芥川賞のすべて・のようなもの
選評の概要
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黒井千次
Kuroi Senji
生没年月日【注】 昭和7年/1932年5月28日~
在任期間 第97回~第146回(通算25年・50回)
在任年齢 55歳1ヶ月~79歳7ヶ月
経歴 本名=長部舜二郎。東京(現・中野区)出身。東京大学経済学部卒。富士重工業入社。在職中より同人誌等で創作を続ける。昭和45年/1970年退社。
受賞歴・候補歴
芥川賞候補歴 第60回候補 「穴と空」(『層』7号[昭和43年/1968年9月])
第61回候補 「時間」(『文芸』昭和44年/1969年2月号)
第62回候補 「星のない部屋」(『文學界』昭和44年/1969年10月号)
第63回候補 「赤い樹木」(『文學界』昭和45年/1970年4月号)
第64回候補 「闇の船」(『文學界』昭和45年/1970年9月号)
備考
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下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。

芥川賞 97 昭和62年/1987年上半期   一覧へ
選評の概要 大人のいない世界 総行数35 (1行=26字)
選考委員 黒井千次 男55歳
候補 評価 行数 評言
女42歳
16 「不思議な作」「面白いのは大人の男女が一人も登場してこない点である。」「読んでいて、ふと尾崎翠の小説を思い出したりした。現実離れしているようで、案外今の世の中の底をひょいと覗かせてしまう、柔らかな力をもった作品である。」
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和62年/1987年9月号)
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芥川賞 98 昭和62年/1987年下半期   一覧へ
選評の概要 現代と向き合う二作 総行数36 (1行=26字)
選考委員 黒井千次 男55歳
候補 評価 行数 評言
男42歳
13 「不思議に静かな読後感を与えられた。」「ともすれば観念的な饒舌に陥りがちなこの種の作品にあって、公金横領とか時効とかいう事象が、現実をめぐるゲームの力学のように扱われているのも面白いと思った。」「(引用者注:「長男の出家」と共に)現代と向き合う姿勢で生み出されて来たことに共感を覚えた。二作受賞は当然と考えられた。」
男57歳
13 「いささか騒然として混沌の気味がある。」「一方に宗教の問題を配し、他方に親子の繋りを置く形をとっているが、結果として、意外な方角から今日の家族の姿を浮かび上らせる。」「(引用者注:「スティル・ライフ」と共に)現代と向き合う姿勢で生み出されて来たことに共感を覚えた。二作受賞は当然と考えられた。」
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和63年/1988年3月号)
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芥川賞 99 昭和63年/1988年上半期   一覧へ
選評の概要 沈潜と飛躍 総行数33 (1行=26字)
選考委員 黒井千次 男56歳
候補 評価 行数 評言
吉本ばなな
女23歳
5 「ストーリーの設定は荒唐無稽ながら、そこから放射される十九歳の女性主人公の心情にはなにかひたすらなものがあり、爽やかな読後感を与えられた。ウソとホントがひとかたまりになって示されるところに若さの魅力を覚える。」
男42歳
16 「主人公の性的不能の描き方には最後まで疑問が残った。にもかかわらず、現代の尖端の一角に手を伸ばし、なんとかそれを掴もうとする意欲と小説づくりの力量が僅かながらも他の候補作の先を行く感があり、最終的には支持の一票を投じて受賞に同意した。」
  「今回の候補作六篇は、突出する作品がなかったかわりに、いずれも夫々の可能性を秘め、次作を読んでみたい、という気持ちに誘われた。」
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和63年/1988年9月号)
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芥川賞 100 昭和63年/1988年下半期   一覧へ
選評の概要 棘のある作品 総行数33 (1行=26字)
選考委員 黒井千次 男56歳
候補 評価 行数 評言
女33歳
18 「候補作の八篇を読み、最も強い刺戟と手応えを覚えた」「日本と韓国との民族にまたがる問題を、個人のアイデンティティーの視野のもとに扱った作品は、李氏の以前の作品を含めて幾つか読んで来ているが、それが「言葉」の領域のドラマとしてこれほど鋭く突出した小説を他に識らない。由煕の痛々しい吃音性が、言葉というものの底深い肉体感を鮮烈に刻み上げている。」
男37歳
7 「完成度は他をぬきんでていた。医師の書く小説が、時として人間を患者ふうに扱う弊がありがちなのに対し、主人公を看護士に設定したのが成功のもとではなかったか。」
清水邦夫
男52歳
7 「前々回の候補作「BARBER・ニューはま」に比して格段に優れた好短篇だった。」「氏の戯曲とは全く異なる素材による小説を読んでみたいものだ、とふと感じた。」
選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成1年/1989年3月号)
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芥川賞 101 平成1年/1989年上半期   一覧へ
選評の概要 三つの作品 総行数37 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男57歳
候補 評価 行数 評言
大岡玲
男30歳
15 「印象に残った。」「作品の構えが大きく、骨太の開かれた枠組の中に現代を生きる人々を捉えようとした小説であり、他の候補作を一歩擢んでている、と感じた。」「現代人の「夢」がストーリーの展開軸に据えられている点も面白い。受賞に値する作品として推したが、少数意見にとどまった。」
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成1年/1989年9月号)
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芥川賞 102 平成1年/1989年下半期   一覧へ
選評の概要 僅差の印象 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男57歳
候補 評価 行数 評言
荻野アンナ
女33歳
17 「注目した。」「速度のある知的文体は力強く(時にはやや空転もするが)、去り行く若き日々ともう若くはない現在の日常とに立つ主人公のコントラストが鮮やかである。終始この作品を推したが、残った三編を二編に絞りこむ段階で多数の支持を得られず、残念だった。」「三作(引用者注:「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」)は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」
女50歳
7 「穏やかな筆致が人間の温もりと小説の面白さを浮かび上らせる作品だった。眼の前にあるものを自然に受け入れる成熟した視線に好感を覚える。」「三作(引用者注:「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」)は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」
男31歳
7 「作者が一貫して現代そのものに取り組もうとする姿勢を支持したい。“計算機”と呼ばれる人物が必ずしも十全には理解出来なかった面もあるけれど、この主題にこだわり、更に危険な賭けを続行するよう願っている。」「三作(引用者注:「ドアを閉めるな」「ネコババのいる町で」「表層生活」)は僅差で並び、どれが受賞してもおかしくはなかったと思う。」
  「全般にレベルの高かった」
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成2年/1990年3月号)
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芥川賞 103 平成2年/1990年上半期   一覧へ
選評の概要 資質への注目 総行数36 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男58歳
候補 評価 行数 評言
男44歳
19 「わけのわからぬ場所にはいりこみ、その中をうねうねと這い進むような粘りのある筆の運びに貴重な資質は感じられたが、本作でそれが充分に開花しているか否かの判定が難しかった。」「しかし、外国体験を描く小説は新人の作に多いけれど、舞台が中国であるケースは珍しい。」「川の土手をめぐる場面に興味を覚えた。」
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成2年/1990年9月号)
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芥川賞 104 平成2年/1990年下半期   一覧へ
選評の概要 一長一短 総行数37 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男58歳
候補 評価 行数 評言
女28歳
16 「(引用者注:最後に絞られた「妊娠カレンダー」「踊ろう、マヤ」「七面鳥の森」の三篇は)いずれも一長一短の感があり、どれを選ぶかに苦慮した。」「妹の悪意が倫理によって裁ける性質のものではないだけに、作品はどこか透明な仄暗さを孕んでいる。そこに魅力があるのだが、同時に曖昧さの残るのも事実である。」「結局は、他の二篇に比して、「一短」を上まわる「一長」が窺えたので、授賞には素直に同意した。」
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成3年/1991年3月号)
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芥川賞 105 平成3年/1991年上半期   一覧へ
選評の概要 眠りと饒舌 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男59歳
候補 評価 行数 評言
男46歳
16 「二つの面白さがある。その一つは素材の持つ新鮮さであり、他の一つは人間の眠りが執拗に追い求められている点である。」「この作品の持つ力は、「自動起床装置」の出現から生れるものではなく、「起こし屋」の日常的な営みの内に宿っている。」
女34歳
12 「いわば精神の居場所を探し出せぬ女性イラストレーターの恋愛乃至は男関係を、スピードのある饒舌体で捉えようとした作品である。」「彷徨する意識の劇画調風俗画とでもいえそうな小説であり、時に空転する嫌いがあるにしても、この才気と筆力には注目すべきものがある。」
選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成3年/1991年9月号)
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芥川賞 106 平成3年/1991年下半期   一覧へ
選評の概要 石の領域 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男59歳
候補 評価 行数 評言
女30歳
21 「キャンパス生活を描いた新人の小説にはよく出会うが、大学の立地条件ごとそれを捉えた作品は珍しい。」「これは石を核として意識的に構成された作品であるといえる。文章が硬質で分析的な傾きを持つのは、そのことと無縁ではあるまい。」「面白く読んだ。」「後半にやや強引な手つきがのぞき不満も残るが、他の候補作と比べた時、(引用者中略)一歩前に出ていると感じた。」
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成4年/1992年3月号)
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芥川賞 107 平成4年/1992年上半期   一覧へ
選評の概要 地下の夢 総行数36 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男60歳
候補 評価 行数 評言
男36歳
20 「地下鉄の運転という仕事そのものを土台にして書かれている点が新鮮である。」「どこか切実で何やら滑稽でもある二十五歳の男の姿が、現代人の影絵のように見えて来る。地下世界への注目が、車輌運転という具体的な作業を手がかりにして結実し、いかにも新人らしい初々しい作品の誕生したことを喜びたい。」
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成4年/1992年9月号)
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芥川賞 108 平成4年/1992年下半期   一覧へ
選評の概要 民話の種子 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男60歳
候補 評価 行数 評言
女32歳
19 「新旧二つの文化の接点に一粒の民話の種子を埋め、その成長を見守る話として(引用者中略)面白く読んだ。」「民話は一方で、現代人の結婚や子育てや家庭の生態を照し出し、他方、それ自体としては犬への変身譚として展開する。」「二つの力の絡み合いが、内部に正体の掴み難い奇妙なものを包み込んだまま、特異な非現実の世界を生み出している。」
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成5年/1993年3月号)
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芥川賞 109 平成5年/1993年上半期   一覧へ
選評の概要 土地・言葉・家族 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男61歳
候補 評価 行数 評言
男36歳
25 「アメリカを舞台とし、アメリカの男性と結婚した日本人女性を描く新人の小説はこれまで幾度か読んで来たが、(引用者中略)その中でも際立った作品であるといえよう。」「作品の構成がしっかりとして人物の輪郭が鮮やかであるために、あたかも家庭劇のステージに接しているかの感がある。」「アメリカが捉えられると同時に、日本の影も刻まれている、静かな奥行きを持つ小説である。」
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成5年/1993年9月号)
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芥川賞 110 平成5年/1993年下半期   一覧へ
選評の概要 力量 総行数27 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男61歳
候補 評価 行数 評言
男37歳
17 「才能とか資質という言葉よりも、力量という表現のまず頭に浮かぶ」「石への執念、誰が誰を殺したかという疑惑などがストーリーを強引に押し進めて行く展開には、読者を引きずり込む力が認められる。それでいて、どこかにふと寂しい風の吹き抜ける気配もある。」「この作品を受賞作として推すことに躊躇いはなかった。」
選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成6年/1994年3月号)
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芥川賞 111 平成6年/1994年上半期   一覧へ
選評の概要 言葉と夢 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男62歳
候補 評価 行数 評言
女38歳
12 「二作受賞という結果に異論はない。」「浮遊する感覚にリアリティーがあり、実在する固有名詞に幻想性が宿り、東京という土地のイメージが奇妙な風景画のように浮かび上ってくる。」「ただ、前回候補作「二百回忌」の泥絵具を塗りたくったようなエネルギーが影をひそめた点に、いささかの物足りなさも覚えた。」
男39歳
19 「二作受賞という結果に異論はない。」「小説より評論に近い性格を備えてもいるが、両者の境界線ギリギリを辿る書き方がスリリングで面白かった。」「「おどるでく」という一種の「霊的存在」を手掛りにしてすくい取られようとした「表層」自体が小説として出現するあたりに、今日の小説の置かれた立場が示されているようにも感じられた。」
  「候補作のレベルが低いとは思わないのに、どうしてもこの一作を、と絞って推す気持ちに今回はなりにくかった。」
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成6年/1994年9月号)
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芥川賞 112 平成6年/1994年下半期   一覧へ
選評の概要 意図と結果 総行数27 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男62歳
候補 評価 行数 評言
  「今回は、これを強く推したいと思う候補作を見出すことが出来なかった。」「作品のモチーフや作者の意図には共感を寄せられるのに、結果として作品が作者の狙いを実現し得ていないもどかしさを強く覚えたせいだろう。」
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成7年/1995年3月号)
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芥川賞 113 平成7年/1995年上半期   一覧へ
選評の概要 貴重なる試み 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男63歳
候補 評価 行数 評言
男38歳
17 「他人の既成の家庭を覗き込むという形で書かれているために、語りのしなやかさと人物の主婦像とがくっきり浮かびあがり、三十八歳の女性の精神生活の姿が過不足なく出現した。」「女主人公の精神的な自立と自足とが、どこまで確かであるかは必ずしも定かではない。しかしもし危機が訪れるとしても、それがいかなる土壌の上に発生するかを確認しておく作業も等閑には出来まい。その意味でも、この一編は貴重な試みであると感じた。」
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成7年/1995年9月号)
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芥川賞 114 平成7年/1995年下半期   一覧へ
選評の概要 島と森と 総行数33 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男63歳
候補 評価 行数 評言
男48歳
14 「強い印象を与えられた。沖縄をはじめ南方の島々を舞台とする新人の小説には、土地特有の信仰にもたれかかって作品を形造る傾向がよく見られるが、「豚の報い」にはその種の重苦しさがなく、神と人とが対等に言葉を交すかの如き明るさと軽やかさが漂っている。」「ただ、作品の終りに近づくにつれて言葉が弛み、やや緊迫感が薄くなる点は気にかかる。」
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成8年/1996年3月号)
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芥川賞 115 平成8年/1996年上半期   一覧へ
選評の概要 反変身的変身譚 総行数34 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男64歳
候補 評価 行数 評言
女38歳
16 「手応えを覚えた。」「この種の小説にあっては、描かれる世界の意味や隠喩の形を採ることよりも、まず作品の中にするりとはいりこめるか否かが勝負であり、柔らかな息遣いの文章によって、その難問が自然に越えられていると感じた。」「これはただの変身譚というより、変身への誘惑に対する闘いを足場にして生み出された、反変身的変身譚といえるだろう。」
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成8年/1996年9月号)
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芥川賞 116 平成8年/1996年下半期   一覧へ
選評の概要 注文と期待 総行数53 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男64歳
候補 評価 行数 評言
女28歳
23 「注目した。」「負の光線の中に浮かび上る家族の姿は、黒々としてグロテスクであると同時に、滑稽で哀切な影を帯びている。自分達の映画を作るために家族が再会するというストーリーも秀逸である。」「ただ、女主人公が勤める会社での業務の場面になると描写の密度が薄くなる点、家族関係とその他の人間関係とのバランスが作品構成上必ずしも十全に保たれてはいない点などに若干の疑問は残る。」
男37歳
23 「以前に候補作となった「母なる凪と父なる時化」に比べて格段の飛躍が認められた。」「焦点は、(引用者中略)受刑者の不可解な行動をいかに捉えるかにあったろう。作者はそれを不可解なものとして扱う姿勢を貫いているが、読者はその奥にひそむものを知りたいと感じる。」「この力作は、作者にとっての貴重な踏み台であり、また現代の世界の一断片を示す小説としての可能性を孕んでいる。」
選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成9年/1997年3月号)
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芥川賞 117 平成9年/1997年上半期   一覧へ
選評の概要 熱い寓話 総行数36 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男65歳
候補 評価 行数 評言
男36歳
24 「誇張をまじえた線描のようなユーモラスな描写の中に、村人達の躍動する顔が見えた。」「その風土と暮しの色が、「水滴」の世界を強く支えている。」「後半、寓意性が突出していささか空転の気味があるなど欠点は見られるものの、この重い主題を土と肌の臭いのする熱い寓話として持ち上げた作者の足腰の強靭さには、注目すべきものがある。」
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成9年/1997年9月号)
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芥川賞 118 平成9年/1997年下半期   一覧へ
選評の概要 選評 総行数38 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男65歳
候補 評価 行数 評言
  「今回の候補作は、いずれもそれなりの達成を見せながらも、この一作を、と強く推す気持ちになれぬ作品が並んだ。」
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成10年/1998年3月号)
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芥川賞 119 平成10年/1998年上半期   一覧へ
選評の概要 均整と傾斜 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男66歳
候補 評価 行数 評言
男39歳
14 「秀作である。」「本作は筆の走りを抑えて、都会からUターンした男の淡い諦めを滲ませた鬱屈と、外国人相手の娼婦であったと噂される老女の過去への思いとが、巧みに結び合わされて形の整った小説を生み出すことに成功した。」「そこには、まだ狂ったように走る光の点や、掌に掬われた温かな空気の感触もしっかり書き留められている。」
伊藤比呂美
女42歳
7 「語りの文章の快さに惹かれた。」「とりわけ、末尾に近い「びーちとぱーく」の光景は秀逸である。このような散文作品も芥川賞の領域の一画を占めていいのではないか、と推したが、多くの賛同は得られなかった。」
男43歳
10 「宗教という重いテーマに取り組む意欲とストーリーを運ぶ力量は充分に感じられるが、時に力み過ぎた文章が硬直を起し、対象を精確に捉えかねる点が気にかかった。また、全編のテーマである神の問題を引き受ける筈の告解をめぐる部分が、ほとんど会話のみで描かれていることにも不満を覚えた。」
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成10年/1998年9月号)
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芥川賞 120 平成10年/1998年下半期   一覧へ
選評の概要 現代との呼応 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男66歳
候補 評価 行数 評言
男23歳
18 「天井の高い建造物に踏み入ったかのような印象を受けた。作品の構えの大きさと思考の奥行きとが生んだ印象であったろう。」「精神と物質との関係が激しく揺らいでいる今日、それを専ら精神の側から描こうとする若い人の小説は多いのだが、その主題を正面に据えたロマンの形で書かれる作品は稀である。」「ここに現出した世界の問題が現代に深く関るものであることに共感を覚える。」
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成11年/1999年3月号)
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芥川賞 121 平成11年/1999年上半期   一覧へ
選評の概要 更なる凝縮を 総行数36 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男67歳
候補 評価 行数 評言
伊藤比呂美
女43歳
12 「先々回候補にあがった「ハウス・プラント」の続編ともいえるが、独立した短編として読め、こちらの方がよくまとまっている。」「天候や動植物に注がれる視線に力があり、影絵とは反対の光絵があると感じた。」「小説の中には小鳥が跳ねるような散文があってもいいだろうし、むしろそれによってのみ捉えることの叶う世界がここに現出している、と考えて推したのだが、少数意見にとどまった。」
  「今回の候補作品がとりわけ低調であったとは思えない。」
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成11年/1999年9月号)
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芥川賞 122 平成11年/1999年下半期   一覧へ
選評の概要 静かな力と重い力 総行数36 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男67歳
候補 評価 行数 評言
男→女37歳
15 「決して閉鎖的な同性愛者の世界が描かれるわけではない。むしろその周辺に、世間の約束事とは少しずつずれた場で生きる二十代の人間達が寄り集り、不思議に自由で伸びやかな生活空間を生み出している様が面白い。」「その開かれた雰囲気が作品の風通しをよくし、普遍へと通じる道筋を示している。」
男34歳
12 「読みながら、魯迅の「阿Q正伝」を思い出した。」「相対化された、時間と民族の絡み合いの中を生きる七十代半ばの主人公の姿がくっきりと描き出されているだけに、読む側は重い石を手渡された印象を受ける。」
選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成12年/2000年3月号)
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芥川賞 123 平成12年/2000年上半期   一覧へ
選評の概要 選評 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男68歳
候補 評価 行数 評言
男38歳
11 「これまで候補となった二作よりも、確かなものに一歩近づいたとの印象を受けた。」「主人公の出自が明確である分だけ作の土台が強固に築かれ、言葉が飛んだり跳ねたりしても全体が壊れぬ強度の備ったのが心強い。」「時にいささかの空間を含みながらも、外界に対する違和感と苛立ちが言葉の波に乗って押し寄せて来るのが感じられた。」
男46歳
11 「時代と精神の関りは捉えられているが、別れた後に死んでしまった女に対する感情と、絶望の上にあぐらをかいたかのような奇妙な男とのやりとりとの間に、うまく繋り切れぬものが残っている。」
選評出典:『芥川賞全集 第十九巻』平成14年/2002年12月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成12年/2000年9月号)
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芥川賞 124 平成12年/2000年下半期   一覧へ
選評の概要 対照的な二作 総行数36 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男68歳
候補 評価 行数 評言
男37歳
15 「人と人との関りの内にある微妙な温もりを知的な言葉で刻み込もうとした大作品であるといえよう。民族の歴史の孕む必然と個々の偶然との織り成す人間の生の光景が、幾つものエピソードを通して浮上する。」
黒川創
男39歳
7 「祖父、父、主人公と三代の生き方を追う力作であり、戦前、戦中、戦後を夫々の形で生きた家族像に惹かれた。現代史の中で人間の生はどうしたら完結するか、という問いかけは読後にずっしり残る。」
男42歳
11 「様々の材料を集めて組み合わせ、積み上げ、小説の世界を生み出そうとした作品である。」「視点の広がりとストーリーを編み出す力は確かに認められるが、話の展開に比して人間の魂の凹凸の上を言葉が滑らかに進み過ぎる感が否めない。」
選評出典:『芥川賞全集 第十九巻』平成14年/2002年12月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成13年/2001年3月号)
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芥川賞 125 平成13年/2001年上半期   一覧へ
選評の概要 迷う自由 総行数35 (1行=24字)
選考委員 黒井千次 男69歳
候補 評価 行数 評言
男45歳
14 「臨済宗の寺を預る僧侶の日常生活が、夫婦をはじめとする人間関係や衣食住の細部を通して浮かび上るところに作品の強みがある。」「現職の僧が教義や戒律に縛られることなく、迷う自由の中に生きている姿に共感を覚える。ただ、末尾に登場する紙縒の網のイメージが掴みにくかった。」「先回の候補作「水の舳先」に比してややおとなしく整い過ぎた感は残るものの、作者の持つ力量と可能性は明らかであり、受賞に賛成の票を投じた。」
選評出典:『芥川賞全集 第十九巻』平成14年/2002年12月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成13年/2001年9月号)
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芥川賞 126 平成13年/2001年下半期   一覧へ
選評の概要 選評 総行数59 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男69歳
候補 評価 行数 評言
男29歳
30 「母子家庭におけるこの息子は語り手ではあるのだが、見る者と見られる者との距離が巧みに設けられているために、息子は母親を見ることによって自然のうちに自己発見へと導かれる。その過程が、健げでありながらもどこか哀しい影を帯びているところに作品の奥行きが生れている。」
選評出典:『文藝春秋』平成14年/2002年3月号
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芥川賞 127 平成14年/2002年上半期   一覧へ
選評の概要 ライフの様相 総行数60 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男70歳
候補 評価 行数 評言
男33歳
28 「他の候補作に擢んでる完成度が見られた。」「いわばライフのない場所でも現代のライフの光景が鮮やかに浮かび上っている。」「結末の女性の決断が具体的には何を示すかが不明であるにもかかわらず、公園を吹き抜けて去る爽やかな風の如くに読む者を打つ。」
選評出典:『文藝春秋』平成14年/2002年9月号
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芥川賞 128 平成14年/2002年下半期   一覧へ
選評の概要 順当な受賞 総行数57 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男70歳
候補 評価 行数 評言
女36歳
29 「六篇の候補作のうち、いかにも小説を読んだ、との印象を強く与えられた」「(引用者注:六十代の男と語り手の三十代女性の)二人の間に計算と無垢、太々しさと純心とのドラマが生れる。そこから漂い出す湿ったユーモアがこの作品の底を支えている。」「男の新しく借りた家で、すずめばちの駆除に役場から来た年寄と男とのやり取りを障子の隙間から主人公が覗く場面は秀逸である。」
選評出典:『文藝春秋』平成15年/2003年3月号
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芥川賞 129 平成15年/2003年上半期   一覧へ
選評の概要 選評 総行数50 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男71歳
候補 評価 行数 評言
栗田有起
女31歳
6 「現代の都会に瞽女が出現したかの如き新鮮さを覚えた。メルヘン仕立ての作品を縫い上げる才の今後に注目したい。」
男42歳
28 「手放しでこの作品を推す気持にはなれなかった。人間の内にひそむ暴力への欲求を、(引用者中略)ハリガネムシに擬して追求する意図は充分に認められる。」「ただこの教師がいささか無抵抗に暴力にのめりこんで行く経過に疑問が残る。」「彼を縛る壁があまりに薄手であるために、主人公の行動が恣意的なものに止まってはいないか。」
選評出典:『文藝春秋』平成15年/2003年9月号
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芥川賞 130 平成15年/2003年下半期   一覧へ
選評の概要 一人称の必然性 総行数44 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男71歳
候補 評価 行数 評言
女20歳
15 「(引用者注:一人称で書かれた候補作四篇のうち)「蛇にピアス」における〈私〉が最も必然性を備えた一人称であると思われた。」「一人称の持つ直截さが存分に活用された末に、殺しをも含む粗暴な出来事の間から静かな哀しみの調べが漂い出す。その音色は身体改造にかける夢の傷ましさを浮かび上らせるかのようだ。」
女19歳
16 「読み終った時この風変りな表題に深く納得した。新人の作でこれほど内容と題名の美事に結びつく例は稀だろう。」「背中を蹴るという行為の中には、セックス以前であると同時にセックス以後をも予感させる広がりが隠れている。この感性にはどこか関西風の生理がひそんでいそうな気がする。」
選評出典:『文藝春秋』平成16年/2004年3月号
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芥川賞 131 平成16年/2004年上半期   一覧へ
選評の概要 怒りと語り 総行数57 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男72歳
候補 評価 行数 評言
男33歳
31 「読み易い小説ではない。」「しかし読み進むうちに言葉に込められた熱が力に変り、作者の怒りがストレートに伝わってくるのが感じられるようになる。血の繋りという欺瞞に対する憤り、形式的な介護システムへの疑い、自分の生活からの出稼ぎとしての介護を否定する姿勢が鮮烈に浮上する。」
選評出典:『文藝春秋』平成16年/2004年9月号
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芥川賞 132 平成16年/2004年下半期   一覧へ
選評の概要 選評 総行数42 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男72歳
候補 評価 行数 評言
男36歳
20 「欲望そのものより結果として与えられる苦痛にウェイトが置かれ、暗い衝動の辿る道程が浮き彫りにされるところに重量感がある。」「自分の娘に対する心情と他の少女に向う欲求との違いなど必ずしも描き切れていない恨みはあるものの、生の捩れを追う筆に確かな手応えを覚えた。」
  「受賞には至らなかったものの、次作を待ちたいとの思いを強くする候補作が今回は特に多かった。」
選評出典:『文藝春秋』平成17年/2005年3月号
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芥川賞 133 平成17年/2005年上半期   一覧へ
選評の概要 骨格のある力作 総行数46 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男73歳
候補 評価 行数 評言
男27歳
24 「受賞作として推すことが出来ると思ったのは、(引用者中略)「土の中の子供」だけであった。」「〈この先にある〉何か、を懸命に追い求める男の意識が執拗に辿られている。」「ここに見られるのは原因と結果との単なる対応ではなく、より意志的な、過去の確認と現在の模索の営為ではなかろうか。それが仄かな明るみを生み出して作品が結ばれるところに共感する。」
選評出典:『文藝春秋』平成17年/2005年9月号
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芥川賞 134 平成17年/2005年下半期   一覧へ
選評の概要 女と男の新しい光景 総行数46 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男73歳
候補 評価 行数 評言
女39歳
25 「短さの中に必要かつ充分な内容を盛り込んだ秀作である。」「二人が女と男であるために、一見遠ざけられたかに思える性の谺が微かに響き返して来るところにも味わいがある。なによりも仕事の現場感覚が人物を支えているところに作の強みが宿っている。」
選評出典:『文藝春秋』平成18年/2006年3月号
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芥川賞 135 平成18年/2006年上半期   一覧へ
選評の概要 現在と過去 総行数59 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男74歳
候補 評価 行数 評言
男35歳
33 「気心の知れた二人の仕事を通しての信頼関係が、離婚を前にした主人公の現在を浮かび上らせ、過去を照らし出すところが新鮮で、自然でもある。つまり現在主導のもとに過去が眺められ、その視座が過去を乗り越えようとする姿勢を生み出そうとする。」「八月の路上に、紛れもない現代の光景の一つが捉えられている。」
  「このところ、候補作品のタイトルがやたらに長くなったのは何故なのだろう。」
選評出典:『文藝春秋』平成18年/2006年9月号
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芥川賞 136 平成18年/2006年下半期   一覧へ
選評の概要 自然体の勝利 総行数47 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男74歳
候補 評価 行数 評言
女23歳
16 「好感のもてる小説である。」「痛みや哀しみも淡々と〈わたし〉の上を過ぎていく。おそらく、まだ〈わたし〉の本当の生活が始ってはいないからだろう。むしろそれへの予感が作品を強く支えている。予感の陰影が鮮やかに浮かび上るところに力が感じられる。」
選評出典:『文藝春秋』平成19年/2007年3月号
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芥川賞 137 平成19年/2007年上半期   一覧へ
選評の概要 今日とアサッテ 総行数45 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男75歳
候補 評価 行数 評言
男37歳
28 「いささか入り組んだ構成は、しかしそうでもしなければ捉えることの不可能な「アサッテの方角」にあるものを掴む上での必然であったと思われる。」「日常性との緊張関係がこの特異な作品世界を終始しっかりと支えている。可笑しく、寂しく、仄温かに湿ったこの秀作の受賞を喜びたい。」
選評出典:『文藝春秋』平成19年/2007年9月号
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芥川賞 138 平成19年/2007年下半期   一覧へ
選評の概要 大阪と中国の女性達 総行数47 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男75歳
候補 評価 行数 評言
楊逸
女43歳
23 「結婚というものを何よりも生活上の必要として捉えるリアルな視点が新鮮である。」「主人公の夫が充分に描かれず、姑の病気や死の方にウェイトのかかった末尾に不満は覚えるが、日本人のあまり書かなくなってしまった世界を突きつけられたような感慨を覚えた。日本語の表現に致命的な問題があるとは感じなかった。」
女31歳
18 「前回候補作『わたくし率 イン 歯ー、または世界』に見られた言葉のエネルギーが持続力を持つものであることを証明する作品であった。」「女ばかりの二泊三日を通して、女であることの心身の実像を「泣き笑い」の如く描き出す。息の長い文章は「わたし」の語る大阪弁に支えられてはじめて成立すると思われる。」
選評出典:『文藝春秋』平成20年/2008年3月号
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芥川賞 139 平成20年/2008年上半期   一覧へ
選評の概要 主題と長さ 総行数52 (1行=14字)
選考委員 黒井千次 男76歳
候補 評価 行数 評言
岡崎祥久
男39歳
6 「どこか惚けたような味わいに独得なものがあり、単なる作り物には止まらぬ面白さがあると感じたのだが、他の支持は全く得られなかった。」
女44歳
32 「他の候補作とは質の異なる作品である、との印象を受けた。」「荒削りではあっても、そこには書きたいこと、書かれねばならぬものが充満しているのを感じる。」「ただ、激動する時代を生きる人間の歳月をこのような書き方で描くとしたら、それは長篇小説がふさわしかったろう。その素材を中篇といった長さに押し込んでしまったところに構成上の無理がある。」
選評出典:『文藝春秋』平成20年/2008年9月号
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芥川賞 140 平成20年/2008年下半期   一覧へ
選評の概要 水の勢い 総行数58 (1行=13字)
選考委員 黒井千次 男76歳
候補 評価 行数 評言
女30歳
32 「(引用者注:「神様のいない日本シリーズ」と共に)特に印象に残った。」「とりわけ大きな出来事が起るわけでもないのに、澄んだ水が正面から勢いよくぶつかって来るような読後感が生れるのは、奈良にある築五十年の古い家に母親と暮す主人公の日々が、確かな筆遣いで捉えられているからだろう。」「二十九歳から三十歳になろうとする現代女性の結婚や離婚、仕事や家族達の様相がくっきりと浮かび上る作品となった。」
選評出典:『文藝春秋』平成21年/2009年3月号
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芥川賞 141 平成21年/2009年上半期   一覧へ
選評の概要 堰止められた時間 総行数54 (1行=13字)
選考委員 黒井千次 男77歳
候補 評価 行数 評言
男44歳
32 「流れる時間ではなく、堰止められた時間が層をなして重なっている。」「自分には知らされていないものを探り、手の届かぬものに向けて懸命に手を伸ばしながら時間の層を登っていく主人公の姿が、黒い影を曳いて目に残る。」
選評出典:『文藝春秋』平成21年/2009年9月号
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芥川賞 142 平成21年/2009年下半期   一覧へ
選評の概要 新鮮な一作 総行数81 (1行=13字)
選考委員 黒井千次 男77歳
候補 評価 行数 評言
藤代泉
女27歳
40 「最も強い読後感を与えられた」「テーマの重さと、それに愚直なまでに対決しようとする姿勢に注目した。」「隠されがちな歴史的課題ともいえるものの一つを、現在の光のもとに描こうとしている点に新鮮さを感じた。」「ただ、主人公の女性に対する甘えと身勝手は、どこかで「在日」の趙成佑に対する態度と重なるところがある筈なのに、それが平行線のまま終っているのは残念である。」
選評出典:『文藝春秋』平成22年/2010年3月号
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芥川賞 143 平成22年/2010年上半期   一覧へ
選評の概要 乙女の試み 総行数84 (1行=13字)
選考委員 黒井千次 男78歳
候補 評価 行数 評言
女35歳
32 「構えの大きさとその中で話を展開しようとする姿勢に好感を抱いた。」「意図がすべてうまく実現しているとは限らず、不足の部分も残りはするが、しかしこの構築の試みには剛直とでも呼べそうな力がこもっている。」
選評出典:『文藝春秋』平成22年/2010年9月号
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芥川賞 144 平成22年/2010年下半期   一覧へ
選評の概要 淡い光と濃い闇 総行数84 (1行=13字)
選考委員 黒井千次 男78歳
候補 評価 行数 評言
女26歳
32 「何が書かれているかより、いかに書かれているかにより強い興味を引かれるような候補作は珍しい。」「緻密に計算されているかに見える場面の重ね合わせの根元にあるのは、論理的思考であるというより、むしろ精神の生理的運動の結果であるのかもしれない、と思わせるところがある。」
男43歳
23 「主人公の奇行、愚行が必要以上に突出せず、若さによって受容され、思春期という器に収ってしまう面があるのに注目した。また、一つ一つの行為にどこかで微妙なブレーキがかけられ、それが破滅へと進む身体をおしとどめるところにリアリティーが隠されているように思われる。」
選評出典:『文藝春秋』平成23年/2011年3月号
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芥川賞 145 平成23年/2011年上半期   一覧へ
選評の概要 足りぬもの逸れるもの 総行数90 (1行=13字)
選考委員 黒井千次 男79歳
候補 評価 行数 評言
選評出典:『文藝春秋』平成23年/2011年9月号
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芥川賞 146 平成23年/2011年下半期   一覧へ
選評の概要 緊張の両極と中間の三点 総行数123 (1行=13字)
選考委員 黒井千次 男79歳
候補 評価 行数 評言
男39歳
26 「従来の(引用者注:同氏の候補)作に比べて明らかに力強さを増し、文章が躍動し作品の密度の高まっていることが感じられた。」「川辺の暮しの絵の中に幸せそうな人は登場しないのだが、そのかわりに生命の地熱のようなものが確実に伝わって来る。歴代受賞作と比べても高い位置を占める小説である、と思われた。」
男39歳
41 「作品の中にはいって行くのが誠に難しい作品だった。」「うまく読むことが難しい作品であり、素手でこれを扱うのは危険だという警戒心が働く。しかしこのわからなさの先に何かあるのではないか、と考えさせる風が終始作品の奥から吹き寄せて来るのは間違いがない。したがって、支持するのは困難だが、全否定するのは更に難しい、といった状況に立たされる。」「注文をつけるとすれば、読む者に対して不必要な苦労をかけぬような努力は常に払われねばなるまい。」
選評出典:『文藝春秋』平成24年/2012年3月号
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