<img src="../images/title_senpyo.gif" alt="芥川賞選評の概要" width="276" height="297">

選評なし

候補作

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

評価

行数

中里恒子　「乗合馬車」等

150枚

29歳

△

○

◎

―

◎

□

◎

○

北原武夫　「妻」

85枚

31歳

■

・

■

―

△

■

吉川江子　「お帳場日誌」

43枚

27歳

■

□

■

―

○

△

□

■

△

外村繁　『草筏』

442枚

36歳

△

・

◎

―

◎

―

△

―

上田広　「黄塵」等

518枚

33歳

―

・

―

小山いと子　「４Ａ格」

121枚

37歳

―

●

―

一瀬直行　「兄のことば」

66枚

34歳

―

・

―

壺井栄　「大根の葉」

77枚

39歳

―

・

―

中村地平　「離れ島にて」

49枚

31歳

―

・

―

今官一　「旅雁の章」

179枚

29歳

―

・

―

木山捷平　「現実図絵」

109枚

34歳

―

・

―

古木鉄太郎　『子の死と別れた妻』

167枚

39歳

―

・

―

上林暁　『田園通信』

173枚

36歳

―

・

―

池田小菊　「奈良」

77枚

46歳

―

・

―

山田清三郎　「囚敵」

64枚

42歳

―

・

―

本庄陸男　「石狩川」

244枚

33歳

―

・

―

年齢/枚数の説明

見方・注意点

このページの選評出典：『芥川賞全集　第二巻』昭和57年/1982年3月・文藝春秋刊　再録（初出：『文藝春秋』昭和14年/1939年3月号）
1行当たりの文字数：26字

このページの「話の屑籠」出典：昭和35年/1960年4月・文藝春秋新社刊『菊池寛文學全集　第七巻』（初出：『文藝春秋』昭和14年/1939年3月号）

選考委員

久米正雄

47歳×各候補作　

総行数37　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	△	15	「閨秀画家の水彩を見るように、鮮かで綺麗だ。綺麗ごと過ぎるかも知れない。苺入りのクリーム菓子のようでもある。只フレッシュな事は間違いない。」「ここで中里さんが受賞したに就ては、私は同じ鎌倉仲間の川上喜久子さんに、あの時やらなかったばかりに、やる機会を失しそうな後悔が、此人に恵まれたような気がしてならない。」
北原武夫	31歳	全	■	9	「（引用者注：候補作の）中でも、作品として纏ってもあり、若干の深刻味を備えている」「が、此の作品は、如何にも文壇小説的だ。」「文壇的と云うのは、少しく厭な表現で、曖昧でもあるが、文芸人的身辺小説過ぎると共に、何か芸術人的な汚れを感ずる。」「鋭どいが小人めく。そして此作家は、黙っていても、文壇の中堅作家にはなるだろう。」
吉川江子	27歳	全	■	3	「よくは描けている風俗画だが、どうも此の一篇だけでは、安心し兼ねるものが、あるようだ。もう鳥渡待っても遅くはなかろう。」
外村繁	36歳	全	△	3	「いい立派な労作だ。が、ここでは新作家の「短篇」を本位とする事を、申合せた直後だけに、僕は絶大の敬意を払う事を付け加えて置く。」
上田広	33歳	全	―	0
小山いと子	37歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
壺井栄	39歳	全	―	0
中村地平	31歳	全	―	0
今官一	29歳	全	―	0
木山捷平	34歳	全	―	0
古木鉄太郎	39歳	全	―	0
上林暁	36歳	全	―	0
池田小菊	46歳	全	―	0
山田清三郎	42歳	全	―	0
本庄陸男	33歳	全	―	0
					「時代の奔濤と、身辺の匆忙とに煩わされて、殆んど文壇的な小説の、一篇をも読まなかった私は、今回の銓衡に関しては、殆んど発言権が無いと云ってよかった。只、与えられた候補の四篇を、一瞥したに止まった。」

他の選考委員

選考委員

小島政二郎

45歳×各候補作　

総行数24　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	△	11	「強いて入選するとすれば、中里恒子さんか吉川江子さんか、どっちかだと思った。」「文章も繊細だし色彩感もあるし、柔軟性にも富んでいるし、僕の好きな描写型だし、唯どうも僕には底が浅い気がした。」「中里さんが授賞されることに不服はなかった。」
北原武夫	31歳	全	・	1
吉川江子	27歳	全	□	13	「強いて入選するとすれば、中里恒子さんか吉川江子さんか、どっちかだと思った。」「こんな混雑した生活を、よくこれだけに混乱なしに描き分け得たと云う点で感心した。」「どうしても授賞しなければならないとすれば、吉川さんに与えたいと思った。」「どうか途中で筆を折らずに、僕の期待通りに立派な作家になって下さい。」
外村繁	36歳	全	・	2
上田広	33歳	全	―	0
小山いと子	37歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
壺井栄	39歳	全	―	0
中村地平	31歳	全	―	0
今官一	29歳	全	―	0
木山捷平	34歳	全	―	0
古木鉄太郎	39歳	全	―	0
上林暁	36歳	全	―	0
池田小菊	46歳	全	―	0
山田清三郎	42歳	全	―	0
本庄陸男	33歳	全	―	0
					「今回は授賞なしの心持で出席した。実際、甲乙の附けようのない作品ばかりだった。」

他の選考委員

選考委員

川端康成

39歳×各候補作　

総行数28　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	○	9	「中里氏を推すことに賛成である。」「少し弱いけれども、素質のいいところを認めたい。またこういう刺戟の強くない、賞向きでない作家、初めての女流作家の受賞は、喜ぶに足るだろうか。」「長い間この材料を扱って来た作品は、柔かく細かい花である。」
北原武夫	31歳	全	■	9	「もっとも、作家の一生に幾度もないという貴重な材料である。それにしては、少し取り扱いが勿体ない気もする。」「見るべきものを見、とらえるべきものをとらえ、相当しっかりした手腕であるけれども、特にこの人という面白味に乏しい。」
吉川江子	27歳	全	■	7	「もっとも、作家の一生に幾度もないという貴重な材料である。それにしては、少し取り扱いが勿体ない気もする。」「作家として認めるところがあるけれども、この作品としては、未成物らしいところがあって、根の動きに物足りないものがある。」
外村繁	36歳	全	◎	12	「私は推したかった。今回はこれ以外にないと思った。ところが、芥川賞より先きに、池谷賞に決定してしまった。」「池谷賞の委員としては、この作品の選ばれたことを喜ぶが、芥川賞の委員としては、この作品の選べぬことを惜しむという結果になった。」
上田広	33歳	全	―	0
小山いと子	37歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
壺井栄	39歳	全	―	0
中村地平	31歳	全	―	0
今官一	29歳	全	―	0
木山捷平	34歳	全	―	0
古木鉄太郎	39歳	全	―	0
上林暁	36歳	全	―	0
池田小菊	46歳	全	―	0
山田清三郎	42歳	全	―	0
本庄陸男	33歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

横光利一

40歳×各候補作　

総行数11　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	◎	5	「日本人の妻となっている外国婦人の憂愁、希望、諦念などよく出ている。味わいも細い。」「後世この作者の一聯の外人物は、更科日記のように幾度も繰り返し人々から読まれるであろうと思う。」
北原武夫	31歳	全	―	0
吉川江子	27歳	全	■	6	「飾り気のない筆触で、自分の頭をよく使用している美しさがある。」「しかし、いま少し呼吸を大きく、人物を動かし続けてゆくに必要なエネルギーの不足しているのが惜しまれる。」
外村繁	36歳	全	―	0
上田広	33歳	全	―	0
小山いと子	37歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
壺井栄	39歳	全	―	0
中村地平	31歳	全	―	0
今官一	29歳	全	―	0
木山捷平	34歳	全	―	0
古木鉄太郎	39歳	全	―	0
上林暁	36歳	全	―	0
池田小菊	46歳	全	―	0
山田清三郎	42歳	全	―	0
本庄陸男	33歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

佐佐木茂索

44歳×各候補作　

総行数3　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	―	0
北原武夫	31歳	全	―	0
吉川江子	27歳	全	―	0
外村繁	36歳	全	◎	3	「候補作品十数篇を読んで、（引用者中略）「草筏」に心を決めた。ところが第一回委員会の時「草筏」が池谷賞に決定した事を知った。運不運はここで分れる。」
上田広	33歳	全	―	0
小山いと子	37歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
壺井栄	39歳	全	―	0
中村地平	31歳	全	―	0
今官一	29歳	全	―	0
木山捷平	34歳	全	―	0
古木鉄太郎	39歳	全	―	0
上林暁	36歳	全	―	0
池田小菊	46歳	全	―	0
山田清三郎	42歳	全	―	0
本庄陸男	33歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

室生犀星

49歳×各候補作　

総行数20　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	◎	14	「大変にうつくしい小説だと思った。小説というものに野心を持たず、にごった気持やすたれたところも見えず、美しい一方であった。」「（引用者注：第二回の委員会で）私は「乗合場所」をすいせんした。」「未熟の美しさを認めるとすればお帳場（引用者注：「お帳場日誌」）もいいし、中里氏もいいわけである。」
北原武夫	31歳	全	―	0
吉川江子	27歳	全	○	16	「第一回の委員会で（引用者中略）すいせんした。」「ごちゃごちゃした書き方ではあるがこれらを整理できる将来がこの作者に持たれて行ったら、新人ではあり、うみたて卵のようでいいと思った。」「未熟の美しさを認めるとすればお帳場（引用者注：「お帳場日誌」）もいいし、中里氏もいいわけである。」
外村繁	36歳	全	―	0
上田広	33歳	全	―	0
小山いと子	37歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
壺井栄	39歳	全	―	0
中村地平	31歳	全	―	0
今官一	29歳	全	―	0
木山捷平	34歳	全	―	0
古木鉄太郎	39歳	全	―	0
上林暁	36歳	全	―	0
池田小菊	46歳	全	―	0
山田清三郎	42歳	全	―	0
本庄陸男	33歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

佐藤春夫

46歳×各候補作　

総行数28　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	□	24	「二作のうちでは「日光室」より後でよんだ「乗合馬車」の方が幾分はいいであろう。しかしそれにしても四十篇の推薦が二十篇になり、更に三四篇の予選に入るほど傑出したものかどうか不敏にして、実は自分は多少の疑念を持っている。」「素質のいい素人の水彩画が何かのように明るい新鮮な趣の好もしさはある。けれどもあまり弱くたどたどしくさえある。」「一家を成すのはまだ少々歳月を要するのではなかろうか。相当年期を入れているとすると稍心細い気もしてくる。」
北原武夫	31歳	全	△	4	「荒っぽいようでいて性格や心理をよく捉えて存外後味のこまかな、大まかなために象徴的な趣を持った作品」
吉川江子	27歳	全	△	5	「ゲテモノながらそれらしい美しさもあり目の確かな人間を貪り見入っている滋味の多い作風と平板な世界を相当に立体化している手腕にも服する」
外村繁	36歳	全	△	2	「池谷賞だという理由で除外して見るとしても」
上田広	33歳	全	―	0
小山いと子	37歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
壺井栄	39歳	全	―	0
中村地平	31歳	全	―	0
今官一	29歳	全	―	0
木山捷平	34歳	全	―	0
古木鉄太郎	39歳	全	―	0
上林暁	36歳	全	―	0
池田小菊	46歳	全	―	0
山田清三郎	42歳	全	―	0
本庄陸男	33歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

瀧井孝作

44歳×各候補作　

総行数36　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	◎	12	「国際結婚の人々の心持が描かれていて、これはこの作者の独特の題材らしかった。」「幾分弱いと云う非難もあったが、それは女らしい美しさにもなっているから、欠点とは云えないと思った。女性らしい繊細な心持が美しく見事に描かれて、人々の心持でも、風景でもその明るみも影もなかなかうまく、上品な絵のような所もあった。」
北原武夫	31歳	全	■	5	「達者な筆で、若い夫婦生活の心理などいろいろ書いてあったが、手腕のある点はいいと思ったが、ぼくはこの作品の味いは、そう好きとは云いきれなかった。」
吉川江子	27歳	全	□	9	「力作だと思った。」「この人のは、これ一つよんだだけで、この作品はいいが、尚一二篇念のため読んでみたいと思った。その上でならば躊躇なく入選に賛成する所だがと思った。」
外村繁	36歳	全	△	8	「第一回の時に候補者になったものだが、こんどその長篇が完結して、作品も立派であり、そのわりにこれまでむくいられる所がすくないようで、今回再び候補者にあげられたが、」「池谷賞と二重に芥川賞という手もあるまいと云われたりして、しいて入選はしないことになった。」
上田広	33歳	全	―	0
小山いと子	37歳	全	―	0
一瀬直行	34歳	全	―	0
壺井栄	39歳	全	―	0
中村地平	31歳	全	―	0
今官一	29歳	全	―	0
木山捷平	34歳	全	―	0
古木鉄太郎	39歳	全	―	0
上林暁	36歳	全	―	0
池田小菊	46歳	全	―	0
山田清三郎	42歳	全	―	0
本庄陸男	33歳	全	―	0

他の選考委員

選考委員

宇野浩二

47歳×各候補作　

総行数112　（1行=26字）

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	○	25	「『乗合馬車』は、少しごたごたしたところが難ではあるが、作品として決して悪いものではないし、（否、なかなか好い作品であるし、）この一二年来、どちらかというと暗い小説がつづいて芥川賞になっているから、作者が女であるからなどという意味でなく、明るい小説であるということだけでも、まず芥川賞に値する作品であろう。」
北原武夫	31歳	全	■	21	「三篇（引用者注：「乗合馬車」「妻」「お帳場日誌」）のうちで、最も達者な小説であるが、何か最も肝心なものが欠けている。あれだけの長さでその長さだけのものが書けていない。」「一口にいうと、この小説は、上手そうに見えて、上滑りしている。唯、私がこの作者に幾らか期待が持てるのは、相当の才能のある人らしいから、この小説よりもっと勝れた作品が、他にあるか、書けるかも知れないという事である。」
吉川江子	27歳	全	■	13	「無駄のない、行きとどいた、上手な小説である。その代り、少しこせこせしていて、仮りにこの作者が若い人（人としても作家としても）とすると、ませた（原文傍点）小説である。」「厳しい見方をすると、私はこの小説はこの作家の「まぐれあたり」の作品ではないかという気さえする。」「私にはませたところとどうも少し古いところが気になるのである。」
外村繁	36歳	全	△	10	「（引用者注：第一回銓衡委員会の時）室生を除く五人（佐佐木、瀧井、横光、川端、宇野）は、外村の『草筏』が最も勝れているのではないか、という意見であったが、いろいろの事情で、外村の小説も、候補作品の中から省かれた。このいろいろの事情は他の人が書くであろうから、その方に譲る。」
上田広	33歳	全	・	1
小山いと子	37歳	全	●	6	「既に或る一流の雑誌に二度も作品を発表しているという事と二三人の反対者があった事（？）で、（引用者注：第一回銓衡委員会の時）候補作品の中から省かれた。」
一瀬直行	34歳	全	・	1
壺井栄	39歳	全	・	1
中村地平	31歳	全	・	1
今官一	29歳	全	・	1
木山捷平	34歳	全	・	1
古木鉄太郎	39歳	全	・	1
上林暁	36歳	全	・	1
池田小菊	46歳	全	・	1
山田清三郎	42歳	全	・	1
本庄陸男	33歳	全	・	1
					「候補作品の中で『草筏』を除いた三篇はみな「未し」の感があるので八人の委員たちは非常に決断に苦しんだ。」

他の選考委員

選考委員

菊池寛

50歳×各候補作　

題（話の屑籠より）　

候補			評価	行数	評言
中里恒子	29歳	全	○		「題材が珍しいのと、少したどたどしいところもあるが、文章に気品と落ち着きがあり、死んで行く外国婦人が、弟子兼女中の菊代というあいのこに、自分の生命の後継者を見出すところなどに、作者の明るさも感じられるので、ある程度の不満もあったが、この人を推薦することにした。」
北原武夫	31歳	全	■		「なかなかよく書けているが、こういう体験的情痴の世界は、いちばん書きやすいので、授賞する気になれない。」
吉川江子	27歳	全	△		「周囲を描いている手腕に、非凡なところがあり、よっぽど、この人を選びたいとさえ思ったが、たった一作しか発表していないので、もう一つ二つ、作品を見てからでも遅くないと思った。」
外村繁	36歳	全	―
上田広	33歳	全	―
小山いと子	37歳	全	―
一瀬直行	34歳	全	―
壺井栄	39歳	全	―
中村地平	31歳	全	―
今官一	29歳	全	―
木山捷平	34歳	全	―
古木鉄太郎	39歳	全	―
上林暁	36歳	全	―
池田小菊	46歳	全	―
山田清三郎	42歳	全	―
本庄陸男	33歳	全	―

他の選考委員

受賞者・作品

中里恒子

29歳×各選考委員　

「乗合馬車」等

短篇2篇 150枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	△	15	「閨秀画家の水彩を見るように、鮮かで綺麗だ。綺麗ごと過ぎるかも知れない。苺入りのクリーム菓子のようでもある。只フレッシュな事は間違いない。」「ここで中里さんが受賞したに就ては、私は同じ鎌倉仲間の川上喜久子さんに、あの時やらなかったばかりに、やる機会を失しそうな後悔が、此人に恵まれたような気がしてならない。」
小島政二郎	45歳	全	△	11	「強いて入選するとすれば、中里恒子さんか吉川江子さんか、どっちかだと思った。」「文章も繊細だし色彩感もあるし、柔軟性にも富んでいるし、僕の好きな描写型だし、唯どうも僕には底が浅い気がした。」「中里さんが授賞されることに不服はなかった。」
川端康成	39歳	全	○	9	「中里氏を推すことに賛成である。」「少し弱いけれども、素質のいいところを認めたい。またこういう刺戟の強くない、賞向きでない作家、初めての女流作家の受賞は、喜ぶに足るだろうか。」「長い間この材料を扱って来た作品は、柔かく細かい花である。」
横光利一	40歳	全	◎	5	「日本人の妻となっている外国婦人の憂愁、希望、諦念などよく出ている。味わいも細い。」「後世この作者の一聯の外人物は、更科日記のように幾度も繰り返し人々から読まれるであろうと思う。」
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	◎	14	「大変にうつくしい小説だと思った。小説というものに野心を持たず、にごった気持やすたれたところも見えず、美しい一方であった。」「（引用者注：第二回の委員会で）私は「乗合場所」をすいせんした。」「未熟の美しさを認めるとすればお帳場（引用者注：「お帳場日誌」）もいいし、中里氏もいいわけである。」
佐藤春夫	46歳	全	□	24	「二作のうちでは「日光室」より後でよんだ「乗合馬車」の方が幾分はいいであろう。しかしそれにしても四十篇の推薦が二十篇になり、更に三四篇の予選に入るほど傑出したものかどうか不敏にして、実は自分は多少の疑念を持っている。」「素質のいい素人の水彩画が何かのように明るい新鮮な趣の好もしさはある。けれどもあまり弱くたどたどしくさえある。」「一家を成すのはまだ少々歳月を要するのではなかろうか。相当年期を入れているとすると稍心細い気もしてくる。」
瀧井孝作	44歳	全	◎	12	「国際結婚の人々の心持が描かれていて、これはこの作者の独特の題材らしかった。」「幾分弱いと云う非難もあったが、それは女らしい美しさにもなっているから、欠点とは云えないと思った。女性らしい繊細な心持が美しく見事に描かれて、人々の心持でも、風景でもその明るみも影もなかなかうまく、上品な絵のような所もあった。」
宇野浩二	47歳	全	○	25	「『乗合馬車』は、少しごたごたしたところが難ではあるが、作品として決して悪いものではないし、（否、なかなか好い作品であるし、）この一二年来、どちらかというと暗い小説がつづいて芥川賞になっているから、作者が女であるからなどという意味でなく、明るい小説であるということだけでも、まず芥川賞に値する作品であろう。」
菊池寛	50歳	全	○		「題材が珍しいのと、少したどたどしいところもあるが、文章に気品と落ち着きがあり、死んで行く外国婦人が、弟子兼女中の菊代というあいのこに、自分の生命の後継者を見出すところなどに、作者の明るさも感じられるので、ある程度の不満もあったが、この人を推薦することにした。」

他の候補作

候補者・作品

北原武夫

31歳×各選考委員　

「妻」

短篇 85枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	■	9	「（引用者注：候補作の）中でも、作品として纏ってもあり、若干の深刻味を備えている」「が、此の作品は、如何にも文壇小説的だ。」「文壇的と云うのは、少しく厭な表現で、曖昧でもあるが、文芸人的身辺小説過ぎると共に、何か芸術人的な汚れを感ずる。」「鋭どいが小人めく。そして此作家は、黙っていても、文壇の中堅作家にはなるだろう。」
小島政二郎	45歳	全	・	1
川端康成	39歳	全	■	9	「もっとも、作家の一生に幾度もないという貴重な材料である。それにしては、少し取り扱いが勿体ない気もする。」「見るべきものを見、とらえるべきものをとらえ、相当しっかりした手腕であるけれども、特にこの人という面白味に乏しい。」
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	△	4	「荒っぽいようでいて性格や心理をよく捉えて存外後味のこまかな、大まかなために象徴的な趣を持った作品」
瀧井孝作	44歳	全	■	5	「達者な筆で、若い夫婦生活の心理などいろいろ書いてあったが、手腕のある点はいいと思ったが、ぼくはこの作品の味いは、そう好きとは云いきれなかった。」
宇野浩二	47歳	全	■	21	「三篇（引用者注：「乗合馬車」「妻」「お帳場日誌」）のうちで、最も達者な小説であるが、何か最も肝心なものが欠けている。あれだけの長さでその長さだけのものが書けていない。」「一口にいうと、この小説は、上手そうに見えて、上滑りしている。唯、私がこの作者に幾らか期待が持てるのは、相当の才能のある人らしいから、この小説よりもっと勝れた作品が、他にあるか、書けるかも知れないという事である。」
菊池寛	50歳	全	■		「なかなかよく書けているが、こういう体験的情痴の世界は、いちばん書きやすいので、授賞する気になれない。」

他の候補作

候補者・作品

吉川江子

27歳×各選考委員　

「お帳場日誌」

短篇 43枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	■	3	「よくは描けている風俗画だが、どうも此の一篇だけでは、安心し兼ねるものが、あるようだ。もう鳥渡待っても遅くはなかろう。」
小島政二郎	45歳	全	□	13	「強いて入選するとすれば、中里恒子さんか吉川江子さんか、どっちかだと思った。」「こんな混雑した生活を、よくこれだけに混乱なしに描き分け得たと云う点で感心した。」「どうしても授賞しなければならないとすれば、吉川さんに与えたいと思った。」「どうか途中で筆を折らずに、僕の期待通りに立派な作家になって下さい。」
川端康成	39歳	全	■	7	「もっとも、作家の一生に幾度もないという貴重な材料である。それにしては、少し取り扱いが勿体ない気もする。」「作家として認めるところがあるけれども、この作品としては、未成物らしいところがあって、根の動きに物足りないものがある。」
横光利一	40歳	全	■	6	「飾り気のない筆触で、自分の頭をよく使用している美しさがある。」「しかし、いま少し呼吸を大きく、人物を動かし続けてゆくに必要なエネルギーの不足しているのが惜しまれる。」
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	○	16	「第一回の委員会で（引用者中略）すいせんした。」「ごちゃごちゃした書き方ではあるがこれらを整理できる将来がこの作者に持たれて行ったら、新人ではあり、うみたて卵のようでいいと思った。」「未熟の美しさを認めるとすればお帳場（引用者注：「お帳場日誌」）もいいし、中里氏もいいわけである。」
佐藤春夫	46歳	全	△	5	「ゲテモノながらそれらしい美しさもあり目の確かな人間を貪り見入っている滋味の多い作風と平板な世界を相当に立体化している手腕にも服する」
瀧井孝作	44歳	全	□	9	「力作だと思った。」「この人のは、これ一つよんだだけで、この作品はいいが、尚一二篇念のため読んでみたいと思った。その上でならば躊躇なく入選に賛成する所だがと思った。」
宇野浩二	47歳	全	■	13	「無駄のない、行きとどいた、上手な小説である。その代り、少しこせこせしていて、仮りにこの作者が若い人（人としても作家としても）とすると、ませた（原文傍点）小説である。」「厳しい見方をすると、私はこの小説はこの作家の「まぐれあたり」の作品ではないかという気さえする。」「私にはませたところとどうも少し古いところが気になるのである。」
菊池寛	50歳	全	△		「周囲を描いている手腕に、非凡なところがあり、よっぽど、この人を選びたいとさえ思ったが、たった一作しか発表していないので、もう一つ二つ、作品を見てからでも遅くないと思った。」

他の候補作

候補者・作品

外村繁

36歳×各選考委員　

『草筏』

長篇 442枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	△	3	「いい立派な労作だ。が、ここでは新作家の「短篇」を本位とする事を、申合せた直後だけに、僕は絶大の敬意を払う事を付け加えて置く。」
小島政二郎	45歳	全	・	2
川端康成	39歳	全	◎	12	「私は推したかった。今回はこれ以外にないと思った。ところが、芥川賞より先きに、池谷賞に決定してしまった。」「池谷賞の委員としては、この作品の選ばれたことを喜ぶが、芥川賞の委員としては、この作品の選べぬことを惜しむという結果になった。」
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	◎	3	「候補作品十数篇を読んで、（引用者中略）「草筏」に心を決めた。ところが第一回委員会の時「草筏」が池谷賞に決定した事を知った。運不運はここで分れる。」
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	△	2	「池谷賞だという理由で除外して見るとしても」
瀧井孝作	44歳	全	△	8	「第一回の時に候補者になったものだが、こんどその長篇が完結して、作品も立派であり、そのわりにこれまでむくいられる所がすくないようで、今回再び候補者にあげられたが、」「池谷賞と二重に芥川賞という手もあるまいと云われたりして、しいて入選はしないことになった。」
宇野浩二	47歳	全	△	10	「（引用者注：第一回銓衡委員会の時）室生を除く五人（佐佐木、瀧井、横光、川端、宇野）は、外村の『草筏』が最も勝れているのではないか、という意見であったが、いろいろの事情で、外村の小説も、候補作品の中から省かれた。このいろいろの事情は他の人が書くであろうから、その方に譲る。」
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

上田広

33歳×各選考委員　

「黄塵」等

長篇等2篇 518枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

小山いと子

37歳×各選考委員　

「４Ａ格」

短篇 121枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	●	6	「既に或る一流の雑誌に二度も作品を発表しているという事と二三人の反対者があった事（？）で、（引用者注：第一回銓衡委員会の時）候補作品の中から省かれた。」
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

一瀬直行

34歳×各選考委員　

「兄のことば」

短篇 66枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

壺井栄

39歳×各選考委員　

「大根の葉」

短篇 77枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

中村地平

31歳×各選考委員　

「離れ島にて」

短篇 49枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

今官一

29歳×各選考委員　

「旅雁の章」

中篇 179枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

木山捷平

34歳×各選考委員　

「現実図絵」

短篇 109枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

古木鉄太郎

39歳×各選考委員　

『子の死と別れた妻』

短篇集3篇 167枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

上林暁

36歳×各選考委員　

『田園通信』

短篇集5篇 173枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

池田小菊

46歳×各選考委員　

「奈良」

短篇 77枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

山田清三郎

42歳×各選考委員　

「囚敵」

短篇 64枚

選考委員			評価	行数	評言
久米正雄	47歳	全	―	0
小島政二郎	45歳	全	―	0
川端康成	39歳	全	―	0
横光利一	40歳	全	―	0
佐佐木茂索	44歳	全	―	0
室生犀星	49歳	全	―	0
佐藤春夫	46歳	全	―	0
瀧井孝作	44歳	全	―	0
宇野浩二	47歳	全	・	1
菊池寛	50歳	全	―

他の候補作

候補者・作品

本庄陸男

33歳×各選考委員　

「石狩川」

長篇（一部） 244枚