高尾長良（たかおながら）-芥川賞候補作家｜芥川賞のすべて・のようなもの

芥川賞のすべて・のようなもの

第148回

＝受賞者＝
黒田夏子

＝候補者＝
小野正嗣
北野道夫
高尾長良
舞城王太郎

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Last Update●[R2]2020/2/19

	Takao Nagara
	生没年月日【注】	平成4年/1992年☆月☆日～
	経歴	東京都世田谷区生まれ。京都大学医学部2年に在籍中の平成24年/2012年、新潮新人賞を受賞。
	受賞歴・候補歴	第44回新潮新人賞（平成24年/2012年）「肉骨茶」 \|候補\| 第148回芥川賞（平成24年/2012年下期）「肉骨茶」 \|候補\| 第152回芥川賞（平成26年/2014年下期）「影媛」 \|候補\| 第162回芥川賞（令和1年/2019年下期）「音に聞く」
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第148回候補

「肉骨茶(にくこつちゃ)」（『新潮』平成24年/2012年11月号）

媒体・作品情報

誌名	「新潮」別表記表紙「今年108年目の文芸誌」「The Shincho Monthly」併記
巻号	第109巻第11号別表記1294号
印刷/発行年月日	発行平成24年/2012年11月7日　発売平成24年/2012年10月7日
発行者等	編集兼発行者矢野優　印刷者北島義俊　印刷所大日本印刷株式会社（東京都）
発行所	株式会社新潮社（東京都）
総ページ数	364	表記上の枚数	―	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×25行 ×2段
本文ページ	7～43 （計37頁）	測定枚数	116枚

書誌

平成25年/2013年2月・新潮社刊『肉骨茶』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　高尾長良　20歳
選考委員		評価	行数	評言
高樹のぶ子	66歳	△	9	「限られた登場人物と舞台設定、人格をひっくり返して見せる物語性、そして何より「食べる」ということを通して表現される身体感覚は、作者が将来、強く魅力的な作品を生み出すだろう予感を与えた。」
小川洋子	50歳	□	19	「主人公のカロリー消費への執念は当然奇妙なのだが、やがてゾーイーの狂気が、そんなものを易々と呑み込んでゆく様が面白い。」「切実さを抱えた人間の滑稽さが、描き出されている。その点はもっと高く評価されるべきだったと思う。」
宮本輝	65歳	■	11	「小説の長い序章を読んだだけという印象を持った。さあ、ここから拒食症の女性がどうなっていくのか、というところで終わってしまっているのだ。」
山田詠美	53歳	●	19	「読み終えた後に呟いたのは、「で？」のひと言。」「拒食という使い古されたモチーフを選びながらも、独自の奇譚に持って行くのに必要なのは、徹底したリアリティ、もしくは、そんなものをこれまた徹底的に無視した虚構性のパワー。ここでは、そのどちらも中途半端」
川上弘美	54歳	■	9	「主人公が拒食症、という設定から想像される展開を裏切る、不可思議なおかしみのある作品でした。装飾的な文章のつくり（おそらくわざとやっていると思われるのですが）が、効果をあげていなかったように思います。」
奥泉光	56歳	■	10	「エネルギーを感じた。が、そのエネルギーの向かう先が自分にはいまひとつ捉えられず、相対的に低い評価になってしまった。」
堀江敏幸	49歳	△	21	「全体に固い文章で、意識的な反復のわずらわしさもあるけれど、十七歳の少女の妄想的な部分が、彼女自身の名（赤猪子）の響きに、そして言葉の煮詰まりそのものに救われている。また、同時に煮こごりの食感も残る。」
村上龍	60歳	―	0
島田雅彦	51歳	△	14	「個人的にはこの種のテイストは大好きだが、現実界におけるダイエット事情はもっとグロテスクかつ偏執狂的で、時に生活の破綻や生存の危機をももたらしていることを思うと、まだ本作一篇では序章を書いたに過ぎないとの印象を拭い去れない。」
選評出典：『文藝春秋』平成25年/2013年3月号

第152回候補

「影媛(かげひめ)」（『新潮』平成26年/2014年12月号）

媒体・作品情報

誌名	「新潮」別表記表紙「The Shincho Monthly」「今年110年目の文芸誌」併記
巻号	第111巻第12号別表記12月号/1319号
作品名別表記	本文ルビ有り「かげひめ」
印刷/発行年月日	発行平成26年/2014年12月7日　発売平成26年/2014年11月7日
発行者等	編集兼発行者矢野優　印刷者北島義俊　印刷所大日本印刷株式会社（東京都）
発行所	株式会社新潮社（東京都）
総ページ数	332	表記上の枚数	目次 150枚	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×25行 ×2段
本文ページ	7～55 （計49頁）	測定枚数	156枚

書誌

平成27年/2015年2月・新潮社刊『影媛』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　高尾長良　22歳
選考委員		評価	行数	評言
小川洋子	52歳	■	11	「息苦しいまでに手の込んだ文体により、『影媛』の世界は独特の色彩とにおいを帯びた。しかし、カワセミになって自在に飛翔すべき影媛の視点が、文体に閉じ込められ、かえって窮屈になっている印象を受けた。」
奥泉光	58歳	■	12	「新たな日本語を構築していこうとの意欲を感じ、その方向性には拍手を送りたい。ただし、読むことの快楽をもたらすところまでは至っておらず、本作はいまだ道半ばの印象を受けた。」
高樹のぶ子	68歳	■	12	「地の文と会話文を意識的に違えていて、それが上手く行っているかと言えば、影媛のあわれを伝えるには会話文が障壁になっている。日本語の冒険が目的なのだろうか。古代特有な獣と血の臭いが濃く漂ってくるだけに、惜しかった。」
山田詠美	55歳	○	13	「あー、もう、こんなしち面倒臭いアプローチして……とうんざりしかけたが、どんどんおもしろくなって、止められなかったくらい。」「同時に、いくつかの場面がとてもセクシーだ。滝で放られた桃を齧るところとか。」
宮本輝	67歳	●	15	「日本書紀を下敷きにしてはいるが、そのパロディでもないし、作者独自の展開とも思えない。なにを読み手に与えようとしたのかが、まったく不明なのだ。」「人名などはすべてにルビを付けてもらわなくては読めないというようなものはすでにそれだけで一篇の小説としては失敗作だと思う。」
堀江敏幸	51歳	■	14	「古代文学によりかかった地の文と会話文の硬軟の配合に雲母のきらめきと冒険が認められる一方、集めた言葉と言葉のつなぎが堅すぎて、翡翠色の羽を持つ鳥の嘴がそこに入っていかない。」
島田雅彦	53歳	■	14	「擬古典スタイルの文章コスプレはかなりサマになっているものの、万葉仮名の原典を現代語訳する以上の飛躍があったかと聞かれれば、もう少し大胆なアレンジを加えたり、伝奇的に料理してもよかったのではないかと思われる。」
村上龍	62歳	―	0
川上弘美	56歳	■	6	「こころみは、とても面白かった。少しだけ、こころみにおぼれてしまったかもしれません。でも、こういうこころみを行う心意気は、大いに評価したいです。」
選評出典：『文藝春秋』平成27年/2015年3月号

第162回候補

「音(おと)に聞(き)く」（『文學界』令和1年/2019年9月号）

媒体・作品情報

誌名	「文學界」
巻号	第73巻第9号別表記9月号
印刷/発行年月日	発売令和1年/2019年8月7日　発行令和1年/2019年9月1日
発行者等	編集人丹羽健介　発行人大川繁樹　印刷人北島義斉　印刷所大日本印刷株式会社　ＤＴＰ制作株式会社ローヤル企画
発行所	株式会社文藝春秋（東京都）
総ページ数	320	表記上の枚数	表紙・目次 200枚	基本の文字組（1ページ当り）	27字 ×23行 ×2段
本文ページ	91～153 （計63頁）	測定枚数	182枚

書誌

令和1年/2019年11月・文藝春秋刊『音に聞く』

選評の概要

この回の全概要　見方・注意点

候補者　高尾長良　27歳
選考委員		評価	行数	評言
山田詠美	60歳	●	20	「一見、流麗に見える文章が実は貧弱で空疎なのを露呈してしまっている。十の比喩を一に減らして、もっとシンプルで確実な、肉体からの言語で書いてもらいたい。」
吉田修一	51歳	●	14	「「極東から来た悪魔」と呼ばれる父親との再会というサスペンスフルなストーリーと、硬質というか、まったく揺らぎのない文章とがあまり合っていないようにも思えました。」
小川洋子	57歳	△	6	「どんな小説も、言葉以前の言葉で書かれるべきなのだ、と思わせてくれる作品だった。」
奥泉光	63歳	●	10	「西洋小説の翻訳文体を採用した一篇だが、それがいまひとつ効果を発揮していない。主題のひとつであるWort oder Ton（言葉か音か）をめぐる思弁も理解しにくかった。」
川上弘美	61歳	■	11	「文体に関してたいそう意識的なところに好感をもちました。」「今回は残念ながら、作者が自分の文体を自在に乗りこなしていなかったのではないでしょうか。」
宮本輝	72歳	●	7	「ペダンティックな小説には閉口した。ウィーンを舞台にして、人造人間たちが長々と観念劇を演じている。わたしにはなんの益もない空疎な観念劇である。」
島田雅彦	58歳	△	13	「クラシック音楽批評家にありがちなペダントリーや、正確だが、回りくどい地の文は、「散文の不幸」を示唆しているのかもしれず、コトバと音の理想的結合としての詩の前での足踏みをそのまま物語にしたのかもしれない。」
松浦寿輝	65歳	■	8	「（引用者注：「最高の任務」と共に）野心作とは思いつつ、」「三作（引用者注：「背高泡立草」「デッドライン」「幼な子の聖戦）に比してやや魅力が乏しいと感じずにはいられなかった。」
堀江敏幸	56歳	■	15	「どこかなつかしい気持ちで読んだ。」「「音に聞く」のあとに「高師の浜のあだ波は」と続ければ、主題は言葉と音ではなく、艶書合（ルビ：けそうぶみあわせ）になるだろうか。この筋を少し太くすれば、衒学臭が軽減されたかもしれない。」
選評出典：『文藝春秋』令和2年/2020年3月号

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