選評の概要
114. 115.116. 117. 118. 119. 120.
121. 122. 123. 124. 125.
126. 127. 128. 129. 130.
131. 132. 133. 134. 135.
136. 137. 138. 139. 140.
141. 142. 143. 144. 145.
生没年月日【注】 | 昭和20年/1945年7月7日~ | |
在任期間 | 第114回~第145回(通算16年・32回) | |
在任年齢 | 50歳5ヶ月~65歳11ヶ月 | |
経歴 | 北海道帯広市生まれ。埼玉大学理工学部物理学科中退。世界各地を旅行、帰国後の昭和53年/1978年に詩集を発表。翻訳、エッセイを手がけ、のち小説創作を始める。 | |
受賞歴・候補歴 |
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芥川賞候補歴 | 第98回受賞 「スティル・ライフ」(『中央公論』昭和62年/1987年10月号) |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 池澤夏樹 52歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
阿部和重 | 29歳 |
◎ | 23 | 「推した。難点はいろいろあるけれども、それを超えて蛮勇に近い勇気がある。」「自分勝手な思い込みと自己弁護・自己説明に終始するパラノイアの主人公を見事に作り出している。ストーカーとしての「先生」の性癖が「私」に移るからくりもおもしろい。」「言葉の過剰、無駄口ぶりが巧妙にこの種の人物像の典型を作っている。」「一次選考の段階で五つの候補作品に投じられた積極票四票(全体でたった四票!)のうちの二票はこれに寄せられたものだ。蛮勇の力と限界。」 |
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成10年/1998年3月号) |
選考委員 池澤夏樹 53歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
赤坂真理 | 34歳 |
◎ | 24 | 「おもしろかった。」「自分の中で多くの意識が勝手に喋っているというのは、筒井康隆が書けば一つの設定であったが、赤坂は現実である。その描写はリアルで、リズミックで、読む快感に満ちている。いい文章だ。」「ぼくは授賞に値すると思ったけれど、残念ながら充分な数の賛同を得られなかった。」 |
23歳 |
○ | 14 | 「知的に構築された小説としておもしろかった。もっとスマートな書きかたがあっただろうというのは若くない者の愚痴で、あちらこちら荒削りなのは一種の腕力の証明として好ましい。」「こういう座興的な議論の土台となる小説は、もちろん拍手と授賞に値する。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成11年/1999年3月号) |
選考委員 池澤夏樹 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
松浦寿輝 | 45歳 |
○ | 12 | 「欠点は多々ある。文体がゆるい。」「プロットのとどこおりもあるし、もっと短い話に向いたアイディアを無理に伸ばした感は拭えない。」「しかし、隠遁者の暮らしという日本文学古来のテーマは見事に再利用されているし、事件らしい事件もないままに読ませる吉田健一風の展開も悪くない。」「ここで賞を出してもいいのではないかと思ったが、多数意見にはならなかった。」 |
「授賞の閾値をどこに置くかはすべての賞につきまとう問題である。」「今回などはもっとも判断がむずかしい例だったようだ。」 | ||||
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成11年/1999年9月号) |
選考委員 池澤夏樹 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
34歳 |
◎ | 11 | 「秀作である。」「周囲の人物の配置もいいし、野球の使いかたもうまい。なによりも主人公ソバンの、臆しながらも時として意地を見せる、そしてすぐにまたそれを引っ込める、柔軟というかいい加減というか、その性格が好ましい。」「受賞に値する作であると考えて推した。」 | |
楠見朋彦 | 27歳 |
○ | 11 | 「ぼくには最もおもしろかった。」「敢えてリアリティーのないそのレポートの積み重ねが、通奏低音のような効果を上げて、残酷もまた想像力の産物であることを教える。欠陥はいろいろあるが、ボディーはしっかりしている。このような創作の姿勢は注目に値する。」 |
37歳 |
△ | 11 | 「気持ちのよい作品である。」「しかしマルオとヒカルが同性愛者であることはこの軽さにどう関わるか。女の前で肩を張って男を演じる必要がないからマルオは飄々としているのか。それともさんざ迫害された果ての達観なのか。」「もう少し歯ごたえがほしいとも思ったが、受賞に反対はしない。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成12年/2000年3月号) |
選考委員 池澤夏樹 56歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
阿部和重 | 32歳 |
◎ | 17 | 「おもしろかった。」「ぼくはこの話に乗った。作者と共に主人公の動きを追うことができた。共感した。」「今回この作品を評価したのはほとんどぼく一人だった。技術的な問題点が多数指摘されたが、共感できないとどうしても欠点探しに走る。」 |
45歳 |
○ | 7 | 「前回の候補作よりずっと上手になった。筋立てがすっきりしてわかりやすい(その分軽くなったという気もするが)。今の日本の地方のもう若くない人々の思想を、宗教と死生観をキーワードにうまく表現している。安定した力がある。」 | |
選評出典:『芥川賞全集 第十九巻』平成14年/2002年12月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成13年/2001年9月号) |
選考委員 池澤夏樹 57歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
黒川創 | 41歳 |
◎ | 26 | 「今回の候補作の中では(引用者中略)最も意に叶った。」「人物の造形がきちんとしていて、その造形に意味がある。」「最もめざましい場面は最後のターニャの挨拶。こういう姿勢で生きる人間を失ったのが今の日本だということをしみじみと教える見事なスピーチである。」 |
星野智幸 | 37歳 |
○ | 12 | 「おもしろかった。あまりに作り物めいているという批判があることは充分に予想できるが、世の中には作り物でなければ伝えられない真実もある。」 |
33歳 |
● | 17 | 「ぼくはまったく評価できなかった。現代風俗のスケッチとしても、もう少し何か核になる話があってもよかったのではないか。」「この話の中のすべての会話を『イカロスの森』のターニャの挨拶一つと比べていただければぼくの真意は伝わるだろう。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成14年/2002年9月号 |
選考委員 池澤夏樹 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
絲山秋子 | 37歳 |
◎ | 5 | 「ふわふわと気持ちよく読めて推したのだが、賛同を得られなかった。こういう作風の評価は分析ではなく好悪で決まってしまうから。」 |
20歳 |
△ | 9 | 「なにしろ痛そうな話なので、ちょっとひるんだ。道具立ては派手だが、これもまた一種の純愛なのだろう。」 | |
19歳 |
△ | 13 | 「高校における異物排除のメカニズムを正確に書く伎倆に感心した。その先で、(引用者中略)人と人の仲を書く。すなわち小説の王道ではないか。」 | |
「この賞の選考委員はぼくも含めてみな中年以上だから、若い人々に対する偏見がある。今の子供たちには文学はわからないと言ってしまうことが多い。」「そんなことはないと実証するには作品が必要。その意味で今回受賞の二作(引用者注:「蛇にピアス」「蹴りたい背中」)は見事だった。」 | ||||
選評出典:『文藝春秋』平成16年/2004年3月号 |
選考委員 池澤夏樹 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
舞城王太郎 | 30歳 |
◎ | 29 | 「推した。」「ここでは言葉は愛という真実の周りをぐるぐる巡るばかりで、決して内部に切り込めない。愛という言葉を聞いて育った世代が、いざ自分の番になってみると、それを実感として受け止められない。」「まるで奥行きのない、いわば文学のスーパーフラットとも言うべき文体が大変に効果を上げている。」「全体として相当な力量だと思ったのだが、多勢に無勢、授賞の見込みはまったくなかった。」 |
33歳 |
○ | 11 | 「話の中心には祖母と母と語り手という聖家族がおり、ここにだけ介護を通じて発見された本当の愛がある。作者はこの発見を世に伝えるために小説という手段に訴えたかのごとくで、この初々しさは好ましい。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成16年/2004年9月号 |
選考委員 池澤夏樹 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
田中慎弥 | 34歳 |
◎ | 20 | 「おもしろかった。」「太宰治や町田康の偽悪的饒舌に通じる文体で、最後まで聞いていたのは幼女一人という終わりの光景もいい。」「何よりもここには無謀な意図がある。破綻しかねないところをなんとかまとめている。その意図を買ったのだが、これを推したのはぼく一人だった。」 |
23歳 |
■ | 15 | 「とても上手に書けた小説である。」「ペルソナの配置も、各エピソードも、文章もいい。しかし何かが足りない。田中(引用者注:慎弥)さんと違って、無謀な意図がない。」「これまた授賞に賛成しなかったのはぼく一人だった。」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成19年/2007年3月号 |
選考委員 池澤夏樹 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
田中慎弥 | 36歳 |
◎ | 11 | 「およそ無謀な企てであり、いくつかの点で破綻している。」「いかになんでも盛り込み過ぎ・作り過ぎ。それを承知で敢えてこの蛮勇の作を推したが、敗退した。」 |
30歳 |
□ | 28 | 「巧緻な作品である。」「ぼくには(引用者注:主人公の女性)ナガセが生活の優等生のように見えた。作者もまた細部まで計算の行き届いた優等生、というのは言い過ぎだろうか。問題はこの生きかたを肯定する今の社会の側にあるのだから。」「うまいことは認める。しかし、みんな、こんなに内向きでいいのか?」 | |
選評出典:『文藝春秋』平成21年/2009年3月号 |
選考委員 池澤夏樹 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
円城塔 | 38歳 |
◎ | 90 | 「ふわふわとして、ユーモラスで、このゆるさは値打ちがある。「わたしの筆跡は、わたし自身が真似しやすいようにできている」という自己言及的なセンテンスのナンセンスの風味が全体に充満している。」「ぶっ飛びすぎていて読者を限定するものであることは否定できない。純文学の雑誌がこれを掲載したこと、それがこの賞の候補作となって選考の場に登場したことに(授賞はまず無理だろうと思う一方で)ぼくは小さな感動を覚えた。」 |
選評出典:『文藝春秋』平成23年/2011年9月号 |