芥川賞のすべて・のようなもの
第103回
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平成2年/1990年上半期
(平成2年/1990年7月16日決定発表/『文藝春秋』平成2年/1990年9月号選評掲載)
選考委員  大江健三郎
男55歳
三浦哲郎
男59歳
日野啓三
男61歳
丸谷才一
男64歳
古井由吉
男52歳
河野多恵子
女64歳
田久保英夫
男62歳
大庭みな子
女59歳
黒井千次
男58歳
吉行淳之介
男66歳
水上勉
男71歳
選評総行数  35 35 30 34 35 34 35 27 36 35  
選評なし
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
辻原登 「村の名前」
168
男44歳
10 9 18 24 19 11 16 11 19 19    
佐伯一麦 「ショート・サーキット」
91
男30歳
5 0 0 0 0 5 0 0 6 0    
奥泉光 「滝」
196
男34歳
5 0 0 0 5 5 0 0 0 0    
清水邦夫 「風鳥」
74
男53歳
4 21 0 6 11 2 0 10 4 5    
小川洋子 「冷めない紅茶」
87
女28歳
4 5 12 4 0 4 20 7 3 5    
荻野アンナ 「スペインの城」
122
女33歳
3 0 0 0 0 5 0 0 4 0    
河林満 「渇水」
84
男39歳
5 0 2 0 0 4 0 0 0 0    
                    欠席
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第十五巻』平成14年/2002年4月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』平成2年/1990年9月号)
1行当たりの文字数:24字


選考委員
大江健三郎男55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
多様な個性 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
10 「被害意識の奇怪なかたまりが現実世界をこえた物語を首尾一貫させる。才能も手腕もあきらかだが、日本人たちをとりかこむ中国人の側にもさらに想像力を働かせることで、いったんグロテスクをくぐりぬけての、よりフェアな自他の見方が達成されえたのではないか?」
佐伯一麦
男30歳
5 「(引用者注:「渇水」と共に)人物像と文体とが(引用者中略)説得力のある効果を示している。」「人間観は独特で、おのおのの方向にさらに深められてゆくだろう。」
奥泉光
男34歳
5 「プロットの進め方、日本的な神秘思想の説明の仕方が着実で、独自の個性を納得させる。」
清水邦夫
男53歳
4 「文章も人間観ももっとも成熟した作品だが、それだけにかえって――経験深い劇作家の氏にあえていわせてもらうなら――、小説の演劇性とでもいうものの欠落が見えてくる。」
小川洋子
女28歳
4 「せんさいな細部を素直にかさねる文章でひきつけられるが、小説のたくらみのかんどころまで淡彩であるために説得力に欠けてしまう。」
荻野アンナ
女33歳
3 「知的にも感情的にも骨格が確かだが、むしろ意識したおおざっぱさの細部が索然とさせる。」
河林満
男39歳
5 「(引用者注:「ショート・サーキット」と共に)人物像と文体とが(引用者中略)説得力のある効果を示している。」「観察力(引用者中略)は独特で、おのおのの方向にさらに深められてゆくだろう。」
  「数年をへだててこの賞の候補作を読むことになり、それぞれに多様な個性をあらわしているのがめざましかった。」
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他の選考委員
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
古井由吉
河野多恵子
田久保英夫
大庭みな子
黒井千次
吉行淳之介
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選考委員
三浦哲郎男59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「風鳥」を推す 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
9 「私は中国が好きだから興味を持って読んだが、話の面白さは認めるにしても、注文も多かった。」「私はこの作品全体に、作家の心ではなしにいささか鈍い商社マンの神経を感じたにすぎなかった。」
佐伯一麦
男30歳
0  
奥泉光
男34歳
0  
清水邦夫
男53歳
21 「私は(引用者中略)推した。」「会話はもとより、それを支える文章もこれまでとは見違えるような、神経のゆき届いた隙のないものになっている。」「出色の作だと思ったのだが、わずかに及ばなかった。」
小川洋子
女28歳
5 「清潔で透明な作風も印象的であった。」「けれども、死者との交歓を描いた部分に曖昧さが残り、そのために出来のいいエチュードだと思わざるをえなかった。惜しい作品である。」
荻野アンナ
女33歳
0  
河林満
男39歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
日野啓三
丸谷才一
古井由吉
河野多恵子
田久保英夫
大庭みな子
黒井千次
吉行淳之介
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選考委員
日野啓三男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
粘り強さ 総行数30 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
18 「眩暈的仕掛けが次々と書きこまれて、現代中国の一農村が古代の伝説に、超現実の異界に、主人公の意識の深層にと、変容してゆく。」「その手腕はなかなかのものである。」「このようなシュールな小説の最大の難しさである最後の着地も、ほぼうまくいっていると思う。」
佐伯一麦
男30歳
0  
奥泉光
男34歳
0  
清水邦夫
男53歳
0  
小川洋子
女28歳
12 「僅差で受賞できなかった」「幽明の堺に意識を集中して、良い密度を現出した。」「ただ幽界にこのように魅せられていいのか、という根本的な不安も覚えた。」「一篇の小品としては美しく哀切な佳品だが、八〇年代の軽やかさの後に、これからわれわれは新しい現実性をつくり出してゆかねばならないのではないか、と思う。」
荻野アンナ
女33歳
0  
河林満
男39歳
2 「気持よく読んだが、もう一、二作読んでみたい。」
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他の選考委員
大江健三郎
三浦哲郎
丸谷才一
古井由吉
河野多恵子
田久保英夫
大庭みな子
黒井千次
吉行淳之介
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選考委員
丸谷才一男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
小説の功徳 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
24 「われわれの文学の宿題みたいになつてゐるリアリズムからの脱出といふことを、かなりうまくやつてゐる。ごくありふれた商用の旅の記録が、冒険譚や童話の味になつてゆくのはおもしろい趣向で、わたしは小気味よい藝に喝采することになつた。」「どうやら、楽園あるいはユートピアあるいはいつまでもつづく幼年期といふ人類永遠の夢想の哀切さこそ、この物語の主題であるらしい。」
佐伯一麦
男30歳
0  
奥泉光
男34歳
0  
清水邦夫
男53歳
6 「さすがに劇作家として一家を成した人の作だけあつて興趣に富むが、それが人間の研究まで行つてゐるかどうかは疑はしいし、さらに、そんなことなど知つたことかといふ勇ましい作柄でもなささうだ。」
小川洋子
女28歳
4 「清新で哀れ深く、後味がいい。死者と生者の交流のし方がややこしくて、筋がわかりにくいといふ難はあるものの、この才能は属望するに足ると思った。」
荻野アンナ
女33歳
0  
河林満
男39歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
三浦哲郎
日野啓三
古井由吉
河野多恵子
田久保英夫
大庭みな子
黒井千次
吉行淳之介
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選考委員
古井由吉男52歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
感想 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
19 「アプローチのかぎりにおいては、訝りの戦慄に導かれる。人の姿が不可解なままに、よく際立つ。」「ところが、作品の終盤あたりで、主人公は村の内部、「古層」の只中にいるではないか。見えないはずのものが見え、聞えないはずのものが聞え、湖南の奥地が奥美濃の故地につながり、感想がややありきたりになる。この仕舞いを私は取らない。」
佐伯一麦
男30歳
0  
奥泉光
男34歳
5 「宗教の、初期教団についての社会学の筋から読むと、はなはだ興味深い、そして酷い内容の小説であった。」
清水邦夫
男53歳
11 「作者の、自身が長年芝居にかかわることになった由縁へのいまさら深い静かな訝りから発するものではないか、と私は感じた。」「自身をたずねる旅なので、筆致は淡い。一連の作のうちであり、全体を結ぶことは急がないのだろう。候補作として俎上にのせられるのも迷惑そうな作品の顔である。」
小川洋子
女28歳
0  
荻野アンナ
女33歳
0  
河林満
男39歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
河野多恵子
田久保英夫
大庭みな子
黒井千次
吉行淳之介
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選考委員
河野多恵子女64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
最後の選択 総行数34 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
11 「次々に現われ、交錯する、意外な事件のわざとらしい辻褄の合わせ方やミステリーのリアリティの欠如で、破綻している箇所がいくつかある。」「しかし、この作品はなかなか中国を実感させる。」「ある程度には信用できるので、私は最終的にはこれを択んだ。」
佐伯一麦
男30歳
5 「ユーモアの少し手前に微妙にとどまる作風は、作者の成長次第では意外に多くのものを取り込むことも可能なのかもしれない。」
奥泉光
男34歳
5 「少年たちの信仰心の実態も少しは知りたく、また綿密な計算を頼りすぎ、恐らく作者の気づいていない通俗性が生じている。」
清水邦夫
男53歳
2 「主人公の縁者ばなしに、縁者ばなしを超える何かがなかった。」
小川洋子
女28歳
4 「この作者の持ちまえの見事な描写にも拘らず、創造しようとした妖しい世界が少々低迷している。」
荻野アンナ
女33歳
5 「私は最も強く推した。」「作者の才能と実力をあらためて感じたが、票は少かった。」
河林満
男39歳
4 「よい文章で、水と未納金と人間とを巧みな取り合わせで描いてゆく。成功作かと思いつつ読んだが、結末の小学生姉妹の自殺で失望した。」
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他の選考委員
大江健三郎
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
古井由吉
田久保英夫
大庭みな子
黒井千次
吉行淳之介
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選考委員
田久保英夫男62歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
異空間への招き 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
16 「陶淵明の〈桃源郷〉を思わせる土地と、主人公の郷里岐阜の揖斐川に近い山村を重ねたところが、独創的だ。」「この作品のよさは、(引用者中略)現実の様相の下にも、千年以上も前から人が夢み、求めた桃源郷のような異空間が、たえず働きかけてくることに、眼を注いでいる点だ。」「後半ストーリーの展開に追われ、やや長すぎるとは思うが、私はこの作者の果敢な表現への執心にひかれた。」
佐伯一麦
男30歳
0  
奥泉光
男34歳
0  
清水邦夫
男53歳
0  
小川洋子
女28歳
20 「作中では彼ら(引用者注:K君と、一緒に暮す女)が死んでいるとは、ひと言も書いてない。」「これはおそらく作者の意図でもあり、悪くないのだが、しかし、この世界と異界を二重露出するには、何かもう一手、技術的な配慮がいる。」「とは言っても、(引用者中略)作者のこれまで一貫して追ってきた主題(引用者中略)が最もいい形で表現されている。私は「村の名前」と同時受賞と、考えていた」
荻野アンナ
女33歳
0  
河林満
男39歳
0  
  「今回はほとんどの作品が、密度の濃い論議を呼んだ。それだけ一長一短、力が籠っていたのだろう。」
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他の選考委員
大江健三郎
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
古井由吉
河野多恵子
大庭みな子
黒井千次
吉行淳之介
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選考委員
大庭みな子女59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
三作について 総行数27 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
11 「わたしは何度か訪れたことのある中国のべつの部分に関心があり、よい読み手にはなれなかった。しかし、強く推す選者の熱心な支持の言葉を聞いているうちに、なるほどと頷くところもあった。」
佐伯一麦
男30歳
0  
奥泉光
男34歳
0  
清水邦夫
男53歳
10 「候補作の中でいちばん質が高いと思った。」「芝居から小説にとり組んで、独特の世界を描き続け、ある高みに達したように思える清水さんに、今後の展開を期待する気持もある。意見を述べ合いながら、だんだん煮つめていく三度の投票の結果、最初は最高点だったのが、最後の段階で過半数を得なかった。」
小川洋子
女28歳
7 「現代社会の風景の中で、多くの人が思い当るに違いない不可思議に空白な部分に敏感な作家である。この賞に値すると思った。」
荻野アンナ
女33歳
0  
河林満
男39歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
古井由吉
河野多恵子
田久保英夫
黒井千次
吉行淳之介
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選考委員
黒井千次男58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
資質への注目 総行数36 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
19 「わけのわからぬ場所にはいりこみ、その中をうねうねと這い進むような粘りのある筆の運びに貴重な資質は感じられたが、本作でそれが充分に開花しているか否かの判定が難しかった。」「しかし、外国体験を描く小説は新人の作に多いけれど、舞台が中国であるケースは珍しい。」「川の土手をめぐる場面に興味を覚えた。」
佐伯一麦
男30歳
6 「彼(引用者注:主人公の電気工)の内面のドラマが確実に展開する様に手応えを覚える。もう一歩突込めば、新しい地平が見えてくるのではあるまいか。」
奥泉光
男34歳
0  
清水邦夫
男53歳
4 「流浪の芸人兄妹の姿を風土の中にくっきりと描き出すことには成功したが、主人公がなぜ兄妹の消息にそれほど執着するかのモチーフのわかりにくいのが難点である。」
小川洋子
女28歳
3 「死の世界に筆を突き入れ、透明な世界を細心に作り上げようと試みる姿勢に好感を抱いた。」
荻野アンナ
女33歳
4 「男と女が同類の存在に感じられて力が弱く、作品そのものが「スペインの城」のように危うげである。」
河林満
男39歳
0  
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他の選考委員
大江健三郎
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
古井由吉
河野多恵子
田久保英夫
大庭みな子
吉行淳之介
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選考委員
吉行淳之介男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
明晰と曖昧ということ 総行数35 (1行=24字)
候補 評価 行数 評言
辻原登
男44歳
19 「私の頭に浮んでくるのは芒や葦や萱で、それが緑だったり黄色だったり白く立枯れたりして並んでいる。鄙びているという意味ではなく、なかなかスマートで、その眺めがよかった。ユーモラスな点もあちこちにあって、評価できる。」「桃源郷の底によこたわっているらしい『古層の村』というような事柄に、あまり深刻にこだわってしまうと、この作品の評価が曖昧になってきそうだ。」
佐伯一麦
男30歳
0  
奥泉光
男34歳
0  
清水邦夫
男53歳
5 「曖昧なところはなく、今回はとくによかった。しかし、今となっては清水氏の存在は芥川賞候補者の立場をはるかに上まわっている。もっとも、作品自体に不満があった委員も何人かいた。」
小川洋子
女28歳
5 「デリケートで透明で上出来な部分が多い」「しかし、私には最初の「完璧な病室」が一番よかった。」
荻野アンナ
女33歳
0  
河林満
男39歳
0  
  「今回の七篇にとりあえず目を通して、おもわず溜息をついた。共通した特徴として、部分的には上等なのに、全体となるとそのレベルが維持できない。なにが言いたいのか分らなくなってしまう作品もある。」
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他の選考委員
大江健三郎
三浦哲郎
日野啓三
丸谷才一
古井由吉
河野多恵子
田久保英夫
大庭みな子
黒井千次
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受賞者・作品
辻原登男44歳×各選考委員 
「村の名前」
中篇 168
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男55歳
10 「被害意識の奇怪なかたまりが現実世界をこえた物語を首尾一貫させる。才能も手腕もあきらかだが、日本人たちをとりかこむ中国人の側にもさらに想像力を働かせることで、いったんグロテスクをくぐりぬけての、よりフェアな自他の見方が達成されえたのではないか?」
三浦哲郎
男59歳
9 「私は中国が好きだから興味を持って読んだが、話の面白さは認めるにしても、注文も多かった。」「私はこの作品全体に、作家の心ではなしにいささか鈍い商社マンの神経を感じたにすぎなかった。」
日野啓三
男61歳
18 「眩暈的仕掛けが次々と書きこまれて、現代中国の一農村が古代の伝説に、超現実の異界に、主人公の意識の深層にと、変容してゆく。」「その手腕はなかなかのものである。」「このようなシュールな小説の最大の難しさである最後の着地も、ほぼうまくいっていると思う。」
丸谷才一
男64歳
24 「われわれの文学の宿題みたいになつてゐるリアリズムからの脱出といふことを、かなりうまくやつてゐる。ごくありふれた商用の旅の記録が、冒険譚や童話の味になつてゆくのはおもしろい趣向で、わたしは小気味よい藝に喝采することになつた。」「どうやら、楽園あるいはユートピアあるいはいつまでもつづく幼年期といふ人類永遠の夢想の哀切さこそ、この物語の主題であるらしい。」
古井由吉
男52歳
19 「アプローチのかぎりにおいては、訝りの戦慄に導かれる。人の姿が不可解なままに、よく際立つ。」「ところが、作品の終盤あたりで、主人公は村の内部、「古層」の只中にいるではないか。見えないはずのものが見え、聞えないはずのものが聞え、湖南の奥地が奥美濃の故地につながり、感想がややありきたりになる。この仕舞いを私は取らない。」
河野多恵子
女64歳
11 「次々に現われ、交錯する、意外な事件のわざとらしい辻褄の合わせ方やミステリーのリアリティの欠如で、破綻している箇所がいくつかある。」「しかし、この作品はなかなか中国を実感させる。」「ある程度には信用できるので、私は最終的にはこれを択んだ。」
田久保英夫
男62歳
16 「陶淵明の〈桃源郷〉を思わせる土地と、主人公の郷里岐阜の揖斐川に近い山村を重ねたところが、独創的だ。」「この作品のよさは、(引用者中略)現実の様相の下にも、千年以上も前から人が夢み、求めた桃源郷のような異空間が、たえず働きかけてくることに、眼を注いでいる点だ。」「後半ストーリーの展開に追われ、やや長すぎるとは思うが、私はこの作者の果敢な表現への執心にひかれた。」
大庭みな子
女59歳
11 「わたしは何度か訪れたことのある中国のべつの部分に関心があり、よい読み手にはなれなかった。しかし、強く推す選者の熱心な支持の言葉を聞いているうちに、なるほどと頷くところもあった。」
黒井千次
男58歳
19 「わけのわからぬ場所にはいりこみ、その中をうねうねと這い進むような粘りのある筆の運びに貴重な資質は感じられたが、本作でそれが充分に開花しているか否かの判定が難しかった。」「しかし、外国体験を描く小説は新人の作に多いけれど、舞台が中国であるケースは珍しい。」「川の土手をめぐる場面に興味を覚えた。」
吉行淳之介
男66歳
19 「私の頭に浮んでくるのは芒や葦や萱で、それが緑だったり黄色だったり白く立枯れたりして並んでいる。鄙びているという意味ではなく、なかなかスマートで、その眺めがよかった。ユーモラスな点もあちこちにあって、評価できる。」「桃源郷の底によこたわっているらしい『古層の村』というような事柄に、あまり深刻にこだわってしまうと、この作品の評価が曖昧になってきそうだ。」
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他の候補作
佐伯一麦
「ショート・サーキット」
奥泉光
「滝」
清水邦夫
「風鳥」
小川洋子
「冷めない紅茶」
荻野アンナ
「スペインの城」
河林満
「渇水」
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候補者・作品
佐伯一麦男30歳×各選考委員 
「ショート・サーキット」
短篇 91
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男55歳
5 「(引用者注:「渇水」と共に)人物像と文体とが(引用者中略)説得力のある効果を示している。」「人間観は独特で、おのおのの方向にさらに深められてゆくだろう。」
三浦哲郎
男59歳
0  
日野啓三
男61歳
0  
丸谷才一
男64歳
0  
古井由吉
男52歳
0  
河野多恵子
女64歳
5 「ユーモアの少し手前に微妙にとどまる作風は、作者の成長次第では意外に多くのものを取り込むことも可能なのかもしれない。」
田久保英夫
男62歳
0  
大庭みな子
女59歳
0  
黒井千次
男58歳
6 「彼(引用者注:主人公の電気工)の内面のドラマが確実に展開する様に手応えを覚える。もう一歩突込めば、新しい地平が見えてくるのではあるまいか。」
吉行淳之介
男66歳
0  
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他の候補作
辻原登
「村の名前」
奥泉光
「滝」
清水邦夫
「風鳥」
小川洋子
「冷めない紅茶」
荻野アンナ
「スペインの城」
河林満
「渇水」
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候補者・作品
奥泉光男34歳×各選考委員 
「滝」
中篇 196
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男55歳
5 「プロットの進め方、日本的な神秘思想の説明の仕方が着実で、独自の個性を納得させる。」
三浦哲郎
男59歳
0  
日野啓三
男61歳
0  
丸谷才一
男64歳
0  
古井由吉
男52歳
5 「宗教の、初期教団についての社会学の筋から読むと、はなはだ興味深い、そして酷い内容の小説であった。」
河野多恵子
女64歳
5 「少年たちの信仰心の実態も少しは知りたく、また綿密な計算を頼りすぎ、恐らく作者の気づいていない通俗性が生じている。」
田久保英夫
男62歳
0  
大庭みな子
女59歳
0  
黒井千次
男58歳
0  
吉行淳之介
男66歳
0  
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他の候補作
辻原登
「村の名前」
佐伯一麦
「ショート・サーキット」
清水邦夫
「風鳥」
小川洋子
「冷めない紅茶」
荻野アンナ
「スペインの城」
河林満
「渇水」
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候補者・作品
清水邦夫男53歳×各選考委員 
「風鳥」
短篇 74
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男55歳
4 「文章も人間観ももっとも成熟した作品だが、それだけにかえって――経験深い劇作家の氏にあえていわせてもらうなら――、小説の演劇性とでもいうものの欠落が見えてくる。」
三浦哲郎
男59歳
21 「私は(引用者中略)推した。」「会話はもとより、それを支える文章もこれまでとは見違えるような、神経のゆき届いた隙のないものになっている。」「出色の作だと思ったのだが、わずかに及ばなかった。」
日野啓三
男61歳
0  
丸谷才一
男64歳
6 「さすがに劇作家として一家を成した人の作だけあつて興趣に富むが、それが人間の研究まで行つてゐるかどうかは疑はしいし、さらに、そんなことなど知つたことかといふ勇ましい作柄でもなささうだ。」
古井由吉
男52歳
11 「作者の、自身が長年芝居にかかわることになった由縁へのいまさら深い静かな訝りから発するものではないか、と私は感じた。」「自身をたずねる旅なので、筆致は淡い。一連の作のうちであり、全体を結ぶことは急がないのだろう。候補作として俎上にのせられるのも迷惑そうな作品の顔である。」
河野多恵子
女64歳
2 「主人公の縁者ばなしに、縁者ばなしを超える何かがなかった。」
田久保英夫
男62歳
0  
大庭みな子
女59歳
10 「候補作の中でいちばん質が高いと思った。」「芝居から小説にとり組んで、独特の世界を描き続け、ある高みに達したように思える清水さんに、今後の展開を期待する気持もある。意見を述べ合いながら、だんだん煮つめていく三度の投票の結果、最初は最高点だったのが、最後の段階で過半数を得なかった。」
黒井千次
男58歳
4 「流浪の芸人兄妹の姿を風土の中にくっきりと描き出すことには成功したが、主人公がなぜ兄妹の消息にそれほど執着するかのモチーフのわかりにくいのが難点である。」
吉行淳之介
男66歳
5 「曖昧なところはなく、今回はとくによかった。しかし、今となっては清水氏の存在は芥川賞候補者の立場をはるかに上まわっている。もっとも、作品自体に不満があった委員も何人かいた。」
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他の候補作
辻原登
「村の名前」
佐伯一麦
「ショート・サーキット」
奥泉光
「滝」
小川洋子
「冷めない紅茶」
荻野アンナ
「スペインの城」
河林満
「渇水」
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候補者・作品
小川洋子女28歳×各選考委員 
「冷めない紅茶」
短篇 87
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男55歳
4 「せんさいな細部を素直にかさねる文章でひきつけられるが、小説のたくらみのかんどころまで淡彩であるために説得力に欠けてしまう。」
三浦哲郎
男59歳
5 「清潔で透明な作風も印象的であった。」「けれども、死者との交歓を描いた部分に曖昧さが残り、そのために出来のいいエチュードだと思わざるをえなかった。惜しい作品である。」
日野啓三
男61歳
12 「僅差で受賞できなかった」「幽明の堺に意識を集中して、良い密度を現出した。」「ただ幽界にこのように魅せられていいのか、という根本的な不安も覚えた。」「一篇の小品としては美しく哀切な佳品だが、八〇年代の軽やかさの後に、これからわれわれは新しい現実性をつくり出してゆかねばならないのではないか、と思う。」
丸谷才一
男64歳
4 「清新で哀れ深く、後味がいい。死者と生者の交流のし方がややこしくて、筋がわかりにくいといふ難はあるものの、この才能は属望するに足ると思った。」
古井由吉
男52歳
0  
河野多恵子
女64歳
4 「この作者の持ちまえの見事な描写にも拘らず、創造しようとした妖しい世界が少々低迷している。」
田久保英夫
男62歳
20 「作中では彼ら(引用者注:K君と、一緒に暮す女)が死んでいるとは、ひと言も書いてない。」「これはおそらく作者の意図でもあり、悪くないのだが、しかし、この世界と異界を二重露出するには、何かもう一手、技術的な配慮がいる。」「とは言っても、(引用者中略)作者のこれまで一貫して追ってきた主題(引用者中略)が最もいい形で表現されている。私は「村の名前」と同時受賞と、考えていた」
大庭みな子
女59歳
7 「現代社会の風景の中で、多くの人が思い当るに違いない不可思議に空白な部分に敏感な作家である。この賞に値すると思った。」
黒井千次
男58歳
3 「死の世界に筆を突き入れ、透明な世界を細心に作り上げようと試みる姿勢に好感を抱いた。」
吉行淳之介
男66歳
5 「デリケートで透明で上出来な部分が多い」「しかし、私には最初の「完璧な病室」が一番よかった。」
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他の候補作
辻原登
「村の名前」
佐伯一麦
「ショート・サーキット」
奥泉光
「滝」
清水邦夫
「風鳥」
荻野アンナ
「スペインの城」
河林満
「渇水」
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候補者・作品
荻野アンナ女33歳×各選考委員 
「スペインの城」
短篇 122
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男55歳
3 「知的にも感情的にも骨格が確かだが、むしろ意識したおおざっぱさの細部が索然とさせる。」
三浦哲郎
男59歳
0  
日野啓三
男61歳
0  
丸谷才一
男64歳
0  
古井由吉
男52歳
0  
河野多恵子
女64歳
5 「私は最も強く推した。」「作者の才能と実力をあらためて感じたが、票は少かった。」
田久保英夫
男62歳
0  
大庭みな子
女59歳
0  
黒井千次
男58歳
4 「男と女が同類の存在に感じられて力が弱く、作品そのものが「スペインの城」のように危うげである。」
吉行淳之介
男66歳
0  
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他の候補作
辻原登
「村の名前」
佐伯一麦
「ショート・サーキット」
奥泉光
「滝」
清水邦夫
「風鳥」
小川洋子
「冷めない紅茶」
河林満
「渇水」
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候補者・作品
河林満男39歳×各選考委員 
「渇水」
短篇 84
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
大江健三郎
男55歳
5 「(引用者注:「ショート・サーキット」と共に)人物像と文体とが(引用者中略)説得力のある効果を示している。」「観察力(引用者中略)は独特で、おのおのの方向にさらに深められてゆくだろう。」
三浦哲郎
男59歳
0  
日野啓三
男61歳
2 「気持よく読んだが、もう一、二作読んでみたい。」
丸谷才一
男64歳
0  
古井由吉
男52歳
0  
河野多恵子
女64歳
4 「よい文章で、水と未納金と人間とを巧みな取り合わせで描いてゆく。成功作かと思いつつ読んだが、結末の小学生姉妹の自殺で失望した。」
田久保英夫
男62歳
0  
大庭みな子
女59歳
0  
黒井千次
男58歳
0  
吉行淳之介
男66歳
0  
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他の候補作
辻原登
「村の名前」
佐伯一麦
「ショート・サーキット」
奥泉光
「滝」
清水邦夫
「風鳥」
小川洋子
「冷めない紅茶」
荻野アンナ
「スペインの城」
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