― 0   川端康成 60歳 全 ― 0   佐藤春夫 67歳 全 ― 0   井上靖 52歳 全 ■ 2 「素直さを取るが、所詮小品にすぎない。」 瀧井孝作 65歳 全 ● 2 「前回の候補作に遠く及ばず。」 宇野浩二 67歳 全 ― 0	他の候補作 斯波四郎 「山塔」 垣花浩涛 「解体以前」 中村英良 「眼」 北杜夫 「谿間にて」 林青梧 「橋《九月十一日》」 佃実夫 「ある異邦人の死」 古田芳生 「三十六号室」

林青梧29歳×各選考委員　 「橋《九月十一日》」 短篇 121枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川達三 54歳 全 ― 0   丹羽文雄 54歳 全 ― 0   舟橋聖一 54歳 全 ■ 5 「心を惹かれた。「第七車輌」以来、この人の朝鮮物には、馴染を重ねた。然し、「橋」が前作より傑れているとは思わなかった。「橋」にあつかわれた逮捕事件は面白いが、各人物に熱が足りないようである。」 井伏鱒二 61歳 全 ― 0   中村光夫 48歳 全 ― 0   永井龍男 55歳 全 ― 0   川端康成 60歳 全 ― 0   佐藤春夫 67歳 全 ― 0   井上靖 52歳 全 ● 1 「氏の前作に及ばず、」 瀧井孝作 65歳 全 ● 1 「前回の候補作に遠く及ばず。」 宇野浩二 67歳 全 ― 0	他の候補作 斯波四郎 「山塔」 垣花浩涛 「解体以前」 中村英良 「眼」 北杜夫 「谿間にて」 吉村昭 「貝殻」 佃実夫 「ある異邦人の死」 古田芳生 「三十六号室」

佃実夫33歳×各選考委員　 「ある異邦人の死」 短篇 106枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川達三 54歳 全 △ 8 「よく調べた資料と作者のフィクションとが交錯しているが、フィクションの部分が見劣りして、雑音のようになっている。」「資料を追及しながら自然に人物を浮き彫りにして行くような方法に拠る方が、密度の高い良いものになったのではないかと思う。」「私には面白かった。」 丹羽文雄 54歳 全 ― 0   舟橋聖一 54歳 全 ◎ 9 「私は（引用者中略）推したが、こういう伝記を元にした小説の、史実と虚構の間をよく確めることは、実際には難かしい。批評する側も、多少モラエスについて調べないと、カンだけでは判定を下しにくいのではないか。永井龍男氏のように、厳しく云えば、この作は、たしかに小説以前かも知れない。然し私は、作者の冒険に同情して、永井氏が減点しただけ、増点しておいた。」 井伏鱒二 61歳 全 ― 0   中村光夫 48歳 全 ● 6 「材料にもたれすぎ、同時にところどころ勝手な解釈が挿入されていて、この不思議な異邦人（引用者注：モラエスのこと）の肖像が、浅い作者の独断に終っています。」「これでは普通の伝記以下と思われます。」 永井龍男 55歳 全 ● 8 「予選作八篇中から、候補作品を選ぶ際に、私が「積極的反対を示した」のは、「ある異邦人の死」」「伝記や事実に彩色をほどこしても、小説にはならないという意味で、「ある異邦人の死」の丹念さを私は認め兼ねる。殊に、異邦人という特殊な題材の場合。」 川端康成 60歳 全 ○ 4 「一票を入れておいた。モラエスをよく調べ、むしろ抑え気味の明らかな文章で、量感もある作品と思った。」 佐藤春夫 67歳 全 ○ 17 「（引用者注：「谿間にて」「山塔」「ある異邦人の死」のうちから）第一位のものを決定するに困難を感じて、それは衆議によって決してもらうつもりで審査の席に出た。」「モラエス伝を巧妙に小説化して成功していると思うが、この特異の取材と特異な作風とは看る人によって評価はまちまちになるであろう。やや直木賞的におもしろく書きすぎているような難がないでもないが、作者の力量は十分現われている。」 井上靖 52歳 全 ■ 3 「文章も確りしており、調べも行き届いた作品だが、もう一つ魅力がなく、読後の印象は稀薄だった。」 瀧井孝作 65歳 全 ○ 5 「（引用者注：「谿間にて」の次に）佳いかと思った。」「ともかく読ませる筆で、モラエスという老年の西洋人の阿波の徳島での孤栖の生活が、詳細に描かれていた。古風のような描写だが、面白く読ませる、相当の力作だと見た。」 宇野浩二 67歳 全 ■ 4 「妙に凝ってあるが、その凝り方が凝りすぎ、唯しいていえば、趣向は面白いとしても、モラエスというどうにも書ける『異邦人』をもっとよく、現してほしかった。」

他の候補作 斯波四郎 「山塔」 垣花浩涛 「解体以前」 中村英良 「眼」 北杜夫 「谿間にて」 吉村昭 「貝殻」 林青梧 「橋《九月十一日》」 古田芳生 「三十六号室」

古田芳生39歳×各選考委員　 「三十六号室」 短篇 99枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川達三 54歳 全 △ 9 「非常におもしろい。」「どんな社会小説が生れるのかと思わせるが、社会小説にはなり切れずに、三十六号室の崩壊によって結末がつけられている。かんたんに崩壊させないで、三十六号室という問題を追及して見たかった。」「私には面白かった。」 丹羽文雄 54歳 全 ― 0   舟橋聖一 54歳 全 ― 0   井伏鱒二 61歳 全 ○ 10 「力作という点では（引用者中略）一票を入れたいが、報告的なところが気になるので迷わされた。」「（引用者注：「山塔」と「三十六号室」の）二つのうち、どちらかが取りあげられる話になったらそれに賛成する。――私は病気で銓衡会に出席できなかったので、そういう意味のことを（引用者中略）電話で伝えておいた。」 中村光夫 48歳 全 ■ 3 「（引用者注：「解体以前」と）似かよった出来で、古田氏の方がいくぶんすぐれていると思われます。」 永井龍男 55歳 全 △ 10 「「三十六号室」の主題に、私はもっとも惹かれたが、その扱い方には賛成出来なかった。」「もしこの（引用者注：冒頭の）題銘にゴーゴリの言葉を選ぶような作者の眼であったならば、「三十六号室」という皮肉な主題は、諷刺画として相当な効果を挙げたろうと私考する。」 川端康成 60歳 全 △ 10 「（引用者注：「解体以前」「眼」と共通して）今日の「流行小説」と言えるだろう。組織と人間に触れて、人間不信、自己喪失というような嫌悪から破滅に落ちてゆく。」「追いこみの結末は、私などには誇張が過ぎるように思われる。」「着想もすぐれ、これが入賞してもよさそうにも見える。」「（引用者注：「解体以前」と共に）作者の設置した人間関係のまがりくねりを、かなりよく追っている。」 佐藤春夫 67歳 全 ― 0   井上靖 52歳 全 ○ 4 「（引用者注：「解体以前」と共に）組織と人間の問題を追求した今日的作品であるが、この種の作品の中では共に力作であると思った。」「私は（引用者注：「解体以前」より）「三十六号室」の方をとった。」 瀧井孝作 65歳 全 ■ 2 「構想は面白いようだが、描写はヘタだと思った。」 宇野浩二 67歳 全 ・ 1

他の候補作 斯波四郎 「山塔」 垣花浩涛 「解体以前」 中村英良 「眼」 北杜夫 「谿間にて」 吉村昭 「貝殻」 林青梧 「橋《九月十一日》」 佃実夫 「ある異邦人の死」