第83回

第82回第84回

昭和55年/1980年上半期 昭和55年/1980年7月17日決定発表／『文藝春秋』昭和55年/1980年9月号選評掲載

選考委員　 丸谷才一 54歳 大江健三郎 45歳 吉行淳之介 56歳 瀧井孝作 86歳 中村光夫 69歳 遠藤周作 57歳 井上靖 73歳 丹羽文雄 75歳 開高健 49歳 安岡章太郎 60歳 選評総行数　 32 30 23 29 29 30 25 25 34 34 評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 吉川良　「神田村」 185枚 43歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 3 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 村上節　「狸」 46枚 (47歳) 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 尾辻克彦　「闇のヘルペス」 56枚 43歳 評 □ 14 △ 11 ○ 4 ― 0 △ 12 △ 5 ○ 12 ― 0 ― 0 ■ 6 飯尾憲士　「ソウルの位牌」 139枚 53歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ◎ 8 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 6 丸元淑生　「羽ばたき」 154枚 46歳 評 ○ 20 △ 13 □ 14 △ 6 △ 15 □ 16 △ 11 □ 23 △ 15 △ 19 村上春樹　「一九七三年のピンボール」 248枚 31歳 評 □ 16 △ 14 ○ 6 △ 8 △ 14 ・ 2 △ 11 ― 0 ― 0 ― 0 北澤三保　「狩人たちの祝宴」 117枚 34歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 △ 3 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0                     年齢/枚数の説明   見方・注意点

丸谷才一54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題文学的エネルギー　総行数32　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ― 0   村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 □ 14 「よいと思つた」「感受性を短篇小説の枠のなかに定着するのが巧妙で、大変な技術です。」「藝や趣向を積み重ねたあげくの物語が何だか他愛ないといふ感じは否めませんでした。」 飯尾憲士 53歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 ○ 20 「よいと思つた」「主人公と二人の息子の関係が情理兼ね備つた書き方で、感動的です。しかし二人の女との関係はどうも感心しない。」「が、さういふ欠点はあるものの、八方やぶれで無鉄砲な男の生き方と、その男の知的な側面とを、あはせ描いてゐるところがおもしろい。」 村上春樹 31歳 全 □ 16 「よいと思つた」「古風な誠実主義をからかひながら自分の青春の実感である喪失感や虚無感を示さうとしたものでせう。ずいぶん上手になつたと感心しましたが、大事な仕掛けであるピンボールがどうもうまくきいてゐない。」 北澤三保 34歳 全 ― 0     「わたしは、この三人の作家（引用者注：丸元淑生、村上春樹、尾辻克彦）が持つてゐる文学的エネルギーを信用してゐます、」「現在のやうな文学的転換期では、万人むきの無難な作品よりもむしろ、破綻のある作品を書くしかなかつたエネルギーを尊重したいと考へるのです。」

他の選考委員 大江健三郎 吉行淳之介 瀧井孝作 中村光夫 遠藤周作 井上靖 丹羽文雄 開高健 安岡章太郎

大江健三郎45歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題個性ある三作家　総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ― 0   村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 △ 11 「三篇（引用者注：「闇のヘルペス」「一九七三年のピンボール」「羽ばたき」）のいずれが入賞しても不満でないと考えていたが、またそれらいずれにも積極的に賞へと推すことにはなにか不充分な思いが残るのでもあった。」「ものの見方、感じ方、その表現の独特さでは、（引用者中略）きわだっている。」「これは本質において詩の領域の才能の仕事である。」 飯尾憲士 53歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 △ 13 「三篇（引用者注：「闇のヘルペス」「一九七三年のピンボール」「羽ばたき」）のいずれが入賞しても不満でないと考えていたが、またそれらいずれにも積極的に賞へと推すことにはなにか不充分な思いが残るのでもあった。」「散文家としての力ということでは（引用者中略）もっとも安定していた。」「ひかえめに書かれてはいるが野放図なユーモアと悲哀。それは印象めざましいものだ。しかし一篇の作品としての仕上げに、緊張不十分なところがあり、」 村上春樹 31歳 全 △ 14 「三篇（引用者注：「闇のヘルペス」「一九七三年のピンボール」「羽ばたき」）のいずれが入賞しても不満でないと考えていたが、またそれらいずれにも積極的に賞へと推すことにはなにか不充分な思いが残るのでもあった。」「前作につなげて、カート・ヴォネガットの直接の、またスコット・フィッツジェラルドの間接の、影響・模倣が見られる。しかし他から受けたものをこれだけ自分の道具として使いこなせるということは、それはもう明らかな才能というほかにないであろう。」 北澤三保 34歳 全 ― 0

他の選考委員 丸谷才一 吉行淳之介 瀧井孝作 中村光夫 遠藤周作 井上靖 丹羽文雄 開高健 安岡章太郎

吉行淳之介56歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数23　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ― 0   村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 ○ 4 「おもしろかった。」「前作「肌ざわり」に劣らない出来だった。」 飯尾憲士 53歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 □ 14 「よかったが、途中の大きな破綻が気になった。」「二作（引用者注：「闇のヘルペス」「一九七三年のピンボール」）をかなり上まわる票を得たので、授賞作にきまったとおもっているうちに、佳作ということになった。」「父親と二人の息子との関係、とくに力士になった下の息子を描いたところは、じつに良い。」「イメージが拡散しており、筆が走っていて表現になる筈のものが説明になってしまっている。ここのところが、惜しかった。」 村上春樹 31歳 全 ○ 6 「おもしろかった。」「この時代に生きる二十四歳の青年の感性と知性がよく描かれていた。」「（引用者注：同棲している）双子の存在感をわざと稀薄にして描いているところなど、長い枚数を退屈せずに読んだ。」 北澤三保 34歳 全 ― 0

他の選考委員 丸谷才一 大江健三郎 瀧井孝作 中村光夫 遠藤周作 井上靖 丹羽文雄 開高健 安岡章太郎

瀧井孝作86歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題今回は票が割れて　総行数29　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ■ 3 「しまいの二三頁になって急に大衆物のような結末は惜しかった。」 村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 ― 0   飯尾憲士 53歳 全 ◎ 8 「朝鮮のソウルにて、叔父・甥、叔母・姪たちに歓迎される酒宴の場面、ありありした描写に私は惹込まれて涙ぐんだりした。実感の強い作にて、私はこれ一つを推した。」 丸元淑生 46歳 全 △ 6 「角力の話はそっちのけで、家庭の話になり、妾もあり、妾に子供も生れ、いつのまにか家庭小説であった。ズラズラ書くのがこの作者の特色かと見た。」 村上春樹 31歳 全 △ 8 「筋のない小説で、夢のようなものだ。主人公は英語とフランス語の飜訳事務所を開いているとあるが、生活は何も書いてない。」 北澤三保 34歳 全 △ 3 「一寸うまいが筆がまだ弱いように見えた。」   「今回は票が割れて、ナシになったのは惜しい。」

他の選考委員 丸谷才一 大江健三郎 吉行淳之介 中村光夫 遠藤周作 井上靖 丹羽文雄 開高健 安岡章太郎

中村光夫69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選評　総行数29　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ― 0   村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 △ 12 「話術の巧みな小説で、この点では群をぬいてゐます。しかしこの故意に無秩序を意図した構成が全体として効果をあげてゐないので、（引用者中略）ただいい気になつて読者をふりまはさうとする印象を与へられます。」 飯尾憲士 53歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 △ 15 「いはゞ都会の塵にまみれた平凡な世間話に終始しながら、できる限り美化をぬきにして、親子、夫婦、愛人の絆を生々と把みだしてゐるのは、作者の人柄を感じさせます。」「しかしこの型通りの私小説に、文学として何か新しいものが期待できるかといふ疑問が読後に湧いてくるのも事実です。」 村上春樹 31歳 全 △ 14 「ひとりでハイカラぶつてふざけてゐる青年を、彼と同じやうに、いい気で安易な筆づかひで描いても、彼の内面の挙止は一向に伝達されません。現代のアメリカ化した風俗（引用者中略）を風俗しか見えぬ浅薄な眼で捕へてゐては、文学は生れ得ない、才能はある人らしいが惜しいことだと思ひます。」 北澤三保 34歳 全 ― 0

他の選考委員 丸谷才一 大江健三郎 吉行淳之介 瀧井孝作 遠藤周作 井上靖 丹羽文雄 開高健 安岡章太郎

遠藤周作57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題次の作品に期待する　総行数30　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ― 0   村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 △ 5 「作者の感性はすばらしい。しかしその感性に溺れると、どうもイヤ味になる、前作にくらべて今度はそのイヤ味が作品をそこねた。」 飯尾憲士 53歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 □ 16 「私は（引用者中略）支持したが、それは佳作という意味で当選作としてではなかった。この人は前作「秋月へ」よりも一段と今度の作品がうまくなっている。」「このだらしない、そして無意識（原文傍点）で自分にも他人にも嘘をつく男（そういう男は実に多いのであるが）を主人公にして子供がよく描けている。」「もう一歩、かりこめばこの作品はもっと良くなったろう。」 村上春樹 31歳 全 ・ 2 「予想通り（引用者中略）最後まで残った。」 北澤三保 34歳 全 ― 0     「刺激と激励を与えるために賞を濫発すれば、その賞自体の意味がなくなる。そして応募する人にこの程度で賞をもらえるという気持にさせるかもしれない。私は今回、当選作なしを積極的に主張した一人であるが、それは右のような理由のためだった。」

他の選考委員 丸谷才一 大江健三郎 吉行淳之介 瀧井孝作 中村光夫 井上靖 丹羽文雄 開高健 安岡章太郎

井上靖73歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題寸評　総行数25　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ― 0   村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 ○ 12 「一番面白かった。」「どことなく古ものめいた、つぎはり小説とでもいったような面白さがある。一見素朴を装っているが、なかなかしゃれたものである。しかし、最後の詰めは利いていないばかりか、決してうまいとは言えない。」 飯尾憲士 53歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 △ 11 「短篇の形の中にいろいろな問題を詰め込みすぎて、結局書き切れなかったと思う。二人の息子との関係などうまく書いているだけに、最後が弱くなっているのは惜しまれた。」 村上春樹 31歳 全 △ 11 「新しい文学の分野を拓こうという意図の見える唯一の作品で、部分的にはうまいところもあれば、新鮮なものも感じさせられるが、しかし、総体的に見て、感性がから廻りしているところが多く、書けているとは言えない。」 北澤三保 34歳 全 ― 0     「候補作どれも一応面白く読んだが、特に傑出したものはなかった。どの作品にもいいところはあったが、どこかに困るところもあった。」

他の選考委員 丸谷才一 大江健三郎 吉行淳之介 瀧井孝作 中村光夫 遠藤周作 丹羽文雄 開高健 安岡章太郎

丹羽文雄75歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数25　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ― 0   村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 ― 0   飯尾憲士 53歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 □ 23 「当選作がない、佳作発表となったのは、近頃異例である。」「角力取りとなったわが子を描いている部分は、さわやかな出来であり、心あたたまる作品であった。二人の女性が登場するが、細君はまあいいとしても、情人がこの作品の致命的な疵となった。」「この情人を省いたところで、小説は成立していたであろう。」「信頼出来る腕をもっているだけに、構成的なあやまりが残念でならない。」 村上春樹 31歳 全 ― 0   北澤三保 34歳 全 ― 0	他の選考委員 丸谷才一 大江健三郎 吉行淳之介 瀧井孝作 中村光夫 遠藤周作 井上靖 開高健 安岡章太郎

開高健49歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題あと一歩の処置　総行数34　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ― 0   村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 ― 0   飯尾憲士 53歳 全 ― 0   丸元淑生 46歳 全 △ 15 「最後に一作のこって議論が集中した」「起、承、転の運びもメリハリがあって、ときには腕力で書いているような印象をうけないでもないが、まずまず説得される。しかし、惜しいのは結の部分で、ここへきて作品がにわかに稀薄になってしまう。詰メ、もしくは、寄セ。これがきいていないのである。」 村上春樹 31歳 全 ― 0   北澤三保 34歳 全 ― 0     「キラキラしたり、しみじみしたり、作風は百花斉放である。しかし、読後に一拍おいてから、それがどうした？　一つ反問をしたら、とたんに一切が霧消しちまう。そういう作品が多すぎる。」	他の選考委員 丸谷才一 大江健三郎 吉行淳之介 瀧井孝作 中村光夫 遠藤周作 井上靖 丹羽文雄 安岡章太郎

安岡章太郎60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題栄養過剰の不作　総行数34　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 吉川良 43歳 全 ― 0   村上節 (47歳) 全 ― 0   尾辻克彦 43歳 全 ■ 6 「自分の手に触れたところ、感覚だけで間に合う部分だけを切りとって、一生懸命、頭をそこに突っこんでいる。それが悪いとは言わないが、感性にばかりたよっていては、モノは何も見えてこない。」 飯尾憲士 53歳 全 ■ 6 「主題が好いし、素直な筆致でおもしろく読めたが、父の母国である韓国まで出掛けて、作者も主人公も、ともども主題を見失ってしまったのはいただけない。」 丸元淑生 46歳 全 △ 19 「なかなか栄養の行きわたった土壌をおもわせる作品であった。」「種々雑多な話がつまり過ぎているのである。」「おそらく作者にとっては、こういう話はそれぞれ関連があって、一つ一つ切り放しては考えられなかったのであろうが、それならそれで仕方がない。この三、四倍の長さに書き直すべきだろう。」 村上春樹 31歳 全 ― 0   北澤三保 34歳 全 ― 0     「今回、該当作がなかったのは、いつもにくらべて特に不作だったからというわけではない。」

他の選考委員 丸谷才一 大江健三郎 吉行淳之介 瀧井孝作 中村光夫 遠藤周作 井上靖 丹羽文雄 開高健

吉川良43歳×各選考委員　 「神田村」 中篇 185枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丸谷才一 54歳 全 ― 0   大江健三郎 45歳 全 ― 0   吉行淳之介 56歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 ■ 3 「しまいの二三頁になって急に大衆物のような結末は惜しかった。」 中村光夫 69歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 ― 0   井上靖 73歳 全 ― 0   丹羽文雄 75歳 全 ― 0   開高健 49歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ― 0	他の候補作 村上節 「狸」 尾辻克彦 「闇のヘルペス」 飯尾憲士 「ソウルの位牌」 丸元淑生 「羽ばたき」 村上春樹 「一九七三年のピンボール」 北澤三保 「狩人たちの祝宴」

村上節(47歳)×各選考委員　 「狸」 短篇 46枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丸谷才一 54歳 全 ― 0   大江健三郎 45歳 全 ― 0   吉行淳之介 56歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 ― 0   中村光夫 69歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 ― 0   井上靖 73歳 全 ― 0   丹羽文雄 75歳 全 ― 0   開高健 49歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ― 0	他の候補作 吉川良 「神田村」 尾辻克彦 「闇のヘルペス」 飯尾憲士 「ソウルの位牌」 丸元淑生 「羽ばたき」 村上春樹 「一九七三年のピンボール」 北澤三保 「狩人たちの祝宴」

尾辻克彦43歳×各選考委員　 「闇のヘルペス」 短篇 56枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丸谷才一 54歳 全 □ 14 「よいと思つた」「感受性を短篇小説の枠のなかに定着するのが巧妙で、大変な技術です。」「藝や趣向を積み重ねたあげくの物語が何だか他愛ないといふ感じは否めませんでした。」 大江健三郎 45歳 全 △ 11 「三篇（引用者注：「闇のヘルペス」「一九七三年のピンボール」「羽ばたき」）のいずれが入賞しても不満でないと考えていたが、またそれらいずれにも積極的に賞へと推すことにはなにか不充分な思いが残るのでもあった。」「ものの見方、感じ方、その表現の独特さでは、（引用者中略）きわだっている。」「これは本質において詩の領域の才能の仕事である。」 吉行淳之介 56歳 全 ○ 4 「おもしろかった。」「前作「肌ざわり」に劣らない出来だった。」 瀧井孝作 86歳 全 ― 0   中村光夫 69歳 全 △ 12 「話術の巧みな小説で、この点では群をぬいてゐます。しかしこの故意に無秩序を意図した構成が全体として効果をあげてゐないので、（引用者中略）ただいい気になつて読者をふりまはさうとする印象を与へられます。」 遠藤周作 57歳 全 △ 5 「作者の感性はすばらしい。しかしその感性に溺れると、どうもイヤ味になる、前作にくらべて今度はそのイヤ味が作品をそこねた。」 井上靖 73歳 全 ○ 12 「一番面白かった。」「どことなく古ものめいた、つぎはり小説とでもいったような面白さがある。一見素朴を装っているが、なかなかしゃれたものである。しかし、最後の詰めは利いていないばかりか、決してうまいとは言えない。」 丹羽文雄 75歳 全 ― 0   開高健 49歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ■ 6 「自分の手に触れたところ、感覚だけで間に合う部分だけを切りとって、一生懸命、頭をそこに突っこんでいる。それが悪いとは言わないが、感性にばかりたよっていては、モノは何も見えてこない。」

他の候補作 吉川良 「神田村」 村上節 「狸」 飯尾憲士 「ソウルの位牌」 丸元淑生 「羽ばたき」 村上春樹 「一九七三年のピンボール」 北澤三保 「狩人たちの祝宴」

飯尾憲士53歳×各選考委員　 「ソウルの位牌」 短篇 139枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丸谷才一 54歳 全 ― 0   大江健三郎 45歳 全 ― 0   吉行淳之介 56歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 ◎ 8 「朝鮮のソウルにて、叔父・甥、叔母・姪たちに歓迎される酒宴の場面、ありありした描写に私は惹込まれて涙ぐんだりした。実感の強い作にて、私はこれ一つを推した。」 中村光夫 69歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 ― 0   井上靖 73歳 全 ― 0   丹羽文雄 75歳 全 ― 0   開高健 49歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ■ 6 「主題が好いし、素直な筆致でおもしろく読めたが、父の母国である韓国まで出掛けて、作者も主人公も、ともども主題を見失ってしまったのはいただけない。」	他の候補作 吉川良 「神田村」 村上節 「狸」 尾辻克彦 「闇のヘルペス」 丸元淑生 「羽ばたき」 村上春樹 「一九七三年のピンボール」 北澤三保 「狩人たちの祝宴」

丸元淑生46歳×各選考委員　 「羽ばたき」 中篇 154枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丸谷才一 54歳 全 ○ 20 「よいと思つた」「主人公と二人の息子の関係が情理兼ね備つた書き方で、感動的です。しかし二人の女との関係はどうも感心しない。」「が、さういふ欠点はあるものの、八方やぶれで無鉄砲な男の生き方と、その男の知的な側面とを、あはせ描いてゐるところがおもしろい。」 大江健三郎 45歳 全 △ 13 「三篇（引用者注：「闇のヘルペス」「一九七三年のピンボール」「羽ばたき」）のいずれが入賞しても不満でないと考えていたが、またそれらいずれにも積極的に賞へと推すことにはなにか不充分な思いが残るのでもあった。」「散文家としての力ということでは（引用者中略）もっとも安定していた。」「ひかえめに書かれてはいるが野放図なユーモアと悲哀。それは印象めざましいものだ。しかし一篇の作品としての仕上げに、緊張不十分なところがあり、」 吉行淳之介 56歳 全 □ 14 「よかったが、途中の大きな破綻が気になった。」「二作（引用者注：「闇のヘルペス」「一九七三年のピンボール」）をかなり上まわる票を得たので、授賞作にきまったとおもっているうちに、佳作ということになった。」「父親と二人の息子との関係、とくに力士になった下の息子を描いたところは、じつに良い。」「イメージが拡散しており、筆が走っていて表現になる筈のものが説明になってしまっている。ここのところが、惜しかった。」 瀧井孝作 86歳 全 △ 6 「角力の話はそっちのけで、家庭の話になり、妾もあり、妾に子供も生れ、いつのまにか家庭小説であった。ズラズラ書くのがこの作者の特色かと見た。」 中村光夫 69歳 全 △ 15 「いはゞ都会の塵にまみれた平凡な世間話に終始しながら、できる限り美化をぬきにして、親子、夫婦、愛人の絆を生々と把みだしてゐるのは、作者の人柄を感じさせます。」「しかしこの型通りの私小説に、文学として何か新しいものが期待できるかといふ疑問が読後に湧いてくるのも事実です。」 遠藤周作 57歳 全 □ 16 「私は（引用者中略）支持したが、それは佳作という意味で当選作としてではなかった。この人は前作「秋月へ」よりも一段と今度の作品がうまくなっている。」「このだらしない、そして無意識（原文傍点）で自分にも他人にも嘘をつく男（そういう男は実に多いのであるが）を主人公にして子供がよく描けている。」「もう一歩、かりこめばこの作品はもっと良くなったろう。」 井上靖 73歳 全 △ 11 「短篇の形の中にいろいろな問題を詰め込みすぎて、結局書き切れなかったと思う。二人の息子との関係などうまく書いているだけに、最後が弱くなっているのは惜しまれた。」 丹羽文雄 75歳 全 □ 23 「当選作がない、佳作発表となったのは、近頃異例である。」「角力取りとなったわが子を描いている部分は、さわやかな出来であり、心あたたまる作品であった。二人の女性が登場するが、細君はまあいいとしても、情人がこの作品の致命的な疵となった。」「この情人を省いたところで、小説は成立していたであろう。」「信頼出来る腕をもっているだけに、構成的なあやまりが残念でならない。」 開高健 49歳 全 △ 15 「最後に一作のこって議論が集中した」「起、承、転の運びもメリハリがあって、ときには腕力で書いているような印象をうけないでもないが、まずまず説得される。しかし、惜しいのは結の部分で、ここへきて作品がにわかに稀薄になってしまう。詰メ、もしくは、寄セ。これがきいていないのである。」 安岡章太郎 60歳 全 △ 19 「なかなか栄養の行きわたった土壌をおもわせる作品であった。」「種々雑多な話がつまり過ぎているのである。」「おそらく作者にとっては、こういう話はそれぞれ関連があって、一つ一つ切り放しては考えられなかったのであろうが、それならそれで仕方がない。この三、四倍の長さに書き直すべきだろう。」

他の候補作 吉川良 「神田村」 村上節 「狸」 尾辻克彦 「闇のヘルペス」 飯尾憲士 「ソウルの位牌」 村上春樹 「一九七三年のピンボール」 北澤三保 「狩人たちの祝宴」

村上春樹31歳×各選考委員　 「一九七三年のピンボール」 中篇 248枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丸谷才一 54歳 全 □ 16 「よいと思つた」「古風な誠実主義をからかひながら自分の青春の実感である喪失感や虚無感を示さうとしたものでせう。ずいぶん上手になつたと感心しましたが、大事な仕掛けであるピンボールがどうもうまくきいてゐない。」 大江健三郎 45歳 全 △ 14 「三篇（引用者注：「闇のヘルペス」「一九七三年のピンボール」「羽ばたき」）のいずれが入賞しても不満でないと考えていたが、またそれらいずれにも積極的に賞へと推すことにはなにか不充分な思いが残るのでもあった。」「前作につなげて、カート・ヴォネガットの直接の、またスコット・フィッツジェラルドの間接の、影響・模倣が見られる。しかし他から受けたものをこれだけ自分の道具として使いこなせるということは、それはもう明らかな才能というほかにないであろう。」 吉行淳之介 56歳 全 ○ 6 「おもしろかった。」「この時代に生きる二十四歳の青年の感性と知性がよく描かれていた。」「（引用者注：同棲している）双子の存在感をわざと稀薄にして描いているところなど、長い枚数を退屈せずに読んだ。」 瀧井孝作 86歳 全 △ 8 「筋のない小説で、夢のようなものだ。主人公は英語とフランス語の飜訳事務所を開いているとあるが、生活は何も書いてない。」 中村光夫 69歳 全 △ 14 「ひとりでハイカラぶつてふざけてゐる青年を、彼と同じやうに、いい気で安易な筆づかひで描いても、彼の内面の挙止は一向に伝達されません。現代のアメリカ化した風俗（引用者中略）を風俗しか見えぬ浅薄な眼で捕へてゐては、文学は生れ得ない、才能はある人らしいが惜しいことだと思ひます。」 遠藤周作 57歳 全 ・ 2 「予想通り（引用者中略）最後まで残った。」 井上靖 73歳 全 △ 11 「新しい文学の分野を拓こうという意図の見える唯一の作品で、部分的にはうまいところもあれば、新鮮なものも感じさせられるが、しかし、総体的に見て、感性がから廻りしているところが多く、書けているとは言えない。」 丹羽文雄 75歳 全 ― 0   開高健 49歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ― 0

他の候補作 吉川良 「神田村」 村上節 「狸」 尾辻克彦 「闇のヘルペス」 飯尾憲士 「ソウルの位牌」 丸元淑生 「羽ばたき」 北澤三保 「狩人たちの祝宴」

北澤三保34歳×各選考委員　 「狩人たちの祝宴」 短篇 117枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 丸谷才一 54歳 全 ― 0   大江健三郎 45歳 全 ― 0   吉行淳之介 56歳 全 ― 0   瀧井孝作 86歳 全 △ 3 「一寸うまいが筆がまだ弱いように見えた。」 中村光夫 69歳 全 ― 0   遠藤周作 57歳 全 ― 0   井上靖 73歳 全 ― 0   丹羽文雄 75歳 全 ― 0   開高健 49歳 全 ― 0   安岡章太郎 60歳 全 ― 0	他の候補作 吉川良 「神田村」 村上節 「狸」 尾辻克彦 「闇のヘルペス」 飯尾憲士 「ソウルの位牌」 丸元淑生 「羽ばたき」 村上春樹 「一九七三年のピンボール」