第52回

第51回第53回

昭和39年/1964年下半期 昭和40年/1965年1月19日決定発表／『文藝春秋』昭和40年/1965年3月号選評掲載

選考委員　 石川淳 65歳 瀧井孝作 70歳 石川達三 59歳 井上靖 57歳 丹羽文雄 60歳 高見順 57歳 中村光夫 53歳 川端康成 65歳 永井龍男 60歳 舟橋聖一 60歳 井伏鱒二 66歳 選評総行数　 30 42 36 17 33 41 34 28 7 41   評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 選評なし 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 南勝雄　「行方不明」 158枚 （不明） 評 ■ 6 △ 4 ■ 5 ― 0 ■ 5 □ 9 ■ 3 ■ 6 ― 0 ― 0     なだいなだ　「トンネル」 107枚 35歳 評 ― 0 ● 4 △ 5 △ 2 ● 6 □ 8 ■ 5 ■ 6 ― 0 □ 12     伊藤沆　「母の上京」 78枚 50歳 評 ― 0 ◎ 13 ― 0 △ 2 ■ 3 ■ 3 ■ 4 ■ 2 ― 0 □ 16     飯尾憲士　「炎」 143枚 38歳 評 ― 0 ● 3 ■ 4 ― 0 ― 0 ■ 2 ● 2 ― 0 ― 0 △ 8     立川洋三　「ラッペル狂詩曲」 53枚 36歳 評 ― 0 ○ 3 ■ 5 □ 12 △ 3 ■ 3 ■ 5 ■ 3 △ 4 ― 0     向坂唯雄　「信じ服従し働らく」 104枚 (38歳) 評 ― 0 ■ 3 ● 3 ― 0 ― 0 ■ 6 ■ 3 ○ 10 ― 0 ― 0     長谷川修　「真赤な兎」 127枚 38歳 評 ― 0 ■ 3 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 5 ● 5 ■ 8 ― 0 △ 2     高橋実　「雪残る村」 57枚 24歳 評 ● 7 ● 4 ― 0 ― 0 ― 0 △ 5 ■ 3 ― 0 ― 0 ― 0     津村節子　「さい果て」 49枚 36歳 評 △ 11 ○ 3 △ 12 □ 9 ◎ 16 ■ 3 △ 7 △ 5 △ 4 ○ 9               欠席 書面回答         欠席 年齢/枚数の説明   見方・注意点

石川淳65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題力よわし　総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 ■ 6 「せっかく第一部で地下鉄を消してみせたのに、第二部で現実と帳尻を合わせるような理窟をならべることはないだろう。」「最後に「心のやすらぎ」なんぞということばが出て来ては、こういうはなしは丸つぶれである。」 なだいなだ 35歳 全 ― 0   伊藤沆 50歳 全 ― 0   飯尾憲士 38歳 全 ― 0   立川洋三 36歳 全 ― 0   向坂唯雄 (38歳) 全 ― 0   長谷川修 38歳 全 ― 0   高橋実 24歳 全 ● 7 「今回もっともうすっぺらな「雪残る村」の作者に、わたしはマジメに忠告する。牧之牧之というこの主人公は牧之についてちっともベンキョーしていない。おそらく作者は資料もろくに見ていないのだろう。その怠慢が書くものをすっかりだらけさせている。へっぽこ小説を書くことを考えるまえに、牧之でもイワシのあたまでも、これはとおもうものについてしっかりベンキョーしなさい。」 津村節子 36歳 全 △ 11 「ビラの男とリヤカーの男と前後に若いのがふたり出て来て、主人公の心情がそのほうに傾斜したらしくにおわせているが、書き方がぼけて、あたふたしていて、これでは無意味になる。ここは肝腎なところである。しかも、女のひとでなければ書けないところではないか。」「しかし、この作者は他日もうすこしどうにかしたものが書けそうにおもう。」   「今回の銓衡の結果が該当作品なしというところにおちついたのは妥当である。」

他の選考委員 瀧井孝作 石川達三 井上靖 丹羽文雄 高見順 中村光夫 川端康成 永井龍男 舟橋聖一

瀧井孝作70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題伊藤沆氏を推す　総行数42　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 △ 4 「これは諷刺小説のようだが、地下世界の所はちょっと面白いが、後半は安っぽい描写で、採れなかった。」 なだいなだ 35歳 全 ● 4 「回りくどい筆のわりに、しまいの方が、省いたか、何だか描けて居なかった。」 伊藤沆 50歳 全 ◎ 13 「私はこの人の昨年か名古屋の「作家」に出した、「幽囚記」という百五十枚ほどの歴史小説に感心して居た。（引用者中略）これは大人の小説だと思った。この歴史小説が佳かったので、こんどこの私小説も推薦した。この「幽囚記」がこんど参考にでも読まれたらよかったが……。」 飯尾憲士 38歳 全 ● 3 「甚だ幼稚だと見た。」 立川洋三 36歳 全 ○ 3 「テキパキと描いてあった。この人のものは尚読みたいと思った。」 向坂唯雄 (38歳) 全 ■ 3 「筆には力があるようだが、もっと切捨ててもよい、ムダも多いと見た。」 長谷川修 38歳 全 ■ 3 「筆が踊りすぎて、中間小説の面白味だと思った。」 高橋実 24歳 全 ● 4 「小説の描写は全く素人だと見た。」 津村節子 36歳 全 ○ 3 「素直によく描いてあった。」

他の選考委員 石川淳 石川達三 井上靖 丹羽文雄 高見順 中村光夫 川端康成 永井龍男 舟橋聖一

石川達三59歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題辛い点をつける　総行数36　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 ■ 5 「力のある作家だと思うが、虚構の上に立って事件を展開している。展開されて行く世界は現実社会である。この喰い違いが構成上の失敗であったと思う。」 なだいなだ 35歳 全 △ 5 「力倆のある人だと思うが、作品の最後を原罪という事で終らせたのが何とも物足りない。」「失った記憶をとり戻して行く過程は面白いが、所詮、作りものの感じになっているのも惜しまれる。」 伊藤沆 50歳 全 ― 0   飯尾憲士 38歳 全 ■ 4 「構成上の無理、乃至は慾張りがあるようだ。」「いろいろ盛り沢山に出て来るが、どの人物も薄弱で中途半端である。文章に一種のポーズがあって、それも気にかかった。」 立川洋三 36歳 全 ■ 5 「傍観者の態度で書かれている。」「面白く読めるが作者は案外楽に書いていると思う。作品の出来不出来も重要だが、もっと力一杯の作品を見せてもらいたい。」 向坂唯雄 (38歳) 全 ● 3 「冗舌が過ぎる。冗舌で平板で、作品として熟して居ないようだ。」 長谷川修 38歳 全 ― 0   高橋実 24歳 全 ― 0   津村節子 36歳 全 △ 12 「好短篇である。その点では全委員が一致した意見であった。」「女の感情もかなり良く描けている。二三の委員から推薦されたが、私は当選作というにはどうしても足りないものがあると思った。質的には良いが、量感は足りない。」「厳しく鋭いもの、読者の胸に突きささるようなものを、この主題の中から発見しなくてはならないのだと思った。」   「今回は授賞作無しと信じた。同時に小説のむずかしさをも感じた。」

他の選考委員 石川淳 瀧井孝作 井上靖 丹羽文雄 高見順 中村光夫 川端康成 永井龍男 舟橋聖一

井上靖57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題佳作二篇　総行数17　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 ― 0   なだいなだ 35歳 全 △ 2 「面白かった。」 伊藤沆 50歳 全 △ 2 「面白かった。」 飯尾憲士 38歳 全 ― 0   立川洋三 36歳 全 □ 12 「二篇（引用者注：「ラッペル狂詩曲」と「さい果て」）が光っていた。」「作品の中に流れている一種独特な冷静さもいいし、人物もそれぞれにうまく描いており、西ドイツの持っているある暗さも出ていると思った。」「佳作であるが、いずれも授賞作として押し出すには少し弱いと思った。」「いい資質を持っており、将来書ける人なので、授賞を急ぐ必要はあるまい。」 向坂唯雄 (38歳) 全 ― 0   長谷川修 38歳 全 ― 0   高橋実 24歳 全 ― 0   津村節子 36歳 全 □ 9 「二篇（引用者注：「ラッペル狂詩曲」と「さい果て」）が光っていた。」「さい果ての侘しさをよく出しており、若い夫も、その妻である主人公の気持も、過不足なく、素直に捉えられている。」「佳作であるが、いずれも授賞作として押し出すには少し弱いと思った。」「いい資質を持っており、将来書ける人なので、授賞を急ぐ必要はあるまい。」

他の選考委員 石川淳 瀧井孝作 石川達三 丹羽文雄 高見順 中村光夫 川端康成 永井龍男 舟橋聖一

丹羽文雄60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「さい果て」の作者　総行数33　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 ■ 5 「筆力には期待がもてる。が、この小説は、地下鉄の電車の行方不明を立証しようとすればするほどおかしくなってしまう。小説は読者をねじ伏せるものではなく、自由に参加出来るように書かなければならない。」 なだいなだ 35歳 全 ● 6 「女主人公の記憶喪失を読者に納得させないのは、致命的である。」「突然記憶喪失におちいるほどの女とも思われない。心のせまい、何も知らない処女の場合ならば、いざ知らず。」 伊藤沆 50歳 全 ■ 3 「好意のもてる小説であるが、この種の小説はいろんな作家にすでに書かれていた。」 飯尾憲士 38歳 全 ― 0   立川洋三 36歳 全 △ 3 「気持よく読めた。主人公が傍観者であることが、この小説の難を、防いでいることにもなり、同時に、迫力を欠いていることにもなった。」 向坂唯雄 (38歳) 全 ― 0   長谷川修 38歳 全 ― 0   高橋実 24歳 全 ― 0   津村節子 36歳 全 ◎ 16 「何でもない人物もあざやかにとらえている。ほろりとさせるが、決して低俗ではない。」「読後感は、すがすがしい。無理がない。悲壮感をむき出しにしていない。」「作者の素質はすばらしい――」「私は最大限のことばをもって芥川賞当選作と推薦したが、出席した審査員のことごとくが褒めていながら、結局、芥川賞としては小粒であり、弱いということで見送られた。」「落ちたことは残念であったが、この作者の素質に希望をつなぐことにした。」

他の選考委員 石川淳 瀧井孝作 石川達三 井上靖 高見順 中村光夫 川端康成 永井龍男 舟橋聖一

高見順57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題一長一短　総行数41　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 □ 9 「（引用者注：「雪残る村」「トンネル」「行方不明」の三篇のうち）一つを推したいのだが、それが困難なのだ。」「三作品のうち私には一番興味があった。」「だが、第一部の写実的（おまけに諷刺的というより低俗なところもある）と、第二部の抽象的との間に、不調和と不安定があり、新しい小説と言うには、ためらいがある。」「強いて推すとすれば一応これと「トンネル」」 なだいなだ 35歳 全 □ 8 「（引用者注：「雪残る村」「トンネル」「行方不明」の三篇のうち）一つを推したいのだが、それが困難なのだ。」「頭で作った小説という気がして、そこが損だが、（引用者中略）三人のうち一番小説巧者とは言える。しかし目下流行の性がはばをきかせているのも気に入らない。」「強いて推すとすれば一応（引用者中略・注：「行方不明」）と「トンネル」」 伊藤沆 50歳 全 ■ 3 「素直さに好感が持てたが、とりえは素直さだけと言っては酷評だろうか。」 飯尾憲士 38歳 全 ■ 2 「作柄がいわばきまじめであるだけに、この種の小説の規格品という感じがした。」 立川洋三 36歳 全 ■ 3 「小説として面白いことはたしかだ。しかし、ベルリンという背景を抜きにしたらどうかな、と思った。」 向坂唯雄 (38歳) 全 ■ 6 「往年のプロレタリア文学とちがって、公式的でないのはいいが、読者の知らない職場の事情を読者に分らせようとする親切心からか、ひどく説明的すぎて、それが作品の表情を弛緩させたものにしている。」 長谷川修 38歳 全 ■ 5 「非行少年群の姿をそのまま描いたもので、批判がほしいというわけではないけど、主人公の心理に、ドライに徹し切れない甘さもあって、一種のノン・フィクションめいた浅さからまぬがれない。」 高橋実 24歳 全 △ 5 「（引用者注：「雪残る村」「トンネル」「行方不明」の三篇のうち）一つを推したいのだが、それが困難なのだ。」「創作意識より問題意識の方が強く感じられる（引用者中略）それ故私の心を強くとらえた。同時にそれ故また、小説としての幼さもそこから来ているようだ。」 津村節子 36歳 全 ■ 3 「（引用者注：新潮同人雑誌賞の他に）さらに芥川賞をもというのにはもうひと押し力がたりないと思われた。」   「今回は私として特に力を入れて推したい作品がなかった。」

他の選考委員 石川淳 瀧井孝作 石川達三 井上靖 丹羽文雄 中村光夫 川端康成 永井龍男 舟橋聖一

中村光夫53歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題もう一押し　総行数34　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 ■ 3 「着想は面白いが、途中から変に常識が這入ってきて腰くだけになっています。」 なだいなだ 35歳 全 ■ 5 「刺戟的な題材にたよりすぎたせいか、医者の手記と患者のそれとの対比がきかず、散漫に終っています。」 伊藤沆 50歳 全 ■ 4 「真面目に書きこんであるのは好意がもてますが、」「手なれた描写が型にはまって新鮮さがありません。」 飯尾憲士 38歳 全 ● 2 「欲張っていろいろ書こうとして、失敗しています。」 立川洋三 36歳 全 ■ 5 「たしかに才筆で面白く読めます。」「しかしこれでは小説というより旅行記で、外国人が材料なのでこうわりきって見られるのではないかとも思われます。」 向坂唯雄 (38歳) 全 ■ 3 「ひと通り読ませる筆力はありますが、いい気でむだの多い文章は反省を要するでしょう。」 長谷川修 38歳 全 ● 5 「主人公の反抗がいかにも理詰めで、少年の肉体が感じられないだけでなく、結末が破綻しているのは、作者まで兎を赤く染めるという思いつきに溺れているせいでしょう。」 高橋実 24歳 全 ■ 3 「真面目に書きこんであるのは好意がもてますが、」「文章が未熟で観察も浅く、」 津村節子 36歳 全 △ 7 「小味で淡彩な作品ですが、それだけによくまとまっていて、他の候補作にくらべると、車で凸凹な田舎道を走ったあと、舗装道路にでたような気がします。」「読後の印象が稀薄なのは残念で、授賞作としてはもう一押し何かがほしいと思います。」

他の選考委員 石川淳 瀧井孝作 石川達三 井上靖 丹羽文雄 高見順 川端康成 永井龍男 舟橋聖一

川端康成65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題体験の所産　総行数28　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 ■ 6 「作者が今日的な意図を構想、手法に試みているだけに、その難点も露出しているようだ。」 なだいなだ 35歳 全 ■ 6 「作者が今日的な意図を構想、手法に試みているだけに、その難点も露出しているようだ。」 伊藤沆 50歳 全 ■ 2 「素直であるが、無難という以上のものが望ましかった。」 飯尾憲士 38歳 全 ― 0   立川洋三 36歳 全 ■ 3 「佳作であろうか。でも、やはり、訴えて来る力が満ちていないような姿勢である。」 向坂唯雄 (38歳) 全 ○ 10 「一つの職業、一つの職場での労働が、詳細に具体的に書かれている点に、私は興味があった。作者自身が機関士である体験の所産だ。私はそういうものに先ず無条件の尊敬を感じて惹かれる。生活を確実に書いた部分があるからだ。」「委員が一人もこの作品を問題にしなかったのは、私には意外であったが、しかし小説として見るといかにも疑問が少くない。」「作者のために惜しむところがあった。」 長谷川修 38歳 全 ■ 8 「作者が今日的な意図を構想、手法に試みているだけに、その難点も露出しているようだ。」「「真赤な兎」の軽みはおもしろいが、結尾の殺人（？）その他、行き過ぎの損失がある。」 高橋実 24歳 全 ― 0   津村節子 36歳 全 △ 5 「作者は三度も直木賞の候補に挙げられたほどで、十分手なれているし、「さい果て」には情感も流れている。しかし、新鮮な魅力がとぼしくて、芥川賞に推すのはためらわれた。」

他の選考委員 石川淳 瀧井孝作 石川達三 井上靖 丹羽文雄 高見順 中村光夫 永井龍男 舟橋聖一

永井龍男60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題強みに欠ける　総行数7　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 ― 0   なだいなだ 35歳 全 ― 0   伊藤沆 50歳 全 ― 0   飯尾憲士 38歳 全 ― 0   立川洋三 36歳 全 △ 4 「最後に残った」「確りした作品だが、授賞作として推選するには強みに欠けていると思った。」 向坂唯雄 (38歳) 全 ― 0   長谷川修 38歳 全 ― 0   高橋実 24歳 全 ― 0   津村節子 36歳 全 △ 4 「最後に残った」「確りした作品だが、授賞作として推選するには強みに欠けていると思った。」	他の選考委員 石川淳 瀧井孝作 石川達三 井上靖 丹羽文雄 高見順 中村光夫 川端康成 舟橋聖一

舟橋聖一60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題四作のうち　総行数41　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 南勝雄 （不明） 全 ― 0   なだいなだ 35歳 全 □ 12 「読後、私の心に、（引用者中略）残った。」「なだ（原文傍点）の今までの「海」や「神話」より、はるかに成長したものを感じる。」「欠点をさがせば、いくらもあるにしても。これを授賞作にした場合、世間は納得するだろう。」 伊藤沆 50歳 全 □ 16 「読後、私の心に、（引用者中略）残った。」「悪くはない。主人公憲三の心理は、丹念に描けている。その母を中にはさんでの夫婦間の気持の交錯も面白く読める。」「小説の構成としては、出来すぎた感じが残る。これを推す瀧井さんの推し方にも、ひとつアイマイなところがあった。」 飯尾憲士 38歳 全 △ 8 「読後、私の心に、（引用者中略）残った。」「中間小説風の道具立なのが気になったが、興味をもって、最後まで、惹かれた。」「ソツのない構成である。然し、授賞作には適かない。」 立川洋三 36歳 全 ― 0   向坂唯雄 (38歳) 全 ― 0   長谷川修 38歳 全 △ 2 「（引用者注：私の心に残った四篇「母の状況」「さい果て」「炎」「トンネル」の）次が、長谷川修の「真赤な兎」で、これは多分望み薄だろうと思った。」 高橋実 24歳 全 ― 0   津村節子 36歳 全 ○ 9 「読後、私の心に、（引用者中略）残った。」「丹羽君が推したので、私も票を入れた。誰が何んと云っても、これを推したいわけではなかった。丁寧で、よくまとまった好短篇である。」   「結果に於て、該当作ナシとなったが、こんどの候補作品は、一、二を除いて、みな読みごたえがあった。」

他の選考委員 石川淳 瀧井孝作 石川達三 井上靖 丹羽文雄 高見順 中村光夫 川端康成 永井龍男

南勝雄（不明）×各選考委員　 「行方不明」 中篇 158枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川淳 65歳 全 ■ 6 「せっかく第一部で地下鉄を消してみせたのに、第二部で現実と帳尻を合わせるような理窟をならべることはないだろう。」「最後に「心のやすらぎ」なんぞということばが出て来ては、こういうはなしは丸つぶれである。」 瀧井孝作 70歳 全 △ 4 「これは諷刺小説のようだが、地下世界の所はちょっと面白いが、後半は安っぽい描写で、採れなかった。」 石川達三 59歳 全 ■ 5 「力のある作家だと思うが、虚構の上に立って事件を展開している。展開されて行く世界は現実社会である。この喰い違いが構成上の失敗であったと思う。」 井上靖 57歳 全 ― 0   丹羽文雄 60歳 全 ■ 5 「筆力には期待がもてる。が、この小説は、地下鉄の電車の行方不明を立証しようとすればするほどおかしくなってしまう。小説は読者をねじ伏せるものではなく、自由に参加出来るように書かなければならない。」 高見順 57歳 全 □ 9 「（引用者注：「雪残る村」「トンネル」「行方不明」の三篇のうち）一つを推したいのだが、それが困難なのだ。」「三作品のうち私には一番興味があった。」「だが、第一部の写実的（おまけに諷刺的というより低俗なところもある）と、第二部の抽象的との間に、不調和と不安定があり、新しい小説と言うには、ためらいがある。」「強いて推すとすれば一応これと「トンネル」」 中村光夫 53歳 全 ■ 3 「着想は面白いが、途中から変に常識が這入ってきて腰くだけになっています。」 川端康成 65歳 全 ■ 6 「作者が今日的な意図を構想、手法に試みているだけに、その難点も露出しているようだ。」 永井龍男 60歳 全 ― 0   舟橋聖一 60歳 全 ― 0

他の候補作 なだいなだ 「トンネル」 伊藤沆 「母の上京」 飯尾憲士 「炎」 立川洋三 「ラッペル狂詩曲」 向坂唯雄 「信じ服従し働らく」 長谷川修 「真赤な兎」 高橋実 「雪残る村」 津村節子 「さい果て」

なだいなだ35歳×各選考委員　 「トンネル」 短篇 107枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川淳 65歳 全 ― 0   瀧井孝作 70歳 全 ● 4 「回りくどい筆のわりに、しまいの方が、省いたか、何だか描けて居なかった。」 石川達三 59歳 全 △ 5 「力倆のある人だと思うが、作品の最後を原罪という事で終らせたのが何とも物足りない。」「失った記憶をとり戻して行く過程は面白いが、所詮、作りものの感じになっているのも惜しまれる。」 井上靖 57歳 全 △ 2 「面白かった。」 丹羽文雄 60歳 全 ● 6 「女主人公の記憶喪失を読者に納得させないのは、致命的である。」「突然記憶喪失におちいるほどの女とも思われない。心のせまい、何も知らない処女の場合ならば、いざ知らず。」 高見順 57歳 全 □ 8 「（引用者注：「雪残る村」「トンネル」「行方不明」の三篇のうち）一つを推したいのだが、それが困難なのだ。」「頭で作った小説という気がして、そこが損だが、（引用者中略）三人のうち一番小説巧者とは言える。しかし目下流行の性がはばをきかせているのも気に入らない。」「強いて推すとすれば一応（引用者中略・注：「行方不明」）と「トンネル」」 中村光夫 53歳 全 ■ 5 「刺戟的な題材にたよりすぎたせいか、医者の手記と患者のそれとの対比がきかず、散漫に終っています。」 川端康成 65歳 全 ■ 6 「作者が今日的な意図を構想、手法に試みているだけに、その難点も露出しているようだ。」 永井龍男 60歳 全 ― 0   舟橋聖一 60歳 全 □ 12 「読後、私の心に、（引用者中略）残った。」「なだ（原文傍点）の今までの「海」や「神話」より、はるかに成長したものを感じる。」「欠点をさがせば、いくらもあるにしても。これを授賞作にした場合、世間は納得するだろう。」

他の候補作 南勝雄 「行方不明」 伊藤沆 「母の上京」 飯尾憲士 「炎」 立川洋三 「ラッペル狂詩曲」 向坂唯雄 「信じ服従し働らく」 長谷川修 「真赤な兎」 高橋実 「雪残る村」 津村節子 「さい果て」

伊藤沆50歳×各選考委員　 「母の上京」 短篇 78枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川淳 65歳 全 ― 0   瀧井孝作 70歳 全 ◎ 13 「私はこの人の昨年か名古屋の「作家」に出した、「幽囚記」という百五十枚ほどの歴史小説に感心して居た。（引用者中略）これは大人の小説だと思った。この歴史小説が佳かったので、こんどこの私小説も推薦した。この「幽囚記」がこんど参考にでも読まれたらよかったが……。」 石川達三 59歳 全 ― 0   井上靖 57歳 全 △ 2 「面白かった。」 丹羽文雄 60歳 全 ■ 3 「好意のもてる小説であるが、この種の小説はいろんな作家にすでに書かれていた。」 高見順 57歳 全 ■ 3 「素直さに好感が持てたが、とりえは素直さだけと言っては酷評だろうか。」 中村光夫 53歳 全 ■ 4 「真面目に書きこんであるのは好意がもてますが、」「手なれた描写が型にはまって新鮮さがありません。」 川端康成 65歳 全 ■ 2 「素直であるが、無難という以上のものが望ましかった。」 永井龍男 60歳 全 ― 0   舟橋聖一 60歳 全 □ 16 「読後、私の心に、（引用者中略）残った。」「悪くはない。主人公憲三の心理は、丹念に描けている。その母を中にはさんでの夫婦間の気持の交錯も面白く読める。」「小説の構成としては、出来すぎた感じが残る。これを推す瀧井さんの推し方にも、ひとつアイマイなところがあった。」

他の候補作 南勝雄 「行方不明」 なだいなだ 「トンネル」 飯尾憲士 「炎」 立川洋三 「ラッペル狂詩曲」 向坂唯雄 「信じ服従し働らく」 長谷川修 「真赤な兎」 高橋実 「雪残る村」 津村節子 「さい果て」

飯尾憲士38歳×各選考委員　 「炎」 短篇 143枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川淳 65歳 全 ― 0   瀧井孝作 70歳 全 ● 3 「甚だ幼稚だと見た。」 石川達三 59歳 全 ■ 4 「構成上の無理、乃至は慾張りがあるようだ。」「いろいろ盛り沢山に出て来るが、どの人物も薄弱で中途半端である。文章に一種のポーズがあって、それも気にかかった。」 井上靖 57歳 全 ― 0   丹羽文雄 60歳 全 ― 0   高見順 57歳 全 ■ 2 「作柄がいわばきまじめであるだけに、この種の小説の規格品という感じがした。」 中村光夫 53歳 全 ● 2 「欲張っていろいろ書こうとして、失敗しています。」 川端康成 65歳 全 ― 0   永井龍男 60歳 全 ― 0   舟橋聖一 60歳 全 △ 8 「読後、私の心に、（引用者中略）残った。」「中間小説風の道具立なのが気になったが、興味をもって、最後まで、惹かれた。」「ソツのない構成である。然し、授賞作には適かない。」

他の候補作 南勝雄 「行方不明」 なだいなだ 「トンネル」 伊藤沆 「母の上京」 立川洋三 「ラッペル狂詩曲」 向坂唯雄 「信じ服従し働らく」 長谷川修 「真赤な兎」 高橋実 「雪残る村」 津村節子 「さい果て」

立川洋三36歳×各選考委員　 「ラッペル狂詩曲」 短篇 53枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川淳 65歳 全 ― 0   瀧井孝作 70歳 全 ○ 3 「テキパキと描いてあった。この人のものは尚読みたいと思った。」 石川達三 59歳 全 ■ 5 「傍観者の態度で書かれている。」「面白く読めるが作者は案外楽に書いていると思う。作品の出来不出来も重要だが、もっと力一杯の作品を見せてもらいたい。」 井上靖 57歳 全 □ 12 「二篇（引用者注：「ラッペル狂詩曲」と「さい果て」）が光っていた。」「作品の中に流れている一種独特な冷静さもいいし、人物もそれぞれにうまく描いており、西ドイツの持っているある暗さも出ていると思った。」「佳作であるが、いずれも授賞作として押し出すには少し弱いと思った。」「いい資質を持っており、将来書ける人なので、授賞を急ぐ必要はあるまい。」 丹羽文雄 60歳 全 △ 3 「気持よく読めた。主人公が傍観者であることが、この小説の難を、防いでいることにもなり、同時に、迫力を欠いていることにもなった。」 高見順 57歳 全 ■ 3 「小説として面白いことはたしかだ。しかし、ベルリンという背景を抜きにしたらどうかな、と思った。」 中村光夫 53歳 全 ■ 5 「たしかに才筆で面白く読めます。」「しかしこれでは小説というより旅行記で、外国人が材料なのでこうわりきって見られるのではないかとも思われます。」 川端康成 65歳 全 ■ 3 「佳作であろうか。でも、やはり、訴えて来る力が満ちていないような姿勢である。」 永井龍男 60歳 全 △ 4 「最後に残った」「確りした作品だが、授賞作として推選するには強みに欠けていると思った。」 舟橋聖一 60歳 全 ― 0

他の候補作 南勝雄 「行方不明」 なだいなだ 「トンネル」 伊藤沆 「母の上京」 飯尾憲士 「炎」 向坂唯雄 「信じ服従し働らく」 長谷川修 「真赤な兎」 高橋実 「雪残る村」 津村節子 「さい果て」

向坂唯雄(38歳)×各選考委員　 「信じ服従し働らく」 短篇 104枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川淳 65歳 全 ― 0   瀧井孝作 70歳 全 ■ 3 「筆には力があるようだが、もっと切捨ててもよい、ムダも多いと見た。」 石川達三 59歳 全 ● 3 「冗舌が過ぎる。冗舌で平板で、作品として熟して居ないようだ。」 井上靖 57歳 全 ― 0   丹羽文雄 60歳 全 ― 0   高見順 57歳 全 ■ 6 「往年のプロレタリア文学とちがって、公式的でないのはいいが、読者の知らない職場の事情を読者に分らせようとする親切心からか、ひどく説明的すぎて、それが作品の表情を弛緩させたものにしている。」 中村光夫 53歳 全 ■ 3 「ひと通り読ませる筆力はありますが、いい気でむだの多い文章は反省を要するでしょう。」 川端康成 65歳 全 ○ 10 「一つの職業、一つの職場での労働が、詳細に具体的に書かれている点に、私は興味があった。作者自身が機関士である体験の所産だ。私はそういうものに先ず無条件の尊敬を感じて惹かれる。生活を確実に書いた部分があるからだ。」「委員が一人もこの作品を問題にしなかったのは、私には意外であったが、しかし小説として見るといかにも疑問が少くない。」「作者のために惜しむところがあった。」 永井龍男 60歳 全 ― 0   舟橋聖一 60歳 全 ― 0

他の候補作 南勝雄 「行方不明」 なだいなだ 「トンネル」 伊藤沆 「母の上京」 飯尾憲士 「炎」 立川洋三 「ラッペル狂詩曲」 長谷川修 「真赤な兎」 高橋実 「雪残る村」 津村節子 「さい果て」

長谷川修38歳×各選考委員　 「真赤な兎」 短篇 127枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川淳 65歳 全 ― 0   瀧井孝作 70歳 全 ■ 3 「筆が踊りすぎて、中間小説の面白味だと思った。」 石川達三 59歳 全 ― 0   井上靖 57歳 全 ― 0   丹羽文雄 60歳 全 ― 0   高見順 57歳 全 ■ 5 「非行少年群の姿をそのまま描いたもので、批判がほしいというわけではないけど、主人公の心理に、ドライに徹し切れない甘さもあって、一種のノン・フィクションめいた浅さからまぬがれない。」 中村光夫 53歳 全 ● 5 「主人公の反抗がいかにも理詰めで、少年の肉体が感じられないだけでなく、結末が破綻しているのは、作者まで兎を赤く染めるという思いつきに溺れているせいでしょう。」 川端康成 65歳 全 ■ 8 「作者が今日的な意図を構想、手法に試みているだけに、その難点も露出しているようだ。」「「真赤な兎」の軽みはおもしろいが、結尾の殺人（？）その他、行き過ぎの損失がある。」 永井龍男 60歳 全 ― 0   舟橋聖一 60歳 全 △ 2 「（引用者注：私の心に残った四篇「母の状況」「さい果て」「炎」「トンネル」の）次が、長谷川修の「真赤な兎」で、これは多分望み薄だろうと思った。」

他の候補作 南勝雄 「行方不明」 なだいなだ 「トンネル」 伊藤沆 「母の上京」 飯尾憲士 「炎」 立川洋三 「ラッペル狂詩曲」 向坂唯雄 「信じ服従し働らく」 高橋実 「雪残る村」 津村節子 「さい果て」

高橋実24歳×各選考委員　 「雪残る村」 短篇 57枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川淳 65歳 全 ● 7 「今回もっともうすっぺらな「雪残る村」の作者に、わたしはマジメに忠告する。牧之牧之というこの主人公は牧之についてちっともベンキョーしていない。おそらく作者は資料もろくに見ていないのだろう。その怠慢が書くものをすっかりだらけさせている。へっぽこ小説を書くことを考えるまえに、牧之でもイワシのあたまでも、これはとおもうものについてしっかりベンキョーしなさい。」 瀧井孝作 70歳 全 ● 4 「小説の描写は全く素人だと見た。」 石川達三 59歳 全 ― 0   井上靖 57歳 全 ― 0   丹羽文雄 60歳 全 ― 0   高見順 57歳 全 △ 5 「（引用者注：「雪残る村」「トンネル」「行方不明」の三篇のうち）一つを推したいのだが、それが困難なのだ。」「創作意識より問題意識の方が強く感じられる（引用者中略）それ故私の心を強くとらえた。同時にそれ故また、小説としての幼さもそこから来ているようだ。」 中村光夫 53歳 全 ■ 3 「真面目に書きこんであるのは好意がもてますが、」「文章が未熟で観察も浅く、」 川端康成 65歳 全 ― 0   永井龍男 60歳 全 ― 0   舟橋聖一 60歳 全 ― 0

他の候補作 南勝雄 「行方不明」 なだいなだ 「トンネル」 伊藤沆 「母の上京」 飯尾憲士 「炎」 立川洋三 「ラッペル狂詩曲」 向坂唯雄 「信じ服従し働らく」 長谷川修 「真赤な兎」 津村節子 「さい果て」

津村節子36歳×各選考委員　 「さい果て」 短篇 49枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 石川淳 65歳 全 △ 11 「ビラの男とリヤカーの男と前後に若いのがふたり出て来て、主人公の心情がそのほうに傾斜したらしくにおわせているが、書き方がぼけて、あたふたしていて、これでは無意味になる。ここは肝腎なところである。しかも、女のひとでなければ書けないところではないか。」「しかし、この作者は他日もうすこしどうにかしたものが書けそうにおもう。」 瀧井孝作 70歳 全 ○ 3 「素直によく描いてあった。」 石川達三 59歳 全 △ 12 「好短篇である。その点では全委員が一致した意見であった。」「女の感情もかなり良く描けている。二三の委員から推薦されたが、私は当選作というにはどうしても足りないものがあると思った。質的には良いが、量感は足りない。」「厳しく鋭いもの、読者の胸に突きささるようなものを、この主題の中から発見しなくてはならないのだと思った。」 井上靖 57歳 全 □ 9 「二篇（引用者注：「ラッペル狂詩曲」と「さい果て」）が光っていた。」「さい果ての侘しさをよく出しており、若い夫も、その妻である主人公の気持も、過不足なく、素直に捉えられている。」「佳作であるが、いずれも授賞作として押し出すには少し弱いと思った。」「いい資質を持っており、将来書ける人なので、授賞を急ぐ必要はあるまい。」 丹羽文雄 60歳 全 ◎ 16 「何でもない人物もあざやかにとらえている。ほろりとさせるが、決して低俗ではない。」「読後感は、すがすがしい。無理がない。悲壮感をむき出しにしていない。」「作者の素質はすばらしい――」「私は最大限のことばをもって芥川賞当選作と推薦したが、出席した審査員のことごとくが褒めていながら、結局、芥川賞としては小粒であり、弱いということで見送られた。」「落ちたことは残念であったが、この作者の素質に希望をつなぐことにした。」 高見順 57歳 全 ■ 3 「（引用者注：新潮同人雑誌賞の他に）さらに芥川賞をもというのにはもうひと押し力がたりないと思われた。」 中村光夫 53歳 全 △ 7 「小味で淡彩な作品ですが、それだけによくまとまっていて、他の候補作にくらべると、車で凸凹な田舎道を走ったあと、舗装道路にでたような気がします。」「読後の印象が稀薄なのは残念で、授賞作としてはもう一押し何かがほしいと思います。」 川端康成 65歳 全 △ 5 「作者は三度も直木賞の候補に挙げられたほどで、十分手なれているし、「さい果て」には情感も流れている。しかし、新鮮な魅力がとぼしくて、芥川賞に推すのはためらわれた。」 永井龍男 60歳 全 △ 4 「最後に残った」「確りした作品だが、授賞作として推選するには強みに欠けていると思った。」 舟橋聖一 60歳 全 ○ 9 「読後、私の心に、（引用者中略）残った。」「丹羽君が推したので、私も票を入れた。誰が何んと云っても、これを推したいわけではなかった。丁寧で、よくまとまった好短篇である。」

他の候補作 南勝雄 「行方不明」 なだいなだ 「トンネル」 伊藤沆 「母の上京」 飯尾憲士 「炎」 立川洋三 「ラッペル狂詩曲」 向坂唯雄 「信じ服従し働らく」 長谷川修 「真赤な兎」 高橋実 「雪残る村」