芥川賞のすべて・のようなもの
第108回
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平成4年/1992年下半期
(平成5年/1993年1月13日決定発表/『文藝春秋』平成5年/1993年3月号選評掲載)
選考委員  河野多恵子
女66歳
丸谷才一
男67歳
大江健三郎
男57歳
大庭みな子
女62歳
吉行淳之介
男68歳
黒井千次
男60歳
古井由吉
男55歳
田久保英夫
男64歳
日野啓三
男63歳
三浦哲郎
男61歳
選評総行数  33 34 34 25 30 35 33 38 31 33
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
多和田葉子 「犬婿入り」
77
女32歳
9 9 20 13 12 19 0 17 8 15
魚住陽子 「流れる家」
99
女41歳
0 7 0 0 0 2 0 0 0 2
小浜清志 「消える島」
103
男42歳
11 8 4 5 9 2 0 0 8 0
角田光代 「ゆうべの神様」
114
女25歳
0 0 0 0 0 2 0 0 0 0
野中柊 「チョコレット・オーガズム」
143
女28歳
0 0 4 0 0 2 0 0 0 0
奥泉光 「三つ目の鯰」
167
男36歳
11 10 10 13 7 10 33 20 12 12
                   
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成5年/1993年3月号)
1行当たりの文字数:24字


選考委員
河野多恵子女66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
可能性の気配 総行数33 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
9 「最後の部分が文学的誠実さを失ってしまっている。しかし、この人には、かねて注目してきた。自在で綾に富んだ発想とそれに適切な文章を駆使する才能は、なかなかのものである。」
魚住陽子
女41歳
0  
小浜清志
男42歳
11 「会話の沖縄のある島の方言が、接し馴れない者にもよく分る仕組みで書かれている。」「だが、作者は緊張しすぎていたのではないだろうか。時どき、唐突に凡庸な文章が入る。」「後半になって、折角そこまで書かれてきた世界と充分呼応することなく、内容が狭くなったのも、緊張がすぎたせいではないのだろうか。」
角田光代
女25歳
0  
野中柊
女28歳
0  
奥泉光
男36歳
11 「二作(引用者注:「三つ目の鯰」と「犬婿入り」)が最後に残った時、私は消極的ながら前者(引用者注:「三つ目の鯰」)に票を入れた。以前の二度の候補作に較べて、知識や思考を生で出すまいと努力していることがよく分ったからである。しかし、この人の作品は常にあまりにも長すぎる。そして、小説の創造は表現によるもので、説明によるものではないことを、この人には一度よく考えてもらいたい。」
  「今度の六候補作には、強く推したいものはなかった。」「どの作品にも、相当の佳作になり得る可能性の気配が感じられながら、その可能性が充分に発揮されていない、もどかしさがあった。」
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他の選考委員
丸谷才一
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
日野啓三
三浦哲郎
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選考委員
丸谷才一男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
四作を評す 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
9 「文体と趣向はおもしろいなと思つたものの、そのおもしろさがつづいたのは前半だけだつた。そのさきへ進むと、登場人物たちも急に魅力を失ひ、意味ありげな筋もなげやりな話の運びに変る。」「この作家が作風を転換して、風通しをよくしたのには大賛成だが、技術がそれについて行つてゐない。」
魚住陽子
女41歳
7 「以前にくらべて格段に腕をあげた。」「しかし全体に薄味にすぎるし、とりわけ終りが詰まらないのが困る。」
小浜清志
男42歳
8 「すばらしい描写の箇所がある。たとへば冒頭の、海のなかを歩いてゐて方角がわからなくなるところ。じつにいい。」「しかし作品全体としては、導入部で紹介したいくつかの要素をまとめて結末へ持つてゆくことができず、ほうぼうに荷物を落して目的地にたどりつく形になつてゐる。」
角田光代
女25歳
0  
野中柊
女28歳
0  
奥泉光
男36歳
10 「風俗と社会を結びつけようとしてゐるのがいい。」「たとえば『ヨブ記』の結末についての会話など、微笑を誘ふに足りた。しかし観念のほうとなると、ずいぶん曖昧で取りとめがない。それに、彼らがなぜ信仰を必要としてゐるのかを書き落してゐるため、小説の骨組が弱くなつてゐる。」
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他の選考委員
河野多恵子
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
日野啓三
三浦哲郎
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選考委員
大江健三郎男57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
奇妙でリアル 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
20 「異類婚姻譚のかたちを展開して、小説作りの基盤としたことには、ふたつの成果があったと思う。ひとつは文体に、もひとつは社会、家庭での人物の新しい位置づけに。それはさきの候補作『ペルソナ』にくらべるとあきらかになる。」「それは当の女性の、社会に順応するというのではないがそこで自立できる、今日的な生き方を納得させる。彼女の住む郊外都市の現実感も、確固としたものだ。」
魚住陽子
女41歳
0  
小浜清志
男42歳
4 「(引用者注:「チョコレット・オーガズム」と共に)生来の魅力をそなえているのに、それぞれの表現世界をコントロールなしえていない、と思う。」
角田光代
女25歳
0  
野中柊
女28歳
4 「(引用者注:「消える島」と共に)生来の魅力をそなえているのに、それぞれの表現世界をコントロールなしえていない、と思う。」
奥泉光
男36歳
10 「これまでの候補作において、それぞれに異なるスタイルを使いこなし、なりたちは観念的な主題を、小説らしい構想におきかえる能力はきわだっている。それでいて魅力ある小説とはまた別だ。」
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他の選考委員
河野多恵子
丸谷才一
大庭みな子
吉行淳之介
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
日野啓三
三浦哲郎
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選考委員
大庭みな子女62歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
外部との異和感 総行数25 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
13 「外の世界との異和感をかかえて立つ多和田さんの強靭さは、この二三年の間に発表された何篇かの作品を通じてわたしをとらえて放さなかった。」「作家・多和田葉子は日本文学界のこの伝統ある新人賞・芥川賞で祝福される時期に来ている。」
魚住陽子
女41歳
0  
小浜清志
男42歳
5 「この地方の言葉になじみがなく、方言の趣きを充分に味わえなかったのが残念だ。コンピューターの世の中で、こういう作品に触れるとほっとする。」
角田光代
女25歳
0  
野中柊
女28歳
0  
奥泉光
男36歳
13 「わたしはごく自然に読み、前回まで何度か候補作に残っていた作品の、女には想像しにくい、多分、生理的に男性的な世界の絵解きをされたような気分があった。だが、他の選考委員の方々の明快な解説を聞いているうちに、不可解な魅力が遠のいていく感じがあった。」
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他の選考委員
河野多恵子
丸谷才一
大江健三郎
吉行淳之介
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
日野啓三
三浦哲郎
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選考委員
吉行淳之介男68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数30 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
12 「なかなか面白くて感心した。」「そのしたたかな才能に目の覚める気分だったが、だんだん「才気煥発」が目立つようになり、これはふつう誉め言葉なのだが、この場合には持時間不足を強引に押し切ろうとしているようにおもえてきた。そういう部分は、なまじ何の寓意か考え過ぎないようにして、あとは大勢に従った。」
魚住陽子
女41歳
0  
小浜清志
男42歳
9 「前半で、夜の海を舟で移動しているうちに方向がわからなくなり、やがて微妙な空気の気配によって陸地の在り場所がわかってくるあたり、(引用者中略)良いところがあった。ただ、残念なことに、(引用者注:他の候補作と共に)いろいろの意味で意味不明のところがあり、それも肝腎のところがそうなのだ。」
角田光代
女25歳
0  
野中柊
女28歳
0  
奥泉光
男36歳
7 「粘り強い思考の連続、(引用者中略)良いところがあった。ただ、残念なことに、(引用者注:他の候補作と共に)いろいろの意味で意味不明のところがあり、それも肝腎のところがそうなのだ。」
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他の選考委員
河野多恵子
丸谷才一
大江健三郎
大庭みな子
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
日野啓三
三浦哲郎
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選考委員
黒井千次男60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
民話の種子 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
19 「新旧二つの文化の接点に一粒の民話の種子を埋め、その成長を見守る話として(引用者中略)面白く読んだ。」「民話は一方で、現代人の結婚や子育てや家庭の生態を照し出し、他方、それ自体としては犬への変身譚として展開する。」「二つの力の絡み合いが、内部に正体の掴み難い奇妙なものを包み込んだまま、特異な非現実の世界を生み出している。」
魚住陽子
女41歳
2 「素材が生かし切れずに平板に終っている。」
小浜清志
男42歳
2 「出産シーンは感動的だが全体の構成に難があり、」
角田光代
女25歳
2 「思春期の奥に探ろうとしたテーマに手が届かなかった。」
野中柊
女28歳
2 「表層を上滑りし、」
奥泉光
男36歳
10 「夫婦や親子の枠を破る親戚小説として注目した。奥泉氏のこれまでの候補作に見られた強い観念性が、一族の血の繋りという環の中で別の姿を見せ始める気配に好感を抱いた。」「ただ、目の三つある鯰にイメージを喚起する力の弱い点は気にかかったが。」
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他の選考委員
河野多恵子
丸谷才一
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
古井由吉
田久保英夫
日野啓三
三浦哲郎
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選考委員
古井由吉男55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
試みるうちに超える 総行数33 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
0  
魚住陽子
女41歳
0  
小浜清志
男42歳
0  
角田光代
女25歳
0  
野中柊
女28歳
0  
奥泉光
男36歳
33 「奥泉氏のこれまで二回の候補作を選考委員諸氏の不評の中で推した私が、このたびは諸氏の比較的好評の中で、評価をやや控えるかたちになった。作品が深みへ踏み入ろうとするところで、テーマが微妙に破れたのではないか、と私は考えるのだ。」「高目の要求が動いて、選考途中では評価を留保ぎみになったが、最終的には受賞にふさわしい作品と、私は判断した。」
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他の選考委員
河野多恵子
丸谷才一
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
黒井千次
田久保英夫
日野啓三
三浦哲郎
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選考委員
田久保英夫男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
該当作なし 総行数38 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
17 「言葉の小さな槌で、読み手の通念を一つ一つ壊していくような小説である。それはときには快く、ときには不快にも思える。」「これほど「変身」し、無限定なのは、ほとんど恣意と変らないのではないか。」「しかし、ラストに突然、「犬」のような性癖を持った太郎と、ゲイのような男が旅立ち、女塾教師と風変りな女生徒が土地を去るあたりは、ただ単に話のおわり方とみても型どおり、人物の関係づけも安易に思える。」
魚住陽子
女41歳
0  
小浜清志
男42歳
0  
角田光代
女25歳
0  
野中柊
女28歳
0  
奥泉光
男36歳
20 「最も眼をひかれたのは、奥泉光氏の「三つ目の鯰」だが、それでも、もう一つ積極的に推しきれないものがあった。」「「三つ目」の鯰を見た者は父親だけ、という不確定の幅や、キリスト教など、合理とそれを超える世界を使って、主題を補強しているし、何か所かおもしろい情景もある。」「ただこの作品は、若い主人公が主体的な行為者より、叙述者の方へ傾きすぎて、その叙述がつぎつぎと細かく枝分れし、肝心の焦点が鈍ってしまっている。」
  「私は今回、受賞作が出なくてもやむをえない、と思っていた。」
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他の選考委員
河野多恵子
丸谷才一
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
黒井千次
古井由吉
日野啓三
三浦哲郎
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選考委員
日野啓三男63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
再読しての印象 総行数31 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
8 「最初に読んだときは、前回の選考でこの人の「ペルソナ」を推しながら、今度は計算違いをしているな、という印象だった。終りの方がよくわからない。」「文体によって作品を自己増殖させる、という文学的小説の基本が自然に身についている。文学の匂いがある。」
魚住陽子
女41歳
0  
小浜清志
男42歳
8 「前半は、いったい何が起こるのか、とワクワクさせるものをもった力強さがあったが、後半は出産ということに辻褄を合わせ過ぎてエネルギーが落ちた。謎めいたものにもっと自信をもつべきだろう。」
角田光代
女25歳
0  
野中柊
女28歳
0  
奥泉光
男36歳
12 「最初読んだとき、素直によくわかった。傷のないのが傷だと思うくらい。だが再読して、一回目以上の発見がないのだ。」「これまでのこの人の作品には、不可解な情念の噴出のようなものがあったのに。ただ荒地の宗教キリスト教をめぐる、この作家のよい意味の観念性には私は興味をもっている。」
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他の選考委員
河野多恵子
丸谷才一
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
三浦哲郎
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選考委員
三浦哲郎男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数33 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
多和田葉子
女32歳
15 「前回、「ペルソナ」で豊かな才能を示した多和田葉子氏に期待したが、今回の「犬婿入り」が内容も文体もがらりと変わっているので驚いた。」「これはおそらく才人ゆえの試作品の一つなのである。それならば、せめてもう一作、まるで違った作品を読んでみたかった。授賞はそれからでも遅くはないと思った。」「私は、この作者がいろんな試みに飽きて、また「ペルソナ」へ戻ってくる日を待つことにしよう。」
魚住陽子
女41歳
2 「惹かれるものがあった。」
小浜清志
男42歳
0  
角田光代
女25歳
0  
野中柊
女28歳
0  
奥泉光
男36歳
12 「筆力の旺盛さは認める。また、風景描写にも見るべきものがあった。けれども、この作者には言葉を惜しむことをおぼえさせたい。あまりにも多く書きすぎて、作品の焦点がぼやけ、印象が散漫になっているのだ。」
  「今回は、該当作なしになるのではないかと予想して選考会に出た。個性的な作品がそろってはいるものの、いずれもその個性の輝きが眩しさを感じさせるまでには至っていないと思われたからである。」
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他の選考委員
河野多恵子
丸谷才一
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
黒井千次
古井由吉
田久保英夫
日野啓三
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受賞者・作品
多和田葉子女32歳×各選考委員 
「犬婿入り」
短篇 77
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女66歳
9 「最後の部分が文学的誠実さを失ってしまっている。しかし、この人には、かねて注目してきた。自在で綾に富んだ発想とそれに適切な文章を駆使する才能は、なかなかのものである。」
丸谷才一
男67歳
9 「文体と趣向はおもしろいなと思つたものの、そのおもしろさがつづいたのは前半だけだつた。そのさきへ進むと、登場人物たちも急に魅力を失ひ、意味ありげな筋もなげやりな話の運びに変る。」「この作家が作風を転換して、風通しをよくしたのには大賛成だが、技術がそれについて行つてゐない。」
大江健三郎
男57歳
20 「異類婚姻譚のかたちを展開して、小説作りの基盤としたことには、ふたつの成果があったと思う。ひとつは文体に、もひとつは社会、家庭での人物の新しい位置づけに。それはさきの候補作『ペルソナ』にくらべるとあきらかになる。」「それは当の女性の、社会に順応するというのではないがそこで自立できる、今日的な生き方を納得させる。彼女の住む郊外都市の現実感も、確固としたものだ。」
大庭みな子
女62歳
13 「外の世界との異和感をかかえて立つ多和田さんの強靭さは、この二三年の間に発表された何篇かの作品を通じてわたしをとらえて放さなかった。」「作家・多和田葉子は日本文学界のこの伝統ある新人賞・芥川賞で祝福される時期に来ている。」
吉行淳之介
男68歳
12 「なかなか面白くて感心した。」「そのしたたかな才能に目の覚める気分だったが、だんだん「才気煥発」が目立つようになり、これはふつう誉め言葉なのだが、この場合には持時間不足を強引に押し切ろうとしているようにおもえてきた。そういう部分は、なまじ何の寓意か考え過ぎないようにして、あとは大勢に従った。」
黒井千次
男60歳
19 「新旧二つの文化の接点に一粒の民話の種子を埋め、その成長を見守る話として(引用者中略)面白く読んだ。」「民話は一方で、現代人の結婚や子育てや家庭の生態を照し出し、他方、それ自体としては犬への変身譚として展開する。」「二つの力の絡み合いが、内部に正体の掴み難い奇妙なものを包み込んだまま、特異な非現実の世界を生み出している。」
古井由吉
男55歳
0  
田久保英夫
男64歳
17 「言葉の小さな槌で、読み手の通念を一つ一つ壊していくような小説である。それはときには快く、ときには不快にも思える。」「これほど「変身」し、無限定なのは、ほとんど恣意と変らないのではないか。」「しかし、ラストに突然、「犬」のような性癖を持った太郎と、ゲイのような男が旅立ち、女塾教師と風変りな女生徒が土地を去るあたりは、ただ単に話のおわり方とみても型どおり、人物の関係づけも安易に思える。」
日野啓三
男63歳
8 「最初に読んだときは、前回の選考でこの人の「ペルソナ」を推しながら、今度は計算違いをしているな、という印象だった。終りの方がよくわからない。」「文体によって作品を自己増殖させる、という文学的小説の基本が自然に身についている。文学の匂いがある。」
三浦哲郎
男61歳
15 「前回、「ペルソナ」で豊かな才能を示した多和田葉子氏に期待したが、今回の「犬婿入り」が内容も文体もがらりと変わっているので驚いた。」「これはおそらく才人ゆえの試作品の一つなのである。それならば、せめてもう一作、まるで違った作品を読んでみたかった。授賞はそれからでも遅くはないと思った。」「私は、この作者がいろんな試みに飽きて、また「ペルソナ」へ戻ってくる日を待つことにしよう。」
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他の候補作
魚住陽子
「流れる家」
小浜清志
「消える島」
角田光代
「ゆうべの神様」
野中柊
「チョコレット・オーガズム」
奥泉光
「三つ目の鯰」
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候補者・作品
魚住陽子女41歳×各選考委員 
「流れる家」
短篇 99
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女66歳
0  
丸谷才一
男67歳
7 「以前にくらべて格段に腕をあげた。」「しかし全体に薄味にすぎるし、とりわけ終りが詰まらないのが困る。」
大江健三郎
男57歳
0  
大庭みな子
女62歳
0  
吉行淳之介
男68歳
0  
黒井千次
男60歳
2 「素材が生かし切れずに平板に終っている。」
古井由吉
男55歳
0  
田久保英夫
男64歳
0  
日野啓三
男63歳
0  
三浦哲郎
男61歳
2 「惹かれるものがあった。」
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他の候補作
多和田葉子
「犬婿入り」
小浜清志
「消える島」
角田光代
「ゆうべの神様」
野中柊
「チョコレット・オーガズム」
奥泉光
「三つ目の鯰」
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候補者・作品
小浜清志男42歳×各選考委員 
「消える島」
短篇 103
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女66歳
11 「会話の沖縄のある島の方言が、接し馴れない者にもよく分る仕組みで書かれている。」「だが、作者は緊張しすぎていたのではないだろうか。時どき、唐突に凡庸な文章が入る。」「後半になって、折角そこまで書かれてきた世界と充分呼応することなく、内容が狭くなったのも、緊張がすぎたせいではないのだろうか。」
丸谷才一
男67歳
8 「すばらしい描写の箇所がある。たとへば冒頭の、海のなかを歩いてゐて方角がわからなくなるところ。じつにいい。」「しかし作品全体としては、導入部で紹介したいくつかの要素をまとめて結末へ持つてゆくことができず、ほうぼうに荷物を落して目的地にたどりつく形になつてゐる。」
大江健三郎
男57歳
4 「(引用者注:「チョコレット・オーガズム」と共に)生来の魅力をそなえているのに、それぞれの表現世界をコントロールなしえていない、と思う。」
大庭みな子
女62歳
5 「この地方の言葉になじみがなく、方言の趣きを充分に味わえなかったのが残念だ。コンピューターの世の中で、こういう作品に触れるとほっとする。」
吉行淳之介
男68歳
9 「前半で、夜の海を舟で移動しているうちに方向がわからなくなり、やがて微妙な空気の気配によって陸地の在り場所がわかってくるあたり、(引用者中略)良いところがあった。ただ、残念なことに、(引用者注:他の候補作と共に)いろいろの意味で意味不明のところがあり、それも肝腎のところがそうなのだ。」
黒井千次
男60歳
2 「出産シーンは感動的だが全体の構成に難があり、」
古井由吉
男55歳
0  
田久保英夫
男64歳
0  
日野啓三
男63歳
8 「前半は、いったい何が起こるのか、とワクワクさせるものをもった力強さがあったが、後半は出産ということに辻褄を合わせ過ぎてエネルギーが落ちた。謎めいたものにもっと自信をもつべきだろう。」
三浦哲郎
男61歳
0  
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他の候補作
多和田葉子
「犬婿入り」
魚住陽子
「流れる家」
角田光代
「ゆうべの神様」
野中柊
「チョコレット・オーガズム」
奥泉光
「三つ目の鯰」
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候補者・作品
角田光代女25歳×各選考委員 
「ゆうべの神様」
短篇 114
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女66歳
0  
丸谷才一
男67歳
0  
大江健三郎
男57歳
0  
大庭みな子
女62歳
0  
吉行淳之介
男68歳
0  
黒井千次
男60歳
2 「思春期の奥に探ろうとしたテーマに手が届かなかった。」
古井由吉
男55歳
0  
田久保英夫
男64歳
0  
日野啓三
男63歳
0  
三浦哲郎
男61歳
0  
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他の候補作
多和田葉子
「犬婿入り」
魚住陽子
「流れる家」
小浜清志
「消える島」
野中柊
「チョコレット・オーガズム」
奥泉光
「三つ目の鯰」
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候補者・作品
野中柊女28歳×各選考委員 
「チョコレット・オーガズム」
短篇 143
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女66歳
0  
丸谷才一
男67歳
0  
大江健三郎
男57歳
4 「(引用者注:「消える島」と共に)生来の魅力をそなえているのに、それぞれの表現世界をコントロールなしえていない、と思う。」
大庭みな子
女62歳
0  
吉行淳之介
男68歳
0  
黒井千次
男60歳
2 「表層を上滑りし、」
古井由吉
男55歳
0  
田久保英夫
男64歳
0  
日野啓三
男63歳
0  
三浦哲郎
男61歳
0  
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他の候補作
多和田葉子
「犬婿入り」
魚住陽子
「流れる家」
小浜清志
「消える島」
角田光代
「ゆうべの神様」
奥泉光
「三つ目の鯰」
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候補者・作品
奥泉光男36歳×各選考委員 
「三つ目の鯰」
中篇 167
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
河野多恵子
女66歳
11 「二作(引用者注:「三つ目の鯰」と「犬婿入り」)が最後に残った時、私は消極的ながら前者(引用者注:「三つ目の鯰」)に票を入れた。以前の二度の候補作に較べて、知識や思考を生で出すまいと努力していることがよく分ったからである。しかし、この人の作品は常にあまりにも長すぎる。そして、小説の創造は表現によるもので、説明によるものではないことを、この人には一度よく考えてもらいたい。」
丸谷才一
男67歳
10 「風俗と社会を結びつけようとしてゐるのがいい。」「たとえば『ヨブ記』の結末についての会話など、微笑を誘ふに足りた。しかし観念のほうとなると、ずいぶん曖昧で取りとめがない。それに、彼らがなぜ信仰を必要としてゐるのかを書き落してゐるため、小説の骨組が弱くなつてゐる。」
大江健三郎
男57歳
10 「これまでの候補作において、それぞれに異なるスタイルを使いこなし、なりたちは観念的な主題を、小説らしい構想におきかえる能力はきわだっている。それでいて魅力ある小説とはまた別だ。」
大庭みな子
女62歳
13 「わたしはごく自然に読み、前回まで何度か候補作に残っていた作品の、女には想像しにくい、多分、生理的に男性的な世界の絵解きをされたような気分があった。だが、他の選考委員の方々の明快な解説を聞いているうちに、不可解な魅力が遠のいていく感じがあった。」
吉行淳之介
男68歳
7 「粘り強い思考の連続、(引用者中略)良いところがあった。ただ、残念なことに、(引用者注:他の候補作と共に)いろいろの意味で意味不明のところがあり、それも肝腎のところがそうなのだ。」
黒井千次
男60歳
10 「夫婦や親子の枠を破る親戚小説として注目した。奥泉氏のこれまでの候補作に見られた強い観念性が、一族の血の繋りという環の中で別の姿を見せ始める気配に好感を抱いた。」「ただ、目の三つある鯰にイメージを喚起する力の弱い点は気にかかったが。」
古井由吉
男55歳
33 「奥泉氏のこれまで二回の候補作を選考委員諸氏の不評の中で推した私が、このたびは諸氏の比較的好評の中で、評価をやや控えるかたちになった。作品が深みへ踏み入ろうとするところで、テーマが微妙に破れたのではないか、と私は考えるのだ。」「高目の要求が動いて、選考途中では評価を留保ぎみになったが、最終的には受賞にふさわしい作品と、私は判断した。」
田久保英夫
男64歳
20 「最も眼をひかれたのは、奥泉光氏の「三つ目の鯰」だが、それでも、もう一つ積極的に推しきれないものがあった。」「「三つ目」の鯰を見た者は父親だけ、という不確定の幅や、キリスト教など、合理とそれを超える世界を使って、主題を補強しているし、何か所かおもしろい情景もある。」「ただこの作品は、若い主人公が主体的な行為者より、叙述者の方へ傾きすぎて、その叙述がつぎつぎと細かく枝分れし、肝心の焦点が鈍ってしまっている。」
日野啓三
男63歳
12 「最初読んだとき、素直によくわかった。傷のないのが傷だと思うくらい。だが再読して、一回目以上の発見がないのだ。」「これまでのこの人の作品には、不可解な情念の噴出のようなものがあったのに。ただ荒地の宗教キリスト教をめぐる、この作家のよい意味の観念性には私は興味をもっている。」
三浦哲郎
男61歳
12 「筆力の旺盛さは認める。また、風景描写にも見るべきものがあった。けれども、この作者には言葉を惜しむことをおぼえさせたい。あまりにも多く書きすぎて、作品の焦点がぼやけ、印象が散漫になっているのだ。」
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他の候補作
多和田葉子
「犬婿入り」
魚住陽子
「流れる家」
小浜清志
「消える島」
角田光代
「ゆうべの神様」
野中柊
「チョコレット・オーガズム」
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