芥川賞のすべて・のようなもの
第117回
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平成9年/1997年上半期
(平成9年/1997年7月17日決定発表/『文藝春秋』平成9年/1997年9月号選評掲載)
選考委員  丸谷才一
男71歳
日野啓三
男68歳
黒井千次
男65歳
田久保英夫
男69歳
河野多恵子
女71歳
宮本輝
男50歳
池澤夏樹
男52歳
古井由吉
男59歳
石原慎太郎
男64歳
三浦哲郎
男66歳
選評総行数  33 37 36 40 35 36 39 37 42  
選評なし
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
目取真俊 「水滴」
60
男36歳
17 31 24 21 31 18 9 0 15    
佐藤亜有子 「葡萄」
29
女27歳
0 4 0 12 0 0 2 0 0    
藤沢周 「サイゴン・ピックアップ」
86
男38歳
12 0 7 4 0 5 11 37 7    
伊達一行 「水のみち」
116
男46歳
0 0 0 0 0 5 5 0 9    
鷺沢萠 「君はこの国を好きか」
204
女29歳
0 0 0 3 0 6 5 0 5    
吉田修一 「最後の息子」
110
男28歳
4 4 5 0 4 0 15 0 0    
                  欠席
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成9年/1997年9月号)
1行当たりの文字数:24字


選考委員
丸谷才一男71歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
をととひのへちまの水 総行数33 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
目取真俊
男36歳
17 「徳正の右足がふくれて踵から絶え間なく水がしたたり、さうしてゐるうちにベッドのそばに兵隊たちが立ち、そして彼らと彼との因縁、といふあたりまではなかなかよかつた。」「しかし足から出る水が毛生え薬になつて、それで儲ける段になると、想像力の動き具合が急に衰へる。」「これは小説を発想する力に恵まれてゐる人が、しかしそれを構築し展開し持続する修練を経てゐないため、惜しい結果になつたものである。」
佐藤亜有子
女27歳
0  
藤沢周
男38歳
12 「現代の青春を書くのにふさはしい道具立てを揃へてみせた。その才気は認めてもいい。しかしありきたりのものだけ並べたのは残念だつた。」「何か一つに獨創性のある角度から光を当てて、おもしろい挿話を語つてもらひたかつた。」
伊達一行
男46歳
0  
鷺沢萠
女29歳
0  
吉田修一
男28歳
4 「心に残つたが、しかしこれについて何か言ふためには、もう一作読みたいやうな気がする。」
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他の選考委員
日野啓三
黒井千次
田久保英夫
河野多恵子
宮本輝
池澤夏樹
古井由吉
石原慎太郎
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選考委員
日野啓三男68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
大肯定 総行数37 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
目取真俊
男36歳
31 「問題は一九四五年だけでなく戦後五十余年に及ぶこと、被害者としてだけ戦争と自分を装ってきたこと(沖縄だけであるまい)――戦後の自己欺瞞を作者は問い直している。」「その無意識の長い罪を意識化し悔い改め救われるメデタイ話ではない」「そんな主人公のすべてを、そのエゴイズム、弱さ愚かさを、作者は“大肯定”している。倫理的、宗教的にではなく、沖縄という不思議な場の力で。」「すぐれて沖縄的で現代的な小説である。」
佐藤亜有子
女27歳
4 「(引用者注:吉田修一と共に)新しい回路を手探りし始めている。」「内地の現代小説が、二十代の新しい作家の方法的冒険から始まる予感もある。」
藤沢周
男38歳
0  
伊達一行
男46歳
0  
鷺沢萠
女29歳
0  
吉田修一
男28歳
4 「(引用者注:佐藤亜有子と共に)新しい回路を手探りし始めている。」「内地の現代小説が、二十代の新しい作家の方法的冒険から始まる予感もある。」
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他の選考委員
丸谷才一
黒井千次
田久保英夫
河野多恵子
宮本輝
池澤夏樹
古井由吉
石原慎太郎
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選考委員
黒井千次男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
熱い寓話 総行数36 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
目取真俊
男36歳
24 「誇張をまじえた線描のようなユーモラスな描写の中に、村人達の躍動する顔が見えた。」「その風土と暮しの色が、「水滴」の世界を強く支えている。」「後半、寓意性が突出していささか空転の気味があるなど欠点は見られるものの、この重い主題を土と肌の臭いのする熱い寓話として持ち上げた作者の足腰の強靭さには、注目すべきものがある。」
佐藤亜有子
女27歳
0  
藤沢周
男38歳
7 「二つの(引用者注:俗と聖の)世界がどう対立するのか、あるいは対立し得ぬのか、が遂にわからぬまま終るところにもどかしさと苛立ちが残った。」
伊達一行
男46歳
0  
鷺沢萠
女29歳
0  
吉田修一
男28歳
5 「観察、演技、記録など様々な要素が絡まり合う中に、男と男の共棲が描かれて作者の才気が感じられる。」
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他の選考委員
丸谷才一
日野啓三
田久保英夫
河野多恵子
宮本輝
池澤夏樹
古井由吉
石原慎太郎
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選考委員
田久保英夫男69歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
小説の仕立て 総行数40 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
目取真俊
男36歳
21 「一つを選べば目取真俊氏の「水滴」しかない、と思ったが、しかし、抵抗も抑えがたい。」「とぼけたユーモアも漂う語り口で、寓話的な仕立てだが、(引用者中略)戦中の罪責感と哀傷が、裏打ちされている。」「最後に水が効力を失い、従兄弟が群衆に制裁をうけるに至っては、寓話性がきわめて濃厚になり、つくりが目だつ。小説は寓話ではない。寓話染みてもかまわないが、それだけ小説の力は弱まる。」
佐藤亜有子
女27歳
12 「興味深かった。」「鋭敏な感覚的表現で、モノを媒介にした自分と他者のかかわり合いの、根底にある姿をかいま見せる。」「私は参考に、以前に出た長短の作品も読んでみたが、相当の能力で、こんご才気を抑え、小説的な具象を貫いてほしい、と思う。」
藤沢周
男38歳
4 「あざやかな場面も幾つかあるが、結局この聖俗二つの世界が、何を目ざすのか、感得できない。」
伊達一行
男46歳
0  
鷺沢萠
女29歳
3 「素材への取り組みに、真率さが伝わるが、全体の量も文章も、もっとひき締める必要があろう。」
吉田修一
男28歳
0  
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他の選考委員
丸谷才一
日野啓三
黒井千次
河野多恵子
宮本輝
池澤夏樹
古井由吉
石原慎太郎
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選考委員
河野多恵子女71歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
『水滴』の強み 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
目取真俊
男36歳
31 「この賞の選考に携わってきた十一年間で、印象に残る受賞作は複数あるけれども、最も感心した」「敬服した。」「非リアリズムによって、沖縄戦という戦争を現代に及ぶ視野で捉えている。」「硬張ったメッセージは一つもない。しかし、ウジのその言葉(引用者注:「嘘物言いして戦場の哀れ事語てぃ銭儲けしよって、今に罰被るよ」)にしても、(引用者中略)戦争体験者の体験意識の途方もない、風化ならぬ通俗化に対する痛烈な批判とも聞えるのである。」
佐藤亜有子
女27歳
0  
藤沢周
男38歳
0  
伊達一行
男46歳
0  
鷺沢萠
女29歳
0  
吉田修一
男28歳
4 「よかった。ホモを扱いながら、からりとしており、微妙な屈折を明快な表現で存分に伝える技はなかなかのものである。」
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他の選考委員
丸谷才一
日野啓三
黒井千次
田久保英夫
宮本輝
池澤夏樹
古井由吉
石原慎太郎
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選考委員
宮本輝男50歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
優れた構成と精神性 総行数36 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
目取真俊
男36歳
18 「また沖縄か、と苦笑する委員がいらっしゃったが、それは刮目させる作品を生み出し得ない多くの新人たちに対する苦い思いのあらわれである。」「メタファリックな小説の作りが、世迷い言の寓話と一線を画したのは、作者の目が高いからだと思う。」「ところどころに瑕瑾はあり、文章も必ずしも独自な秀逸を放ってはいないが、優れた構成と精神性に私は感心した。」
佐藤亜有子
女27歳
0  
藤沢周
男38歳
5 「大都会に禅寺の修行僧たちを配して、バイオレンス仕立てに都合よく動かしただけという印象を受けた。」
伊達一行
男46歳
5 「氏のこれまでの作品よりも強かった。」「舞台設定となるものの描写はつねに優れているが、その舞台で演じる人間の劇が、いつのまにか類型化して弱まる癖があって、私はいつもそこが物足りない。」
鷺沢萠
女29歳
6 「氏は安易に小説のネタに食いつきすぎて、内部での醗酵を待たずに、安易に小説化しすぎているような気がする。」
吉田修一
男28歳
0  
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他の選考委員
丸谷才一
日野啓三
黒井千次
田久保英夫
河野多恵子
池澤夏樹
古井由吉
石原慎太郎
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選考委員
池澤夏樹男52歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
誠意と技術 総行数39 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
目取真俊
男36歳
9 「民話(寓話ではない)の形を借りて五十年前の戦争の後遺症を巧みに描く。」「他の候補作がみなどこかで文学を(人生を?)なめているのに対して、この作品だけは誠実にテーマに向き合い、しかも充分な技術があるおかげで自己満足に陥っていない。受賞に値すると判断した所以である。」
佐藤亜有子
女27歳
2 「この賞の候補とするには短すぎる。一つのテーマでこの長さでは才能の判断のしようがない。」
藤沢周
男38歳
11 「伎倆という点で言えば(引用者中略・注:似た面の多い「最後の息子」より)ずっと達者。ぐいぐいとよく読ませる。しかし、作者にとって禅は本当にテーマだったのか。」「器用な語り口の読後にざらっとした不信感が残る。」
伊達一行
男46歳
5 「どうも余計なものが多くて、姿がすっきりしない。山との対決はいいのだが、作者は主人公の心の中に不用意に出入りしすぎる。」
鷺沢萠
女29歳
5 「長すぎる。まるで体験をそのままどこまでもなぞっているようで(実際に体験なのか否かは知らず)、なかなか小説として離陸しない。」
吉田修一
男28歳
15 「細部はうまいのだが、主題にもう一つ強さがない。この場合、風俗のレベルを一歩だけでも超えて欲しいのだ。今の都会の生活は、男性の同性愛者同士のカップルという設定でさえ、こんなものなのだろうか。」
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他の選考委員
丸谷才一
日野啓三
黒井千次
田久保英夫
河野多恵子
宮本輝
古井由吉
石原慎太郎
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選考委員
古井由吉男59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
騒がしき背理 総行数37 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
目取真俊
男36歳
0  
佐藤亜有子
女27歳
0  
藤沢周
男38歳
37 「作品は修行者の俗も俗のところをつぶさに描いてはいるが、それで足れりとはしていない。俗に堕ちるのは求道の必然と睨んでいる。」「主人公は真には受けていないつもりの求道の、気味の良くない深み、どうやら宗教的であるらしい背理の中へじわじわと、惹きこまれかねない危機にさしかかっているらしい。」「背理の細い隙間に踏みこむために、騒がしく走らなくてはならぬことはある。」
伊達一行
男46歳
0  
鷺沢萠
女29歳
0  
吉田修一
男28歳
0  
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他の選考委員
丸谷才一
日野啓三
黒井千次
田久保英夫
河野多恵子
宮本輝
池澤夏樹
石原慎太郎
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選考委員
石原慎太郎男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
あらためての、沖縄の個性 総行数42 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
目取真俊
男36歳
15 「これは沖縄ならでは成り立たぬ現代の寓話だろう。あるシーンでは不思議な幻想性さえ感じさせるが、寓話仕立ての部分がそれを相殺してしまって作品の出来を損なってもいる。」「それにしても不思議な印象の出来栄えである。やはり戦争体験なるものは沖縄にとってただ遺産にとどまらず、今日もなお財産として継承されているという、沖縄の地方としての個性を明かした作品ともいえる。」
佐藤亜有子
女27歳
0  
藤沢周
男38歳
7 「興味深い世界を描いている。それを描いてことさら深刻になる必要もないが、いろいろとりこんで達者に描いてはいるが何が芯たる主題かが伝わってこない。」
伊達一行
男46歳
9 「一番面白く読んだが、この主題を描くにこの文体はむしろ古めかしい感じがする。」「前回の候補作といい今回といい、取材をよくしているのは感じられても、その主題と作者の関わりがあまり真摯なものに感じられてこないというのは重要な瑕瑾と思われる。」
鷺沢萠
女29歳
5 「今流行りの、いろいろ厄介な日韓関係を在日韓国子弟の立場で描いてはいても、呉善花氏の『攘夷の韓国 開国の日本』や『スカートの風』のような卓抜な日韓比較文化論にははるか及ばない。」
吉田修一
男28歳
0  
  「今回の候補作は、ともかく飽きずに読ませる作品が多く総じて粒がそろっていた。もっとも、それが現代の流れなのかも知れぬがどう見てもマーケッティングによる、つまり当てこみの素材が多く、その分興がそがれる。」
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他の選考委員
丸谷才一
日野啓三
黒井千次
田久保英夫
河野多恵子
宮本輝
池澤夏樹
古井由吉
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受賞者・作品
目取真俊男36歳×各選考委員 
「水滴」
短篇 60
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
丸谷才一
男71歳
17 「徳正の右足がふくれて踵から絶え間なく水がしたたり、さうしてゐるうちにベッドのそばに兵隊たちが立ち、そして彼らと彼との因縁、といふあたりまではなかなかよかつた。」「しかし足から出る水が毛生え薬になつて、それで儲ける段になると、想像力の動き具合が急に衰へる。」「これは小説を発想する力に恵まれてゐる人が、しかしそれを構築し展開し持続する修練を経てゐないため、惜しい結果になつたものである。」
日野啓三
男68歳
31 「問題は一九四五年だけでなく戦後五十余年に及ぶこと、被害者としてだけ戦争と自分を装ってきたこと(沖縄だけであるまい)――戦後の自己欺瞞を作者は問い直している。」「その無意識の長い罪を意識化し悔い改め救われるメデタイ話ではない」「そんな主人公のすべてを、そのエゴイズム、弱さ愚かさを、作者は“大肯定”している。倫理的、宗教的にではなく、沖縄という不思議な場の力で。」「すぐれて沖縄的で現代的な小説である。」
黒井千次
男65歳
24 「誇張をまじえた線描のようなユーモラスな描写の中に、村人達の躍動する顔が見えた。」「その風土と暮しの色が、「水滴」の世界を強く支えている。」「後半、寓意性が突出していささか空転の気味があるなど欠点は見られるものの、この重い主題を土と肌の臭いのする熱い寓話として持ち上げた作者の足腰の強靭さには、注目すべきものがある。」
田久保英夫
男69歳
21 「一つを選べば目取真俊氏の「水滴」しかない、と思ったが、しかし、抵抗も抑えがたい。」「とぼけたユーモアも漂う語り口で、寓話的な仕立てだが、(引用者中略)戦中の罪責感と哀傷が、裏打ちされている。」「最後に水が効力を失い、従兄弟が群衆に制裁をうけるに至っては、寓話性がきわめて濃厚になり、つくりが目だつ。小説は寓話ではない。寓話染みてもかまわないが、それだけ小説の力は弱まる。」
河野多恵子
女71歳
31 「この賞の選考に携わってきた十一年間で、印象に残る受賞作は複数あるけれども、最も感心した」「敬服した。」「非リアリズムによって、沖縄戦という戦争を現代に及ぶ視野で捉えている。」「硬張ったメッセージは一つもない。しかし、ウジのその言葉(引用者注:「嘘物言いして戦場の哀れ事語てぃ銭儲けしよって、今に罰被るよ」)にしても、(引用者中略)戦争体験者の体験意識の途方もない、風化ならぬ通俗化に対する痛烈な批判とも聞えるのである。」
宮本輝
男50歳
18 「また沖縄か、と苦笑する委員がいらっしゃったが、それは刮目させる作品を生み出し得ない多くの新人たちに対する苦い思いのあらわれである。」「メタファリックな小説の作りが、世迷い言の寓話と一線を画したのは、作者の目が高いからだと思う。」「ところどころに瑕瑾はあり、文章も必ずしも独自な秀逸を放ってはいないが、優れた構成と精神性に私は感心した。」
池澤夏樹
男52歳
9 「民話(寓話ではない)の形を借りて五十年前の戦争の後遺症を巧みに描く。」「他の候補作がみなどこかで文学を(人生を?)なめているのに対して、この作品だけは誠実にテーマに向き合い、しかも充分な技術があるおかげで自己満足に陥っていない。受賞に値すると判断した所以である。」
古井由吉
男59歳
0  
石原慎太郎
男64歳
15 「これは沖縄ならでは成り立たぬ現代の寓話だろう。あるシーンでは不思議な幻想性さえ感じさせるが、寓話仕立ての部分がそれを相殺してしまって作品の出来を損なってもいる。」「それにしても不思議な印象の出来栄えである。やはり戦争体験なるものは沖縄にとってただ遺産にとどまらず、今日もなお財産として継承されているという、沖縄の地方としての個性を明かした作品ともいえる。」
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他の候補作
佐藤亜有子
「葡萄」
藤沢周
「サイゴン・ピックアップ」
伊達一行
「水のみち」
鷺沢萠
「君はこの国を好きか」
吉田修一
「最後の息子」
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候補者・作品
佐藤亜有子女27歳×各選考委員 
「葡萄」
短篇 29
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
丸谷才一
男71歳
0  
日野啓三
男68歳
4 「(引用者注:吉田修一と共に)新しい回路を手探りし始めている。」「内地の現代小説が、二十代の新しい作家の方法的冒険から始まる予感もある。」
黒井千次
男65歳
0  
田久保英夫
男69歳
12 「興味深かった。」「鋭敏な感覚的表現で、モノを媒介にした自分と他者のかかわり合いの、根底にある姿をかいま見せる。」「私は参考に、以前に出た長短の作品も読んでみたが、相当の能力で、こんご才気を抑え、小説的な具象を貫いてほしい、と思う。」
河野多恵子
女71歳
0  
宮本輝
男50歳
0  
池澤夏樹
男52歳
2 「この賞の候補とするには短すぎる。一つのテーマでこの長さでは才能の判断のしようがない。」
古井由吉
男59歳
0  
石原慎太郎
男64歳
0  
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他の候補作
目取真俊
「水滴」
藤沢周
「サイゴン・ピックアップ」
伊達一行
「水のみち」
鷺沢萠
「君はこの国を好きか」
吉田修一
「最後の息子」
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候補者・作品
藤沢周男38歳×各選考委員 
「サイゴン・ピックアップ」
短篇 86
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
丸谷才一
男71歳
12 「現代の青春を書くのにふさはしい道具立てを揃へてみせた。その才気は認めてもいい。しかしありきたりのものだけ並べたのは残念だつた。」「何か一つに獨創性のある角度から光を当てて、おもしろい挿話を語つてもらひたかつた。」
日野啓三
男68歳
0  
黒井千次
男65歳
7 「二つの(引用者注:俗と聖の)世界がどう対立するのか、あるいは対立し得ぬのか、が遂にわからぬまま終るところにもどかしさと苛立ちが残った。」
田久保英夫
男69歳
4 「あざやかな場面も幾つかあるが、結局この聖俗二つの世界が、何を目ざすのか、感得できない。」
河野多恵子
女71歳
0  
宮本輝
男50歳
5 「大都会に禅寺の修行僧たちを配して、バイオレンス仕立てに都合よく動かしただけという印象を受けた。」
池澤夏樹
男52歳
11 「伎倆という点で言えば(引用者中略・注:似た面の多い「最後の息子」より)ずっと達者。ぐいぐいとよく読ませる。しかし、作者にとって禅は本当にテーマだったのか。」「器用な語り口の読後にざらっとした不信感が残る。」
古井由吉
男59歳
37 「作品は修行者の俗も俗のところをつぶさに描いてはいるが、それで足れりとはしていない。俗に堕ちるのは求道の必然と睨んでいる。」「主人公は真には受けていないつもりの求道の、気味の良くない深み、どうやら宗教的であるらしい背理の中へじわじわと、惹きこまれかねない危機にさしかかっているらしい。」「背理の細い隙間に踏みこむために、騒がしく走らなくてはならぬことはある。」
石原慎太郎
男64歳
7 「興味深い世界を描いている。それを描いてことさら深刻になる必要もないが、いろいろとりこんで達者に描いてはいるが何が芯たる主題かが伝わってこない。」
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他の候補作
目取真俊
「水滴」
佐藤亜有子
「葡萄」
伊達一行
「水のみち」
鷺沢萠
「君はこの国を好きか」
吉田修一
「最後の息子」
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候補者・作品
伊達一行男46歳×各選考委員 
「水のみち」
短篇 116
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
丸谷才一
男71歳
0  
日野啓三
男68歳
0  
黒井千次
男65歳
0  
田久保英夫
男69歳
0  
河野多恵子
女71歳
0  
宮本輝
男50歳
5 「氏のこれまでの作品よりも強かった。」「舞台設定となるものの描写はつねに優れているが、その舞台で演じる人間の劇が、いつのまにか類型化して弱まる癖があって、私はいつもそこが物足りない。」
池澤夏樹
男52歳
5 「どうも余計なものが多くて、姿がすっきりしない。山との対決はいいのだが、作者は主人公の心の中に不用意に出入りしすぎる。」
古井由吉
男59歳
0  
石原慎太郎
男64歳
9 「一番面白く読んだが、この主題を描くにこの文体はむしろ古めかしい感じがする。」「前回の候補作といい今回といい、取材をよくしているのは感じられても、その主題と作者の関わりがあまり真摯なものに感じられてこないというのは重要な瑕瑾と思われる。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
目取真俊
「水滴」
佐藤亜有子
「葡萄」
藤沢周
「サイゴン・ピックアップ」
鷺沢萠
「君はこの国を好きか」
吉田修一
「最後の息子」
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候補者・作品
鷺沢萠女29歳×各選考委員 
「君はこの国を好きか」
中篇 204
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
丸谷才一
男71歳
0  
日野啓三
男68歳
0  
黒井千次
男65歳
0  
田久保英夫
男69歳
3 「素材への取り組みに、真率さが伝わるが、全体の量も文章も、もっとひき締める必要があろう。」
河野多恵子
女71歳
0  
宮本輝
男50歳
6 「氏は安易に小説のネタに食いつきすぎて、内部での醗酵を待たずに、安易に小説化しすぎているような気がする。」
池澤夏樹
男52歳
5 「長すぎる。まるで体験をそのままどこまでもなぞっているようで(実際に体験なのか否かは知らず)、なかなか小説として離陸しない。」
古井由吉
男59歳
0  
石原慎太郎
男64歳
5 「今流行りの、いろいろ厄介な日韓関係を在日韓国子弟の立場で描いてはいても、呉善花氏の『攘夷の韓国 開国の日本』や『スカートの風』のような卓抜な日韓比較文化論にははるか及ばない。」
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他の候補作
目取真俊
「水滴」
佐藤亜有子
「葡萄」
藤沢周
「サイゴン・ピックアップ」
伊達一行
「水のみち」
吉田修一
「最後の息子」
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候補者・作品
吉田修一男28歳×各選考委員 
「最後の息子」
短篇 110
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
丸谷才一
男71歳
4 「心に残つたが、しかしこれについて何か言ふためには、もう一作読みたいやうな気がする。」
日野啓三
男68歳
4 「(引用者注:佐藤亜有子と共に)新しい回路を手探りし始めている。」「内地の現代小説が、二十代の新しい作家の方法的冒険から始まる予感もある。」
黒井千次
男65歳
5 「観察、演技、記録など様々な要素が絡まり合う中に、男と男の共棲が描かれて作者の才気が感じられる。」
田久保英夫
男69歳
0  
河野多恵子
女71歳
4 「よかった。ホモを扱いながら、からりとしており、微妙な屈折を明快な表現で存分に伝える技はなかなかのものである。」
宮本輝
男50歳
0  
池澤夏樹
男52歳
15 「細部はうまいのだが、主題にもう一つ強さがない。この場合、風俗のレベルを一歩だけでも超えて欲しいのだ。今の都会の生活は、男性の同性愛者同士のカップルという設定でさえ、こんなものなのだろうか。」
古井由吉
男59歳
0  
石原慎太郎
男64歳
0  
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他の候補作
目取真俊
「水滴」
佐藤亜有子
「葡萄」
藤沢周
「サイゴン・ピックアップ」
伊達一行
「水のみち」
鷺沢萠
「君はこの国を好きか」
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