芥川賞のすべて・のようなもの
第146回
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平成23年/2011年下半期
(平成24年/2012年1月17日決定発表/『文藝春秋』平成24年/2012年3月号選評掲載)
選考委員  黒井千次
男79歳
川上弘美
女53歳
高樹のぶ子
女65歳
山田詠美
女52歳
小川洋子
女49歳
島田雅彦
男50歳
宮本輝
男64歳
石原慎太郎
男79歳
村上龍
男59歳
選評総行数  123 179 86 86 86 112 104 96  
選評なし
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
円城塔 「道化師の蝶」
112
男39歳
41 73 51 9 35 58 41 12    
田中慎弥 「共喰い」
100
男39歳
26 11 23 15 21 15 26 10    
石田千 「きなりの雲」
295
女43歳
28 0 4 18 12 12 24 0    
広小路尚祈 「まちなか」
136
男39歳
23 0 4 24 10 9 7 0    
吉井磨弥 「七月のばか」
155
女33歳
20 0 4 20 8 4 6 0    
                欠席
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『文藝春秋』平成24年/2012年3月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
黒井千次男79歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
緊張の両極と中間の三点 総行数123 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
円城塔
男39歳
41 「作品の中にはいって行くのが誠に難しい作品だった。」「うまく読むことが難しい作品であり、素手でこれを扱うのは危険だという警戒心が働く。しかしこのわからなさの先に何かあるのではないか、と考えさせる風が終始作品の奥から吹き寄せて来るのは間違いがない。したがって、支持するのは困難だが、全否定するのは更に難しい、といった状況に立たされる。」「注文をつけるとすれば、読む者に対して不必要な苦労をかけぬような努力は常に払われねばなるまい。」
田中慎弥
男39歳
26 「従来の(引用者注:同氏の候補)作に比べて明らかに力強さを増し、文章が躍動し作品の密度の高まっていることが感じられた。」「川辺の暮しの絵の中に幸せそうな人は登場しないのだが、そのかわりに生命の地熱のようなものが確実に伝わって来る。歴代受賞作と比べても高い位置を占める小説である、と思われた。」
石田千
女43歳
28 「強く感じたのは、作品の長さである。これだけの分量の長さが果して必要であるか、については考えてみなければなるまい。」「もう少し短くまとめようとしたら、話の運びもどこか違って来たのではなかろうか。」「(引用者注:「まちなか」「七月のばか」と共に)まだ動き出していないことの中間報告、といったところに留る作品だった。」
広小路尚祈
男39歳
23 「土地と仕事と家庭と欲望とがいささか散漫に描き出されている、との印象は否めない。飲み屋の女性は面白く描けている。もう少し全体が引き締められる必要があったろう。」「(引用者注:「きなりの雲」「七月のばか」と共に)まだ動き出していないことの中間報告、といったところに留る作品だった。」
吉井磨弥
女33歳
20 「視点は面白いのにそれが小説としてうまく展開していない不満が残った。」「(引用者注:「きなりの雲」「まちなか」と共に)まだ動き出していないことの中間報告、といったところに留る作品だった。」
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他の選考委員
川上弘美
高樹のぶ子
山田詠美
小川洋子
島田雅彦
宮本輝
石原慎太郎
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選考委員
川上弘美女53歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
あらゆる猫 総行数179 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
円城塔
男39歳
73 「「この世界」には、生きている猫もいれば、死んでいる猫もいます。それらあまたの猫を、小説家は描いてきました。ところが「道化師の蝶」は、生きている猫と死んでいる猫だけでなく、死んでいるのと同時に生きていもする猫、をも描こうとした小説なのだと、私は思ったのです。」「作者が過去に書いた小説を、幾篇か読んできました。(引用者中略)今回の「道化師の蝶」で初めて私は、「死んでいてかつ生きている猫」が、閉じられた青酸発生装置入りの箱の中で、にゃあ、と鳴いている、その声を聞いたように思ったのです。」
田中慎弥
男39歳
11 「「道化師の蝶」とはまったくことなったアプローチで書かれた作品です。けれどこの小説の中にも、わたしはやはり「死んでいながら生きている猫」の遠い息吹を感じました。」
石田千
女43歳
0  
広小路尚祈
男39歳
0  
吉井磨弥
女33歳
0  
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他の選考委員
黒井千次
高樹のぶ子
山田詠美
小川洋子
島田雅彦
宮本輝
石原慎太郎
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選考委員
高樹のぶ子女65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
荒れた末の二作受賞 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
円城塔
男39歳
51 「一見いや一読したぐらいでは何も確定させないぞ、という意思を、文学的な志だと受け取るには、私の体質は違い過ぎる。それが「位相」の企みであると判ってはいるが、このような努力と工夫の上に何を伝えたいのかが、私には解らない。」「にも拘わらず最後に受賞に一票を投じたのは、この候補作を支持する委員を、とりあえず信じたからだ。決して断じて、この作品を理解したからではない。」
田中慎弥
男39歳
23 「一読し、中上健次の時代に戻ったかと思わせたが、都会の青春小説が輝きも確執も懊悩も失い、浮遊するプアヤングしか描かれなくなると、このように一地方に囲い込まれた土着熱が、新鮮かつ未来的に見え、説得力を持ってくる。」「都会で浮遊する若者に較べて、地方の若者は質量が大きい。今後この質量の差は、さらに拡大するのではないだろうか。」
石田千
女43歳
4 「編物小説なので、もっと手指の動きが見えると良かった。」
広小路尚祈
男39歳
4 「受け身で引っ張られ型の男が面白いが、そんな人間にも狡さや恐さはあるのではないか。」
吉井磨弥
女33歳
4 「作者は血管が浮いて黒ずんだ授乳中の乳房を、一度見た方がいい。」
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他の選考委員
黒井千次
川上弘美
山田詠美
小川洋子
島田雅彦
宮本輝
石原慎太郎
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選考委員
山田詠美女52歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「選評」 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
円城塔
男39歳
9 「この小説の向こうに、知的好奇心を刺激する興味深い世界が広がっているのが、はっきりと解る。それなのに、この文章にブロックされてしまい、それは容易に公開されない。〈着想を捕える網〉をもっと読者に安売りして欲しい。」
田中慎弥
男39歳
15 「この作者の文章には遠近法があると感心した。しかし、それは、世にも気の滅入る3D。それなのに、何故だろう。時折、乱暴になすり付けられたように見える、実は計算されたであろう色彩が点在して、グロテスクなエピソードを美しく詩的に反転させる。」
石田千
女43歳
18 「好感度の高そうな人物ばかりが登場するけれども、その中の誰にも引き付けられない。」「何なのだろう、こういう人々を相手にしながら到達する主人公の肯定感。あー、マジで苛々する……もっと覇気を……もっと覇気を……と、いや、もしかすると、それを避けたこの長丁場と編み物という題材はベストマッチなのかも。」
広小路尚祈
男39歳
24 「作者がユーモアと思っているらしいものが少しも功を奏していない。読み進む内に、何とも言えない徒労感を覚える。しかしながら、そういった部分をあえて無視してみると、リーダブルな本領が姿を現わして来て、決して悪くない。」「この作者は、媒体の種類など選ばずに、どんどんがしがし書きまくるべきだろう。そうしたら、読者をものに出来る。」
吉井磨弥
女33歳
20 「何しろ、いらない描写が多過ぎる。たとえば、冒頭のコップの水面に浮いた小蜘蛛の部分。あるいは、暑い日の庭園のベンチで、いかに蚊に刺されたかという説明。」「こういうつまらない文章につき合わされる読者の身にもなって欲しい。この種のパートが満載のSO WHAT小説。」
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他の選考委員
黒井千次
川上弘美
高樹のぶ子
小川洋子
島田雅彦
宮本輝
石原慎太郎
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選考委員
小川洋子女49歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
浮き上がってきた模様 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
円城塔
男39歳
35 「小片たちがつなぎ合わされ、一枚のパッチワークが縫い上がり、さてどんな模様が浮き出してきたかと楽しみに見つめてみれば、そこには模様など何も現れていなかった。」「もし自分の使っている言葉が、世界中で自分一人にしか通じないとしても、私はやはり小説を書くだろうか。結局、私に見えてきた模様とは、この一つの重大な自問であった。」
田中慎弥
男39歳
21 「二人の男性を取り囲む女性たちは、田中さんにしか表せない存在感を放っている。」「古典的なテーマでありながら尚、新鮮な力で読み手を引っ張るのは、父親ではなく、彼女たちの生命力あふれる手と、失われた手と、義手なのだ。」
石田千
女43歳
12 「編み物の描写に、私は親しみを感じた。」「だからこそ、主人公のさみ子をもっと応援したかった。じろうくんになど振り回されずに、編み棒だけを手に世界を渡ってゆきなさい、とついお節介な口出しをしそうになった。」
広小路尚祈
男39歳
10 「ただそこに生きているだけで否応なく滑稽になってしまう、という種類の哀切さが主人公に感じられれば、もっと愛すべき小説になっただろう。」
吉井磨弥
女33歳
8 「登場人物が苦労知らずの差別主義者でも一向に構わない。しかしそれを客観的に捕らえる書き手側の目は、決して甘えん坊であってはならないと思う。」
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他の選考委員
黒井千次
川上弘美
高樹のぶ子
山田詠美
島田雅彦
宮本輝
石原慎太郎
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選考委員
島田雅彦男50歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
人を虚仮にしたっていいじゃないか、小説だもの 総行数112 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
円城塔
男39歳
58 「それ自体が言語論であり、フィクション論であり、発想というアクションそのものをテーマにした小説だ。」「この作品は夢で得たヒントのようにはかなく忘れられてゆく無数の発想へのレクイエムといってもいい。」「こういう「やり過ぎ」を歓迎する度量がなければ、日本文学には身辺雑記とエンタメしか残らない。いや、この作品だって、コストパフォーマンスの高いエンタメに仕上がっている。二回読んで、二回とも眠くなるなら、睡眠薬の代わりにもなる。」
田中慎弥
男39歳
15 「全編に流れる下関の方言と緊張度の高い地の文が、リズミカルに交錯しており、叙情詩の格調さえも漂わす。作者が、近代小説の理屈より神話的荒唐無稽に惹かれているのだとすれば、父と子の神話的原型を忠実になぞるのも一つの選択である。この古臭さは新鮮だ。」
石田千
女43歳
12 「アボカドの種やゴーヤやチョコレートなどの小道具を効果的に用いてはいるが、実質、変哲のない日常を淡々とつづる日記と大差はない。」「他人の日記を盗み読む楽しみをもっと与えて欲しかった。」
広小路尚祈
男39歳
9 「陰影の乏しいあっけらかんとした語り口で聞かされる「ちょっといい思い」をしたサラリーマンの報告であるが、同じ思いをしている人ならニヤリとできるが、そうでない人は冷ややかに「So What」と返したくなるところが弱く、」
吉井磨弥
女33歳
4 「単に風俗産業の労働現場報告に過ぎず、『アサヒ芸能』に負ける。」
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他の選考委員
黒井千次
川上弘美
高樹のぶ子
山田詠美
小川洋子
宮本輝
石原慎太郎
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選考委員
宮本輝男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
マグマと観念の二作 総行数104 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
円城塔
男39歳
41 「賛否がこれほど大きく割れた候補作は珍しい。」「私はその中間の立場にいて、私には読み取れない何かがあるとしたら、受賞に強く賛成する委員の意見に耳を傾けたいと思っていた。」「最近の若い作家の眼の低さを思えば、たとえ手は低くても、その冒険や試みは買わなければならないと思い、私は受賞に賛成する側に廻った。フィクションになりそこねた言語論としてあらためて読むと、妙にフィクションとして成り立ってくる。」
田中慎弥
男39歳
26 「小説の構成力、筆力等は、候補作中随一であることは、私も認める。しかし、私はこの「共喰い」という小説を生理的に受けつけることができなかった。」「何物かへの鬱屈した怒りのマグマの依って来たる根をもっと具体的にしなければ、肝心なところから腰が引けていることになるのではないのか。」「私ひとり、最後まで受賞に反対した。」
石田千
女43歳
24 「受賞作に推した。」「あまり器用とはいえない石田さんの小説造りの底には、思いどおりにいかない現実社会であっても、地道に生きつづけることへの応援のような心意気が静かに息づいていて、たしかに「人々がいる」のだ。」
広小路尚祈
男39歳
7 「上手に書かれているが、文学としての密度が薄い。」
吉井磨弥
女33歳
6 「風俗業につくために面接を受けにくる女と、若い面接担当者だけの密室の世界だけに絞って書けば、もっと魅力ある作品になったであろう。」
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他の選考委員
黒井千次
川上弘美
高樹のぶ子
山田詠美
小川洋子
島田雅彦
石原慎太郎
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選考委員
石原慎太郎男79歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
自我の衰弱 総行数96 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
円城塔
男39歳
12 「最後は半ば強引に当選作とされた観が否めないが、こうした言葉の綾とりみたいなできの悪いゲームに付き合わされる読者は気の毒というよりない。こんな一人よがりの作品がどれほどの読者に小説なる読みものとしてまかり通るかははなはだ疑がわしい。」
田中慎弥
男39歳
10 「戦後間もなく場末の盛り場で流行った「お化け屋敷」のショーのように次から次安手でえげつない出し物が続く作品で、読み物としては一番読みやすかったが。田中氏の資質は長編にまとめた方が重みがますと思われる。」
石田千
女43歳
0  
広小路尚祈
男39歳
0  
吉井磨弥
女33歳
0  
  「芥川賞という新人の登竜門に関わる仕事に期待し、この私が足をすくわれるような新しい文学の現出のもたらす戦慄に期待し続けてきた。しかしその期待はさながら打率の低いバッターへの期待のごとくにほとんど報いられることがなかった。そして残念ながら今回の選考も凡打の羅列の域を出ない。数多くの選考委員が圧倒的過半で推挙する作品がなかったというのが何よりの明かしだろう。」
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他の選考委員
黒井千次
川上弘美
高樹のぶ子
山田詠美
小川洋子
島田雅彦
宮本輝
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受賞者・作品
円城塔男39歳×各選考委員 
「道化師の蝶」
短篇 112
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男79歳
41 「作品の中にはいって行くのが誠に難しい作品だった。」「うまく読むことが難しい作品であり、素手でこれを扱うのは危険だという警戒心が働く。しかしこのわからなさの先に何かあるのではないか、と考えさせる風が終始作品の奥から吹き寄せて来るのは間違いがない。したがって、支持するのは困難だが、全否定するのは更に難しい、といった状況に立たされる。」「注文をつけるとすれば、読む者に対して不必要な苦労をかけぬような努力は常に払われねばなるまい。」
川上弘美
女53歳
73 「「この世界」には、生きている猫もいれば、死んでいる猫もいます。それらあまたの猫を、小説家は描いてきました。ところが「道化師の蝶」は、生きている猫と死んでいる猫だけでなく、死んでいるのと同時に生きていもする猫、をも描こうとした小説なのだと、私は思ったのです。」「作者が過去に書いた小説を、幾篇か読んできました。(引用者中略)今回の「道化師の蝶」で初めて私は、「死んでいてかつ生きている猫」が、閉じられた青酸発生装置入りの箱の中で、にゃあ、と鳴いている、その声を聞いたように思ったのです。」
高樹のぶ子
女65歳
51 「一見いや一読したぐらいでは何も確定させないぞ、という意思を、文学的な志だと受け取るには、私の体質は違い過ぎる。それが「位相」の企みであると判ってはいるが、このような努力と工夫の上に何を伝えたいのかが、私には解らない。」「にも拘わらず最後に受賞に一票を投じたのは、この候補作を支持する委員を、とりあえず信じたからだ。決して断じて、この作品を理解したからではない。」
山田詠美
女52歳
9 「この小説の向こうに、知的好奇心を刺激する興味深い世界が広がっているのが、はっきりと解る。それなのに、この文章にブロックされてしまい、それは容易に公開されない。〈着想を捕える網〉をもっと読者に安売りして欲しい。」
小川洋子
女49歳
35 「小片たちがつなぎ合わされ、一枚のパッチワークが縫い上がり、さてどんな模様が浮き出してきたかと楽しみに見つめてみれば、そこには模様など何も現れていなかった。」「もし自分の使っている言葉が、世界中で自分一人にしか通じないとしても、私はやはり小説を書くだろうか。結局、私に見えてきた模様とは、この一つの重大な自問であった。」
島田雅彦
男50歳
58 「それ自体が言語論であり、フィクション論であり、発想というアクションそのものをテーマにした小説だ。」「この作品は夢で得たヒントのようにはかなく忘れられてゆく無数の発想へのレクイエムといってもいい。」「こういう「やり過ぎ」を歓迎する度量がなければ、日本文学には身辺雑記とエンタメしか残らない。いや、この作品だって、コストパフォーマンスの高いエンタメに仕上がっている。二回読んで、二回とも眠くなるなら、睡眠薬の代わりにもなる。」
宮本輝
男64歳
41 「賛否がこれほど大きく割れた候補作は珍しい。」「私はその中間の立場にいて、私には読み取れない何かがあるとしたら、受賞に強く賛成する委員の意見に耳を傾けたいと思っていた。」「最近の若い作家の眼の低さを思えば、たとえ手は低くても、その冒険や試みは買わなければならないと思い、私は受賞に賛成する側に廻った。フィクションになりそこねた言語論としてあらためて読むと、妙にフィクションとして成り立ってくる。」
石原慎太郎
男79歳
12 「最後は半ば強引に当選作とされた観が否めないが、こうした言葉の綾とりみたいなできの悪いゲームに付き合わされる読者は気の毒というよりない。こんな一人よがりの作品がどれほどの読者に小説なる読みものとしてまかり通るかははなはだ疑がわしい。」
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他の候補作
田中慎弥
「共喰い」
石田千
「きなりの雲」
広小路尚祈
「まちなか」
吉井磨弥
「七月のばか」
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受賞者・作品
田中慎弥男39歳×各選考委員 
「共喰い」
短篇 100
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男79歳
26 「従来の(引用者注:同氏の候補)作に比べて明らかに力強さを増し、文章が躍動し作品の密度の高まっていることが感じられた。」「川辺の暮しの絵の中に幸せそうな人は登場しないのだが、そのかわりに生命の地熱のようなものが確実に伝わって来る。歴代受賞作と比べても高い位置を占める小説である、と思われた。」
川上弘美
女53歳
11 「「道化師の蝶」とはまったくことなったアプローチで書かれた作品です。けれどこの小説の中にも、わたしはやはり「死んでいながら生きている猫」の遠い息吹を感じました。」
高樹のぶ子
女65歳
23 「一読し、中上健次の時代に戻ったかと思わせたが、都会の青春小説が輝きも確執も懊悩も失い、浮遊するプアヤングしか描かれなくなると、このように一地方に囲い込まれた土着熱が、新鮮かつ未来的に見え、説得力を持ってくる。」「都会で浮遊する若者に較べて、地方の若者は質量が大きい。今後この質量の差は、さらに拡大するのではないだろうか。」
山田詠美
女52歳
15 「この作者の文章には遠近法があると感心した。しかし、それは、世にも気の滅入る3D。それなのに、何故だろう。時折、乱暴になすり付けられたように見える、実は計算されたであろう色彩が点在して、グロテスクなエピソードを美しく詩的に反転させる。」
小川洋子
女49歳
21 「二人の男性を取り囲む女性たちは、田中さんにしか表せない存在感を放っている。」「古典的なテーマでありながら尚、新鮮な力で読み手を引っ張るのは、父親ではなく、彼女たちの生命力あふれる手と、失われた手と、義手なのだ。」
島田雅彦
男50歳
15 「全編に流れる下関の方言と緊張度の高い地の文が、リズミカルに交錯しており、叙情詩の格調さえも漂わす。作者が、近代小説の理屈より神話的荒唐無稽に惹かれているのだとすれば、父と子の神話的原型を忠実になぞるのも一つの選択である。この古臭さは新鮮だ。」
宮本輝
男64歳
26 「小説の構成力、筆力等は、候補作中随一であることは、私も認める。しかし、私はこの「共喰い」という小説を生理的に受けつけることができなかった。」「何物かへの鬱屈した怒りのマグマの依って来たる根をもっと具体的にしなければ、肝心なところから腰が引けていることになるのではないのか。」「私ひとり、最後まで受賞に反対した。」
石原慎太郎
男79歳
10 「戦後間もなく場末の盛り場で流行った「お化け屋敷」のショーのように次から次安手でえげつない出し物が続く作品で、読み物としては一番読みやすかったが。田中氏の資質は長編にまとめた方が重みがますと思われる。」
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他の候補作
円城塔
「道化師の蝶」
石田千
「きなりの雲」
広小路尚祈
「まちなか」
吉井磨弥
「七月のばか」
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候補者・作品
石田千女43歳×各選考委員 
「きなりの雲」
中篇 295
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男79歳
28 「強く感じたのは、作品の長さである。これだけの分量の長さが果して必要であるか、については考えてみなければなるまい。」「もう少し短くまとめようとしたら、話の運びもどこか違って来たのではなかろうか。」「(引用者注:「まちなか」「七月のばか」と共に)まだ動き出していないことの中間報告、といったところに留る作品だった。」
川上弘美
女53歳
0  
高樹のぶ子
女65歳
4 「編物小説なので、もっと手指の動きが見えると良かった。」
山田詠美
女52歳
18 「好感度の高そうな人物ばかりが登場するけれども、その中の誰にも引き付けられない。」「何なのだろう、こういう人々を相手にしながら到達する主人公の肯定感。あー、マジで苛々する……もっと覇気を……もっと覇気を……と、いや、もしかすると、それを避けたこの長丁場と編み物という題材はベストマッチなのかも。」
小川洋子
女49歳
12 「編み物の描写に、私は親しみを感じた。」「だからこそ、主人公のさみ子をもっと応援したかった。じろうくんになど振り回されずに、編み棒だけを手に世界を渡ってゆきなさい、とついお節介な口出しをしそうになった。」
島田雅彦
男50歳
12 「アボカドの種やゴーヤやチョコレートなどの小道具を効果的に用いてはいるが、実質、変哲のない日常を淡々とつづる日記と大差はない。」「他人の日記を盗み読む楽しみをもっと与えて欲しかった。」
宮本輝
男64歳
24 「受賞作に推した。」「あまり器用とはいえない石田さんの小説造りの底には、思いどおりにいかない現実社会であっても、地道に生きつづけることへの応援のような心意気が静かに息づいていて、たしかに「人々がいる」のだ。」
石原慎太郎
男79歳
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他の候補作
円城塔
「道化師の蝶」
田中慎弥
「共喰い」
広小路尚祈
「まちなか」
吉井磨弥
「七月のばか」
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候補者・作品
広小路尚祈男39歳×各選考委員 
「まちなか」
短篇 136
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男79歳
23 「土地と仕事と家庭と欲望とがいささか散漫に描き出されている、との印象は否めない。飲み屋の女性は面白く描けている。もう少し全体が引き締められる必要があったろう。」「(引用者注:「きなりの雲」「七月のばか」と共に)まだ動き出していないことの中間報告、といったところに留る作品だった。」
川上弘美
女53歳
0  
高樹のぶ子
女65歳
4 「受け身で引っ張られ型の男が面白いが、そんな人間にも狡さや恐さはあるのではないか。」
山田詠美
女52歳
24 「作者がユーモアと思っているらしいものが少しも功を奏していない。読み進む内に、何とも言えない徒労感を覚える。しかしながら、そういった部分をあえて無視してみると、リーダブルな本領が姿を現わして来て、決して悪くない。」「この作者は、媒体の種類など選ばずに、どんどんがしがし書きまくるべきだろう。そうしたら、読者をものに出来る。」
小川洋子
女49歳
10 「ただそこに生きているだけで否応なく滑稽になってしまう、という種類の哀切さが主人公に感じられれば、もっと愛すべき小説になっただろう。」
島田雅彦
男50歳
9 「陰影の乏しいあっけらかんとした語り口で聞かされる「ちょっといい思い」をしたサラリーマンの報告であるが、同じ思いをしている人ならニヤリとできるが、そうでない人は冷ややかに「So What」と返したくなるところが弱く、」
宮本輝
男64歳
7 「上手に書かれているが、文学としての密度が薄い。」
石原慎太郎
男79歳
0  
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他の候補作
円城塔
「道化師の蝶」
田中慎弥
「共喰い」
石田千
「きなりの雲」
吉井磨弥
「七月のばか」
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候補者・作品
吉井磨弥女33歳×各選考委員 
「七月のばか」
中篇 155
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男79歳
20 「視点は面白いのにそれが小説としてうまく展開していない不満が残った。」「(引用者注:「きなりの雲」「まちなか」と共に)まだ動き出していないことの中間報告、といったところに留る作品だった。」
川上弘美
女53歳
0  
高樹のぶ子
女65歳
4 「作者は血管が浮いて黒ずんだ授乳中の乳房を、一度見た方がいい。」
山田詠美
女52歳
20 「何しろ、いらない描写が多過ぎる。たとえば、冒頭のコップの水面に浮いた小蜘蛛の部分。あるいは、暑い日の庭園のベンチで、いかに蚊に刺されたかという説明。」「こういうつまらない文章につき合わされる読者の身にもなって欲しい。この種のパートが満載のSO WHAT小説。」
小川洋子
女49歳
8 「登場人物が苦労知らずの差別主義者でも一向に構わない。しかしそれを客観的に捕らえる書き手側の目は、決して甘えん坊であってはならないと思う。」
島田雅彦
男50歳
4 「単に風俗産業の労働現場報告に過ぎず、『アサヒ芸能』に負ける。」
宮本輝
男64歳
6 「風俗業につくために面接を受けにくる女と、若い面接担当者だけの密室の世界だけに絞って書けば、もっと魅力ある作品になったであろう。」
石原慎太郎
男79歳
0  
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他の候補作
円城塔
「道化師の蝶」
田中慎弥
「共喰い」
石田千
「きなりの雲」
広小路尚祈
「まちなか」
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