第76回

第75回第77回

昭和51年/1976年下半期 昭和52年/1977年1月18日決定発表／『オール讀物』昭和52年/1977年4月号選評掲載

選考委員　 水上勉 57歳 川口松太郎 77歳 今日出海 73歳 村上元三 66歳 柴田錬三郎 59歳 司馬遼太郎 53歳 源氏鶏太 64歳 石坂洋次郎 76歳 松本清張 67歳 選評総行数　 64 46 51 53 66 65 64 42 57 評 評 評 評 評 評 評 評 評 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 三好京三　『子育てごっこ』 389枚 45歳 評 ◎ 36 ◎ 17 ○ 20 ● 6 ■ 20 ◎ 15 □ 12 ■ 22 ○ 29 西村寿行　『滅びの笛』 745枚 46歳 評 ― 0 ● 8 △ 16 ■ 6 ■ 9 △ 14 ■ 4 ― 0 ■ 16 有明夏夫　「葵と芋」 126枚 40歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ● 8 ― 0 ― 0 ■ 4 ― 0 ― 0 三浦浩　『さらば静かなる時』 406枚 46歳 評 ● 9 ● 6 ― 0 ◎ 8 ◎ 11 ◎ 31 ● 7 ― 0 ● 9 宮尾登美子　『陽暉楼』 745枚 50歳 評 ■ 11 ● 8 △ 15 ● 8 ― 0 ― 0 ○ 19 ― 0 ― 0 皆川博子　『夏至祭の果て』 599枚 47歳 評 ― 0 ● 5 ― 0 ● 6 ― 0 ― 0 ○ 13 ― 0 ― 0 広瀬仁紀　『適塾の維新』 847枚 45歳 評 ― 0 ● 4 ― 0 ● 7 ― 0 ― 0 ○ 13 △ 7 ― 0                   年齢/枚数の説明   見方・注意点

水上勉57歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題温かい心田　総行数64　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 三好京三 45歳 全 ◎ 36 「作者の目は、よくゆきとどき、狡くて、かしこくて、おしゃまで、手に負えぬ少女をよく描き、教師夫妻の受け身な心理も、おもしろく納得できた。」「この作者の心田を買った。とにかく温かい。」「東北の寒地にこういう文学が芽をふいたことが嬉しい。」 西村寿行 46歳 全 ― 0   有明夏夫 40歳 全 ― 0   三浦浩 46歳 全 ● 9 「私には、主人公がどんな顔つきの人なのかさっぱりわからなかった。舞台は新しいが、人間が通念にたよって描かれている。そうなると、つくり話が急に色あせる頁がある。」 宮尾登美子 50歳 全 ■ 11 「きめこまかい筆はこびには敬服したものの、枚数に比して感銘がいま一つよわい。」「光った描写もあり、この人独自の眼がゆきとどいて、高知の遊郭のけしきは躍如としているが、小説とはむずかしい。」 皆川博子 47歳 全 ― 0   広瀬仁紀 45歳 全 ― 0

他の選考委員 川口松太郎 今日出海 村上元三 柴田錬三郎 司馬遼太郎 源氏鶏太 石坂洋次郎 松本清張

川口松太郎77歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題私だけの杞憂　総行数46　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 三好京三 45歳 全 ◎ 17 「「子育てごっこ」だけが小説らしい小説だった。モデルのある作品なのでモデルの人物論から始まった批判は、作家にとって気の毒だった。」「入賞したのは当然だったし、よかったと思う。」「教育出身者の一つの型の中に落ちないように要心して欲しい。」 西村寿行 46歳 全 ● 8 「空想としては面白いのだが度がすぎて好意の持てなかった点は残念だ。この種の作品は、荒唐無稽にすぎると腹が立って来る。鼠の大群を山の中だけで納めて真実性を保たせればよかったのではないか。」 有明夏夫 40歳 全 ― 0   三浦浩 46歳 全 ● 6 「ロンドン、パリも推理小説としては幼稚の感をまぬかれない。舞台装置と人物とがととのっていて、肝心のストオリイがつまらない。」 宮尾登美子 50歳 全 ● 8 「読んでいていらいらした。この作家は省略ということを知らない。」「勉強のし直しだな。」 皆川博子 47歳 全 ● 5 「作品として水準に達していない。いずれもあと一勉強。」 広瀬仁紀 45歳 全 ● 4 「作品として水準に達していない。いずれもあと一勉強。」

他の選考委員 水上勉 今日出海 村上元三 柴田錬三郎 司馬遼太郎 源氏鶏太 石坂洋次郎 松本清張

今日出海73歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題詮考を終えて　総行数51　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 三好京三 45歳 全 ○ 20 「多数決の結果ではあるが、この結果に不満を表明するいわれは毫もない。」「自然児の面倒を見る教師夫妻の善良さが私には倫理的な意味でなく美しかった。作品も素直な佳品であったことに違いはない。」 西村寿行 46歳 全 △ 16 「驚くべき豊饒な想像力の作品だ。」「構想は尨大だが、この結末は意外に呆気ない。」「しかしこのような想像力はこれ亦凡庸な作家の持ち得るものではない。」 有明夏夫 40歳 全 ― 0   三浦浩 46歳 全 ― 0   宮尾登美子 50歳 全 △ 15 「作者は主人公の悲劇よりも陽暉楼という（引用者中略）大店の構造や組織やそこに働く人々（芸妓の群像）等々を描くことに熱心というより仔細綿密になりすぎて、ドラマは単純。」「しかし作者の力倆と熱情の持続性は容易には見出せぬ非凡な才能というべきかも知れない。」 皆川博子 47歳 全 ― 0   広瀬仁紀 45歳 全 ― 0

他の選考委員 水上勉 川口松太郎 村上元三 柴田錬三郎 司馬遼太郎 源氏鶏太 石坂洋次郎 松本清張

村上元三66歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題直木賞の条件　総行数53　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 三好京三 45歳 全 ● 6 「モデルで得をしているし、文章も素直だが、職業作家として立って行ける新人を選ぶのが直木賞の条件とすると、いまだに疑問が残る。」 西村寿行 46歳 全 ■ 6 「ぐんぐん読ませて行く筆力は買うものの、東へ消えたイタチとノスリが、鼠群を食いつくすあたりを、もっとていねいに書いてほしかった。」 有明夏夫 40歳 全 ● 8 「面白いところに眼をつけているが、旗本の江守昇之助よりも、もっと百姓の勘八を浮びあがらせて描くべきだったと思う。」 三浦浩 46歳 全 ◎ 8 「こんどの候補作七篇のうち、ただ一つ直木賞に値する作品だと思った。不自然な箇所はあるが、読みやすいし、最後のひねりも効いている。しかし、賛成者が少いのは残念であった。」 宮尾登美子 50歳 全 ● 8 「丹念に高知の芸者の世界を書いているが、ところどころ腑に落ちないところがあるし、登場人物も月並すぎる。」 皆川博子 47歳 全 ● 6 「キリシタン物に有り勝ちな、泥沼に足を突っ込んで出られないようなじれったさがあるし、主人公の市之助を持て余している感じがする。」 広瀬仁紀 45歳 全 ● 7 「もっと資料から離れて、新選組などに寄り道をせず、斧吉と太郎を中心に書くべきではなかったろうか。福沢諭吉別伝と副題にしているのに、福沢が作品からはみ出てしまった。」

他の選考委員 水上勉 川口松太郎 今日出海 柴田錬三郎 司馬遼太郎 源氏鶏太 石坂洋次郎 松本清張

柴田錬三郎59歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題絵空事の面白さ　総行数66　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 三好京三 45歳 全 ■ 20 「出来ばえを、否定はしない。しかし、この作品は、“きだ・みのる”という奇人が実在したからこそ、つくられたのであり、一応まとまっている、というだけで、私には、一片の感動さえなかった。」 西村寿行 46歳 全 ■ 9 「迫力に於ては、最も秀れていたが、結末がお粗末すぎた。」「さらにいけないのは、イギリスのパニック小説で、ロンドンを鼠が食いつくす「ザ・ラッツ」がすでに書かれていることである。」 有明夏夫 40歳 全 ― 0   三浦浩 46歳 全 ◎ 11 「このスリラー小説には、現代の息吹きがある。ロンドン・パリ・京都を舞台にして、その視点を、今日の地球上の情勢の無気味な陰の世界へ置いている。」「リアリティがない、という批判もあったが、はじめから作りものに、リアリティがあるはずがない。」 宮尾登美子 50歳 全 ― 0   皆川博子 47歳 全 ― 0   広瀬仁紀 45歳 全 ― 0     「私は、直木賞は、「花も実もある絵そらごと」の面白さを、いかに巧妙に、現代の視点で書いたか――そういう小説に、与えるべきだ、と考える。」

他の選考委員 水上勉 川口松太郎 今日出海 村上元三 司馬遼太郎 源氏鶏太 石坂洋次郎 松本清張

司馬遼太郎53歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題こども・おとな　総行数65　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 三好京三 45歳 全 ◎ 15 「小説としての完成度も高く、何賞であれ、十分受賞に値する作品とおもわれた。」 西村寿行 46歳 全 △ 14 「自然破壊の現実を前提に、それによっておこる特殊な自然の異常肥大をたんねんに書き、それが、人間を文明からひきずり出して弱い一個の自然物に化せしめることによって報復するという主題を活劇的な小説に仕立てたものである。」 有明夏夫 40歳 全 ― 0   三浦浩 46歳 全 ◎ 31 「事件が、ナチの残党の再建への欲望というひどく古典的な核によって成立しているのもおもしろい。」「（引用者注：このような）小説は子供っぽい想像性から創造されるだけに、高い知性と文章力が必要とされる」「私は（引用者注：「子育てごっこ」と「さらば静かなる時」の）両作品を推したのだが、「さらば……」は多くの賛成は得なかった。」 宮尾登美子 50歳 全 ― 0   皆川博子 47歳 全 ― 0   広瀬仁紀 45歳 全 ― 0

他の選考委員 水上勉 川口松太郎 今日出海 村上元三 柴田錬三郎 源氏鶏太 石坂洋次郎 松本清張

源氏鶏太64歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題強いて反対せず　総行数64　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 三好京三 45歳 全 □ 12 「授賞に反対だった訳ではない。終始、好意をもって読んだし、読了後の爽やかさも格別であった。」「ただ、芥川賞と直木賞の区別がある以上、すくなくとも直木賞的でないと、初めから別にしていた。」 西村寿行 46歳 全 ■ 4 「妙ないい方になるが、達者で面白過ぎた。ある種の水々しさがあったらと思った。」 有明夏夫 40歳 全 ■ 4 「私に珍しい題材であった。さりげなく書いてあるところがいいのだが、それだけに迫力にやや欠けていた。」 三浦浩 46歳 全 ● 7 「残念ながら私の好みでなかったというの他はない。が、そういう癖のある作品を書いた作者の今後は、寧ろ嘱望されるのかも知れない。」 宮尾登美子 50歳 全 ○ 19 「昭和初年の高知の花柳界の因習をこれでもかこれでもかとばかりに克明に描き、その間の人情を、更には薄幸な芸者が若くして死ぬまでを描いた力作であった。この作品を古風と評するのはたやすいが、しかし、だからこそ作者は敢て書く気になったのでなかろうか。」 皆川博子 47歳 全 ○ 13 「キリシタン弾圧の頃に、殉教者としてでなく、自らの意思で棄教し、そのために二重にも三重にも苦しみ、それに必死に堪えていく青年の行動が綿密に描いてあり、私の胸を打った。」 広瀬仁紀 45歳 全 ○ 13 「書きたいように奔放に書いてあって、面白く読ませる。しかし、この面白さは、私がこの時代のことをあまり知らないせいであって、他の委員には雑で平凡と感じられたのであろう。」

他の選考委員 水上勉 川口松太郎 今日出海 村上元三 柴田錬三郎 司馬遼太郎 石坂洋次郎 松本清張

石坂洋次郎76歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題五点満点の三点　総行数42　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 三好京三 45歳 全 ■ 22 「私はその作品のモデルらしい文学者の噂話を聞いたことがあったので、多少の興味はそそられたが、本賞として選ぶわけにはいかなかった。」「文学作品として選べる筋合いのものではなかったのである。」 西村寿行 46歳 全 ― 0   有明夏夫 40歳 全 ― 0   三浦浩 46歳 全 ― 0   宮尾登美子 50歳 全 ― 0   皆川博子 47歳 全 ― 0   広瀬仁紀 45歳 全 △ 7 「私は「慶応義塾」出身なので（引用者中略）興味をそそられたが、自分の母校であるほど註文がむずかしくなり、これも選べずに残念だった。」   「私は審査会の席上、第七十六回は入賞作品なしと提案した。」	他の選考委員 水上勉 川口松太郎 今日出海 村上元三 柴田錬三郎 司馬遼太郎 源氏鶏太 松本清張

松本清張67歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題全面的に賛成　総行数57　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 三好京三 45歳 全 ○ 29 「今回の候補作品中で小説になっているのはこれだけであり、作家を感じさせたのもこれだけである。」「ヘタな「純文学」のように平板乾燥にならないのは、わたしもその一端を垣間見ているモデルの奇矯さもさることながら作者の構成の腕である。」「はじめはその虚構性の稀薄さに直木賞的でないという一抹の危惧もあったが、受賞には全面的に賛成した。」 西村寿行 46歳 全 ■ 16 「ネズミ大群の襲来がくりかえしくりかえし書かれて後半が冗漫。」「この半分くらいの枚数にしたら仕上りがきりっとなったろう。ネズミの大群による恐怖ではすでに開高健氏の佳作「パニック」があり、一考を要する。しかし、作者の筆力は並以上に評価する。」 有明夏夫 40歳 全 ― 0   三浦浩 46歳 全 ● 9 「ナチスの匿し物をめぐるといういささか陳腐なアイデア、航空機利用の描写もリアル感なく、殺人、誘拐の筋立もありきたりなので感心しなかった。」 宮尾登美子 50歳 全 ― 0   皆川博子 47歳 全 ― 0   広瀬仁紀 45歳 全 ― 0

他の選考委員 水上勉 川口松太郎 今日出海 村上元三 柴田錬三郎 司馬遼太郎 源氏鶏太 石坂洋次郎

三好京三45歳×各選考委員　 『子育てごっこ』 中篇集2篇 389枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 水上勉 57歳 全 ◎ 36 「作者の目は、よくゆきとどき、狡くて、かしこくて、おしゃまで、手に負えぬ少女をよく描き、教師夫妻の受け身な心理も、おもしろく納得できた。」「この作者の心田を買った。とにかく温かい。」「東北の寒地にこういう文学が芽をふいたことが嬉しい。」 川口松太郎 77歳 全 ◎ 17 「「子育てごっこ」だけが小説らしい小説だった。モデルのある作品なのでモデルの人物論から始まった批判は、作家にとって気の毒だった。」「入賞したのは当然だったし、よかったと思う。」「教育出身者の一つの型の中に落ちないように要心して欲しい。」 今日出海 73歳 全 ○ 20 「多数決の結果ではあるが、この結果に不満を表明するいわれは毫もない。」「自然児の面倒を見る教師夫妻の善良さが私には倫理的な意味でなく美しかった。作品も素直な佳品であったことに違いはない。」 村上元三 66歳 全 ● 6 「モデルで得をしているし、文章も素直だが、職業作家として立って行ける新人を選ぶのが直木賞の条件とすると、いまだに疑問が残る。」 柴田錬三郎 59歳 全 ■ 20 「出来ばえを、否定はしない。しかし、この作品は、“きだ・みのる”という奇人が実在したからこそ、つくられたのであり、一応まとまっている、というだけで、私には、一片の感動さえなかった。」 司馬遼太郎 53歳 全 ◎ 15 「小説としての完成度も高く、何賞であれ、十分受賞に値する作品とおもわれた。」 源氏鶏太 64歳 全 □ 12 「授賞に反対だった訳ではない。終始、好意をもって読んだし、読了後の爽やかさも格別であった。」「ただ、芥川賞と直木賞の区別がある以上、すくなくとも直木賞的でないと、初めから別にしていた。」 石坂洋次郎 76歳 全 ■ 22 「私はその作品のモデルらしい文学者の噂話を聞いたことがあったので、多少の興味はそそられたが、本賞として選ぶわけにはいかなかった。」「文学作品として選べる筋合いのものではなかったのである。」 松本清張 67歳 全 ○ 29 「今回の候補作品中で小説になっているのはこれだけであり、作家を感じさせたのもこれだけである。」「ヘタな「純文学」のように平板乾燥にならないのは、わたしもその一端を垣間見ているモデルの奇矯さもさることながら作者の構成の腕である。」「はじめはその虚構性の稀薄さに直木賞的でないという一抹の危惧もあったが、受賞には全面的に賛成した。」

他の候補作 西村寿行 『滅びの笛』 有明夏夫 「葵と芋」 三浦浩 『さらば静かなる時』 宮尾登美子 『陽暉楼』 皆川博子 『夏至祭の果て』 広瀬仁紀 『適塾の維新』

西村寿行46歳×各選考委員　 『滅びの笛』 長篇 745枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 水上勉 57歳 全 ― 0   川口松太郎 77歳 全 ● 8 「空想としては面白いのだが度がすぎて好意の持てなかった点は残念だ。この種の作品は、荒唐無稽にすぎると腹が立って来る。鼠の大群を山の中だけで納めて真実性を保たせればよかったのではないか。」 今日出海 73歳 全 △ 16 「驚くべき豊饒な想像力の作品だ。」「構想は尨大だが、この結末は意外に呆気ない。」「しかしこのような想像力はこれ亦凡庸な作家の持ち得るものではない。」 村上元三 66歳 全 ■ 6 「ぐんぐん読ませて行く筆力は買うものの、東へ消えたイタチとノスリが、鼠群を食いつくすあたりを、もっとていねいに書いてほしかった。」 柴田錬三郎 59歳 全 ■ 9 「迫力に於ては、最も秀れていたが、結末がお粗末すぎた。」「さらにいけないのは、イギリスのパニック小説で、ロンドンを鼠が食いつくす「ザ・ラッツ」がすでに書かれていることである。」 司馬遼太郎 53歳 全 △ 14 「自然破壊の現実を前提に、それによっておこる特殊な自然の異常肥大をたんねんに書き、それが、人間を文明からひきずり出して弱い一個の自然物に化せしめることによって報復するという主題を活劇的な小説に仕立てたものである。」 源氏鶏太 64歳 全 ■ 4 「妙ないい方になるが、達者で面白過ぎた。ある種の水々しさがあったらと思った。」 石坂洋次郎 76歳 全 ― 0   松本清張 67歳 全 ■ 16 「ネズミ大群の襲来がくりかえしくりかえし書かれて後半が冗漫。」「この半分くらいの枚数にしたら仕上りがきりっとなったろう。ネズミの大群による恐怖ではすでに開高健氏の佳作「パニック」があり、一考を要する。しかし、作者の筆力は並以上に評価する。」

他の候補作 三好京三 『子育てごっこ』 有明夏夫 「葵と芋」 三浦浩 『さらば静かなる時』 宮尾登美子 『陽暉楼』 皆川博子 『夏至祭の果て』 広瀬仁紀 『適塾の維新』

有明夏夫40歳×各選考委員　 「葵と芋」 短篇 126枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 水上勉 57歳 全 ― 0   川口松太郎 77歳 全 ― 0   今日出海 73歳 全 ― 0   村上元三 66歳 全 ● 8 「面白いところに眼をつけているが、旗本の江守昇之助よりも、もっと百姓の勘八を浮びあがらせて描くべきだったと思う。」 柴田錬三郎 59歳 全 ― 0   司馬遼太郎 53歳 全 ― 0   源氏鶏太 64歳 全 ■ 4 「私に珍しい題材であった。さりげなく書いてあるところがいいのだが、それだけに迫力にやや欠けていた。」 石坂洋次郎 76歳 全 ― 0   松本清張 67歳 全 ― 0	他の候補作 三好京三 『子育てごっこ』 西村寿行 『滅びの笛』 三浦浩 『さらば静かなる時』 宮尾登美子 『陽暉楼』 皆川博子 『夏至祭の果て』 広瀬仁紀 『適塾の維新』

三浦浩46歳×各選考委員　 『さらば静かなる時』 長篇 406枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 水上勉 57歳 全 ● 9 「私には、主人公がどんな顔つきの人なのかさっぱりわからなかった。舞台は新しいが、人間が通念にたよって描かれている。そうなると、つくり話が急に色あせる頁がある。」 川口松太郎 77歳 全 ● 6 「ロンドン、パリも推理小説としては幼稚の感をまぬかれない。舞台装置と人物とがととのっていて、肝心のストオリイがつまらない。」 今日出海 73歳 全 ― 0   村上元三 66歳 全 ◎ 8 「こんどの候補作七篇のうち、ただ一つ直木賞に値する作品だと思った。不自然な箇所はあるが、読みやすいし、最後のひねりも効いている。しかし、賛成者が少いのは残念であった。」 柴田錬三郎 59歳 全 ◎ 11 「このスリラー小説には、現代の息吹きがある。ロンドン・パリ・京都を舞台にして、その視点を、今日の地球上の情勢の無気味な陰の世界へ置いている。」「リアリティがない、という批判もあったが、はじめから作りものに、リアリティがあるはずがない。」 司馬遼太郎 53歳 全 ◎ 31 「事件が、ナチの残党の再建への欲望というひどく古典的な核によって成立しているのもおもしろい。」「（引用者注：このような）小説は子供っぽい想像性から創造されるだけに、高い知性と文章力が必要とされる」「私は（引用者注：「子育てごっこ」と「さらば静かなる時」の）両作品を推したのだが、「さらば……」は多くの賛成は得なかった。」 源氏鶏太 64歳 全 ● 7 「残念ながら私の好みでなかったというの他はない。が、そういう癖のある作品を書いた作者の今後は、寧ろ嘱望されるのかも知れない。」 石坂洋次郎 76歳 全 ― 0   松本清張 67歳 全 ● 9 「ナチスの匿し物をめぐるといういささか陳腐なアイデア、航空機利用の描写もリアル感なく、殺人、誘拐の筋立もありきたりなので感心しなかった。」

他の候補作 三好京三 『子育てごっこ』 西村寿行 『滅びの笛』 有明夏夫 「葵と芋」 宮尾登美子 『陽暉楼』 皆川博子 『夏至祭の果て』 広瀬仁紀 『適塾の維新』

宮尾登美子50歳×各選考委員　 『陽暉楼』 長篇 745枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 水上勉 57歳 全 ■ 11 「きめこまかい筆はこびには敬服したものの、枚数に比して感銘がいま一つよわい。」「光った描写もあり、この人独自の眼がゆきとどいて、高知の遊郭のけしきは躍如としているが、小説とはむずかしい。」 川口松太郎 77歳 全 ● 8 「読んでいていらいらした。この作家は省略ということを知らない。」「勉強のし直しだな。」 今日出海 73歳 全 △ 15 「作者は主人公の悲劇よりも陽暉楼という（引用者中略）大店の構造や組織やそこに働く人々（芸妓の群像）等々を描くことに熱心というより仔細綿密になりすぎて、ドラマは単純。」「しかし作者の力倆と熱情の持続性は容易には見出せぬ非凡な才能というべきかも知れない。」 村上元三 66歳 全 ● 8 「丹念に高知の芸者の世界を書いているが、ところどころ腑に落ちないところがあるし、登場人物も月並すぎる。」 柴田錬三郎 59歳 全 ― 0   司馬遼太郎 53歳 全 ― 0   源氏鶏太 64歳 全 ○ 19 「昭和初年の高知の花柳界の因習をこれでもかこれでもかとばかりに克明に描き、その間の人情を、更には薄幸な芸者が若くして死ぬまでを描いた力作であった。この作品を古風と評するのはたやすいが、しかし、だからこそ作者は敢て書く気になったのでなかろうか。」 石坂洋次郎 76歳 全 ― 0   松本清張 67歳 全 ― 0

他の候補作 三好京三 『子育てごっこ』 西村寿行 『滅びの笛』 有明夏夫 「葵と芋」 三浦浩 『さらば静かなる時』 皆川博子 『夏至祭の果て』 広瀬仁紀 『適塾の維新』

皆川博子47歳×各選考委員　 『夏至祭の果て』 長篇 599枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 水上勉 57歳 全 ― 0   川口松太郎 77歳 全 ● 5 「作品として水準に達していない。いずれもあと一勉強。」 今日出海 73歳 全 ― 0   村上元三 66歳 全 ● 6 「キリシタン物に有り勝ちな、泥沼に足を突っ込んで出られないようなじれったさがあるし、主人公の市之助を持て余している感じがする。」 柴田錬三郎 59歳 全 ― 0   司馬遼太郎 53歳 全 ― 0   源氏鶏太 64歳 全 ○ 13 「キリシタン弾圧の頃に、殉教者としてでなく、自らの意思で棄教し、そのために二重にも三重にも苦しみ、それに必死に堪えていく青年の行動が綿密に描いてあり、私の胸を打った。」 石坂洋次郎 76歳 全 ― 0   松本清張 67歳 全 ― 0	他の候補作 三好京三 『子育てごっこ』 西村寿行 『滅びの笛』 有明夏夫 「葵と芋」 三浦浩 『さらば静かなる時』 宮尾登美子 『陽暉楼』 広瀬仁紀 『適塾の維新』

広瀬仁紀45歳×各選考委員　 『適塾の維新』 長篇 847枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 水上勉 57歳 全 ― 0   川口松太郎 77歳 全 ● 4 「作品として水準に達していない。いずれもあと一勉強。」 今日出海 73歳 全 ― 0   村上元三 66歳 全 ● 7 「もっと資料から離れて、新選組などに寄り道をせず、斧吉と太郎を中心に書くべきではなかったろうか。福沢諭吉別伝と副題にしているのに、福沢が作品からはみ出てしまった。」 柴田錬三郎 59歳 全 ― 0   司馬遼太郎 53歳 全 ― 0   源氏鶏太 64歳 全 ○ 13 「書きたいように奔放に書いてあって、面白く読ませる。しかし、この面白さは、私がこの時代のことをあまり知らないせいであって、他の委員には雑で平凡と感じられたのであろう。」 石坂洋次郎 76歳 全 △ 7 「私は「慶応義塾」出身なので（引用者中略）興味をそそられたが、自分の母校であるほど註文がむずかしくなり、これも選べずに残念だった。」 松本清張 67歳 全 ― 0

他の候補作 三好京三 『子育てごっこ』 西村寿行 『滅びの笛』 有明夏夫 「葵と芋」 三浦浩 『さらば静かなる時』 宮尾登美子 『陽暉楼』 皆川博子 『夏至祭の果て』