第62回

第61回第63回

昭和44年/1969年下半期 昭和45年/1970年1月19日決定発表／『オール讀物』昭和45年/1970年4月号選評掲載

選考委員　 大佛次郎 72歳 石坂洋次郎 69歳 川口松太郎 70歳 村上元三 59歳 海音寺潮五郎 68歳 柴田錬三郎 52歳 今日出海 66歳 水上勉 50歳 源氏鶏太 57歳 司馬遼太郎 46歳 松本清張 60歳 選評総行数　 44 45 44 66 63 49 51 52 56 59 58 評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 永岡慶之助　『紅葉山』 684枚 47歳 評 ― 0 ・ 2 ― 0 ● 5 ● 13 ■ 4 ― 0 ― 0 ■ 6 ― 0 ― 0 阿部牧郎　「われは湖の子」 91枚 36歳 評 ― 0 ・ 2 ― 0 ■ 9 ■ 6 □ 12 ― 0 ■ 5 ■ 7 ― 0 ― 0 河村健太郎　「おたまじゃくしは蛙の子」 213枚 41歳 評 ― 0 △ 12 ― 0 △ 8 ○ 13 □ 7 ■ 12 △ 5 ○ 9 ○ 23 ― 0 田中穣　『藤田嗣治』 464枚 44歳 評 ◎ 44 △ 21 ○ 30 ◎ 16 △ 15 □ 12 △ 13 ◎ 20 △ 8 △ 26 ● 34 藤本義一　「マンハッタン・ブルース」 100枚 36歳 評 ― 0 ・ 2 ― 0 ■ 6 △ 8 ■ 8 ― 0 ■ 5 ■ 5 ― 0 ● 13 平田敬　「ダイビング」 155枚 38歳 評 ― 0 ・ 1 ― 0 ■ 5 △ 8 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 3 ― 0 ― 0 河野典生　『他人の城』 663枚 34歳 評 ― 0 ・ 1 ― 0 ■ 4 △ 7 ● 9 ― 0 ― 0 ■ 4 ― 0 ― 0 阪田寛夫　「日本の童謡」 53枚 44歳 評 ― 0 ・ 2 ― 0 ■ 4 △ 8 ― 0 ■ 8 △ 8 ■ 5 ― 0 ― 0     欠席 書面回答                 年齢/枚数の説明   見方・注意点

大佛次郎72歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「藤田嗣治」　総行数44　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ― 0   阿部牧郎 36歳 全 ― 0   河村健太郎 41歳 全 ― 0   田中穣 44歳 全 ◎ 44 「私は田中氏の「藤田嗣治」を推した。」「いつも小説らしい小説ばかりが当選するのは、段段と小説が袋路地へ落込むことである。」「伝記には違いないが、画家の伝記と云うよりも高級インチキ師の生涯を描いてあるのが人間臭く面白く、小説と見ることさえ出来そうに思った。」 藤本義一 36歳 全 ― 0   平田敬 38歳 全 ― 0   河野典生 34歳 全 ― 0   阪田寛夫 44歳 全 ― 0	他の選考委員 石坂洋次郎 川口松太郎 村上元三 海音寺潮五郎 柴田錬三郎 今日出海 水上勉 源氏鶏太 司馬遼太郎 松本清張

石坂洋次郎69歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題入賞作品なくて　総行数45　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ・ 2   阿部牧郎 36歳 全 ・ 2   河村健太郎 41歳 全 △ 12 「最後まで議論の対象となり、」「品のいい魅力的な作品だが、構成力が弱いということで入賞を逸した。」 田中穣 44歳 全 △ 21 「最後まで議論の対象となり、」「よく調べよく描いてあるが、これが小説か伝記かという問題がひっかかり、とうとう見送りになったのはお気の毒である。この作品でもう一つ私が気になったのは、戦後成長した若い人々――つまり「藤田嗣治」という名前に馴染みのない人々を、この作品が私等並みにひきつけられるかということである。」 藤本義一 36歳 全 ・ 2   平田敬 38歳 全 ・ 1   河野典生 34歳 全 ・ 1   阪田寛夫 44歳 全 ・ 2     「私は毎回入賞者を出した方が直木賞が存在する意義があると思うのだが、それでは入賞作品の質が低下するという意見が強く、今回は見送りということになったのである。この考え方にも一理はある。」

他の選考委員 大佛次郎 川口松太郎 村上元三 海音寺潮五郎 柴田錬三郎 今日出海 水上勉 源氏鶏太 司馬遼太郎 松本清張

川口松太郎70歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「藤田嗣治」を　総行数44　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ― 0   阿部牧郎 36歳 全 ― 0   河村健太郎 41歳 全 ― 0   田中穣 44歳 全 ○ 30 「どうしても一作をあげよとなったら田中君の「藤田嗣治」をおすつもりであった。」「情感の豊かな読物でもあり、文章も老練な感じがするし、直木賞作品の範囲をひろげる意味でも適当ではないかと思ったが、自分のその考えもジャーナリスティックにすぎる気がして、委員諸氏に賛成者がなければ已むを得ないと思っていた。」 藤本義一 36歳 全 ― 0   平田敬 38歳 全 ― 0   河野典生 34歳 全 ― 0   阪田寛夫 44歳 全 ― 0     「残念なことに受賞作がなかった。ないのが当然なほど作品の質が悪かった。」	他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 村上元三 海音寺潮五郎 柴田錬三郎 今日出海 水上勉 源氏鶏太 司馬遼太郎 松本清張

村上元三59歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題今後を期待　総行数66　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ● 5 「材料がなま（原文傍点）のままで、消化されていない。それに、文章の古さは、なんとかしなくてはいけない。」 阿部牧郎 36歳 全 ■ 9 「よく書き込んであるのに、レースの場面と会社のセールスをやっているところが交互に出てくる、という構成は、かえって迫力を弱めている。」 河村健太郎 41歳 全 △ 8 「うまいという点では（引用者中略）最高であった。だが、最後に母親が旅へ出ると打明けるところで、娘の反応が描かれていないのは、まだ芝居が終っていないのに幕がおりたような感じがした。」 田中穣 44歳 全 ◎ 16 「実名の人物たちをよく消化して面白い作品になっているが、小説かドキュメントか、という点で議論がわかれ、見送られた。」「わたしには「藤田嗣治」以外に推せる作品はなかった。」 藤本義一 36歳 全 ■ 6 「材料も舞台も面白いのに、力みすぎている。「ちりめんじゃこ」のように、あぐらをかいた作品がほしい。」 平田敬 38歳 全 ■ 5 「全体に張りつめたものは感じられるが、読み終って印象が薄いのは、構成力に欠点があるからだろう。」 河野典生 34歳 全 ■ 4 「道具立てが面白いのに、肝腎の殺人の動機や経緯が古めかしいので、がっかりさせられた。」 阪田寛夫 44歳 全 ■ 4 「前作の「わが町」と同様、捨て難いよさはあるが、所詮これは直木賞の作品ではない。」   「今後の直木賞候補に、歴史物であれ現代物であれ、ドキュメントに属する作品が登場するのは歓迎したい。」

他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 川口松太郎 海音寺潮五郎 柴田錬三郎 今日出海 水上勉 源氏鶏太 司馬遼太郎 松本清張

海音寺潮五郎68歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題迫力不足　総行数63　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ● 13 「凡俗的興味に妥協的となっているので、魅力がまるで感ぜられなくなっている。業界雑誌のようなものに連載し、編集者の注文に迎合したのと回数がせまって来たのとのために、こうなったのではないかと思う。」 阿部牧郎 36歳 全 ■ 6 「この人の技倆は皆認めている。しかし、蛸売りの話を絶頂にして、あとが下って来つつあるので、不安を感じさせるのである。」 河村健太郎 41歳 全 ○ 13 「最後までぼくの買ったのはこの作品であった。まことにうまい。人間の描きわけ、心理のくまぐま、しかもその心理の底に流れているものの設定、心にくいほどである。」「何か迫力が不足である。これだけの分量に書いて、それがないのは重大な欠陥であろうと考えて、強くは推せなかった。」 田中穣 44歳 全 △ 15 「苦心の作であることは認める。」「相当な出来ばえであることも認める。しかし賞に値する出来ばえとは思われないのである。ただ、史伝も賞の対象になるという決定をさせたのはこの作品の功績である。」 藤本義一 36歳 全 △ 8 「皆うまいと思った。」「若い人々の技倆はここまで上ったのである。この中からぬきんでることは、なまなかの努力では追いつけまい。」 平田敬 38歳 全 △ 8 「皆うまいと思った。」「若い人々の技倆はここまで上ったのである。この中からぬきんでることは、なまなかの努力では追いつけまい。」 河野典生 34歳 全 △ 7 「皆うまいと思った。」「若い人々の技倆はここまで上ったのである。この中からぬきんでることは、なまなかの努力では追いつけまい。」 阪田寛夫 44歳 全 △ 8 「冴えているという点では、これが一番だと思ったが、何せ短かすぎるので損であった。」

他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 川口松太郎 村上元三 柴田錬三郎 今日出海 水上勉 源氏鶏太 司馬遼太郎 松本清張

柴田錬三郎52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題当選しにくさ　総行数49　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ■ 4 「せっかく、いい素材にとり組み、ある程度こなしてみせながら、いかにも文章が古いのである。」 阿部牧郎 36歳 全 □ 12 「感心した。」「オールをこぐ、というきわめて単純な動作を、執念ぶかく描写してみせ、なみなみの凡手でないところを、示していた。」「ずば抜けた面白さに乏しかった。」 河村健太郎 41歳 全 □ 7 「ユニークな語り口にもひかれた。」「ずば抜けた面白さに乏しかった。」 田中穣 44歳 全 □ 12 「感心した。」「稀世のペテン師的天才画家を前後左右から観るための調査に、おそるべき執拗な努力をはらっていた。」「ずば抜けた面白さに乏しかった。」 藤本義一 36歳 全 ■ 8 「出来としては、八篇中随一だが、どこかで読んだことのあるようなストーリイのつまらなさは、掩いがたく、損をした。」 平田敬 38歳 全 ― 0   河野典生 34歳 全 ● 9 「こういうのを、クールなハードボイルド・タッチというのであろうが、私は、採らない。ここには、うすっぺらな風俗描写が、やたらに書きならべられているばかりである。」 阪田寛夫 44歳 全 ― 0     「いずれも、苦心のあとがみえて、駄作愚作の印象は、一篇もなかった。」「こういう候補作品をならべられると、委員である私自身、――直木賞というのは、容易なことでは、当選しないな。と、思わざるを得なかった。」

他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 川口松太郎 村上元三 海音寺潮五郎 今日出海 水上勉 源氏鶏太 司馬遼太郎 松本清張

今日出海66歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題全般に言えること　総行数51　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ― 0   阿部牧郎 36歳 全 ― 0   河村健太郎 41歳 全 ■ 12 「筆致も滑らかで、いや味はなく、面白い話だが、もう一つ突っ込んだ小説の説得力とでもいうものが足りないように思われた。」「同人雑誌の作家に多く見られる現象で、このような賞の受賞作品としては得策とは言えぬだろう。」 田中穣 44歳 全 △ 13 「異色の作品であった。」「小説であろうか、伝記評伝であろうかと分類上の疑義も出て来たが、そんな形式論よりも、作品が一頭地を抜いている方が肝要な問題であろう。」「藤田がどのようなことをしたかよりも、藤田の才能に迫るものがなければ、作品の価値は出にくいことになる。」 藤本義一 36歳 全 ― 0   平田敬 38歳 全 ― 0   河野典生 34歳 全 ― 0   阪田寛夫 44歳 全 ■ 8 「心憎いばかりに巧みであり、皮肉な批評眼も鋭いものがある。」「だからといって作品に重量感が乏しく、且つ薄手にさえ見えたのは惜しまれる。」   「今期の直木賞候補作品は低調であった。或いは八候補作品はドングリの丈比べのように一長一短、他を圧してすぐれた作品がなかった。」

他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 川口松太郎 村上元三 海音寺潮五郎 柴田錬三郎 水上勉 源氏鶏太 司馬遼太郎 松本清張

水上勉50歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題田中氏を推したが　総行数52　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ― 0   阿部牧郎 36歳 全 ■ 5 「セールスマンの哀感がよくかけていると思ったが、やはり前作の方がいい。」 河村健太郎 41歳 全 △ 5 「おもしろく読んだ。しかし授賞作となるとちょっと弱い。」 田中穣 44歳 全 ◎ 20 「この稀代の画家について、私は知るところが少なかったので、とにかく、魅入られて読んだ。」「敢えて賞をということになれば、これしかない。そう思って出席した」「ノンフィクションであっても、人物が浮き彫りされておれば小説に迫るのであって、私は「小説」としてこの作をよんだ。」 藤本義一 36歳 全 ■ 5 「前作ほどの生彩がない。」「語り口の特異な軽快さはおもしろいのだ。」 平田敬 38歳 全 ― 0   河野典生 34歳 全 ― 0   阪田寛夫 44歳 全 △ 8 「阪田氏の才能は、（引用者中略）独特で、今回は「わが町」とちがった好短篇だ。だが器用につくりあげているところが気になるのだった。」   「秀れてぬき出ている作品のない時は、読むのがつらい。」

他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 川口松太郎 村上元三 海音寺潮五郎 柴田錬三郎 今日出海 源氏鶏太 司馬遼太郎 松本清張

源氏鶏太57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題残念だが　総行数56　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ■ 6 「「斗南藩子弟記」より落ちるようだ。丁寧に書いてあるし、登場人物がそれぞれ気持いい。が、その程度に終っている。」 阿部牧郎 36歳 全 ■ 7 「一応の出来という程度であろう。」 河村健太郎 41歳 全 ○ 9 「終始面白く読んだし、登場人物も活き活きと描かれており、殊に母親がよかった。うまいと思った。が、もうひとつパンチがほしかった。」 田中穣 44歳 全 △ 8 「多くの議論の対象になった。先ず伝記物を直木賞にしていいかどうかということであった。が、そのことよりもこの作品が果して文学作品になっているかということで結局見送られることになった。」 藤本義一 36歳 全 ■ 5 「終末に近づくにつれて凄味が出てくるのだが、全体として発想に独自の物が感じられなかった。」 平田敬 38歳 全 ■ 3 「力作であるが、何かもうひとつ欠けているような気がした。」 河野典生 34歳 全 ■ 4 「なかなかの努力作だが、もうすこしすっきりとまとめて貰いたかった。」 阪田寛夫 44歳 全 ■ 5 「うまい作品であり、最後に主人公の戦時中のことをあばく効果も活きているが、小品というところでとどまっている。」   「いつでも授賞作なしには積極的に反対して来た私だが、賛成側にまわってしまった。傑出した候補作品がなかったし、過去の直木賞作品に匹敵する作品がないというのが大方の感想であったようである。」

他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 川口松太郎 村上元三 海音寺潮五郎 柴田錬三郎 今日出海 水上勉 司馬遼太郎 松本清張

司馬遼太郎46歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題わるい時期　総行数59　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ― 0   阿部牧郎 36歳 全 ― 0   河村健太郎 41歳 全 ○ 23 「どれかをえらばねばならぬとしたら、河村健太郎氏の「おたまじゃくしは蛙の子」だろうかと思った。」「男の筆者が女の作り声で書いてみごとな芸になっているという達者さに驚嘆した。」「（引用者注：最後に「藤田嗣治」と残ったとき）強く推すほどの気持が、私にはなかった。」「しかし、いまでもこの作品が受賞してもよかったのではないかという気持が、かすかにのこっている。」 田中穣 44歳 全 △ 26 「ノンフィクションも文学の強力なジャンルである。しかしこの作品の場合は、純粋にそれでありすぎ、つまり藤田嗣治という世間衆知の名前と概念によりかかりすぎ、藤田についての談話者なども、（引用者中略）あっさりナマで出てくる。」「しかし全候補作中、読んでもっともおもしろかったのはこの作品であった。」 藤本義一 36歳 全 ― 0   平田敬 38歳 全 ― 0   河野典生 34歳 全 ― 0   阪田寛夫 44歳 全 ― 0     「直木賞的な分野にあたらしい小説がおこることは、ここしばらくないかもしれないと悲観的な、というより絶望的な予想をもっていたやさき、皮肉にも審査員の末席につらなることになった。」「わるい時期に顔を出したと思っている。」「こんどの候補作品には、賞にあたいするようなものがなかった。」

他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 川口松太郎 村上元三 海音寺潮五郎 柴田錬三郎 今日出海 水上勉 源氏鶏太 松本清張

松本清張60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題ノンフィクション　総行数58　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 永岡慶之助 47歳 全 ― 0   阿部牧郎 36歳 全 ― 0   河村健太郎 41歳 全 ― 0   田中穣 44歳 全 ● 34 「なんだか聞き書きのエピソードの集成に終ったようで、作者自身のフジタに対する切り込みがない。」「これには、画の世界でいう作者のデエモンがまるきり無いのである。」「ノンフィクションが好きな私だけに、これを否定した。」 藤本義一 36歳 全 ● 13 「今回も前作とは違う意味で私は推さなかった。テーマも目新しいものではないが、とりあげ方も古い。」「文章の軽重変化はあっても、作者の文体が無いと、作者の眼（あるいは思想）を感じさせない。」 平田敬 38歳 全 ― 0   河野典生 34歳 全 ― 0   阪田寛夫 44歳 全 ― 0     「或る新聞の文化欄が、ノンフィクション的な作品が直木賞の性格にそわないという強い批判があって（引用者注：「藤田嗣治」が）落ちた、という意味を書いているが、誤りである。そんなことをいった委員は一人もいない。安心してノンフィクションの佳作を書いていただきたい。」

他の選考委員 大佛次郎 石坂洋次郎 川口松太郎 村上元三 海音寺潮五郎 柴田錬三郎 今日出海 水上勉 源氏鶏太 司馬遼太郎

永岡慶之助47歳×各選考委員　 『紅葉山』 長篇 684枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大佛次郎 72歳 全 ― 0   石坂洋次郎 69歳 全 ・ 2   川口松太郎 70歳 全 ― 0   村上元三 59歳 全 ● 5 「材料がなま（原文傍点）のままで、消化されていない。それに、文章の古さは、なんとかしなくてはいけない。」 海音寺潮五郎 68歳 全 ● 13 「凡俗的興味に妥協的となっているので、魅力がまるで感ぜられなくなっている。業界雑誌のようなものに連載し、編集者の注文に迎合したのと回数がせまって来たのとのために、こうなったのではないかと思う。」 柴田錬三郎 52歳 全 ■ 4 「せっかく、いい素材にとり組み、ある程度こなしてみせながら、いかにも文章が古いのである。」 今日出海 66歳 全 ― 0   水上勉 50歳 全 ― 0   源氏鶏太 57歳 全 ■ 6 「「斗南藩子弟記」より落ちるようだ。丁寧に書いてあるし、登場人物がそれぞれ気持いい。が、その程度に終っている。」 司馬遼太郎 46歳 全 ― 0   松本清張 60歳 全 ― 0

他の候補作 阿部牧郎 「われは湖の子」 河村健太郎 「おたまじゃくしは蛙の子」 田中穣 『藤田嗣治』 藤本義一 「マンハッタン・ブルース」 平田敬 「ダイビング」 河野典生 『他人の城』 阪田寛夫 「日本の童謡」

阿部牧郎36歳×各選考委員　 「われは湖の子」 短篇 91枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大佛次郎 72歳 全 ― 0   石坂洋次郎 69歳 全 ・ 2   川口松太郎 70歳 全 ― 0   村上元三 59歳 全 ■ 9 「よく書き込んであるのに、レースの場面と会社のセールスをやっているところが交互に出てくる、という構成は、かえって迫力を弱めている。」 海音寺潮五郎 68歳 全 ■ 6 「この人の技倆は皆認めている。しかし、蛸売りの話を絶頂にして、あとが下って来つつあるので、不安を感じさせるのである。」 柴田錬三郎 52歳 全 □ 12 「感心した。」「オールをこぐ、というきわめて単純な動作を、執念ぶかく描写してみせ、なみなみの凡手でないところを、示していた。」「ずば抜けた面白さに乏しかった。」 今日出海 66歳 全 ― 0   水上勉 50歳 全 ■ 5 「セールスマンの哀感がよくかけていると思ったが、やはり前作の方がいい。」 源氏鶏太 57歳 全 ■ 7 「一応の出来という程度であろう。」 司馬遼太郎 46歳 全 ― 0   松本清張 60歳 全 ― 0

他の候補作 永岡慶之助 『紅葉山』 河村健太郎 「おたまじゃくしは蛙の子」 田中穣 『藤田嗣治』 藤本義一 「マンハッタン・ブルース」 平田敬 「ダイビング」 河野典生 『他人の城』 阪田寛夫 「日本の童謡」

河村健太郎41歳×各選考委員　 「おたまじゃくしは蛙の子」 中篇 213枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大佛次郎 72歳 全 ― 0   石坂洋次郎 69歳 全 △ 12 「最後まで議論の対象となり、」「品のいい魅力的な作品だが、構成力が弱いということで入賞を逸した。」 川口松太郎 70歳 全 ― 0   村上元三 59歳 全 △ 8 「うまいという点では（引用者中略）最高であった。だが、最後に母親が旅へ出ると打明けるところで、娘の反応が描かれていないのは、まだ芝居が終っていないのに幕がおりたような感じがした。」 海音寺潮五郎 68歳 全 ○ 13 「最後までぼくの買ったのはこの作品であった。まことにうまい。人間の描きわけ、心理のくまぐま、しかもその心理の底に流れているものの設定、心にくいほどである。」「何か迫力が不足である。これだけの分量に書いて、それがないのは重大な欠陥であろうと考えて、強くは推せなかった。」 柴田錬三郎 52歳 全 □ 7 「ユニークな語り口にもひかれた。」「ずば抜けた面白さに乏しかった。」 今日出海 66歳 全 ■ 12 「筆致も滑らかで、いや味はなく、面白い話だが、もう一つ突っ込んだ小説の説得力とでもいうものが足りないように思われた。」「同人雑誌の作家に多く見られる現象で、このような賞の受賞作品としては得策とは言えぬだろう。」 水上勉 50歳 全 △ 5 「おもしろく読んだ。しかし授賞作となるとちょっと弱い。」 源氏鶏太 57歳 全 ○ 9 「終始面白く読んだし、登場人物も活き活きと描かれており、殊に母親がよかった。うまいと思った。が、もうひとつパンチがほしかった。」 司馬遼太郎 46歳 全 ○ 23 「どれかをえらばねばならぬとしたら、河村健太郎氏の「おたまじゃくしは蛙の子」だろうかと思った。」「男の筆者が女の作り声で書いてみごとな芸になっているという達者さに驚嘆した。」「（引用者注：最後に「藤田嗣治」と残ったとき）強く推すほどの気持が、私にはなかった。」「しかし、いまでもこの作品が受賞してもよかったのではないかという気持が、かすかにのこっている。」 松本清張 60歳 全 ― 0

他の候補作 永岡慶之助 『紅葉山』 阿部牧郎 「われは湖の子」 田中穣 『藤田嗣治』 藤本義一 「マンハッタン・ブルース」 平田敬 「ダイビング」 河野典生 『他人の城』 阪田寛夫 「日本の童謡」

田中穣44歳×各選考委員　 『藤田嗣治』 長篇 464枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大佛次郎 72歳 全 ◎ 44 「私は田中氏の「藤田嗣治」を推した。」「いつも小説らしい小説ばかりが当選するのは、段段と小説が袋路地へ落込むことである。」「伝記には違いないが、画家の伝記と云うよりも高級インチキ師の生涯を描いてあるのが人間臭く面白く、小説と見ることさえ出来そうに思った。」 石坂洋次郎 69歳 全 △ 21 「最後まで議論の対象となり、」「よく調べよく描いてあるが、これが小説か伝記かという問題がひっかかり、とうとう見送りになったのはお気の毒である。この作品でもう一つ私が気になったのは、戦後成長した若い人々――つまり「藤田嗣治」という名前に馴染みのない人々を、この作品が私等並みにひきつけられるかということである。」 川口松太郎 70歳 全 ○ 30 「どうしても一作をあげよとなったら田中君の「藤田嗣治」をおすつもりであった。」「情感の豊かな読物でもあり、文章も老練な感じがするし、直木賞作品の範囲をひろげる意味でも適当ではないかと思ったが、自分のその考えもジャーナリスティックにすぎる気がして、委員諸氏に賛成者がなければ已むを得ないと思っていた。」 村上元三 59歳 全 ◎ 16 「実名の人物たちをよく消化して面白い作品になっているが、小説かドキュメントか、という点で議論がわかれ、見送られた。」「わたしには「藤田嗣治」以外に推せる作品はなかった。」 海音寺潮五郎 68歳 全 △ 15 「苦心の作であることは認める。」「相当な出来ばえであることも認める。しかし賞に値する出来ばえとは思われないのである。ただ、史伝も賞の対象になるという決定をさせたのはこの作品の功績である。」 柴田錬三郎 52歳 全 □ 12 「感心した。」「稀世のペテン師的天才画家を前後左右から観るための調査に、おそるべき執拗な努力をはらっていた。」「ずば抜けた面白さに乏しかった。」 今日出海 66歳 全 △ 13 「異色の作品であった。」「小説であろうか、伝記評伝であろうかと分類上の疑義も出て来たが、そんな形式論よりも、作品が一頭地を抜いている方が肝要な問題であろう。」「藤田がどのようなことをしたかよりも、藤田の才能に迫るものがなければ、作品の価値は出にくいことになる。」 水上勉 50歳 全 ◎ 20 「この稀代の画家について、私は知るところが少なかったので、とにかく、魅入られて読んだ。」「敢えて賞をということになれば、これしかない。そう思って出席した」「ノンフィクションであっても、人物が浮き彫りされておれば小説に迫るのであって、私は「小説」としてこの作をよんだ。」 源氏鶏太 57歳 全 △ 8 「多くの議論の対象になった。先ず伝記物を直木賞にしていいかどうかということであった。が、そのことよりもこの作品が果して文学作品になっているかということで結局見送られることになった。」 司馬遼太郎 46歳 全 △ 26 「ノンフィクションも文学の強力なジャンルである。しかしこの作品の場合は、純粋にそれでありすぎ、つまり藤田嗣治という世間衆知の名前と概念によりかかりすぎ、藤田についての談話者なども、（引用者中略）あっさりナマで出てくる。」「しかし全候補作中、読んでもっともおもしろかったのはこの作品であった。」 松本清張 60歳 全 ● 34 「なんだか聞き書きのエピソードの集成に終ったようで、作者自身のフジタに対する切り込みがない。」「これには、画の世界でいう作者のデエモンがまるきり無いのである。」「ノンフィクションが好きな私だけに、これを否定した。」

他の候補作 永岡慶之助 『紅葉山』 阿部牧郎 「われは湖の子」 河村健太郎 「おたまじゃくしは蛙の子」 藤本義一 「マンハッタン・ブルース」 平田敬 「ダイビング」 河野典生 『他人の城』 阪田寛夫 「日本の童謡」

藤本義一36歳×各選考委員　 「マンハッタン・ブルース」 短篇 100枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大佛次郎 72歳 全 ― 0   石坂洋次郎 69歳 全 ・ 2   川口松太郎 70歳 全 ― 0   村上元三 59歳 全 ■ 6 「材料も舞台も面白いのに、力みすぎている。「ちりめんじゃこ」のように、あぐらをかいた作品がほしい。」 海音寺潮五郎 68歳 全 △ 8 「皆うまいと思った。」「若い人々の技倆はここまで上ったのである。この中からぬきんでることは、なまなかの努力では追いつけまい。」 柴田錬三郎 52歳 全 ■ 8 「出来としては、八篇中随一だが、どこかで読んだことのあるようなストーリイのつまらなさは、掩いがたく、損をした。」 今日出海 66歳 全 ― 0   水上勉 50歳 全 ■ 5 「前作ほどの生彩がない。」「語り口の特異な軽快さはおもしろいのだ。」 源氏鶏太 57歳 全 ■ 5 「終末に近づくにつれて凄味が出てくるのだが、全体として発想に独自の物が感じられなかった。」 司馬遼太郎 46歳 全 ― 0   松本清張 60歳 全 ● 13 「今回も前作とは違う意味で私は推さなかった。テーマも目新しいものではないが、とりあげ方も古い。」「文章の軽重変化はあっても、作者の文体が無いと、作者の眼（あるいは思想）を感じさせない。」

他の候補作 永岡慶之助 『紅葉山』 阿部牧郎 「われは湖の子」 河村健太郎 「おたまじゃくしは蛙の子」 田中穣 『藤田嗣治』 平田敬 「ダイビング」 河野典生 『他人の城』 阪田寛夫 「日本の童謡」

平田敬38歳×各選考委員　 「ダイビング」 中篇 155枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大佛次郎 72歳 全 ― 0   石坂洋次郎 69歳 全 ・ 1   川口松太郎 70歳 全 ― 0   村上元三 59歳 全 ■ 5 「全体に張りつめたものは感じられるが、読み終って印象が薄いのは、構成力に欠点があるからだろう。」 海音寺潮五郎 68歳 全 △ 8 「皆うまいと思った。」「若い人々の技倆はここまで上ったのである。この中からぬきんでることは、なまなかの努力では追いつけまい。」 柴田錬三郎 52歳 全 ― 0   今日出海 66歳 全 ― 0   水上勉 50歳 全 ― 0   源氏鶏太 57歳 全 ■ 3 「力作であるが、何かもうひとつ欠けているような気がした。」 司馬遼太郎 46歳 全 ― 0   松本清張 60歳 全 ― 0	他の候補作 永岡慶之助 『紅葉山』 阿部牧郎 「われは湖の子」 河村健太郎 「おたまじゃくしは蛙の子」 田中穣 『藤田嗣治』 藤本義一 「マンハッタン・ブルース」 河野典生 『他人の城』 阪田寛夫 「日本の童謡」

河野典生34歳×各選考委員　 『他人の城』 長篇 663枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大佛次郎 72歳 全 ― 0   石坂洋次郎 69歳 全 ・ 1   川口松太郎 70歳 全 ― 0   村上元三 59歳 全 ■ 4 「道具立てが面白いのに、肝腎の殺人の動機や経緯が古めかしいので、がっかりさせられた。」 海音寺潮五郎 68歳 全 △ 7 「皆うまいと思った。」「若い人々の技倆はここまで上ったのである。この中からぬきんでることは、なまなかの努力では追いつけまい。」 柴田錬三郎 52歳 全 ● 9 「こういうのを、クールなハードボイルド・タッチというのであろうが、私は、採らない。ここには、うすっぺらな風俗描写が、やたらに書きならべられているばかりである。」 今日出海 66歳 全 ― 0   水上勉 50歳 全 ― 0   源氏鶏太 57歳 全 ■ 4 「なかなかの努力作だが、もうすこしすっきりとまとめて貰いたかった。」 司馬遼太郎 46歳 全 ― 0   松本清張 60歳 全 ― 0

他の候補作 永岡慶之助 『紅葉山』 阿部牧郎 「われは湖の子」 河村健太郎 「おたまじゃくしは蛙の子」 田中穣 『藤田嗣治』 藤本義一 「マンハッタン・ブルース」 平田敬 「ダイビング」 阪田寛夫 「日本の童謡」

阪田寛夫44歳×各選考委員　 「日本の童謡」 短篇 53枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 大佛次郎 72歳 全 ― 0   石坂洋次郎 69歳 全 ・ 2   川口松太郎 70歳 全 ― 0   村上元三 59歳 全 ■ 4 「前作の「わが町」と同様、捨て難いよさはあるが、所詮これは直木賞の作品ではない。」 海音寺潮五郎 68歳 全 △ 8 「冴えているという点では、これが一番だと思ったが、何せ短かすぎるので損であった。」 柴田錬三郎 52歳 全 ― 0   今日出海 66歳 全 ■ 8 「心憎いばかりに巧みであり、皮肉な批評眼も鋭いものがある。」「だからといって作品に重量感が乏しく、且つ薄手にさえ見えたのは惜しまれる。」 水上勉 50歳 全 △ 8 「阪田氏の才能は、（引用者中略）独特で、今回は「わが町」とちがった好短篇だ。だが器用につくりあげているところが気になるのだった。」 源氏鶏太 57歳 全 ■ 5 「うまい作品であり、最後に主人公の戦時中のことをあばく効果も活きているが、小品というところでとどまっている。」 司馬遼太郎 46歳 全 ― 0   松本清張 60歳 全 ― 0

他の候補作 永岡慶之助 『紅葉山』 阿部牧郎 「われは湖の子」 河村健太郎 「おたまじゃくしは蛙の子」 田中穣 『藤田嗣治』 藤本義一 「マンハッタン・ブルース」 平田敬 「ダイビング」 河野典生 『他人の城』