第78回

第77回第79回

昭和52年/1977年下半期 昭和53年/1978年1月17日決定発表／『文藝春秋』昭和53年/1978年3月号選評掲載

選考委員　 丹羽文雄 73歳 大江健三郎 42歳 中村光夫 66歳 安岡章太郎 57歳 吉行淳之介 53歳 瀧井孝作 83歳 井上靖 70歳 遠藤周作 54歳 選評総行数　 25 30 31 26 23 28 19 38 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 宮本輝　「螢川」 125枚 30歳 評 □ 5 ■ 12 □ 10 ○ 9 ○ 8 ○ 4 ○ 6 ・ 4 高城修三　「榧の木祭り」 199枚 30歳 評 ◎ 19 ■ 12 □ 13 △ 13 ■ 10 ○ 19 △ 7 ・ 4 中野孝次　「鳥屋の日々」 131枚 53歳 評 ― 0 □ 8 △ 3 ― 0 ■ 5 ― 0 ◎ 9 ○ 15 光岡明　「湿舌」 79枚 45歳 評 □ 5 ― 0 ― 0 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 ■ 5 高橋揆一郎　「日蔭の椅子」 115枚 49歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 杉本研士　「蔦の翳り」 103枚 38歳 評 ― 0 □ 6 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 寺久保友哉　「火の影」 98枚 40歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 4 ― 0 ■ 3 中村昌義　「出立の冬」 134枚 (47歳) 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 ■ 4 欠席 書面回答               年齢/枚数の説明   見方・注意点

丹羽文雄73歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題今期の印象　総行数25　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮本輝 30歳 全 □ 5 「秀れていた。」「最後の螢の群舞のところで、生彩を放っている。それが鮮やかな出来栄えなので、びっくりするほどの感銘をうけた。」 高城修三 30歳 全 ◎ 19 「秀れていた。」「芥川賞として推したい。どこかの山村にある伝説であろう。それをみごとに小説化している。」「陰惨な小説になっても仕方がないのだが、この小説はロマンチックでさえある。最後まで祭りの真相を知らさず、描写によって納得させていくあたり、あざやかな腕前である。」「題材も珍しいものであるが、読みおえたあと、思わずあとを追わせるような小説である。」 中野孝次 53歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 □ 5 「秀れていた。」「記録物のつよさが、ものをいっている。父子の関係には、ひっかかるものがあったが、洪水の恐怖の印象は強烈であった。」 高橋揆一郎 49歳 全 ― 0   杉本研士 38歳 全 ― 0   寺久保友哉 40歳 全 ― 0   中村昌義 (47歳) 全 ― 0

他の選考委員 大江健三郎 中村光夫 安岡章太郎 吉行淳之介 瀧井孝作 井上靖 遠藤周作

大江健三郎42歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題書く必然性　総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮本輝 30歳 全 ■ 12 「授賞した二作については、僕はおおむね批判の言葉をはいた。」「いま現におなじ時代のうちに生きている若い作家が、ここにこのように書かねばならぬという、根本の動機がつたわってこない。」「しかし（引用者中略）イメージ喚起力は豊か」 高城修三 30歳 全 ■ 12 「授賞した二作については、僕はおおむね批判の言葉をはいた。」「今日の文明のなかに住んでそれ（引用者注：民俗的な小世界）をつくる手つきがすけて見える。」「むしろ文体や構成を民俗的なものから切りはなして、客体としてはっきり民俗的なものを表現する、その方法をとるべきではないかと僕は思う。」「しかし（引用者中略）知的腕力とでもいうものはたくましい」 中野孝次 53歳 全 □ 8 「平明に書かれているが、その文章の奥には、ドイツ現代文学の翻訳者として経験深い人らしい、層の複雑さが見える。ただ主題の展開についていえば、大工である父親とおなじ生涯へ踏みだしていた少年に、別の生き方がひらける、その転換のところまで書かなくては、前段階も生きてこない。」「そのような留保の気持があって、僕は（引用者中略）充分には弁護できなかったのである。」 光岡明 45歳 全 ― 0   高橋揆一郎 49歳 全 ― 0   杉本研士 38歳 全 □ 6 「様ざまなスタイルの文章を構成してゆく書き方が、確かに効果をあげているのだが、一貫しての文章の力への疑いも残すことにはなった。そのような留保の気持があって、僕は（引用者中略）充分には弁護できなかったのである。」 寺久保友哉 40歳 全 ― 0   中村昌義 (47歳) 全 ― 0

他の選考委員 丹羽文雄 中村光夫 安岡章太郎 吉行淳之介 瀧井孝作 井上靖 遠藤周作

中村光夫66歳×各候補作

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題甲乙つけがたし　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮本輝 30歳 全 □ 10 「最後まで残った三篇は、票数もまったく同じで、甲乙をつけ難かった」「はじめから一種の抒情性がみなぎっていて、それが結末の川の螢の描写で頂点に達します。それだけに主人公が、いくら子供でもいい気すぎて、人間関係の彫りが浅すぎるのが気になりますが、これだけの題材をまとめた構成力は立派といってよいでしょう。」 高城修三 30歳 全 □ 13 「最後まで残った三篇は、票数もまったく同じで、甲乙をつけ難かった」「たんに初歩の技術がうまいというだけのことであり、目はしのきく青年が、現代ばなれという現代風の題材を小器用にまとめただけという印象は拭えません。しかしこれだけの筆力も稀れな天分には違いないので、作者がもし自分の欠点に気付いて、工夫をこらしたら、多くのものが期待できると思います。」 中野孝次 53歳 全 △ 3 「最後まで残った三篇は、票数もまったく同じで、甲乙をつけ難かった」「強硬な否定的意見があったため、結局落ち、」 光岡明 45歳 全 ― 0   高橋揆一郎 49歳 全 ― 0   杉本研士 38歳 全 ― 0   寺久保友哉 40歳 全 ― 0   中村昌義 (47歳) 全 ― 0     「八篇の候補作のできが似たりよったりなので、予想通り、審査は難航しました。傑出した作品がない結果と云えますが、地味な精進を重ねてきた人々には、認められる好機でしょう。」

他の選考委員 丹羽文雄 大江健三郎 安岡章太郎 吉行淳之介 瀧井孝作 井上靖 遠藤周作

安岡章太郎57歳×各候補作

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題合せて一本　総行数26　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮本輝 30歳 全 ○ 9 「こんどの候補作中、最も難点がなく、文章にも一種独特の雰囲気があり、描写力にも見るべきものがあったが、その反面、何処といって新しさがあるわけでもなく、感受性の若わかしさが感じられるのでもない。」「これ一本を当選作とするのは、何としてもタメラわれた。」 高城修三 30歳 全 △ 13 「積極的に推せる作品ではなかった。「螢川」と違ってこれには一発かませてやろうというような野心はあり、そこに新しさがあるといえば言える。しかし、この作者には野望以外に何があるだろう。」「なかで使われている会話も、九州やら四国やら関東やら、あちこちの方言が練り合せてあるようで、そのこと自体をどうのこうのとは言わないが、作品を空疎なものにしていることはたしかだろう。」 中野孝次 53歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   高橋揆一郎 49歳 全 ― 0   杉本研士 38歳 全 ― 0   寺久保友哉 40歳 全 ― 0   中村昌義 (47歳) 全 ― 0     「一つの賞が二本立てになるのは、甲乙つけ難い作品が二本そろったときと、一本ではその賞に物足りないときで、だいたい後者の場合が多いのだが、こんどもそうだった。」

他の選考委員 丹羽文雄 大江健三郎 中村光夫 吉行淳之介 瀧井孝作 井上靖 遠藤周作

吉行淳之介53歳×各候補作

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題感想　総行数23　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮本輝 30歳 全 ○ 8 「私としては、宮本輝、光岡明、中村昌義、三氏の作品が頭にあった。」「前作「泥の河」の後半が良い意味での抽象的なものに達していた趣は、この作品にはなかった。しかし、全体としての完成度は、前作よりも高い。抒情が浮き上らずに、物自体に沁みこんでいるところが良い。」 高城修三 30歳 全 ■ 10 「筆力抜群だが、映像世代の青年が活字で現わした土俗風ミステリーという感じである。」「ストーリーのツジツマの合わないところが気になる。」 中野孝次 53歳 全 ■ 5 「沈着冷静な筆致に好感がもてた。ただ、主人公がどういう経緯で大学に進学することになったかというところまでは、読みたかった。」 光岡明 45歳 全 △ 2 「私としては、宮本輝、光岡明、中村昌義、三氏の作品が頭にあった。」 高橋揆一郎 49歳 全 ― 0   杉本研士 38歳 全 ― 0   寺久保友哉 40歳 全 ― 0   中村昌義 (47歳) 全 △ 2 「私としては、宮本輝、光岡明、中村昌義、三氏の作品が頭にあった。」   「今回の八篇は、抜群のものはないにしても、それぞれ水準に達している作品で、それが授賞作になってもそれほど不思議ではないとおもっていた。」

他の選考委員 丹羽文雄 大江健三郎 中村光夫 安岡章太郎 瀧井孝作 井上靖 遠藤周作

瀧井孝作83歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題山村奇話　総行数28　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮本輝 30歳 全 ○ 4 「越中弁で描いてあってもわかりやすい作で、しまいの螢の光景は、この世のものとも思えない程、美しい感じがした。」 高城修三 30歳 全 ○ 19 「人の名は片カナ、言葉も方言、一寸わかりにくいところも多いが、それもむかしの土俗の厚味のようにも感じられて、私は面白く読んだ。」「手のこんだ佳い作品で宜しいが……。只一ばんしまいの場面、（引用者中略）ガシンの場合だけ何故生埋めにされるのか、これは、何故か、私は作者に質したいような気持もした。」 中野孝次 53歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   高橋揆一郎 49歳 全 ― 0   杉本研士 38歳 全 ― 0   寺久保友哉 40歳 全 ■ 4 「私小説のような父の病死の話だが、私小説としては力が弱いかと思った。」 中村昌義 (47歳) 全 ― 0

他の選考委員 丹羽文雄 大江健三郎 中村光夫 安岡章太郎 吉行淳之介 井上靖 遠藤周作

井上靖70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題佳作三篇　総行数19　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮本輝 30歳 全 ○ 6 「（引用者注：「鳥屋の日々」に次いで）上位に置いた。」「久しぶりの抒情小説といった感じで、実にうまい読みものである。読みものであっても、これだけ達者に書いてあれば、芥川賞作品として採りたくなる。」 高城修三 30歳 全 △ 7 「これはこれで充分面白く読んだ。ただ、こうした土俗的世界を取り扱う場合、こうした世界を取り扱わざるを得ない作者の心の落款のようなものが捺されてなければならないが、それは感じられなかった。」 中野孝次 53歳 全 ◎ 9 「上位に置いた。」「小説的配慮はなされていないが、それだけに少年の心と姿はよく描かれていて、刻みつけてゆくような多少強引な書き方の中に、ある迫力を感じた。」 光岡明 45歳 全 ― 0   高橋揆一郎 49歳 全 ― 0   杉本研士 38歳 全 ― 0   寺久保友哉 40歳 全 ― 0   中村昌義 (47歳) 全 ― 0     「候補作八篇、それぞれ特色があって面白く読んだ」

他の選考委員 丹羽文雄 大江健三郎 中村光夫 安岡章太郎 吉行淳之介 瀧井孝作 遠藤周作

遠藤周作54歳×各候補作

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題受賞しなかった三つの作品について　総行数38　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 宮本輝 30歳 全 ・ 4 「授賞二作品については多くの評がこれからなされるだろう」 高城修三 30歳 全 ・ 4 「授賞二作品については多くの評がこれからなされるだろう」 中野孝次 53歳 全 ○ 15 「私の好意を持った（引用者中略）作品」「一人の職人の家庭に生れた少年のいわば成長小説ともいうべき作品で、おそらく今後も作者は続篇を書かれるだろうと思う。」「少年が父と違った生き方を選ぶそのクライマックスは今回の作品だけでは足りないと思った。」「だが私にとってはこの続篇を期待させるほど、手がたい、好ましい作品であったことを報告しておく。」 光岡明 45歳 全 ■ 5 「誰でも感ずるように洪水の描写はいい。しかし私にはこの圧倒的な洪水の描写をした以上、それに対応するだけその洪水で死ぬ父の描写が書かれていなければならぬと思われる。この二つのバランスがとれていない。」 高橋揆一郎 49歳 全 ― 0   杉本研士 38歳 全 ― 0   寺久保友哉 40歳 全 ■ 3 「銓衡会でもその器用さが今までよりも目だち、浮きあがってきたことが問題になったが、私も同感である。」 中村昌義 (47歳) 全 ■ 4 「もう少し支持があると思って出席したが、支持が少かったのはこの主人公に魅力がないためであろう。そして文章と運びとにはりつめたものが根本的に欠けているためであろう。」   「授賞作が決った翌日、某新聞で今回の銓衡会は芥川賞の最近の「暴走」を避けるため、わざと地味な作品を選んだという記事がのっていた。」「しかし（少くとも私の知る限り）文学賞の銓衡会では授賞作を選ぶまで幾度も銓衡委員の自由で率直な意見の交換と討議があり、その結果、多数決、あるいは全委員の了承の上で授賞作のある、なしが決るのである。」

他の選考委員 丹羽文雄 大江健三郎 中村光夫 安岡章太郎 吉行淳之介 瀧井孝作 井上靖

宮本輝30歳×各選考委員　 「螢川」 短篇 125枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 □ 5 「秀れていた。」「最後の螢の群舞のところで、生彩を放っている。それが鮮やかな出来栄えなので、びっくりするほどの感銘をうけた。」 大江健三郎 42歳 全 ■ 12 「授賞した二作については、僕はおおむね批判の言葉をはいた。」「いま現におなじ時代のうちに生きている若い作家が、ここにこのように書かねばならぬという、根本の動機がつたわってこない。」「しかし（引用者中略）イメージ喚起力は豊か」 中村光夫 66歳 全 □ 10 「最後まで残った三篇は、票数もまったく同じで、甲乙をつけ難かった」「はじめから一種の抒情性がみなぎっていて、それが結末の川の螢の描写で頂点に達します。それだけに主人公が、いくら子供でもいい気すぎて、人間関係の彫りが浅すぎるのが気になりますが、これだけの題材をまとめた構成力は立派といってよいでしょう。」 安岡章太郎 57歳 全 ○ 9 「こんどの候補作中、最も難点がなく、文章にも一種独特の雰囲気があり、描写力にも見るべきものがあったが、その反面、何処といって新しさがあるわけでもなく、感受性の若わかしさが感じられるのでもない。」「これ一本を当選作とするのは、何としてもタメラわれた。」 吉行淳之介 53歳 全 ○ 8 「私としては、宮本輝、光岡明、中村昌義、三氏の作品が頭にあった。」「前作「泥の河」の後半が良い意味での抽象的なものに達していた趣は、この作品にはなかった。しかし、全体としての完成度は、前作よりも高い。抒情が浮き上らずに、物自体に沁みこんでいるところが良い。」 瀧井孝作 83歳 全 ○ 4 「越中弁で描いてあってもわかりやすい作で、しまいの螢の光景は、この世のものとも思えない程、美しい感じがした。」 井上靖 70歳 全 ○ 6 「（引用者注：「鳥屋の日々」に次いで）上位に置いた。」「久しぶりの抒情小説といった感じで、実にうまい読みものである。読みものであっても、これだけ達者に書いてあれば、芥川賞作品として採りたくなる。」 遠藤周作 54歳 全 ・ 4 「授賞二作品については多くの評がこれからなされるだろう」

他の候補作 高城修三 「榧の木祭り」 中野孝次 「鳥屋の日々」 光岡明 「湿舌」 高橋揆一郎 「日蔭の椅子」 杉本研士 「蔦の翳り」 寺久保友哉 「火の影」 中村昌義 「出立の冬」

高城修三30歳×各選考委員　 「榧の木祭り」 中篇 199枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ◎ 19 「秀れていた。」「芥川賞として推したい。どこかの山村にある伝説であろう。それをみごとに小説化している。」「陰惨な小説になっても仕方がないのだが、この小説はロマンチックでさえある。最後まで祭りの真相を知らさず、描写によって納得させていくあたり、あざやかな腕前である。」「題材も珍しいものであるが、読みおえたあと、思わずあとを追わせるような小説である。」 大江健三郎 42歳 全 ■ 12 「授賞した二作については、僕はおおむね批判の言葉をはいた。」「今日の文明のなかに住んでそれ（引用者注：民俗的な小世界）をつくる手つきがすけて見える。」「むしろ文体や構成を民俗的なものから切りはなして、客体としてはっきり民俗的なものを表現する、その方法をとるべきではないかと僕は思う。」「しかし（引用者中略）知的腕力とでもいうものはたくましい」 中村光夫 66歳 全 □ 13 「最後まで残った三篇は、票数もまったく同じで、甲乙をつけ難かった」「たんに初歩の技術がうまいというだけのことであり、目はしのきく青年が、現代ばなれという現代風の題材を小器用にまとめただけという印象は拭えません。しかしこれだけの筆力も稀れな天分には違いないので、作者がもし自分の欠点に気付いて、工夫をこらしたら、多くのものが期待できると思います。」 安岡章太郎 57歳 全 △ 13 「積極的に推せる作品ではなかった。「螢川」と違ってこれには一発かませてやろうというような野心はあり、そこに新しさがあるといえば言える。しかし、この作者には野望以外に何があるだろう。」「なかで使われている会話も、九州やら四国やら関東やら、あちこちの方言が練り合せてあるようで、そのこと自体をどうのこうのとは言わないが、作品を空疎なものにしていることはたしかだろう。」 吉行淳之介 53歳 全 ■ 10 「筆力抜群だが、映像世代の青年が活字で現わした土俗風ミステリーという感じである。」「ストーリーのツジツマの合わないところが気になる。」 瀧井孝作 83歳 全 ○ 19 「人の名は片カナ、言葉も方言、一寸わかりにくいところも多いが、それもむかしの土俗の厚味のようにも感じられて、私は面白く読んだ。」「手のこんだ佳い作品で宜しいが……。只一ばんしまいの場面、（引用者中略）ガシンの場合だけ何故生埋めにされるのか、これは、何故か、私は作者に質したいような気持もした。」 井上靖 70歳 全 △ 7 「これはこれで充分面白く読んだ。ただ、こうした土俗的世界を取り扱う場合、こうした世界を取り扱わざるを得ない作者の心の落款のようなものが捺されてなければならないが、それは感じられなかった。」 遠藤周作 54歳 全 ・ 4 「授賞二作品については多くの評がこれからなされるだろう」

他の候補作 宮本輝 「螢川」 中野孝次 「鳥屋の日々」 光岡明 「湿舌」 高橋揆一郎 「日蔭の椅子」 杉本研士 「蔦の翳り」 寺久保友哉 「火の影」 中村昌義 「出立の冬」

中野孝次53歳×各選考委員　 「鳥屋の日々」 短篇 131枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ― 0   大江健三郎 42歳 全 □ 8 「平明に書かれているが、その文章の奥には、ドイツ現代文学の翻訳者として経験深い人らしい、層の複雑さが見える。ただ主題の展開についていえば、大工である父親とおなじ生涯へ踏みだしていた少年に、別の生き方がひらける、その転換のところまで書かなくては、前段階も生きてこない。」「そのような留保の気持があって、僕は（引用者中略）充分には弁護できなかったのである。」 中村光夫 66歳 全 △ 3 「最後まで残った三篇は、票数もまったく同じで、甲乙をつけ難かった」「強硬な否定的意見があったため、結局落ち、」 安岡章太郎 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 53歳 全 ■ 5 「沈着冷静な筆致に好感がもてた。ただ、主人公がどういう経緯で大学に進学することになったかというところまでは、読みたかった。」 瀧井孝作 83歳 全 ― 0   井上靖 70歳 全 ◎ 9 「上位に置いた。」「小説的配慮はなされていないが、それだけに少年の心と姿はよく描かれていて、刻みつけてゆくような多少強引な書き方の中に、ある迫力を感じた。」 遠藤周作 54歳 全 ○ 15 「私の好意を持った（引用者中略）作品」「一人の職人の家庭に生れた少年のいわば成長小説ともいうべき作品で、おそらく今後も作者は続篇を書かれるだろうと思う。」「少年が父と違った生き方を選ぶそのクライマックスは今回の作品だけでは足りないと思った。」「だが私にとってはこの続篇を期待させるほど、手がたい、好ましい作品であったことを報告しておく。」

他の候補作 宮本輝 「螢川」 高城修三 「榧の木祭り」 光岡明 「湿舌」 高橋揆一郎 「日蔭の椅子」 杉本研士 「蔦の翳り」 寺久保友哉 「火の影」 中村昌義 「出立の冬」

光岡明45歳×各選考委員　 「湿舌」 短篇 79枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 □ 5 「秀れていた。」「記録物のつよさが、ものをいっている。父子の関係には、ひっかかるものがあったが、洪水の恐怖の印象は強烈であった。」 大江健三郎 42歳 全 ― 0   中村光夫 66歳 全 ― 0   安岡章太郎 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 53歳 全 △ 2 「私としては、宮本輝、光岡明、中村昌義、三氏の作品が頭にあった。」 瀧井孝作 83歳 全 ― 0   井上靖 70歳 全 ― 0   遠藤周作 54歳 全 ■ 5 「誰でも感ずるように洪水の描写はいい。しかし私にはこの圧倒的な洪水の描写をした以上、それに対応するだけその洪水で死ぬ父の描写が書かれていなければならぬと思われる。この二つのバランスがとれていない。」	他の候補作 宮本輝 「螢川」 高城修三 「榧の木祭り」 中野孝次 「鳥屋の日々」 高橋揆一郎 「日蔭の椅子」 杉本研士 「蔦の翳り」 寺久保友哉 「火の影」 中村昌義 「出立の冬」

高橋揆一郎49歳×各選考委員　 「日蔭の椅子」 短篇 115枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ― 0   大江健三郎 42歳 全 ― 0   中村光夫 66歳 全 ― 0   安岡章太郎 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 53歳 全 ― 0   瀧井孝作 83歳 全 ― 0   井上靖 70歳 全 ― 0   遠藤周作 54歳 全 ― 0	他の候補作 宮本輝 「螢川」 高城修三 「榧の木祭り」 中野孝次 「鳥屋の日々」 光岡明 「湿舌」 杉本研士 「蔦の翳り」 寺久保友哉 「火の影」 中村昌義 「出立の冬」

杉本研士38歳×各選考委員　 「蔦の翳り」 短篇 103枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ― 0   大江健三郎 42歳 全 □ 6 「様ざまなスタイルの文章を構成してゆく書き方が、確かに効果をあげているのだが、一貫しての文章の力への疑いも残すことにはなった。そのような留保の気持があって、僕は（引用者中略）充分には弁護できなかったのである。」 中村光夫 66歳 全 ― 0   安岡章太郎 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 53歳 全 ― 0   瀧井孝作 83歳 全 ― 0   井上靖 70歳 全 ― 0   遠藤周作 54歳 全 ― 0	他の候補作 宮本輝 「螢川」 高城修三 「榧の木祭り」 中野孝次 「鳥屋の日々」 光岡明 「湿舌」 高橋揆一郎 「日蔭の椅子」 寺久保友哉 「火の影」 中村昌義 「出立の冬」

寺久保友哉40歳×各選考委員　 「火の影」 短篇 98枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ― 0   大江健三郎 42歳 全 ― 0   中村光夫 66歳 全 ― 0   安岡章太郎 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 53歳 全 ― 0   瀧井孝作 83歳 全 ■ 4 「私小説のような父の病死の話だが、私小説としては力が弱いかと思った。」 井上靖 70歳 全 ― 0   遠藤周作 54歳 全 ■ 3 「銓衡会でもその器用さが今までよりも目だち、浮きあがってきたことが問題になったが、私も同感である。」	他の候補作 宮本輝 「螢川」 高城修三 「榧の木祭り」 中野孝次 「鳥屋の日々」 光岡明 「湿舌」 高橋揆一郎 「日蔭の椅子」 杉本研士 「蔦の翳り」 中村昌義 「出立の冬」

中村昌義(47歳)×各選考委員　 「出立の冬」 短篇 134枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ― 0   大江健三郎 42歳 全 ― 0   中村光夫 66歳 全 ― 0   安岡章太郎 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 53歳 全 △ 2 「私としては、宮本輝、光岡明、中村昌義、三氏の作品が頭にあった。」 瀧井孝作 83歳 全 ― 0   井上靖 70歳 全 ― 0   遠藤周作 54歳 全 ■ 4 「もう少し支持があると思って出席したが、支持が少かったのはこの主人公に魅力がないためであろう。そして文章と運びとにはりつめたものが根本的に欠けているためであろう。」	他の候補作 宮本輝 「螢川」 高城修三 「榧の木祭り」 中野孝次 「鳥屋の日々」 光岡明 「湿舌」 高橋揆一郎 「日蔭の椅子」 杉本研士 「蔦の翳り」 寺久保友哉 「火の影」