第22回

第21回第23回

昭和24年/1949年下半期 昭和25年/1950年1月31日決定発表／『文藝春秋』昭和25年/1950年4月号選評掲載

選考委員　 瀧井孝作 55歳 佐藤春夫 57歳 石川達三 44歳 岸田國士 59歳 舟橋聖一 45歳 丹羽文雄 45歳 宇野浩二 58歳 坂口安吾 43歳 川端康成 50歳 選評総行数　 47 46 39 38 19 38 45 12 44 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 井上靖　「闘牛」等 133枚 42歳 評 △ 17 ◎ 40 ○ 19 □ 7 ◎ 17 ◎ 32 ■ 21 ○ 4 ◎ 24 那須国男　「還らざる旅路」 117枚 32歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 △ 3 ― 0 ― 0 △ 5 ― 0 ■ 10 阿川弘之　「あ号作戦前後」 184枚 29歳 評 ― 0 ― 0 ・ 3 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 真鍋呉夫　「天命」 100枚 30歳 評 ― 0 ― 0 △ 15 △ 3 ― 0 ― 0 ■ 5 □ 8 ■ 9 前田純敬　「夏草」 80枚 27歳 評 △ 15 △ 10 △ 5 ◎ 10 ― 0 △ 5 ■ 4 ― 0 △ 5 島尾敏雄　「宿定め」 49枚 32歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 竹之内静雄　「ロッダム号の船長」 52枚 36歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 △ 2 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 △ 14 池山廣　「日本の牙」 131枚 35歳 評 △ 16 ― 0 △ 15 △ 3 □ 2 ― 0 ■ 4 ― 0 ● 2 村井暁　「哀楽の果て」 34枚 （不明） 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 澤野久雄　「挽歌」 129枚 37歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 □ 2 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 6       欠席   欠席       年齢/枚数の説明   見方・注意点

瀧井孝作55歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題国際的の小説　総行数47　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 井上靖 42歳 全 △ 17 「猟銃と闘牛と二つ読んでみて、この人は面白く読ませる才人らしい、と分りました。」「新聞小説でも書ける腕達者で、小説らしい形式で行く所に、私は、心からまだ好きではない、段々に好きになれるかもしれない、が今の所まだ、と考えました。」 那須国男 32歳 全 ― 0   阿川弘之 29歳 全 ― 0   真鍋呉夫 30歳 全 ― 0   前田純敬 27歳 全 △ 15 「こんどは候補の佳作も発表したら宜かろうと云うことで、私は（引用者中略）あげてみました。」「終戦の年に鹿児島市の空襲された悲惨事が克明に描かれて、（引用者中略）この空襲で焼払われた都市の悲惨な姿をあきらかにした、意味のある作品だと思いました。」 島尾敏雄 32歳 全 ― 0   竹之内静雄 36歳 全 ― 0   池山廣 35歳 全 △ 16 「こんどは候補の佳作も発表したら宜かろうと云うことで、私は（引用者中略）あげてみました。」「被征服民族の悲痛が描かれ、これは素材からみても、現在でなければ発表できない作品で、これを読んで、現在の日本の位置と姿も考えられるような、国際的の小説とも云うべきものではないかと思いました。」 村井暁 （不明） 全 ― 0   澤野久雄 37歳 全 ― 0     「芥川賞には、もっと珠のような短篇をほしいと思います。未だ荒蕪で、よい芽も育ちにくいかも知れませんが、美しい短篇も採り上げられるようにしたいと思います。」

他の選考委員 佐藤春夫 石川達三 岸田國士 舟橋聖一 丹羽文雄 宇野浩二 坂口安吾 川端康成

佐藤春夫57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「闘牛」を採る　総行数46　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 井上靖 42歳 全 ◎ 40 「他の候補作品を残らず読んで見た上でもその力倆から見て井上に優る人がいるとも思わなかった。」「自分は席上での「猟銃」を採るか「闘牛」をかの意見が出た時、一議なく闘牛説であった。年若な読者でない限り「猟銃」は誰しもあまり好まない作品だと思ったものである。」「闘牛を新聞社内部を描いたものとして見るか、恋愛小説としてみるかという意見も両立する。自分は恋愛小説と見る側である。」「井上は腕達者で作風も常識的ではあるが、飽くまで正直に腕にまかせて人を煙にまいてやろうというようなすれっからしの下劣なものの無いのがよい。作者の人柄であろう。」 那須国男 32歳 全 ― 0   阿川弘之 29歳 全 ― 0   真鍋呉夫 30歳 全 ― 0   前田純敬 27歳 全 △ 10 「自然発生風に素朴ないや味のない作風に好意は持たないではなかったが、（引用者中略）あまりにたどたどしく混乱した筆致（それが空襲のような素材には偶然にいい効果になっている部分も無いではなかったが）は、到底まだ習作の域を出るものではなく、この一篇で授賞するには足りないものと思われた。」 島尾敏雄 32歳 全 ― 0   竹之内静雄 36歳 全 ― 0   池山廣 35歳 全 ― 0   村井暁 （不明） 全 ― 0   澤野久雄 37歳 全 ― 0

他の選考委員 瀧井孝作 石川達三 岸田國士 舟橋聖一 丹羽文雄 宇野浩二 坂口安吾 川端康成

石川達三44歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選後小感　総行数39　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 井上靖 42歳 全 ○ 19 「すぐれた才能をもった人だと思う」「一回の委員会では済むまいと思ったが、案外意見が早くまとまった。」「なかなか巧みな技巧のある人で、小説を面白く構成して行く技術をもっている。将来相当の多作濫作にも耐え得る作家だろうと思う。しかしなるべくならば多作はすすめたくない。」 那須国男 32歳 全 ― 0   阿川弘之 29歳 全 ・ 3   真鍋呉夫 30歳 全 △ 15 「正直なところ私は簡単に批判を下し得ない。」「選者が批判に困るような制作が書かれているという事がしきりに嬉しかった。日本の文学は、いわゆるアプレ・ゲエル派の作品によってではなく、むしろこういう作品の傾向から伸びたり厚味を加えたりして行くのではなかろうかと、ちょっと考えた。」「（引用者注：授賞作と迷うほど）相当のものである。」 前田純敬 27歳 全 △ 5 「素直な良い作品だった。若い作家らしく思われたが、鋭い眼と的確な描写とで作品は明るく鮮明である。」 島尾敏雄 32歳 全 ― 0   竹之内静雄 36歳 全 ― 0   池山廣 35歳 全 △ 15 「正直なところ私は簡単に批判を下し得ない。」「選者が批判に困るような制作が書かれているという事がしきりに嬉しかった。日本の文学は、いわゆるアプレ・ゲエル派の作品によってではなく、むしろこういう作品の傾向から伸びたり厚味を加えたりして行くのではなかろうかと、ちょっと考えた。」「（引用者注：授賞作と迷うほど）相当のものである。」 村井暁 （不明） 全 ― 0   澤野久雄 37歳 全 ― 0     「前回に比べて候補作品がすぐれていると思った。」

他の選考委員 瀧井孝作 佐藤春夫 岸田國士 舟橋聖一 丹羽文雄 宇野浩二 坂口安吾 川端康成

岸田國士59歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題選後に　総行数38　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 井上靖 42歳 全 □ 7 「「闘牛」（井上靖）は、わが国では珍しい、既に成熟を感じさせる、一個の文学的才能の所産である。常識に富んだ、余情ある巧みな作品がどしどし書ける作家の手腕を示している。」「衆目の見るところ、入選作として、これも、当を得たものである。私も敢て反対する気持はない。」 那須国男 32歳 全 △ 3 「徹底した超国境性に、（引用者中略）非常に興味をひかれた。」 阿川弘之 29歳 全 ― 0   真鍋呉夫 30歳 全 △ 3 「多彩なロマンチシズムに、（引用者中略）非常に興味をひかれた。」 前田純敬 27歳 全 ◎ 10 「第一に推すことにした。」「初々しい感動があり、健康な意欲も目立ち、可なり確かな眼で現象も捉えられている。」「多少冗漫な個所もなくはないし甘いといえば甘いところがあるにはある。しかし、それらをひっくるめて、やはり新鮮で美しい物語になっている。」 島尾敏雄 32歳 全 ― 0   竹之内静雄 36歳 全 △ 2 「粘り強い描写力に（引用者中略）非常に興味をひかれた。」 池山廣 35歳 全 △ 3 「苛烈な国籍不明の反日感情に、（引用者中略）非常に興味をひかれた。」 村井暁 （不明） 全 ― 0   澤野久雄 37歳 全 ― 0     「今度は読みごたえのある作品が多く、だいたい粒がそろっていて、たいへん張り合いがあった。」「私の望むところは、芥川賞の性格をもうすこしはっきりさせて、なるだけ無理のない結果が得られるようにしたいものだと思う。この賞も創作としての戯曲を除外してあるわけではないのに、一度も選にはいらぬというのも片手落の感があり、今度も、例えば福田恒存の「キティ颱風」のような秀作が予選の中にさえ数えられていないことを私は指摘したい。」

他の選考委員 瀧井孝作 佐藤春夫 石川達三 舟橋聖一 丹羽文雄 宇野浩二 坂口安吾 川端康成

舟橋聖一45歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「猟銃」と「闘牛」　総行数19　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 井上靖 42歳 全 ◎ 17 「井上靖のものが、断然、他を大差に引放し、前回とはうって代って、委員会は、円満裡に、すぐ結論を出した。」「私と丹羽とが、「猟銃」を推し、他の委員は、みな「闘牛」を推した」「「猟銃」の場合、（彩子の遺書）は、蛇足のように思われる。「闘牛」の方には、取り立てて欠点がない。その代り、月並である。」「どうしても、無難で月並作品の方へ、委員たちの目が向いてしまうのではないかしらん。」 那須国男 32歳 全 ― 0   阿川弘之 29歳 全 ― 0   真鍋呉夫 30歳 全 ― 0   前田純敬 27歳 全 ― 0   島尾敏雄 32歳 全 ― 0   竹之内静雄 36歳 全 ― 0   池山廣 35歳 全 □ 2 「三篇（引用者注：「猟銃」「挽歌」「日本の牙」）を私は推した。」 村井暁 （不明） 全 ― 0   澤野久雄 37歳 全 □ 2 「三篇（引用者注：「猟銃」「挽歌」「日本の牙」）を私は推した。」

他の選考委員 瀧井孝作 佐藤春夫 石川達三 岸田國士 丹羽文雄 宇野浩二 坂口安吾 川端康成

丹羽文雄45歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題一陣の風　総行数38　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 井上靖 42歳 全 ◎ 32 「係りから推薦作品を知らせよと電報が来たので、「猟銃」と書いた。」「「闘牛」の推薦は、まあ一番無難だ。（引用者中略）もう完全に出来上った作家だ。何もいうことはない。（引用者中略）が、第二作のこれを読んだ時、正直なところ私は何の驚異も覚えなかった。」「「猟銃」には、往年の石坂洋次郎君の短篇にびっくりさせられたような或るものがあった。ロマンチックな一陣の風を感じたものである。」 那須国男 32歳 全 ― 0   阿川弘之 29歳 全 ― 0   真鍋呉夫 30歳 全 ― 0   前田純敬 27歳 全 △ 5 「よいと思ったが、受賞作品としては弱いと思った。」「例えば「伊豆の踊子」と「蟹工船」の場合は、「蟹工船」を受賞作品にするというあのやり方を、私は採った。」 島尾敏雄 32歳 全 ― 0   竹之内静雄 36歳 全 ― 0   池山廣 35歳 全 ― 0   村井暁 （不明） 全 ― 0   澤野久雄 37歳 全 ― 0     「審査の日、私は旅先で流行性感冒にやられて、やっと床に起き上ることが出来る程度だったので、欠席と通知を出した。」

他の選考委員 瀧井孝作 佐藤春夫 石川達三 岸田國士 舟橋聖一 宇野浩二 坂口安吾 川端康成

宇野浩二58歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題読後感　総行数45　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 井上靖 42歳 全 ■ 21 「新聞に、全委員一致で、井上靖の『闘牛』ときまった、と出ていた。しかし、「全委員一致」はちょっと『まちがい』で、私だけは反対であった。」「なるほど、こんどの数篇の候補作品のなかでは、『うまさ』という点だけでみれば、づぬけていた。ただ、私には、出てくる人物たちが、みな、自分の意志ではなく、作者の『かんがえ』どおりに、思考し、行動しているのが、気になった。大衆小説ふうの興味があり芸術味にかけているのが『いや』であった。」 那須国男 32歳 全 △ 5 「私には、こんどの候補作品のなかでは、一番おもしろく芸術味もあったが、前半がすぐれているのに、後半が、前半とくらべて、ぼやけているのは、作者の『うで』が、いたらなかったためであろうか。」 阿川弘之 29歳 全 ― 0   真鍋呉夫 30歳 全 ■ 5 「題材はおもしろいが、（作者が書き方に苦心しているのはわかるけれど、）その書き方がごたごたしていて、作者の手におえなくなっている、ところがある。しいてほめていえば、力作ではあるが、成功しなかった。」 前田純敬 27歳 全 ■ 4 「よく書かれてあるが、こういう題材であるから、もっと実感のようなものがせまってこなければならないのに、それがないのが、この作品を、よわくした。」 島尾敏雄 32歳 全 ― 0   竹之内静雄 36歳 全 ― 0   池山廣 35歳 全 ■ 4 「これは、実感のようなものがありすぎて、せっかくの材料を、題なしにした。書かれてある題材は、めずらしく、おもしろいものであるが、作者の見方があまりに一方的であるのが失敗である。」 村井暁 （不明） 全 ― 0   澤野久雄 37歳 全 ― 0     「こんどの芥川賞は、銓衡委員たちがただ一回あつまっただけで、きまった。これは実にめずらしい事である。」

他の選考委員 瀧井孝作 佐藤春夫 石川達三 岸田國士 舟橋聖一 丹羽文雄 坂口安吾 川端康成

坂口安吾43歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「闘牛」の方向　総行数12　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 井上靖 42歳 全 ○ 4 「作者は人間の見方や掴み方には深みも新しさもないが、俗才で人間を処理してゆく手際は巧妙で、なんといっても、大人である。「猟銃」はとらない。「闘牛」の方向にのびる方が、はるかに逞しい作品を書きうるだろう。」 那須国男 32歳 全 ― 0   阿川弘之 29歳 全 ― 0   真鍋呉夫 30歳 全 □ 8 「次点に（引用者中略）推す。素材が現代の日本語に消化されておらぬのが、先ず、第一の欠点。」「この作者はもっと追求しうる目と才にめぐまれており、詩情を破るべきであるのに破るべきところで停止しているから、いけない。安易については、せっかくの才能も、現れ得ないのである。」 前田純敬 27歳 全 ― 0   島尾敏雄 32歳 全 ― 0   竹之内静雄 36歳 全 ― 0   池山廣 35歳 全 ― 0   村井暁 （不明） 全 ― 0   澤野久雄 37歳 全 ― 0

他の選考委員 瀧井孝作 佐藤春夫 石川達三 岸田國士 舟橋聖一 丹羽文雄 宇野浩二 川端康成

川端康成50歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題常識的な「闘牛」　総行数44　（1行=26字） 候補 評価 行数 評言 井上靖 42歳 全 ◎ 24 「「闘牛」を推薦した。」「しかし、「闘牛」の推薦に大した感動も冒険もなかった。なんだか常識で片づいてしまったようなあっけなさが残った。」「私には「猟銃」は取れなかった。（引用者中略）しかし「闘牛」を選ぶ支えにはなっていた。」「珍らしい筋の運び、脇役のタイプの扱いに、作者はあざやかな書き方を見せながら、主人公の性格や心理及びその恋愛の書き方に、やはりあざやかなようでいて、実は動揺と晦冥とを残しているのは、かえって作者の未来を約束しているのかもしれない。」 那須国男 32歳 全 ■ 10 「部分的には（引用者注：「闘牛」より）より多く同感し、愛着するところもあった」「努力の方向は明らかで同感出来た。」「前後不備の感があった。」 阿川弘之 29歳 全 ― 0   真鍋呉夫 30歳 全 ■ 9 「部分的には（引用者注：「闘牛」より）より多く同感し、愛着するところもあった」「努力の方向は明らかで同感出来た。」「全体としては未定稿の感があり、」 前田純敬 27歳 全 △ 5 「先ず完成品であり、選の後も私は気にかかった。」「最も動かせない作品かもしれぬ。」 島尾敏雄 32歳 全 ― 0   竹之内静雄 36歳 全 △ 14 「部分的には（引用者注：「闘牛」より）より多く同感し、愛着するところもあった」「これは異常な努力による異常な作品である。」「先ず完成品であり、選の後も私は気にかかった。」 池山廣 35歳 全 ● 2 「小説としては苦情がある。」 村井暁 （不明） 全 ― 0   澤野久雄 37歳 全 ■ 6 「部分的には（引用者注：「闘牛」より）より多く同感し、愛着するところもあった」「前半にくらべて後半が盛り上って来なかった。この作者の感性に私は同感したが、殊に結末が疑問であった。」

他の選考委員 瀧井孝作 佐藤春夫 石川達三 岸田國士 舟橋聖一 丹羽文雄 宇野浩二 坂口安吾

井上靖42歳×各選考委員　 「闘牛」等 短篇 133枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 △ 17 「猟銃と闘牛と二つ読んでみて、この人は面白く読ませる才人らしい、と分りました。」「新聞小説でも書ける腕達者で、小説らしい形式で行く所に、私は、心からまだ好きではない、段々に好きになれるかもしれない、が今の所まだ、と考えました。」 佐藤春夫 57歳 全 ◎ 40 「他の候補作品を残らず読んで見た上でもその力倆から見て井上に優る人がいるとも思わなかった。」「自分は席上での「猟銃」を採るか「闘牛」をかの意見が出た時、一議なく闘牛説であった。年若な読者でない限り「猟銃」は誰しもあまり好まない作品だと思ったものである。」「闘牛を新聞社内部を描いたものとして見るか、恋愛小説としてみるかという意見も両立する。自分は恋愛小説と見る側である。」「井上は腕達者で作風も常識的ではあるが、飽くまで正直に腕にまかせて人を煙にまいてやろうというようなすれっからしの下劣なものの無いのがよい。作者の人柄であろう。」 石川達三 44歳 全 ○ 19 「すぐれた才能をもった人だと思う」「一回の委員会では済むまいと思ったが、案外意見が早くまとまった。」「なかなか巧みな技巧のある人で、小説を面白く構成して行く技術をもっている。将来相当の多作濫作にも耐え得る作家だろうと思う。しかしなるべくならば多作はすすめたくない。」 岸田國士 59歳 全 □ 7 「「闘牛」（井上靖）は、わが国では珍しい、既に成熟を感じさせる、一個の文学的才能の所産である。常識に富んだ、余情ある巧みな作品がどしどし書ける作家の手腕を示している。」「衆目の見るところ、入選作として、これも、当を得たものである。私も敢て反対する気持はない。」 舟橋聖一 45歳 全 ◎ 17 「井上靖のものが、断然、他を大差に引放し、前回とはうって代って、委員会は、円満裡に、すぐ結論を出した。」「私と丹羽とが、「猟銃」を推し、他の委員は、みな「闘牛」を推した」「「猟銃」の場合、（彩子の遺書）は、蛇足のように思われる。「闘牛」の方には、取り立てて欠点がない。その代り、月並である。」「どうしても、無難で月並作品の方へ、委員たちの目が向いてしまうのではないかしらん。」 丹羽文雄 45歳 全 ◎ 32 「係りから推薦作品を知らせよと電報が来たので、「猟銃」と書いた。」「「闘牛」の推薦は、まあ一番無難だ。（引用者中略）もう完全に出来上った作家だ。何もいうことはない。（引用者中略）が、第二作のこれを読んだ時、正直なところ私は何の驚異も覚えなかった。」「「猟銃」には、往年の石坂洋次郎君の短篇にびっくりさせられたような或るものがあった。ロマンチックな一陣の風を感じたものである。」 宇野浩二 58歳 全 ■ 21 「新聞に、全委員一致で、井上靖の『闘牛』ときまった、と出ていた。しかし、「全委員一致」はちょっと『まちがい』で、私だけは反対であった。」「なるほど、こんどの数篇の候補作品のなかでは、『うまさ』という点だけでみれば、づぬけていた。ただ、私には、出てくる人物たちが、みな、自分の意志ではなく、作者の『かんがえ』どおりに、思考し、行動しているのが、気になった。大衆小説ふうの興味があり芸術味にかけているのが『いや』であった。」 坂口安吾 43歳 全 ○ 4 「作者は人間の見方や掴み方には深みも新しさもないが、俗才で人間を処理してゆく手際は巧妙で、なんといっても、大人である。「猟銃」はとらない。「闘牛」の方向にのびる方が、はるかに逞しい作品を書きうるだろう。」 川端康成 50歳 全 ◎ 24 「「闘牛」を推薦した。」「しかし、「闘牛」の推薦に大した感動も冒険もなかった。なんだか常識で片づいてしまったようなあっけなさが残った。」「私には「猟銃」は取れなかった。（引用者中略）しかし「闘牛」を選ぶ支えにはなっていた。」「珍らしい筋の運び、脇役のタイプの扱いに、作者はあざやかな書き方を見せながら、主人公の性格や心理及びその恋愛の書き方に、やはりあざやかなようでいて、実は動揺と晦冥とを残しているのは、かえって作者の未来を約束しているのかもしれない。」

他の候補作 那須国男 「還らざる旅路」 阿川弘之 「あ号作戦前後」 真鍋呉夫 「天命」 前田純敬 「夏草」 島尾敏雄 「宿定め」 竹之内静雄 「ロッダム号の船長」 池山廣 「日本の牙」 村井暁 「哀楽の果て」 澤野久雄 「挽歌」

那須国男32歳×各選考委員　 「還らざる旅路」 短篇 117枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 ― 0   佐藤春夫 57歳 全 ― 0   石川達三 44歳 全 ― 0   岸田國士 59歳 全 △ 3 「徹底した超国境性に、（引用者中略）非常に興味をひかれた。」 舟橋聖一 45歳 全 ― 0   丹羽文雄 45歳 全 ― 0   宇野浩二 58歳 全 △ 5 「私には、こんどの候補作品のなかでは、一番おもしろく芸術味もあったが、前半がすぐれているのに、後半が、前半とくらべて、ぼやけているのは、作者の『うで』が、いたらなかったためであろうか。」 坂口安吾 43歳 全 ― 0   川端康成 50歳 全 ■ 10 「部分的には（引用者注：「闘牛」より）より多く同感し、愛着するところもあった」「努力の方向は明らかで同感出来た。」「前後不備の感があった。」	他の候補作 井上靖 「闘牛」等 阿川弘之 「あ号作戦前後」 真鍋呉夫 「天命」 前田純敬 「夏草」 島尾敏雄 「宿定め」 竹之内静雄 「ロッダム号の船長」 池山廣 「日本の牙」 村井暁 「哀楽の果て」 澤野久雄 「挽歌」

阿川弘之29歳×各選考委員　 「あ号作戦前後」 中篇 184枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 ― 0   佐藤春夫 57歳 全 ― 0   石川達三 44歳 全 ・ 3   岸田國士 59歳 全 ― 0   舟橋聖一 45歳 全 ― 0   丹羽文雄 45歳 全 ― 0   宇野浩二 58歳 全 ― 0   坂口安吾 43歳 全 ― 0   川端康成 50歳 全 ― 0	他の候補作 井上靖 「闘牛」等 那須国男 「還らざる旅路」 真鍋呉夫 「天命」 前田純敬 「夏草」 島尾敏雄 「宿定め」 竹之内静雄 「ロッダム号の船長」 池山廣 「日本の牙」 村井暁 「哀楽の果て」 澤野久雄 「挽歌」

真鍋呉夫30歳×各選考委員　 「天命」 短篇 100枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 ― 0   佐藤春夫 57歳 全 ― 0   石川達三 44歳 全 △ 15 「正直なところ私は簡単に批判を下し得ない。」「選者が批判に困るような制作が書かれているという事がしきりに嬉しかった。日本の文学は、いわゆるアプレ・ゲエル派の作品によってではなく、むしろこういう作品の傾向から伸びたり厚味を加えたりして行くのではなかろうかと、ちょっと考えた。」「（引用者注：授賞作と迷うほど）相当のものである。」 岸田國士 59歳 全 △ 3 「多彩なロマンチシズムに、（引用者中略）非常に興味をひかれた。」 舟橋聖一 45歳 全 ― 0   丹羽文雄 45歳 全 ― 0   宇野浩二 58歳 全 ■ 5 「題材はおもしろいが、（作者が書き方に苦心しているのはわかるけれど、）その書き方がごたごたしていて、作者の手におえなくなっている、ところがある。しいてほめていえば、力作ではあるが、成功しなかった。」 坂口安吾 43歳 全 □ 8 「次点に（引用者中略）推す。素材が現代の日本語に消化されておらぬのが、先ず、第一の欠点。」「この作者はもっと追求しうる目と才にめぐまれており、詩情を破るべきであるのに破るべきところで停止しているから、いけない。安易については、せっかくの才能も、現れ得ないのである。」 川端康成 50歳 全 ■ 9 「部分的には（引用者注：「闘牛」より）より多く同感し、愛着するところもあった」「努力の方向は明らかで同感出来た。」「全体としては未定稿の感があり、」

他の候補作 井上靖 「闘牛」等 那須国男 「還らざる旅路」 阿川弘之 「あ号作戦前後」 前田純敬 「夏草」 島尾敏雄 「宿定め」 竹之内静雄 「ロッダム号の船長」 池山廣 「日本の牙」 村井暁 「哀楽の果て」 澤野久雄 「挽歌」

前田純敬27歳×各選考委員　 「夏草」 短篇 80枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 △ 15 「こんどは候補の佳作も発表したら宜かろうと云うことで、私は（引用者中略）あげてみました。」「終戦の年に鹿児島市の空襲された悲惨事が克明に描かれて、（引用者中略）この空襲で焼払われた都市の悲惨な姿をあきらかにした、意味のある作品だと思いました。」 佐藤春夫 57歳 全 △ 10 「自然発生風に素朴ないや味のない作風に好意は持たないではなかったが、（引用者中略）あまりにたどたどしく混乱した筆致（それが空襲のような素材には偶然にいい効果になっている部分も無いではなかったが）は、到底まだ習作の域を出るものではなく、この一篇で授賞するには足りないものと思われた。」 石川達三 44歳 全 △ 5 「素直な良い作品だった。若い作家らしく思われたが、鋭い眼と的確な描写とで作品は明るく鮮明である。」 岸田國士 59歳 全 ◎ 10 「第一に推すことにした。」「初々しい感動があり、健康な意欲も目立ち、可なり確かな眼で現象も捉えられている。」「多少冗漫な個所もなくはないし甘いといえば甘いところがあるにはある。しかし、それらをひっくるめて、やはり新鮮で美しい物語になっている。」 舟橋聖一 45歳 全 ― 0   丹羽文雄 45歳 全 △ 5 「よいと思ったが、受賞作品としては弱いと思った。」「例えば「伊豆の踊子」と「蟹工船」の場合は、「蟹工船」を受賞作品にするというあのやり方を、私は採った。」 宇野浩二 58歳 全 ■ 4 「よく書かれてあるが、こういう題材であるから、もっと実感のようなものがせまってこなければならないのに、それがないのが、この作品を、よわくした。」 坂口安吾 43歳 全 ― 0   川端康成 50歳 全 △ 5 「先ず完成品であり、選の後も私は気にかかった。」「最も動かせない作品かもしれぬ。」

他の候補作 井上靖 「闘牛」等 那須国男 「還らざる旅路」 阿川弘之 「あ号作戦前後」 真鍋呉夫 「天命」 島尾敏雄 「宿定め」 竹之内静雄 「ロッダム号の船長」 池山廣 「日本の牙」 村井暁 「哀楽の果て」 澤野久雄 「挽歌」

島尾敏雄32歳×各選考委員　 「宿定め」 短篇 49枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 ― 0   佐藤春夫 57歳 全 ― 0   石川達三 44歳 全 ― 0   岸田國士 59歳 全 ― 0   舟橋聖一 45歳 全 ― 0   丹羽文雄 45歳 全 ― 0   宇野浩二 58歳 全 ― 0   坂口安吾 43歳 全 ― 0   川端康成 50歳 全 ― 0	他の候補作 井上靖 「闘牛」等 那須国男 「還らざる旅路」 阿川弘之 「あ号作戦前後」 真鍋呉夫 「天命」 前田純敬 「夏草」 竹之内静雄 「ロッダム号の船長」 池山廣 「日本の牙」 村井暁 「哀楽の果て」 澤野久雄 「挽歌」

竹之内静雄36歳×各選考委員　 「ロッダム号の船長」 短篇 52枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 ― 0   佐藤春夫 57歳 全 ― 0   石川達三 44歳 全 ― 0   岸田國士 59歳 全 △ 2 「粘り強い描写力に（引用者中略）非常に興味をひかれた。」 舟橋聖一 45歳 全 ― 0   丹羽文雄 45歳 全 ― 0   宇野浩二 58歳 全 ― 0   坂口安吾 43歳 全 ― 0   川端康成 50歳 全 △ 14 「部分的には（引用者注：「闘牛」より）より多く同感し、愛着するところもあった」「これは異常な努力による異常な作品である。」「先ず完成品であり、選の後も私は気にかかった。」	他の候補作 井上靖 「闘牛」等 那須国男 「還らざる旅路」 阿川弘之 「あ号作戦前後」 真鍋呉夫 「天命」 前田純敬 「夏草」 島尾敏雄 「宿定め」 池山廣 「日本の牙」 村井暁 「哀楽の果て」 澤野久雄 「挽歌」

池山廣35歳×各選考委員　 「日本の牙」 短篇 131枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 △ 16 「こんどは候補の佳作も発表したら宜かろうと云うことで、私は（引用者中略）あげてみました。」「被征服民族の悲痛が描かれ、これは素材からみても、現在でなければ発表できない作品で、これを読んで、現在の日本の位置と姿も考えられるような、国際的の小説とも云うべきものではないかと思いました。」 佐藤春夫 57歳 全 ― 0   石川達三 44歳 全 △ 15 「正直なところ私は簡単に批判を下し得ない。」「選者が批判に困るような制作が書かれているという事がしきりに嬉しかった。日本の文学は、いわゆるアプレ・ゲエル派の作品によってではなく、むしろこういう作品の傾向から伸びたり厚味を加えたりして行くのではなかろうかと、ちょっと考えた。」「（引用者注：授賞作と迷うほど）相当のものである。」 岸田國士 59歳 全 △ 3 「苛烈な国籍不明の反日感情に、（引用者中略）非常に興味をひかれた。」 舟橋聖一 45歳 全 □ 2 「三篇（引用者注：「猟銃」「挽歌」「日本の牙」）を私は推した。」 丹羽文雄 45歳 全 ― 0   宇野浩二 58歳 全 ■ 4 「これは、実感のようなものがありすぎて、せっかくの材料を、題なしにした。書かれてある題材は、めずらしく、おもしろいものであるが、作者の見方があまりに一方的であるのが失敗である。」 坂口安吾 43歳 全 ― 0   川端康成 50歳 全 ● 2 「小説としては苦情がある。」

他の候補作 井上靖 「闘牛」等 那須国男 「還らざる旅路」 阿川弘之 「あ号作戦前後」 真鍋呉夫 「天命」 前田純敬 「夏草」 島尾敏雄 「宿定め」 竹之内静雄 「ロッダム号の船長」 村井暁 「哀楽の果て」 澤野久雄 「挽歌」

村井暁（不明）×各選考委員　 「哀楽の果て」 短篇 34枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 ― 0   佐藤春夫 57歳 全 ― 0   石川達三 44歳 全 ― 0   岸田國士 59歳 全 ― 0   舟橋聖一 45歳 全 ― 0   丹羽文雄 45歳 全 ― 0   宇野浩二 58歳 全 ― 0   坂口安吾 43歳 全 ― 0   川端康成 50歳 全 ― 0	他の候補作 井上靖 「闘牛」等 那須国男 「還らざる旅路」 阿川弘之 「あ号作戦前後」 真鍋呉夫 「天命」 前田純敬 「夏草」 島尾敏雄 「宿定め」 竹之内静雄 「ロッダム号の船長」 池山廣 「日本の牙」 澤野久雄 「挽歌」

澤野久雄37歳×各選考委員　 「挽歌」 短篇 129枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 瀧井孝作 55歳 全 ― 0   佐藤春夫 57歳 全 ― 0   石川達三 44歳 全 ― 0   岸田國士 59歳 全 ― 0   舟橋聖一 45歳 全 □ 2 「三篇（引用者注：「猟銃」「挽歌」「日本の牙」）を私は推した。」 丹羽文雄 45歳 全 ― 0   宇野浩二 58歳 全 ― 0   坂口安吾 43歳 全 ― 0   川端康成 50歳 全 ■ 6 「部分的には（引用者注：「闘牛」より）より多く同感し、愛着するところもあった」「前半にくらべて後半が盛り上って来なかった。この作者の感性に私は同感したが、殊に結末が疑問であった。」	他の候補作 井上靖 「闘牛」等 那須国男 「還らざる旅路」 阿川弘之 「あ号作戦前後」 真鍋呉夫 「天命」 前田純敬 「夏草」 島尾敏雄 「宿定め」 竹之内静雄 「ロッダム号の船長」 池山廣 「日本の牙」 村井暁 「哀楽の果て」