芥川賞のすべて・のようなもの
第101回
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平成1年/1989年上半期
(平成1年/1989年7月13日決定発表/『文藝春秋』平成1年/1989年9月号選評掲載)
選考委員  吉行淳之介
男65歳
日野啓三
男60歳
河野多恵子
女63歳
黒井千次
男57歳
古井由吉
男51歳
田久保英夫
男61歳
開高健
男58歳
大庭みな子
女58歳
三浦哲郎
男58歳
水上勉
男70歳
選評総行数  32 37 34 37 32 34 36 28 36  
選評なし
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
小川洋子 「完璧な病室」
106
女27歳
11 9 0 0 0 16 0 3 2    
崎山多美 「水上往還」
63
女34歳
0 0 0 0 0 0 10 0 0    
伊井直行 「さして重要でない一日」
136
男35歳
9 8 0 14 0 0 0 3 4    
多田尋子 「裔の子」
129
女57歳
0 2 0 10 0 0 0 5 6    
鷺沢萠 「帰れぬ人びと」
102
女21歳
5 10 0 0 0 0 0 0 2    
大岡玲 「わが美しのポイズンヴィル」
175
男30歳
9 8 15 15 0 15 11 12 11    
魚住陽子 「静かな家」
49
女37歳
0 10 0 0 0 0 0 0 0    
荻野アンナ 「うちのお母んがお茶を飲む」
69
女32歳
6 3 21 4 0 0 0 2 13    
            欠席
書面回答
    欠席
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成1年/1989年9月号)
1行当たりの文字数:24字


選考委員
吉行淳之介男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
佳作三篇 総行数32 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
小川洋子
女27歳
11 「△じるしをつけた。」「生活の対極にあるものは清潔な病室で、そこに重病で童貞の弟を置くとなると、いささか手つきが見えてきそうになる。そこを案外うまく乗り切っていて、ぶどうしか喉に通らない弟が、それを食べる描写など上出来である。ただ、そのガラス細工指向の切実さが、すこし弱い。」
崎山多美
女34歳
0  
伊井直行
男35歳
9 「△じるしをつけた。」「文章の切れがいいのと同時に、どこかおっとりしたユーモアがあるので、主人公のあとにくっついて歩いてみる気になった。」「なかなか面白く読めた。」
多田尋子
女57歳
0  
鷺沢萠
女21歳
5 「かなり入り組んだ内容を素直な文章で書いていて、そこにかえってしたたかも感じさせた。」
大岡玲
男30歳
9 「△じるしをつけた。」「平和のような今の時代に、退屈の捨て場所をさがし、妖しいエネルギーの持主に惹かれてみようとする青春がメインテーマなのだろう。」「(引用者注:末尾の一頁は)上等の出来栄えである。ただし、あまりに多くを語りすぎ、手をひろげ過ぎて、全体として曖昧なところができた憾みがある。」
魚住陽子
女37歳
0  
荻野アンナ
女32歳
6 「はっきりした才気が感じられ、いろいろのジャンルの仕事のできそうな人である。しかし、この小説では、その才気の使い方をあやまったとおもった。」
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他の選考委員
日野啓三
河野多恵子
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
開高健
大庭みな子
三浦哲郎
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選考委員
日野啓三男60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
相対化しながらの自信 総行数37 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
小川洋子
女27歳
9 「小川洋子、鷺沢萠、魚住陽子の女性三人の作品が期せずして、家庭(ルビ:ホーム)より家(ルビ:ハウス)ないし室(ルビ:ルーム)に強い現実感を覚えるタイプの作品だったことに、私の内部で驚きながらうなずくものがあった。」「ふしぎな効果が出ていた。」
崎山多美
女34歳
0  
伊井直行
男35歳
8 「大企業の高層建築そのものを迷宮的宇宙につくり上げた作品で、私はおもしろかった。」「二度目に読み直したとき、最初のよい印象がかなり薄れたのはなぜか。世界を自分がこのように感覚する、という自分の世界感覚の煮つめ方がまだ足らないからではないだろうか。」
多田尋子
女57歳
2 「最後の主人公の自殺が不自然に思えた。」
鷺沢萠
女21歳
10 「小川洋子、鷺沢萠、魚住陽子の女性三人の作品が期せずして、家庭(ルビ:ホーム)より家(ルビ:ハウス)ないし室(ルビ:ルーム)に強い現実感を覚えるタイプの作品だったことに、私の内部で驚きながらうなずくものがあった。」「率直にいって、もっと小説としての力をつけねばならない。」
大岡玲
男30歳
8 「前回の「黄昏のストーム・シーディング」より内部の力が弱いと感じた。文章も粗い気がする。」「自分の感性だけの作品世界ではなく、現代を大きく深く捉えようとする発想の大きさも、作家として貴重な才能なので、次作を強く期待する。」
魚住陽子
女37歳
10 「小川洋子、鷺沢萠、魚住陽子の女性三人の作品が期せずして、家庭(ルビ:ホーム)より家(ルビ:ハウス)ないし室(ルビ:ルーム)に強い現実感を覚えるタイプの作品だったことに、私の内部で驚きながらうなずくものがあった。」「率直にいって、もっと小説としての力をつけねばならない。」
荻野アンナ
女32歳
3 「文章力は強い。才気がある。断片的構成もわかる。だが何かが足らないという感じを否定できなかった。それとも余分か。」
  「今回の候補作は全くつまらなかったのか、といえば必ずしもそうではない。」
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他の選考委員
吉行淳之介
河野多恵子
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
開高健
大庭みな子
三浦哲郎
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選考委員
河野多恵子女63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
大きな期待 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
小川洋子
女27歳
0  
崎山多美
女34歳
0  
伊井直行
男35歳
0  
多田尋子
女57歳
0  
鷺沢萠
女21歳
0  
大岡玲
男30歳
15 「私はひとまず押し、あとで反対した。この作品の着眼は、実にすばらしい。」「しかし、出来はわるい。作中の今日性の表現が常套句で、他愛がない。それなのに受賞すれば、今日的作品とやら言われて軽々しい人気を呼びかねない。真実の今日性の創造で、読書界に衝撃を与えてもらいたい人であるのに……。で、授賞には反対した。」
魚住陽子
女37歳
0  
荻野アンナ
女32歳
21 「私はためらいなく押した。」「軽妙な運びで、読む者に人間の愉快な不可解さを分ってゆく。」「視覚で聞く方言に仕立て切った、周到さと繊細な文章感覚にも感心した。なかなかの才気の持主なのに、才気のある作家の順調な成長がとかくそのために妨げられる、人間と文学を侮る態度がないのもよい。ただ、才気が末端で時に空廻りする。」
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他の選考委員
吉行淳之介
日野啓三
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
開高健
大庭みな子
三浦哲郎
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選考委員
黒井千次男57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
三つの作品 総行数37 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
小川洋子
女27歳
0  
崎山多美
女34歳
0  
伊井直行
男35歳
14 「印象に残った。」「一人の若い会社員の一日をとりとめもなく描き続けながら、そこに一種奇妙な気分の領域を浮かび上らせている。」「ただ、狙いはわかるのだが、全体を統御する力が弱いのか、作品の目指す方向がきっちり定まっているとはいい難い。」
多田尋子
女57歳
10 「印象に残った。」「前回の候補作「単身者たち」より明らかに優れている、と思われた。しかし、主人公が自殺に走る結びの部分が致命的な欠陥となった。」「惜しい作品だった。」
鷺沢萠
女21歳
0  
大岡玲
男30歳
15 「印象に残った。」「作品の構えが大きく、骨太の開かれた枠組の中に現代を生きる人々を捉えようとした小説であり、他の候補作を一歩擢んでている、と感じた。」「現代人の「夢」がストーリーの展開軸に据えられている点も面白い。受賞に値する作品として推したが、少数意見にとどまった。」
魚住陽子
女37歳
0  
荻野アンナ
女32歳
4 「語り口と特異な作風に注目した。しかし、小説における時間と構成が、作者の内部でどう把握されているかについて、いささかの不安を覚えた。」
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他の選考委員
吉行淳之介
日野啓三
河野多恵子
古井由吉
田久保英夫
開高健
大庭みな子
三浦哲郎
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選考委員
古井由吉男51歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
行き詰まればこそ 総行数32 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
小川洋子
女27歳
0  
崎山多美
女34歳
0  
伊井直行
男35歳
0  
多田尋子
女57歳
0  
鷺沢萠
女21歳
0  
大岡玲
男30歳
0  
魚住陽子
女37歳
0  
荻野アンナ
女32歳
0  
  「今回は予選通過作の中から候補作として推すべき作品を私は見つけられなかった。」「大事なところで稚さがあらわれる、と私は見た。」「想念なり情念なりの鋲がしっかり利いていなくてはならない継ぎ目が、稚拙な通俗性の、糊づけとなっている。」
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他の選考委員
吉行淳之介
日野啓三
河野多恵子
黒井千次
田久保英夫
開高健
大庭みな子
三浦哲郎
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選考委員
田久保英夫男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
時間をかけて 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
小川洋子
女27歳
16 「とくに注目した。」「こうした題材は多く身辺小説になりがちなのを、作者の冷静な意識が避けている。死を背後にした緊張感と、幾つかみずみずしい描写も見える。」「「わたし」がS医師に「抱いて」欲しいと言って、二人で空部屋へ行く光景は、そこに性的関係は生れないにしても、作為感が目だった。」
崎山多美
女34歳
0  
伊井直行
男35歳
0  
多田尋子
女57歳
0  
鷺沢萠
女21歳
0  
大岡玲
男30歳
15 「とくに注目した。」「私は一票をいれた。前作の荒っぽいなかに見えた思考の生動力、イメージの鮮鋭さは、この作にもあり、文章はなお柔軟になっている。」「現代の〈寺〉と〈広告〉という背反したものの間に、虚点のように身をおき、行動する〈ぼく〉、それは大乗的な理念の肉づけされた運動さながら興味深いが、しかし後半、廃棄物処理場や反対運動と背景が拡がるにつれ、虚構が浮き出し、「御前」や「ぼく」の肉づけが薄くなった。」
魚住陽子
女37歳
0  
荻野アンナ
女32歳
0  
  「今回はかなり票が割れた。それが時間のかかった理由の一つだろう。」
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他の選考委員
吉行淳之介
日野啓三
河野多恵子
黒井千次
古井由吉
開高健
大庭みな子
三浦哲郎
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選考委員
開高健男58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
受賞作ナシ 総行数36 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
小川洋子
女27歳
0  
崎山多美
女34歳
10 「モンスーン圏内の南方の小島の濃密な風物がよく描けているので、手ごたえがあっていい。」「しかしこのままでは他の候補作とおなじように、これも“作文”で終ってしまう懼れがあるのではないか。はじめから作品をめざす向上心がほしい。」「読み終って、それがどうしたの、とひとことたずねたら、すべて消えてしまう。」
伊井直行
男35歳
0  
多田尋子
女57歳
0  
鷺沢萠
女21歳
0  
大岡玲
男30歳
11 「これだけのことを書くにしては仰々しすぎる箇処が目立つ。その割に全体として冗漫で、イメージが拡散し、焦点がボヤけているように感じられる。」「食事のマナーでいうと、御膳立てはいろいろとととのえたけれど箸の置き所を知らなかったといったところです。」
魚住陽子
女37歳
0  
荻野アンナ
女32歳
0  
  「今回はざんねんながら受賞作ナシと小生は見ます。毎度のことながら新人諸君の文体とヴォキャブラリーの古めかしさにおどろかされつつ、うんざりです。」
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他の選考委員
吉行淳之介
日野啓三
河野多恵子
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
大庭みな子
三浦哲郎
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選考委員
大庭みな子女58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
長雨 総行数28 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
小川洋子
女27歳
3 「力で作品世界をつくろうとする人のように思える。これは、力量で勝負するだけに、不自由さにつながることがある。」
崎山多美
女34歳
0  
伊井直行
男35歳
3 「切実にもの哀しく鳴りひびく調べのある魅力的な作品世界である。」
多田尋子
女57歳
5 「古風ではあるが、きちんと書かれている。」「血の絡み合いのやりきれなさというふうにわたしは読み、古くならない主題だと思ったが、べつの読み方もあるようだ。」
鷺沢萠
女21歳
0  
大岡玲
男30歳
12 「才能は並々ならぬものがあると、前回からひき続いて二本の作品を読んで思った。世界に多角的に反応するしなやかさで動いてゆく気配がよい。」「もの足りないところはおいても、才能を買ってこれを受賞作にしてもよいのではないかとわたしは思っていた。」
魚住陽子
女37歳
0  
荻野アンナ
女32歳
2 「達者で、詩才もある。どんどん書ける人であろう。」
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他の選考委員
吉行淳之介
日野啓三
河野多恵子
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
開高健
三浦哲郎
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選考委員
三浦哲郎男58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数36 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
小川洋子
女27歳
2 「神経の行き届いた端正な文章が忘れ難い。」
崎山多美
女34歳
0  
伊井直行
男35歳
4 「こういう世界に未知な私には新鮮で面白かったが、同業のサラリーマンが読んだらどうだろうかという危惧を感じた。作品としてもすこし冗漫ではなかろうか。」
多田尋子
女57歳
6 「少々くどいほどの粘り強い文体も悪くなかった。けれども、この作品は結末で失敗している。主人公を死なせずに終えられたら有力な候補だったと思う。」
鷺沢萠
女21歳
2 「素直な作風に将来性を感じた。」
大岡玲
男30歳
11 「私は、しかるべき権威を持つ文壇への登龍門、たとえば芥川賞、三島賞、直木賞、山本賞などを一つくぐった新人は、それだけで新進作家と認めてやっていいのではないかと思っている。」「右の持論通り、私は今回、三島由紀夫賞と新進作家大岡玲氏の名誉のために、彼の予選通過作品「わが美しのポイズンヴィル」に対する選考委員としてのすべての権利を放棄したことをここに明記しておく。」
魚住陽子
女37歳
0  
荻野アンナ
女32歳
13 「今回の候補作のうちでは最良の作と見た。」「これといった筋もない、けれどもその代わり才気に満ちた小気味のいい文章がすこぶる印象的な作品で、私は散文詩のように楽しんで読んだ。」「ただ、この作品の底には授賞作として強く推すのをためらわせるなにかが潜んでいる。」「豊かな才気が表面に出すぎて厭味になっていることもその一つだろう。」
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他の選考委員
吉行淳之介
日野啓三
河野多恵子
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
開高健
大庭みな子
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候補者・作品
小川洋子女27歳×各選考委員 
「完璧な病室」
短篇 106
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉行淳之介
男65歳
11 「△じるしをつけた。」「生活の対極にあるものは清潔な病室で、そこに重病で童貞の弟を置くとなると、いささか手つきが見えてきそうになる。そこを案外うまく乗り切っていて、ぶどうしか喉に通らない弟が、それを食べる描写など上出来である。ただ、そのガラス細工指向の切実さが、すこし弱い。」
日野啓三
男60歳
9 「小川洋子、鷺沢萠、魚住陽子の女性三人の作品が期せずして、家庭(ルビ:ホーム)より家(ルビ:ハウス)ないし室(ルビ:ルーム)に強い現実感を覚えるタイプの作品だったことに、私の内部で驚きながらうなずくものがあった。」「ふしぎな効果が出ていた。」
河野多恵子
女63歳
0  
黒井千次
男57歳
0  
古井由吉
男51歳
0  
田久保英夫
男61歳
16 「とくに注目した。」「こうした題材は多く身辺小説になりがちなのを、作者の冷静な意識が避けている。死を背後にした緊張感と、幾つかみずみずしい描写も見える。」「「わたし」がS医師に「抱いて」欲しいと言って、二人で空部屋へ行く光景は、そこに性的関係は生れないにしても、作為感が目だった。」
開高健
男58歳
0  
大庭みな子
女58歳
3 「力で作品世界をつくろうとする人のように思える。これは、力量で勝負するだけに、不自由さにつながることがある。」
三浦哲郎
男58歳
2 「神経の行き届いた端正な文章が忘れ難い。」
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他の候補作
崎山多美
「水上往還」
伊井直行
「さして重要でない一日」
多田尋子
「裔の子」
鷺沢萠
「帰れぬ人びと」
大岡玲
「わが美しのポイズンヴィル」
魚住陽子
「静かな家」
荻野アンナ
「うちのお母んがお茶を飲む」
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候補者・作品
崎山多美女34歳×各選考委員 
「水上往還」
短篇 63
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉行淳之介
男65歳
0  
日野啓三
男60歳
0  
河野多恵子
女63歳
0  
黒井千次
男57歳
0  
古井由吉
男51歳
0  
田久保英夫
男61歳
0  
開高健
男58歳
10 「モンスーン圏内の南方の小島の濃密な風物がよく描けているので、手ごたえがあっていい。」「しかしこのままでは他の候補作とおなじように、これも“作文”で終ってしまう懼れがあるのではないか。はじめから作品をめざす向上心がほしい。」「読み終って、それがどうしたの、とひとことたずねたら、すべて消えてしまう。」
大庭みな子
女58歳
0  
三浦哲郎
男58歳
0  
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他の候補作
小川洋子
「完璧な病室」
伊井直行
「さして重要でない一日」
多田尋子
「裔の子」
鷺沢萠
「帰れぬ人びと」
大岡玲
「わが美しのポイズンヴィル」
魚住陽子
「静かな家」
荻野アンナ
「うちのお母んがお茶を飲む」
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候補者・作品
伊井直行男35歳×各選考委員 
「さして重要でない一日」
短篇 136
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉行淳之介
男65歳
9 「△じるしをつけた。」「文章の切れがいいのと同時に、どこかおっとりしたユーモアがあるので、主人公のあとにくっついて歩いてみる気になった。」「なかなか面白く読めた。」
日野啓三
男60歳
8 「大企業の高層建築そのものを迷宮的宇宙につくり上げた作品で、私はおもしろかった。」「二度目に読み直したとき、最初のよい印象がかなり薄れたのはなぜか。世界を自分がこのように感覚する、という自分の世界感覚の煮つめ方がまだ足らないからではないだろうか。」
河野多恵子
女63歳
0  
黒井千次
男57歳
14 「印象に残った。」「一人の若い会社員の一日をとりとめもなく描き続けながら、そこに一種奇妙な気分の領域を浮かび上らせている。」「ただ、狙いはわかるのだが、全体を統御する力が弱いのか、作品の目指す方向がきっちり定まっているとはいい難い。」
古井由吉
男51歳
0  
田久保英夫
男61歳
0  
開高健
男58歳
0  
大庭みな子
女58歳
3 「切実にもの哀しく鳴りひびく調べのある魅力的な作品世界である。」
三浦哲郎
男58歳
4 「こういう世界に未知な私には新鮮で面白かったが、同業のサラリーマンが読んだらどうだろうかという危惧を感じた。作品としてもすこし冗漫ではなかろうか。」
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他の候補作
小川洋子
「完璧な病室」
崎山多美
「水上往還」
多田尋子
「裔の子」
鷺沢萠
「帰れぬ人びと」
大岡玲
「わが美しのポイズンヴィル」
魚住陽子
「静かな家」
荻野アンナ
「うちのお母んがお茶を飲む」
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候補者・作品
多田尋子女57歳×各選考委員 
「裔の子」
短篇 129
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉行淳之介
男65歳
0  
日野啓三
男60歳
2 「最後の主人公の自殺が不自然に思えた。」
河野多恵子
女63歳
0  
黒井千次
男57歳
10 「印象に残った。」「前回の候補作「単身者たち」より明らかに優れている、と思われた。しかし、主人公が自殺に走る結びの部分が致命的な欠陥となった。」「惜しい作品だった。」
古井由吉
男51歳
0  
田久保英夫
男61歳
0  
開高健
男58歳
0  
大庭みな子
女58歳
5 「古風ではあるが、きちんと書かれている。」「血の絡み合いのやりきれなさというふうにわたしは読み、古くならない主題だと思ったが、べつの読み方もあるようだ。」
三浦哲郎
男58歳
6 「少々くどいほどの粘り強い文体も悪くなかった。けれども、この作品は結末で失敗している。主人公を死なせずに終えられたら有力な候補だったと思う。」
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他の候補作
小川洋子
「完璧な病室」
崎山多美
「水上往還」
伊井直行
「さして重要でない一日」
鷺沢萠
「帰れぬ人びと」
大岡玲
「わが美しのポイズンヴィル」
魚住陽子
「静かな家」
荻野アンナ
「うちのお母んがお茶を飲む」
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候補者・作品
鷺沢萠女21歳×各選考委員 
「帰れぬ人びと」
短篇 102
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉行淳之介
男65歳
5 「かなり入り組んだ内容を素直な文章で書いていて、そこにかえってしたたかも感じさせた。」
日野啓三
男60歳
10 「小川洋子、鷺沢萠、魚住陽子の女性三人の作品が期せずして、家庭(ルビ:ホーム)より家(ルビ:ハウス)ないし室(ルビ:ルーム)に強い現実感を覚えるタイプの作品だったことに、私の内部で驚きながらうなずくものがあった。」「率直にいって、もっと小説としての力をつけねばならない。」
河野多恵子
女63歳
0  
黒井千次
男57歳
0  
古井由吉
男51歳
0  
田久保英夫
男61歳
0  
開高健
男58歳
0  
大庭みな子
女58歳
0  
三浦哲郎
男58歳
2 「素直な作風に将来性を感じた。」
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他の候補作
小川洋子
「完璧な病室」
崎山多美
「水上往還」
伊井直行
「さして重要でない一日」
多田尋子
「裔の子」
大岡玲
「わが美しのポイズンヴィル」
魚住陽子
「静かな家」
荻野アンナ
「うちのお母んがお茶を飲む」
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候補者・作品
大岡玲男30歳×各選考委員 
「わが美しのポイズンヴィル」
中篇 175
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉行淳之介
男65歳
9 「△じるしをつけた。」「平和のような今の時代に、退屈の捨て場所をさがし、妖しいエネルギーの持主に惹かれてみようとする青春がメインテーマなのだろう。」「(引用者注:末尾の一頁は)上等の出来栄えである。ただし、あまりに多くを語りすぎ、手をひろげ過ぎて、全体として曖昧なところができた憾みがある。」
日野啓三
男60歳
8 「前回の「黄昏のストーム・シーディング」より内部の力が弱いと感じた。文章も粗い気がする。」「自分の感性だけの作品世界ではなく、現代を大きく深く捉えようとする発想の大きさも、作家として貴重な才能なので、次作を強く期待する。」
河野多恵子
女63歳
15 「私はひとまず押し、あとで反対した。この作品の着眼は、実にすばらしい。」「しかし、出来はわるい。作中の今日性の表現が常套句で、他愛がない。それなのに受賞すれば、今日的作品とやら言われて軽々しい人気を呼びかねない。真実の今日性の創造で、読書界に衝撃を与えてもらいたい人であるのに……。で、授賞には反対した。」
黒井千次
男57歳
15 「印象に残った。」「作品の構えが大きく、骨太の開かれた枠組の中に現代を生きる人々を捉えようとした小説であり、他の候補作を一歩擢んでている、と感じた。」「現代人の「夢」がストーリーの展開軸に据えられている点も面白い。受賞に値する作品として推したが、少数意見にとどまった。」
古井由吉
男51歳
0  
田久保英夫
男61歳
15 「とくに注目した。」「私は一票をいれた。前作の荒っぽいなかに見えた思考の生動力、イメージの鮮鋭さは、この作にもあり、文章はなお柔軟になっている。」「現代の〈寺〉と〈広告〉という背反したものの間に、虚点のように身をおき、行動する〈ぼく〉、それは大乗的な理念の肉づけされた運動さながら興味深いが、しかし後半、廃棄物処理場や反対運動と背景が拡がるにつれ、虚構が浮き出し、「御前」や「ぼく」の肉づけが薄くなった。」
開高健
男58歳
11 「これだけのことを書くにしては仰々しすぎる箇処が目立つ。その割に全体として冗漫で、イメージが拡散し、焦点がボヤけているように感じられる。」「食事のマナーでいうと、御膳立てはいろいろとととのえたけれど箸の置き所を知らなかったといったところです。」
大庭みな子
女58歳
12 「才能は並々ならぬものがあると、前回からひき続いて二本の作品を読んで思った。世界に多角的に反応するしなやかさで動いてゆく気配がよい。」「もの足りないところはおいても、才能を買ってこれを受賞作にしてもよいのではないかとわたしは思っていた。」
三浦哲郎
男58歳
11 「私は、しかるべき権威を持つ文壇への登龍門、たとえば芥川賞、三島賞、直木賞、山本賞などを一つくぐった新人は、それだけで新進作家と認めてやっていいのではないかと思っている。」「右の持論通り、私は今回、三島由紀夫賞と新進作家大岡玲氏の名誉のために、彼の予選通過作品「わが美しのポイズンヴィル」に対する選考委員としてのすべての権利を放棄したことをここに明記しておく。」
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他の候補作
小川洋子
「完璧な病室」
崎山多美
「水上往還」
伊井直行
「さして重要でない一日」
多田尋子
「裔の子」
鷺沢萠
「帰れぬ人びと」
魚住陽子
「静かな家」
荻野アンナ
「うちのお母んがお茶を飲む」
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候補者・作品
魚住陽子女37歳×各選考委員 
「静かな家」
短篇 49
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉行淳之介
男65歳
0  
日野啓三
男60歳
10 「小川洋子、鷺沢萠、魚住陽子の女性三人の作品が期せずして、家庭(ルビ:ホーム)より家(ルビ:ハウス)ないし室(ルビ:ルーム)に強い現実感を覚えるタイプの作品だったことに、私の内部で驚きながらうなずくものがあった。」「率直にいって、もっと小説としての力をつけねばならない。」
河野多恵子
女63歳
0  
黒井千次
男57歳
0  
古井由吉
男51歳
0  
田久保英夫
男61歳
0  
開高健
男58歳
0  
大庭みな子
女58歳
0  
三浦哲郎
男58歳
0  
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他の候補作
小川洋子
「完璧な病室」
崎山多美
「水上往還」
伊井直行
「さして重要でない一日」
多田尋子
「裔の子」
鷺沢萠
「帰れぬ人びと」
大岡玲
「わが美しのポイズンヴィル」
荻野アンナ
「うちのお母んがお茶を飲む」
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候補者・作品
荻野アンナ女32歳×各選考委員 
「うちのお母んがお茶を飲む」
短篇 69
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
吉行淳之介
男65歳
6 「はっきりした才気が感じられ、いろいろのジャンルの仕事のできそうな人である。しかし、この小説では、その才気の使い方をあやまったとおもった。」
日野啓三
男60歳
3 「文章力は強い。才気がある。断片的構成もわかる。だが何かが足らないという感じを否定できなかった。それとも余分か。」
河野多恵子
女63歳
21 「私はためらいなく押した。」「軽妙な運びで、読む者に人間の愉快な不可解さを分ってゆく。」「視覚で聞く方言に仕立て切った、周到さと繊細な文章感覚にも感心した。なかなかの才気の持主なのに、才気のある作家の順調な成長がとかくそのために妨げられる、人間と文学を侮る態度がないのもよい。ただ、才気が末端で時に空廻りする。」
黒井千次
男57歳
4 「語り口と特異な作風に注目した。しかし、小説における時間と構成が、作者の内部でどう把握されているかについて、いささかの不安を覚えた。」
古井由吉
男51歳
0  
田久保英夫
男61歳
0  
開高健
男58歳
0  
大庭みな子
女58歳
2 「達者で、詩才もある。どんどん書ける人であろう。」
三浦哲郎
男58歳
13 「今回の候補作のうちでは最良の作と見た。」「これといった筋もない、けれどもその代わり才気に満ちた小気味のいい文章がすこぶる印象的な作品で、私は散文詩のように楽しんで読んだ。」「ただ、この作品の底には授賞作として強く推すのをためらわせるなにかが潜んでいる。」「豊かな才気が表面に出すぎて厭味になっていることもその一つだろう。」
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他の候補作
小川洋子
「完璧な病室」
崎山多美
「水上往還」
伊井直行
「さして重要でない一日」
多田尋子
「裔の子」
鷺沢萠
「帰れぬ人びと」
大岡玲
「わが美しのポイズンヴィル」
魚住陽子
「静かな家」
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