芥川賞のすべて・のようなもの
第156回
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平成28年/2016年下半期
(平成29年/2017年1月19日決定発表/『文藝春秋』平成29年/2017年3月号選評掲載)
選考委員  吉田修一
男48歳
小川洋子
女54歳
村上龍
男64歳
高樹のぶ子
女70歳
奥泉光
男60歳
山田詠美
女57歳
宮本輝
男69歳
堀江敏幸
男53歳
島田雅彦
男55歳
川上弘美
女58歳
選評総行数  87 86 86 79 89 88 88 92 79 93
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
山下澄人 「しんせかい」
167
男50歳
40 27 59 14 16 12 18 23 11 30
加藤秀行 「キャピタル」
239
男33歳
19 5 0 11 11 17 7 17 9 4
岸政彦 「ビニール傘」
56
男49歳
20 27 0 15 21 19 26 18 17 12
古川真人 「縫わんばならん」
210
男28歳
0 21 0 8 19 20 9 17 8 13
宮内悠介 「カブールの園」
114
男38歳
8 11 24 31 19 20 24 17 34 21
                   
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『文藝春秋』平成29年/2017年3月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
吉田修一男48歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「十九歳」 総行数87 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
40 「たいていの十九歳は、自分がいる場所を生ぬるく感じている。(引用者中略)おそらく今作の主人公もまた、この生ぬるさが厭で、例えば「俺は誰かに胸ぐらを掴まれたいんだ」くらいの気持ちになって【谷】へ向かったのだと思う。ただ、やはりそこにも胸ぐらを掴んでくれるような人はいない。しかし、それが現実であり、人生であると気づく十九歳。この空振り感。そしてこの空振り感と出会えたことが、その後の人生をどれほど豊かにしたかに気づく五十歳。この三十年余りの距離こそが、本作を一流の青春小説に成らしめている。」
加藤秀行
男33歳
19 「例えば、「成功を恐れるな」とか、「できる男の7つの習慣」とか、そういった自己啓発本を三冊読めば出来上がりそうな主人公である。もちろん、そういう人間を小説にしちゃいけないと言いたいわけではない。ただ、作者がその程度の男を、どうやらかっこいいと思っているところに問題がある。」
岸政彦
男49歳
20 「例えば科学者がマウスを使って実験するように、社会学者が顔のない若者たちをサンプルのように扱い描く。」「ただ、読み終えたとき、サンプル扱いされた彼らをどう見ればいいのか分からなくなった。」「では、岸さんが描くもっと希望のある世界を読みたかったのか。いや、違う。逆にもっと残酷な世界を読みたかったのだと思う。」
古川真人
男28歳
0  
宮内悠介
男38歳
8 「「盤上の夜」などに比べて、作者の筆がどこか窮屈そうだった。もしその理由が「純文学」というバイアスからなのであれば、まったく逆である。もっと自由に、さらに大胆になってほしい。」
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他の選考委員
小川洋子
村上龍
高樹のぶ子
奥泉光
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
川上弘美
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選考委員
小川洋子女54歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
作家の本能 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
27 「(引用者注:「ビニール傘」と共に)作家の本能に逆らうようにして書かれた、ユニークな作品だった。」「山下さんは主人公の心を一切描こうとしない。」「ここに文学があるはずだ、と皆が信じている場所を、山下さんは素通りする。言葉にできないものを言葉にする、などという幻想から遠く離れた地点に立っている。そこから見える世界を描けるのは、山下さん一人である。」
加藤秀行
男33歳
5 「登場人物たちは知的で空虚な会話を延々と続ける。それが奥行きのある空虚ならば、もっと彼らに接近できたかもしれない。」
岸政彦
男49歳
27 「(引用者注:「しんせかい」と共に)作家の本能に逆らうようにして書かれた、ユニークな作品だった。」「『ビニール傘』が面白いのは、若者たち一人一人の個性を際立たせるのではなく、彼らの共通する部分に意義を見出している点だ。パッチワークを作る時、普通は柄の違いに気を取られるが、岸さんは縫い代を見ている。」「じっくり時間をかけて議論したいと思わせる魅力を持っていたにもかかわらず、早い段階で落選が決まったのは残念だった。」
古川真人
男28歳
21 「退屈な小説である。けれど、退屈で何が悪い、という態度を貫き通しているのは立派だった。決して無自覚ではない、真っすぐな覚悟が感じられた。」「ところがなぜか、(引用者注:老婆たちから)若者の視点になった途端、急激に輝きが失われてゆくように思えた。映像から声に中心が移っていったせいなのだろうか。」
宮内悠介
男38歳
11 「差別、いじめ、母娘の確執、ルーツとの出会いと断絶。(引用者中略)それらが実に巧みに織り込まれ、安定した作品に仕上がっている。ただその上手さが、私には弱さに感じられてならなかった。」
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他の選考委員
吉田修一
村上龍
高樹のぶ子
奥泉光
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
川上弘美
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選考委員
村上龍男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
選評 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
59 「10名に増えた選考委員の、ギリギリ過半数を得て、受賞が決まった。(引用者中略)わたしの記憶と印象では、熱烈な支持も、強烈な拒否もなく、芥川賞を受賞した。」「『しんせかい』には、強烈な要素が何もない。そして、わたしは、「それが現代という時代だ」と納得することはできない。葛藤や苦悩や絶望、それにはかない希望は、複雑に絡みあった現実の背後に、また最深部に、まだ潜んでいると考える。」「つまらない、わたしは『しんせかい』を読んで、そう思った。他の表現は思いつかない。「良い」でも「悪い」でもなく、「つまらない」それだけだった。」
加藤秀行
男33歳
0  
岸政彦
男49歳
0  
古川真人
男28歳
0  
宮内悠介
男38歳
24 「わたしが予想したほど評価を得られなかった。」「この作品には、「目をそむけてはいけない、隠蔽された何かを抽出し、描き出す」という作者の意志を感じた。」「おそらく『カブールの園』に足りなかったのは、作品の構成・構図を凌駕する、奔放で不可解な数行の言葉ではなかったかと思う。だが、わたしは『カブールの園』を、「つまらない」とは思わなかった。」
  「エキサイティングな選考会など、5年に1度あればいいほうなのだが、今回はまったく刺激がなかった。」
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吉田修一
小川洋子
高樹のぶ子
奥泉光
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
川上弘美
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選考委員
高樹のぶ子女70歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
挑戦と困難 総行数79 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
14 「モデルとなった塾や脚本家の先行イメージを外すと、青春小説としては物足りないし薄味。難解だったこれまでの候補作にも頭を抱えたが、このあっさり感にも困った。青春小説とは、何かが内的に起きるものではないのか。」
加藤秀行
男33歳
11 「雨降る寒いバンコクの書き出しに惹かれたが、万事受け身の主人公が自我で物語を引っ張ってくれないもどかしさと、理屈で説明される経済理論にいささか苛立った。」
岸政彦
男49歳
15 「こうした作品は苦手だが、重ねた何枚かのガラスを通して見るようなズレが、作者の視力不足や逃げやごまかしでないのは解る。」
古川真人
男28歳
8 「家系図を書きながら読まなくてはならず、魅力的な人物が居ないので退屈した。壊れた記憶や穴のあいた家を繋ぎ直さなくてはならない、というテーマはわかるが、この長さは必要ないだろう。」
宮内悠介
男38歳
31 「アメリカ在住の日本語が出来ない日系女性の心の転変を、日本語で書く、という難しい試みに挑戦している。日本語での表現と伝達無くしては「伝承」出来ないものがあり、それが異国で暮らした母と祖母、そして娘に、深いところでの断絶をもたらしていた。(引用者中略)主人公は仕事に復帰し、音楽のリミックスについてプレゼンする。リミックスとは一つの音楽を幾つもの音源に分解し再構築するテクノロジーで、過去の声も現代風に蘇らせることができる。暗示的だ。」
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山田詠美
宮本輝
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選考委員
奥泉光男60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
力量はあるが 総行数89 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
16 「若かりしあの時間を、「出来事」との距離を細心に計算しながら描いた作品で、そこに魅力はあり、さりげない叙述の流れのなかで、切実なものの感触を伝えることに成功している。けれども(引用者中略)作者の自意識の影ごときものがときおりちらつくのが邪魔になる感はあって、しかし受賞作とすることには賛成した。」
加藤秀行
男33歳
11 「題材の撰び方は興味を牽いた。が、一種のハードボイルドである本小説は、想定される物語の枠から逃れ出ることができなかった。」
岸政彦
男49歳
21 「それが誰であっても変わらぬ、その意味で個性を欠いた、互換可能な「俺」が交錯する前半部は、「個」を描くのが近代小説であるとの前提を逆手にとる方法意識に貫かれて、興味を牽き、面白く読めた。が、後半に至って、主人公が一女性に収斂して以降、方法意識はやや希薄となり、平凡な物語の様相を呈してしまったのが惜しまれる。」
古川真人
男28歳
19 「規模の大きい作者の力量を感じさせた。しかし後半の葬式へと話が移るにしたがい、小説の生動が鈍り冗漫になる印象がいなめず、作者にとっては葬式の場面は必要だったのだろうが、ならばもっと多くの「声」を導き込み、なおかつ一個の構築物となすだけの粘りと、構想力が要求されるだろう。」
宮内悠介
男38歳
19 「リーダブルな物語であることには危険がつきまとうので、本作について云うなら、主人公の女性と母親との確執というただならぬ問題が、物語を構築する目的で導入されたように見えてしまう――いや、小説は虚構なのであり、そうであるのは必然なのであるが、しかしなお、そう見せないだけの言葉の力が必要だと思われる。」
  「今回はどの候補作にも一定の質の高さがあり、しかしぜひこれを推したいと思う作品もなくてやや困った」
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吉田修一
小川洋子
村上龍
高樹のぶ子
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
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選考委員
山田詠美女57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「選評」 総行数88 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
12 「シンプル イズ ベスト。その美点を充分に生かしていて、だからこそ、ここぞというところで文章が光耀く。〈それでもこの星はものすごい速度で太陽のまわりを回っていたから、熱と光の最も届かぬ位置から抜け出して、春が来た〉……ただの文字の羅列が作者の采配次第で新品に生まれ変わる見本。お見事。」
加藤秀行
男33歳
17 「その多くは男の作家によって書かれたものだが、時折、ある種の小説世界の中には不思議な男性登場人物が棲息している。」「この作品にもそういう「何様!?」な男が登場する訳よ。かぎかっこの中では口語体で喋ってよ、お願い。上から目線の面倒臭い人たちにうんざり。」
岸政彦
男49歳
19 「題名が効いていない感じ。(引用者中略)小説の短かさにおいて、思わせぶりは邪魔になる。」「ただ、このはきだめ感は悪くない。もう少しだけ、すり切れた魅力が出ていればなあ、と感じた。シャビーな情景で読者を引き付けておくのは難しいのだ。」
古川真人
男28歳
20 「長過ぎる。作者が思っているほど、この一族の話はおもしろくない。」「小説の中で方言がきらめくためには、それに馴染みのない読者への細心の注意を払った演出がなされていなくてはならない。」「そして、田舎の葬儀はよほどの企みと力量をもって描けなければ退屈な他人事のままだ。」
宮内悠介
男38歳
20 「候補作の中で、もっともまとまっていて破綻がない。時々、上手だなあ、と感心する箇所もある。」「でも、何だろう、そつがなさ過ぎて物足りない。〈マイノリティがどう生きるかは、当の本人がきめるということだ〉……そうだけど。でも、それ、もっとずっと大変なことじゃない?」
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吉田修一
小川洋子
村上龍
高樹のぶ子
奥泉光
宮本輝
堀江敏幸
島田雅彦
川上弘美
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選考委員
宮本輝男69歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
きめ手なしの五篇 総行数88 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
18 「主人公である十九歳の寡黙な青年は、寡黙なのではなく語彙を持っていないだけであり、それはじつは作者その人の語彙不足なのではないかという懸念を払うことができなかった。」「実際に存在した北海道の演劇塾での一年間には、もっとどろどろした人間の葛藤があったはずだが、作者はそれを避けてしまっている。その点も大きな不満だった。」
加藤秀行
男33歳
7 「委員たちの点数が最も低かった。上手下手ではなく、小説全体に鼻持ちならないエリート意識が滲み出ていて、最後まで読み切るのは苦行だった。」
岸政彦
男49歳
26 「最初に登場するタクシー運転手が、次にどのように再登場したのか。あのガールズバーの女と、次に出てくる女は同じ人間なのか。そこのところをもう少し読む人にわかるように書くべきであろう。あえてわからなくさせることが純文学的だと考えているなら、それはおおいなる錯誤である。」「岸さんのディテールの描写が卓越しているだけに、苦言を呈しておきたい。」
古川真人
男28歳
9 「丁寧に書かれた佳品だが、なんにしても退屈だ。あまりに長すぎる。主人公のふたりの老婦の過去の平凡な追憶だけでは、読者を最後までつれて行くことはできない。」
宮内悠介
男38歳
24 「私は(引用者中略)一番に置いたが、なにかが足りない。なにかが足りないというのは、評される側にとっては最も腹立たしい無責任な批判のされ方だと充分にわかってはいるが、そういう言い方しかないのである。」「作者は(引用者注:主人公が、日系人収容所に入れられた祖父母や同胞たちの痕跡に触れる旅について)旅人のように通り過ぎてしまう。その地で生きる人ではない旅人の目線だ。強く推せなかった第一の理由ということになる。」
  「今回は拮抗していた。ドングリの背比べという拮抗の仕方で、私はどれも芥川賞として強く推せなかった。」
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吉田修一
小川洋子
村上龍
高樹のぶ子
奥泉光
山田詠美
堀江敏幸
島田雅彦
川上弘美
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選考委員
堀江敏幸男53歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
心のざわつき―選評 総行数92 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
23 「最小限の糸で自分の過去を縫う。それが山下澄人さんの「しんせかい」である。」「使っているうちに濁ってくる感情を縫う糸が、ところどころで切れている。にもかかわらず、読後、一瞬の間を置いてこちらの心がざわつきはじめる。「しんせかい」は、読者の胸にある。そこに惹かれた。」
加藤秀行
男33歳
17 「やや気取りのある箴言の速度を持った明晰な語りが印象的だ。」「安定した語りが、不安定な心の資本を吸い取っていく。そこに、戦略上の不具合があるかもしれない。」
岸政彦
男49歳
18 「ここに並んでいるのは、自分の居場所を探している途中で誰かに接したときに生まれる、使い捨て可能な、距離のある思いやりだ。困っている相手に差し出しても、返して欲しいとは思わないビニール傘。これは貸し借りをはみ出した何かのあらわれだろう。」「第二部では、そのような意味での傘にわずかな破れ目が生じている。」
古川真人
男28歳
17 「亡くなった祖母が、葬儀の席の、親族の思い出話のなかで元気に息づいているのを見て、孫息子は、さみしさといった感情とは「何か別のもの」をつかむ。これもまた、伝承できないものの伝承のひとつであるとはいえ、縫い合わせるための糸が少し長すぎた。」
宮内悠介
男38歳
17 「彼女(引用者注:主人公)が少女時代に味わった、人種差別的な虐め、第二次大戦中に祖父母が捕虜収容所で体験した苦しみ、母親との不和と和解などが、広い視野をもって描かれる。ただ、マイノリティとして「伝承できないものを伝承する」ための切実な方法が、主人公が開発しているソフトの影響か、音楽パーツのリミックスのようにも見えてくる。」
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他の選考委員
吉田修一
小川洋子
村上龍
高樹のぶ子
奥泉光
山田詠美
宮本輝
島田雅彦
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選考委員
島田雅彦男55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
分断社会に暮らして 総行数79 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
11 「山下清の日記に通じるペーソスもあり、また人間関係の悩みも機微も排除した結果、立ち上がってくる無意味さに味があるものの、なぜこれが受賞作になるのかよくわからなかった。」
加藤秀行
男33歳
9 「描写や会話にすぐれたセンスがあるのに、企業小説にも内部告発にもなり損ね、またカフカにも村上春樹にも遠く及ばない宙ぶらりんな語り手の悲しみだけが残る作品になってしまったのには一体どんな事情があったのか?」
岸政彦
男49歳
17 「場末の光景を点描した写真集のキャプション集としては秀逸。」「社会現象のサンプリングは社会学の得意とするところではあるが、名付け得ぬものを前にした時、人はその具体性に拘泥したがるもので、そのために小説というジャンルが存在するといっても過言ではない。そんな気づきをそっと私どもに授けてくれただけでもありがたい。」
古川真人
男28歳
8 「田舎の日常を生きる人々には都会の常識を遥かに逸脱したキャラクターが少なからずいるが、今ひとつ方言と日常性の中に埋没してしまい、キャラクターとして屹立してこないのが残念。」
宮内悠介
男38歳
34 「ハードボイルド・タッチのスタイリッシュな語り口で、随所にヒューモアをちりばめ、自身のゲノムに刻まれた情報を解読してゆくように、自分を見つめ直すことができれば、どんな薬もセラピーも不要になるだろう。」「作中人物はAIを搭載したアンドロイドのようにバグの少ないメカニズムによって動いているように見える。だが、ノイズだらけの古い人間の中には宮内と人間観を共有できない人も出てくるだろう。」
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選考委員
川上弘美女58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
口ごもる 総行数93 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
山下澄人
男50歳
30 「今回の選考の場で、わたしは(引用者中略)「なんだかいいんですが、うまく説明できないんです」と、そのままのまぬけな言葉で推し、(引用者中略)」「平凡で覚えにくい名字のひとたちが十人以上でてくるのですが、そのひとたちを、ちゃんと区別できた、というあたりに、この小説の秘密があるのかもしれないと、今はにらんでいるのですが、どうでしょうか。言葉につまりながら、「しんせかい」を、いちばんに推しました。」
加藤秀行
男33歳
4 「小説の清潔な芯を、ふんだんすぎる比喩が邪魔してしまっていて、惜しかった。」
岸政彦
男49歳
12 「言葉に余分な負荷がかかっていないのに、これだけのそぎ落とされた長さの中でこれだけの濃密なものを書き上げたことがすばらしかった。ただ、作中のさまざまな断片の、つながり具合は(つながっていない具合もふくめ)、もっと意図してつくってもよかったのではないか。」
古川真人
男28歳
13 「ここにある、他人の、さしてめざましくはないけれど、なんだかつい聞き入ってしまう家の話、を語られている時の、うとうとしてしまうような気持ちのよさと、その中にある不安さは、癖になりそうです。でも、少し、長かったかな。」
宮内悠介
男38歳
21 「わたしがことにどぎりとしたのは、「日系人ではなく、日本人の目になっている」という文章。それだけしか書いていないのに、とてもたくさんのことを背後にひそませています。」「ただ、小説の中で提起されているいくつもの問題を解決しようと、作者は少しがんばりすぎてしまったかもしれない。」
  「その小説のよろしさを、言葉ではうまく表現できない小説、というものが、わたしにはあるのです。でも、「なんだかいいんですが、それをうまく説明できないんです」などと、選考の場で言っても、たぶん誰も聞いてくれません。」
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小川洋子
村上龍
高樹のぶ子
奥泉光
山田詠美
宮本輝
堀江敏幸
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受賞者・作品
山下澄人男50歳×各選考委員 
「しんせかい」
中篇 167
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉田修一
男48歳
40 「たいていの十九歳は、自分がいる場所を生ぬるく感じている。(引用者中略)おそらく今作の主人公もまた、この生ぬるさが厭で、例えば「俺は誰かに胸ぐらを掴まれたいんだ」くらいの気持ちになって【谷】へ向かったのだと思う。ただ、やはりそこにも胸ぐらを掴んでくれるような人はいない。しかし、それが現実であり、人生であると気づく十九歳。この空振り感。そしてこの空振り感と出会えたことが、その後の人生をどれほど豊かにしたかに気づく五十歳。この三十年余りの距離こそが、本作を一流の青春小説に成らしめている。」
小川洋子
女54歳
27 「(引用者注:「ビニール傘」と共に)作家の本能に逆らうようにして書かれた、ユニークな作品だった。」「山下さんは主人公の心を一切描こうとしない。」「ここに文学があるはずだ、と皆が信じている場所を、山下さんは素通りする。言葉にできないものを言葉にする、などという幻想から遠く離れた地点に立っている。そこから見える世界を描けるのは、山下さん一人である。」
村上龍
男64歳
59 「10名に増えた選考委員の、ギリギリ過半数を得て、受賞が決まった。(引用者中略)わたしの記憶と印象では、熱烈な支持も、強烈な拒否もなく、芥川賞を受賞した。」「『しんせかい』には、強烈な要素が何もない。そして、わたしは、「それが現代という時代だ」と納得することはできない。葛藤や苦悩や絶望、それにはかない希望は、複雑に絡みあった現実の背後に、また最深部に、まだ潜んでいると考える。」「つまらない、わたしは『しんせかい』を読んで、そう思った。他の表現は思いつかない。「良い」でも「悪い」でもなく、「つまらない」それだけだった。」
高樹のぶ子
女70歳
14 「モデルとなった塾や脚本家の先行イメージを外すと、青春小説としては物足りないし薄味。難解だったこれまでの候補作にも頭を抱えたが、このあっさり感にも困った。青春小説とは、何かが内的に起きるものではないのか。」
奥泉光
男60歳
16 「若かりしあの時間を、「出来事」との距離を細心に計算しながら描いた作品で、そこに魅力はあり、さりげない叙述の流れのなかで、切実なものの感触を伝えることに成功している。けれども(引用者中略)作者の自意識の影ごときものがときおりちらつくのが邪魔になる感はあって、しかし受賞作とすることには賛成した。」
山田詠美
女57歳
12 「シンプル イズ ベスト。その美点を充分に生かしていて、だからこそ、ここぞというところで文章が光耀く。〈それでもこの星はものすごい速度で太陽のまわりを回っていたから、熱と光の最も届かぬ位置から抜け出して、春が来た〉……ただの文字の羅列が作者の采配次第で新品に生まれ変わる見本。お見事。」
宮本輝
男69歳
18 「主人公である十九歳の寡黙な青年は、寡黙なのではなく語彙を持っていないだけであり、それはじつは作者その人の語彙不足なのではないかという懸念を払うことができなかった。」「実際に存在した北海道の演劇塾での一年間には、もっとどろどろした人間の葛藤があったはずだが、作者はそれを避けてしまっている。その点も大きな不満だった。」
堀江敏幸
男53歳
23 「最小限の糸で自分の過去を縫う。それが山下澄人さんの「しんせかい」である。」「使っているうちに濁ってくる感情を縫う糸が、ところどころで切れている。にもかかわらず、読後、一瞬の間を置いてこちらの心がざわつきはじめる。「しんせかい」は、読者の胸にある。そこに惹かれた。」
島田雅彦
男55歳
11 「山下清の日記に通じるペーソスもあり、また人間関係の悩みも機微も排除した結果、立ち上がってくる無意味さに味があるものの、なぜこれが受賞作になるのかよくわからなかった。」
川上弘美
女58歳
30 「今回の選考の場で、わたしは(引用者中略)「なんだかいいんですが、うまく説明できないんです」と、そのままのまぬけな言葉で推し、(引用者中略)」「平凡で覚えにくい名字のひとたちが十人以上でてくるのですが、そのひとたちを、ちゃんと区別できた、というあたりに、この小説の秘密があるのかもしれないと、今はにらんでいるのですが、どうでしょうか。言葉につまりながら、「しんせかい」を、いちばんに推しました。」
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他の候補作
加藤秀行
「キャピタル」
岸政彦
「ビニール傘」
古川真人
「縫わんばならん」
宮内悠介
「カブールの園」
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候補者・作品
加藤秀行男33歳×各選考委員 
「キャピタル」
中篇 239
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉田修一
男48歳
19 「例えば、「成功を恐れるな」とか、「できる男の7つの習慣」とか、そういった自己啓発本を三冊読めば出来上がりそうな主人公である。もちろん、そういう人間を小説にしちゃいけないと言いたいわけではない。ただ、作者がその程度の男を、どうやらかっこいいと思っているところに問題がある。」
小川洋子
女54歳
5 「登場人物たちは知的で空虚な会話を延々と続ける。それが奥行きのある空虚ならば、もっと彼らに接近できたかもしれない。」
村上龍
男64歳
0  
高樹のぶ子
女70歳
11 「雨降る寒いバンコクの書き出しに惹かれたが、万事受け身の主人公が自我で物語を引っ張ってくれないもどかしさと、理屈で説明される経済理論にいささか苛立った。」
奥泉光
男60歳
11 「題材の撰び方は興味を牽いた。が、一種のハードボイルドである本小説は、想定される物語の枠から逃れ出ることができなかった。」
山田詠美
女57歳
17 「その多くは男の作家によって書かれたものだが、時折、ある種の小説世界の中には不思議な男性登場人物が棲息している。」「この作品にもそういう「何様!?」な男が登場する訳よ。かぎかっこの中では口語体で喋ってよ、お願い。上から目線の面倒臭い人たちにうんざり。」
宮本輝
男69歳
7 「委員たちの点数が最も低かった。上手下手ではなく、小説全体に鼻持ちならないエリート意識が滲み出ていて、最後まで読み切るのは苦行だった。」
堀江敏幸
男53歳
17 「やや気取りのある箴言の速度を持った明晰な語りが印象的だ。」「安定した語りが、不安定な心の資本を吸い取っていく。そこに、戦略上の不具合があるかもしれない。」
島田雅彦
男55歳
9 「描写や会話にすぐれたセンスがあるのに、企業小説にも内部告発にもなり損ね、またカフカにも村上春樹にも遠く及ばない宙ぶらりんな語り手の悲しみだけが残る作品になってしまったのには一体どんな事情があったのか?」
川上弘美
女58歳
4 「小説の清潔な芯を、ふんだんすぎる比喩が邪魔してしまっていて、惜しかった。」
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他の候補作
山下澄人
「しんせかい」
岸政彦
「ビニール傘」
古川真人
「縫わんばならん」
宮内悠介
「カブールの園」
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候補者・作品
岸政彦男49歳×各選考委員 
「ビニール傘」
短篇 56
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉田修一
男48歳
20 「例えば科学者がマウスを使って実験するように、社会学者が顔のない若者たちをサンプルのように扱い描く。」「ただ、読み終えたとき、サンプル扱いされた彼らをどう見ればいいのか分からなくなった。」「では、岸さんが描くもっと希望のある世界を読みたかったのか。いや、違う。逆にもっと残酷な世界を読みたかったのだと思う。」
小川洋子
女54歳
27 「(引用者注:「しんせかい」と共に)作家の本能に逆らうようにして書かれた、ユニークな作品だった。」「『ビニール傘』が面白いのは、若者たち一人一人の個性を際立たせるのではなく、彼らの共通する部分に意義を見出している点だ。パッチワークを作る時、普通は柄の違いに気を取られるが、岸さんは縫い代を見ている。」「じっくり時間をかけて議論したいと思わせる魅力を持っていたにもかかわらず、早い段階で落選が決まったのは残念だった。」
村上龍
男64歳
0  
高樹のぶ子
女70歳
15 「こうした作品は苦手だが、重ねた何枚かのガラスを通して見るようなズレが、作者の視力不足や逃げやごまかしでないのは解る。」
奥泉光
男60歳
21 「それが誰であっても変わらぬ、その意味で個性を欠いた、互換可能な「俺」が交錯する前半部は、「個」を描くのが近代小説であるとの前提を逆手にとる方法意識に貫かれて、興味を牽き、面白く読めた。が、後半に至って、主人公が一女性に収斂して以降、方法意識はやや希薄となり、平凡な物語の様相を呈してしまったのが惜しまれる。」
山田詠美
女57歳
19 「題名が効いていない感じ。(引用者中略)小説の短かさにおいて、思わせぶりは邪魔になる。」「ただ、このはきだめ感は悪くない。もう少しだけ、すり切れた魅力が出ていればなあ、と感じた。シャビーな情景で読者を引き付けておくのは難しいのだ。」
宮本輝
男69歳
26 「最初に登場するタクシー運転手が、次にどのように再登場したのか。あのガールズバーの女と、次に出てくる女は同じ人間なのか。そこのところをもう少し読む人にわかるように書くべきであろう。あえてわからなくさせることが純文学的だと考えているなら、それはおおいなる錯誤である。」「岸さんのディテールの描写が卓越しているだけに、苦言を呈しておきたい。」
堀江敏幸
男53歳
18 「ここに並んでいるのは、自分の居場所を探している途中で誰かに接したときに生まれる、使い捨て可能な、距離のある思いやりだ。困っている相手に差し出しても、返して欲しいとは思わないビニール傘。これは貸し借りをはみ出した何かのあらわれだろう。」「第二部では、そのような意味での傘にわずかな破れ目が生じている。」
島田雅彦
男55歳
17 「場末の光景を点描した写真集のキャプション集としては秀逸。」「社会現象のサンプリングは社会学の得意とするところではあるが、名付け得ぬものを前にした時、人はその具体性に拘泥したがるもので、そのために小説というジャンルが存在するといっても過言ではない。そんな気づきをそっと私どもに授けてくれただけでもありがたい。」
川上弘美
女58歳
12 「言葉に余分な負荷がかかっていないのに、これだけのそぎ落とされた長さの中でこれだけの濃密なものを書き上げたことがすばらしかった。ただ、作中のさまざまな断片の、つながり具合は(つながっていない具合もふくめ)、もっと意図してつくってもよかったのではないか。」
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他の候補作
山下澄人
「しんせかい」
加藤秀行
「キャピタル」
古川真人
「縫わんばならん」
宮内悠介
「カブールの園」
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候補者・作品
古川真人男28歳×各選考委員 
「縫わんばならん」
中篇 210
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉田修一
男48歳
0  
小川洋子
女54歳
21 「退屈な小説である。けれど、退屈で何が悪い、という態度を貫き通しているのは立派だった。決して無自覚ではない、真っすぐな覚悟が感じられた。」「ところがなぜか、(引用者注:老婆たちから)若者の視点になった途端、急激に輝きが失われてゆくように思えた。映像から声に中心が移っていったせいなのだろうか。」
村上龍
男64歳
0  
高樹のぶ子
女70歳
8 「家系図を書きながら読まなくてはならず、魅力的な人物が居ないので退屈した。壊れた記憶や穴のあいた家を繋ぎ直さなくてはならない、というテーマはわかるが、この長さは必要ないだろう。」
奥泉光
男60歳
19 「規模の大きい作者の力量を感じさせた。しかし後半の葬式へと話が移るにしたがい、小説の生動が鈍り冗漫になる印象がいなめず、作者にとっては葬式の場面は必要だったのだろうが、ならばもっと多くの「声」を導き込み、なおかつ一個の構築物となすだけの粘りと、構想力が要求されるだろう。」
山田詠美
女57歳
20 「長過ぎる。作者が思っているほど、この一族の話はおもしろくない。」「小説の中で方言がきらめくためには、それに馴染みのない読者への細心の注意を払った演出がなされていなくてはならない。」「そして、田舎の葬儀はよほどの企みと力量をもって描けなければ退屈な他人事のままだ。」
宮本輝
男69歳
9 「丁寧に書かれた佳品だが、なんにしても退屈だ。あまりに長すぎる。主人公のふたりの老婦の過去の平凡な追憶だけでは、読者を最後までつれて行くことはできない。」
堀江敏幸
男53歳
17 「亡くなった祖母が、葬儀の席の、親族の思い出話のなかで元気に息づいているのを見て、孫息子は、さみしさといった感情とは「何か別のもの」をつかむ。これもまた、伝承できないものの伝承のひとつであるとはいえ、縫い合わせるための糸が少し長すぎた。」
島田雅彦
男55歳
8 「田舎の日常を生きる人々には都会の常識を遥かに逸脱したキャラクターが少なからずいるが、今ひとつ方言と日常性の中に埋没してしまい、キャラクターとして屹立してこないのが残念。」
川上弘美
女58歳
13 「ここにある、他人の、さしてめざましくはないけれど、なんだかつい聞き入ってしまう家の話、を語られている時の、うとうとしてしまうような気持ちのよさと、その中にある不安さは、癖になりそうです。でも、少し、長かったかな。」
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他の候補作
山下澄人
「しんせかい」
加藤秀行
「キャピタル」
岸政彦
「ビニール傘」
宮内悠介
「カブールの園」
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候補者・作品
宮内悠介男38歳×各選考委員 
「カブールの園」
短篇 114
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉田修一
男48歳
8 「「盤上の夜」などに比べて、作者の筆がどこか窮屈そうだった。もしその理由が「純文学」というバイアスからなのであれば、まったく逆である。もっと自由に、さらに大胆になってほしい。」
小川洋子
女54歳
11 「差別、いじめ、母娘の確執、ルーツとの出会いと断絶。(引用者中略)それらが実に巧みに織り込まれ、安定した作品に仕上がっている。ただその上手さが、私には弱さに感じられてならなかった。」
村上龍
男64歳
24 「わたしが予想したほど評価を得られなかった。」「この作品には、「目をそむけてはいけない、隠蔽された何かを抽出し、描き出す」という作者の意志を感じた。」「おそらく『カブールの園』に足りなかったのは、作品の構成・構図を凌駕する、奔放で不可解な数行の言葉ではなかったかと思う。だが、わたしは『カブールの園』を、「つまらない」とは思わなかった。」
高樹のぶ子
女70歳
31 「アメリカ在住の日本語が出来ない日系女性の心の転変を、日本語で書く、という難しい試みに挑戦している。日本語での表現と伝達無くしては「伝承」出来ないものがあり、それが異国で暮らした母と祖母、そして娘に、深いところでの断絶をもたらしていた。(引用者中略)主人公は仕事に復帰し、音楽のリミックスについてプレゼンする。リミックスとは一つの音楽を幾つもの音源に分解し再構築するテクノロジーで、過去の声も現代風に蘇らせることができる。暗示的だ。」
奥泉光
男60歳
19 「リーダブルな物語であることには危険がつきまとうので、本作について云うなら、主人公の女性と母親との確執というただならぬ問題が、物語を構築する目的で導入されたように見えてしまう――いや、小説は虚構なのであり、そうであるのは必然なのであるが、しかしなお、そう見せないだけの言葉の力が必要だと思われる。」
山田詠美
女57歳
20 「候補作の中で、もっともまとまっていて破綻がない。時々、上手だなあ、と感心する箇所もある。」「でも、何だろう、そつがなさ過ぎて物足りない。〈マイノリティがどう生きるかは、当の本人がきめるということだ〉……そうだけど。でも、それ、もっとずっと大変なことじゃない?」
宮本輝
男69歳
24 「私は(引用者中略)一番に置いたが、なにかが足りない。なにかが足りないというのは、評される側にとっては最も腹立たしい無責任な批判のされ方だと充分にわかってはいるが、そういう言い方しかないのである。」「作者は(引用者注:主人公が、日系人収容所に入れられた祖父母や同胞たちの痕跡に触れる旅について)旅人のように通り過ぎてしまう。その地で生きる人ではない旅人の目線だ。強く推せなかった第一の理由ということになる。」
堀江敏幸
男53歳
17 「彼女(引用者注:主人公)が少女時代に味わった、人種差別的な虐め、第二次大戦中に祖父母が捕虜収容所で体験した苦しみ、母親との不和と和解などが、広い視野をもって描かれる。ただ、マイノリティとして「伝承できないものを伝承する」ための切実な方法が、主人公が開発しているソフトの影響か、音楽パーツのリミックスのようにも見えてくる。」
島田雅彦
男55歳
34 「ハードボイルド・タッチのスタイリッシュな語り口で、随所にヒューモアをちりばめ、自身のゲノムに刻まれた情報を解読してゆくように、自分を見つめ直すことができれば、どんな薬もセラピーも不要になるだろう。」「作中人物はAIを搭載したアンドロイドのようにバグの少ないメカニズムによって動いているように見える。だが、ノイズだらけの古い人間の中には宮内と人間観を共有できない人も出てくるだろう。」
川上弘美
女58歳
21 「わたしがことにどぎりとしたのは、「日系人ではなく、日本人の目になっている」という文章。それだけしか書いていないのに、とてもたくさんのことを背後にひそませています。」「ただ、小説の中で提起されているいくつもの問題を解決しようと、作者は少しがんばりすぎてしまったかもしれない。」
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他の候補作
山下澄人
「しんせかい」
加藤秀行
「キャピタル」
岸政彦
「ビニール傘」
古川真人
「縫わんばならん」
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