<img src="../images/title_senpyo.gif" alt="芥川賞選評の概要" width="276" height="297">

選評なし

候補作

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

中山義秀　「厚物咲」

59枚

37歳

◎

□

◎

■

△

―

□

◎

△

渋川驍　『龍源寺』

364枚

33歳

△

―

・

―

■

―

伊藤永之介　『鴉』等

288枚

34歳

―

■

―

◎

△

■

△

―

田畑修一郎　『鳥羽家の子供』

387枚

34歳

△

◎

―

□

―

◎

○

―

中村地平　「南方郵信」

64枚

30歳

―

△

―

△

○

―

丸山義二　「田植酒」

66枚

35歳

―

△

―

一瀬直行　「隣家の人々」

81枚

34歳

―

■

―

・

―

△

―

秋山正香　『般若』

343枚

34歳

△

―

・

―

■

―

橋本寿子　「光陰」

160枚

（不明）

―

・

―

大原富枝　「祝出征」

57枚

25歳

―

△

―

年齢/枚数の説明

見方・注意点

このページの選評出典：『芥川賞全集　第二巻』昭和57年/1982年3月・文藝春秋刊　再録（初出：『文藝春秋』昭和13年/1938年9月号）
1行当たりの文字数：26字

このページの「話の屑籠」出典：昭和35年/1960年4月・文藝春秋新社刊『菊池寛文學全集　第七巻』（初出：『文藝春秋』昭和13年/1938年9月号）

選考委員

久米正雄

46歳×各候補作　

総行数33　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中山義秀	37歳	全	◎	21	「最も感心し、第一回会合の時から、敢て是を推奨し通した。結局、遅くなってから行使した私の一票が、菊池の賛成と共に、賞を此人に決定させた形に成った。」「読んだ時、深い感動に打たれて、暫らく芥川賞銓衡なぞの俗事を忘れ得たのは、正直のところ、此の作品だけだった。室生君が、老人は書き易く、その易きについて、陳套だと言う意味の批難をしたが、その批難は当っているにしても、是だけ書ける人はそうザラに無いと考えた。」
渋川驍	33歳	全	△	5	「面白くはあった。」「（引用者注：田畑修一郎、秋山正香と共に）いずれも候補作品たるに相応しく、充分一人前の作家として、登録に値するから、各雑誌編輯者には、右の作家たちにも、喜んで舞台を与えられたいと願いたい。」
伊藤永之介	34歳	全	―	0
田畑修一郎	34歳	全	△	9	「勿論、感心しないではなかった。芸術味も豊かで、素質としては、（引用者注：受賞した中山義秀よりも）此人の方が寧ろ、キメが細いかとも思うが、作品は少しゴタゴタして居て、いずれもっと洗練され、渾融される時が来るであろう事を思わせた。」
中村地平	30歳	全	―	0
丸山義二	35歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
秋山正香	34歳	全	△	5	「面白くはあった。」「「礼」など、相当に感心はした。（引用者注：田畑修一郎、渋川驍と共に）いずれも候補作品たるに相応しく、充分一人前の作家として、登録に値するから、各雑誌編輯者には、右の作家たちにも、喜んで舞台を与えられたいと願いたい。」
橋本寿子	（不明）	全	―	0
大原富枝	25歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

佐藤春夫

46歳×各候補作　

総行数42　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中山義秀	37歳	全	□	15	「この三篇（引用者注：「厚物咲」「鴉」「鳥羽家の子供」）から一篇を抜く英断には苦労が入る。」「「厚物咲」の味は少々通俗の難がありはしないか。」「その通俗性は難でもあるが考え方によっては人間臭として一つの長所にもなる。肝腎の厚物咲なども果して描けているかどうか怪しいが、これを支持する人が出ても大して無理がないだけの作品には相違ない。」
渋川驍	33歳	全	―	0
伊藤永之介	34歳	全	■	7	「この三篇（引用者注：「厚物咲」「鴉」「鳥羽家の子供」）から一篇を抜く英断には苦労が入る。」「いつかも当選の運を逸したが、それにも拘わらず「梟」の真価がはじめて世の認めるところとなった近頃今更芥川賞でもあるまいという気もしないではない。」
田畑修一郎	34歳	全	◎	21	「この三篇（引用者注：「厚物咲」「鴉」「鳥羽家の子供」）から一篇を抜く英断には苦労が入る。」「妙に神経質で人好きがしない、そのくせ一々急所を押えた心理的な筆致が相当くっきりと鳥羽家をまる彫しているのを認めなければなるまい。」「当選作はこの篇に限る。」「ここいらでもう一ふんばりして立ち直って欲しいものである。口はばったいが乃公がついている。三宅島などをほっつき歩く間にもう一作なからざるべからず。」
中村地平	30歳	全	―	0
丸山義二	35歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	■	13	「先ず第一に（引用者中略）興味を覚えた。作者とは十年来交際があってその詩は屡々読んでいるが散文を見た事はなかったからである。」「映画で謂うカメラがいいせいで清新なものがあって相当な詩人の散文たるに恥じないが、散文の手心が判らないのか、たどたどしく稚拙の難を免れなかった。尠くとももう二三篇見ない事には問題にはなるまい。」
秋山正香	34歳	全	―	0
橋本寿子	（不明）	全	―	0
大原富枝	25歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

横光利一

40歳×各候補作　

総行数7　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中山義秀	37歳	全	◎	7	「優れた作品である。難をいえば作者が何の得もこの中でしていないことだが、素材に対する解釈の深さがよく肥料の効いた豊かな彫りを浮べている。殊に賞讃したく思うところは、洋法を用いながら見事に日本色を出した筆法で、このような新しさは今までの文壇に稀に見るところと思う。」
渋川驍	33歳	全	―	0
伊藤永之介	34歳	全	―	0
田畑修一郎	34歳	全	―	0
中村地平	30歳	全	―	0
丸山義二	35歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
秋山正香	34歳	全	―	0
橋本寿子	（不明）	全	―	0
大原富枝	25歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

室生犀星

49歳×各候補作　

総行数9　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中山義秀	37歳	全	■	4	「確かりと書かれてある。唯、素材が老人物であるだけに作品の進行が一律であって、展がることが出来ない窮屈さがあった。」
渋川驍	33歳	全	―	0
伊藤永之介	34歳	全	◎	5	「「鴉」を極力すいせんした。「梟」が何時か問題にのぼり、いま亦「鴉」が芥川賞にもれたことは遺憾であった。」
田畑修一郎	34歳	全	―	0
中村地平	30歳	全	―	0
丸山義二	35歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
秋山正香	34歳	全	―	0
橋本寿子	（不明）	全	―	0
大原富枝	25歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

小島政二郎

44歳×各候補作　

総行数53　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中山義秀	37歳	全	△	18	「描き足りない不満を感じた。二人の老人の性格の面白さには心を引かれながら、描き足りていない為めに、現実感と非現実感との食い違いに僕の印象は混濁した。」「この混濁の為に、僕には小説とお話との継ぎ合わせのような気がして、どうしても現実的にその二老人の姿が生き切って胸に響いて来なかった。」
渋川驍	33歳	全	・	1
伊藤永之介	34歳	全	△	5	「「鴉」に一番感心した。が、伊藤氏はもう有名だから芥川賞の銓衡外だと云うことになったので推薦を遠慮した。」
田畑修一郎	34歳	全	□	28	「主人公の性格描写が完全でない。」「全体の構成がやや緊密を欠き、その為め立体感が弱く、妙に全体の印象がぼやけている。しかし、太刀先は正しいと思った。」「第二の母の姿は、（引用者注：「厚物咲」の二老人の姿に比べれば）実に何寸か彫り込んでいると思った。そう云う意味で、僕は「鳥羽家の子供」に一票を投じた。」
中村地平	30歳	全	△	5	「四つ（引用者注：「田植酒」「南方郵信」「厚物咲」「鳥羽家の子供」）が僕の手帳に残った。」「僕は期待を持っている。」
丸山義二	35歳	全	△	4	「四つ（引用者注：「田植酒」「南方郵信」「厚物咲」「鳥羽家の子供」）が僕の手帳に残った。」
一瀬直行	34歳	全	・	1
秋山正香	34歳	全	・	1
橋本寿子	（不明）	全	・	1
大原富枝	25歳	全	―	0
					「僕だけの感想を云うと、今度が一番優れた作品に乏しいように思った。佐佐木と僕とはその点同意見だった。そのことを、最後の委員会の席上で口にしたら、久米正雄の激しい反対に逢った。」

他の選考委員

選考委員

佐佐木茂索

43歳×各候補作　

総行数5　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中山義秀	37歳	全	―	0
渋川驍	33歳	全	―	0
伊藤永之介	34歳	全	■	4	「「鴉」に感心した。しかし「鴉」の作者は既に数冊の著書を持ち、押されもしない一人前の作家である。授賞はもっと知られてない人を目標にすべきであろう。授賞するとせば、「梟」の時代にすべきであったろう。」
田畑修一郎	34歳	全	―	0
中村地平	30歳	全	―	0
丸山義二	35歳	全	△	2	「うまいものだ。」
一瀬直行	34歳	全	―	0
秋山正香	34歳	全	―	0
橋本寿子	（不明）	全	―	0
大原富枝	25歳	全	△	1	「うまいものだ。」

他の選考委員

選考委員

瀧井孝作

44歳×各候補作　

総行数51　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中山義秀	37歳	全	□	17	「この作者はドギツイ逞しい力をもっていて、これが特長らしいが、筆が尚洗練されて幅が出てくれば申分ないと思った。厚物咲一篇はわりに消化れて、幅もあるし、立上った感じの作で、これはよいと思った。」「読んでも面白いが、何か無気味な怪力乱神のようなものがあって、ぼくは好きになれなんだ。」「当選に強いて反対もしなかった。」
渋川驍	33歳	全	■	5	「詳細に描かれて分りやすくよめる点で佳作だと思った。が、高い感じの作品ではないようで、これはこの作家の筆にもっと昂奮があればよいのだと思った。」
伊藤永之介	34歳	全	△	6	「以前に梟、それから鶯というのも読んで、手腕のある作家だと思った。鴉は、一寸面白いけれど、自然な感じが少ないが、これは手腕が勝ちすぎて描きすぎてはないかと思った。以前の梟の方が自然な感じで、これより佳作だったと思った。」
田畑修一郎	34歳	全	◎	13	「まともに見て描いてあって自然な感じのする点で、こんどぼくの読んだ中では一番好きだと思った。」「一票を入れた。今月の文芸汎論に出た田畑氏の近作の短篇も美しい作と思ったので、それで推選した。」
中村地平	30歳	全	△	6	「悠々とのびのびとして、水彩画をみるような色けと詩趣とが佳いと思った。」
丸山義二	35歳	全	△	5	「素直なやわらかい筆で、農家の人々のありさまが描き分けてあった。描写の力のまだ幼稚な点はあったが、捨てがたい一篇で、農民文学の佳作だと思った。」
一瀬直行	34歳	全	―	0
秋山正香	34歳	全	―	0
橋本寿子	（不明）	全	―	0
大原富枝	25歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

宇野浩二

47歳×各候補作　

総行数167　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中山義秀	37歳	全	◎	49	「ずいぶん複雑な怪奇な所さえある題材を、幾らかごたごたしているのが瑕であるが、また新鮮味は感じられないけれども、一種独得の風格と味のある文章で、或いは写実的に、或いは抒情的に或いは象徴的に、簡潔でありながら、可なり重厚に且つ克明に書いている。」「この小説を第一に推薦した」
渋川驍	33歳	全	■	22	「渋川の小説にはそつ（原文傍点）がないと云う事がいえるであろう。恐らく、こういうそつ（原文傍点）のない小説を書く渋川は見たところは律義者のような人かも知れない。」「私は、渋川が、律儀の正反対のものを、若しあるなら、表面に現し、もっとそつ（原文傍点）のある小説を書くようになることを待望するものである。」
伊藤永之介	34歳	全	△	24	「「梟」「鴉」、「鶯」、「燕」と、伊藤の鳥の名を題にした小説を並べると、結局「梟」が一番すぐれているのではないか、と私は考える」「伊藤はこの「鳥物」（引用者中略）を卒業すると、今より一層すぐれた作家になるのではないか、と私は考えるのである。」「最早、そういう標準があるものとすると、芥川賞などという級は通り越している作家であるから、今更芥川賞でもないであろう、という事になったのである。」
田畑修一郎	34歳	全	○	36	「自分の好き嫌いなどこだわらないで比べると、普通の意味で、「厚物咲」より、「鳥羽家の子供」の方が、上品で、謂わゆる芸術的である。」「褒めて云うと、何か弱々しいところと、「もう一と息」というところに、田畑の、長所がある。が、より以上に短所がある。」「田畑が、「南方」、「三宅島通信」、「石ころ路」等の謂わゆる感じのいい小説ときっぱり別れて、数年前の、「鳥羽家の子供」、「医師高間氏」あたりから出直す気になったら、彼は、必ず、二十年近い彼の長い文学の修業が報いられて、文学の大道に出られるであろうと私は信じるのである。」
中村地平	30歳	全	○	40	「この作者独得の南国の地方色と情緒が、そこに住む無智で楽天的で然も果無い人生が、心ゆくまで書かれている。」「（引用者注：各候補者の中で）彼の文章だけが目立って、こせつかず、おっとりしている」「中村の小説はたくさん読むと単調かも知れないけれど、読みながら楽しく、楽しみながら読める、という、近頃稀な小説である。」
丸山義二	35歳	全	△	5	「仮りに芥川賞級などというものがあるとすると、（引用者中略・注：丸山義二、一瀬直行、秋山正香の小説は）その級に及んでいるようでもあり、今一と息の所のようでもあり、という程度であろうか。私には、この三人の作家の小説の中で、丸山の「田植酒」が最も面白く思われ、」
一瀬直行	34歳	全	△	7	「仮りに芥川賞級などというものがあるとすると、（引用者中略・注：丸山義二、一瀬直行、秋山正香の小説は）その級に及んでいるようでもあり、今一と息の所のようでもあり、という程度であろうか。」「「気を落とさずにやれ、気を落とさずにやれ」と声援したい小説であると思われた。」
秋山正香	34歳	全	■	4	「仮りに芥川賞級などというものがあるとすると、（引用者中略・注：丸山義二、一瀬直行、秋山正香の小説は）その級に及んでいるようでもあり、今一と息の所のようでもあり、という程度であろうか。」
橋本寿子	（不明）	全	―	0
大原富枝	25歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

菊池寛

49歳×各候補作　

題（話の屑籠より）　

候補			評価	行数	評言
中山義秀	37歳	全	△		「特異な性格を創造したところが、作者の功績であると思った。」
渋川驍	33歳	全	―
伊藤永之介	34歳	全	―
田畑修一郎	34歳	全	―
中村地平	30歳	全	―
丸山義二	35歳	全	―
一瀬直行	34歳	全	―
秋山正香	34歳	全	―
橋本寿子	（不明）	全	―
大原富枝	25歳	全	―

他の選考委員

受賞者・作品

中山義秀

37歳×各選考委員　

「厚物咲」

短篇 59枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	46歳	全	◎	21	「最も感心し、第一回会合の時から、敢て是を推奨し通した。結局、遅くなってから行使した私の一票が、菊池の賛成と共に、賞を此人に決定させた形に成った。」「読んだ時、深い感動に打たれて、暫らく芥川賞銓衡なぞの俗事を忘れ得たのは、正直のところ、此の作品だけだった。室生君が、老人は書き易く、その易きについて、陳套だと言う意味の批難をしたが、その批難は当っているにしても、是だけ書ける人はそうザラに無いと考えた。」
佐藤春夫	46歳	全	□	15	「この三篇（引用者注：「厚物咲」「鴉」「鳥羽家の子供」）から一篇を抜く英断には苦労が入る。」「「厚物咲」の味は少々通俗の難がありはしないか。」「その通俗性は難でもあるが考え方によっては人間臭として一つの長所にもなる。肝腎の厚物咲なども果して描けているかどうか怪しいが、これを支持する人が出ても大して無理がないだけの作品には相違ない。」
横光利一	40歳	全	◎	7	「優れた作品である。難をいえば作者が何の得もこの中でしていないことだが、素材に対する解釈の深さがよく肥料の効いた豊かな彫りを浮べている。殊に賞讃したく思うところは、洋法を用いながら見事に日本色を出した筆法で、このような新しさは今までの文壇に稀に見るところと思う。」
室生犀星	49歳	全	■	4	「確かりと書かれてある。唯、素材が老人物であるだけに作品の進行が一律であって、展がることが出来ない窮屈さがあった。」
小島政二郎	44歳	全	△	18	「描き足りない不満を感じた。二人の老人の性格の面白さには心を引かれながら、描き足りていない為めに、現実感と非現実感との食い違いに僕の印象は混濁した。」「この混濁の為に、僕には小説とお話との継ぎ合わせのような気がして、どうしても現実的にその二老人の姿が生き切って胸に響いて来なかった。」
佐佐木茂索	43歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	□	17	「この作者はドギツイ逞しい力をもっていて、これが特長らしいが、筆が尚洗練されて幅が出てくれば申分ないと思った。厚物咲一篇はわりに消化れて、幅もあるし、立上った感じの作で、これはよいと思った。」「読んでも面白いが、何か無気味な怪力乱神のようなものがあって、ぼくは好きになれなんだ。」「当選に強いて反対もしなかった。」
宇野浩二	47歳	全	◎	49	「ずいぶん複雑な怪奇な所さえある題材を、幾らかごたごたしているのが瑕であるが、また新鮮味は感じられないけれども、一種独得の風格と味のある文章で、或いは写実的に、或いは抒情的に或いは象徴的に、簡潔でありながら、可なり重厚に且つ克明に書いている。」「この小説を第一に推薦した」
菊池寛	49歳	全	△		「特異な性格を創造したところが、作者の功績であると思った。」

他の候補作

候補者・作品

渋川驍

33歳×各選考委員　

『龍源寺』

短篇集5篇 364枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	46歳	全	△	5	「面白くはあった。」「（引用者注：田畑修一郎、秋山正香と共に）いずれも候補作品たるに相応しく、充分一人前の作家として、登録に値するから、各雑誌編輯者には、右の作家たちにも、喜んで舞台を与えられたいと願いたい。」
佐藤春夫	46歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
小島政二郎	44歳	全	・	1
佐佐木茂索	43歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	■	5	「詳細に描かれて分りやすくよめる点で佳作だと思った。が、高い感じの作品ではないようで、これはこの作家の筆にもっと昂奮があればよいのだと思った。」
宇野浩二	47歳	全	■	22	「渋川の小説にはそつ（原文傍点）がないと云う事がいえるであろう。恐らく、こういうそつ（原文傍点）のない小説を書く渋川は見たところは律義者のような人かも知れない。」「私は、渋川が、律儀の正反対のものを、若しあるなら、表面に現し、もっとそつ（原文傍点）のある小説を書くようになることを待望するものである。」
菊池寛	49歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

伊藤永之介

34歳×各選考委員　

『鴉』等

中篇等2篇 288枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	46歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	■	7	「この三篇（引用者注：「厚物咲」「鴉」「鳥羽家の子供」）から一篇を抜く英断には苦労が入る。」「いつかも当選の運を逸したが、それにも拘わらず「梟」の真価がはじめて世の認めるところとなった近頃今更芥川賞でもあるまいという気もしないではない。」
横光利一	40歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	◎	5	「「鴉」を極力すいせんした。「梟」が何時か問題にのぼり、いま亦「鴉」が芥川賞にもれたことは遺憾であった。」
小島政二郎	44歳	全	△	5	「「鴉」に一番感心した。が、伊藤氏はもう有名だから芥川賞の銓衡外だと云うことになったので推薦を遠慮した。」
佐佐木茂索	43歳	全	■	4	「「鴉」に感心した。しかし「鴉」の作者は既に数冊の著書を持ち、押されもしない一人前の作家である。授賞はもっと知られてない人を目標にすべきであろう。授賞するとせば、「梟」の時代にすべきであったろう。」
瀧井孝作	44歳	全	△	6	「以前に梟、それから鶯というのも読んで、手腕のある作家だと思った。鴉は、一寸面白いけれど、自然な感じが少ないが、これは手腕が勝ちすぎて描きすぎてはないかと思った。以前の梟の方が自然な感じで、これより佳作だったと思った。」
宇野浩二	47歳	全	△	24	「「梟」「鴉」、「鶯」、「燕」と、伊藤の鳥の名を題にした小説を並べると、結局「梟」が一番すぐれているのではないか、と私は考える」「伊藤はこの「鳥物」（引用者中略）を卒業すると、今より一層すぐれた作家になるのではないか、と私は考えるのである。」「最早、そういう標準があるものとすると、芥川賞などという級は通り越している作家であるから、今更芥川賞でもないであろう、という事になったのである。」
菊池寛	49歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

田畑修一郎

34歳×各選考委員　

『鳥羽家の子供』

短篇集10篇 387枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	46歳	全	△	9	「勿論、感心しないではなかった。芸術味も豊かで、素質としては、（引用者注：受賞した中山義秀よりも）此人の方が寧ろ、キメが細いかとも思うが、作品は少しゴタゴタして居て、いずれもっと洗練され、渾融される時が来るであろう事を思わせた。」
佐藤春夫	46歳	全	◎	21	「この三篇（引用者注：「厚物咲」「鴉」「鳥羽家の子供」）から一篇を抜く英断には苦労が入る。」「妙に神経質で人好きがしない、そのくせ一々急所を押えた心理的な筆致が相当くっきりと鳥羽家をまる彫しているのを認めなければなるまい。」「当選作はこの篇に限る。」「ここいらでもう一ふんばりして立ち直って欲しいものである。口はばったいが乃公がついている。三宅島などをほっつき歩く間にもう一作なからざるべからず。」
横光利一	40歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
小島政二郎	44歳	全	□	28	「主人公の性格描写が完全でない。」「全体の構成がやや緊密を欠き、その為め立体感が弱く、妙に全体の印象がぼやけている。しかし、太刀先は正しいと思った。」「第二の母の姿は、（引用者注：「厚物咲」の二老人の姿に比べれば）実に何寸か彫り込んでいると思った。そう云う意味で、僕は「鳥羽家の子供」に一票を投じた。」
佐佐木茂索	43歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	◎	13	「まともに見て描いてあって自然な感じのする点で、こんどぼくの読んだ中では一番好きだと思った。」「一票を入れた。今月の文芸汎論に出た田畑氏の近作の短篇も美しい作と思ったので、それで推選した。」
宇野浩二	47歳	全	○	36	「自分の好き嫌いなどこだわらないで比べると、普通の意味で、「厚物咲」より、「鳥羽家の子供」の方が、上品で、謂わゆる芸術的である。」「褒めて云うと、何か弱々しいところと、「もう一と息」というところに、田畑の、長所がある。が、より以上に短所がある。」「田畑が、「南方」、「三宅島通信」、「石ころ路」等の謂わゆる感じのいい小説ときっぱり別れて、数年前の、「鳥羽家の子供」、「医師高間氏」あたりから出直す気になったら、彼は、必ず、二十年近い彼の長い文学の修業が報いられて、文学の大道に出られるであろうと私は信じるのである。」
菊池寛	49歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

中村地平

30歳×各選考委員　

「南方郵信」

短篇 64枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	46歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
小島政二郎	44歳	全	△	5	「四つ（引用者注：「田植酒」「南方郵信」「厚物咲」「鳥羽家の子供」）が僕の手帳に残った。」「僕は期待を持っている。」
佐佐木茂索	43歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	△	6	「悠々とのびのびとして、水彩画をみるような色けと詩趣とが佳いと思った。」
宇野浩二	47歳	全	○	40	「この作者独得の南国の地方色と情緒が、そこに住む無智で楽天的で然も果無い人生が、心ゆくまで書かれている。」「（引用者注：各候補者の中で）彼の文章だけが目立って、こせつかず、おっとりしている」「中村の小説はたくさん読むと単調かも知れないけれど、読みながら楽しく、楽しみながら読める、という、近頃稀な小説である。」
菊池寛	49歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

丸山義二

35歳×各選考委員　

「田植酒」

短篇 66枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	46歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
小島政二郎	44歳	全	△	4	「四つ（引用者注：「田植酒」「南方郵信」「厚物咲」「鳥羽家の子供」）が僕の手帳に残った。」
佐佐木茂索	43歳	全	△	2	「うまいものだ。」
瀧井孝作	44歳	全	△	5	「素直なやわらかい筆で、農家の人々のありさまが描き分けてあった。描写の力のまだ幼稚な点はあったが、捨てがたい一篇で、農民文学の佳作だと思った。」
宇野浩二	47歳	全	△	5	「仮りに芥川賞級などというものがあるとすると、（引用者中略・注：丸山義二、一瀬直行、秋山正香の小説は）その級に及んでいるようでもあり、今一と息の所のようでもあり、という程度であろうか。私には、この三人の作家の小説の中で、丸山の「田植酒」が最も面白く思われ、」
菊池寛	49歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

一瀬直行

34歳×各選考委員　

「隣家の人々」

短篇 81枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	46歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	■	13	「先ず第一に（引用者中略）興味を覚えた。作者とは十年来交際があってその詩は屡々読んでいるが散文を見た事はなかったからである。」「映画で謂うカメラがいいせいで清新なものがあって相当な詩人の散文たるに恥じないが、散文の手心が判らないのか、たどたどしく稚拙の難を免れなかった。尠くとももう二三篇見ない事には問題にはなるまい。」
横光利一	40歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
小島政二郎	44歳	全	・	1
佐佐木茂索	43歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	△	7	「仮りに芥川賞級などというものがあるとすると、（引用者中略・注：丸山義二、一瀬直行、秋山正香の小説は）その級に及んでいるようでもあり、今一と息の所のようでもあり、という程度であろうか。」「「気を落とさずにやれ、気を落とさずにやれ」と声援したい小説であると思われた。」
菊池寛	49歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

秋山正香

34歳×各選考委員　

『般若』

短篇集3篇 343枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	46歳	全	△	5	「面白くはあった。」「「礼」など、相当に感心はした。（引用者注：田畑修一郎、渋川驍と共に）いずれも候補作品たるに相応しく、充分一人前の作家として、登録に値するから、各雑誌編輯者には、右の作家たちにも、喜んで舞台を与えられたいと願いたい。」
佐藤春夫	46歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
小島政二郎	44歳	全	・	1
佐佐木茂索	43歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	■	4	「仮りに芥川賞級などというものがあるとすると、（引用者中略・注：丸山義二、一瀬直行、秋山正香の小説は）その級に及んでいるようでもあり、今一と息の所のようでもあり、という程度であろうか。」
菊池寛	49歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

橋本寿子

（不明）×各選考委員　

「光陰」

中篇 160枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	46歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
小島政二郎	44歳	全	・	1
佐佐木茂索	43歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	―	0
菊池寛	49歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

大原富枝

25歳×各選考委員　

「祝出征」

短篇 57枚