芥川賞のすべて・のようなもの
第97回
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昭和62年/1987年上半期
(昭和62年/1987年7月16日決定発表/『文藝春秋』昭和62年/1987年9月号選評掲載)
選考委員  黒井千次
男55歳
吉行淳之介
男63歳
古井由吉
男49歳
大庭みな子
女56歳
田久保英夫
男59歳
日野啓三
男58歳
水上勉
男68歳
河野多恵子
女61歳
三浦哲郎
男56歳
開高健
男56歳
選評総行数  35 35 32 29 34 30 33 30 31  
選評なし
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
村田喜代子 「鍋の中」
143
女42歳
16 19 22 13 16 19 16 6 22    
飯田章 「あしたの熱に身もほそり」
168
男52歳
0 0 0 0 0 0 0 3 0    
尾崎昌躬 「東明の浜」
81
男43歳
6 3 0 9 3 0 7 6 0    
飛鳥ゆう 「草地の家々」
77
女50歳
3 0 0 0 0 0 0 3 0    
山本昌代 「春のたより」
76
女26歳
3 0 0 7 0 0 0 3 3    
夫馬基彦 「緑色の渚」
104
男43歳
3 0 0 0 0 0 0 10 0    
新井満 「ヴェクサシオン」
171
男41歳
10 16 10 11 15 7 16 5 7    
                  欠席
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第十四巻』平成1年/1989年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和62年/1987年9月号)
1行当たりの文字数:26字


選考委員
黒井千次男55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
大人のいない世界 総行数35 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
村田喜代子
女42歳
16 「不思議な作」「面白いのは大人の男女が一人も登場してこない点である。」「読んでいて、ふと尾崎翠の小説を思い出したりした。現実離れしているようで、案外今の世の中の底をひょいと覗かせてしまう、柔らかな力をもった作品である。」
飯田章
男52歳
0  
尾崎昌躬
男43歳
6 「(引用者注:最後に)絞られた三篇の中の一つ」「描写力において七篇中最も優れていた。比較的書きやすい少年ものだったとはいえ、ここには小説として大切なものが孕まれている。」
飛鳥ゆう
女50歳
3 「小説としての仕上りは別として、その(引用者注:女性の候補作の)いずれもになにか奇妙な空気の漂っているのが興味深かった。」
山本昌代
女26歳
3 「小説としての仕上りは別として、その(引用者注:女性の候補作の)いずれもになにか奇妙な空気の漂っているのが興味深かった。」
夫馬基彦
男43歳
3 「印象に残った。ただ、うまくまとまり過ぎて、おとなしく収ってしまったのが残念だ。」
新井満
男41歳
10 「(引用者注:「鍋の中」と)二作受賞とするか否かで最後まで論議された」「仕事がらみで若い女性が登場して来る前半と、彼女が妊娠して一緒に子供を育てようと決意する後半とが、捻れてうまくつながらないところに不満を覚えた。」「力量は充分にあるのだから、やがてこれを超える作品が出て来るに違いない。」
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他の選考委員
吉行淳之介
古井由吉
大庭みな子
田久保英夫
日野啓三
水上勉
河野多恵子
三浦哲郎
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選考委員
吉行淳之介男63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
二作を推したが 総行数35 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
村田喜代子
女42歳
19 「予想を上まわる力を見せた。十分に計算された作品世界を提出し、そこに登場してくる人物も風物も、そして細部もすべていきいきしている。」「おばあさんに悪意があるわけでなく、ぼけているといえないこともないが、むしろ八十歳をしぜんに生きているのである。ここらあたり、不思議なユーモアがある。」
飯田章
男52歳
0  
尾崎昌躬
男43歳
3 「前半のカマスを拾う部分が良い。奄美の言葉の処理の不手際によって中だるみができたが、期待できる新人である。」
飛鳥ゆう
女50歳
0  
山本昌代
女26歳
0  
夫馬基彦
男43歳
0  
新井満
男41歳
16 「みずみずしく清新な作品である。「鍋の中」に劣らぬ作品として推したが、僅かな差で受賞にならなかった。」「男と女とが結ばれてゆくための設定は、ますます難しくなってきたが、作者は斜視の男と耳のきこえない女という組合せによって、力業をおこなっている。そしてこの二つは、作品のなかでしばしば有効にはたらいており、とくに末尾の斜視はみごとに機能している。」
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他の選考委員
黒井千次
古井由吉
大庭みな子
田久保英夫
日野啓三
水上勉
河野多恵子
三浦哲郎
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選考委員
古井由吉男49歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
融合と分離と沈黙と 総行数32 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
村田喜代子
女42歳
22 「老人の記憶の内部に起る著しい差異が、逆にたどれば、本人あるいはその生家の、どの辺の事情に由来するものなのか、また作品を通しての少女の口調のどこに、現在の作者の声が節目となって凝縮しているのか、読む側としてはもどかしいところだが、(引用者中略)料理役をひきうけた少女が日々、(引用者中略)ゴッタ煮めいたものをこしらえた古い大鍋の、その太さに相通じるものを、選者たちは作中から感じ受けて、それぞれ控え目ながらに推した。」
飯田章
男52歳
0  
尾崎昌躬
男43歳
0  
飛鳥ゆう
女50歳
0  
山本昌代
女26歳
0  
夫馬基彦
男43歳
0  
新井満
男41歳
10 「私は、音声と映像の分離しがちな、いや、いったん分離させてから結合させなくてはならないCF製作の世界に住まう人間の《虚の苦》に関心を惹かれ、沈黙と馴染む新しい音楽の救いにも誘われたが、(引用者中略)それらすべての中心にある沈黙のおそろしさの、その説明こそひととおりなされているものの、その切迫は表現されていない、そのことを作品の基本的な欠如と見た。」
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他の選考委員
黒井千次
吉行淳之介
大庭みな子
田久保英夫
日野啓三
水上勉
河野多恵子
三浦哲郎
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選考委員
大庭みな子女56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
期待 総行数29 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
村田喜代子
女42歳
13 「票の分れ方はほとんど予想した通りで、「鍋の中」に集ったが、これ一本では弱いという声もあり、「ヴェクサシオン」が批評された。」「不可解な奥行きがある。妙なおかしみのある味わいが、よいふうににじみ出ている。」
飯田章
男52歳
0  
尾崎昌躬
男43歳
9 「私の心を打った。こういうものは、新しそうに見えるものを無内容にふりまわす作品よりは常に新しい。けれど、すでに出来上っている文学世界に挑戦する表現者としては、もう一工夫あってよいのではないか。」
飛鳥ゆう
女50歳
0  
山本昌代
女26歳
7 「山本昌代さんの作品にはこの二、三年注目しているが、薄気味悪い怯えに読者を立ちすくませるものがある。悲しみの深さがエネルギーを支えれば、作品の美しい強さとなる。」
夫馬基彦
男43歳
0  
新井満
男41歳
11 「「ヴェクサシオン」に溢れている男性的な抽象思考は私の興を惹き、これを男性選考委員諸氏がどう評するかに耳を傾けた。」「風俗を動かしているものへの感性が、その風俗が消えたときにも、作家の強固な姿勢として残るものであれば、と思った。」
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他の選考委員
黒井千次
吉行淳之介
古井由吉
田久保英夫
日野啓三
水上勉
河野多恵子
三浦哲郎
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選考委員
田久保英夫男59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
熱い時間 総行数34 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
村田喜代子
女42歳
16 「十七歳の娘の眼を通した筆致と意図がうまく融け合って、自然のうちに血縁という不思議な〈煮鍋〉の光景を現出している。」「不気味さもあり、ユーモアもある。祖母と娘が風呂に入る情景、「心中」した二本の杉が髪のように葉をからみ合わせる描写など、まことに鮮かだ。」「ただ全体に文章がゆるみ気味で、最後に理に落ちそうな危険はあるが、今後この女流がどんな特異な世界を展開してくれるか、たのしみである。」
飯田章
男52歳
0  
尾崎昌躬
男43歳
3 「これも今回見落せない作品であり、作者の開花はこれからであろう。」
飛鳥ゆう
女50歳
0  
山本昌代
女26歳
0  
夫馬基彦
男43歳
0  
新井満
男41歳
15 「(引用者注:「鍋の中」が受賞するなら)同時授賞でいい、と私は思った。しかし、この作品は前回の「苺」ほど、すっきりと仕上っていない。」「しかし、この作者には日常のなかで不可視なもの、耳に聴えぬものながら、人間の生活の源泉を支えるものへの鋭敏な感受性と、それを小説に表現しようとする力業があり、それを認めたいと思う。」
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他の選考委員
黒井千次
吉行淳之介
古井由吉
大庭みな子
日野啓三
水上勉
河野多恵子
三浦哲郎
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選考委員
日野啓三男58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「宙ぶらりん」を出発点に 総行数30 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
村田喜代子
女42歳
19 「われわれの意識の表面では、解体、空洞化、断片化、不安、退行といった事態が進行しているけれど、意識の奥では常に統合の営みが働いているはずだ、と私は信じている。」「そういう統合の営みがみられると感じたので、私はこの作品を支持した。」「よき抽象的認識が、話の運びの計算されたしなやかさ、文章のとぼけたようなユーモアと共にあることに感心した。」
飯田章
男52歳
0  
尾崎昌躬
男43歳
0  
飛鳥ゆう
女50歳
0  
山本昌代
女26歳
0  
夫馬基彦
男43歳
0  
新井満
男41歳
7 「現代の空漠さを共に生きようとする新しい明るさがある。だが若い男女の恋物語が全体のバランスを崩して表面に出過ぎている計算違いがみられた。」
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他の選考委員
黒井千次
吉行淳之介
古井由吉
大庭みな子
田久保英夫
水上勉
河野多恵子
三浦哲郎
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選考委員
水上勉男68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
新井さんを推したが 総行数33 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
村田喜代子
女42歳
16 「道具だてにも感心した。」「年長の少女を主人公においた手法も納得させる。ひと夏の子供らの旅行が、作者のまったくの空想だとしたら、やはり、力量というしかない。この人には「熱愛」という不思議な好短篇があって、その密度が頭にあるので、「鍋の中」の絞りかげんのやわさがチラついた。だが推す人も多いので、授賞に反対はしなかった。」「村田さんの授賞と、新井満さんの落選は運不運というようなことも考えさせた。」
飯田章
男52歳
0  
尾崎昌躬
男43歳
7 「カマス拾いの描写や、海の描写にひかれて最後まで読んだ。」「冒頭部の厚塗りに比べて人物をもう少しという思いがした。たとえば房江などあの場しか出ぬが、じつに鮮明にのこり、重蔵がのこらない。」
飛鳥ゆう
女50歳
0  
山本昌代
女26歳
0  
夫馬基彦
男43歳
0  
新井満
男41歳
16 「三作目の候補だが、「ヴェクサシオン」がいちばんかと思った。前の「苺」よりも仕上りがていねいである。」「むずかしい材料をよくもここまでという思いもした。」「甘いところはある。だがその甘さがいいと思った。」「ところが最後の挙手投票で負けた。わずかな差である。」「村田さんの授賞と、新井満さんの落選は運不運というようなことも考えさせた。」
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他の選考委員
黒井千次
吉行淳之介
古井由吉
大庭みな子
田久保英夫
日野啓三
河野多恵子
三浦哲郎
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選考委員
河野多恵子女61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
村田氏の登場 総行数30 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
村田喜代子
女42歳
6 「(引用者注:最終的に)「鍋の中」一作の受賞を支持した。米谷ふみ子・山田詠美氏の出現には、女性新人の歴然とした変化が認められた。現実との強い対決が作品の基盤となっているのが、大きな特色である。村田喜代子氏のこの受賞作もまたそうである。」
飯田章
男52歳
3 「まず落ちた。」「全く推せなかった。」
尾崎昌躬
男43歳
6 「この作品を認めながらも今後に疑問を呈した委員があった。私もそれは思わぬでもなかったが、賭けてみたいと考えていた。」「少しも旧めかしくなく、作中の世界を超えて展がるものが、この作品にはあった。」
飛鳥ゆう
女50歳
3 「まず落ちた。」「全く推せなかった。」
山本昌代
女26歳
3 「最初の点数集計で、(引用者中略・注:「緑色の渚」と)同点だった。」「全く推せなかった。」
夫馬基彦
男43歳
10 「最初の点数集計で、(引用者中略・注:「春のたより」と)同点だった。」「私はこの作品は認めていた。」「候補作中、作品の表情が最も豊かである。ところが、ベッドシーンが意外なくらい拙い。妙な言い方だが、私はそれを気慰めにして、早くも落すことに敢えて反対はしなかった。」
新井満
男41歳
5 「私は(引用者中略)否定した。新井氏には旧い文学世界に対する無意識な執着と、新しさに対する意識的な指向があるようだ。その二つが折角の才能の開花の邪魔をしている。」
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他の選考委員
黒井千次
吉行淳之介
古井由吉
大庭みな子
田久保英夫
日野啓三
水上勉
三浦哲郎
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選考委員
三浦哲郎男56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数31 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
村田喜代子
女42歳
22 「「熱愛」は村田氏の最初の候補作で、文体も描写も緊密なよい作品であった。その快い読後感が頭を去らない。」「今度の「鍋の中」も気を入れて読んだが、私には不満であった。」「なによりも粗さが気になった。ある個所ではテニヲハさえ怪しくなっている。投げやりとも思える個所もある。そうかと思うと、また気を取り直したように生き生きと書く、そんな密度のむら(原文傍点)も気になった。」
飯田章
男52歳
0  
尾崎昌躬
男43歳
0  
飛鳥ゆう
女50歳
0  
山本昌代
女26歳
3 「この作者の最良のものだが、結末の場面になにか肝腎な一行が足らないと思った。」
夫馬基彦
男43歳
0  
新井満
男41歳
7 「軽々と読ませる力は抜群にしても、〈自分の頭の上の青空〉だけを描くのにこれだけの分量、これだけの小道具が果して必要だったかという疑問が残る。さまざまな工夫を凝らした労作ながら、これを包んでいる当世風な装いがいささか薄手で、時々作意が透けて見えるところが難点であった。」
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他の選考委員
黒井千次
吉行淳之介
古井由吉
大庭みな子
田久保英夫
日野啓三
水上勉
河野多恵子
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受賞者・作品
村田喜代子女42歳×各選考委員 
「鍋の中」
中篇 143
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男55歳
16 「不思議な作」「面白いのは大人の男女が一人も登場してこない点である。」「読んでいて、ふと尾崎翠の小説を思い出したりした。現実離れしているようで、案外今の世の中の底をひょいと覗かせてしまう、柔らかな力をもった作品である。」
吉行淳之介
男63歳
19 「予想を上まわる力を見せた。十分に計算された作品世界を提出し、そこに登場してくる人物も風物も、そして細部もすべていきいきしている。」「おばあさんに悪意があるわけでなく、ぼけているといえないこともないが、むしろ八十歳をしぜんに生きているのである。ここらあたり、不思議なユーモアがある。」
古井由吉
男49歳
22 「老人の記憶の内部に起る著しい差異が、逆にたどれば、本人あるいはその生家の、どの辺の事情に由来するものなのか、また作品を通しての少女の口調のどこに、現在の作者の声が節目となって凝縮しているのか、読む側としてはもどかしいところだが、(引用者中略)料理役をひきうけた少女が日々、(引用者中略)ゴッタ煮めいたものをこしらえた古い大鍋の、その太さに相通じるものを、選者たちは作中から感じ受けて、それぞれ控え目ながらに推した。」
大庭みな子
女56歳
13 「票の分れ方はほとんど予想した通りで、「鍋の中」に集ったが、これ一本では弱いという声もあり、「ヴェクサシオン」が批評された。」「不可解な奥行きがある。妙なおかしみのある味わいが、よいふうににじみ出ている。」
田久保英夫
男59歳
16 「十七歳の娘の眼を通した筆致と意図がうまく融け合って、自然のうちに血縁という不思議な〈煮鍋〉の光景を現出している。」「不気味さもあり、ユーモアもある。祖母と娘が風呂に入る情景、「心中」した二本の杉が髪のように葉をからみ合わせる描写など、まことに鮮かだ。」「ただ全体に文章がゆるみ気味で、最後に理に落ちそうな危険はあるが、今後この女流がどんな特異な世界を展開してくれるか、たのしみである。」
日野啓三
男58歳
19 「われわれの意識の表面では、解体、空洞化、断片化、不安、退行といった事態が進行しているけれど、意識の奥では常に統合の営みが働いているはずだ、と私は信じている。」「そういう統合の営みがみられると感じたので、私はこの作品を支持した。」「よき抽象的認識が、話の運びの計算されたしなやかさ、文章のとぼけたようなユーモアと共にあることに感心した。」
水上勉
男68歳
16 「道具だてにも感心した。」「年長の少女を主人公においた手法も納得させる。ひと夏の子供らの旅行が、作者のまったくの空想だとしたら、やはり、力量というしかない。この人には「熱愛」という不思議な好短篇があって、その密度が頭にあるので、「鍋の中」の絞りかげんのやわさがチラついた。だが推す人も多いので、授賞に反対はしなかった。」「村田さんの授賞と、新井満さんの落選は運不運というようなことも考えさせた。」
河野多恵子
女61歳
6 「(引用者注:最終的に)「鍋の中」一作の受賞を支持した。米谷ふみ子・山田詠美氏の出現には、女性新人の歴然とした変化が認められた。現実との強い対決が作品の基盤となっているのが、大きな特色である。村田喜代子氏のこの受賞作もまたそうである。」
三浦哲郎
男56歳
22 「「熱愛」は村田氏の最初の候補作で、文体も描写も緊密なよい作品であった。その快い読後感が頭を去らない。」「今度の「鍋の中」も気を入れて読んだが、私には不満であった。」「なによりも粗さが気になった。ある個所ではテニヲハさえ怪しくなっている。投げやりとも思える個所もある。そうかと思うと、また気を取り直したように生き生きと書く、そんな密度のむら(原文傍点)も気になった。」
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他の候補作
飯田章
「あしたの熱に身もほそり」
尾崎昌躬
「東明の浜」
飛鳥ゆう
「草地の家々」
山本昌代
「春のたより」
夫馬基彦
「緑色の渚」
新井満
「ヴェクサシオン」
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候補者・作品
飯田章男52歳×各選考委員 
「あしたの熱に身もほそり」
中篇 168
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男55歳
0  
吉行淳之介
男63歳
0  
古井由吉
男49歳
0  
大庭みな子
女56歳
0  
田久保英夫
男59歳
0  
日野啓三
男58歳
0  
水上勉
男68歳
0  
河野多恵子
女61歳
3 「まず落ちた。」「全く推せなかった。」
三浦哲郎
男56歳
0  
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他の候補作
村田喜代子
「鍋の中」
尾崎昌躬
「東明の浜」
飛鳥ゆう
「草地の家々」
山本昌代
「春のたより」
夫馬基彦
「緑色の渚」
新井満
「ヴェクサシオン」
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候補者・作品
尾崎昌躬男43歳×各選考委員 
「東明の浜」
短篇 81
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男55歳
6 「(引用者注:最後に)絞られた三篇の中の一つ」「描写力において七篇中最も優れていた。比較的書きやすい少年ものだったとはいえ、ここには小説として大切なものが孕まれている。」
吉行淳之介
男63歳
3 「前半のカマスを拾う部分が良い。奄美の言葉の処理の不手際によって中だるみができたが、期待できる新人である。」
古井由吉
男49歳
0  
大庭みな子
女56歳
9 「私の心を打った。こういうものは、新しそうに見えるものを無内容にふりまわす作品よりは常に新しい。けれど、すでに出来上っている文学世界に挑戦する表現者としては、もう一工夫あってよいのではないか。」
田久保英夫
男59歳
3 「これも今回見落せない作品であり、作者の開花はこれからであろう。」
日野啓三
男58歳
0  
水上勉
男68歳
7 「カマス拾いの描写や、海の描写にひかれて最後まで読んだ。」「冒頭部の厚塗りに比べて人物をもう少しという思いがした。たとえば房江などあの場しか出ぬが、じつに鮮明にのこり、重蔵がのこらない。」
河野多恵子
女61歳
6 「この作品を認めながらも今後に疑問を呈した委員があった。私もそれは思わぬでもなかったが、賭けてみたいと考えていた。」「少しも旧めかしくなく、作中の世界を超えて展がるものが、この作品にはあった。」
三浦哲郎
男56歳
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他の候補作
村田喜代子
「鍋の中」
飯田章
「あしたの熱に身もほそり」
飛鳥ゆう
「草地の家々」
山本昌代
「春のたより」
夫馬基彦
「緑色の渚」
新井満
「ヴェクサシオン」
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候補者・作品
飛鳥ゆう女50歳×各選考委員 
「草地の家々」
短篇 77
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男55歳
3 「小説としての仕上りは別として、その(引用者注:女性の候補作の)いずれもになにか奇妙な空気の漂っているのが興味深かった。」
吉行淳之介
男63歳
0  
古井由吉
男49歳
0  
大庭みな子
女56歳
0  
田久保英夫
男59歳
0  
日野啓三
男58歳
0  
水上勉
男68歳
0  
河野多恵子
女61歳
3 「まず落ちた。」「全く推せなかった。」
三浦哲郎
男56歳
0  
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他の候補作
村田喜代子
「鍋の中」
飯田章
「あしたの熱に身もほそり」
尾崎昌躬
「東明の浜」
山本昌代
「春のたより」
夫馬基彦
「緑色の渚」
新井満
「ヴェクサシオン」
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候補者・作品
山本昌代女26歳×各選考委員 
「春のたより」
短篇 76
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男55歳
3 「小説としての仕上りは別として、その(引用者注:女性の候補作の)いずれもになにか奇妙な空気の漂っているのが興味深かった。」
吉行淳之介
男63歳
0  
古井由吉
男49歳
0  
大庭みな子
女56歳
7 「山本昌代さんの作品にはこの二、三年注目しているが、薄気味悪い怯えに読者を立ちすくませるものがある。悲しみの深さがエネルギーを支えれば、作品の美しい強さとなる。」
田久保英夫
男59歳
0  
日野啓三
男58歳
0  
水上勉
男68歳
0  
河野多恵子
女61歳
3 「最初の点数集計で、(引用者中略・注:「緑色の渚」と)同点だった。」「全く推せなかった。」
三浦哲郎
男56歳
3 「この作者の最良のものだが、結末の場面になにか肝腎な一行が足らないと思った。」
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他の候補作
村田喜代子
「鍋の中」
飯田章
「あしたの熱に身もほそり」
尾崎昌躬
「東明の浜」
飛鳥ゆう
「草地の家々」
夫馬基彦
「緑色の渚」
新井満
「ヴェクサシオン」
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候補者・作品
夫馬基彦男43歳×各選考委員 
「緑色の渚」
短篇 104
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男55歳
3 「印象に残った。ただ、うまくまとまり過ぎて、おとなしく収ってしまったのが残念だ。」
吉行淳之介
男63歳
0  
古井由吉
男49歳
0  
大庭みな子
女56歳
0  
田久保英夫
男59歳
0  
日野啓三
男58歳
0  
水上勉
男68歳
0  
河野多恵子
女61歳
10 「最初の点数集計で、(引用者中略・注:「春のたより」と)同点だった。」「私はこの作品は認めていた。」「候補作中、作品の表情が最も豊かである。ところが、ベッドシーンが意外なくらい拙い。妙な言い方だが、私はそれを気慰めにして、早くも落すことに敢えて反対はしなかった。」
三浦哲郎
男56歳
0  
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他の候補作
村田喜代子
「鍋の中」
飯田章
「あしたの熱に身もほそり」
尾崎昌躬
「東明の浜」
飛鳥ゆう
「草地の家々」
山本昌代
「春のたより」
新井満
「ヴェクサシオン」
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候補者・作品
新井満男41歳×各選考委員 
「ヴェクサシオン」
中篇 171
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒井千次
男55歳
10 「(引用者注:「鍋の中」と)二作受賞とするか否かで最後まで論議された」「仕事がらみで若い女性が登場して来る前半と、彼女が妊娠して一緒に子供を育てようと決意する後半とが、捻れてうまくつながらないところに不満を覚えた。」「力量は充分にあるのだから、やがてこれを超える作品が出て来るに違いない。」
吉行淳之介
男63歳
16 「みずみずしく清新な作品である。「鍋の中」に劣らぬ作品として推したが、僅かな差で受賞にならなかった。」「男と女とが結ばれてゆくための設定は、ますます難しくなってきたが、作者は斜視の男と耳のきこえない女という組合せによって、力業をおこなっている。そしてこの二つは、作品のなかでしばしば有効にはたらいており、とくに末尾の斜視はみごとに機能している。」
古井由吉
男49歳
10 「私は、音声と映像の分離しがちな、いや、いったん分離させてから結合させなくてはならないCF製作の世界に住まう人間の《虚の苦》に関心を惹かれ、沈黙と馴染む新しい音楽の救いにも誘われたが、(引用者中略)それらすべての中心にある沈黙のおそろしさの、その説明こそひととおりなされているものの、その切迫は表現されていない、そのことを作品の基本的な欠如と見た。」
大庭みな子
女56歳
11 「「ヴェクサシオン」に溢れている男性的な抽象思考は私の興を惹き、これを男性選考委員諸氏がどう評するかに耳を傾けた。」「風俗を動かしているものへの感性が、その風俗が消えたときにも、作家の強固な姿勢として残るものであれば、と思った。」
田久保英夫
男59歳
15 「(引用者注:「鍋の中」が受賞するなら)同時授賞でいい、と私は思った。しかし、この作品は前回の「苺」ほど、すっきりと仕上っていない。」「しかし、この作者には日常のなかで不可視なもの、耳に聴えぬものながら、人間の生活の源泉を支えるものへの鋭敏な感受性と、それを小説に表現しようとする力業があり、それを認めたいと思う。」
日野啓三
男58歳
7 「現代の空漠さを共に生きようとする新しい明るさがある。だが若い男女の恋物語が全体のバランスを崩して表面に出過ぎている計算違いがみられた。」
水上勉
男68歳
16 「三作目の候補だが、「ヴェクサシオン」がいちばんかと思った。前の「苺」よりも仕上りがていねいである。」「むずかしい材料をよくもここまでという思いもした。」「甘いところはある。だがその甘さがいいと思った。」「ところが最後の挙手投票で負けた。わずかな差である。」「村田さんの授賞と、新井満さんの落選は運不運というようなことも考えさせた。」
河野多恵子
女61歳
5 「私は(引用者中略)否定した。新井氏には旧い文学世界に対する無意識な執着と、新しさに対する意識的な指向があるようだ。その二つが折角の才能の開花の邪魔をしている。」
三浦哲郎
男56歳
7 「軽々と読ませる力は抜群にしても、〈自分の頭の上の青空〉だけを描くのにこれだけの分量、これだけの小道具が果して必要だったかという疑問が残る。さまざまな工夫を凝らした労作ながら、これを包んでいる当世風な装いがいささか薄手で、時々作意が透けて見えるところが難点であった。」
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他の候補作
村田喜代子
「鍋の中」
飯田章
「あしたの熱に身もほそり」
尾崎昌躬
「東明の浜」
飛鳥ゆう
「草地の家々」
山本昌代
「春のたより」
夫馬基彦
「緑色の渚」
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