芥川賞のすべて・のようなもの
第119回
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平成10年/1998年上半期
(平成10年/1998年7月16日決定発表/『文藝春秋』平成10年/1998年9月号選評掲載)
選考委員  石原慎太郎
男65歳
田久保英夫
男70歳
黒井千次
男66歳
池澤夏樹
男53歳
河野多恵子
女72歳
三浦哲郎
男67歳
古井由吉
男60歳
宮本輝
男51歳
日野啓三
男69歳
選評総行数  45 35 35 35 33 31 33 34 35
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
藤沢周 「ブエノスアイレス午前零時」
92
男39歳
7 12 14 11 22 8 11 7 5
花村萬月 「ゲルマニウムの夜」
156
男43歳
7 11 10 21 12 10 15 8 3
町田康 「けものがれ、俺らの猿と」
177
男36歳
5 9 4 0 0 0 0 4 6
辻章 「青山」
53
男53歳
3 4 0 0 0 7 0 0 3
大塚銀悦 「濁世」
132
男47歳
6 0 0 0 0 4 0 0 0
伊藤比呂美 「ハウス・プラント」
152
女42歳
6 0 7 0 0 3 0 0 2
若合春侑 「腦病院へまゐります。」
84
女39歳
6 0 0 0 0 0 0 4 0
                欠席
書面回答
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第十八巻』平成14年/2002年10月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成10年/1998年9月号)
1行当たりの文字数:24字


選考委員
石原慎太郎男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
ノンモラルの魅力 総行数45 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
藤沢周
男39歳
7 「現代的主題を、(引用者中略)老女のノスタルジーにかぶせて描いた、なかなか感覚的な部分もある、よくまとまった作品である。」
花村萬月
男43歳
7 「私は一番面白く読んだ。まさに冒涜の快感を謳った作品で、(引用者中略)主人公の徹底した、インモラルではなしに、ノンモラルは逆にある生産性をさえ感じさせる。文学こそが既存の価値の本質的破壊者であるという原理をこの作品は証そうとしている。」
町田康
男36歳
5 「例によって悪夢的イメイジの映画のワイプに似たモンタージュだが、いかんせんマナリスムの観が否めない。」
辻章
男53歳
3 「昨今こうした身障者のいる家庭といった主題の小説が多すぎてか、逆に心にとまらない。」
大塚銀悦
男47歳
6 「私は面白く読んだ。」「ある力を感じさせる。作者には今まで全く文学的経歴がないということも興味深い。」
伊藤比呂美
女42歳
6 「詩と小説の文章が実は本質的に異なるのだということを証している。誰かがこの作品は各センテンスに語尾がないといっていたが、いい得て妙だと思う。」
若合春侑
女39歳
6 「なんでこうした文体を採りこの時代を選んだのかその必然性が一向に感じられない。」「女の亭主の存在もとってつけで、総じてゲテモノの印象を出ない。」
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他の選考委員
田久保英夫
黒井千次
池澤夏樹
河野多恵子
三浦哲郎
古井由吉
宮本輝
日野啓三
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選考委員
田久保英夫男70歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
読みごたえ 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
藤沢周
男39歳
12 「犀利な感覚が見える。男の郷里であるその土地と、東京ぐらしの醒めた生活意識。盲目で老耄した女の現実と、妄想かも知れぬ横浜やブエノスアイレスの空間。こうした二つの世界を、フラッシュバックさせながら進む描写はあざやかだ。」「ただ、これまでの作品を見ても、どんな題材も巧みに書けそうで、私はそこに貫くつよい内的なモティーフを感得したい、と思う。」
花村萬月
男43歳
11 「私は(引用者中略)強烈な衝迫力にひかれたが、しかし、これは危険な小説である。」「だが、カトリック修道院の付属農場にいる青年を通して、神と悪徳の狭間に籠めた問いには、わが国にはめずらしい追求の情熱を感じる。人物や場面の輪郭も、鮮明である。」
町田康
男36歳
9 「確かな読みごたえを感じた。相変わらずオノマトペの多い饒舌体の文章だが、終始おかしみを伴った緊迫感がある。」「生臭い世俗の世界だが、この作ではどこか超現実へ抜けてしまう気配に、新しい味が見える。」
辻章
男53歳
4 「なぜ妻が情緒障害の息子を夫に任せて、離婚できるのか。それをもう一つ具体的に描くのが要所だ、という気がした。」
大塚銀悦
男47歳
0  
伊藤比呂美
女42歳
0  
若合春侑
女39歳
0  
  「今回は最初から、受賞作二篇が過半の支持をえた。」
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他の選考委員
石原慎太郎
黒井千次
池澤夏樹
河野多恵子
三浦哲郎
古井由吉
宮本輝
日野啓三
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選考委員
黒井千次男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
均整と傾斜 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
藤沢周
男39歳
14 「秀作である。」「本作は筆の走りを抑えて、都会からUターンした男の淡い諦めを滲ませた鬱屈と、外国人相手の娼婦であったと噂される老女の過去への思いとが、巧みに結び合わされて形の整った小説を生み出すことに成功した。」「そこには、まだ狂ったように走る光の点や、掌に掬われた温かな空気の感触もしっかり書き留められている。」
花村萬月
男43歳
10 「宗教という重いテーマに取り組む意欲とストーリーを運ぶ力量は充分に感じられるが、時に力み過ぎた文章が硬直を起し、対象を精確に捉えかねる点が気にかかった。また、全編のテーマである神の問題を引き受ける筈の告解をめぐる部分が、ほとんど会話のみで描かれていることにも不満を覚えた。」
町田康
男36歳
4 「常に追い詰められ、走り続ける主人公の姿に負の存在感がある。ただ、もう少し違った絵を見たい、との望みも抑え難い。」
辻章
男53歳
0  
大塚銀悦
男47歳
0  
伊藤比呂美
女42歳
7 「語りの文章の快さに惹かれた。」「とりわけ、末尾に近い「びーちとぱーく」の光景は秀逸である。このような散文作品も芥川賞の領域の一画を占めていいのではないか、と推したが、多くの賛同は得られなかった。」
若合春侑
女39歳
0  
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他の選考委員
石原慎太郎
田久保英夫
池澤夏樹
河野多恵子
三浦哲郎
古井由吉
宮本輝
日野啓三
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選考委員
池澤夏樹男53歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
何か足りない 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
藤沢周
男39歳
11 「実にうまくできた話で、どこにも隙がない。」「しかし何か足りない。この小さな物語を壊しかねない要素は持ち込むまいという作者の意図が見える気がする。」「授賞には異論はないが、次はまた前のような冒険をしてほしい。」
花村萬月
男43歳
21 「推すことはできなかった。派手な場面を次々に駆動してゆく力はすごいが、それを背後で支えている論理的骨格は細い。主人公一人が動いて、その他の人物は人形のよう。」「テーマが結論に至らぬまま次々変わってゆくのもおちつかない。」「傑作『笑う山崎』を書いた実力者を正当に評価できる作品と舞台ではなかったように思う。」
町田康
男36歳
0  
辻章
男53歳
0  
大塚銀悦
男47歳
0  
伊藤比呂美
女42歳
0  
若合春侑
女39歳
0  
  「作品を書く方はその時々目前の目的に夢中になって書くが、批評する側はもっと突き放して見る。一緒になって熱中できるような作品にはなかなか出会えない。」
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他の選考委員
石原慎太郎
田久保英夫
黒井千次
河野多恵子
三浦哲郎
古井由吉
宮本輝
日野啓三
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選考委員
河野多恵子女72歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
リアリズムからの前進 総行数33 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
藤沢周
男39歳
22 「(引用者注:主人公カザマが老女ミツコに対応するのは仕事の)一部であること、また彼のミツコに対するやさしさが立場上のやさしさであることが、自然に、豊かに描出されていて、作品世界を不思議なほど広がりのあるものにしている。それは、この作品の抽象性が成功しているからでもある。」「四度目の候補である今度の作品で、遽かに才能が大きく呼吸しはじめた。」
花村萬月
男43歳
12 「確かな手応えを感じた。」「閉塞的な世界であるにも拘らず陰湿性がなく、(引用者中略)広がりを見せる。宗教への問いかけ、擦り寄り方には、主人公の〈悪あがき〉自体にある真摯さに深い説得力があって、いたく引き込まれた。」
町田康
男36歳
0  
辻章
男53歳
0  
大塚銀悦
男47歳
0  
伊藤比呂美
女42歳
0  
若合春侑
女39歳
0  
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他の選考委員
石原慎太郎
田久保英夫
黒井千次
池澤夏樹
三浦哲郎
古井由吉
宮本輝
日野啓三
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選考委員
三浦哲郎男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数31 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
藤沢周
男39歳
8 「前作とあまりにも作風が違うので驚いた。今回の作品は文章も内容もよく整っていて、この作者の最良作だと思うが、これまでの荒々しい熱気が影をひそめて妙におとなしく纏まっているところが、いささか食い足りなかった。」
花村萬月
男43歳
10 「筆力という点でぬきんでていた。文章もしなやかで、どの場面の描写も力強くめりはりが利いていて印象的であった。」「行間から激しい主張と怨念のようなものが脈々と伝わってくる。ただ、部分的にはともかく、全体として見れば粗く強引にすぎて納得しかねる面があったことを指摘しておかねばならない。」
町田康
男36歳
0  
辻章
男53歳
7 「よいと思った。」「どうしても書きたい、書かずにはいられない素材と四つに取り組んでいる作者の気魄が全篇に漲っていて、充実感がある。古風といわれればそうに違いないが、地味ながら胸を打ってくる佳品であることには変わりがない。」
大塚銀悦
男47歳
4 「なかなかの力作で興味深かった。いつの日にかジャン・ジュネのような作品を。」
伊藤比呂美
女42歳
3 「繊細な言葉遣いに惹かれたが、作品としては詩と散文の間を立ち迷っているという印象を受けた。」
若合春侑
女39歳
0  
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他の選考委員
石原慎太郎
田久保英夫
黒井千次
池澤夏樹
河野多恵子
古井由吉
宮本輝
日野啓三
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選考委員
古井由吉男60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
現在と遠方と 総行数33 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
藤沢周
男39歳
11 「若い諧謔をふくんで、筆の運びは辛抱強い。タンゴのポーズを取って、男の肋のあたりに老女の、乳房とも、ただのドレスの膨らみともつかぬものが、かすかに触れる。現在と遠方との、「交接」である。男と女が交互に、現在になり遠方になる。」
花村萬月
男43歳
15 「この作品を読みすすむうちに、いや、待てよ、童貞者たちは辱められ、みずから辱めさせたが、(引用者中略)その「犯されきり」はそのまま、神の存在の証しにならぬとは、かぎらないのではないか、と無信者に「危惧」させるところに、この作品の本性はあるのではないか。ほんものの冒涜者はしょせん無力であり、無力であるかぎり、心ならずも、「敬虔」たらざるを得ないのではないか、と。」
町田康
男36歳
0  
辻章
男53歳
0  
大塚銀悦
男47歳
0  
伊藤比呂美
女42歳
0  
若合春侑
女39歳
0  
  「現在を遠方へつなぐ、あるいは、遠方を現在につなぐ。遠方にもさまざまある。空間の、時間の、そして現実の、さらに「心」の、と。」「その遠方へ現在をもうひとつ強く、しかもかなり細心に、振ってみるという試みが、今回の予選通過の七作に、濃淡の差はあっても、共通するところではないか。」
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他の選考委員
石原慎太郎
田久保英夫
黒井千次
池澤夏樹
河野多恵子
三浦哲郎
宮本輝
日野啓三
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選考委員
宮本輝男51歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
芥川賞の基準 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
藤沢周
男39歳
7 「藤沢氏の作品には、いつも、材料を上手にまとめただけといった印象を持つ。「書かれた小説世界」以上の何かが、読後、湧きあがってこない。」
花村萬月
男43歳
8 「(引用者注:票の割れた「ゲルマニウムの夜」と「ブエノスアイレス午前零時」の)どちらかを選べと言われると、私は花村氏の作品のほうが広がりがあるような気がした。」「ある種の爆発力のようなものを、花村氏に感じたが、もう一作読んでみたいという気持もぬぐい切れなかった。」
町田康
男36歳
4 「私は読むにつれて、いつのまにか眉に唾してしまう。はがれやすい化けの皮が見え隠れして仕方がないのだ。」
辻章
男53歳
0  
大塚銀悦
男47歳
0  
伊藤比呂美
女42歳
0  
若合春侑
女39歳
4 「才能を感じた」「だが、この一作で芥川賞というわけにはいかない。ただし、小説を書くという精神力、もしくは粘着力は光っていて、次作を楽しみにしたいと思う。」
  「私は強く推したい作品がなく、他の選考委員の意見に耳をかたむけるつもりで出席した。」
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他の選考委員
石原慎太郎
田久保英夫
黒井千次
池澤夏樹
河野多恵子
三浦哲郎
古井由吉
日野啓三
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選考委員
日野啓三男69歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
社会的通念の一歩先を 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
藤沢周
男39歳
5 「私はよい印象を持たない。適当な記号的イメージを適当に並べて感傷的に味つけした中間風俗小説と、二度読んで感じたが、多数の委員がそう感じなかったことに異を立てる気はない。」
花村萬月
男43歳
3 「自然発生的に雑な感じで、私としてはもう少し精緻な表現の焼きを加えてほしいと思うが、想念にある種の腕力はあるだろう。」
町田康
男36歳
6 「虚実の間を造型する最ものびやかな文章力と思ったが、いつも同じ型の作品だ、という意見があったということに同意する気持ちもある。「私」から「彼(彼女)」への視点の飛躍が小説を書くことだ、という基本を、もう一度考えて、作品世界を広げてほしい。」
辻章
男53歳
3 「この作品の末尾で到達した新しい認識による新しい展望の、作り方も新しい作品を改めて読みたい。」
大塚銀悦
男47歳
0  
伊藤比呂美
女42歳
2 「文学のよい匂を感じたが、もう少し作品世界を構築する努力が必要だろう。」
若合春侑
女39歳
0  
  「手術して退院間もないため欠席せざるをえなかった。」「今回の選評は、討議での修正を経ていないナマの第一印象の如きものであることを、ご了承願いたい。」「全体としてどの作品もよく似ているという印象をもった。鬱屈して、主観的には反社会的で、暴力的で、未来の展望をもたず、くすんだような感じの登場人物ばかり。」
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他の選考委員
石原慎太郎
田久保英夫
黒井千次
池澤夏樹
河野多恵子
三浦哲郎
古井由吉
宮本輝
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受賞者・作品
藤沢周男39歳×各選考委員 
「ブエノスアイレス午前零時」
短篇 92
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石原慎太郎
男65歳
7 「現代的主題を、(引用者中略)老女のノスタルジーにかぶせて描いた、なかなか感覚的な部分もある、よくまとまった作品である。」
田久保英夫
男70歳
12 「犀利な感覚が見える。男の郷里であるその土地と、東京ぐらしの醒めた生活意識。盲目で老耄した女の現実と、妄想かも知れぬ横浜やブエノスアイレスの空間。こうした二つの世界を、フラッシュバックさせながら進む描写はあざやかだ。」「ただ、これまでの作品を見ても、どんな題材も巧みに書けそうで、私はそこに貫くつよい内的なモティーフを感得したい、と思う。」
黒井千次
男66歳
14 「秀作である。」「本作は筆の走りを抑えて、都会からUターンした男の淡い諦めを滲ませた鬱屈と、外国人相手の娼婦であったと噂される老女の過去への思いとが、巧みに結び合わされて形の整った小説を生み出すことに成功した。」「そこには、まだ狂ったように走る光の点や、掌に掬われた温かな空気の感触もしっかり書き留められている。」
池澤夏樹
男53歳
11 「実にうまくできた話で、どこにも隙がない。」「しかし何か足りない。この小さな物語を壊しかねない要素は持ち込むまいという作者の意図が見える気がする。」「授賞には異論はないが、次はまた前のような冒険をしてほしい。」
河野多恵子
女72歳
22 「(引用者注:主人公カザマが老女ミツコに対応するのは仕事の)一部であること、また彼のミツコに対するやさしさが立場上のやさしさであることが、自然に、豊かに描出されていて、作品世界を不思議なほど広がりのあるものにしている。それは、この作品の抽象性が成功しているからでもある。」「四度目の候補である今度の作品で、遽かに才能が大きく呼吸しはじめた。」
三浦哲郎
男67歳
8 「前作とあまりにも作風が違うので驚いた。今回の作品は文章も内容もよく整っていて、この作者の最良作だと思うが、これまでの荒々しい熱気が影をひそめて妙におとなしく纏まっているところが、いささか食い足りなかった。」
古井由吉
男60歳
11 「若い諧謔をふくんで、筆の運びは辛抱強い。タンゴのポーズを取って、男の肋のあたりに老女の、乳房とも、ただのドレスの膨らみともつかぬものが、かすかに触れる。現在と遠方との、「交接」である。男と女が交互に、現在になり遠方になる。」
宮本輝
男51歳
7 「藤沢氏の作品には、いつも、材料を上手にまとめただけといった印象を持つ。「書かれた小説世界」以上の何かが、読後、湧きあがってこない。」
日野啓三
男69歳
5 「私はよい印象を持たない。適当な記号的イメージを適当に並べて感傷的に味つけした中間風俗小説と、二度読んで感じたが、多数の委員がそう感じなかったことに異を立てる気はない。」
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他の候補作
花村萬月
「ゲルマニウムの夜」
町田康
「けものがれ、俺らの猿と」
辻章
「青山」
大塚銀悦
「濁世」
伊藤比呂美
「ハウス・プラント」
若合春侑
「腦病院へまゐります。」
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受賞者・作品
花村萬月男43歳×各選考委員 
「ゲルマニウムの夜」
中篇 156
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石原慎太郎
男65歳
7 「私は一番面白く読んだ。まさに冒涜の快感を謳った作品で、(引用者中略)主人公の徹底した、インモラルではなしに、ノンモラルは逆にある生産性をさえ感じさせる。文学こそが既存の価値の本質的破壊者であるという原理をこの作品は証そうとしている。」
田久保英夫
男70歳
11 「私は(引用者中略)強烈な衝迫力にひかれたが、しかし、これは危険な小説である。」「だが、カトリック修道院の付属農場にいる青年を通して、神と悪徳の狭間に籠めた問いには、わが国にはめずらしい追求の情熱を感じる。人物や場面の輪郭も、鮮明である。」
黒井千次
男66歳
10 「宗教という重いテーマに取り組む意欲とストーリーを運ぶ力量は充分に感じられるが、時に力み過ぎた文章が硬直を起し、対象を精確に捉えかねる点が気にかかった。また、全編のテーマである神の問題を引き受ける筈の告解をめぐる部分が、ほとんど会話のみで描かれていることにも不満を覚えた。」
池澤夏樹
男53歳
21 「推すことはできなかった。派手な場面を次々に駆動してゆく力はすごいが、それを背後で支えている論理的骨格は細い。主人公一人が動いて、その他の人物は人形のよう。」「テーマが結論に至らぬまま次々変わってゆくのもおちつかない。」「傑作『笑う山崎』を書いた実力者を正当に評価できる作品と舞台ではなかったように思う。」
河野多恵子
女72歳
12 「確かな手応えを感じた。」「閉塞的な世界であるにも拘らず陰湿性がなく、(引用者中略)広がりを見せる。宗教への問いかけ、擦り寄り方には、主人公の〈悪あがき〉自体にある真摯さに深い説得力があって、いたく引き込まれた。」
三浦哲郎
男67歳
10 「筆力という点でぬきんでていた。文章もしなやかで、どの場面の描写も力強くめりはりが利いていて印象的であった。」「行間から激しい主張と怨念のようなものが脈々と伝わってくる。ただ、部分的にはともかく、全体として見れば粗く強引にすぎて納得しかねる面があったことを指摘しておかねばならない。」
古井由吉
男60歳
15 「この作品を読みすすむうちに、いや、待てよ、童貞者たちは辱められ、みずから辱めさせたが、(引用者中略)その「犯されきり」はそのまま、神の存在の証しにならぬとは、かぎらないのではないか、と無信者に「危惧」させるところに、この作品の本性はあるのではないか。ほんものの冒涜者はしょせん無力であり、無力であるかぎり、心ならずも、「敬虔」たらざるを得ないのではないか、と。」
宮本輝
男51歳
8 「(引用者注:票の割れた「ゲルマニウムの夜」と「ブエノスアイレス午前零時」の)どちらかを選べと言われると、私は花村氏の作品のほうが広がりがあるような気がした。」「ある種の爆発力のようなものを、花村氏に感じたが、もう一作読んでみたいという気持もぬぐい切れなかった。」
日野啓三
男69歳
3 「自然発生的に雑な感じで、私としてはもう少し精緻な表現の焼きを加えてほしいと思うが、想念にある種の腕力はあるだろう。」
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他の候補作
藤沢周
「ブエノスアイレス午前零時」
町田康
「けものがれ、俺らの猿と」
辻章
「青山」
大塚銀悦
「濁世」
伊藤比呂美
「ハウス・プラント」
若合春侑
「腦病院へまゐります。」
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候補者・作品
町田康男36歳×各選考委員 
「けものがれ、俺らの猿と」
中篇 177
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石原慎太郎
男65歳
5 「例によって悪夢的イメイジの映画のワイプに似たモンタージュだが、いかんせんマナリスムの観が否めない。」
田久保英夫
男70歳
9 「確かな読みごたえを感じた。相変わらずオノマトペの多い饒舌体の文章だが、終始おかしみを伴った緊迫感がある。」「生臭い世俗の世界だが、この作ではどこか超現実へ抜けてしまう気配に、新しい味が見える。」
黒井千次
男66歳
4 「常に追い詰められ、走り続ける主人公の姿に負の存在感がある。ただ、もう少し違った絵を見たい、との望みも抑え難い。」
池澤夏樹
男53歳
0  
河野多恵子
女72歳
0  
三浦哲郎
男67歳
0  
古井由吉
男60歳
0  
宮本輝
男51歳
4 「私は読むにつれて、いつのまにか眉に唾してしまう。はがれやすい化けの皮が見え隠れして仕方がないのだ。」
日野啓三
男69歳
6 「虚実の間を造型する最ものびやかな文章力と思ったが、いつも同じ型の作品だ、という意見があったということに同意する気持ちもある。「私」から「彼(彼女)」への視点の飛躍が小説を書くことだ、という基本を、もう一度考えて、作品世界を広げてほしい。」
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他の候補作
藤沢周
「ブエノスアイレス午前零時」
花村萬月
「ゲルマニウムの夜」
辻章
「青山」
大塚銀悦
「濁世」
伊藤比呂美
「ハウス・プラント」
若合春侑
「腦病院へまゐります。」
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候補者・作品
辻章男53歳×各選考委員 
「青山」
短篇 53
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石原慎太郎
男65歳
3 「昨今こうした身障者のいる家庭といった主題の小説が多すぎてか、逆に心にとまらない。」
田久保英夫
男70歳
4 「なぜ妻が情緒障害の息子を夫に任せて、離婚できるのか。それをもう一つ具体的に描くのが要所だ、という気がした。」
黒井千次
男66歳
0  
池澤夏樹
男53歳
0  
河野多恵子
女72歳
0  
三浦哲郎
男67歳
7 「よいと思った。」「どうしても書きたい、書かずにはいられない素材と四つに取り組んでいる作者の気魄が全篇に漲っていて、充実感がある。古風といわれればそうに違いないが、地味ながら胸を打ってくる佳品であることには変わりがない。」
古井由吉
男60歳
0  
宮本輝
男51歳
0  
日野啓三
男69歳
3 「この作品の末尾で到達した新しい認識による新しい展望の、作り方も新しい作品を改めて読みたい。」
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他の候補作
藤沢周
「ブエノスアイレス午前零時」
花村萬月
「ゲルマニウムの夜」
町田康
「けものがれ、俺らの猿と」
大塚銀悦
「濁世」
伊藤比呂美
「ハウス・プラント」
若合春侑
「腦病院へまゐります。」
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候補者・作品
大塚銀悦男47歳×各選考委員 
「濁世」
短篇 132
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石原慎太郎
男65歳
6 「私は面白く読んだ。」「ある力を感じさせる。作者には今まで全く文学的経歴がないということも興味深い。」
田久保英夫
男70歳
0  
黒井千次
男66歳
0  
池澤夏樹
男53歳
0  
河野多恵子
女72歳
0  
三浦哲郎
男67歳
4 「なかなかの力作で興味深かった。いつの日にかジャン・ジュネのような作品を。」
古井由吉
男60歳
0  
宮本輝
男51歳
0  
日野啓三
男69歳
0  
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他の候補作
藤沢周
「ブエノスアイレス午前零時」
花村萬月
「ゲルマニウムの夜」
町田康
「けものがれ、俺らの猿と」
辻章
「青山」
伊藤比呂美
「ハウス・プラント」
若合春侑
「腦病院へまゐります。」
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候補者・作品
伊藤比呂美女42歳×各選考委員 
「ハウス・プラント」
中篇 152
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石原慎太郎
男65歳
6 「詩と小説の文章が実は本質的に異なるのだということを証している。誰かがこの作品は各センテンスに語尾がないといっていたが、いい得て妙だと思う。」
田久保英夫
男70歳
0  
黒井千次
男66歳
7 「語りの文章の快さに惹かれた。」「とりわけ、末尾に近い「びーちとぱーく」の光景は秀逸である。このような散文作品も芥川賞の領域の一画を占めていいのではないか、と推したが、多くの賛同は得られなかった。」
池澤夏樹
男53歳
0  
河野多恵子
女72歳
0  
三浦哲郎
男67歳
3 「繊細な言葉遣いに惹かれたが、作品としては詩と散文の間を立ち迷っているという印象を受けた。」
古井由吉
男60歳
0  
宮本輝
男51歳
0  
日野啓三
男69歳
2 「文学のよい匂を感じたが、もう少し作品世界を構築する努力が必要だろう。」
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他の候補作
藤沢周
「ブエノスアイレス午前零時」
花村萬月
「ゲルマニウムの夜」
町田康
「けものがれ、俺らの猿と」
辻章
「青山」
大塚銀悦
「濁世」
若合春侑
「腦病院へまゐります。」
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候補者・作品
若合春侑女39歳×各選考委員 
「腦病院へまゐります。」
短篇 84
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
石原慎太郎
男65歳
6 「なんでこうした文体を採りこの時代を選んだのかその必然性が一向に感じられない。」「女の亭主の存在もとってつけで、総じてゲテモノの印象を出ない。」
田久保英夫
男70歳
0  
黒井千次
男66歳
0  
池澤夏樹
男53歳
0  
河野多恵子
女72歳
0  
三浦哲郎
男67歳
0  
古井由吉
男60歳
0  
宮本輝
男51歳
4 「才能を感じた」「だが、この一作で芥川賞というわけにはいかない。ただし、小説を書くという精神力、もしくは粘着力は光っていて、次作を楽しみにしたいと思う。」
日野啓三
男69歳
0  
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他の候補作
藤沢周
「ブエノスアイレス午前零時」
花村萬月
「ゲルマニウムの夜」
町田康
「けものがれ、俺らの猿と」
辻章
「青山」
大塚銀悦
「濁世」
伊藤比呂美
「ハウス・プラント」
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