芥川賞のすべて・のようなもの
第116回
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平成8年/1996年下半期
(平成9年/1997年1月16日決定発表/『文藝春秋』平成9年/1997年3月号選評掲載)
選考委員  河野多恵子
女70歳
宮本輝
男49歳
丸谷才一
男71歳
日野啓三
男67歳
石原慎太郎
男64歳
古井由吉
男59歳
黒井千次
男64歳
池澤夏樹
男51歳
三浦哲郎
男65歳
田久保英夫
男68歳
大江健三郎
男61歳
大庭みな子
女66歳
選評総行数  30 38 36 39 52 35 53 38 35 42    
選評なし 選評なし
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
柳美里 「家族シネマ」
120
女28歳
17 6 16 26 5 11 23 12 11 19        
辻仁成 「海峡の光」
180
男37歳
10 17 23 13 15 14 23 15 13 13        
町田康 「くっすん大黒」
119
男35歳
0 2 0 0 3 0 6 0 0 0        
伊達一行 「夜の落とし子」
206
男46歳
0 5 0 0 4 0 0 0 8 0        
青来有一 「泥海の兄弟」
113
男38歳
2 3 0 0 12 0 0 0 0 0        
デビット・ゾペティ 「いちげんさん」
254
男34歳
0 5 0 0 7 0 4 0 4 9        
                    欠席 欠席
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第十七巻』平成14年/2002年8月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成9年/1997年3月号)
1行当たりの文字数:24字


選考委員
河野多恵子女70歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数30 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
17 「珍しく省略ということを弁えている。」「この作品の冒頭の四行は、もう少し鮮やかな書き方が出来たことだろう。しかし、以後、最後に至るまで、実に興味深く読んだ。」「虚と実の展開してゆく様相に引きこまれた。特殊な家族を扱いながら、親・子・きょうだい・夫婦というものの本質を捉え切っている。」「作者の才能を鮮やかに感じさせる作品である。」
辻仁成
男37歳
10 「少年時代の同級生花井修のクラスでの立ち廻り方は、よく描けている。」「ただ、主人公の花井への二十年近い拘泥りが、私には実感が淡かった。が、そこに強い理解を示す複数の委員もあった。」「私の気のつかぬ何等かの取柄があるのかもしれないと思いもして、二作受賞に賛成したのである。」
町田康
男35歳
0  
伊達一行
男46歳
0  
青来有一
男38歳
2 「格段の成長には注目した。」
デビット・ゾペティ
男34歳
0  
  「いつ頃からか、芥川賞の候補作に限らず、無意味に長い作品が多くなった。」
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他の選考委員
宮本輝
丸谷才一
日野啓三
石原慎太郎
古井由吉
黒井千次
池澤夏樹
三浦哲郎
田久保英夫
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選考委員
宮本輝男49歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「人間」という謎 総行数38 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
6 「前作「フルハウス」の構成上の崩れが少なくなり、家族のなかの孤独、もしくは異和感が、そのまま社会や人間世界における自分の居場所の喪失感につながっている。」「受賞作となることに賛成した。」
辻仁成
男37歳
17 「一気に読んだ。」「辻氏の筆からスタミナは最後まで失われず、不可知な人間の闇を描くことに成功したと思う。」「力あまって、生硬な文章が多用されていて、そこが黙認できないという委員の意見も理解したうえで、なお、私は「海峡の光」の確固たる小説世界を支持した。」「辻氏は、作家としてのある決意を秘めて、この作品に立ち向かっている。その気迫もまた、私は読みながら感じつづけることができた。」
町田康
男35歳
2 「私は格別の感想はない。」
伊達一行
男46歳
5 「達者な筆だと思う。しかし、その達者さは、小器用と同質のもので、登場人物に血肉が感じられない。」
青来有一
男38歳
3 「安手のアクション映画のような終わり方は、どうにも首をひねらざるを得ない。」
デビット・ゾペティ
男34歳
5 「芥川賞としてはいささか弱い。」「日本語による文章のうまさは並ではない」
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他の選考委員
河野多恵子
丸谷才一
日野啓三
石原慎太郎
古井由吉
黒井千次
池澤夏樹
三浦哲郎
田久保英夫
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選考委員
丸谷才一男71歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
理の裏づけ 総行数36 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
16 「設定の基本にいろいろと無理がある。たとへば制作の費用はどういふ資本によるのか、映画の配給はどうなる見通しなのか、その他あれやこれやのことが一切わからず、読者は不安で仕方がない。」「親愛感ないし現実感の持てる登場人物は一人もゐないし、筋の展開はどう見ても乱暴である。わたしはこの小説的世界において生きることができなかつた。」
辻仁成
男37歳
23 「(引用者注:「家族シネマ」より)もつとリアリティがない。」「この語り手の教養に合せて文体を選んだと見るのならば、これだけ言語能力の低い者の一人称で小説を書かうとした作者の責任が問はれなければならない。」「小説全体もこの文章にふさはしく意味不明で、主人公行状も語り手の感慨もいちいちわけがわからなかつた。」
町田康
男35歳
0  
伊達一行
男46歳
0  
青来有一
男38歳
0  
デビット・ゾペティ
男34歳
0  
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他の選考委員
河野多恵子
宮本輝
日野啓三
石原慎太郎
古井由吉
黒井千次
池澤夏樹
三浦哲郎
田久保英夫
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選考委員
日野啓三男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
才能について 総行数39 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
26 「文学賞の選考の場で、「才能」という言葉は本当は使うべきではないと思っている。」「ところが今回の選考で、私は柳美里氏の候補作を推すさいこの禁句を使った。作品全体とくに家族和解シネマの撮影現場の部分の会話と描写に、才能としか言いようのない巧まざる巧みさを、なまなましく感得したからである。」「明らかな構造的欠陥にもかかわらず撮影現場のふしぎな魅力は捨て難い。」
辻仁成
男37歳
13 「いささか生硬な漢文的スタイルの文章が、奥行のある硬質の小宇宙(独房がその核だろう)を構築している。」「主要登場人物の心理と行動の変化の点で構成上の欠陥がないわけではない。自然に納得し難い飛躍があるのだが、にもかかわらず小器用にまとまった佳作以上の迫力と魅力があることを納得せざるをえない。」
町田康
男35歳
0  
伊達一行
男46歳
0  
青来有一
男38歳
0  
デビット・ゾペティ
男34歳
0  
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他の選考委員
河野多恵子
宮本輝
丸谷才一
石原慎太郎
古井由吉
黒井千次
池澤夏樹
三浦哲郎
田久保英夫
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選考委員
石原慎太郎男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
力強い新人の登場 総行数52 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
5 「全体の設定がいかにも演劇的で小説としての魅力を殺いでいる。」
辻仁成
男37歳
15 「氏の作家としての力量を感じさせる幅も奥も深い作品である。人間の心、というよりも体の芯に潜む邪悪なるものの不可知さに正面きって向かい合い厄介な主題をとにかくもこなしている。」「ある選者はこの男(引用者注:花井)の衝動は理解出来ないし、作者もそれを描き切れていないといったが、理解できぬ人間の本性の部分を理解を求めて描く必要がある訳はない。」
町田康
男35歳
3 「饒舌体の語りは面白いが、昨今都会に多い一種の精神的ホームレスといった人間像がいま一つ書き切れていない。」
伊達一行
男46歳
4 「最近流行の不法滞在の外国人の風俗の中の群像だが、彼等の哀感がにじみ出して来ないために文学としての文明批判にも成り得ずに風俗小説の域を脱していない。」
青来有一
男38歳
12 「面白く読んだ。有明海という特異な海域がよく描かれていて、それが、これもたいそう都合よく設定されている人間たちにも信憑性を与えている。」「文学としての安直さが、たとえば『泥海の兄弟』という題にも出ている。」「しかしなお、(引用者中略)船を出した父親がそのまま漂流して死んでいくといった挿話は、ヘミングウェイの優れた短編の世界にも繋がって強い印象を受けた。」
デビット・ゾペティ
男34歳
7 「すばる文学賞の候補作の中では相対的には際だってよく出来ていたが、一段格が上のこの賞の候補作としては文学的にひ弱である。」
  「今回の芥川賞のヴィンテイジは当たり年ともいえるのではなかろうか。箸にも棒にもかからぬような候補作とつき合わされる不幸をかこつこともままあるが、今回はどの作品も一応は読ませてくれた。」
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他の選考委員
河野多恵子
宮本輝
丸谷才一
日野啓三
古井由吉
黒井千次
池澤夏樹
三浦哲郎
田久保英夫
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選考委員
古井由吉男59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
転機にかかる 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
11 「同じテーマをめぐる再三の悪戦苦闘が、ここでひとまずの落着を見たように思われる。表現はよほど透明になった。」「もはや言葉を乱投入することによっては揺さぶりのきかぬところまでは、テーマは結晶した。」「かわりに詠歎の声がようやく作中に、静かに溢れた。これも転機のしるしである。ここを去れ、という促しかもしれない。」
辻仁成
男37歳
14 「ようやく自分の文学を立ち上がらせた力動が文章そのものから感じ取れる」「イジメ・イジメラレの関係から、人間の「悪」をめぐる関係へ至るまでの、表現の距離は長い。」「しかし独房中の男の描出は、言葉が徒労になりかけるが、空白に近い表現の緊張に支えられて、立っているではないか。とにかく立ち上がらせた。出発点である。」
町田康
男35歳
0  
伊達一行
男46歳
0  
青来有一
男38歳
0  
デビット・ゾペティ
男34歳
0  
  「(引用者注:受賞作以外の四作も)先へ踏み出した感触が伝わってくる。いずれも佳作だと、私は思う。」
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他の選考委員
河野多恵子
宮本輝
丸谷才一
日野啓三
石原慎太郎
黒井千次
池澤夏樹
三浦哲郎
田久保英夫
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選考委員
黒井千次男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
注文と期待 総行数53 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
23 「注目した。」「負の光線の中に浮かび上る家族の姿は、黒々としてグロテスクであると同時に、滑稽で哀切な影を帯びている。自分達の映画を作るために家族が再会するというストーリーも秀逸である。」「ただ、女主人公が勤める会社での業務の場面になると描写の密度が薄くなる点、家族関係とその他の人間関係とのバランスが作品構成上必ずしも十全に保たれてはいない点などに若干の疑問は残る。」
辻仁成
男37歳
23 「以前に候補作となった「母なる凪と父なる時化」に比べて格段の飛躍が認められた。」「焦点は、(引用者中略)受刑者の不可解な行動をいかに捉えるかにあったろう。作者はそれを不可解なものとして扱う姿勢を貫いているが、読者はその奥にひそむものを知りたいと感じる。」「この力作は、作者にとっての貴重な踏み台であり、また現代の世界の一断片を示す小説としての可能性を孕んでいる。」
町田康
男35歳
6 「前半と後半に分裂が見られ、意図の達成の阻まれた感があるが、このエネルギーとスタイルは見守って行きたいものである。」
伊達一行
男46歳
0  
青来有一
男38歳
0  
デビット・ゾペティ
男34歳
4 「外国人が書いた日本語の文章の達者さと滑らかさに驚かされたが、恋愛小説としては色が淡く、定着と放浪の物語になるにはいささか底が浅過ぎる。」
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他の選考委員
河野多恵子
宮本輝
丸谷才一
日野啓三
石原慎太郎
古井由吉
池澤夏樹
三浦哲郎
田久保英夫
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選考委員
池澤夏樹男51歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
棄権者の告白 総行数38 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
12 「それぞれの場面はおもしろいのだが、その効果がつながって一つの流れを形成していない。」「後半に出てくる深見という老いた彫刻家との関わりも絵柄としては派手ながら意味が取りにくい。全体として、何本も柱を立てているのに、それがどれも梁に届いていない感じ。」
辻仁成
男37歳
15 「一番の問題は、中心人物の内面を描きえない設定を最初にしてしまったことにある。会話が禁じられている刑務所の中で、看守である語り手が囚人である当の人物の複雑で矛盾を孕んだ心を論ずるのはむずかしい」「敢えて古めかしい、硬い、作者自身が使い慣れているとは思えない文体を採用した点も認めがたい。」
町田康
男35歳
0  
伊達一行
男46歳
0  
青来有一
男38歳
0  
デビット・ゾペティ
男34歳
0  
  「強く推せる作品がないまま選考の場に赴くのは気が重い。今回は候補作はそれぞれに一応の出来ながら、どれもが一人立ちできるだけの格を備えていないように思われた。」「まだ三回目の新米選考委員として、(引用者注:「家族シネマ」と「海峡の光」の)二作受賞か受賞作なしかという判断を迫られ、考えたあげく棄権した。」
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他の選考委員
河野多恵子
宮本輝
丸谷才一
日野啓三
石原慎太郎
古井由吉
黒井千次
三浦哲郎
田久保英夫
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選考委員
三浦哲郎男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
11 「候補作中この作品に最もしたたかな文学的才能を感じた。」「満開の桜の下でブランコに乗る場面が二度出てくるが、いずれも私は好ましい印象を受けた。他の委員に感傷的だと嗤われたが、あの二つの場面を読んだときの感銘は、いまでも私の胸底にある。」
辻仁成
男37歳
13 「堅固な砦を思わせるような作品である。さあ、どこからでもこい、これが受賞しなければ芥川賞とは一体なんだ、という自信と気概も感じられる。ところどころ美文調に陥ったり(引用者中略)、語尾にのだった(原文傍点)が頻出する嫌いがあるが、作品の評価を揺るがすほどではない。」
町田康
男35歳
0  
伊達一行
男46歳
8 「前作の気取りがきれいになくなっているところはよかったが、欲張りは相変わらずで、登場人物が憶え切れぬほど多く、それらが入り乱れ、それにつれて話の筋も錯綜し、わかりにくい作品になっている。作者は物語るのに忙しくて、悲しむべき境遇にある人々の悲しみさえ読む者に伝わってこないのである。」
青来有一
男38歳
0  
デビット・ゾペティ
男34歳
4 「作品の出来はともかく、現在の日本の作家が書かなくなった場面を情感たっぷりに書き上げている部分があり、そのみずみずしさに、と胸を突かれた。」
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他の選考委員
河野多恵子
宮本輝
丸谷才一
日野啓三
石原慎太郎
古井由吉
黒井千次
池澤夏樹
田久保英夫
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選考委員
田久保英夫男68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
日常の彼岸 総行数42 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
柳美里
女28歳
19 「人には日常の煩瑣な現実をぬけ出し、別の超越的な領域に行きたい、という願望がある。」「私は柳美里さんの作品に、(引用者中略・注:過去の二候補作を含めて)それを感じた。」「いずれも家族相互の生臭い関係が、中心にあるが、別の人物を通して、女性のひそかな内部にそれが現われる。」「最終的に、私は「家族シネマ」一作を推した。」
辻仁成
男37歳
13 「波濤や船の航行の描写などに、逞しい筆力を感じた。しかし、この作品にはつねに二面があって、(引用者中略)囚人は「邪悪」で、「悪魔」的とも描かれるし、逆に「大仏」のようにも、「超俗」した者にも描かれる。この両面に、読む側は刑務官自身の言うように、すべて「妄念」ではないか、とも思えて、人物の統一像が結ばない。」
町田康
男35歳
0  
伊達一行
男46歳
0  
青来有一
男38歳
0  
デビット・ゾペティ
男34歳
9 「注目した。」「異国人を外見だけでとじ籠める周囲の閉鎖性も、書き通しているが、読後どこか稀薄な感じが残るのは、長すぎて冗漫な部分があるのと、二人の別れ方を初め、幾つかの場面を、技巧的にうまく処理しすぎているせいだろうか。」
  「今回はむずかしい選考になる気がしていたが、予想通り難航した。」
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他の選考委員
河野多恵子
宮本輝
丸谷才一
日野啓三
石原慎太郎
古井由吉
黒井千次
池澤夏樹
三浦哲郎
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受賞者・作品
柳美里女28歳×各選考委員 
「家族シネマ」
短篇 120
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女70歳
17 「珍しく省略ということを弁えている。」「この作品の冒頭の四行は、もう少し鮮やかな書き方が出来たことだろう。しかし、以後、最後に至るまで、実に興味深く読んだ。」「虚と実の展開してゆく様相に引きこまれた。特殊な家族を扱いながら、親・子・きょうだい・夫婦というものの本質を捉え切っている。」「作者の才能を鮮やかに感じさせる作品である。」
宮本輝
男49歳
6 「前作「フルハウス」の構成上の崩れが少なくなり、家族のなかの孤独、もしくは異和感が、そのまま社会や人間世界における自分の居場所の喪失感につながっている。」「受賞作となることに賛成した。」
丸谷才一
男71歳
16 「設定の基本にいろいろと無理がある。たとへば制作の費用はどういふ資本によるのか、映画の配給はどうなる見通しなのか、その他あれやこれやのことが一切わからず、読者は不安で仕方がない。」「親愛感ないし現実感の持てる登場人物は一人もゐないし、筋の展開はどう見ても乱暴である。わたしはこの小説的世界において生きることができなかつた。」
日野啓三
男67歳
26 「文学賞の選考の場で、「才能」という言葉は本当は使うべきではないと思っている。」「ところが今回の選考で、私は柳美里氏の候補作を推すさいこの禁句を使った。作品全体とくに家族和解シネマの撮影現場の部分の会話と描写に、才能としか言いようのない巧まざる巧みさを、なまなましく感得したからである。」「明らかな構造的欠陥にもかかわらず撮影現場のふしぎな魅力は捨て難い。」
石原慎太郎
男64歳
5 「全体の設定がいかにも演劇的で小説としての魅力を殺いでいる。」
古井由吉
男59歳
11 「同じテーマをめぐる再三の悪戦苦闘が、ここでひとまずの落着を見たように思われる。表現はよほど透明になった。」「もはや言葉を乱投入することによっては揺さぶりのきかぬところまでは、テーマは結晶した。」「かわりに詠歎の声がようやく作中に、静かに溢れた。これも転機のしるしである。ここを去れ、という促しかもしれない。」
黒井千次
男64歳
23 「注目した。」「負の光線の中に浮かび上る家族の姿は、黒々としてグロテスクであると同時に、滑稽で哀切な影を帯びている。自分達の映画を作るために家族が再会するというストーリーも秀逸である。」「ただ、女主人公が勤める会社での業務の場面になると描写の密度が薄くなる点、家族関係とその他の人間関係とのバランスが作品構成上必ずしも十全に保たれてはいない点などに若干の疑問は残る。」
池澤夏樹
男51歳
12 「それぞれの場面はおもしろいのだが、その効果がつながって一つの流れを形成していない。」「後半に出てくる深見という老いた彫刻家との関わりも絵柄としては派手ながら意味が取りにくい。全体として、何本も柱を立てているのに、それがどれも梁に届いていない感じ。」
三浦哲郎
男65歳
11 「候補作中この作品に最もしたたかな文学的才能を感じた。」「満開の桜の下でブランコに乗る場面が二度出てくるが、いずれも私は好ましい印象を受けた。他の委員に感傷的だと嗤われたが、あの二つの場面を読んだときの感銘は、いまでも私の胸底にある。」
田久保英夫
男68歳
19 「人には日常の煩瑣な現実をぬけ出し、別の超越的な領域に行きたい、という願望がある。」「私は柳美里さんの作品に、(引用者中略・注:過去の二候補作を含めて)それを感じた。」「いずれも家族相互の生臭い関係が、中心にあるが、別の人物を通して、女性のひそかな内部にそれが現われる。」「最終的に、私は「家族シネマ」一作を推した。」
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他の候補作
辻仁成
「海峡の光」
町田康
「くっすん大黒」
伊達一行
「夜の落とし子」
青来有一
「泥海の兄弟」
デビット・ゾペティ
「いちげんさん」
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受賞者・作品
辻仁成男37歳×各選考委員 
「海峡の光」
中篇 180
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女70歳
10 「少年時代の同級生花井修のクラスでの立ち廻り方は、よく描けている。」「ただ、主人公の花井への二十年近い拘泥りが、私には実感が淡かった。が、そこに強い理解を示す複数の委員もあった。」「私の気のつかぬ何等かの取柄があるのかもしれないと思いもして、二作受賞に賛成したのである。」
宮本輝
男49歳
17 「一気に読んだ。」「辻氏の筆からスタミナは最後まで失われず、不可知な人間の闇を描くことに成功したと思う。」「力あまって、生硬な文章が多用されていて、そこが黙認できないという委員の意見も理解したうえで、なお、私は「海峡の光」の確固たる小説世界を支持した。」「辻氏は、作家としてのある決意を秘めて、この作品に立ち向かっている。その気迫もまた、私は読みながら感じつづけることができた。」
丸谷才一
男71歳
23 「(引用者注:「家族シネマ」より)もつとリアリティがない。」「この語り手の教養に合せて文体を選んだと見るのならば、これだけ言語能力の低い者の一人称で小説を書かうとした作者の責任が問はれなければならない。」「小説全体もこの文章にふさはしく意味不明で、主人公行状も語り手の感慨もいちいちわけがわからなかつた。」
日野啓三
男67歳
13 「いささか生硬な漢文的スタイルの文章が、奥行のある硬質の小宇宙(独房がその核だろう)を構築している。」「主要登場人物の心理と行動の変化の点で構成上の欠陥がないわけではない。自然に納得し難い飛躍があるのだが、にもかかわらず小器用にまとまった佳作以上の迫力と魅力があることを納得せざるをえない。」
石原慎太郎
男64歳
15 「氏の作家としての力量を感じさせる幅も奥も深い作品である。人間の心、というよりも体の芯に潜む邪悪なるものの不可知さに正面きって向かい合い厄介な主題をとにかくもこなしている。」「ある選者はこの男(引用者注:花井)の衝動は理解出来ないし、作者もそれを描き切れていないといったが、理解できぬ人間の本性の部分を理解を求めて描く必要がある訳はない。」
古井由吉
男59歳
14 「ようやく自分の文学を立ち上がらせた力動が文章そのものから感じ取れる」「イジメ・イジメラレの関係から、人間の「悪」をめぐる関係へ至るまでの、表現の距離は長い。」「しかし独房中の男の描出は、言葉が徒労になりかけるが、空白に近い表現の緊張に支えられて、立っているではないか。とにかく立ち上がらせた。出発点である。」
黒井千次
男64歳
23 「以前に候補作となった「母なる凪と父なる時化」に比べて格段の飛躍が認められた。」「焦点は、(引用者中略)受刑者の不可解な行動をいかに捉えるかにあったろう。作者はそれを不可解なものとして扱う姿勢を貫いているが、読者はその奥にひそむものを知りたいと感じる。」「この力作は、作者にとっての貴重な踏み台であり、また現代の世界の一断片を示す小説としての可能性を孕んでいる。」
池澤夏樹
男51歳
15 「一番の問題は、中心人物の内面を描きえない設定を最初にしてしまったことにある。会話が禁じられている刑務所の中で、看守である語り手が囚人である当の人物の複雑で矛盾を孕んだ心を論ずるのはむずかしい」「敢えて古めかしい、硬い、作者自身が使い慣れているとは思えない文体を採用した点も認めがたい。」
三浦哲郎
男65歳
13 「堅固な砦を思わせるような作品である。さあ、どこからでもこい、これが受賞しなければ芥川賞とは一体なんだ、という自信と気概も感じられる。ところどころ美文調に陥ったり(引用者中略)、語尾にのだった(原文傍点)が頻出する嫌いがあるが、作品の評価を揺るがすほどではない。」
田久保英夫
男68歳
13 「波濤や船の航行の描写などに、逞しい筆力を感じた。しかし、この作品にはつねに二面があって、(引用者中略)囚人は「邪悪」で、「悪魔」的とも描かれるし、逆に「大仏」のようにも、「超俗」した者にも描かれる。この両面に、読む側は刑務官自身の言うように、すべて「妄念」ではないか、とも思えて、人物の統一像が結ばない。」
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他の候補作
柳美里
「家族シネマ」
町田康
「くっすん大黒」
伊達一行
「夜の落とし子」
青来有一
「泥海の兄弟」
デビット・ゾペティ
「いちげんさん」
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候補者・作品
町田康男35歳×各選考委員 
「くっすん大黒」
短篇 119
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女70歳
0  
宮本輝
男49歳
2 「私は格別の感想はない。」
丸谷才一
男71歳
0  
日野啓三
男67歳
0  
石原慎太郎
男64歳
3 「饒舌体の語りは面白いが、昨今都会に多い一種の精神的ホームレスといった人間像がいま一つ書き切れていない。」
古井由吉
男59歳
0  
黒井千次
男64歳
6 「前半と後半に分裂が見られ、意図の達成の阻まれた感があるが、このエネルギーとスタイルは見守って行きたいものである。」
池澤夏樹
男51歳
0  
三浦哲郎
男65歳
0  
田久保英夫
男68歳
0  
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他の候補作
柳美里
「家族シネマ」
辻仁成
「海峡の光」
伊達一行
「夜の落とし子」
青来有一
「泥海の兄弟」
デビット・ゾペティ
「いちげんさん」
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候補者・作品
伊達一行男46歳×各選考委員 
「夜の落とし子」
中篇 206
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女70歳
0  
宮本輝
男49歳
5 「達者な筆だと思う。しかし、その達者さは、小器用と同質のもので、登場人物に血肉が感じられない。」
丸谷才一
男71歳
0  
日野啓三
男67歳
0  
石原慎太郎
男64歳
4 「最近流行の不法滞在の外国人の風俗の中の群像だが、彼等の哀感がにじみ出して来ないために文学としての文明批判にも成り得ずに風俗小説の域を脱していない。」
古井由吉
男59歳
0  
黒井千次
男64歳
0  
池澤夏樹
男51歳
0  
三浦哲郎
男65歳
8 「前作の気取りがきれいになくなっているところはよかったが、欲張りは相変わらずで、登場人物が憶え切れぬほど多く、それらが入り乱れ、それにつれて話の筋も錯綜し、わかりにくい作品になっている。作者は物語るのに忙しくて、悲しむべき境遇にある人々の悲しみさえ読む者に伝わってこないのである。」
田久保英夫
男68歳
0  
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他の候補作
柳美里
「家族シネマ」
辻仁成
「海峡の光」
町田康
「くっすん大黒」
青来有一
「泥海の兄弟」
デビット・ゾペティ
「いちげんさん」
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候補者・作品
青来有一男38歳×各選考委員 
「泥海の兄弟」
短篇 113
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女70歳
2 「格段の成長には注目した。」
宮本輝
男49歳
3 「安手のアクション映画のような終わり方は、どうにも首をひねらざるを得ない。」
丸谷才一
男71歳
0  
日野啓三
男67歳
0  
石原慎太郎
男64歳
12 「面白く読んだ。有明海という特異な海域がよく描かれていて、それが、これもたいそう都合よく設定されている人間たちにも信憑性を与えている。」「文学としての安直さが、たとえば『泥海の兄弟』という題にも出ている。」「しかしなお、(引用者中略)船を出した父親がそのまま漂流して死んでいくといった挿話は、ヘミングウェイの優れた短編の世界にも繋がって強い印象を受けた。」
古井由吉
男59歳
0  
黒井千次
男64歳
0  
池澤夏樹
男51歳
0  
三浦哲郎
男65歳
0  
田久保英夫
男68歳
0  
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他の候補作
柳美里
「家族シネマ」
辻仁成
「海峡の光」
町田康
「くっすん大黒」
伊達一行
「夜の落とし子」
デビット・ゾペティ
「いちげんさん」
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候補者・作品
デビット・ゾペティ男34歳×各選考委員 
「いちげんさん」
中篇 254
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女70歳
0  
宮本輝
男49歳
5 「芥川賞としてはいささか弱い。」「日本語による文章のうまさは並ではない」
丸谷才一
男71歳
0  
日野啓三
男67歳
0  
石原慎太郎
男64歳
7 「すばる文学賞の候補作の中では相対的には際だってよく出来ていたが、一段格が上のこの賞の候補作としては文学的にひ弱である。」
古井由吉
男59歳
0  
黒井千次
男64歳
4 「外国人が書いた日本語の文章の達者さと滑らかさに驚かされたが、恋愛小説としては色が淡く、定着と放浪の物語になるにはいささか底が浅過ぎる。」
池澤夏樹
男51歳
0  
三浦哲郎
男65歳
4 「作品の出来はともかく、現在の日本の作家が書かなくなった場面を情感たっぷりに書き上げている部分があり、そのみずみずしさに、と胸を突かれた。」
田久保英夫
男68歳
9 「注目した。」「異国人を外見だけでとじ籠める周囲の閉鎖性も、書き通しているが、読後どこか稀薄な感じが残るのは、長すぎて冗漫な部分があるのと、二人の別れ方を初め、幾つかの場面を、技巧的にうまく処理しすぎているせいだろうか。」
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他の候補作
柳美里
「家族シネマ」
辻仁成
「海峡の光」
町田康
「くっすん大黒」
伊達一行
「夜の落とし子」
青来有一
「泥海の兄弟」
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