選評の概要
83. 84. 85.86. 87. 88. 89. 90.
91. 92. 93. 94. 95.
96. 97. 98. 99. 100.
101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113.
生没年月日【注】 | 大正15年/1926年11月3日~平成7年/1995年8月30日 | |
在任期間 | 第83回~第113回(通算15.5年・31回) | |
在任年齢 | 53歳7ヶ月~68歳7ヶ月 | |
経歴 | 東京府生まれ。国学院大学文学部卒。 | |
受賞歴・候補歴 | ||
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個人全集 | 『山口瞳大全』全11巻(平成4年/1992年10月~平成5年/1993年9月・新潮社刊) | |
直木賞候補歴 | 第48回受賞 「江分利満氏の優雅な生活」(『婦人画報』昭和36年/1961年10月号~昭和37年/1962年8月号) |
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サイト内リンク | ▼直木賞受賞作全作読破への道Part3 |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 山口瞳 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
神吉拓郎 | 52歳 |
◎ | 21 | 「「ブラックバス」は(引用者中略)発表当時、清潔で不気味な詩情を湛えた名作だと思ったが、今回読みなおして一層の強い感動があった。むろん、これを第一に推したが大方の賛同が得られなかったのが残念だった。神吉さんは、東京の上流階級、中流階級、特にその女性心理の描ける得難い作家だと思っている。」 |
48歳 |
○ | 15 | 「どうしてもこれが書きたかったという作者の熱気が直かに伝わってくる。また、ストーリーは平凡だが、エピソードがいちいち面白かった。ただし、文章には気負い過ぎがあって案外に読み辛い。最初の作品だから仕方がないが――。」 | |
栗山良八郎 | (52歳) |
○ | 8 | 「一気に読んだ。こういう作品は資料的にも残したいという気持が強かったが、小説としてイマイチと言われれば、引きさがらざるをえない。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和56年/1981年10月号 |
選考委員 山口瞳 55歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
村松友視 | 41歳 |
◎ | 10 | 「第一京浜国道立会川附近の埃っぽい感じと羽田埋立地水路の索漠とが完璧に描かれているうえに話の転結が面白く、上々の風俗小説となっている。」「前回と較べて格段の進歩があるところから将来性を買って、これを第一に推した。」 |
33歳 |
○ | 10 | 「ともかく面白い作品で、何度も笑ったり唸ったりした。銀ちゃんがいい。」「いまの若者の受身の姿勢がマゾヒズムに拡大され、一種の恍惚境を造りだす作者の手腕に感動した。」 | |
49歳 |
● | 6 | 「長過ぎるし、固い。小説にするには、もっと語り口や筋立てに工夫があってしかるべきではないか。」 | |
「七篇の甲乙はつけ難く、豊作貧乏の感がある。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』昭和57年/1982年4月号 |
選考委員 山口瞳 55歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
胡桃沢耕史 | 57歳 |
◎ | 12 | 「スッキリした仕上りで、まことに面白く、B級アメリカ映画の傑作という趣きがあり、こういう分野の受賞があってしかるべきだと思い、強く推したが、残念ながら票が集まらなかった。それ以前に、大ヴェテランの衰えぬ創作意欲に感動していた。」 |
42歳 |
○ | 28 | 「ほとんど完璧に描かれていて注文のつけようがない。小道具となる猫の扱いも巧妙をきわめる。」「これだけで小説になるかという反論はあるだろうが、私には、戻ってくる若妻の、ぐるぐる回る銀色のパラソル、ピンクのTシャツ、白いスカートが目に焼きついて離れない。」「村松さんの目は、果てしなく優しい。(引用者中略)私、村松の味方です。」 | |
51歳 |
□ | 19 | 「長いものを読むときは、一種の快感にひきずりこまれないと読み通すことが苦痛になるが、ついにその種の快感が得られなかった。」「商社マン、建築業者、フィリピンに関心のある人たちには、興味津々巻を措くあたわずという小説であろうから、そういう読者を限定する(その数は少くない)タイプの新しい小説だと思い、その点を評価した。むろん、実績のある作者の受賞に異議はない。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和57年/1982年10月号 |
選考委員 山口瞳 56歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
58歳 |
○ | 15 | 「ポルノのシミショウ(清水正二郎)から冒険小説の胡桃沢耕史への転身は容易なことではなかったはずだ。この痛快活劇の手法でもって「俘虜記」を書いたところに新味が生じた。」「とにかく面白い。爽快感がある。これは直木賞に求められていた一分野であることを疑わない。」 | |
山口洋子 | 46歳 |
○ | 16 | 「なんと言っても元手が掛っている。ジゴロ小説という分野があるとすれば、これは傑作だと言っていい。」「以上四氏(引用者注:北方謙三、山口洋子、連城三紀彦、高橋治)、なにか、近々満期になる定期預金を四口座持っている感じで、リッチな気分になった。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和58年/1983年10月号 |
選考委員 山口瞳 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
島田荘司 | 36歳 |
◎ | 48 | 「「いつか機会があったら、もう一度読み返してみたい」という気持になったのは、島田荘司の「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」だけだった。」「小説は、わくわくしながら読む、知的昂奮に駆られるということがなければ存在価値がないが、その両方を満足させられた。」「いや、それよりも、島田さんの格調の高い文章に、ほとんど感動した。」「しかるに、選考委員会では、支持者は私一人で、少なからぬショックを受けた。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和60年/1985年4月号 |
選考委員 山口瞳 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
宮脇俊三 | 58歳 |
◎ | 26 | 「こんなに欲ばった読者サービスの濃厚な小説を初めて読んだが、それがイヤミにならずに成功しているのだから驚かざるをえない。」「この短篇集は名作として長く私の記憶に残るにちがいない。格調の高さと奥の深さに脱帽!」 |
48歳 |
○ | 29 | 「「女の運命は、爪の色まで変える」といった鋭い観察も随所にあって「老梅」は純度と完成度の高い風俗小説である。この小説には強さ(原文傍点)がある。」「現在の酒場の経営者で有名作詞家とくれば色目で見られるかもしれないが、洋子さんは意外にも純情な人ではないかという気がする。こういう人は伸びると見た。」「また、私は「演歌の虫」を評価しない。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和60年/1985年10月号 |
選考委員 山口瞳 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
隆慶一郎 | 62歳 |
◎ | 17 | 「第一位に推した。吉原を城に見立てて柳生一族と戦わせるという構想が面白い。作者がノリにノッて書いているのがいい。」「私が推しきれなかったのは、ところどころに粗雑な文章がありナマな言葉が出てくるからだった。残念!」 |
泡坂妻夫 | 53歳 |
◎ | 19 | 「この作者は、偏執狂の男女を追いかけるのを得意とするが、この作品で、遂に壁を越えて自分の世界を構築した。特に女を描くのが巧い。久しぶりに情緒纏綿という作品に接して小説の面白さを堪能した。」「ただし、いつも思うのだが、トリックが弱く必然性に乏しい。」「泡坂さんも、もう推理仕立てをやめてしまったほうがいい。」 |
56歳 |
■ | 9 | 「終始、これは次点だと思いながら読んだ。選挙で言うと、次回は最高点となる力を備えているが、今回に限っては魅力に乏しい。「一人が笑うために一人が泣く」というテーマも平凡。それより文学少女臭が気になった。これは努力賞だ。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和61年/1986年10月号 |
選考委員 山口瞳 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
55歳 |
◎ | 27 | 「昭和二十年代の終りから三十年代の初めにかけて、喫茶店ブームというのがあったが、そこで無為に過す青年という設定は、まさに天の時、地の利を得たと言うべきか。」「桃色のストロー・ハットの似合う丸顔の小柄な女性である恋人がいい。」「これが稀に見る美しい青春小説になっているのは、ここに常盤さんの万感の思いが籠められているからだ。」 | |
早坂暁 | 57歳 |
◎ | 21 | 「大衆小説は、まず面白くなければ話にならないというのが僕の持論であり、この点で(引用者中略)満票に近い票を集めるものと予測したが意外な結果に終った。とにかく面白すぎるくらいに面白くて、ゲラゲラ笑わせたり泣かせたりする。」「早坂ファンである僕としては、とても残念だ。」 |
43歳 |
△ | 9 | 「冒険小説を読まない僕は、逢坂さんを論ずる資格がない。ただし、引きこまれるようにして読まされたのは逢坂さんに力量があるからだ。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年4月号 |
選考委員 山口瞳 60歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
28歳 |
◎ | 17 | 「私も不潔感なしに不仕鱈な女を書く方法がないものかと考えた時期があり、これは完全にヤラレタと思った。」「どの場合でも山田さんの文章に一種の潔さ、小気味のよさを感ずる。これはもう才能だとしか言いようがなく、この二、三年のうちに凄い小説を書きそうな予感がする。」 | |
もりたなるお | 61歳 |
◎ | 19 | 「警察官や兵隊の抱く劣等意識、劣等意識を抱かざるをえないような情況設定が見事だった。改行の多い簡潔な文章も効果的だ。もりたさんには『真贋の構図』という推理小説の傑作があり、それを勘案したうえで推したのだが私の力が足りなかった。」 |
55歳 |
■ | 12 | 「この作品に限って言えば、一番お書きになりたかったのは何だったのかという焦点が定まっていないように思った。重要人物である麗花や小金吾の死の場面でジンとくるものがなかった。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年10月号 |
選考委員 山口瞳 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
清水義範 | 42歳 |
◎ | 82 | 「この一種ハチャメチャ小説に非常なるリアリティを感じた。」「誰でもが学校教育に多少なりとも恨みを抱いていると思われるが、そこを衝いた着想が素晴らしい。」「この作者は疑いもなく上質なセンスの持主であり、かつ、強引と思われるような腕力も持ちあわせていると感じた。」「近年の直木賞候補作のなかでは群を抜く傑作であり、社会性もある問題作だと思った。」 |
57歳 |
○ | 18 | 「私は泡坂さんのファンであり彼を尊敬する者であって、(引用者中略)泡坂さんでなければ書けない台詞に接するとゾクゾクするという質の男だ。特に以前に『忍火山恋唄』という名作を落してしまったのが心の傷のように残っていたので、今回の受賞はとても嬉しい。」 | |
「今回は全体に低調だという声もあったが、私は粒が揃っていたと思っている。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成2年/1990年9月号 |
選考委員 山口瞳 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
65歳 |
○ | 47 | 「抜きん出ていて一歩も二歩もリードしている。」「いつもの力みや文学臭が消えて、端正で、いい味の文章になっている。」「下関の出てくる所、九州の田舎町の描写が哀れ深くていい。」「古川さんが純粋にもっといいものを書きたいという願いを何十年も保ち続けたことに、ただただ頭が下る思いだ。」 | |
もりたなるお | 65歳 |
○ | 16 | 「二・二六事件の全容を明らかにしたいという作者の執念に打たれた。」「第八章「蝉の声降る」の緊迫感が圧巻だと思った。私はこれが受賞作となっても少しも不思議ではないと思っていたが、意外に票数が伸びなかった。」 |
「高見順さんふうに言えば臍のある小説がない。」「今回は小説らしい小説がなかった。ほとんどが一代記か実録だった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年3月号 |
選考委員 山口瞳 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
中島らも | 39歳 |
◎ | 58 | 「才気だか才能だかわからないが、それのあるのは中島さんが一番だと思った。」「この明るい厭世主義、無手勝流の虚無主義は間違いなく新しい文学の行方を示唆しているように思われる。」「好い加減に書いているように見えるが作者は背景や小道具にも細心の注意を払っていて、それも快い。」 |
44歳 |
□ | 29 | 「「遠い記憶」が傑作だと思っている。」「誰にでもある甘美な記憶、思いだしたくない怖しい記憶という狙いは面白いが、同時に無理が生ずる。」「設定が似てきてしまって、通読するとやや靠れる感じを免れない。」「「遠い記憶」と視覚的に鮮やかな「言えない記憶」があるので、私は中島らもさんが除外された後ではこの短篇集を支持することになった。」 | |
46歳 |
● | 46 | 「私は買わない。」「藩の内紛のことを書きたかったのか、マタギを書きたかったのか、狼の話を書きたかったのかがよくわからず、分裂しているように思われる。」「主人公の妻のすえはどうして山に同行しないのか、なぜ夫を拒むのか、なぜ自害したのか、よくわからない。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年3月号 |
選考委員 山口瞳 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
熊谷独 | 57歳 |
◎ | 41 | 「文章がのびのびしている。格調が高くスケールが大きい。」「卑しいところが少しもない。」「外国を舞台にした小説としては珍しく作者の腰がすわっていて、見る目が安定している。」「難点がないわけではない。(引用者中略)主人公の追われる身となる原因がやや曖昧。これは何しろ野蛮国ロシヤの話だから、精しく書くと商社マンであったらしい作者の身に危険が及ぶのではないかといったように好意的に解釈した。」 |
52歳 |
○ | 37 | 「新人らしからぬ悠々たる筆の運びに先ず魅了された。」「この小説のお手柄は何といっても、江戸時代の裁判という未知の世界を再現してくれたことだろう。」「読者の襟髪を?んで、その場に放り込むような描写は見事というほかはない。」「ただし、この小説の瑕瑾もそこにあるのであって、裁判そのものの経過がわかりにくくゴタゴタしている。」 | |
37歳 |
□ | 25 | 「こういう小説、私は読み馴れないのだが、なかなか面白くて上等だと思った。文章のテムポがいい。」「その上で無いもの強請りを言うのだが、この小説には哲学がない。(引用者中略)麻薬犯も鮫島も愛人の晶も、恰好はついているが、奥が無くて薄いものになってしまっている。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年3月号 |