第79回

第78回第80回

昭和53年/1978年上半期 昭和53年/1978年7月14日決定発表／『文藝春秋』昭和53年/1978年9月号選評掲載

選考委員　 丹羽文雄 73歳 中村光夫 67歳 大江健三郎 43歳 開高健 47歳 安岡章太郎 58歳 吉行淳之介 54歳 丸谷才一 52歳 瀧井孝作 84歳 遠藤周作 55歳 井上靖 71歳 選評総行数　 26 29 30 32 32 24 31 30 30 20 評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 高橋三千綱　「九月の空」 114枚 30歳 評 △ 3 ○ 10 ◎ 11 △ 3 △ 10 ○ 6 ■ 2 ◎ 12 ○ 8 □ 7 高橋揆一郎　「伸予」 144枚 50歳 評 ○ 11 ○ 13 □ 12 △ 3 ○ 12 ○ 11 ◎ 9 □ 18 ○ 10 □ 7 増田みず子　「個室の鍵」 76枚 29歳 評 △ 16 ■ 4 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 光岡明　「草と草との距離」 144枚 45歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 重兼芳子　「ベビーフード」 77枚 51歳 評 ― 0 ■ 3 ― 0 ― 0 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 金鶴泳　「鑿（のみ）」 87枚 39歳 評 ― 0 ― 0 △ 9 ― 0 △ 10 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 △ 3 中野孝次　「雪ふる年よ」 176枚 53歳 評 ― 0 ― 0 △ 9 ◎ 11 ― 0 △ 5 △ 20 ― 0 △ 18 ○ 8                     年齢/枚数の説明   見方・注意点

丹羽文雄73歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数26　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 △ 3 「当選は、大体予想されていた。」「今後を期待する」 高橋揆一郎 50歳 全 ○ 11 「当選は、大体予想されていた。」「もう立派に出来ている作家であった。」「選者の中には作品と作者がつながっていないといっていた者がいたが、その評はきびしいと私は思った。」「作者の顔が容易にくみとれる場合もあれば、いくつもの顔をもっている作家もいる。私は「伸予」に十分作者を感じた。」 増田みず子 29歳 全 △ 16 「私だけが問題にしたが、他の選者は口をそろえて否定した。もちろんその作品が当選するとは思っていなかったが、その文体は一応とりあげてみるだけの価値はあると思った。」「よみやすい文体の中にこういうよみ辛い文体が出ているのが面白いと思った。下宿屋の男たちが共同体をつくって、何を熱心に討論しているかと思ったら、農業をやりたいというのだ。それがこの作品の幼稚なしかも致命的な欠点であった。」 光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 ― 0   金鶴泳 39歳 全 ― 0   中野孝次 53歳 全 ― 0

他の選考委員 中村光夫 大江健三郎 開高健 安岡章太郎 吉行淳之介 丸谷才一 瀧井孝作 遠藤周作 井上靖

中村光夫67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題熟練の賜　総行数29　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 ○ 10 「題名通り、初秋の空のように爽やかな小説です。思春期を扱って厭味でなく、いわゆる青春小説が文学になり得た稀な例でしょう。」「とくに前半の少年の友情を描いた部分はすぐれていますが、後半に少女が登場すると急に筆がみだれて、興を削がれます。」 高橋揆一郎 50歳 全 ○ 13 「読者の共感を得難い老女の恋を描いて、いつのまにか彼女の心情の動きに引きこむのは凡手でありません。」「滑稽とも醜怪とも思える彼女の心の動きが、つまりは人間の姿なのだろうか。こんなことを考えさせられます。」 増田みず子 29歳 全 ■ 4 「自分の世界を持つ作品というだけで、当選は未だしというほかありません。」 光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 ■ 3 「自分の世界を持つ作品というだけで、当選は未だしというほかありません。」 金鶴泳 39歳 全 ― 0   中野孝次 53歳 全 ― 0

他の選考委員 丹羽文雄 大江健三郎 開高健 安岡章太郎 吉行淳之介 丸谷才一 瀧井孝作 遠藤周作 井上靖

大江健三郎43歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題短篇の「かたち」　総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 ◎ 11 「あえて僕はここに、前作にくらべてあきらかな方法の意識の深まりを見る。」「僕はこの一篇が作者の構想とは別に、独立した短篇と読みとりうるものとみなして、この作品を推した。」 高橋揆一郎 50歳 全 □ 12 「短篇の「かたち」をそなえた、いかにも小説らしい小説ということを第一に考えているのがあきらかな、高橋揆一郎『伸予』の受賞に僕は反対しない。ただ（引用者中略）小説らしい「かたち」をこわすほどの、作家に自発する主題というものをもとめたい気はする。そしてそれがこの作品に明確にあるかどうか、と判断を留保する。」 増田みず子 29歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 ― 0   金鶴泳 39歳 全 △ 9 「（引用者注：「雪ふる年よ」と共に）前作の世界をさらに深めている。文章も充分な力をそなえているし、（引用者中略）主題をになう人物たちも、その社会、時代との関わりともども、入念に表現されている。」「僕が（引用者中略）積極的に票を投じなかったのは、ただこれらが、独立した短篇であるよりも、大きい長篇、あるいは連作としてまとまった時にこそ力を発揮すると考えるからであり、そのほかではない。」 中野孝次 53歳 全 △ 9 「（引用者注：「鑿（のみ）」と共に）前作の世界をさらに深めている。文章も充分な力をそなえているし、（引用者中略）主題をになう人物たちも、その社会、時代との関わりともども、入念に表現されている。」「僕が（引用者中略）積極的に票を投じなかったのは、ただこれらが、独立した短篇であるよりも、大きい長篇、あるいは連作としてまとまった時にこそ力を発揮すると考えるからであり、そのほかではない。」

他の選考委員 丹羽文雄 中村光夫 開高健 安岡章太郎 吉行淳之介 丸谷才一 瀧井孝作 遠藤周作 井上靖

開高健47歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題器用さはあるが才能がない　総行数32　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 △ 3 「悪くはないけれど支持熱は消極的だというのが、私の立場である。」 高橋揆一郎 50歳 全 △ 3 「悪くはないけれど支持熱は消極的だというのが、私の立場である。」 増田みず子 29歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 ― 0   金鶴泳 39歳 全 ― 0   中野孝次 53歳 全 ◎ 11 「終始、（引用者中略）支持した。この作品は見るからに野暮で、不器用で、ギクシャクし、欠点はいくらでもある。しかし、それらのマイナスを蔽って全体に発熱していて、なぜこの作品が書かれなければならなかったかが、じわじわと伝ってくるのである。つまり、第一の美徳がある。」「しかし、前回に候補になった作品のほうがずっと出来がいいという声が多く、私はその作品を読んでいないものだから、結局、譲らざるを得なかった。」   「この賞も、何の賞も、審査員としては心得は一つしかないと私は思っている。つまり、正直が最善の策。」「今回の七つの候補作は一、二の例外を別とすれば、読後感がそれぞれそっくりである。過もなく、不足もなく、ソツがないのだが、クー・ド・グラース（止めの一撃）を欠いているという一点で、みな、よく似ている。」

他の選考委員 丹羽文雄 中村光夫 大江健三郎 安岡章太郎 吉行淳之介 丸谷才一 瀧井孝作 遠藤周作 井上靖

安岡章太郎58歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題青い実の色づく頃　総行数32　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 △ 10 「何ということもない高校生の感情が剣道の試合をつうじて描かれているだけのものだが、その仕上りは爽やかである。しかし高校生同士の会話に、テレビドラマのセリフを繰り返しているような常套句が多いのは、或る程度止むを得ないことだろうが、地の文章にもそれは影響をあたえており、全体の印象は稀薄である。」 高橋揆一郎 50歳 全 ○ 12 「一種ふしぎな作風である。」「こんどの「伸予」（なんてヘンな名前だろう）にも何か名状し難い色気がある。中学生と女教師の恋愛はよくあることだろうが、それが三十年ちかくもたって、また燃え上るというのは尋常でない。単に昔の憶い出という以上に、他の契機がありそうなものだが、それについての説明は何もない。それでいながら別段不自然を感じさせることもなく、ストーリイを引っぱって行く点、なかなかの力量であろう。」 増田みず子 29歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 ― 0   金鶴泳 39歳 全 △ 10 「印象に残った。それは朝鮮人の母親が、十八歳で単身日本へ渡ってくるとき、さまざまの苦労をかさねながら、それでも貧しい朝鮮にいるよりはという気持で、不安よりも期待に胸をふくらますことが書かれているためだ。」 中野孝次 53歳 全 ― 0

他の選考委員 丹羽文雄 中村光夫 大江健三郎 開高健 吉行淳之介 丸谷才一 瀧井孝作 遠藤周作 井上靖

吉行淳之介54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数24　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 ○ 6 「以前に候補になった「五月の傾斜」の続篇といえるものだが、作家としての力が増し、彫りの深い作品になった。」「さまざまなタイプの少年を描くことによって、男性の思春期というものを追究し、その本質がいつの時代にも変らないことを示したのは、手柄である。」 高橋揆一郎 50歳 全 ○ 11 「初老の女をあえて主人公にしたその力業が、うまく進んでいっているが、大江氏が指摘したように、作品世界と作者のつながりについてやはり曖昧なところができている。しかし、その力量はあきらかなので、作者のために弁じる用意が多少あった。しかし、予想外に票が集まった。」 増田みず子 29歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 △ 2 「将来有望とおもった。」 金鶴泳 39歳 全 ― 0   中野孝次 53歳 全 △ 5 「好意をもって読んだ。しかし、叙述のあいだから起き上ってくるものが、前作よりも少い。当選作にくらべて劣るわけではないが、なによりも、長篇の一部というところに、難点がある。」

他の選考委員 丹羽文雄 中村光夫 大江健三郎 開高健 安岡章太郎 丸谷才一 瀧井孝作 遠藤周作 井上靖

丸谷才一52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題人情話と教養小説　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 ■ 2 「格別の感想が浮ばなかつた。」 高橋揆一郎 50歳 全 ◎ 9 「ずいぶん上手な人情話である。これだけの技巧を見せられたら、いちおう感心するのが見物の態度だらう。さういふ意味でわたしは票を入れた。」「ただし、おしまひのところがいかにも芸がない。」「終り方がをかしいせゐで、女主人公のイメージが狂つて来るし、それに、後味がずいぶん悪くなるのである。」 増田みず子 29歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 ― 0   金鶴泳 39歳 全 ― 0   中野孝次 53歳 全 △ 20 「前作『鳥屋の日々』にくらべればかなり落ちる。殊に、おしまひのところが、（引用者中略）作者まで喜んでばかりゐるので、うはついた感じになつてしまつた。」「とはいふものの、これだけこみいつた事柄を、一糸みだれずとはゆかないまでもしかしわりあひ整然と書き進めてゆく筆力は、注目に価するだらう。」「欠点と裏はらに彼が持つてゐる美質を見のがしてはならない。」

他の選考委員 丹羽文雄 中村光夫 大江健三郎 開高健 安岡章太郎 吉行淳之介 瀧井孝作 遠藤周作 井上靖

瀧井孝作84歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題うまい短篇　総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 ◎ 12 「剣道の試合の描写もしっかりしてうまいが、それに女学生が出てくると匂うように花やかで、うまい短篇に仕立ててある。私は、よい作家が出てきたと注目した。」 高橋揆一郎 50歳 全 □ 18 「寡婦のさびしい告白、繰り言の小説で、これは前半は面白いが、後半は男に捨てられてからあとが長すぎて、少ししまりがない作と見えた。私は、この作者の『新潮』八月号に出した、「別ればなし」も読んで、「伸予」よりも「別ればなし」の方がよいと見た。」 増田みず子 29歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 ― 0   金鶴泳 39歳 全 ― 0   中野孝次 53歳 全 ― 0	他の選考委員 丹羽文雄 中村光夫 大江健三郎 開高健 安岡章太郎 吉行淳之介 丸谷才一 遠藤周作 井上靖

遠藤周作55歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題個人的感想　総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 ○ 8 「これまでの氏の作品より優れていて、読後、あと味のいい小説だった。」「ひねくりまわした疎外小説やしらけ小説が多い昨今、好感が持てる作品だ。」 高橋揆一郎 50歳 全 ○ 10 「年下の男に長い愛情を持つ年輩の女の心理を探った小説だがその丁寧な描写と心の動きの掴えかたには感心した。」「（引用者注：年輩の女の心理分析が）類型的なところが多少、気になったが、しかし小説のうまさという点では今度の候補作のなかで一番である。」 増田みず子 29歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 ― 0   金鶴泳 39歳 全 ― 0   中野孝次 53歳 全 △ 18 「今度もまた残念だった。私は前回の候補作で今度の作品の序曲となった作品のほうが好ましかった。」「いずれにしろこういう連作はすべて完成してから判断すべきで、その一部を短篇（原文傍点）として考えると作者に気の毒な結果になる。」「そのため授賞からはずれたが、この連作の完成を心から祈りたい。」

他の選考委員 丹羽文雄 中村光夫 大江健三郎 開高健 安岡章太郎 吉行淳之介 丸谷才一 瀧井孝作 井上靖

井上靖71歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題読後感　総行数20　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 高橋三千綱 30歳 全 □ 7 「銓衡の席上で、誰かが青春を、青春の時点で書いていると言っていたと思うが、確かにそういう作品だと思う。汚れのないのびのびとした筆である。」 高橋揆一郎 50歳 全 □ 7 「うまい作品である。一人の五十近い女を書こうとして、正面から組んでいる。前の「観音力疾走」の凄さはないが、それだけにうまくなっている。」 増田みず子 29歳 全 ― 0   光岡明 45歳 全 ― 0   重兼芳子 51歳 全 ― 0   金鶴泳 39歳 全 △ 3 「（引用者注：「雪ふる年よ」）」と共に）候補作の七篇の中で、作者がどうしても書かなければならぬ主題と取り組んでいる」 中野孝次 53歳 全 ○ 8 「一番よみごたえがあった。しゃれたところなどなく、むしろ不器用に書いているが、とにかく戦時下の、私などの知らない一つの青春を、ひたむきに書こうとし、書ききっていると思う。」「（引用者注：「鑿（のみ）」と共に）候補作の七篇の中で、作者がどうしても書かなければならぬ主題と取り組んでいる」

他の選考委員 丹羽文雄 中村光夫 大江健三郎 開高健 安岡章太郎 吉行淳之介 丸谷才一 瀧井孝作 遠藤周作

高橋三千綱30歳×各選考委員　 「九月の空」 短篇 114枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 △ 3 「当選は、大体予想されていた。」「今後を期待する」 中村光夫 67歳 全 ○ 10 「題名通り、初秋の空のように爽やかな小説です。思春期を扱って厭味でなく、いわゆる青春小説が文学になり得た稀な例でしょう。」「とくに前半の少年の友情を描いた部分はすぐれていますが、後半に少女が登場すると急に筆がみだれて、興を削がれます。」 大江健三郎 43歳 全 ◎ 11 「あえて僕はここに、前作にくらべてあきらかな方法の意識の深まりを見る。」「僕はこの一篇が作者の構想とは別に、独立した短篇と読みとりうるものとみなして、この作品を推した。」 開高健 47歳 全 △ 3 「悪くはないけれど支持熱は消極的だというのが、私の立場である。」 安岡章太郎 58歳 全 △ 10 「何ということもない高校生の感情が剣道の試合をつうじて描かれているだけのものだが、その仕上りは爽やかである。しかし高校生同士の会話に、テレビドラマのセリフを繰り返しているような常套句が多いのは、或る程度止むを得ないことだろうが、地の文章にもそれは影響をあたえており、全体の印象は稀薄である。」 吉行淳之介 54歳 全 ○ 6 「以前に候補になった「五月の傾斜」の続篇といえるものだが、作家としての力が増し、彫りの深い作品になった。」「さまざまなタイプの少年を描くことによって、男性の思春期というものを追究し、その本質がいつの時代にも変らないことを示したのは、手柄である。」 丸谷才一 52歳 全 ■ 2 「格別の感想が浮ばなかつた。」 瀧井孝作 84歳 全 ◎ 12 「剣道の試合の描写もしっかりしてうまいが、それに女学生が出てくると匂うように花やかで、うまい短篇に仕立ててある。私は、よい作家が出てきたと注目した。」 遠藤周作 55歳 全 ○ 8 「これまでの氏の作品より優れていて、読後、あと味のいい小説だった。」「ひねくりまわした疎外小説やしらけ小説が多い昨今、好感が持てる作品だ。」 井上靖 71歳 全 □ 7 「銓衡の席上で、誰かが青春を、青春の時点で書いていると言っていたと思うが、確かにそういう作品だと思う。汚れのないのびのびとした筆である。」

他の候補作 高橋揆一郎 「伸予」 増田みず子 「個室の鍵」 光岡明 「草と草との距離」 重兼芳子 「ベビーフード」 金鶴泳 「鑿（のみ）」 中野孝次 「雪ふる年よ」

高橋揆一郎50歳×各選考委員　 「伸予」 短篇 144枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ○ 11 「当選は、大体予想されていた。」「もう立派に出来ている作家であった。」「選者の中には作品と作者がつながっていないといっていた者がいたが、その評はきびしいと私は思った。」「作者の顔が容易にくみとれる場合もあれば、いくつもの顔をもっている作家もいる。私は「伸予」に十分作者を感じた。」 中村光夫 67歳 全 ○ 13 「読者の共感を得難い老女の恋を描いて、いつのまにか彼女の心情の動きに引きこむのは凡手でありません。」「滑稽とも醜怪とも思える彼女の心の動きが、つまりは人間の姿なのだろうか。こんなことを考えさせられます。」 大江健三郎 43歳 全 □ 12 「短篇の「かたち」をそなえた、いかにも小説らしい小説ということを第一に考えているのがあきらかな、高橋揆一郎『伸予』の受賞に僕は反対しない。ただ（引用者中略）小説らしい「かたち」をこわすほどの、作家に自発する主題というものをもとめたい気はする。そしてそれがこの作品に明確にあるかどうか、と判断を留保する。」 開高健 47歳 全 △ 3 「悪くはないけれど支持熱は消極的だというのが、私の立場である。」 安岡章太郎 58歳 全 ○ 12 「一種ふしぎな作風である。」「こんどの「伸予」（なんてヘンな名前だろう）にも何か名状し難い色気がある。中学生と女教師の恋愛はよくあることだろうが、それが三十年ちかくもたって、また燃え上るというのは尋常でない。単に昔の憶い出という以上に、他の契機がありそうなものだが、それについての説明は何もない。それでいながら別段不自然を感じさせることもなく、ストーリイを引っぱって行く点、なかなかの力量であろう。」 吉行淳之介 54歳 全 ○ 11 「初老の女をあえて主人公にしたその力業が、うまく進んでいっているが、大江氏が指摘したように、作品世界と作者のつながりについてやはり曖昧なところができている。しかし、その力量はあきらかなので、作者のために弁じる用意が多少あった。しかし、予想外に票が集まった。」 丸谷才一 52歳 全 ◎ 9 「ずいぶん上手な人情話である。これだけの技巧を見せられたら、いちおう感心するのが見物の態度だらう。さういふ意味でわたしは票を入れた。」「ただし、おしまひのところがいかにも芸がない。」「終り方がをかしいせゐで、女主人公のイメージが狂つて来るし、それに、後味がずいぶん悪くなるのである。」 瀧井孝作 84歳 全 □ 18 「寡婦のさびしい告白、繰り言の小説で、これは前半は面白いが、後半は男に捨てられてからあとが長すぎて、少ししまりがない作と見えた。私は、この作者の『新潮』八月号に出した、「別ればなし」も読んで、「伸予」よりも「別ればなし」の方がよいと見た。」 遠藤周作 55歳 全 ○ 10 「年下の男に長い愛情を持つ年輩の女の心理を探った小説だがその丁寧な描写と心の動きの掴えかたには感心した。」「（引用者注：年輩の女の心理分析が）類型的なところが多少、気になったが、しかし小説のうまさという点では今度の候補作のなかで一番である。」 井上靖 71歳 全 □ 7 「うまい作品である。一人の五十近い女を書こうとして、正面から組んでいる。前の「観音力疾走」の凄さはないが、それだけにうまくなっている。」

他の候補作 高橋三千綱 「九月の空」 増田みず子 「個室の鍵」 光岡明 「草と草との距離」 重兼芳子 「ベビーフード」 金鶴泳 「鑿（のみ）」 中野孝次 「雪ふる年よ」

増田みず子29歳×各選考委員　 「個室の鍵」 短篇 76枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 △ 16 「私だけが問題にしたが、他の選者は口をそろえて否定した。もちろんその作品が当選するとは思っていなかったが、その文体は一応とりあげてみるだけの価値はあると思った。」「よみやすい文体の中にこういうよみ辛い文体が出ているのが面白いと思った。下宿屋の男たちが共同体をつくって、何を熱心に討論しているかと思ったら、農業をやりたいというのだ。それがこの作品の幼稚なしかも致命的な欠点であった。」 中村光夫 67歳 全 ■ 4 「自分の世界を持つ作品というだけで、当選は未だしというほかありません。」 大江健三郎 43歳 全 ― 0   開高健 47歳 全 ― 0   安岡章太郎 58歳 全 ― 0   吉行淳之介 54歳 全 ― 0   丸谷才一 52歳 全 ― 0   瀧井孝作 84歳 全 ― 0   遠藤周作 55歳 全 ― 0   井上靖 71歳 全 ― 0

他の候補作 高橋三千綱 「九月の空」 高橋揆一郎 「伸予」 光岡明 「草と草との距離」 重兼芳子 「ベビーフード」 金鶴泳 「鑿（のみ）」 中野孝次 「雪ふる年よ」

光岡明45歳×各選考委員　 「草と草との距離」 短篇 144枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ― 0   中村光夫 67歳 全 ― 0   大江健三郎 43歳 全 ― 0   開高健 47歳 全 ― 0   安岡章太郎 58歳 全 ― 0   吉行淳之介 54歳 全 ― 0   丸谷才一 52歳 全 ― 0   瀧井孝作 84歳 全 ― 0   遠藤周作 55歳 全 ― 0   井上靖 71歳 全 ― 0	他の候補作 高橋三千綱 「九月の空」 高橋揆一郎 「伸予」 増田みず子 「個室の鍵」 重兼芳子 「ベビーフード」 金鶴泳 「鑿（のみ）」 中野孝次 「雪ふる年よ」

重兼芳子51歳×各選考委員　 「ベビーフード」 短篇 77枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ― 0   中村光夫 67歳 全 ■ 3 「自分の世界を持つ作品というだけで、当選は未だしというほかありません。」 大江健三郎 43歳 全 ― 0   開高健 47歳 全 ― 0   安岡章太郎 58歳 全 ― 0   吉行淳之介 54歳 全 △ 2 「将来有望とおもった。」 丸谷才一 52歳 全 ― 0   瀧井孝作 84歳 全 ― 0   遠藤周作 55歳 全 ― 0   井上靖 71歳 全 ― 0	他の候補作 高橋三千綱 「九月の空」 高橋揆一郎 「伸予」 増田みず子 「個室の鍵」 光岡明 「草と草との距離」 金鶴泳 「鑿（のみ）」 中野孝次 「雪ふる年よ」

金鶴泳39歳×各選考委員　 「鑿（のみ）」 短篇 87枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ― 0   中村光夫 67歳 全 ― 0   大江健三郎 43歳 全 △ 9 「（引用者注：「雪ふる年よ」と共に）前作の世界をさらに深めている。文章も充分な力をそなえているし、（引用者中略）主題をになう人物たちも、その社会、時代との関わりともども、入念に表現されている。」「僕が（引用者中略）積極的に票を投じなかったのは、ただこれらが、独立した短篇であるよりも、大きい長篇、あるいは連作としてまとまった時にこそ力を発揮すると考えるからであり、そのほかではない。」 開高健 47歳 全 ― 0   安岡章太郎 58歳 全 △ 10 「印象に残った。それは朝鮮人の母親が、十八歳で単身日本へ渡ってくるとき、さまざまの苦労をかさねながら、それでも貧しい朝鮮にいるよりはという気持で、不安よりも期待に胸をふくらますことが書かれているためだ。」 吉行淳之介 54歳 全 ― 0   丸谷才一 52歳 全 ― 0   瀧井孝作 84歳 全 ― 0   遠藤周作 55歳 全 ― 0   井上靖 71歳 全 △ 3 「（引用者注：「雪ふる年よ」）」と共に）候補作の七篇の中で、作者がどうしても書かなければならぬ主題と取り組んでいる」

他の候補作 高橋三千綱 「九月の空」 高橋揆一郎 「伸予」 増田みず子 「個室の鍵」 光岡明 「草と草との距離」 重兼芳子 「ベビーフード」 中野孝次 「雪ふる年よ」

中野孝次53歳×各選考委員　 「雪ふる年よ」 中篇 176枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丹羽文雄 73歳 全 ― 0   中村光夫 67歳 全 ― 0   大江健三郎 43歳 全 △ 9 「（引用者注：「鑿（のみ）」と共に）前作の世界をさらに深めている。文章も充分な力をそなえているし、（引用者中略）主題をになう人物たちも、その社会、時代との関わりともども、入念に表現されている。」「僕が（引用者中略）積極的に票を投じなかったのは、ただこれらが、独立した短篇であるよりも、大きい長篇、あるいは連作としてまとまった時にこそ力を発揮すると考えるからであり、そのほかではない。」 開高健 47歳 全 ◎ 11 「終始、（引用者中略）支持した。この作品は見るからに野暮で、不器用で、ギクシャクし、欠点はいくらでもある。しかし、それらのマイナスを蔽って全体に発熱していて、なぜこの作品が書かれなければならなかったかが、じわじわと伝ってくるのである。つまり、第一の美徳がある。」「しかし、前回に候補になった作品のほうがずっと出来がいいという声が多く、私はその作品を読んでいないものだから、結局、譲らざるを得なかった。」 安岡章太郎 58歳 全 ― 0   吉行淳之介 54歳 全 △ 5 「好意をもって読んだ。しかし、叙述のあいだから起き上ってくるものが、前作よりも少い。当選作にくらべて劣るわけではないが、なによりも、長篇の一部というところに、難点がある。」 丸谷才一 52歳 全 △ 20 「前作『鳥屋の日々』にくらべればかなり落ちる。殊に、おしまひのところが、（引用者中略）作者まで喜んでばかりゐるので、うはついた感じになつてしまつた。」「とはいふものの、これだけこみいつた事柄を、一糸みだれずとはゆかないまでもしかしわりあひ整然と書き進めてゆく筆力は、注目に価するだらう。」「欠点と裏はらに彼が持つてゐる美質を見のがしてはならない。」 瀧井孝作 84歳 全 ― 0   遠藤周作 55歳 全 △ 18 「今度もまた残念だった。私は前回の候補作で今度の作品の序曲となった作品のほうが好ましかった。」「いずれにしろこういう連作はすべて完成してから判断すべきで、その一部を短篇（原文傍点）として考えると作者に気の毒な結果になる。」「そのため授賞からはずれたが、この連作の完成を心から祈りたい。」 井上靖 71歳 全 ○ 8 「一番よみごたえがあった。しゃれたところなどなく、むしろ不器用に書いているが、とにかく戦時下の、私などの知らない一つの青春を、ひたむきに書こうとし、書ききっていると思う。」「（引用者注：「鑿（のみ）」と共に）候補作の七篇の中で、作者がどうしても書かなければならぬ主題と取り組んでいる」

他の候補作 高橋三千綱 「九月の空」 高橋揆一郎 「伸予」 増田みず子 「個室の鍵」 光岡明 「草と草との距離」 重兼芳子 「ベビーフード」 金鶴泳 「鑿（のみ）」