第89回

第88回第90回

昭和58年/1983年上半期 昭和58年/1983年7月14日決定発表／『文藝春秋』昭和58年/1983年9月号選評掲載

選考委員　 大江健三郎 48歳 開高健 52歳 中村光夫 72歳 丸谷才一 57歳 吉行淳之介 59歳 安岡章太郎 63歳 井上靖 76歳 丹羽文雄 78歳 遠藤周作 60歳 選評総行数　 31 35 31 19 34 32 11 22 21 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 増田みず子　「内気な夜景」 153枚 34歳 評 ― 0 ― 0 △ 5 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 伊井直行　「草のかんむり」 253枚 29歳 評 △ 10 ― 0 ― 0 ― 0 △ 6 △ 7 □ 5 ― 0 ― 0 高橋昌男　「町の秋」 119枚 47歳 評 ― 0 ■ 6 △ 6 ― 0 ■ 4 □ 20 □ 5 ― 0 ◎ 8 李良枝　「かずきめ」 95枚 28歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 4 ― 0 □ 5 ― 0 ― 0 池田章一　「退屈まつり」 71枚 (39歳) 評 ― 0 ― 0 △ 5 ― 0 △ 8 ― 0 △ 3 ― 0 ― 0 高樹のぶ子　「追い風」 109枚 37歳 評 ― 0 ■ 6 △ 5 ― 0 ◎ 10 ― 0 ― 0 ― 0 ・ 2 島田雅彦　「優しいサヨクのための嬉遊曲」 173枚 22歳 評 ○ 21 △ 7 □ 9 ― 0 ■ 5 ■ 3 ― 0 ― 0 △ 14 佐藤泰志　「水晶の腕」 105枚 34歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 □ 12 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

大江健三郎48歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題新しい「話法」　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 増田みず子 34歳 全 ― 0   伊井直行 29歳 全 △ 10 「倒叙ものの推理小説のようなたくらみは、末尾にはっきりしてくるが、短篇として首尾一貫させるためには前半の幻想シーンが長すぎる。またフロイドも認めていた、精神治療に参加する――なおす（原文傍点）側の――人間のおちいる精神的危機について、深く身につまされるほど、思いめぐらしてはいないとも感じられた。」 高橋昌男 47歳 全 ― 0   李良枝 28歳 全 ― 0   池田章一 (39歳) 全 ― 0   高樹のぶ子 37歳 全 ― 0   島田雅彦 22歳 全 ○ 21 「ロシアの民俗とモダニスムのからみあった、この時期（引用者注：一九二〇年代ソヴィエト・ロシア）の小説には、イメージの超現実にあわせて「話法」の卓抜な面白さがある。」「『優しいサヨクのための嬉遊曲』は、その「話法」をつい昨日のこと（あるいは今日の昼前のこと）について、機敏に生かした小説づくりである。」「作者の「サヨク」の日常的観察には、軽薄なようでいて（若さゆえの勇み足と弛緩は当然にあるが）田中康夫には欠けていた、自前の認識力の芽をかいま見せるものがあろう。」 佐藤泰志 34歳 全 ― 0

他の選考委員 開高健 中村光夫 丸谷才一 吉行淳之介 安岡章太郎 井上靖 丹羽文雄 遠藤周作

開高健52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題Good ones are few.　総行数35　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 増田みず子 34歳 全 ― 0   伊井直行 29歳 全 ― 0   高橋昌男 47歳 全 ■ 6 「あらゆる要素がソツなく、丹念に書きこまれ、布置してある。しかし、読後に何も残してくれない。徹底的な完全消化をめざした技のために何も残らないというのではないから、そこが困る。」 李良枝 28歳 全 ― 0   池田章一 (39歳) 全 ― 0   高樹のぶ子 37歳 全 ■ 6 「老母の言動をのぞくと他の登場人物たちの言動、その動機が説得力を欠いている。足が浮いている。首をかしげかしげ読んでいき、読みおわったあともそのままである。」 島田雅彦 22歳 全 △ 7 「軽薄なのではなく、よい意味での“軽み”といいたい作風が新鮮でもあり、のびのびともしていて、イヤ味でない才気を感じさせられる。結末部分が腰砕けになって土俵を突破しきれないでいる失敗と破綻があるが、今後どこまでこういう軽業を演じつづけられるだろうか。」 佐藤泰志 34歳 全 ― 0     「作者名、題名、テーマ、ことごとく異なるけれど手ごたえがないということでは泥に似ている。そういう作品ばかりをつぎつぎと八作も読まされるのはつらいことである。」

他の選考委員 大江健三郎 中村光夫 丸谷才一 吉行淳之介 安岡章太郎 井上靖 丹羽文雄 遠藤周作

中村光夫72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題個性の努力　総行数31　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 増田みず子 34歳 全 △ 5 「作者の個性の趣向で、現代の風景に挑んだ作品です。」「苦心が今回は成功作を生んだとは云えませんが、筆者の頑固な努力はそれなりに僕らを期待させます。」 伊井直行 29歳 全 ― 0   高橋昌男 47歳 全 △ 6 「作者の個性の趣向で、現代の風景に挑んだ作品です。」「苦心が今回は成功作を生んだとは云えませんが、筆者の頑固な努力はそれなりに僕らを期待させます。」 李良枝 28歳 全 ― 0   池田章一 (39歳) 全 △ 5 「作者の個性の趣向で、現代の風景に挑んだ作品です。」「苦心が今回は成功作を生んだとは云えませんが、筆者の頑固な努力はそれなりに僕らを期待させます。」 高樹のぶ子 37歳 全 △ 5 「作者の個性の趣向で、現代の風景に挑んだ作品です。」「苦心が今回は成功作を生んだとは云えませんが、筆者の頑固な努力はそれなりに僕らを期待させます。」 島田雅彦 22歳 全 □ 9 「力のこもった独創的な、次作を期待させるもの（引用者中略）の筆頭にあげるべきでしょう。」「このむずかしい主題とガムシャラにとりくんでほとんど力ずくでねじふせたようなこの学生小説は、おそらく作者の意図とは別に、現代に生きる苦さを読者に味わせてくれます。」 佐藤泰志 34歳 全 ― 0     「八篇の候補作を読み終って、まず浮んできた感想は、どれも相当な出来であり、簡単に甲乙をつけ難いということです。」「短篇の場合、終りまで骨を折らずに読めないということは、作品の欠陥を示しているといってよいでしょう。」

他の選考委員 大江健三郎 開高健 丸谷才一 吉行淳之介 安岡章太郎 井上靖 丹羽文雄 遠藤周作

丸谷才一57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題無題　総行数19　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 増田みず子 34歳 全 ― 0   伊井直行 29歳 全 ― 0   高橋昌男 47歳 全 ― 0   李良枝 28歳 全 ― 0   池田章一 (39歳) 全 ― 0   高樹のぶ子 37歳 全 ― 0   島田雅彦 22歳 全 ― 0   佐藤泰志 34歳 全 □ 12 「わりあいまし」「主人公の姿は、健気と言えないこともないが、しかし印象が薄く、かえって、周囲の人たち、特に「頭のとろい」あんちゃんが記憶に残る。」「感じは悪くないにしても、スケッチふうの仕立てで、短篇小説と呼ぶにしてはどうも水っぽい。」   「候補作八篇、読み終えるのにずいぶん苦労した。個性があるものは文章が悪く、文章のいいものは個性が弱く、新味のあるものは作りがデタラメで、作りがきちんとしているものは古臭く……読んでいてすっかり厭になってしまうのである。」

他の選考委員 大江健三郎 開高健 中村光夫 吉行淳之介 安岡章太郎 井上靖 丹羽文雄 遠藤周作

吉行淳之介59歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「追い風」ほか　総行数34　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 増田みず子 34歳 全 ― 0   伊井直行 29歳 全 △ 6 「あと二、三作でおもしろいものが出てくる可能性を感じさせた。この長い作品で、変身した蛙がまた人間に戻ってからのあと、にわかにそれまでの明快さを失った。」 高橋昌男 47歳 全 ■ 4 「あちこちに秀れた描写がある。しかし、少年の感受性への作者のこだわり過ぎがいささかうるさい。」 李良枝 28歳 全 ■ 4 「悪く凝った構成がいけない。今の時代の日本において、この作者は自分が朝鮮人であることをどう考えているかも含めて、本音を素直に聞きたい。」 池田章一 (39歳) 全 △ 8 「前半の話の進め方がいささか紋切型だが、後半に女主人公ががむしゃらに西瓜を食べたがったり海へ行きたいと言いつづけるあたり、面白かった。作品自体、かなり評価できたが、ヒイキのヒキ倒しにならぬよう点が辛くなったが、頑張ってほしい。」 高樹のぶ子 37歳 全 ◎ 10 「最終的に私は推した。」「この作中に挿入された童話について、丹羽文雄氏がたいそう賞められた。」「この小人の話から、反射的にモーパッサンの「脂肪の塊」を連想した。」「しかし、この挿話が作品に立体感を与えているのは、確かなところである。」 島田雅彦 22歳 全 ■ 5 「才気は買うが、こういう安全地帯に身を置いて才気を発揮している点はどうだろう。安全地帯と見えるものが、じつは、全く違うものだというところまで筆が届けばいいのだが。」 佐藤泰志 34歳 全 ― 0

他の選考委員 大江健三郎 開高健 中村光夫 丸谷才一 安岡章太郎 井上靖 丹羽文雄 遠藤周作

安岡章太郎63歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題短編小説の低落　総行数32　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 増田みず子 34歳 全 ― 0   伊井直行 29歳 全 △ 7 「意外に面白いところがあった。」「とはいうものの、これはいかにも雑駁であり、後半はとくに何を書いているのか、作者自身もユメにうなされたことを、そのまま文字にしたものかと思われる。」 高橋昌男 47歳 全 □ 20 「今回の候補作のなかでは一番出来がよかった。」「光っているのは神田川の描写である。」「それだけに、この小説が最後の幕切れのところで、いかにも小説的な結末を持ち出して、それを少年たちの口を通じて語らせたことは、マズかった――。」「級長の母親とよその男との話など、もしそれを織り込む必要があるのなら、もっと前にさりげないかたちで触れておくべきであろう。」 李良枝 28歳 全 ― 0   池田章一 (39歳) 全 ― 0   高樹のぶ子 37歳 全 ― 0   島田雅彦 22歳 全 ■ 3 「才能と素質を感じさせるところはあるが、何といってもこれ一本では心許ない。」 佐藤泰志 34歳 全 ― 0     「いつも言うことだが、今回も全体を通じて短篇小説の低落ぶりを痛感させられた。」

他の選考委員 大江健三郎 開高健 中村光夫 丸谷才一 吉行淳之介 井上靖 丹羽文雄 遠藤周作

井上靖76歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選後に　総行数11　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 増田みず子 34歳 全 ― 0   伊井直行 29歳 全 □ 5 「私の場合、（引用者中略）上位に置いた。」「文章も確りしており、作者の才能も感じられる作品で、好意をもって読んだ。」 高橋昌男 47歳 全 □ 5 「私の場合、（引用者中略）上位に置いた。」「文章も確りしており、作者の才能も感じられる作品で、好意をもって読んだ。」 李良枝 28歳 全 □ 5 「私の場合、（引用者中略）上位に置いた。」「文章も確りしており、作者の才能も感じられる作品で、好意をもって読んだ。」 池田章一 (39歳) 全 △ 3 「短篇らしい短篇で、この作者にも次の仕事を期待させて頂く。」 高樹のぶ子 37歳 全 ― 0   島田雅彦 22歳 全 ― 0   佐藤泰志 34歳 全 ― 0     「候補作八篇、それぞれ面白くは読んだが、芥川賞作品として、自信をもって押し出せるものはなかった。」

他の選考委員 大江健三郎 開高健 中村光夫 丸谷才一 吉行淳之介 安岡章太郎 丹羽文雄 遠藤周作

丹羽文雄78歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題雑談　総行数22　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 増田みず子 34歳 全 ― 0   伊井直行 29歳 全 ― 0   高橋昌男 47歳 全 ― 0   李良枝 28歳 全 ― 0   池田章一 (39歳) 全 ― 0   高樹のぶ子 37歳 全 ― 0   島田雅彦 22歳 全 ― 0   佐藤泰志 34歳 全 ― 0     「昔は候補作品のつぶが揃っていた。今回の候補作品のように、興味のある材料をとらえながら、それをこなすだけの力がなかったり、感情過多で、ひとりよがりに深刻がっているような候補作品は、以前はなかったように記憶している。最近はその差がひどくなっている。」	他の選考委員 大江健三郎 開高健 中村光夫 丸谷才一 吉行淳之介 安岡章太郎 井上靖 遠藤周作

遠藤周作60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数21　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 増田みず子 34歳 全 ― 0   伊井直行 29歳 全 ― 0   高橋昌男 47歳 全 ◎ 8 「最後まで残った」「私は高橋昌男氏を推した一人である。」「この作品は高橋さんのもののなかで決して悪くない佳作だと思った。実力も安定した作家だと思ったのだがやや古風であるという点が災をして過半数の票をとれなかったのが残念だった。」 李良枝 28歳 全 ― 0   池田章一 (39歳) 全 ― 0   高樹のぶ子 37歳 全 ・ 2   島田雅彦 22歳 全 △ 14 「最後まで残った」「氏の才能を認めながら、次の作品を見たいという気持が起ったのは、この作品がよき意味（原文傍点）での風俗小説ではあるが、そこから優しいサヨクという現代風俗を除いたなら、何が残るかという疑問がどうも頭にひっかかってならなかったからである。」 佐藤泰志 34歳 全 ― 0

他の選考委員 大江健三郎 開高健 中村光夫 丸谷才一 吉行淳之介 安岡章太郎 井上靖 丹羽文雄

増田みず子34歳×各選考委員　 「内気な夜景」 中篇 153枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大江健三郎 48歳 全 ― 0   開高健 52歳 全 ― 0   中村光夫 72歳 全 △ 5 「作者の個性の趣向で、現代の風景に挑んだ作品です。」「苦心が今回は成功作を生んだとは云えませんが、筆者の頑固な努力はそれなりに僕らを期待させます。」 丸谷才一 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 59歳 全 ― 0   安岡章太郎 63歳 全 ― 0   井上靖 76歳 全 ― 0   丹羽文雄 78歳 全 ― 0   遠藤周作 60歳 全 ― 0	他の候補作 伊井直行 「草のかんむり」 高橋昌男 「町の秋」 李良枝 「かずきめ」 池田章一 「退屈まつり」 高樹のぶ子 「追い風」 島田雅彦 「優しいサヨクのための嬉遊曲」 佐藤泰志 「水晶の腕」

伊井直行29歳×各選考委員　 「草のかんむり」 中篇 253枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大江健三郎 48歳 全 △ 10 「倒叙ものの推理小説のようなたくらみは、末尾にはっきりしてくるが、短篇として首尾一貫させるためには前半の幻想シーンが長すぎる。またフロイドも認めていた、精神治療に参加する――なおす（原文傍点）側の――人間のおちいる精神的危機について、深く身につまされるほど、思いめぐらしてはいないとも感じられた。」 開高健 52歳 全 ― 0   中村光夫 72歳 全 ― 0   丸谷才一 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 59歳 全 △ 6 「あと二、三作でおもしろいものが出てくる可能性を感じさせた。この長い作品で、変身した蛙がまた人間に戻ってからのあと、にわかにそれまでの明快さを失った。」 安岡章太郎 63歳 全 △ 7 「意外に面白いところがあった。」「とはいうものの、これはいかにも雑駁であり、後半はとくに何を書いているのか、作者自身もユメにうなされたことを、そのまま文字にしたものかと思われる。」 井上靖 76歳 全 □ 5 「私の場合、（引用者中略）上位に置いた。」「文章も確りしており、作者の才能も感じられる作品で、好意をもって読んだ。」 丹羽文雄 78歳 全 ― 0   遠藤周作 60歳 全 ― 0

他の候補作 増田みず子 「内気な夜景」 高橋昌男 「町の秋」 李良枝 「かずきめ」 池田章一 「退屈まつり」 高樹のぶ子 「追い風」 島田雅彦 「優しいサヨクのための嬉遊曲」 佐藤泰志 「水晶の腕」

高橋昌男47歳×各選考委員　 「町の秋」 短篇 119枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大江健三郎 48歳 全 ― 0   開高健 52歳 全 ■ 6 「あらゆる要素がソツなく、丹念に書きこまれ、布置してある。しかし、読後に何も残してくれない。徹底的な完全消化をめざした技のために何も残らないというのではないから、そこが困る。」 中村光夫 72歳 全 △ 6 「作者の個性の趣向で、現代の風景に挑んだ作品です。」「苦心が今回は成功作を生んだとは云えませんが、筆者の頑固な努力はそれなりに僕らを期待させます。」 丸谷才一 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 59歳 全 ■ 4 「あちこちに秀れた描写がある。しかし、少年の感受性への作者のこだわり過ぎがいささかうるさい。」 安岡章太郎 63歳 全 □ 20 「今回の候補作のなかでは一番出来がよかった。」「光っているのは神田川の描写である。」「それだけに、この小説が最後の幕切れのところで、いかにも小説的な結末を持ち出して、それを少年たちの口を通じて語らせたことは、マズかった――。」「級長の母親とよその男との話など、もしそれを織り込む必要があるのなら、もっと前にさりげないかたちで触れておくべきであろう。」 井上靖 76歳 全 □ 5 「私の場合、（引用者中略）上位に置いた。」「文章も確りしており、作者の才能も感じられる作品で、好意をもって読んだ。」 丹羽文雄 78歳 全 ― 0   遠藤周作 60歳 全 ◎ 8 「最後まで残った」「私は高橋昌男氏を推した一人である。」「この作品は高橋さんのもののなかで決して悪くない佳作だと思った。実力も安定した作家だと思ったのだがやや古風であるという点が災をして過半数の票をとれなかったのが残念だった。」

他の候補作 増田みず子 「内気な夜景」 伊井直行 「草のかんむり」 李良枝 「かずきめ」 池田章一 「退屈まつり」 高樹のぶ子 「追い風」 島田雅彦 「優しいサヨクのための嬉遊曲」 佐藤泰志 「水晶の腕」

李良枝28歳×各選考委員　 「かずきめ」 短篇 95枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大江健三郎 48歳 全 ― 0   開高健 52歳 全 ― 0   中村光夫 72歳 全 ― 0   丸谷才一 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 59歳 全 ■ 4 「悪く凝った構成がいけない。今の時代の日本において、この作者は自分が朝鮮人であることをどう考えているかも含めて、本音を素直に聞きたい。」 安岡章太郎 63歳 全 ― 0   井上靖 76歳 全 □ 5 「私の場合、（引用者中略）上位に置いた。」「文章も確りしており、作者の才能も感じられる作品で、好意をもって読んだ。」 丹羽文雄 78歳 全 ― 0   遠藤周作 60歳 全 ― 0	他の候補作 増田みず子 「内気な夜景」 伊井直行 「草のかんむり」 高橋昌男 「町の秋」 池田章一 「退屈まつり」 高樹のぶ子 「追い風」 島田雅彦 「優しいサヨクのための嬉遊曲」 佐藤泰志 「水晶の腕」

池田章一(39歳)×各選考委員　 「退屈まつり」 短篇 71枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大江健三郎 48歳 全 ― 0   開高健 52歳 全 ― 0   中村光夫 72歳 全 △ 5 「作者の個性の趣向で、現代の風景に挑んだ作品です。」「苦心が今回は成功作を生んだとは云えませんが、筆者の頑固な努力はそれなりに僕らを期待させます。」 丸谷才一 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 59歳 全 △ 8 「前半の話の進め方がいささか紋切型だが、後半に女主人公ががむしゃらに西瓜を食べたがったり海へ行きたいと言いつづけるあたり、面白かった。作品自体、かなり評価できたが、ヒイキのヒキ倒しにならぬよう点が辛くなったが、頑張ってほしい。」 安岡章太郎 63歳 全 ― 0   井上靖 76歳 全 △ 3 「短篇らしい短篇で、この作者にも次の仕事を期待させて頂く。」 丹羽文雄 78歳 全 ― 0   遠藤周作 60歳 全 ― 0	他の候補作 増田みず子 「内気な夜景」 伊井直行 「草のかんむり」 高橋昌男 「町の秋」 李良枝 「かずきめ」 高樹のぶ子 「追い風」 島田雅彦 「優しいサヨクのための嬉遊曲」 佐藤泰志 「水晶の腕」

高樹のぶ子37歳×各選考委員　 「追い風」 短篇 109枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大江健三郎 48歳 全 ― 0   開高健 52歳 全 ■ 6 「老母の言動をのぞくと他の登場人物たちの言動、その動機が説得力を欠いている。足が浮いている。首をかしげかしげ読んでいき、読みおわったあともそのままである。」 中村光夫 72歳 全 △ 5 「作者の個性の趣向で、現代の風景に挑んだ作品です。」「苦心が今回は成功作を生んだとは云えませんが、筆者の頑固な努力はそれなりに僕らを期待させます。」 丸谷才一 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 59歳 全 ◎ 10 「最終的に私は推した。」「この作中に挿入された童話について、丹羽文雄氏がたいそう賞められた。」「この小人の話から、反射的にモーパッサンの「脂肪の塊」を連想した。」「しかし、この挿話が作品に立体感を与えているのは、確かなところである。」 安岡章太郎 63歳 全 ― 0   井上靖 76歳 全 ― 0   丹羽文雄 78歳 全 ― 0   遠藤周作 60歳 全 ・ 2

他の候補作 増田みず子 「内気な夜景」 伊井直行 「草のかんむり」 高橋昌男 「町の秋」 李良枝 「かずきめ」 池田章一 「退屈まつり」 島田雅彦 「優しいサヨクのための嬉遊曲」 佐藤泰志 「水晶の腕」

島田雅彦22歳×各選考委員　 「優しいサヨクのための嬉遊曲」 中篇 173枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大江健三郎 48歳 全 ○ 21 「ロシアの民俗とモダニスムのからみあった、この時期（引用者注：一九二〇年代ソヴィエト・ロシア）の小説には、イメージの超現実にあわせて「話法」の卓抜な面白さがある。」「『優しいサヨクのための嬉遊曲』は、その「話法」をつい昨日のこと（あるいは今日の昼前のこと）について、機敏に生かした小説づくりである。」「作者の「サヨク」の日常的観察には、軽薄なようでいて（若さゆえの勇み足と弛緩は当然にあるが）田中康夫には欠けていた、自前の認識力の芽をかいま見せるものがあろう。」 開高健 52歳 全 △ 7 「軽薄なのではなく、よい意味での“軽み”といいたい作風が新鮮でもあり、のびのびともしていて、イヤ味でない才気を感じさせられる。結末部分が腰砕けになって土俵を突破しきれないでいる失敗と破綻があるが、今後どこまでこういう軽業を演じつづけられるだろうか。」 中村光夫 72歳 全 □ 9 「力のこもった独創的な、次作を期待させるもの（引用者中略）の筆頭にあげるべきでしょう。」「このむずかしい主題とガムシャラにとりくんでほとんど力ずくでねじふせたようなこの学生小説は、おそらく作者の意図とは別に、現代に生きる苦さを読者に味わせてくれます。」 丸谷才一 57歳 全 ― 0   吉行淳之介 59歳 全 ■ 5 「才気は買うが、こういう安全地帯に身を置いて才気を発揮している点はどうだろう。安全地帯と見えるものが、じつは、全く違うものだというところまで筆が届けばいいのだが。」 安岡章太郎 63歳 全 ■ 3 「才能と素質を感じさせるところはあるが、何といってもこれ一本では心許ない。」 井上靖 76歳 全 ― 0   丹羽文雄 78歳 全 ― 0   遠藤周作 60歳 全 △ 14 「最後まで残った」「氏の才能を認めながら、次の作品を見たいという気持が起ったのは、この作品がよき意味（原文傍点）での風俗小説ではあるが、そこから優しいサヨクという現代風俗を除いたなら、何が残るかという疑問がどうも頭にひっかかってならなかったからである。」

他の候補作 増田みず子 「内気な夜景」 伊井直行 「草のかんむり」 高橋昌男 「町の秋」 李良枝 「かずきめ」 池田章一 「退屈まつり」 高樹のぶ子 「追い風」 佐藤泰志 「水晶の腕」

佐藤泰志34歳×各選考委員　 「水晶の腕」 短篇 105枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大江健三郎 48歳 全 ― 0   開高健 52歳 全 ― 0   中村光夫 72歳 全 ― 0   丸谷才一 57歳 全 □ 12 「わりあいまし」「主人公の姿は、健気と言えないこともないが、しかし印象が薄く、かえって、周囲の人たち、特に「頭のとろい」あんちゃんが記憶に残る。」「感じは悪くないにしても、スケッチふうの仕立てで、短篇小説と呼ぶにしてはどうも水っぽい。」 吉行淳之介 59歳 全 ― 0   安岡章太郎 63歳 全 ― 0   井上靖 76歳 全 ― 0   丹羽文雄 78歳 全 ― 0   遠藤周作 60歳 全 ― 0	他の候補作 増田みず子 「内気な夜景」 伊井直行 「草のかんむり」 高橋昌男 「町の秋」 李良枝 「かずきめ」 池田章一 「退屈まつり」 高樹のぶ子 「追い風」 島田雅彦 「優しいサヨクのための嬉遊曲」