クセモノ篇
書名と受賞作名の異なる本を読む。
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今は「直木賞のすべて」という便利なサイトがあり(!)、受賞作が何という出版社の何という本に収録されているのか、おおよそわかるようになっているけれど、通常「直木賞受賞作一覧」は、作家名と受賞作名が羅列してあるに過ぎません。受賞作名と書名が一致していれば、本屋や図書館に行っても迷うことなく、容易に読むことができるのですが、そうでない作品もあります。 書名と受賞作名が異なる、かつその本が結構簡単に入手できる環境にある、という条件に当てはまるものを挙げてみると、現時点では、左の5つになるでしょう。 つい最近、安西篤子氏の受賞作が収録された短篇集が講談社から文庫化され、数か月前には伊藤桂一氏の作品も、講談社が文庫化していることと合わせてみると、「講談社、なかなかやるな」と、ほくそえみたくなります。 池波正太郎氏は、彼が直木賞受賞者だと知らない人でも、その作家名は知っている、というくらい有名な人です。書店でも、文春文庫、新潮文庫、講談社文庫の棚に行けば、きっと彼の作品がずらりと並んでいます。でも残念ながら、直木賞受賞作「錯乱」という書名の文庫は見当たりません。その書店が結構大きくて、春陽文庫まで置いてあるならば、話は早いのですが、そうでない場合、まさか新潮文庫の『真田騒動』なる本に「錯乱」が収録されていることなど、なかなかわからないものです。無念。 (左のうち、向田邦子氏『思い出トランプ』は、当連載のPart3に入れてありましたが、Part4を書くにあたり、こちらに移動させました。あしからず。) さて、久生十蘭『無月物語』なんて、書店に置いてないぞ、そもそも現代教養文庫なんてマイナーな文庫、目にしたこともない、と嘆く人もいるでしょうか。となると、いよいよ、全作読破への道も、書店から古本屋へと舞台を変えなければならない時期にきてしまったようです。書物文化を底で支える頼もしい(筈の)古本屋。出掛けるとしましょうか。 ●
ちなみに、左の5作品のうち、サイト管理者(P.L.B.)が独断と偏見で、お勧めを選ぶとするなら、かなり迷った挙句に戸板康二氏「團十郎切腹事件」。実は第42回戸板氏の受賞作は、「團十郎切腹事件」その他、であって探偵役・中村雅楽シリーズ全般に賞が与えられています。この授賞には私も同感。決して「團十郎切腹事件」が傑作とは思わないんですが、同シリーズが日本ミステリ史上において大きな位置を占めることは否定できません。「全作読破」を目指す人は、ぜひ中村雅楽シリーズのほかの作品も読んでみてください。 Part5は、準上級篇「古本屋で探して読む」です。 [H12]2000/11/11にUploadしました。 Part5へ |