芥川賞のすべて・のようなもの
第106回
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平成3年/1991年下半期
(平成4年/1992年1月16日決定発表/『文藝春秋』平成4年/1992年3月号選評掲載)
選考委員  大江健三郎
男56歳
大庭みな子
女61歳
吉行淳之介
男67歳
田久保英夫
男63歳
黒井千次
男59歳
古井由吉
男54歳
河野多恵子
女65歳
三浦哲郎
男60歳
日野啓三
男62歳
丸谷才一
男66歳
選評総行数  32 24 32 38 35 34 32 32 45 34
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
松村栄子 「至高聖所」
123
女30歳
14 11 12 19 21 0 9 11 12 3
藤本恵子 「南港」
119
女40歳
6 4 0 9 4 0 5 6 0 13
奥泉光 「暴力の舟」
216
男35歳
12 0 0 9 7 34 5 0 33 7
村上政彦 「青空」
100
男33歳
0 0 0 0 0 0 3 0 0 0
田野武裕 「夕映え」
108
男48歳
0 0 0 0 0 0 7 0 0 0
多田尋子 「毀れた絵具箱」
118
女59歳
0 4 16 0 3 0 7 15 0 11
                   
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第十六巻』平成14年/2002年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成4年/1992年3月号)
1行当たりの文字数:24字


選考委員
大江健三郎男56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
新しい無機的な場所で 総行数32 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
14 「知的な工夫のある場面転換がスピード感もかもしだして、作者の小説設計はあらかた貫かれている。」「さてそのような進行の後のしめくくりだが、ヒロインの内面では整合性があるものの、外側から見れば気分的な弱さのあらわな結末となっている。このあいだのへだたりを埋めて、客観的にも堅固な世界をつくることが、若い作者の成熟への道すじとなろう。」
藤本恵子
女40歳
6 「人物のまた語り口の愉快なテンポにおいて手練れの作というにたりる。しかしつくられた小説世界が作者から独立しているだけに――それ自体は短篇として評価されるべきことだが――、結末の若者の覚悟が中途半端にうつる。」
奥泉光
男35歳
12 「主題性の強い筋が通っている。風変りな人物にリアリティーをあたえるための学生仲間の談論も、一時期の大学に確かに見られた種類だろう。」「そこで問題となるのが、こうした談論もまた作品の一部分であり小説の言葉になっていなければ読み手を索然たらしめてしまう、ということである。」
村上政彦
男33歳
0  
田野武裕
男48歳
0  
多田尋子
女59歳
0  
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他の選考委員
大庭みな子
吉行淳之介
田久保英夫
黒井千次
古井由吉
河野多恵子
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
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選考委員
大庭みな子女61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
なつかしい情景 総行数24 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
11 「現代のキャンパスが眼に浮かぶ情景の中で描かれている。」「ここで描かれている大学の寮生たちの生活は、一九八〇年代のものであろうが、それらの情景が、その昔から変らない青春の姿を映し出していることに感心した。」「傲慢で無力な夢想の溢れた若さというものが、気取りや衒気をも混えながら、ともかくも真面目に追われている。好感が持てた。」
藤本恵子
女40歳
4 「男性像をじっとみつめている作者の奥に漂う香りから、よいユーモアがにじみ出ている。女性の書き手が、男性だけの登場人物を扱う大胆さに驚いている。」
奥泉光
男35歳
0  
村上政彦
男33歳
0  
田野武裕
男48歳
0  
多田尋子
女59歳
4 「これまでにない妙な味を出しているので印象が強かった。及ばなかったのは残念だ。」
  「今回の選考会では、なんとなく票が割れるような気がしていた。そのわりにはすんなり決った。」「これは、何か大きなものがゆっくりと迂回して進路を変える前の、ひとときの淀みの状態かもしれないと気になっている。」
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他の選考委員
大江健三郎
吉行淳之介
田久保英夫
黒井千次
古井由吉
河野多恵子
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
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選考委員
吉行淳之介男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数32 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
12 「一回目の大まかな選考で、(引用者中略)一位(引用者中略)だった。」「松村さんの能力は、文章をみてもディテールをみてもあきらかであるが、あちこちに独りよがりなところがある。とくに末尾は、強引にツジツマを合わせた。」「今回の受賞は珍しい幸運とおもえるので、その刺戟を有効に使ってほしい。」
藤本恵子
女40歳
0  
奥泉光
男35歳
0  
村上政彦
男33歳
0  
田野武裕
男48歳
0  
多田尋子
女59歳
16 「一回目の大まかな選考で、(引用者中略)次点(引用者中略)だった。」「腑に落ちぬところが沢山あり、強引に深読みすればツジツマがあうが、それは作者の考えには無いものとしかおもえない。」「けっして短くない時期が書いてあるが、その時間の厚みがない。テーマに当然絡むはずの性が抜け落ちているためらしい、と思い当った。」「唯一、すこし異を立てた作品」
  「何年ぶりかで、すべての候補作に△をつけた。いろいろな作風の作品が集まったが、どれも△のままで、○にならない。これを逆にいえばそれぞれかなりの器量のある作品が揃ったということにもなる。」
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他の選考委員
大江健三郎
大庭みな子
田久保英夫
黒井千次
古井由吉
河野多恵子
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
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選考委員
田久保英夫男63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
人と鉱物の間 総行数38 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
19 「やや抜け出ていると思っていたが、実際も終始、評価点がほかの作より高かった。」「女子学生の乾いた生活感覚と心の痛みを描いて、まことに鮮度のいい小説的感性を見せている。」「最後にそれ(引用者注:痛み)を癒すため、夜大学の図書館の石柱の下に眠りを求めて行く情景は、古代ギリシャの医療の神の神殿と二重映しにして、とにかく難しい結末を乗り切り、まるで夜想曲のアンダンテの響きを聞く思いがする。」
藤本恵子
女40歳
9 「若い男四人を描きわける手腕は巧みだ。しかし、今なぜ一九七〇年代なのか。その若者たちの生態が、現在の私たちにどう働きかけてくるのか。その意図が充分伝わってこない。」
奥泉光
男35歳
9 「おのずから相手の暴力を誘発する男を、「理想社会」やマルクスの「宗教は阿片」という観念を背負わせて描き、今日あまり類のない世界を展開している。」「こういう人間たちの造型には、作者の側にたしかな形而上学が必要ではなかろうか。」
村上政彦
男33歳
0  
田野武裕
男48歳
0  
多田尋子
女59歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
黒井千次
古井由吉
河野多恵子
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
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選考委員
黒井千次男59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
石の領域 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
21 「キャンパス生活を描いた新人の小説にはよく出会うが、大学の立地条件ごとそれを捉えた作品は珍しい。」「これは石を核として意識的に構成された作品であるといえる。文章が硬質で分析的な傾きを持つのは、そのことと無縁ではあるまい。」「面白く読んだ。」「後半にやや強引な手つきがのぞき不満も残るが、他の候補作と比べた時、(引用者中略)一歩前に出ていると感じた。」
藤本恵子
女40歳
4 「題材の特異さに注目した。明るく突抜けてユーモアもあり、スピード感の溢れる文章に好感を持ったものの、少し筆が走り過ぎて作品が浮いてしまった。」
奥泉光
男35歳
7 「力作であり、主題と腕力に惹かれたが、土俗的なものの扱いが中途半端に終った。過去の出来事を振り返る形で書かれている以上、語り手の現在がどのようなものであるのかも気にかかる。」「しかし、時代に向き合おうとする作者の姿勢は支持したい。」
村上政彦
男33歳
0  
田野武裕
男48歳
0  
多田尋子
女59歳
3 「作中に十年の歳月を覚えなかった。風変りな人物、奇妙な人間関係も、やはり年月の影響は受けるのであるまいか。」
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他の選考委員
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
田久保英夫
古井由吉
河野多恵子
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
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選考委員
古井由吉男54歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「暴力の舟」を推す 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
0  
藤本恵子
女40歳
0  
奥泉光
男35歳
34 「アナクロニズムの域にまで古び形骸化したとき、ようやく典型として現にあらわれる時代の人間像というものは、やはりあるのだろうな、と考えさせた」「しかも愉快な人物像ではない。」「このような人物を非共感的に、(引用者中略)この人物こそ、その度しがたき《言葉》もふくめて、それなりに純正であったという、かならずしも救いでなく、憂鬱なる是認に至る。」「ここまで漕ぎつけたのは、この作品の手柄だと思われる。」
村上政彦
男33歳
0  
田野武裕
男48歳
0  
多田尋子
女59歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
田久保英夫
黒井千次
河野多恵子
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
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選考委員
河野多恵子女65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
創作の会得 総行数32 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
9 「快い手応えを感じながら読み進んだ。」「一つのことが、幾様にも生き、幾つものことが響き合い、映り合う。姉の妊娠を知るところ以後は落ちるが、最後は立ち直った。」「何よりも作者が創作というものを全身で会得している様子が信頼できるので、この作品を推した。」
藤本恵子
女40歳
5 「処々に真実が感じられる。が、浮いてしまった部分もある。モチーフが作者にとって曖昧だからではないか。」
奥泉光
男35歳
5 「作者の問題意識の表現に鮮やかさが欠ける。思考のエネルギーに較べて、文学的エネルギーは不足しており、文章にしても真の活力に欠ける、鈍いものだと思った。」
村上政彦
男33歳
3 「時によい描写がありながら、それが全編への効果を生むに至らない。」
田野武裕
男48歳
7 「主人公のかたちになっているホームヘルパーの文子のことを描きたかったのか、彼女の担当している元女郎の老女のことを書きたかったのか。」
多田尋子
女59歳
7 「不思議な感性と発想の持主のようである。こういう言い方しかできないのは、鮮烈にそれを表現した作品をまだ読ませてもらっていないからである。何を手離せずに拘泥っている感じがある。」
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他の選考委員
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
田久保英夫
黒井千次
古井由吉
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
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選考委員
三浦哲郎男60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数32 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
11 「清澄な文章に敬意を表しておこう。」「読んでいて一種の爽快感をおぼえた。」「けれども、この「至高聖所」ではルームメイトが芝居の台本を書き出すあたりから明晰さを欠く場面が目立つようになる。私としては、次作を待ちたい気持だった。」
藤本恵子
女40歳
6 「印象深かった。」「巧まざるユーモアを散らした野性的な文章の行間から、現代企業の機構にきっちり組み込まれて身動きできなくなった若者たちの、悲痛な叫び声がきこえてくる。」
奥泉光
男35歳
0  
村上政彦
男33歳
0  
田野武裕
男48歳
0  
多田尋子
女59歳
15 「私は、今回も(引用者中略)推した。この人の、平易で気取りのない、けれども勘所をきちんと抑えている文章にも、私は感心している。」「若い女性が主人公のせいか作品全体が少々くだけすぎた感がなきにしもあらずだが、出来映えは前作より上ではないかと思う。」「人間のかたくなさ、身勝手さのぶつかり合いを通して、人生というものの重さ、生きるということの厄介さを、象徴的に描き出しているところが、この作品の手柄だと思う。」
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他の選考委員
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
田久保英夫
黒井千次
古井由吉
河野多恵子
日野啓三
丸谷才一
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選考委員
日野啓三男62歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
奥泉氏の妙な力 総行数45 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
12 「「ピュアで乾いた物質性」を愛する女子学生の感性を、私は理解し共感さえできるが、それだけに終りの方になって、(引用者中略)自分自身を愛する夢をみようと願う主人公の心事は、不徹底に思われる。」「主人公は「友人よりも青い石の方を」選ぶ感性と生き方を貫いてほしかった。」
藤本恵子
女40歳
0  
奥泉光
男35歳
33 「今回は大方の賛同を得られないことを覚悟の上で、敢えて(引用者中略)推した。」「今回の候補作中、最も枚数が長かったのに、退屈することなく読み続けさせる妙な力があった。」「粗い文章と雑な構成にもかかわらず、主人公の魅力が強く心に残った。男というのは観念的な孤独なイキモノなのだ。」
村上政彦
男33歳
0  
田野武裕
男48歳
0  
多田尋子
女59歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
田久保英夫
黒井千次
古井由吉
河野多恵子
三浦哲郎
丸谷才一
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選考委員
丸谷才一男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
驚いた 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
松村栄子
女30歳
3 「関心の持てない作品だつた。わたしは推奨の言葉を聞きながらただ驚いてゐた。」
藤本恵子
女40歳
13 「景気がよくて嬉しかつた。若い男たちの生活がじつに生き生きと描いてある。その文体の歯切れのよさ、活気、足どりのすつきりした感じがまづわたしを喜ばせた。しかも男たちへと寄せる好意がいい。」「しかし職業生活を描いた部分はおもしろいのに、彼らの女性関係となると、恋愛も売春も急に常套的になるのは変な気がした。想像力がのびのびと働いてゐない。」
奥泉光
男35歳
7 「前半は、期待するに足る新人だと思つた。現代日本人を俎上にのせようとして努力してゐる。」「しかし後半はいけない。話がでたらめになつてゐる。こんな手抜きをするやうでは、登場人物たちのいい加減さをからかふ資格はないのである。」
村上政彦
男33歳
0  
田野武裕
男48歳
0  
多田尋子
女59歳
11 「基本のしつかりした文章で読ませた。古風は古風だが、しかし古くさくはなく、安心してついてゆける。」「小説そのものは、じつに上手なところと無器用きはまるところとが入りまじつてゐる。たとへば首都と地方の距離感とか、画家志望者たちが次第に脱落してゆく過程とかを描かせるとすばらしい。」「それなのに男の片恋となると筆がとどいてゐない。」
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他の選考委員
大江健三郎
大庭みな子
吉行淳之介
田久保英夫
黒井千次
古井由吉
河野多恵子
三浦哲郎
日野啓三
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受賞者・作品
松村栄子女30歳×各選考委員 
「至高聖所」
短篇 123
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男56歳
14 「知的な工夫のある場面転換がスピード感もかもしだして、作者の小説設計はあらかた貫かれている。」「さてそのような進行の後のしめくくりだが、ヒロインの内面では整合性があるものの、外側から見れば気分的な弱さのあらわな結末となっている。このあいだのへだたりを埋めて、客観的にも堅固な世界をつくることが、若い作者の成熟への道すじとなろう。」
大庭みな子
女61歳
11 「現代のキャンパスが眼に浮かぶ情景の中で描かれている。」「ここで描かれている大学の寮生たちの生活は、一九八〇年代のものであろうが、それらの情景が、その昔から変らない青春の姿を映し出していることに感心した。」「傲慢で無力な夢想の溢れた若さというものが、気取りや衒気をも混えながら、ともかくも真面目に追われている。好感が持てた。」
吉行淳之介
男67歳
12 「一回目の大まかな選考で、(引用者中略)一位(引用者中略)だった。」「松村さんの能力は、文章をみてもディテールをみてもあきらかであるが、あちこちに独りよがりなところがある。とくに末尾は、強引にツジツマを合わせた。」「今回の受賞は珍しい幸運とおもえるので、その刺戟を有効に使ってほしい。」
田久保英夫
男63歳
19 「やや抜け出ていると思っていたが、実際も終始、評価点がほかの作より高かった。」「女子学生の乾いた生活感覚と心の痛みを描いて、まことに鮮度のいい小説的感性を見せている。」「最後にそれ(引用者注:痛み)を癒すため、夜大学の図書館の石柱の下に眠りを求めて行く情景は、古代ギリシャの医療の神の神殿と二重映しにして、とにかく難しい結末を乗り切り、まるで夜想曲のアンダンテの響きを聞く思いがする。」
黒井千次
男59歳
21 「キャンパス生活を描いた新人の小説にはよく出会うが、大学の立地条件ごとそれを捉えた作品は珍しい。」「これは石を核として意識的に構成された作品であるといえる。文章が硬質で分析的な傾きを持つのは、そのことと無縁ではあるまい。」「面白く読んだ。」「後半にやや強引な手つきがのぞき不満も残るが、他の候補作と比べた時、(引用者中略)一歩前に出ていると感じた。」
古井由吉
男54歳
0  
河野多恵子
女65歳
9 「快い手応えを感じながら読み進んだ。」「一つのことが、幾様にも生き、幾つものことが響き合い、映り合う。姉の妊娠を知るところ以後は落ちるが、最後は立ち直った。」「何よりも作者が創作というものを全身で会得している様子が信頼できるので、この作品を推した。」
三浦哲郎
男60歳
11 「清澄な文章に敬意を表しておこう。」「読んでいて一種の爽快感をおぼえた。」「けれども、この「至高聖所」ではルームメイトが芝居の台本を書き出すあたりから明晰さを欠く場面が目立つようになる。私としては、次作を待ちたい気持だった。」
日野啓三
男62歳
12 「「ピュアで乾いた物質性」を愛する女子学生の感性を、私は理解し共感さえできるが、それだけに終りの方になって、(引用者中略)自分自身を愛する夢をみようと願う主人公の心事は、不徹底に思われる。」「主人公は「友人よりも青い石の方を」選ぶ感性と生き方を貫いてほしかった。」
丸谷才一
男66歳
3 「関心の持てない作品だつた。わたしは推奨の言葉を聞きながらただ驚いてゐた。」
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他の候補作
藤本恵子
「南港」
奥泉光
「暴力の舟」
村上政彦
「青空」
田野武裕
「夕映え」
多田尋子
「毀れた絵具箱」
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候補者・作品
藤本恵子女40歳×各選考委員 
「南港」
短篇 119
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男56歳
6 「人物のまた語り口の愉快なテンポにおいて手練れの作というにたりる。しかしつくられた小説世界が作者から独立しているだけに――それ自体は短篇として評価されるべきことだが――、結末の若者の覚悟が中途半端にうつる。」
大庭みな子
女61歳
4 「男性像をじっとみつめている作者の奥に漂う香りから、よいユーモアがにじみ出ている。女性の書き手が、男性だけの登場人物を扱う大胆さに驚いている。」
吉行淳之介
男67歳
0  
田久保英夫
男63歳
9 「若い男四人を描きわける手腕は巧みだ。しかし、今なぜ一九七〇年代なのか。その若者たちの生態が、現在の私たちにどう働きかけてくるのか。その意図が充分伝わってこない。」
黒井千次
男59歳
4 「題材の特異さに注目した。明るく突抜けてユーモアもあり、スピード感の溢れる文章に好感を持ったものの、少し筆が走り過ぎて作品が浮いてしまった。」
古井由吉
男54歳
0  
河野多恵子
女65歳
5 「処々に真実が感じられる。が、浮いてしまった部分もある。モチーフが作者にとって曖昧だからではないか。」
三浦哲郎
男60歳
6 「印象深かった。」「巧まざるユーモアを散らした野性的な文章の行間から、現代企業の機構にきっちり組み込まれて身動きできなくなった若者たちの、悲痛な叫び声がきこえてくる。」
日野啓三
男62歳
0  
丸谷才一
男66歳
13 「景気がよくて嬉しかつた。若い男たちの生活がじつに生き生きと描いてある。その文体の歯切れのよさ、活気、足どりのすつきりした感じがまづわたしを喜ばせた。しかも男たちへと寄せる好意がいい。」「しかし職業生活を描いた部分はおもしろいのに、彼らの女性関係となると、恋愛も売春も急に常套的になるのは変な気がした。想像力がのびのびと働いてゐない。」
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他の候補作
松村栄子
「至高聖所」
奥泉光
「暴力の舟」
村上政彦
「青空」
田野武裕
「夕映え」
多田尋子
「毀れた絵具箱」
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候補者・作品
奥泉光男35歳×各選考委員 
「暴力の舟」
中篇 216
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男56歳
12 「主題性の強い筋が通っている。風変りな人物にリアリティーをあたえるための学生仲間の談論も、一時期の大学に確かに見られた種類だろう。」「そこで問題となるのが、こうした談論もまた作品の一部分であり小説の言葉になっていなければ読み手を索然たらしめてしまう、ということである。」
大庭みな子
女61歳
0  
吉行淳之介
男67歳
0  
田久保英夫
男63歳
9 「おのずから相手の暴力を誘発する男を、「理想社会」やマルクスの「宗教は阿片」という観念を背負わせて描き、今日あまり類のない世界を展開している。」「こういう人間たちの造型には、作者の側にたしかな形而上学が必要ではなかろうか。」
黒井千次
男59歳
7 「力作であり、主題と腕力に惹かれたが、土俗的なものの扱いが中途半端に終った。過去の出来事を振り返る形で書かれている以上、語り手の現在がどのようなものであるのかも気にかかる。」「しかし、時代に向き合おうとする作者の姿勢は支持したい。」
古井由吉
男54歳
34 「アナクロニズムの域にまで古び形骸化したとき、ようやく典型として現にあらわれる時代の人間像というものは、やはりあるのだろうな、と考えさせた」「しかも愉快な人物像ではない。」「このような人物を非共感的に、(引用者中略)この人物こそ、その度しがたき《言葉》もふくめて、それなりに純正であったという、かならずしも救いでなく、憂鬱なる是認に至る。」「ここまで漕ぎつけたのは、この作品の手柄だと思われる。」
河野多恵子
女65歳
5 「作者の問題意識の表現に鮮やかさが欠ける。思考のエネルギーに較べて、文学的エネルギーは不足しており、文章にしても真の活力に欠ける、鈍いものだと思った。」
三浦哲郎
男60歳
0  
日野啓三
男62歳
33 「今回は大方の賛同を得られないことを覚悟の上で、敢えて(引用者中略)推した。」「今回の候補作中、最も枚数が長かったのに、退屈することなく読み続けさせる妙な力があった。」「粗い文章と雑な構成にもかかわらず、主人公の魅力が強く心に残った。男というのは観念的な孤独なイキモノなのだ。」
丸谷才一
男66歳
7 「前半は、期待するに足る新人だと思つた。現代日本人を俎上にのせようとして努力してゐる。」「しかし後半はいけない。話がでたらめになつてゐる。こんな手抜きをするやうでは、登場人物たちのいい加減さをからかふ資格はないのである。」
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他の候補作
松村栄子
「至高聖所」
藤本恵子
「南港」
村上政彦
「青空」
田野武裕
「夕映え」
多田尋子
「毀れた絵具箱」
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候補者・作品
村上政彦男33歳×各選考委員 
「青空」
短篇 100
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男56歳
0  
大庭みな子
女61歳
0  
吉行淳之介
男67歳
0  
田久保英夫
男63歳
0  
黒井千次
男59歳
0  
古井由吉
男54歳
0  
河野多恵子
女65歳
3 「時によい描写がありながら、それが全編への効果を生むに至らない。」
三浦哲郎
男60歳
0  
日野啓三
男62歳
0  
丸谷才一
男66歳
0  
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他の候補作
松村栄子
「至高聖所」
藤本恵子
「南港」
奥泉光
「暴力の舟」
田野武裕
「夕映え」
多田尋子
「毀れた絵具箱」
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候補者・作品
田野武裕男48歳×各選考委員 
「夕映え」
短篇 108
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男56歳
0  
大庭みな子
女61歳
0  
吉行淳之介
男67歳
0  
田久保英夫
男63歳
0  
黒井千次
男59歳
0  
古井由吉
男54歳
0  
河野多恵子
女65歳
7 「主人公のかたちになっているホームヘルパーの文子のことを描きたかったのか、彼女の担当している元女郎の老女のことを書きたかったのか。」
三浦哲郎
男60歳
0  
日野啓三
男62歳
0  
丸谷才一
男66歳
0  
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他の候補作
松村栄子
「至高聖所」
藤本恵子
「南港」
奥泉光
「暴力の舟」
村上政彦
「青空」
多田尋子
「毀れた絵具箱」
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候補者・作品
多田尋子女59歳×各選考委員 
「毀れた絵具箱」
短篇 118
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男56歳
0  
大庭みな子
女61歳
4 「これまでにない妙な味を出しているので印象が強かった。及ばなかったのは残念だ。」
吉行淳之介
男67歳
16 「一回目の大まかな選考で、(引用者中略)次点(引用者中略)だった。」「腑に落ちぬところが沢山あり、強引に深読みすればツジツマがあうが、それは作者の考えには無いものとしかおもえない。」「けっして短くない時期が書いてあるが、その時間の厚みがない。テーマに当然絡むはずの性が抜け落ちているためらしい、と思い当った。」「唯一、すこし異を立てた作品」
田久保英夫
男63歳
0  
黒井千次
男59歳
3 「作中に十年の歳月を覚えなかった。風変りな人物、奇妙な人間関係も、やはり年月の影響は受けるのであるまいか。」
古井由吉
男54歳
0  
河野多恵子
女65歳
7 「不思議な感性と発想の持主のようである。こういう言い方しかできないのは、鮮烈にそれを表現した作品をまだ読ませてもらっていないからである。何を手離せずに拘泥っている感じがある。」
三浦哲郎
男60歳
15 「私は、今回も(引用者中略)推した。この人の、平易で気取りのない、けれども勘所をきちんと抑えている文章にも、私は感心している。」「若い女性が主人公のせいか作品全体が少々くだけすぎた感がなきにしもあらずだが、出来映えは前作より上ではないかと思う。」「人間のかたくなさ、身勝手さのぶつかり合いを通して、人生というものの重さ、生きるということの厄介さを、象徴的に描き出しているところが、この作品の手柄だと思う。」
日野啓三
男62歳
0  
丸谷才一
男66歳
11 「基本のしつかりした文章で読ませた。古風は古風だが、しかし古くさくはなく、安心してついてゆける。」「小説そのものは、じつに上手なところと無器用きはまるところとが入りまじつてゐる。たとへば首都と地方の距離感とか、画家志望者たちが次第に脱落してゆく過程とかを描かせるとすばらしい。」「それなのに男の片恋となると筆がとどいてゐない。」
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他の候補作
松村栄子
「至高聖所」
藤本恵子
「南港」
奥泉光
「暴力の舟」
村上政彦
「青空」
田野武裕
「夕映え」
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