選評の概要
97. 98. 99. 100.101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113. 114. 115.
116. 117. 118. 119. 120.
121. 122. 123. 124. 125.
126. 127. 128. 129. 130.
131. 132.
このページの情報は「芥川賞のすべて・のようなもの」内の「受賞作家の群像 田辺聖子」と同じものです。 | ||
生没年月日【注】 | 昭和3年/1928年3月27日~令和1年/2019年6月6日 | |
在任期間 | 第97回~第132回(通算18年・36回) | |
在任年齢 | 59歳3ヶ月~76歳9ヶ月 | |
経歴 | 大阪府大阪市生まれ。樟蔭女子専門学校国文科卒。 大阪の問屋に勤務。昭和26年/1951年より同人誌『文藝首都』に参加、 昭和30年/1955年から2年間、大阪文学学校に通う。ラジオドラマの脚本を手がけるかたわら、昭和35年/1960年に同人誌『航路』創刊に参加し、昭和39年/1964年「感傷旅行(センチメンタル・ジャーニー)」で芥川賞受賞。 「女の日時計」「夕ごはんたべた?」「私的生活」「ひねくれ一茶」など著作は数多く、 伝記小説として「千すじの黒髪――わが愛の与謝野晶子」「花衣ぬぐやまつわる――わが愛の杉田久女」「道頓堀の雨に別れて以来なり」(岸本水府伝)などを書き、また古典の造詣も深い。 ちなみに、エッセイにたびたび登場する、カモカのおっちゃんこと、パートナーの川野純夫とは、純夫の妻で直木賞候補作家でもあった川野彰子が急逝した折り、思い出の文を書いたことが縁で知り合った。 |
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受賞歴・候補歴 |
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サブサイトリンク | ||
個人全集 | 『田辺聖子長篇全集』全18巻(文藝春秋) 『田辺聖子全集』全24巻・別巻(平成16年/2004年5月~平成18年/2006年8月・集英社刊) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 田辺聖子 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
55歳 |
◎ | 23 | 「意も情もよくそなわった快作である。」「戦国時代の瀬戸内海水軍については私は昏いのだが、読み終えて私はたしかに潮の匂いをかぎ、海鳴りの音を聞き、浪のしぶきが顔にあたるのを感じた。」 | |
28歳 |
◎ | 49 | 「山田氏の文学の最もすぐれた部分を示しているように思われる。物語の語り手の資質を顕示したのだ。」「やっとサガンを抜く女流作家が日本にも出たといったら過褒だろうか。とにかく私は山田氏をまず推した。」 | |
高橋義夫 | 41歳 |
○ | 12 | 「私には感銘があった。」「骨格ただしく推理的興味も添うて、私はオトナの鑑賞に堪える好読物として推してもいい気になっていた。」「(引用者注:「海狼伝」に比べると)まことに通人向きの渋好み、といわねばならぬ。私は涙を呑んで次点に置いたのであった。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年10月号 |
選考委員 田辺聖子 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
三浦浩 | 57歳 |
◎ | 31 | 「私としては「長蛇を逸した」という気になった作品」「私はとてもよくできた娯楽小説だと思う。」「ただこれはごくデリケートな味わいの小説なので、いわば酒盗とかこのわた(原文傍点)とか、ホヤ(原文傍点)とかいったような、好きな人にはたまらなく好ましいが、受けつけない人にははな(原文傍点)からダメ、という所があるかもしれない。」「受賞作に比べて絶対に遜色なかったと思う。」 |
54歳 |
○ | 23 | 「すでに一家を成していられる方ではあり、今さらという気はあるが、これは氏の実力を改めて認識させるに充分であった。その上、作者の抑制した熱気が伝わってくる。」「男の人生も大変なんですね、なんていう、当然のことを、当然のように思わせる作品、――というのは、これはとても難しいんだけど、成功していたなあ。」 | |
赤瀬川隼 | 56歳 |
○ | 24 | 「ことに私は「梶原一行の犯罪」に魅力を感じた。野球に賭ける男の夢、などというのは、女の認識の埒外であるのに、私にはとても面白くよくわかった。それでいて、ほかの作品に目移りする、というのは、これはどういうことであろうか、破綻のなさが却って力を弱めるのであろうか、いや、小説というのは、(引用者中略)ほかの小説と並べて比較したとき、時々刻々に味が変り、色を変ずるところがある。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年4月号 |
選考委員 田辺聖子 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
41歳 |
◎ | 24 | 「一級の娯楽作品であると共に、文学的にすぐれたもの、という感じを、私は受けた。現代のメルヘンではあるが、構成も調査もよくゆきとどき、読者を眩惑させるたくましさをもつ。」「揉めに揉めたが、この作品、賞の権威をそこなわないと私は信ずる。」 | |
阿久悠 | 51歳 |
◎ | 21 | 「私は面白く読み、入選圏内だと思ったが、意外に票が集まらず残念。」「道化という、最も現代的な存在の本質を衝いていて、饒舌体の小説なのに、無明のニヒルがただよう。現代の断面が鋭く切取られていて、私は共感した」 |
48歳 |
○ | 13 | 「うまい小説だというばかりでなく、「端島の女」にはほとんど感動さえした。〈女の一生〉物語の向うに現代日本の宿命的な転変が透けて見える。」「私は二作受賞、ということに不満ではない。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年10月号 |
選考委員 田辺聖子 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
35歳 |
◎ | 10 | 「均斉のとれた、気韻のある佳篇、時代と人間の転変があざやかに描かれ、その合間に、主人公・清親の描く絵の冴えた彩色が明滅する。文章もまことによく消化れ、神経がゆきとどき、それでいてのびやかである。」 | |
古川薫 | 63歳 |
◎ | 31 | 「杉本氏の次に推した。南の島のやるせない気分が全篇に充溢し、私は女だけれども、女でしくじった男の、呆然自失のあいまいな幸福感がわかる気がした。」「一票差で受賞を逸したのは惜しかったが、これはいい小説でしたよ、古川さん。」 |
笹倉明 | 40歳 |
○ | 10 | 「女がよく書けており、推理小説の域をこえて人間の追求という文学性を獲得している。私はこの小説を日本では未開拓(すでに二三の秀作も見られるが)の法廷小説・裁判小説の佳品として推したのだが、やや晦渋とうけとられて票を集めなかったのは惜しい。」 |
39歳 |
■ | 27 | 「むつかしいところである。小説としてはむつかしくないが、恐らく女性読者の反撥を買うんじゃないか、という所がある。しかし作者はあるいはそういう点をふまえた上で書かれたのかもしれない。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年3月号 |
選考委員 田辺聖子 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
40歳 |
○ | 17 | 「氏は遂に現代小説の新しい一つの活路、新鮮な切り口を追求し、それに成功された、という気がする。裁判小説というか、法廷に於ける虚々実々の応酬を重要なモチーフとして事件や人生を切り取る、その手口がいかにもあざやかで興趣横溢、しかも読後、さわやかだが、ずしんとくる何かがある。」「佳品であった。」 | |
41歳 |
○ | 14 | 「何とも楽しめた小説。やわらかな文章であるが、書くべきは書き、抑えるべきは抑えている達意の文章である。主人公の少年がとにかく可愛いい。ふんわりした情趣があとへ残って、読んだ人を幸わせにしてくれる、いうことなしの小説。」 | |
古川薫 | 64歳 |
○ | 18 | 「前回の「正午位置」よりまとまっていてよいと思った。ことに冒頭、ハンブルクでの主人公の追いつめられた気持、犯罪のにおいのする不安感がよく描かれており、興をそそる導入部である。」「現代小説の書き手としても第一級ではないか、作品の底に流れる閑雅にして古典的な、悠々たるロマンチシズムを私は楽しんだ。」 |
高橋義夫 | 43歳 |
○ | 18 | 「都会人の目線からムラの文化構造を見据え、日本民族の伝統の核のようなものをさぐりあてる、その例がバリエーションに富み、群像の面白さも堪能させられた。」「これは物語性を問う小説ではないように思われる。」「小説はどのように書いてもいいのだと問題提起している作品である。」 |
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年9月号 |
選考委員 田辺聖子 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
43歳 |
◎ | 43 | 「私はこの人の処女作「そして夜は甦る」からファンになった。」「依然好調で、皮肉などんでん返しが用意されており、ミステリーの種は尽きぬというたのしい感慨を抱かせられた。」「原氏にはチャンドラーの影響は見られるけれども、それはそれとして、人物造型と文章のたしかなこと、まことに才ゆたかで信頼できる。」 | |
68歳 |
○ | 16 | 「絢爛たる文章と素材のわりに、ヒロインの印象がうすく、どこかもどかしいが、これは読み手が女だからだろうか。小伝の「いい女」ぶりが、もひとつよく分らない。」「ただ、凝りぬいた文体と口吻に、昨今の安易なつくりの小説にない、作者の情熱・執念が感じられ、私はそれを珍重して、この作にも一票を献ずることにした。」 | |
清水義範 | 42歳 |
○ | 31 | 「半ば以後でちょっとだれるが、総体にとんとんと快調のスピード、眠狂四郎のパロディなどふき出してしまう。」「私は方言が好きである上、縦横無尽のギャグにしたたか笑わされたので、ナンセンス文学に敬意を表して一票を献じたが、(引用者中略)期待したほど票が集まらず残念であった。」 |
「かねて直木賞はSFやミステリーを射程に入れないという噂があり、私なども残念に思っていたが、社会と文学の変貌に応じて、柔軟に対応すべきである。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成2年/1990年3月号 |
選考委員 田辺聖子 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
57歳 |
○ | 26 | 「悠々たる職人芸。」「心と手に、いい意味の遊びがある。短篇集のよさ、たのしさを満喫できた。」「読後、鼻腔の奥に妖異といっていいほどの絢爛たる薫りをかいだ。この手の「大人のよみもの」を待望する。」 | |
高橋義夫 | 44歳 |
○ | 34 | 「導入部から面白く、私には一気に読める小説であった。文章が過不足なく適切で、ほどよき湿度を保って気持よかった。」「ただもう少しマリアの像がはっきりしていたら、と惜しい。」「しかしふしぎな、心にのこる小説だった。ミステリー、冒険小説、そのどれにもあてはまらない広がりをもっている。」 |
選評出典:『オール讀物』平成2年/1990年9月号 |
選考委員 田辺聖子 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
65歳 |
◎ | 14 | 「抑制の利いたそっけないほどの文体が、かえって波乱に満ちた型やぶりの芸術家の生涯を描き出すのに功あった。」「作者の目は冷静だが、暖い。志高き小説と思った。ほとんど満票に近かった。」 | |
宮城谷昌光 | 45歳 |
◎ | 18 | 「私はこの作品も推したのだが、(引用者注:「漂泊者のアリア」との)二作受賞とならなかった。」「不思議な小説だが、イメージが鮮烈で、人間がいきいきしていて、上下二冊だが、巻を措く能わずという面白い作品である。」「意欲的な新人が彗星の如く現れたと大いに楽しく思ったのだが……。期待したい大型新人である。」 |
出久根達郎 | 46歳 |
○ | 16 | 「面白い素材を、上手な話術で、しかも人生の蓄積深い(ということは、人生に一家言ある、ということだ)オトナが書いているのだから、大人が読んで面白からぬはずはない、……というような小説。しかしこの作品のよさも危うさも、一にかかって、そこのところに在る。」「しかしまあ、私は大いに楽しまされた。」 |
「今回は粒選りの作品が揃ったという印象。」「今回の候補作品のどれをとっても受賞圏内にある佳作のように思われ、また「日本文学振興協会」の目くばりもよくゆきとどいているように感じた。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年3月号 |
選考委員 田辺聖子 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
46歳 |
◎ | 23 | 「この作ではまた夏姫という不思議な美女を拉してきて、その興味で読者をうまく乗せ、(あるいはいっぱいはめ)玄妙な小説宇宙を紡ぎ出された。」「作者の奥の手は、まだいくつもあるんじゃないかというような、悠々たる余裕である。」「芦原氏と甲乙つけがたい愛着を感じさせ、私は二本受賞を主張しないではいられなかった。」 | |
41歳 |
◎ | 33 | 「この作者の端倪すべからざるところはコトバに対する物凄い嗜好、舌なめずりするような偏執狂ぶりである。」「テーマや人物造型との呼吸の合い具合、輝くばかりの面白いエピソードの羅列、それらがコトバへの強い思いこみとめでたく合成して、美酒が醸しだされた。」「これ一作だけで、あとはお書きにならなくても、別にかまわないんじゃないか――と思わせるような小説もあるのだ、ということを発見した。」 | |
高橋義夫 | 45歳 |
○ | 11 | 「最後まで受賞作と争い、かなり烈しい接戦になった。私は書き出しの老練な巧さに感じ入った。あと味いい佳品であるが、文句のつけようのないところがすこし、困った。」 |
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年9月号 |
選考委員 田辺聖子 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
46歳 |
◎ | 15 | 「今回の受賞はほとんど満場一致といっていい。私は雪国の日常感覚の描写が作品の構成上、まことにめでたき効果をもたらしているのに感銘をうけた。」「人物描写も簡潔ながら彫りが深く魅力的だ。時代小説の醍醐味を堪能した。」 | |
中島らも | 39歳 |
◎ | 26 | 「私はこの毒性の強い才気に生理的快感をおぼえ、ぜひこういう作品にも受賞してもらいたいと思ったが、票を集めるに至らなかった。」「作品の方が賞をえらぶ躰のものであろう。されば賞を貰えないのがこの手の作品の栄光という場合もある。」 |
44歳 |
○ | 12 | 「一話一話が精緻に作られている。(「冥い記憶」はちょっと作りすぎ、という感がなくもないが)しかし、「ねじれた記憶」のショック性というものは物凄い。これだけ怖い小説を作る作者の蓄積に感じ入った。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年3月号 |
選考委員 田辺聖子 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
42歳 |
○ | 25 | 「氏のご受賞に異存はない。」「「切子皿」の、父と子は簡潔で情があってよかった。「夕空晴れて」で、「冷泉牛乳」と子供野球の母親が泣きあうくだり、これは男性読者には受けるだろうが、女性読者は目のやり場に困ってしまう(感傷性過多のため)てい(原文傍点)のものである。」 | |
海老沢泰久 | 42歳 |
○ | 62 | 「大変面白く読んだ」「ただどうして、実名で出す必要があるのだろうと、(最後まで解けない技術的問題として)しこりが残った。」「読みすすむうち、主人公は順風満帆の成功者なのに読者はだんだん、物悲しくなってゆく。」「明るい貌をよそおいつつ、人間の不毛の空しさ、淋しさの砂利が歯にきしみ、ふしぎな味が舌にのこる、珍重すべき一書。」 |
中村彰彦 | 43歳 |
○ | 18 | 「力作だと思った。措辞に古風なところがあるが、それはそれでかえって一種の風格をもたらす。」「敵を討った男たちも、私闘と知って討ったのだ。それゆえ、異常な緊迫感があって、ごつごつした筆致もそれにふさわしかった。」 |
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年9月号 |
選考委員 田辺聖子 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
52歳 |
○ | 19 | 「特異な題材が魅力である。主人公はじめ登場人物が過不足なく描かれ、江戸のまちの匂いを著くもたらす。そっけないほど抑制の利いた筆致は、ことに女たちを描くとき効果をあげている。」 | |
37歳 |
○ | 35 | 「スピードと緊迫感にみち、それでいて、ちょっと甘いところのある味つけが口あたりいい。(引用者中略)大沢氏のお作にある品の良さが、かいなでの作品と一線を劃する。」「構成上やや破綻と思われる個所もあるが、ともかく脂の乗った作家の、みなぎる熱情と荒肝をひしぐ腕力に魅せられ、女の子の描きかたの趣味のよさにも共感。」 | |
内海隆一郎 | 56歳 |
○ | 16 | 「氏のお作品を拝見すると、まことにほっとする。そういう意味で現代にあらまほしい作品だ。ときどき文学的エスプリが日常の常識次元の波をかぶってしまいそうな危うさをちょっと感ずるが、「窓辺のトロフィー」はことにも佳篇であった。」 |
「今回は作品数も多く、しかも力作揃いであった。これは票が割れて揉めるかな、と思いながら臨んだが、ごく早い時点で『新宿鮫 無間人形』と『恵比寿屋喜兵衛手控え』がせりあって浮上した。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年3月号 |
選考委員 田辺聖子 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
45歳 |
○ | 15 | 「良質な材料の助走を得て一気にゴールへ入ったという感じの作品、読者の共感をよぶ。ただ私としては小説的技巧の点で、ある部分、無作為すぎるのが残念だった。」「しかしこんな形での会津発掘があるのかと快い衝撃と示唆を与えられた秀作。」 | |
44歳 |
○ | 27 | 「「帰郷」「夏の終りの風」はことにいい。しかしこの二作と、他の作品は微妙にかさなり、おのずと一つのハーモニイを作っているので、差別することはできない。簡潔で硬質な文体は、新しく冷たい清冽な文学的潮流を使嗾しているようである。」「現代の切り口はあざやかで犀利である。」 | |
東郷隆 | 42歳 |
○ | 11 | 「東郷氏の今までのお作の中では最も好調のお仕事という印象を受けた。文章・会話、細部に至るまで凝りに凝って時代小説を読む楽しみを満喫できた。ことに「熊谷往生」がいい。」「この作品は受賞作と同じレベルと感じた。」 |
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年9月号 |
選考委員 田辺聖子 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
小嵐九八郎 | 50歳 |
◎ | 32 | 「私はこの作品を推したが、票が少なかったのは残念。――劇画化の強い、浮足立った文章に、はじめはとまどいを感じるが、その口吻になれてくると、内容の重さと、終末の救いの明るさが、読後、感動を呼ぶ。」「小説は一瞬の偸安のためのものでなく、人生にこよない慰藉を与えてくれるためのものだ、――という感慨が、この短篇のうしろ姿にはあり、私はページをとじて満足したのであった。」 |
「今回ほど票が割れたことはなかった。選考会は揉めに揉めたが、総意をまとめて惹きつける強力な魅力の作品が浮上してこず、同一ラインで鍔迫り合いという印象だった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成7年/1995年3月号 |
選考委員 田辺聖子 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
東郷隆 | 43歳 |
○ | 36 | 「兎まんじゅうやトロイメライの小道具もよく効き、私には酩酊度のつよい、たのしい、馥郁たる小説であった。ただこの手の作品は読み手を択ぶ。」「こういう小説に、〈なんのためにこれを書いたのか〉と詰問してもはじまらない。」「文学の層の厚み、というのはこういう酩酊小説をも包含することにあるので、賞は逸しられたけれども、秀作とよんでいいと思う。」 |
内海隆一郎 | 58歳 |
○ | 16 | 「善人ばかり出すぎる、という批評もあるが、善人の毒、というものもある。百面相の老芸人が人が好すぎるため周囲ははらはらする、これも人生の毒である。文学性ある良質のエンターテインメントを提供する、というのが本賞の目的であれば、この作品など妥当な線ではないかと思われたが、いま一息票が伸びず残念だった。」 |
63歳 |
□ | 41 | 「「ほとほと……」「夜行列車」は好短篇と思い、更に「陽炎球場」は野球オンチの心なき身にも共感できる味わいがある。」「「消えたエース」は作為が目立ち、味噌の味噌くさきに似て、小説的工夫のひねりがちょっと過ぎたかんじ、やや、あざとい。」「私は文学賞の選考委員資格に性差はないと思っているが、ただ、こと野球に関してはどうかな、と思ってしまった。」 | |
「今回は私にとって好もしい作品が多いという気がした。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成7年/1995年9月号 |
選考委員 田辺聖子 68歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
35歳 |
◎ | 56 | 「女刑事が男刑事とペアで任務を遂行するという小説のシチュエーションは、ほかにもあるかもしれないが、それが小説の骨格としてこんなに成功している作品は珍しい。」「何より中年の男刑事の描写がいい。」「ラストの犯人の謎ときはややあわただしく、それを失点にかぞえられる委員もあったが、私自身はこの小説のキズにはならないと考えている。」 | |
浅田次郎 | 44歳 |
○ | 21 | 「エンターテインメントとしては抜群の面白さを持った作品、」「近来の快作だった。小説の醍醐味は〈面白くて巻を措く能わず〉というところにもあるから、受賞圏内、と私は思ったが、いまひといき、票を集めることができなかったのは残念。」「欲をいえば中国風土の匂いが(芳香・悪臭をとわず)も少しほしいところ。」 |
選評出典:『オール讀物』平成8年/1996年9月号 |
選考委員 田辺聖子 68歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
篠田節子 | 41歳 |
◎ | 58 | 「最も感銘を受けた」「一種のホラー小説とも読めるが、ラストはもろもろの思念が吹き払われて限りなくやさしくすがすがしい。」「リアリティある構成と、緊迫感にみちたたるみのない簡潔な文章がまことにみごとだ。」「篠田氏のお作品の中では一ばんのものと思った。」 |
38歳 |
○ | 25 | 「力ずくの作品でその腕力に圧倒される感じ、日常と非日常が目もあやに交錯して一・二章は息もつがせないが、三章で破綻する。」「ラストで古典的均斉美を欠くのが惜しいが、しかし一・二章の妖美に作者の力量は充分溢れており、この作品もまた坂東氏のお作、今までのうちでの最高であろう。」 | |
宮部みゆき | 36歳 |
○ | 21 | 「時間旅行者を二・二六事件に結んだ奇想にまず脱帽。着地はむつかしかったろうと思われるが、みごとにきまった。」「私はこんな冒険をみとめてあげるべきだと思う。」「ことにキメ手というべきは〈黒井〉の出しかただった。」「読後感がさわやかでいい。」 |
「今回の五篇を、私はどれも面白く読み、力作ぞろいと感じた。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成9年/1997年3月号 |
選考委員 田辺聖子 69歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
45歳 |
◎ | 31 | 「何とも気持よく泣ける小説が開巻からつづく。」「〈しんみりして泣かせる〉“しみじみ小説”というものは、甘ちゃんの人が書くと歯が浮くものだけれど、浅田さんは辛口作家でいられ、随所に〈根性悪〉(引用者中略)(作家的視線がきびしいこと)が仄見え、信頼できる。」 | |
宇江佐真理 | 47歳 |
○ | 15 | 「何とも魅力的な主人公の男女。」「これだけ描ききれれば、背後の捕物帖めいたことはつけたしでいいかと思ったほど、私の評は甘くなった。しかし、やはり捕り物がしっかり書けていないと、小説宇宙が構築されないという他委員の意見に従う。」 |
41歳 |
△ | 39 | 「このタイトルは一考を要す。」「いつも負の札を引き当てて苦戦するところに女の人生の詩情もロマンもあるのだが、巻末近いあたりの短篇群は、冒頭の作品群の文学性を失う。しかし〈女の子〉の立身マニュアル、と読めば、文学性の代りに面白さがサービスされたといっていい。氏の危うげのない才能が、立証されたといえよう。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成9年/1997年9月号 |
選考委員 田辺聖子 71歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
61歳 |
◎ | 31 | 「二度目に読むと、(引用者中略)一馬身ぬきんでているように思えた。」「よくある人情咄の型にはまっていないのは、長崎の空気が色濃く出ていることと、その土地のエッセンスのような老妓の印象が好もしいためであろう。」「序章と終章が美しい額縁を成して、みちたりた読後感を与えられた。」 | |
東野圭吾 | 41歳 |
◎ | 33 | 「これまた快作、そして怪作であった。」「周到な伏線が張りめぐらされ、読んでいるあいだは、これまた息もつかせず面白かった。しかし読後感のあと味わるさも相当なもの。これは人間の邪気が全篇を掩っているので、それに負けてしまう、ということであろう。」「もしそれ、一抹、この二人の犯罪者にしおらしさが書きこんでいられれば、と願うのは、古いであろうか。」 |
福井晴敏 | 31歳 |
◎ | 37 | 「この作品には票は集まらないだろうな、と思いつつ私は一票を入れた。」「〈国とは何なんだ?〉〈国を守るとはどういうことなんだ?〉という素朴で原初的だが大きい命題を扱っている。その意気込みと志、ここまでの構成の骨格を組みたてる腕力を買いたい。」「ひととき時間を忘れさせてくれる快作である。」 |
「今回は力作が、ツライチ(原文傍点)に並んだという最初の印象であった」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成12年/2000年3月号 |
選考委員 田辺聖子 72歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
56歳 |
◎ | 45 | 「(引用者注:「カカシの夏休み」と)優劣つけがたく、あるいは二本受賞かと思い選考に臨んだ。」「船戸氏はすでにもう大家でいられ、直木賞の土俵では狭い感もあるが、一度は〈貰って頂かないと〉というのが正直な私の気持であった。」「何より南海の島の濃密な温気と暑熱が読者の皮膚感覚に伝わってくる。」 | |
重松清 | 37歳 |
◎ | 29 | 「(引用者注:「虹の谷の五月」と)優劣つけがたく、あるいは二本受賞かと思い選考に臨んだ。」「私には当選圏内の作品と思える。」「三作の中で『カカシ……』の滑脱な口吻を採りたい。作品世界の安定調和ぶりがやや過剰気味で、少しもたれる気もするが、読後感のすがすがしさがいい。」 |
31歳 |
□ | 30 | 「すでにユニークな文体を手に入れていられるのにも瞠目。」「キモチイイ辛口で味わってきた酒が、ラストに至ってにわかに甘口になってしまった感があるのは、私個人の好みとしては惜しいが、しかしまあ、なんと、のど越しのいい酒であろう。」「作者の若さとキャリアからいって、もう一、二篇様子をみたら……と思わないでもなかったが、しかしものごとには時の勢い、というものがある。」「ご受賞に賛同。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成12年/2000年9月号 |
選考委員 田辺聖子 73歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
黒川博行 | 52歳 |
◎ | 24 | 「どれに軍配をあげるかとなると、私はやっぱり『国境』の暴れん坊ぶりである。」「(引用者注:北朝鮮の)国境を突破して潜入するというだけでなく、(そのこと自体、冒険だが)国内で活劇や大立廻りを演じてしまう。主人公らのご愛嬌にみちた性格には、冒険小説を読みすれ(原文傍点)ている読者でも失笑させられてしまう。ラストのあと味もいい。」 |
53歳 |
○ | 14 | 「若夫婦の新世帯をほほえましく描いて山本周五郎風世界――と思っていたら、現代風家庭悲劇が展開される。それを時代小説で読めるのはたのしかった。」「読後感が清新だった。」 | |
諸田玲子 | 47歳 |
○ | 13 | 「奇想天外なアイデアが面白かった。」「時代小説好きの私、時代小説の中で女性が(好ましいのも、好かんたらしい(原文傍点)のも)うんと活躍してほしいもの、と思う」「弥左衛門の姉・政江が面白かった。」 |
46歳 |
△ | 19 | 「何だか「するする」と運んでゆかれて、ストン、と落されたような書物だ。この感じは若い人としゃべったときに持たされる感情である。自分の縄張りや結界の内だけの感性と反射神経で生き、波長の合う人にだけわかればいい、――という。」「しかし文学には異質の分子も続々生れるべきだろう。」 | |
「今回私には×がなく、いずれも水準を抜く面白い作品が揃ったように思う。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成14年/2002年3月号 |
選考委員 田辺聖子 74歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
49歳 |
○ | 41 | 「よくできた時代小説には、読者を没入させる熱気と、それを中和する滋味、そして綿密な構成による論理性の説得力がある。」「(引用者注:表題作「生きる」は)まさしくそれで、私はこの、地味で手堅い“時代小説”にすっかり魅了された。」「山本周五郎さんでもなく、藤沢周平さんでもない、新しい時代の、新しい〈時代小説〉の誕生に居合せた、という嬉しい衝撃を与えられた。」 | |
奥田英朗 | 42歳 |
○ | 15 | 「脂ののりきった作者が、手練の手並みもあざやかに、という清新溌剌たる印象。いやあ、笑ってしまった。」「カルチャーショックという上品なものでも諷刺小説というでもなく、とても巧い落語みたい、ただこの落語のオチはつけにくく、そこがまたいい、というところ。」 |
選評出典:『オール讀物』平成14年/2002年9月号 |
選考委員 田辺聖子 74歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
横山秀夫 | 45歳 |
◎ | 15 | 「今回、私は『半落ち』(横山秀夫氏)ときめて臨んだ。」「今回の作品も期待を裏切られない緻密な構成だ。」「すべてが解明されたあとの納得のあと味も爽快感あり。ただ設定上の疑問点を指摘する声もあり、魅力ある作品だが、ついに見送られて私としてはいたく残念であった。」 |
角田光代 | 35歳 |
○ | 35 | 「私が興趣をかきたてられた魅力作である。新しい才能に遭遇したときの戦慄的な快感をおぼえ、楽しませてもらった。」「新人らしい才能のきらめきがページにこぼれ、珍重に価すると感じた。」「かなり票の入った作品だが、『マドンナ』(奥田英朗氏)と票を食い合って、烈しい競りあいとなり、ついに共倒れとなってしまったのは残念。」 |
選評出典:『オール讀物』平成15年/2003年3月号 |
選考委員 田辺聖子 75歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
40歳 |
◎ | 14 | 「文章からたち昇る怪異の瘴気は、当今、珍重すべき怪才である。今回は殊に、時代設定、登場人物のたたずまいに趣向が凝らされている。」「氏の作品に接すると、〈世に物語のタネは尽きまじ〉という気がするから愉快だ。」 | |
姫野カオルコ | 45歳 |
◎ | 11 | 「私はこの作も推したが、今回は惜しくも賞を逸した。野趣と生気ある方言が効果的、輝きにみちた青春小説であった。」「本年度の収穫の一つと私は確信する。」 |
39歳 |
○ | 12 | 「文章は平易だが滋味あり、ただごとの世界のようにみえつつ、人生の怖い深淵を示唆する。小説的風景を構築する力量もたしか。」「私は、特に「溝」の怖さを推す。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成16年/2004年3月号 |
選考委員 田辺聖子 76歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
古処誠二 | 34歳 |
◎ | 55 | 「お若い作者がこういう題材を選ばれたことに、私は感慨を持った。」「“サイパンはこんな暢気な戦場ではなかった”という批判も聞かれたが、私は戦場に身を挺したことはないものの、ドンパチの最中にはあらゆるこも起り得ると思う。」「私はこの作をも推す。」 |
山本兼一 | 48歳 |
◎ | 10 | 「端正な出来栄え、それでいて、作品には主人公の、城の工匠そのままの、地熱の如き情熱が感じられた。織田信長は書き尽くされた観のある主人公だが、なるほどこの方面からの攻め口もあった、と思わせる意欲作である。」 |
37歳 |
△ | 17 | 「角田氏の力量を充分、知悉していながら、幼児が登場してくると、日常次元の靄に包まれてしまいそうで、心もとなくなる。ところが作者は、日常に泥みつつ、非日常の異次元〈ナナコ〉の世界へかるがると飛翔する。」「読者も生きる力を与えられ、読後感は爽やかだった。授賞に異存はない。」 | |
「いずれも力作・異色作揃いで、堪能した。」「私はこの回で選考委員をしりぞくのであるが、長年、その年々の秀作に接することのできた喜びに加え、選考委員の先生方と同席してそれぞれの謦咳に接した思い出も嬉しい。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成17年/2005年3月号 |