第86回

第85回第87回

昭和56年/1981年下半期 昭和57年/1982年1月18日決定発表／『オール讀物』昭和57年/1982年4月号選評掲載

選考委員　 城山三郎 54歳 池波正太郎 58歳 水上勉 62歳 源氏鶏太 69歳 阿川弘之 61歳 村上元三 71歳 山口瞳 55歳 五木寛之 49歳 今日出海 78歳 選評総行数　 52 36 57 51 18 53 57 81   評 評 評 評 評 評 評 評 選評なし 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 光岡明　『機雷』 725枚 49歳 評 △ 14 ◎ 21 □ 21 ○ 12 ■ 7 ● 12 ● 6 □ 10     つかこうへい　『蒲田行進曲』 272枚 33歳 評 ◎ 14 □ 10 □ 25 □ 8 ■ 6 △ 5 ○ 10 ◎ 37     古川薫　『暗殺の森』 384枚 56歳 評 ■ 7 ― 0 ― 0 ● 7 ― 0 ● 14 ● 6 △ 8     西村望　『丑三つの村』 543枚 56歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ○ 4 ― 0 ● 4 △ 5 ■ 10     海老沢泰久　『Ｆ２グランプリ』 456枚 31歳 評 ■ 10 △ 5 ― 0 ■ 7 △ 7 ● 4 △ 7 ― 0     村松友視　「泪橋」 156枚 41歳 評 △ 7 ― 0 △ 11 ■ 7 ― 0 ● 3 ◎ 10 ○ 20     深田祐介　「バンコク喪服支店」 128枚 50歳 評 ― 0 ― 0 ■ 6 ● 6 ― 0 ■ 5 □ 12 △ 5                     欠席 年齢/枚数の説明   見方・注意点

城山三郎54歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題独特の破壊力　総行数52　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 光岡明 49歳 全 △ 14 「戦争の非情さ、アメリカのこわさといったものも、にじみ出て、いろいろ教えられることが多い。」「やや観念的というか、ぐちや説教を感じさせるところがあり、リズムが生まれず、少々読みづらかった。」 つかこうへい 33歳 全 ◎ 14 「テンポがよく、間がよく、イキがよく、いかにも人間が生きている感じがあった。」「だめな男対だめな男の関係が、お互いを生かし合っていて、おもしろく、その底にこの作者独特の破壊力を感じさせる。」 古川薫 56歳 全 ■ 7 「一本調子な小説ではなく、怨念を二重にだぶらせて進行させ、構成にも工夫があるように思われたが、それだけに、いまひとつすっきりしない仕立て上りになったことが惜しまれる。」 西村望 56歳 全 ― 0   海老沢泰久 31歳 全 ■ 10 「達者な作品である。」「緊迫感もあり、人生のにがみを感じさせるところもあるが、一方ではアメリカ映画のセリフのようなものもあって、鈴鹿の風のにおい土のにおいといったものが稀薄な気がした。」 村松友視 41歳 全 △ 7 「小道具大道具を巧みに使いこなして、銅版画のような世界をつくり上げている。そのうまさが少し鼻につくような気がしたのは、どうしてであろうか。」 深田祐介 50歳 全 ― 0

他の選考委員 池波正太郎 水上勉 源氏鶏太 阿川弘之 村上元三 山口瞳 五木寛之

池波正太郎58歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題力作〔機雷〕　総行数36　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 光岡明 49歳 全 ◎ 21 「この小説がもつ力感を第一に買わざるを得なかった。」「構築のみごとさ。登場人物の描写もすぐれてい、戦争小説の範疇をこえた力作といえる。」 つかこうへい 33歳 全 □ 10 「笑いながら読みすすみつつ、長年、芝居の世界にいた私は、むしろ鋭いリアリティに迫力を感じた。後半は、先を読まれてしまってペースが落ちる。」 古川薫 56歳 全 ― 0   西村望 56歳 全 ― 0   海老沢泰久 31歳 全 △ 5 「いかにも若々しい精悍さでダイナミックなマシーン小説を書いた海老沢泰久氏へも今後に大きな期待がよせられたようである。」 村松友視 41歳 全 ― 0   深田祐介 50歳 全 ― 0     「今回の候補作は、いずれも粒がそろっていたようにおもう。」	他の選考委員 城山三郎 水上勉 源氏鶏太 阿川弘之 村上元三 山口瞳 五木寛之

水上勉62歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題誠実とペーソス　総行数57　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 光岡明 49歳 全 □ 21 「すぐれていた。文章もしっかりしていて重厚である。」「だが、おもしろい小説といえるかどうか。」「作者が創りだした人間世界を求めるものには、調査の重みだけでは退屈するのだった。誠実でいい仕事だな、と思うがちょっと首をひねった理由はそれである。」 つかこうへい 33歳 全 □ 25 「私はさきに、「ひも」を強力に推して破れていたので、この作品が最後までのこったのはうれしかった。どちらかといえば、「ひも」の方が密度も濃かったと思う。「蒲田」は「ひも」のように会話が追いこまれてなくて改行の多いせいか、つかさんの語りのオリみたいなものが散ってしまう気分である。」 古川薫 56歳 全 ― 0   西村望 56歳 全 ― 0   海老沢泰久 31歳 全 ― 0   村松友視 41歳 全 △ 11 「小説つくりの才は抜群でも、どこか弱い。」「いろいろ持ちこみすぎたためか、主題が散った。惜しい作品である。だがこの人はいつか申し分のない傑作を見せてくれよう。」 深田祐介 50歳 全 ■ 6 「深田さんのものとしては落ちた。「革命商人」の重厚な面白さに比して軽いのだった。深田さんもこんな作品が授賞では困られるだろう。」

他の選考委員 城山三郎 池波正太郎 源氏鶏太 阿川弘之 村上元三 山口瞳 五木寛之

源氏鶏太69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題感想　総行数51　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 光岡明 49歳 全 ○ 12 「海軍将校の花々しい死をのぞみながら機雷に取っ組み、その志を得ず、戦後まで生き延びて、甦る機雷に関係しなければならなかった男の生きざまが見事に描かれている。その死生観も十分に理解出来る。」 つかこうへい 33歳 全 □ 8 「何んとも面白くてうら悲しい小説であった。」「作者の才能を感じさせる。難をいえば、すこし軽い。尤も、この軽さは、作者の狙いであったようにも思える。」 古川薫 56歳 全 ● 7 「よく調べて書いてあるが、その描き方がすこし雑然としていて、途中から煩わしくなって来た。古川氏の過去の候補作品に比較してもやや落ちる。」 西村望 56歳 全 ○ 4 「まことに厭な話であるが、そこに不思議な魅力がある。文章もうまいと思った。」 海老沢泰久 31歳 全 ■ 7 「読んでいて愉しかったが、文学的香気がいささか欠けているように思った。」 村松友視 41歳 全 ■ 7 「うまい小説である。」「人生の一断面を見せられる思いで読んだが、推すには今一つ何かが不足しているような気がした。」 深田祐介 50歳 全 ● 6 「ユウモア小説としてもあまり成功しているとは思われなかった。深田氏には他にもっといい作品がある筈である。」

他の選考委員 城山三郎 池波正太郎 水上勉 阿川弘之 村上元三 山口瞳 五木寛之

阿川弘之61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題一長一短　総行数18　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 光岡明 49歳 全 ■ 7 「重厚だが専門用語その他海軍の描き方に首をかしげる箇所が多く、めでたく決定後も、すつきりしないものが残つた。」 つかこうへい 33歳 全 ■ 6 「軽妙だが読み了へての印象が薄く、（引用者中略）めでたく決定後も、すつきりしないものが残つた。」 古川薫 56歳 全 ― 0   西村望 56歳 全 ― 0   海老沢泰久 31歳 全 △ 7 「素材にふさはしいスピード感あり、構成もがつしりしてゐて面白かつたけれど、要らざる洒落気があちこち眼につき、積極的には推しかねた。」 村松友視 41歳 全 ― 0   深田祐介 50歳 全 ― 0     「今回は受賞作無しと思つてゐた。」	他の選考委員 城山三郎 池波正太郎 水上勉 源氏鶏太 村上元三 山口瞳 五木寛之

村上元三71歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題もっと短篇を　総行数53　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 光岡明 49歳 全 ● 12 「第一章が不要で、第二章以下に盛りこむべきであったろう。」「無駄を書きすぎているし、この作品はもう一ぺん整理してまとめたほうがよかったと思う。」 つかこうへい 33歳 全 △ 5 「前半の章だけが面白かった。会話はお手のものでうまいし、軽く読めるが、後半もヤスの話で進めるべきではなかったろうか。」 古川薫 56歳 全 ● 14 「主人公の野見庄太郎がこれほど苦労をして取材をしたり、古文書を漁ってまとめた「中山忠光卿殺害顛末」が棺の中で灰になってしまった、となると、作者がこの一作の中で調べたことが、嘘になってしまう。」「高い広い視野から見てほしかった。」 西村望 56歳 全 ● 4 「読後感も悪いし、主人公がよく描かれていない。ただ人を殺して廻る小説では、賞の対象にはならない。」 海老沢泰久 31歳 全 ● 4 「レースの場面だけが面白くて、終末も予想した通りになったし、小説としての構成は月並であった。」 村松友視 41歳 全 ● 3 「うまいが、小味で、読み終っても何も手応えはなかった。」 深田祐介 50歳 全 ■ 5 「当然もう受賞していい実力を持った人だが、今回この作品が候補になったのは作者にとって不運だった。」   「わたしは今回、該当作なしのほうに票を入れた。」

他の選考委員 城山三郎 池波正太郎 水上勉 源氏鶏太 阿川弘之 山口瞳 五木寛之

山口瞳55歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題豊作貧乏　総行数57　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 光岡明 49歳 全 ● 6 「長過ぎるし、固い。小説にするには、もっと語り口や筋立てに工夫があってしかるべきではないか。」 つかこうへい 33歳 全 ○ 10 「ともかく面白い作品で、何度も笑ったり唸ったりした。銀ちゃんがいい。」「いまの若者の受身の姿勢がマゾヒズムに拡大され、一種の恍惚境を造りだす作者の手腕に感動した。」 古川薫 56歳 全 ● 6 「長過ぎるし、固い。小説にするには、もっと語り口や筋立てに工夫があってしかるべきではないか。」 西村望 56歳 全 △ 5 「私の好きな作家で、粘着力のある文章が光っているが、他の作家の書いている事件を扱ったので損をした。」 海老沢泰久 31歳 全 △ 7 「彼はハードなタッチの翻訳調という独特の文体を持っていて、そのおおらかで決して小味にならない仕事ぶりとあわせて、常に大物感が漾っている。」 村松友視 41歳 全 ◎ 10 「第一京浜国道立会川附近の埃っぽい感じと羽田埋立地水路の索漠とが完璧に描かれているうえに話の転結が面白く、上々の風俗小説となっている。」「前回と較べて格段の進歩があるところから将来性を買って、これを第一に推した。」 深田祐介 50歳 全 □ 12 「毎回、これだけ大人の読者を堪能させる作品を書き続けうる力量を評価すべきで、ラグビーの認定トライのような受賞があってもいいのではないかと思ったが、この作品（引用者中略）で受賞するのは作者にとって名誉ではないという発言があり、それが大方の意見を代表する形になった。」   「七篇の甲乙はつけ難く、豊作貧乏の感がある。」

他の選考委員 城山三郎 池波正太郎 水上勉 源氏鶏太 阿川弘之 村上元三 五木寛之

五木寛之49歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題つか氏を推す　総行数81　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 光岡明 49歳 全 □ 10 「池波正太郎氏に強く推された。私は池波さんの真情あふるる推挙ぶりに感動し、最初は〈蒲田行進曲〉と〈泪橋〉の二作授賞を主張しながら、最後に変節した。池波さんの批評眼を私は信用しているし、そういう一途な推されかたをする作家には必ず何かがあると思えたからである。」 つかこうへい 33歳 全 ◎ 37 「つか氏の作品は、私たちの無意識の世界の深いところに鋭く触れるものがある。」「私はこの物語りを遠い祭ばやしを聞くような気分で楽しみながら一気に読み通し、やがて数日たってからずしんと来るものを感じた。」「面白おかしく書きとばせば、それがおのずからなる批評の色合いをおびるという痛快な結果をもたらすので、そういう無意識の狩人を天才と呼んで不自然なわけがない。」 古川薫 56歳 全 △ 8 「すでに直木賞など必要としない堂々たる一国一城の主である。既成作家としての安定した作風が、新人賞である直木賞にかえってそぐわない印象をあたえるあたりが、何度も惜しいところで受賞を逸する一因かもしれない。」 西村望 56歳 全 ■ 10 「前に候補作となった〈薄化粧〉が好きだったせいか、やや印象が薄かったように思う。」 海老沢泰久 31歳 全 ― 0   村松友視 41歳 全 ○ 20 「秀才の苦心作といった趣きだ。」「〈泪橋〉が〈蒲田行進曲〉より小説としていささかも劣るわけではない。私はこの作品の背景をなしている一帯に長く住んでいたことがあるためか、ことに興味ぶかく読んだ。」 深田祐介 50歳 全 △ 5 「今度の作品で受賞は本人自身も望まれないだろう。この後いくらでも力作、快作が期待できる作家だからである。」

他の選考委員 城山三郎 池波正太郎 水上勉 源氏鶏太 阿川弘之 村上元三 山口瞳

光岡明49歳×各選考委員　 『機雷』 長篇 725枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 城山三郎 54歳 全 △ 14 「戦争の非情さ、アメリカのこわさといったものも、にじみ出て、いろいろ教えられることが多い。」「やや観念的というか、ぐちや説教を感じさせるところがあり、リズムが生まれず、少々読みづらかった。」 池波正太郎 58歳 全 ◎ 21 「この小説がもつ力感を第一に買わざるを得なかった。」「構築のみごとさ。登場人物の描写もすぐれてい、戦争小説の範疇をこえた力作といえる。」 水上勉 62歳 全 □ 21 「すぐれていた。文章もしっかりしていて重厚である。」「だが、おもしろい小説といえるかどうか。」「作者が創りだした人間世界を求めるものには、調査の重みだけでは退屈するのだった。誠実でいい仕事だな、と思うがちょっと首をひねった理由はそれである。」 源氏鶏太 69歳 全 ○ 12 「海軍将校の花々しい死をのぞみながら機雷に取っ組み、その志を得ず、戦後まで生き延びて、甦る機雷に関係しなければならなかった男の生きざまが見事に描かれている。その死生観も十分に理解出来る。」 阿川弘之 61歳 全 ■ 7 「重厚だが専門用語その他海軍の描き方に首をかしげる箇所が多く、めでたく決定後も、すつきりしないものが残つた。」 村上元三 71歳 全 ● 12 「第一章が不要で、第二章以下に盛りこむべきであったろう。」「無駄を書きすぎているし、この作品はもう一ぺん整理してまとめたほうがよかったと思う。」 山口瞳 55歳 全 ● 6 「長過ぎるし、固い。小説にするには、もっと語り口や筋立てに工夫があってしかるべきではないか。」 五木寛之 49歳 全 □ 10 「池波正太郎氏に強く推された。私は池波さんの真情あふるる推挙ぶりに感動し、最初は〈蒲田行進曲〉と〈泪橋〉の二作授賞を主張しながら、最後に変節した。池波さんの批評眼を私は信用しているし、そういう一途な推されかたをする作家には必ず何かがあると思えたからである。」

他の候補作 つかこうへい 『蒲田行進曲』 古川薫 『暗殺の森』 西村望 『丑三つの村』 海老沢泰久 『Ｆ２グランプリ』 村松友視 「泪橋」 深田祐介 「バンコク喪服支店」

つかこうへい33歳×各選考委員　 『蒲田行進曲』 中篇 272枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 城山三郎 54歳 全 ◎ 14 「テンポがよく、間がよく、イキがよく、いかにも人間が生きている感じがあった。」「だめな男対だめな男の関係が、お互いを生かし合っていて、おもしろく、その底にこの作者独特の破壊力を感じさせる。」 池波正太郎 58歳 全 □ 10 「笑いながら読みすすみつつ、長年、芝居の世界にいた私は、むしろ鋭いリアリティに迫力を感じた。後半は、先を読まれてしまってペースが落ちる。」 水上勉 62歳 全 □ 25 「私はさきに、「ひも」を強力に推して破れていたので、この作品が最後までのこったのはうれしかった。どちらかといえば、「ひも」の方が密度も濃かったと思う。「蒲田」は「ひも」のように会話が追いこまれてなくて改行の多いせいか、つかさんの語りのオリみたいなものが散ってしまう気分である。」 源氏鶏太 69歳 全 □ 8 「何んとも面白くてうら悲しい小説であった。」「作者の才能を感じさせる。難をいえば、すこし軽い。尤も、この軽さは、作者の狙いであったようにも思える。」 阿川弘之 61歳 全 ■ 6 「軽妙だが読み了へての印象が薄く、（引用者中略）めでたく決定後も、すつきりしないものが残つた。」 村上元三 71歳 全 △ 5 「前半の章だけが面白かった。会話はお手のものでうまいし、軽く読めるが、後半もヤスの話で進めるべきではなかったろうか。」 山口瞳 55歳 全 ○ 10 「ともかく面白い作品で、何度も笑ったり唸ったりした。銀ちゃんがいい。」「いまの若者の受身の姿勢がマゾヒズムに拡大され、一種の恍惚境を造りだす作者の手腕に感動した。」 五木寛之 49歳 全 ◎ 37 「つか氏の作品は、私たちの無意識の世界の深いところに鋭く触れるものがある。」「私はこの物語りを遠い祭ばやしを聞くような気分で楽しみながら一気に読み通し、やがて数日たってからずしんと来るものを感じた。」「面白おかしく書きとばせば、それがおのずからなる批評の色合いをおびるという痛快な結果をもたらすので、そういう無意識の狩人を天才と呼んで不自然なわけがない。」

他の候補作 光岡明 『機雷』 古川薫 『暗殺の森』 西村望 『丑三つの村』 海老沢泰久 『Ｆ２グランプリ』 村松友視 「泪橋」 深田祐介 「バンコク喪服支店」

古川薫56歳×各選考委員　 『暗殺の森』 長篇 384枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 城山三郎 54歳 全 ■ 7 「一本調子な小説ではなく、怨念を二重にだぶらせて進行させ、構成にも工夫があるように思われたが、それだけに、いまひとつすっきりしない仕立て上りになったことが惜しまれる。」 池波正太郎 58歳 全 ― 0   水上勉 62歳 全 ― 0   源氏鶏太 69歳 全 ● 7 「よく調べて書いてあるが、その描き方がすこし雑然としていて、途中から煩わしくなって来た。古川氏の過去の候補作品に比較してもやや落ちる。」 阿川弘之 61歳 全 ― 0   村上元三 71歳 全 ● 14 「主人公の野見庄太郎がこれほど苦労をして取材をしたり、古文書を漁ってまとめた「中山忠光卿殺害顛末」が棺の中で灰になってしまった、となると、作者がこの一作の中で調べたことが、嘘になってしまう。」「高い広い視野から見てほしかった。」 山口瞳 55歳 全 ● 6 「長過ぎるし、固い。小説にするには、もっと語り口や筋立てに工夫があってしかるべきではないか。」 五木寛之 49歳 全 △ 8 「すでに直木賞など必要としない堂々たる一国一城の主である。既成作家としての安定した作風が、新人賞である直木賞にかえってそぐわない印象をあたえるあたりが、何度も惜しいところで受賞を逸する一因かもしれない。」

他の候補作 光岡明 『機雷』 つかこうへい 『蒲田行進曲』 西村望 『丑三つの村』 海老沢泰久 『Ｆ２グランプリ』 村松友視 「泪橋」 深田祐介 「バンコク喪服支店」

西村望56歳×各選考委員　 『丑三つの村』 長篇 543枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 城山三郎 54歳 全 ― 0   池波正太郎 58歳 全 ― 0   水上勉 62歳 全 ― 0   源氏鶏太 69歳 全 ○ 4 「まことに厭な話であるが、そこに不思議な魅力がある。文章もうまいと思った。」 阿川弘之 61歳 全 ― 0   村上元三 71歳 全 ● 4 「読後感も悪いし、主人公がよく描かれていない。ただ人を殺して廻る小説では、賞の対象にはならない。」 山口瞳 55歳 全 △ 5 「私の好きな作家で、粘着力のある文章が光っているが、他の作家の書いている事件を扱ったので損をした。」 五木寛之 49歳 全 ■ 10 「前に候補作となった〈薄化粧〉が好きだったせいか、やや印象が薄かったように思う。」	他の候補作 光岡明 『機雷』 つかこうへい 『蒲田行進曲』 古川薫 『暗殺の森』 海老沢泰久 『Ｆ２グランプリ』 村松友視 「泪橋」 深田祐介 「バンコク喪服支店」

海老沢泰久31歳×各選考委員　 『Ｆ２グランプリ』 長篇 456枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 城山三郎 54歳 全 ■ 10 「達者な作品である。」「緊迫感もあり、人生のにがみを感じさせるところもあるが、一方ではアメリカ映画のセリフのようなものもあって、鈴鹿の風のにおい土のにおいといったものが稀薄な気がした。」 池波正太郎 58歳 全 △ 5 「いかにも若々しい精悍さでダイナミックなマシーン小説を書いた海老沢泰久氏へも今後に大きな期待がよせられたようである。」 水上勉 62歳 全 ― 0   源氏鶏太 69歳 全 ■ 7 「読んでいて愉しかったが、文学的香気がいささか欠けているように思った。」 阿川弘之 61歳 全 △ 7 「素材にふさはしいスピード感あり、構成もがつしりしてゐて面白かつたけれど、要らざる洒落気があちこち眼につき、積極的には推しかねた。」 村上元三 71歳 全 ● 4 「レースの場面だけが面白くて、終末も予想した通りになったし、小説としての構成は月並であった。」 山口瞳 55歳 全 △ 7 「彼はハードなタッチの翻訳調という独特の文体を持っていて、そのおおらかで決して小味にならない仕事ぶりとあわせて、常に大物感が漾っている。」 五木寛之 49歳 全 ― 0

他の候補作 光岡明 『機雷』 つかこうへい 『蒲田行進曲』 古川薫 『暗殺の森』 西村望 『丑三つの村』 村松友視 「泪橋」 深田祐介 「バンコク喪服支店」

村松友視41歳×各選考委員　 「泪橋」 中篇 156枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 城山三郎 54歳 全 △ 7 「小道具大道具を巧みに使いこなして、銅版画のような世界をつくり上げている。そのうまさが少し鼻につくような気がしたのは、どうしてであろうか。」 池波正太郎 58歳 全 ― 0   水上勉 62歳 全 △ 11 「小説つくりの才は抜群でも、どこか弱い。」「いろいろ持ちこみすぎたためか、主題が散った。惜しい作品である。だがこの人はいつか申し分のない傑作を見せてくれよう。」 源氏鶏太 69歳 全 ■ 7 「うまい小説である。」「人生の一断面を見せられる思いで読んだが、推すには今一つ何かが不足しているような気がした。」 阿川弘之 61歳 全 ― 0   村上元三 71歳 全 ● 3 「うまいが、小味で、読み終っても何も手応えはなかった。」 山口瞳 55歳 全 ◎ 10 「第一京浜国道立会川附近の埃っぽい感じと羽田埋立地水路の索漠とが完璧に描かれているうえに話の転結が面白く、上々の風俗小説となっている。」「前回と較べて格段の進歩があるところから将来性を買って、これを第一に推した。」 五木寛之 49歳 全 ○ 20 「秀才の苦心作といった趣きだ。」「〈泪橋〉が〈蒲田行進曲〉より小説としていささかも劣るわけではない。私はこの作品の背景をなしている一帯に長く住んでいたことがあるためか、ことに興味ぶかく読んだ。」

他の候補作 光岡明 『機雷』 つかこうへい 『蒲田行進曲』 古川薫 『暗殺の森』 西村望 『丑三つの村』 海老沢泰久 『Ｆ２グランプリ』 深田祐介 「バンコク喪服支店」

深田祐介50歳×各選考委員　 「バンコク喪服支店」 中篇 128枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 城山三郎 54歳 全 ― 0   池波正太郎 58歳 全 ― 0   水上勉 62歳 全 ■ 6 「深田さんのものとしては落ちた。「革命商人」の重厚な面白さに比して軽いのだった。深田さんもこんな作品が授賞では困られるだろう。」 源氏鶏太 69歳 全 ● 6 「ユウモア小説としてもあまり成功しているとは思われなかった。深田氏には他にもっといい作品がある筈である。」 阿川弘之 61歳 全 ― 0   村上元三 71歳 全 ■ 5 「当然もう受賞していい実力を持った人だが、今回この作品が候補になったのは作者にとって不運だった。」 山口瞳 55歳 全 □ 12 「毎回、これだけ大人の読者を堪能させる作品を書き続けうる力量を評価すべきで、ラグビーの認定トライのような受賞があってもいいのではないかと思ったが、この作品（引用者中略）で受賞するのは作者にとって名誉ではないという発言があり、それが大方の意見を代表する形になった。」 五木寛之 49歳 全 △ 5 「今度の作品で受賞は本人自身も望まれないだろう。この後いくらでも力作、快作が期待できる作家だからである。」

他の候補作 光岡明 『機雷』 つかこうへい 『蒲田行進曲』 古川薫 『暗殺の森』 西村望 『丑三つの村』 海老沢泰久 『Ｆ２グランプリ』 村松友視 「泪橋」