選評の概要
91. 92. 93. 94. 95.96. 97. 98. 99. 100.
101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113. 114. 115.
116. 117. 118. 119. 120.
121. 122. 123. 124. 125.
126. 127. 128. 129. 130.
131. 132. 133. 134. 135.
136. 137. 138. 139. 140.
141. 142. 143. 144. 145.
146. 147. 148. 149. 150.
このページの情報は「芥川賞のすべて・のようなもの」内の「候補作家の群像 渡辺淳一」と同じものです。 | ||
生没年月日【注】 | 昭和8年/1933年10月24日~平成26年/2014年4月30日 | |
在任期間 | 第91回~第150回(通算30年・60回) | |
在任年齢 | 50歳8ヶ月~80歳2ヶ月 | |
経歴 | 北海道生まれ。札幌医科大学医学部卒。 | |
受賞歴・候補歴 |
|
|
サブサイトリンク | ||
処女作 | 「死化粧」(『新潮』昭和40年/1965年12月号) | |
個人全集 | 『渡辺淳一全集』全24巻(平成7年/1995年10月~平成9年/1997年7月・角川書店刊) | |
直木賞候補歴 | 第57回候補 「霙」(『文學界』昭和42年/1967年6月号) 第58回候補 「訪れ」(『文芸』昭和42年/1967年12月号) 第61回候補 『小説 心臓移植』(昭和44年/1969年3月・文藝春秋/ポケット文春) 第63回受賞 「光と影」(『別冊文藝春秋』111号[昭和45年/1970年3月]) |
|
サイト内リンク | ▼直木賞受賞作全作読破への道Part3 |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 渡辺淳一 50歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
36歳 |
◎ | 16 | 「一段抜きんでていた」「安定した文章とともに、小道具の出し入れも巧みで、なかなかの小説巧者である。」「強いて難点をあげれば、巧みさのあまり小説をつくりすぎる点で、子供に手紙を投書させるあたりは勇み足であろう。しかし読後、上質の蒸溜酒を飲んだようなまろみがある。」 | |
山口洋子 | 47歳 |
○ | 12 | 「よくできていた。」「山口氏は男を書いてほとんど異和感を与えない。今回の作品は二人の女のあいだで揺れる男をよく追いこんでいるが、最後で書き流してしまったのが惜しまれる。」 |
47歳 |
△ | 10 | 「書き下し長篇にしてはいささか平板で、世に出ぬ芸能人を描きながら、それらしい屈折や臭みが感じられない。」「よく調べられた力作で、作者がてんのじ村にかけた意欲を、感じることができる。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和59年/1984年10月号 |
選考委員 渡辺淳一 53歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
高橋義夫 | 41歳 |
◎ | 11 | 「資料とフィクションの部分がよく馴染み、維新という革命の非情さを背景に、追い詰めていく男と追われる者の息づかいが伝わってくる佳作であった。」「一作ならこの作品かと思って推したが、多数にはいたらなかった。しかし受賞しておかしくない出来栄えであった。」 |
55歳 |
□ | 8 | 「きわ立った鋭さはないが、安心して読める手堅さがある。強いて不満をいえば、読物すぎて、しみじみしたものに欠けるところだが、直木賞候補八回という努力には敬意を表せざるをえない。」 | |
28歳 |
□ | 19 | 「この作家の才能を認めるのにやぶさかではないが、この作品集はいかにも軽くて、小説づくりの裏が透けて見えすぎる。」「男女の小説はもう少し五官の感触みたいなものでつむぎだしていかないと、上すべりになってしまう。」「前途のある作家だけに、あえて苦言を呈して、受賞に同調した。」 | |
「今回の候補作は多彩で、それなりに読み甲斐があったが、さてここから一作をとなると、戸惑わざるをえなかった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年10月号 |
選考委員 渡辺淳一 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
藤堂志津子 | 39歳 |
◎ | 34 | 「(引用者注:最終的に残った西木、景山、藤堂のうち)最も票の少なかった藤堂志津子氏の「マドンナのごとく」を推した。この作品は一見、軽い風俗を描いているようで、読みすすむうちに、男女というよりは、オスとメスの孤独と虚ろさが浮きぼりにされてくる。」「新しい才能の出現であった。」「この種の小説を平板なリアリズムだけから批評するのは、酷というものであろう。」 |
48歳 |
○ | 22 | 「最初から反対意見がなかったように、無難に書かれた小説らしい小説であった。」「わたしの好みからいえば、「端島の女」のほうが、ひたひたと地べたを歩くような女の生きざまが滲んできて心を惹かれたが、いささか盛り上りに欠ける。二作とも、いま一つの感はあるが、手堅い人であり、受賞に異論はない。」 | |
41歳 |
● | 45 | 「景山民夫氏の才能を、わたしは否定する気はない。それどころか、大変な才気だと思うが、レポーターかプロデューサーの才で、小説家の才能とは少し違うようである。」「これを小説として読むときわめて退屈で、肝腎の人間が少しも生きていない。」「最終的に訴えようとする核実験反対や環境保護の重要さもありきたりである。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年10月号 |
選考委員 渡辺淳一 55歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
39歳 |
○ | 30 | 「一見、浮わついた風俗を描いているようで、その底に醒めた虚無や孤独が潜んでいるところが、この作品を一段、奥の深いものにしている。」「いくつかの欠点もあるが、それを越えてこれだけのロマネスクを構成した力は評価すべきであろう。」「むしろ芥川賞向きという意見もあったが、ややエンターテインメントに傾きすぎた直木賞のバランスのためにも、こうした作品の受賞は歓迎すべきである。」 | |
35歳 |
○ | 20 | 「なによりもこの作品の好ましいところは、登場人物がいずれも心優しく、それを見詰める作者の目がやわらかく全体を包みこんでいるところである。」「冗長すぎる点や、人間への視点が通俗で、清親の人間像がいま一つ浮かびあがってこないといったもの足りなさもある。しかし清親を書いたというより、江戸から東京へ移る庶民の生きざまを書いたとすると、その疵もさほど気にならなくなってくる。」 | |
笹倉明 | 40歳 |
○ | 13 | 「裁判の一審における粗雑さがいささか気になるが、心理劇としても読みごたえがある。ありきたりの殺人事件が登場しないところも新鮮で新しい推理小説の萌芽を感じさせられたが、意外に支持する人は少なかった。」 |
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年3月号 |
選考委員 渡辺淳一 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
坂東眞砂子 | 36歳 |
○ | 14 | 「緊張感のある文章で、虚構の小説空間を築きあげた力技に感服した。もっとも虚構の土台となる物語りには、ときにご都合主義や手軽さも見える」「あえて授賞ということになればこれ一作かとも思ったが、大勢を制するにはいたらなかった。」 |
「今回の候補にのぼった作品を含めて、このところ出てくる候補作のなかには、技術や方法論だけ先走って、最も大切な人間を描くという点において、首を傾げたくなる作品が多かった」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成7年/1995年3月号 |
選考委員 渡辺淳一 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
内海隆一郎 | 58歳 |
○ | 26 | 「文章が安定し、登場人物のデッサンも適格で、もっとも安心して読めた。」「今回は実在のやや癖のある人物を主人公にしたせいか、かなり引き締まったようである。それでもなお不満の声があったが、そこから先は作家の資質的なもので、そこまで責めるのは少し酷かもしれない。」 |
63歳 |
■ | 24 | 「「夜行列車」と「陽炎球場」がそれなりの出来で、文章も繊細だが、全体に負の人物に甘えすぎて、感傷に流れすぎる傾向がある。むろんそれをよしとする人はいるだろうが、そうしたつくりの裏側が見えてくると、興醒めすることもある。作中、最も新しい作品といわれる「消えたエース」が最も見劣りしたのも、気にかかるところであった。」 | |
「この上位三作(引用者注:「百面相」「夜を賭けて」「白球残映」)から受賞作を選ぶとなると、それぞれに問題があり、受賞作なし、が妥当なところかと思ったが、それでは二期続けてないことになり、このあたりが気になったことはたしかである。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成7年/1995年9月号 |
選考委員 渡辺淳一 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
篠田節子 | 40歳 |
○ | 18 | 「この人は前に、科学恐怖小説とでもいうべきものを書いていたが、それよりはるかに、今回の作品のほうが内的必然性があり、ようやく本来の鉱脈を見つけたような気がする。部分的欠点はいくつかあるが、今度の候補作のなかでは、最も人間を直視し、文学的感興を感じることができた。」 |
35歳 |
■ | 20 | 「たしかに女刑事とオジさん刑事のユニークな関係は、それなりによく書けてはいるが、これが推理小説だといわれると、おおいに疑問が生じてくる。結局、人間関係さえ書けていれば、いいではないかという意見が大勢を占めて受賞となったが、「新潮ミステリー倶楽部特別書き下ろし」と、堂々と書いてあるのだから、表示に難あり、ということになりかねない。」 | |
「(引用者注:最近の候補作は)いずれも立派な単行本で、しかも一流出版社から出されたものばかりである。」「それだけ野に遺賢がなくなったのか、それとも出版社が容易に本を出すようになったのか。」「それにしても、いまは推理小説全盛。(引用者中略)このあたりは、書くほうの問題というより、書かせるほうの問題で、推理小説にさえすれば、単行本にしてもらい易い、という思惑があるのかもしれない。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成8年/1996年9月号 |
選考委員 渡辺淳一 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
53歳 |
○ | 23 | 「なによりもまず文章が力強く、人物の出し入れも奇智に富んで、ときに凄味さえ覚える。」「しかし一篇の小説として読むとそれなりに不満がないわけではなく、(引用者中略)主人公の「世を避けて……」という生きざまがいささか甘く、いわゆる私小説としての切実感は薄い。」「ラストの心中行が大袈裟なわりに通俗で、いささか拍子抜けの感がある。」 | |
なかにし礼 | 59歳 |
○ | 16 | 「なかなかに読みごたえがあった。この作品の魅力はまず文章のセンスがいいことで、会話の巧さとともに、車谷氏とは別の意味で、文章力ある作家である。」「部分的には、兄弟という関係に頼りすぎ、自らを凝視する部分が弱いが、そのあたりは、いい意味での開き直りができれば、かなり解決できる問題かもしれない。」 |
「今回は、推理仕立ての小説が減って、それだけ普通の小説を読む楽しさを味わった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成10年/1998年9月号 |
選考委員 渡辺淳一 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
服部まゆみ | 50歳 |
◎ | 21 | 「受賞作とは別に、最も注目した」「後半にいたって、突如、謎解きに堕して魅力を失ってしまう。」「だがそうした欠陥を除いて、前半、いや三分の二くらいまでの、いわゆる闇の部分は巧みな構成と幻想的な緊張感に溢れて、秀逸である。」「今回の候補作のなかではこの作品だけが、文学的な感興に満ちていて、小説を読む楽しみを味わった。」 |
38歳 |
○ | 29 | 「単なる推理をこえて、現代の家族というか、人間模様を書きこんでいく幅の広さが魅力的である。」「いい面を認めたうえで、あえて不満をいえば、現代のいろいろな問題をそれなりに過不足なく描きはするが、そこから一歩すすめて、作家的な執念というか、こだわりのようなものが立上ってこない。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成11年/1999年3月号 |
選考委員 渡辺淳一 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
31歳 |
◎ | 37 | 「最も心を惹かれた。それは候補作のなかで、これだけが著者に切実なテーマを等身大の視点から、変に深刻ぶらずに、しかし強い迫力をもって描かれていたからである。」「一点だけ、この作家の作品を読むのは初めてであり、作品歴も少ないところが気がかりでもあった。」「この鋭さと感性があれば、他のものもそれなりに書いていけるだろう。そう思って、この作品を真先に推した。」 | |
宇江佐真理 | 50歳 |
○ | 26 | 「これまでとは異る大きな仕掛けをつくり、特異な登場人物と波瀾の人間関係を描いて楽しく読ませる。後半ドタバタめくが、久しぶりにわくわくしながら読んだ。」「史実的な不備をつかれて大きく後退した。(引用者中略)いかに巧みに史実をまるめこむかということが、(引用者中略)求められる課題かもしれない。」 |
乙川優三郎 | 47歳 |
○ | 26 | 「以前からのテーマをさらに掘りこみ、ある小藩の内紛がよく書きこまれている。とくに執政側と下級武士との相克が、現代のサラリーマン社会を彷彿とさせ、面白く読んだ。」「史実的な不備をつかれて大きく後退した。(引用者中略)いかに巧みに史実をまるめこむかということが、(引用者中略)求められる課題かもしれない。」 |
56歳 |
△ | 22 | 「大変な力作であった。」「努力はわかるが、全体の印象はやや退屈で、華やかな色がつかわれているわりには単彩の感じが残った。」「しかしこれだけの労作を仕上げた気力は見事で、若い金城氏と老練の著者の、二作受賞は悪くないと思って、賛成した。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成12年/2000年9月号 |
選考委員 渡辺淳一 71歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
37歳 |
○ | 53 | 「ある意味で斬新な小説である。」「この小説はすべて女性が主人公の、女性に関わる問題だけが描かれている」「男性だけの話に終始して、存在感のないステレオタイプの女しか登場しない小説もあるのだから、本作のような作品が評価されても当然ともいえる。」「小説は人間を、そして人と人との関わりを書くことであり、(引用者中略)もっとも安心して読める作品であった。」 | |
古処誠二 | 34歳 |
○ | 20 | 「(引用者注:「対岸の彼女」の)他には、古処誠二氏の「七月七日」に惹かれた。」「戦争の実感的な迫力という点になると、さすがに弱く、さらに小説を型にはめてつくりすぎるところがやや感銘を殺ぐが、真っ向から第二次大戦に挑んだ、その気迫と努力は評価したい。」 |
選評出典:『オール讀物』平成17年/2005年3月号 |
選考委員 渡辺淳一 72歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
恒川光太郎 | 32歳 |
◎ | 19 | 「今回、もっとも惹かれた」「なによりも想像力が豊かで、妖しい小説の現代版として説得力がある。」「ただ候補になったのが今回初めてで、未知数のところがマイナスとなり、残念な結果になった」 |
47歳 |
● | 35 | 「わたしは不満である。」「問題は人物造形で、最後の謎解きにいたるにつれて、主人公の石神がいかにもつくりものじみて、リアリティーに欠ける。」「人間を描くという姿勢はいささか安易で、もの足りない。にもかかわらず本作品が受賞したことは、かつての推理小説ブームなどを経て、近年、推理小説の直木賞へのバリアが低くなりつつあることの、一つの証左といえなくもない。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成18年/2006年3月号 |