選評の概要
94. 95.96. 97. 98. 99. 100.
101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113. 114.
生没年月日【注】 | 昭和2年/1927年12月26日~平成9年/1997年1月26日 | |
在任期間 | 第94回~第114回(通算10.5年・21回) | |
在任年齢 | 58歳0ヶ月~68歳0ヶ月 | |
経歴 | 本名=小菅留治。山形県生まれ。山形師範卒。 | |
受賞歴・候補歴 |
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処女作 | 「溟い海」(『オール讀物』昭和46年/1971年6月号) | |
個人全集 | 『藤沢周平全集』全26巻・別巻(平成4年/1992年6月~平成24年/2012年1月・文藝春秋刊) | |
直木賞候補歴 | 第65回候補 「溟い海」(『オール讀物』昭和46年/1971年6月号) 第66回候補 「囮」(『オール讀物』昭和46年/1971年11月号) 第68回候補 「黒い繩」(『別冊文藝春秋』121号[昭和47年/1972年9月]) 第69回受賞 「暗殺の年輪」(『オール讀物』昭和48年/1973年3月号) |
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サイト内リンク | ▼直木賞受賞作全作読破への道Part3 |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 藤沢周平 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
60歳 |
◎ | 16 | 「築地市場とそこに住む人びとをよくみがかれた詩的な文体で描き出し、ことに第四章波除神社は、人間と人間の運を語って比類のない一篇になっていた。読み終って、作中の人物が出来すぎてはいないかといった疑問もうかぶけれども、この小説にはそうしたいくつかの弱点をさし引いてまだ残るうまさと魅力があった。」 | |
落合恵子 | 41歳 |
○ | 20 | 「落合さんのこれまでの作品は、疑わずに風俗に乗って書くような性質の軽さで損をしていたように思う。」「後半に移るにしたがって物語に厚みが加わり、第四章の老境の野田の物狂い、第五章のララバイのママを描いたところで、落合さんの筆は人生の深いところにとどいたと思った。あえて森田さんとの二作受賞を主張した理由である。」 |
31歳 |
□ | 20 | 「私は一応受賞圏内に入れながら積極的には推さなかった。理由はこの小説が、当世風の男女の世界を巧みに描いているものの、それだけで自閉している感じが不満だったからである。」「しかし林さんの小説はすでにプロの安定感をそなえていた。」「受賞を機会にひとまわり大きく成長することも期待出来、最終的には受賞に反対しなかった。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和61年/1986年4月号 |
選考委員 藤沢周平 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
56歳 |
○ | 26 | 「私は以上の二作(引用者注:「百舌の叫ぶ夜」と「忍火山恋唄」)と皆川さんの「恋紅」を受賞圏内の作品と考えて銓衡会にのぞんだ」「周到な考証と適確な想像力なくしては生まれない抜群のリアリティに感服した。」「欲を言えばリアリズムに過ぎて花に欠けるきらいがなきにしもあらずだったが、しかし読み終って時を経てなお感銘が持続する堂々たる受賞作」 | |
逢坂剛 | 42歳 |
○ | 9 | 「文章がよく斬新な試みに魅力があった。作者にとっても新境地をひらいた作品と思われ、受賞は逃したが将来有望と考えたい。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和61年/1986年10月号 |
選考委員 藤沢周平 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
55歳 |
○ | 14 | 「人物の造形がやや浅いところがあって、この作家の最良の作品とは言えないかも知れないが、船の活躍とその描写がその不足を補ってあまりあり、スケールが大きくいきいきした海洋小説になっていた。安心して読める筆遣いとここ一番のところの重量感のある描写はさすがに老練の筆で、この人の受賞で時代小説に厚味が加わることは疑いない。」 | |
28歳 |
○ | 25 | 「才能は疑いがないものである。私たち読者が、耳にピアスをして強い香水の匂いを発散させるジゴロを「粋」だと感じることが出来るのは、この作家の天性の才能と肯定的で力のある文章による説得力のせいである。」「ただ話のつくりはやや古風で、また八篇の短篇がすべて傑作というわけでもない。」「しかしその(引用者注:私が感服した)三篇が、山田さんのほかには誰も書かない小説であるのもたしかなことに思われた。」 | |
もりたなるお | 61歳 |
○ | 19 | 「作者の力量が十分に発揮された佳作だった。」「簡潔な文章が最後までゆるまずに持続し、題材はやや地味ながら受賞の水準に達した作品に思われた。」 |
「今回の候補作は八点で、やや多いかと思われたが、(引用者中略)選考のための下読みは興味が苦痛に勝って、さほど疲れなかった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年10月号 |
選考委員 藤沢周平 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
54歳 |
◎ | 41 | 「見事なのはこの小説の細部である。」「そして細部というものは、しばしばその作家の才能と感性がもっともよく現われる場所でもあるので、ここにも阿部さんの才能とみずみずしい感性がのぞいているのを見ることが出来るのである。」「形、内容ともにととのった、受賞にふさわしい作品だった。」 | |
三浦浩 | 57歳 |
◎ | 40 | 「私には政治に対する根強い不信感があって、政治、ことに国際政治においては、裏にどんな取引や密約があるか知れたものではないという気持もある。したがって「海外特派員」もあり得べき悪夢として読んだ。」「第一級の国際謀略小説だと思う。」「受賞圏内の作品だった。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年4月号 |
選考委員 藤沢周平 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
48歳 |
○ | 47 | 「一応受賞圏内の作品を考えて選考会にのぞんだ」「快いおどろきを感じた。」「欠点はあるものの、「凍れる瞳」、「端島の女」はともに人間の体温が感じられる情感ただよう作品になっていた。」「万全の本命作品とは言えなかったが、才能という点では際立っていた。」 | |
41歳 |
○ | 61 | 「一応受賞圏内の作品を考えて選考会にのぞんだ」「第三章まではすばらしい出来。ことに幻想的なプロローグはまれにみるうつくしさで、今度の直木賞はこの人で決まりと思わせるものだった。」「ところがこのあとにはじまる活劇調の展開は、よく考えられているものの所詮底の浅い立ち回りの印象をぬぐえないものだった。」「万全の本命作品とは言えなかったが、才能という点では際立っていた。」 | |
小松重男 | 57歳 |
○ | 14 | 「一応受賞圏内の作品を考えて選考会にのぞんだ」「とぼけたような文章で書かれた人物がみなおもしろく、また運転手と女郎の純愛をあかるく描き切って、読後に余韻が残った。これはこれで一篇の佳作と思ったけれども、支持が少なかった。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年10月号 |
選考委員 藤沢周平 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
多島斗志之 | 40歳 |
◎ | 22 | 「レーニンの約定書をめぐる規模雄大なフィクションで、文章も一級品、ことにP・グリーン回顧録の構成と文章には堪能した。」「しかしこの小説には弱点がある。英公安機関の謀略というせっかくの二重構造のフィクションが、この小説の後半部に密度の希薄な部分、カラ騒ぎの印象を生み出しているのである。私は抜群のテクニックと、虚構に賭けようとする作者の姿勢に一票を投じたものの、この弱点があっては受賞にとどかなかった。」 |
40歳 |
○ | 21 | 「読むほどに、次第に寄るべない一人のフィリピン女性の孤独と犯罪がうかび上がって来る感触がすばらしく、重厚な筆力が感じ取れた。」「一見したところは地味な小説であるけれども、中身は十分に濃くて、私はフィクションの本道を行く、いわゆる虚構の真実に手がとどいた作品とみた。」 | |
41歳 |
■ | 38 | 「「天狗熱」、「六月の蠅取紙」、「真冬の金魚」の三篇が、素直な文章と初初しい感性でなかなかの短篇になっていた。」「しかし小説の考え方として、私小説よりは虚構の作物をより上位に置きたい私としては、このちまちまとした私小説ふうの骨格を持つ小説にあまり高い点数はつけられず、またこの作品のそういう性格も直木賞にふさわしいものとは思えなかった。」 | |
「結果として評価に差はついたものの、今回の候補作品はおしなべて質がよく、点数ほどに差があったわけではなかった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年9月号 |
選考委員 藤沢周平 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
酒見賢一 | 26歳 |
◎ | 19 | 「使うべきところにそれにもっともふさわしい言葉が使われていて、その選択はほとんど狂いがなく見事というほかはない。」「おもしろく読み終ってさて振りかえってみると、何を読んだか大変心もとない気がする弱点はあるが、この稀有な才能に敬意を表して、私は一票を投じた。」 |
43歳 |
□ | 37 | 「明白な欠点を抱えるにもかかわらず、この小説にはなお受賞作に推したくなるものがそなわっていた。」「作者はこの作品でハードボイルド調を完全に自分の物にしているだけでなく、魅力ある文章と魅力ある一人の私立探偵を造型していた。」「私は、前記の欠点のために、この作品を受賞圏に入れることを断念して出席したのだが、第一回の投票で意外に票があつまったのをみて矢もタテもたまらず変節し、受賞支持に回った次第だった。」 | |
68歳 |
△ | 18 | 「男たち(ことに南北の描き方が秀逸)はうまく書けているのに肝心の男狂いの小伝のあわれ、またはかわいらしさが伝わって来ない不満があり、読後感もまた快いとも言えない小説だが、作品が暗くて楽しくないという点は、この作者がまだ言いたいこと書きたいことを沢山持っているせいではないかと思われて、むしろ今後に期待を抱かせるものだった。」 | |
「今回の選考について言えば、圧倒的な一作というものはなかったが、瑕瑾を理由に見送るには惜しい気がするきわめて将来性に富む二作品はあったというのが私の考えである。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成2年/1990年3月号 |
選考委員 藤沢周平 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
65歳 |
◎ | 26 | 「新聞小説のせいか編年体ふうに書きいそいだ印象があり、また重要な個所でやや突っこみ不足を感じさせるところもあって、私はそれについては不満を述べたが、しかし総体として眺めれば、この作家の安定した筆力は候補作の中で頭ひとつ抜け出ていた。特に孤独な境涯に落ちる晩年の描写が、伝説的なテナー藤原義江の孤影を陰影深く彫り上げて、作者の本来具えている実力を示していた。」 | |
酒見賢一 | 27歳 |
○ | 17 | 「短い話の中に(引用者中略)いきいきした人間の動きが書かれていた。」「前々回候補作「後宮小説」の衝撃はないものの、そのかわりに一段とまとまりがよくなり、酒見さんが着実に一人の作家に成長しつつあることを感じさせるものだった。」 |
堀和久 | 59歳 |
○ | 33 | 「第二章に入ると内容、表現ともに一変して引きしまり、緊張感みなぎる小説になる。圧巻は主人公である失意の修行僧が悟りをもとめて旅に出る部分」「この小説は第一章と最終章が不出来で損をしているが、概ね受賞の水準に達していて、堀さんの進境を窺わせる作品だった。」 |
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年3月号 |
選考委員 藤沢周平 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
清水義範 | 44歳 |
◎ | 57 | 「おもしろい小説だった。」「一冊の本の中に現代のサラリーマン像を見事に定着し得た佳作だと思う。」「特におもしろいと思ったのは、虚構のいろをうすめ、限りなく事実に近づけて書いたこの小説が、当然ながら虚構の作品だということで、この反語的な虚構の物語を成立させるために、清水さんは全力投球をしたように見える。」「この作家の端倪すべからざる奥行きを示していると思った。」 |
42歳 |
□ | 40 | 「「切子皿」があざやかな作品だった。」「胸の内ではうちとけていない親子が、祇園で飯を喰う。人生を感じさせる場面で、その場面を切子皿がぴしりと締めている。この小説には感動がある。」「ところが「切子皿」以外の作品は、まとまってはいるもののどことなく決めどころが手ぬるく、私はこの作品の受賞には消極的賛成の立場に立った。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年9月号 |
選考委員 藤沢周平 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
48歳 |
○ | 55 | 「作品全体を読み終ってみると、二、三気持にひっかかるものが残る作品でもあった。」「しかし(引用者中略)第一章の最後にあらわれる文章、あるいは関東大震災当日の光景など、この作者が正面から取り組んだ文章には懐の深い、見事な表現力が示されていた。隅田川がブリキの切片を一面にまきちらしたようにさざなみ立ったなどという文章は容易に書けるものではない。」 | |
宮部みゆき | 32歳 |
○ | 25 | 「小さな疑問点が目につくものの、この作品には着想の非凡さとすぐれた推理小説だけが持つ、興味を先へ先へとつなぐ綿密な論理性がある。」「作品の最終場面には、表現をみがいて作品の質を高めようとする禁欲的な意志と、そのことに物を書く喜びを見ている作者の姿勢が出ている。それらを総合して「火車」も十分に受賞の水準に達していた。」 |
選評出典:『オール讀物』平成5年/1993年3月号 |
選考委員 藤沢周平 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
45歳 |
○ | 30 | 「直球でストライクを取ったような、単純だが気持よく読める作品だった。」「読者を作品世界の中にひきこむのはヒューマニズムである。」「中村さんの従来の小説にみられた資料からくるわずらわしい感じがなかった。」「受賞に値いする長足の進歩と思われた。」 | |
東郷隆 | 42歳 |
○ | 24 | 「前作の「人造記」、「打てや叩けや」などにくらべると、イメージが鮮明で文章もくどさが消え、急にうまくなったような感じをあたえる。」「「絵師合戦」、「熊谷往生」の二篇が秀逸で、「開眼」は前半の人物造型はすぐれているのに肝心の後半がよくなかった。しかしこれも相当の作品だった。」「受賞の水準に達した作品だった。」 |
44歳 |
□ | 51 | 「この二篇(引用者注:「帰郷」と「夏の終りの風」)にくらべてほかの四篇は総じて物語にふくらみを欠き、二篇との落差が大きすぎた。」「私はこの作品をいまひとつ積極的に推奨しかねたのだが、議論を重ねるうちに「帰郷」が持つ虚構性のなつかしさ、奥行きの深さが胸の中にどんどんふくらんで来て、(引用者中略)最後の評価の段階では躊躇なく受賞賛成に回った次第だった。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年9月号 |
選考委員 藤沢周平 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
中島らも | 42歳 |
○ | 18 | 「小説のおもしろさということでは、(引用者中略)ずば抜けていた。」「やや才気が鼻につく個所があり、また勉強のあとが正直に出ているところもあるが、この作者の才能は疑いの余地がないものだ。図抜けたおもしろさも直木賞の守備範囲にきちんとおさまり、十分に受賞水準に達した作品と思われた。」 |
志水辰夫 | 58歳 |
○ | 54 | 「文学の原点に出会ったようでほっとする」「「赤いバス」と「トンネルの向こうで」は、秀作と呼びたい出来ばえである。」「小説は、ああおもしろかったと読み捨てるのではなく、読後なにかしらこころに残るようなものでありたいものだが、「赤いバス」にはそれがある。」「十分に受賞に値いする短篇集だった。」 |
「票が散って受賞作を出せなかったのが真相である。しかし懸念がないわけではない。」「小説ひと筋というのはいかにも古いようだが、しかしその思いがなくなれば文学はいずれほろびるだろうというのが私の考えである。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成7年/1995年3月号 |