第47回

第46回第48回

昭和37年/1962年上半期 昭和37年/1962年7月23日決定発表／『オール讀物』昭和37年/1962年10月号選評掲載

選考委員　 木々高太郎 65歳 海音寺潮五郎 60歳 源氏鶏太 50歳 村上元三 52歳 中山義秀 61歳 小島政二郎 68歳 大佛次郎 64歳 川口松太郎 62歳 今日出海 58歳 松本清張 52歳 吉川英治 69歳 選評総行数　 76 51 49 55 35 59 50 47 53 61   評 評 評 評 評 評 評 評 評 評 選評なし 候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 杉森久英　『天才と狂人の間』 360枚 50歳 評 ◎ 35 ◎ 24 □ 11 △ 16 ○ 7 △ 14 ○ 6 ○ 14 ○ 15 ■ 20     津田信　「夜の暦」 86枚 36歳 評 ― 0 ● 6 ― 0 ― 0 △ 3 ◎ 4 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0     杜山悠　『無頼の系図』 571枚 45歳 評 ● 4 ― 0 ■ 3 ― 0 △ 3 ■ 6 ― 0 ― 0 ― 0 ● 2     野村尚吾　『乱世詩人伝』 375枚 50歳 評 ● 4 ○ 12 ◎ 14 ■ 10 △ 7 ● 6 ○ 6 □ 12 ― 0 ■ 19     木野工　「怪談」 110枚 42歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 △ 3 ◎ 4 ● 3 ― 0 ― 0 ● 5     川野彰子　「色模様」 102枚 34歳 評 □ 7 ― 0 ― 0 ― 0 ◎ 9 ● 2 ● 7 ― 0 ― 0 ― 0     結城昌治　『ゴメスの名はゴメス』 445枚 35歳 評 ● 7 ― 0 ● 5 ■ 6 ■ 5 ● 3 □ 5 △ 5 ■ 8 ● 4     金子明彦　「格子の外」 105枚 35歳 評 ― 0 ― 0 ○ 5 ― 0 △ 3 △ 2 ● 2 ― 0 ― 0 ― 0     小林勝　「紙背」 102枚 34歳 評 ― 0 ― 0 ― 0 ― 0 ■ 4 ● 2 ― 0 ― 0 ― 0 ● 2     来水明子　『涼月記』 699枚 30歳 評 ○ 20 ● 9 △ 5 ● 9 △ 7 ■ 13 ◎ 25 ― 0 □ 15 ● 22     欠席 書面提出                   欠席 不参加 年齢/枚数の説明   見方・注意点

木々高太郎65歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題文書答申　総行数76　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 ◎ 35 「杉森は伝記を書いたのではなく、一つの小説を書いたのであり、而も、今までの人が試みなかった小説のジャンルをつくったとも言える。」「もてはやされると九天の高さ、おちると奈落の底という、われ等共通の文学に生きるものの運命を感ぜしめるスリルは、むしろ快いばかりである。」 津田信 36歳 全 ― 0   杜山悠 45歳 全 ● 4 「奇構をそれからそれへと出したいという意図でスリルを減殺して了った。」 野村尚吾 50歳 全 ● 4 「考証を信頼させようという意図が強く、そのため一切の迫力が奪われて了った」 木野工 42歳 全 ― 0   川野彰子 34歳 全 □ 7 「短篇をどしどし書かしてみたらどうだろうか。この種の作品についているマンネリズムをうち破れば大いにものになろう。」 結城昌治 35歳 全 ● 7 「国際的のテーマを扱って国際的にならなかった。（ソマセット・モームを学ぶ必要がある）」 金子明彦 35歳 全 ― 0   小林勝 34歳 全 ― 0   来水明子 30歳 全 ○ 20 「今度の「涼月記」は、ずっとよみよかった。」「とに角明智光秀をこのように解釈した人を、僕はまだ知らぬ。」「この作者の長篇一本でゆく逞しさも僕は買っている。」   「候補作品は全部よんで、文書で答申した。」

他の選考委員 海音寺潮五郎 源氏鶏太 村上元三 中山義秀 小島政二郎 大佛次郎 川口松太郎 今日出海 松本清張

海音寺潮五郎60歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題無しかこれか　総行数51　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 ◎ 24 「この前の「黄色いバット」の方がはるかによかったと思う。」「事実をふまえながら人間をしっかりと浮き立たせるというのは、なまなかな技倆では出来ることではない。」「ぼくは今期はなしにするか、授賞するならこの人と、最初からきめて出た。」 津田信 36歳 全 ● 6 「これまでのこの人の作品の中では一番見劣りがする。うまいとは思うが、材料で損をしている。」 杜山悠 45歳 全 ― 0   野村尚吾 50歳 全 ○ 12 「日本の作家があまり材料にしたがらない歌人や連歌師を伝記風の小説にした点を手柄だと先ず思った。」「ぼくには阿仏尼はおもしろかった。せめて全部がこの程度以上のものだったら、ずいぶん有力であったろう。」 木野工 42歳 全 ― 0   川野彰子 34歳 全 ― 0   結城昌治 35歳 全 ― 0   金子明彦 35歳 全 ― 0   小林勝 34歳 全 ― 0   来水明子 30歳 全 ● 9 「力作だが、この作中のストーリー・テラーは現実に時代の波に漂わされた人の感じがしない。」

他の選考委員 木々高太郎 源氏鶏太 村上元三 中山義秀 小島政二郎 大佛次郎 川口松太郎 今日出海 松本清張

源氏鶏太50歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題「乱世詩人伝」を推す　総行数49　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 □ 11 「島田清次郎を刻明に調べた努力には敬服した。」「伝記としては上等であっても、小説としては、どうであろうか。」 津田信 36歳 全 ― 0   杜山悠 45歳 全 ■ 3 「面白かったのだが、何か荒唐無稽の感じがした。」 野村尚吾 50歳 全 ◎ 14 「多少パンチに欠けるうらみもあるが、歴史上でも有名な詩人たちの姿を、作者の有情の目を以て描いて、そこに人生というものをいろいろと考えさせてくれる」「今でも佳作である、と信じている。」 木野工 42歳 全 ― 0   川野彰子 34歳 全 ― 0   結城昌治 35歳 全 ● 5 「面白過ぎるほどであったが、後半になって、その面白さが弱くなり、崩れてしまったようだ。」 金子明彦 35歳 全 ○ 5 「私は、相当高く買った。最後の「無罪の意である」との一語が、この残酷物語をぐっと引きしめている。」 小林勝 34歳 全 ― 0   来水明子 30歳 全 △ 5 「前回の「背教者」よりも進歩のあとが読み取られた。殊に、私には、信長と日向守との仲の描き方が面白かった。」   「今回は、授賞作品なしということになるのではないか、と思った。」

他の選考委員 木々高太郎 海音寺潮五郎 村上元三 中山義秀 小島政二郎 大佛次郎 川口松太郎 今日出海 松本清張

村上元三52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題長篇でも短篇でも　総行数55　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 △ 16 「これは島田清次郎を知らない読者にも面白く読めるに違いない。」「島田清次郎の没落してゆく過程が、やや浅すぎて、実録小説のような弱さを感じさせた。」 津田信 36歳 全 ― 0   杜山悠 45歳 全 ― 0   野村尚吾 50歳 全 ■ 10 「一篇々々の主人公が浮びあがってこないし、掘り下げの足りない部分がある。この作者は細かい良い味を持っていながら、ともすれば、それが古くさい印象を与えるおそれがある。」 木野工 42歳 全 ― 0   川野彰子 34歳 全 ― 0   結城昌治 35歳 全 ■ 6 「前半までの細かい構成が後半になってから、がたがたと崩れてしまった。」 金子明彦 35歳 全 ― 0   小林勝 34歳 全 ― 0   来水明子 30歳 全 ● 9 「作者の史観があまくて、肝腎の信長と光秀との葛藤が描き切れていない。」「もっと簡潔に作品を仕立てあげる苦労をすべきであろう。」   「こんどは今までと違った選考方法を採ったので、投票で残った四篇だけにしぼるという結果になった」

他の選考委員 木々高太郎 海音寺潮五郎 源氏鶏太 中山義秀 小島政二郎 大佛次郎 川口松太郎 今日出海 松本清張

中山義秀61歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題想くさぐさ　総行数35　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 ○ 7 「「伝記と小説の間」で問題になったが、身にひきくらべて考えさせられるようなところがあって、私は切実な興趣をおぼえた。」 津田信 36歳 全 △ 3 「それぞれ読みごたえがあった。」 杜山悠 45歳 全 △ 3 「それぞれ読みごたえがあった。」 野村尚吾 50歳 全 △ 7 「まじめな努力を買う。惜しむらくは、読者を作中にひきこんでゆく筆力に、盛上る勢を欠いでいるようで、」 木野工 42歳 全 △ 3 「それぞれ読みごたえがあった。」 川野彰子 34歳 全 ◎ 9 「推称したく思ったのは、川野彰子氏の「色模様」である。」「小説らしい小説としてこういう作品こそ、直木賞の本命なのではあるまいか。」 結城昌治 35歳 全 ■ 5 「推理小説は読めば依然として面白いが、クイズを解くみたいな頭脳の使い方は、老齢の私には堪えがたくなっている。」 金子明彦 35歳 全 △ 3 「それぞれ読みごたえがあった。」 小林勝 34歳 全 ■ 4 「一種の迫力があった。筆致がもっと円熟していたならば、当然問題になった作品だと思う。」 来水明子 30歳 全 △ 7 「まじめな努力を買う。惜しむらくは、読者を作中にひきこんでゆく筆力に、盛上る勢を欠いでいるようで、」   「いったいに今度の候補作品は、粒揃いではなかったかと考えられる。」

他の選考委員 木々高太郎 海音寺潮五郎 源氏鶏太 村上元三 小島政二郎 大佛次郎 川口松太郎 今日出海 松本清張

小島政二郎68歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題小説的盛上り弱し　総行数59　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 △ 14 「この題は小説の題ではない。」「もし小説のつもりで書いたのなら、より実録的だ。それが小説的盛り上りを弱くしていると思う。」 津田信 36歳 全 ◎ 4 「「夜の暦」と「怪談」に一番点を入れた。」 杜山悠 45歳 全 ■ 6 「これは面白かった。ただ、（引用者中略）くどいのが傷だ。このくどさが、作品から品を奪っている。」 野村尚吾 50歳 全 ● 6 「候補作品にならない前に、期待して読んで失望した。」 木野工 42歳 全 ◎ 4 「「夜の暦」と「怪談」に一番点を入れた。」 川野彰子 34歳 全 ● 2 「ごく当り前の出来だ。」 結城昌治 35歳 全 ● 3 「面白いが、それだけのものという感じだ。」 金子明彦 35歳 全 △ 2 「残念の思いがあとに残った。」 小林勝 34歳 全 ● 2 「これは直木賞の候補作品に入れるのはどうかと思う。」 来水明子 30歳 全 ■ 13 「人間なり舞台なりすべてが、文章から離れて紙面から立ち上って来ないと小説の文章ではない。その点、なんとかして是非会得してもらいたい。」   「短篇と長篇とを一緒に読まれるのは、短篇作者に気の毒だ。」「短篇と長篇とは区別して、別々の条件で読むような何か制度見たいなものを設ける必要があると思う。」

他の選考委員 木々高太郎 海音寺潮五郎 源氏鶏太 村上元三 中山義秀 大佛次郎 川口松太郎 今日出海 松本清張

大佛次郎64歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題涼月記　総行数50　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 ○ 6 「面白かったし、直木賞になってよかった。小説だと考えなくともよい。（引用者中略）なまはんかに小説に作られたものは危険である。」 津田信 36歳 全 ― 0   杜山悠 45歳 全 ― 0   野村尚吾 50歳 全 ○ 6 「「乱世詩人伝」も佳しとした。」「常套の文学語をなるべく避けた方がよいとは感じた。」 木野工 42歳 全 ● 3 「興味深く感心して読んで行ったら、終りの方で背負投げを喰った。」 川野彰子 34歳 全 ● 7 「達者なのに、今時の若いひとがどうしてこう古めかしい人情を書くのか、と正直、疑った。上手過ぎるのだろうか。」 結城昌治 35歳 全 □ 5 「機智の点で第一等、面白いのだが、これだけ書けるひとなら、もっと他に優れた作品がある筈と思った。」 金子明彦 35歳 全 ● 2 「力が分裂している。」 小林勝 34歳 全 ― 0   来水明子 30歳 全 ◎ 25 「最初の予選通知に来水氏の「涼月記」が入っていなかったので、私から推して入れて貰った。他の作品に劣るものとは信じなかった。」「しかし、（引用者中略）他人に語らせて重ねて話を進めて行く展開の技法が、込み入り過ぎて読みづらくするのである。」

他の選考委員 木々高太郎 海音寺潮五郎 源氏鶏太 村上元三 中山義秀 小島政二郎 川口松太郎 今日出海 松本清張

川口松太郎62歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題これを機会に決定的作品を　総行数47　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 ○ 14 「反対意見も多数あったが、「黄色いバット」等の前作も候補に上げられ、力量に信頼があるという意味を含め、此の一作が決定打になったという雰囲気ではなかった。」 津田信 36歳 全 ― 0   杜山悠 45歳 全 ― 0   野村尚吾 50歳 全 □ 12 「好い所へ目をつけたと思ったが、作品としては力量不足、清潔で気持ちはよいが、定家や為家や阿仏尼を知っている者には物足らない。」「この作家も今後を待つ。」 木野工 42歳 全 ― 0   川野彰子 34歳 全 ― 0   結城昌治 35歳 全 △ 5 「読みやすい文体で、延びも十分感じさせながら後半の腰くだけが残念、此の作家は今後が面白い。」 金子明彦 35歳 全 ― 0   小林勝 34歳 全 ― 0   来水明子 30歳 全 ― 0

他の選考委員 木々高太郎 海音寺潮五郎 源氏鶏太 村上元三 中山義秀 小島政二郎 大佛次郎 今日出海 松本清張

今日出海58歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題小説的手腕　総行数53　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 ○ 15 「直木賞はフィクションに限ると狭く限定することもあるまいし、小説的手腕がなければ、書けぬ作品であることは確かである。」 津田信 36歳 全 ― 0   杜山悠 45歳 全 ― 0   野村尚吾 50歳 全 ― 0   木野工 42歳 全 ― 0   川野彰子 34歳 全 ― 0   結城昌治 35歳 全 ■ 8 「終り近く解決部に入ると、味も素っ気もなく、凡庸な解決に終ったのは一考すべき重要な問題ではあるまいか。」 金子明彦 35歳 全 ― 0   小林勝 34歳 全 ― 0   来水明子 30歳 全 □ 15 「あまりに描写に拘泥し、くどくどと書きすぎると、大衆性のみならず、現代性まで失う恐れがある。」「これだけの史観と表現力を持っている人は埋れることはあるまいと私は信じている。」   「小説を書くことは及第点でも、この作品は書かずにはいられぬといった気魄のある作品には乏しかった。」

他の選考委員 木々高太郎 海音寺潮五郎 源氏鶏太 村上元三 中山義秀 小島政二郎 大佛次郎 川口松太郎 松本清張

松本清張52歳×各候補作

年齢/枚数の説明 見方・注意点

題類型的な解釈　総行数61　（1行=14字） 候補 評価 行数 評言 杉森久英 50歳 全 ■ 20 「いずれも物足りなくて、積極的に推せなかった。」「伝記とするには読みものに過ぎているし、人間像を書いたつもりなら、作者の特別な眼が感じられない。」 津田信 36歳 全 ― 0   杜山悠 45歳 全 ● 2 「前二回の作品より低下」 野村尚吾 50歳 全 ■ 19 「あまり人の気づかない人物に目をつけたことが何よりの新しさだったが、その解釈にもう一つ文学的な面白さを求めたい。」「惜しいことに常識的な表現語が目立ちすぎた。」 木野工 42歳 全 ● 5 「北海道のタクシー運転手のスカウト話というありきたりな内容の上にニューズストーリイ的になりすぎたと思う。」 川野彰子 34歳 全 ― 0   結城昌治 35歳 全 ● 4 「静かな緊迫感が後三分の一になって崩れが大きくなり、」 金子明彦 35歳 全 ― 0   小林勝 34歳 全 ● 2 「結末が唐突で安易」 来水明子 30歳 全 ● 22 「もう少し材料の整理をし、焦点をはっきりとさせる必要がある。」「凝った文章が、この長篇に満遍なくちりばめてあるのも、作者が苦心したほどの効果がなく、かえって重苦しく感じさせた。」   「今回は受賞作なしとしたかった。」

他の選考委員 木々高太郎 海音寺潮五郎 源氏鶏太 村上元三 中山義秀 小島政二郎 大佛次郎 川口松太郎 今日出海

杉森久英50歳×各選考委員　 『天才と狂人の間』 長篇 360枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 ◎ 35 「杉森は伝記を書いたのではなく、一つの小説を書いたのであり、而も、今までの人が試みなかった小説のジャンルをつくったとも言える。」「もてはやされると九天の高さ、おちると奈落の底という、われ等共通の文学に生きるものの運命を感ぜしめるスリルは、むしろ快いばかりである。」 海音寺潮五郎 60歳 全 ◎ 24 「この前の「黄色いバット」の方がはるかによかったと思う。」「事実をふまえながら人間をしっかりと浮き立たせるというのは、なまなかな技倆では出来ることではない。」「ぼくは今期はなしにするか、授賞するならこの人と、最初からきめて出た。」 源氏鶏太 50歳 全 □ 11 「島田清次郎を刻明に調べた努力には敬服した。」「伝記としては上等であっても、小説としては、どうであろうか。」 村上元三 52歳 全 △ 16 「これは島田清次郎を知らない読者にも面白く読めるに違いない。」「島田清次郎の没落してゆく過程が、やや浅すぎて、実録小説のような弱さを感じさせた。」 中山義秀 61歳 全 ○ 7 「「伝記と小説の間」で問題になったが、身にひきくらべて考えさせられるようなところがあって、私は切実な興趣をおぼえた。」 小島政二郎 68歳 全 △ 14 「この題は小説の題ではない。」「もし小説のつもりで書いたのなら、より実録的だ。それが小説的盛り上りを弱くしていると思う。」 大佛次郎 64歳 全 ○ 6 「面白かったし、直木賞になってよかった。小説だと考えなくともよい。（引用者中略）なまはんかに小説に作られたものは危険である。」 川口松太郎 62歳 全 ○ 14 「反対意見も多数あったが、「黄色いバット」等の前作も候補に上げられ、力量に信頼があるという意味を含め、此の一作が決定打になったという雰囲気ではなかった。」 今日出海 58歳 全 ○ 15 「直木賞はフィクションに限ると狭く限定することもあるまいし、小説的手腕がなければ、書けぬ作品であることは確かである。」 松本清張 52歳 全 ■ 20 「いずれも物足りなくて、積極的に推せなかった。」「伝記とするには読みものに過ぎているし、人間像を書いたつもりなら、作者の特別な眼が感じられない。」

他の候補作 津田信 「夜の暦」 杜山悠 『無頼の系図』 野村尚吾 『乱世詩人伝』 木野工 「怪談」 川野彰子 「色模様」 結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』 金子明彦 「格子の外」 小林勝 「紙背」 来水明子 『涼月記』

津田信36歳×各選考委員　 「夜の暦」 短篇 86枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 ― 0   海音寺潮五郎 60歳 全 ● 6 「これまでのこの人の作品の中では一番見劣りがする。うまいとは思うが、材料で損をしている。」 源氏鶏太 50歳 全 ― 0   村上元三 52歳 全 ― 0   中山義秀 61歳 全 △ 3 「それぞれ読みごたえがあった。」 小島政二郎 68歳 全 ◎ 4 「「夜の暦」と「怪談」に一番点を入れた。」 大佛次郎 64歳 全 ― 0   川口松太郎 62歳 全 ― 0   今日出海 58歳 全 ― 0   松本清張 52歳 全 ― 0	他の候補作 杉森久英 『天才と狂人の間』 杜山悠 『無頼の系図』 野村尚吾 『乱世詩人伝』 木野工 「怪談」 川野彰子 「色模様」 結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』 金子明彦 「格子の外」 小林勝 「紙背」 来水明子 『涼月記』

杜山悠45歳×各選考委員　 『無頼の系図』 長篇 571枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 ● 4 「奇構をそれからそれへと出したいという意図でスリルを減殺して了った。」 海音寺潮五郎 60歳 全 ― 0   源氏鶏太 50歳 全 ■ 3 「面白かったのだが、何か荒唐無稽の感じがした。」 村上元三 52歳 全 ― 0   中山義秀 61歳 全 △ 3 「それぞれ読みごたえがあった。」 小島政二郎 68歳 全 ■ 6 「これは面白かった。ただ、（引用者中略）くどいのが傷だ。このくどさが、作品から品を奪っている。」 大佛次郎 64歳 全 ― 0   川口松太郎 62歳 全 ― 0   今日出海 58歳 全 ― 0   松本清張 52歳 全 ● 2 「前二回の作品より低下」	他の候補作 杉森久英 『天才と狂人の間』 津田信 「夜の暦」 野村尚吾 『乱世詩人伝』 木野工 「怪談」 川野彰子 「色模様」 結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』 金子明彦 「格子の外」 小林勝 「紙背」 来水明子 『涼月記』

野村尚吾50歳×各選考委員　 『乱世詩人伝』 連作5篇 375枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 ● 4 「考証を信頼させようという意図が強く、そのため一切の迫力が奪われて了った」 海音寺潮五郎 60歳 全 ○ 12 「日本の作家があまり材料にしたがらない歌人や連歌師を伝記風の小説にした点を手柄だと先ず思った。」「ぼくには阿仏尼はおもしろかった。せめて全部がこの程度以上のものだったら、ずいぶん有力であったろう。」 源氏鶏太 50歳 全 ◎ 14 「多少パンチに欠けるうらみもあるが、歴史上でも有名な詩人たちの姿を、作者の有情の目を以て描いて、そこに人生というものをいろいろと考えさせてくれる」「今でも佳作である、と信じている。」 村上元三 52歳 全 ■ 10 「一篇々々の主人公が浮びあがってこないし、掘り下げの足りない部分がある。この作者は細かい良い味を持っていながら、ともすれば、それが古くさい印象を与えるおそれがある。」 中山義秀 61歳 全 △ 7 「まじめな努力を買う。惜しむらくは、読者を作中にひきこんでゆく筆力に、盛上る勢を欠いでいるようで、」 小島政二郎 68歳 全 ● 6 「候補作品にならない前に、期待して読んで失望した。」 大佛次郎 64歳 全 ○ 6 「「乱世詩人伝」も佳しとした。」「常套の文学語をなるべく避けた方がよいとは感じた。」 川口松太郎 62歳 全 □ 12 「好い所へ目をつけたと思ったが、作品としては力量不足、清潔で気持ちはよいが、定家や為家や阿仏尼を知っている者には物足らない。」「この作家も今後を待つ。」 今日出海 58歳 全 ― 0   松本清張 52歳 全 ■ 19 「あまり人の気づかない人物に目をつけたことが何よりの新しさだったが、その解釈にもう一つ文学的な面白さを求めたい。」「惜しいことに常識的な表現語が目立ちすぎた。」

他の候補作 杉森久英 『天才と狂人の間』 津田信 「夜の暦」 杜山悠 『無頼の系図』 木野工 「怪談」 川野彰子 「色模様」 結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』 金子明彦 「格子の外」 小林勝 「紙背」 来水明子 『涼月記』

木野工42歳×各選考委員　 「怪談」 短篇 110枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 ― 0   海音寺潮五郎 60歳 全 ― 0   源氏鶏太 50歳 全 ― 0   村上元三 52歳 全 ― 0   中山義秀 61歳 全 △ 3 「それぞれ読みごたえがあった。」 小島政二郎 68歳 全 ◎ 4 「「夜の暦」と「怪談」に一番点を入れた。」 大佛次郎 64歳 全 ● 3 「興味深く感心して読んで行ったら、終りの方で背負投げを喰った。」 川口松太郎 62歳 全 ― 0   今日出海 58歳 全 ― 0   松本清張 52歳 全 ● 5 「北海道のタクシー運転手のスカウト話というありきたりな内容の上にニューズストーリイ的になりすぎたと思う。」	他の候補作 杉森久英 『天才と狂人の間』 津田信 「夜の暦」 杜山悠 『無頼の系図』 野村尚吾 『乱世詩人伝』 川野彰子 「色模様」 結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』 金子明彦 「格子の外」 小林勝 「紙背」 来水明子 『涼月記』

川野彰子34歳×各選考委員　 「色模様」 短篇 102枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 □ 7 「短篇をどしどし書かしてみたらどうだろうか。この種の作品についているマンネリズムをうち破れば大いにものになろう。」 海音寺潮五郎 60歳 全 ― 0   源氏鶏太 50歳 全 ― 0   村上元三 52歳 全 ― 0   中山義秀 61歳 全 ◎ 9 「推称したく思ったのは、川野彰子氏の「色模様」である。」「小説らしい小説としてこういう作品こそ、直木賞の本命なのではあるまいか。」 小島政二郎 68歳 全 ● 2 「ごく当り前の出来だ。」 大佛次郎 64歳 全 ● 7 「達者なのに、今時の若いひとがどうしてこう古めかしい人情を書くのか、と正直、疑った。上手過ぎるのだろうか。」 川口松太郎 62歳 全 ― 0   今日出海 58歳 全 ― 0   松本清張 52歳 全 ― 0	他の候補作 杉森久英 『天才と狂人の間』 津田信 「夜の暦」 杜山悠 『無頼の系図』 野村尚吾 『乱世詩人伝』 木野工 「怪談」 結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』 金子明彦 「格子の外」 小林勝 「紙背」 来水明子 『涼月記』

結城昌治35歳×各選考委員　 『ゴメスの名はゴメス』 長篇 445枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 ● 7 「国際的のテーマを扱って国際的にならなかった。（ソマセット・モームを学ぶ必要がある）」 海音寺潮五郎 60歳 全 ― 0   源氏鶏太 50歳 全 ● 5 「面白過ぎるほどであったが、後半になって、その面白さが弱くなり、崩れてしまったようだ。」 村上元三 52歳 全 ■ 6 「前半までの細かい構成が後半になってから、がたがたと崩れてしまった。」 中山義秀 61歳 全 ■ 5 「推理小説は読めば依然として面白いが、クイズを解くみたいな頭脳の使い方は、老齢の私には堪えがたくなっている。」 小島政二郎 68歳 全 ● 3 「面白いが、それだけのものという感じだ。」 大佛次郎 64歳 全 □ 5 「機智の点で第一等、面白いのだが、これだけ書けるひとなら、もっと他に優れた作品がある筈と思った。」 川口松太郎 62歳 全 △ 5 「読みやすい文体で、延びも十分感じさせながら後半の腰くだけが残念、此の作家は今後が面白い。」 今日出海 58歳 全 ■ 8 「終り近く解決部に入ると、味も素っ気もなく、凡庸な解決に終ったのは一考すべき重要な問題ではあるまいか。」 松本清張 52歳 全 ● 4 「静かな緊迫感が後三分の一になって崩れが大きくなり、」

他の候補作 杉森久英 『天才と狂人の間』 津田信 「夜の暦」 杜山悠 『無頼の系図』 野村尚吾 『乱世詩人伝』 木野工 「怪談」 川野彰子 「色模様」 金子明彦 「格子の外」 小林勝 「紙背」 来水明子 『涼月記』

金子明彦35歳×各選考委員　 「格子の外」 短篇 105枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 ― 0   海音寺潮五郎 60歳 全 ― 0   源氏鶏太 50歳 全 ○ 5 「私は、相当高く買った。最後の「無罪の意である」との一語が、この残酷物語をぐっと引きしめている。」 村上元三 52歳 全 ― 0   中山義秀 61歳 全 △ 3 「それぞれ読みごたえがあった。」 小島政二郎 68歳 全 △ 2 「残念の思いがあとに残った。」 大佛次郎 64歳 全 ● 2 「力が分裂している。」 川口松太郎 62歳 全 ― 0   今日出海 58歳 全 ― 0   松本清張 52歳 全 ― 0	他の候補作 杉森久英 『天才と狂人の間』 津田信 「夜の暦」 杜山悠 『無頼の系図』 野村尚吾 『乱世詩人伝』 木野工 「怪談」 川野彰子 「色模様」 結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』 小林勝 「紙背」 来水明子 『涼月記』

小林勝34歳×各選考委員　 「紙背」 短篇 102枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 ― 0   海音寺潮五郎 60歳 全 ― 0   源氏鶏太 50歳 全 ― 0   村上元三 52歳 全 ― 0   中山義秀 61歳 全 ■ 4 「一種の迫力があった。筆致がもっと円熟していたならば、当然問題になった作品だと思う。」 小島政二郎 68歳 全 ● 2 「これは直木賞の候補作品に入れるのはどうかと思う。」 大佛次郎 64歳 全 ― 0   川口松太郎 62歳 全 ― 0   今日出海 58歳 全 ― 0   松本清張 52歳 全 ● 2 「結末が唐突で安易」	他の候補作 杉森久英 『天才と狂人の間』 津田信 「夜の暦」 杜山悠 『無頼の系図』 野村尚吾 『乱世詩人伝』 木野工 「怪談」 川野彰子 「色模様」 結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』 金子明彦 「格子の外」 来水明子 『涼月記』

来水明子30歳×各選考委員　 『涼月記』 長篇 699枚

年齢/枚数の説明 見方・注意点

選考委員 評価 行数 評言 木々高太郎 65歳 全 ○ 20 「今度の「涼月記」は、ずっとよみよかった。」「とに角明智光秀をこのように解釈した人を、僕はまだ知らぬ。」「この作者の長篇一本でゆく逞しさも僕は買っている。」 海音寺潮五郎 60歳 全 ● 9 「力作だが、この作中のストーリー・テラーは現実に時代の波に漂わされた人の感じがしない。」 源氏鶏太 50歳 全 △ 5 「前回の「背教者」よりも進歩のあとが読み取られた。殊に、私には、信長と日向守との仲の描き方が面白かった。」 村上元三 52歳 全 ● 9 「作者の史観があまくて、肝腎の信長と光秀との葛藤が描き切れていない。」「もっと簡潔に作品を仕立てあげる苦労をすべきであろう。」 中山義秀 61歳 全 △ 7 「まじめな努力を買う。惜しむらくは、読者を作中にひきこんでゆく筆力に、盛上る勢を欠いでいるようで、」 小島政二郎 68歳 全 ■ 13 「人間なり舞台なりすべてが、文章から離れて紙面から立ち上って来ないと小説の文章ではない。その点、なんとかして是非会得してもらいたい。」 大佛次郎 64歳 全 ◎ 25 「最初の予選通知に来水氏の「涼月記」が入っていなかったので、私から推して入れて貰った。他の作品に劣るものとは信じなかった。」「しかし、（引用者中略）他人に語らせて重ねて話を進めて行く展開の技法が、込み入り過ぎて読みづらくするのである。」 川口松太郎 62歳 全 ― 0   今日出海 58歳 全 □ 15 「あまりに描写に拘泥し、くどくどと書きすぎると、大衆性のみならず、現代性まで失う恐れがある。」「これだけの史観と表現力を持っている人は埋れることはあるまいと私は信じている。」 松本清張 52歳 全 ● 22 「もう少し材料の整理をし、焦点をはっきりとさせる必要がある。」「凝った文章が、この長篇に満遍なくちりばめてあるのも、作者が苦心したほどの効果がなく、かえって重苦しく感じさせた。」

他の候補作 杉森久英 『天才と狂人の間』 津田信 「夜の暦」 杜山悠 『無頼の系図』 野村尚吾 『乱世詩人伝』 木野工 「怪談」 川野彰子 「色模様」 結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』 金子明彦 「格子の外」 小林勝 「紙背」