芥川賞のすべて・のようなもの
第143回
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平成22年/2010年上半期
(平成22年/2010年7月15日決定発表/『文藝春秋』平成22年/2010年9月号選評掲載)
選考委員  小川洋子
女48歳
黒井千次
男78歳
村上龍
男58歳
池澤夏樹
男65歳
川上弘美
女52歳
石原慎太郎
男77歳
山田詠美
女51歳
高樹のぶ子
女64歳
宮本輝
男63歳
選評総行数  199 84 67 196 88 64 81 88 76
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
赤染晶子 「乙女の密告」
115
女35歳
163 32 51 186 23 19 14 24 32
鹿島田真希 「その暁のぬるさ」
120
女33歳
8 18 0 6 16 0 11 47 12
柴崎友香 「ハルツームにわたしはいない」
64
女36歳
3 8 0 0 33 0 12 0 14
シリン・ネザマフィ 「拍動」
129
女30歳
9 10 0 0 8 21 17 11 10
広小路尚祈 「うちに帰ろう」
125
男38歳
5 0 5 0 10 27 14 6 4
穂田川洋山 「自由高さH」
116
男35歳
10 16 0 5 9 0 13 0 5
                 
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『文藝春秋』平成22年/2010年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
小川洋子女48歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
人形とストップウォッチ 総行数199 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
赤染晶子
女35歳
163 「アンネにとっての密告と、女子大生の間の告げ口では恐怖のレベルが違いすぎる、という意見もあった。そう、確かにその通りだと思う。ただ、赤染さんはレベルの違う恐怖の間をつなぐ、細い糸を丹念にたどっている。」「目の前の人物を最も的確に表現できるものとして、人形とストップウォッチを選ぶ赤染さんは、社会の貼るレッテルに惑わされず、人間の真実を描写できる作家であろう。」
鹿島田真希
女33歳
8 「『その暁のぬるさ』の語り手は、徹底的に自意識の中に閉じこもる。外の世界はすべて、彼女の回路で処理された残骸として描写されてゆく。ここまで頑なに自意識過剰になれるのならば、それはもう立派と言えるだろう。」
柴崎友香
女36歳
3 「柴崎さんの書き進む道は一貫している。その迷いのなさは貴重である。」
シリン・ネザマフィ
女30歳
9 「じっくり腰を据えて通訳の視点で状況を描写してゆけば、『拍動』はもっと深みのある小説になったはずだ。」
広小路尚祈
男38歳
5 「主人公はピント外れの男だ。その外れ具合にユーモアを感じられるかどうかが、分かれ道になった。」
穂田川洋山
男35歳
10 「自由高さ、の意味を知った時、その秘密めいた香りにうっとりしてしまった。小さなバネの中にもちゃんと世界があり、書かれるべき物語が隠されている。穂田川さんは人間との関係ではなく、物へのこだわりから立ち現れてくる何かを追い求めている。その方向は間違っていないと思う。」
  「最初の投票から『乙女の密告』が最も多くの点数を集め、その流れのまま受賞作と決まったのだから、結果だけ見れば穏便な選考会だったと言えるのかもしれないが、実際、議論の場ではかなり熱い言葉が行き交った。」
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他の選考委員
黒井千次
村上龍
池澤夏樹
川上弘美
石原慎太郎
山田詠美
高樹のぶ子
宮本輝
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選考委員
黒井千次男78歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
乙女の試み 総行数84 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
赤染晶子
女35歳
32 「構えの大きさとその中で話を展開しようとする姿勢に好感を抱いた。」「意図がすべてうまく実現しているとは限らず、不足の部分も残りはするが、しかしこの構築の試みには剛直とでも呼べそうな力がこもっている。」
鹿島田真希
女33歳
18 「話は共に暮していたらしい愛する男性を失った女性保育士の心情を追う形で進められるが、当の男性の輪郭がほとんど描かれず、なぜ主人公の女のもとから姿を消したのかも書かれずに全く空白のままであるため、そこに聖なるものに近い雰囲気が溜められていくところは面白い。ただ、女主人公の抱える内面と周囲の同僚保育士達の振舞いとの間に落差があり、人の動きが鈍いような印象を受けた。」
柴崎友香
女36歳
8 「東京と大阪の違いや住む土地の感触の描き方は面白くても、中心を欠いて力が集中せぬ形に終ったのは残念だった。」
シリン・ネザマフィ
女30歳
10 「人物の描き方が平坦に過ぎる。」「小説の人物は、特に語り手の主人公は、もっと揺れて動かねばなるまい。」
広小路尚祈
男38歳
0  
穂田川洋山
男35歳
16 「物に対するこだわりの強烈さは間違いなく伝わってくるし、そこに大切な何かが埋められているのではないかと想像されるが、それと人間の関係がはっきりしない。重量のあるごつごつと固いものを手渡されたという感触は伝わっても、それが何であるかがわからぬままでは作品は読む者に届かない。」
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他の選考委員
小川洋子
村上龍
池澤夏樹
川上弘美
石原慎太郎
山田詠美
高樹のぶ子
宮本輝
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選考委員
村上龍男58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
選評 総行数67 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
赤染晶子
女35歳
51 「わたしは(引用者中略)推さなかった。題材そのものが苦手ということの他に、物語の核となる「ユダヤ人問題」の取り上げ方について違和感を持ったからだった。」「人種差別は絶対的な悪だが、悲しいことに誰もが密告者になり得るという真実は、もっと緻密に、そして抑制して書かなければいけないと思う。」
鹿島田真希
女33歳
0  
柴崎友香
女36歳
0  
シリン・ネザマフィ
女30歳
0  
広小路尚祈
男38歳
5 「中年男の生きにくさを描いていて好感を持ったが、好感だけで受賞作として推すことはできない。」
穂田川洋山
男35歳
0  
  「全体に言えることだが、小説の強度が足りない。しかし、ダイナミックな変化が起こらない時代状況では当然のことなのかも知れない。ダイナミズムのない社会では洗練だけが進み、小説の誕生に必要な「亀裂」が失われる。」
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他の選考委員
小川洋子
黒井千次
池澤夏樹
川上弘美
石原慎太郎
山田詠美
高樹のぶ子
宮本輝
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選考委員
池澤夏樹男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
ロマンチックではなく尊厳の問題 総行数196 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
赤染晶子
女35歳
186 「賑やかなエピソードが次々に、短いセンテンスを連ねたアレグロの文体に乗せて届けられる。それによって読む方の謎はいよいよ深まり、最後の謎解きへと収斂する。」「かくも重い主題をかくも軽い枠に盛り込んだ作者の伎倆は尋常でない。タイトル一つを取っても、「乙女」という軽い非現実的な言葉に「密告」という重い言葉をつないで訴えかけ、しかも内容を見事に要約している。このような力ある知的な作家の誕生を喜びたい。」
鹿島田真希
女33歳
6 「力作であることはわかったのだが、残念ながらぼくは王朝女房文学の文体を受け付けない。」
柴崎友香
女36歳
0  
シリン・ネザマフィ
女30歳
0  
広小路尚祈
男38歳
0  
穂田川洋山
男35歳
5 「ひたすらモノへの信頼を書いておもしろかったけれど、人の側がいかにも薄かった。」
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他の選考委員
小川洋子
黒井千次
村上龍
川上弘美
石原慎太郎
山田詠美
高樹のぶ子
宮本輝
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選考委員
川上弘美女52歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
切羽 総行数88 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
赤染晶子
女35歳
23 「全体にただよう諧謔が、とても好きです。」「アイデンティティーを否定しなければアンネが生きてゆけなかった、という(引用者中略)その苦しみと、「乙女」であることについての主人公のアイデンティファイのしかたのつながりにかんしては、わたしはほんの少しの危惧を感じました。「乙女」という言葉だけで、「乙女性」を表現しているから、ではないでしょうか。」
鹿島田真希
女33歳
16 「わたしは一番に推しました。」「古代現代訳調の文体が、「女」という身体と精神を持つことのあれこれ、についての語りに、客観性を与えているのだと思います。考えて書いている。そしてまた、考えすぎないで、書いている。両方なのが、いいのです。今まで見たことのない驚きが、生まれ得ていると思いました。」
柴崎友香
女36歳
33 「「好感の持てない人たち」は、たんなる「いやな人」なのではありません。わたしたちがいつも知っているあの人、この人と、小説の中のこの人たちは、実のところとても似ているのではないかと、この小説はわたしに感じさせたのです。大仰な表現ではない、静かな静かな表現でもって。こわい小説です。ところどころに出てしまう荒っぽい書きようがなければ、推したかった小説です。」
シリン・ネザマフィ
女30歳
8 「「山本先生」のきもち悪さに注目しました。」「(引用者注:「うちに帰ろう」「自由高さH」と共に)足りないのは、「やむにやまれず、書いてしまうのだ。誰が何と言っても」という切羽つまったなにか、なのではないでしょうか。」
広小路尚祈
男38歳
10 「主夫としてのことこまかな悩みの書きぶりが、とってもよかった。」「(引用者注:「自由高さH」「拍動」と共に)足りないのは、「やむにやまれず、書いてしまうのだ。誰が何と言っても」という切羽つまったなにか、なのではないでしょうか。」
穂田川洋山
男35歳
9 「きもちよくけむにまかれました。」「(引用者注:「うちに帰ろう」「拍動」と共に)足りないのは、「やむにやまれず、書いてしまうのだ。誰が何と言っても」という切羽つまったなにか、なのではないでしょうか。」
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他の選考委員
小川洋子
黒井千次
村上龍
池澤夏樹
石原慎太郎
山田詠美
高樹のぶ子
宮本輝
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選考委員
石原慎太郎男77歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
現代文学の衰弱 総行数64 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
赤染晶子
女35歳
19 「今日の日本においてアンネなる少女の悲しい生涯がどれほどの絶対性を持つのかは知らぬが、所詮ただ技巧的人工的な作品でしかない。こんな作品を読んで一体誰が、己の人生に反映して、いかなる感動を覚えるものだろうか。アクチュアルなものはどこにも無い。」「日本の現代文学の衰弱を表象する作品の一つとしか思えない。」
鹿島田真希
女33歳
0  
柴崎友香
女36歳
0  
シリン・ネザマフィ
女30歳
21 「部分的には、こなれていない表現もあるが、作者が提示している問題は現代における文学にとっての新しい主題ともいえる。日本における現代文学のこれからの一つの方向性を暗示していると思う。」「私はこの二つの作品(引用者注:「うちに帰ろう」と「拍動」)を当選作として推したものだ。」
広小路尚祈
男38歳
27 「この主人公の心得は太宰治的な滅入り方ではなしに、当人は居直り割り切っている潔よさまであって、おそらく現代ではある種の強い共感さえ呼ぶのではなかろうかと思い推薦したものだったが。」「私はこの二つの作品(引用者注:「うちに帰ろう」と「拍動」)を当選作として推したものだ。」
穂田川洋山
男35歳
0  
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他の選考委員
小川洋子
黒井千次
村上龍
池澤夏樹
川上弘美
山田詠美
高樹のぶ子
宮本輝
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選考委員
山田詠美女51歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「選評」 総行数81 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
赤染晶子
女35歳
14 「久し振りに、言葉が一番! の小説を読んだ気持。机上の空論ならぬ机上の暴論が、あちこちに出現して、おもしろくって仕方なかった。小説の世界だけに存在するユーモアは稀少価値。」
鹿島田真希
女33歳
11 「この作品の素敵なところは、主人公の大いなる思い込みの愉快さ。」「ただ、古典作品の題名は出した方が良かったように思う。その方が下世話で、格調高さを笑える。」
柴崎友香
女36歳
12 「自分の立ち位置が、きちんと定まっている作者だと感じた。」「そして、目が良いと思った。それらを有効なツールとして街を移動している。けれども、仲間内の会話が、そこに寄り添っていない気がする。結果、不揃いな印象が残る。」
シリン・ネザマフィ
女30歳
17 「描写が、いちいちくど過ぎる。」「それと、このテーマを扱うにしては、登場人物の誰もが、あまりにナイーヴ(英語本来の意味で)。」
広小路尚祈
男38歳
14 「今、話題のイクメンくんががんばるハートウォーミングなちょっと良い話だが、他愛なさ過ぎる。「オール讀物」の育児小説特集に載れば、白一点で目立つかもしれない。」
穂田川洋山
男35歳
13 「読み進めても、読み進めても、惹き付けられるところがない。読者に親切であれ、なんて、もちろん言うつもりはない。けれども、渋柿にもばね業界にも縁のない私のような人間にも、最低限の興味は持たせて欲しかった。」
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他の選考委員
小川洋子
黒井千次
村上龍
池澤夏樹
川上弘美
石原慎太郎
高樹のぶ子
宮本輝
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選考委員
高樹のぶ子女64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「重層小説二編」 総行数88 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
赤染晶子
女35歳
24 「知的でテクニカルな才能を感じさせるけれど、生死のかかったアンネの世界に比べて、女の園の出来事が趣味的遊戯的で、違和感がぬぐえなかった。頭で考えられ、嵌め込まれた二つの世界だが、差別が発生する本質は同じだ、という他の委員の意見が印象に残った。」
鹿島田真希
女33歳
47 「意識的に選び取られた文体が中身に相応しく、今回の候補作の中では一番良かった。」「文体に新奇なものを求めたのではなく、この現実を表現するために、是非とも女房文学のテイストが必要だったのだと思う。」「私達が女房文学を雅と感じるのは、流れるような仮名和文の韻律があるからで、その仮装束をあえて纏わせたこの作品を私は強く推したが、あと一歩及ばなかった。」
柴崎友香
女36歳
0  
シリン・ネザマフィ
女30歳
11 「前回の内戦と恋愛のテーマよりずっと良い作品になっている。ただ、異文化の問題をテーマにするなら、脳死状態が家族に伝えられた後に起きる問題が、描かれるべきだろう。」
広小路尚祈
男38歳
6 「女たちには叶わない、という結論の裏に、何か邪悪な棘か、絶対的悲哀のようなものが欲しかった。」
穂田川洋山
男35歳
0  
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他の選考委員
小川洋子
黒井千次
村上龍
池澤夏樹
川上弘美
石原慎太郎
山田詠美
宮本輝
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選考委員
宮本輝男63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
戯画化の是非 総行数76 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
赤染晶子
女35歳
32 「巧みに戯画化されたユーモア小説として読んだが、多分にデフォルメされているのであろう女子大生たちやドイツ人教授が展開する一種のドタバタと、アンネ・フランクという実在した十四歳の少女とをリンクさせる手法を支持できなかった。」「ついに収容所で死んだ十四歳のアンネの居場所を密告したのが、ほかならぬアンネ自身であったという小説には、私はその造りが正しいか正しくないかの次元とは別の強い抵抗を感じて授賞に賛同しなかった。」
鹿島田真希
女33歳
12 「かつての王朝における女房の繰りごとを記した日記文学の上手な踏襲の成果だという意見を認めるとしても、そこにいったい何の意味があるのか。」「私は鹿島田氏の前作に大きな成長を見ただけに、今作を推すことはできなかった。」
柴崎友香
女36歳
14 「場所と人間が変わっただけで、これまでの氏の作品から一歩二歩と踏み出しているものはないように思われた。」「ハルツームという場所が主人公にとって何であるのかさえ、最後までわからなかった。」
シリン・ネザマフィ
女30歳
10 「小説として書かれてある筋書以上のものが、読後、何も立ちあがってこない。読んでいくうちに私は、なぜか作者の「上から目線」のようなものを感じた。」
広小路尚祈
男38歳
4 「スノビッシュなものを行間から漂わせていて、その臭みが鼻についた」
穂田川洋山
男35歳
5 「もったいぶった文章で何を書こうとしたのか首をかしげざるを得なかった。」
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他の選考委員
小川洋子
黒井千次
村上龍
池澤夏樹
川上弘美
石原慎太郎
山田詠美
高樹のぶ子
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受賞者・作品
赤染晶子女35歳×各選考委員 
「乙女の密告」
短篇 115
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女48歳
163 「アンネにとっての密告と、女子大生の間の告げ口では恐怖のレベルが違いすぎる、という意見もあった。そう、確かにその通りだと思う。ただ、赤染さんはレベルの違う恐怖の間をつなぐ、細い糸を丹念にたどっている。」「目の前の人物を最も的確に表現できるものとして、人形とストップウォッチを選ぶ赤染さんは、社会の貼るレッテルに惑わされず、人間の真実を描写できる作家であろう。」
黒井千次
男78歳
32 「構えの大きさとその中で話を展開しようとする姿勢に好感を抱いた。」「意図がすべてうまく実現しているとは限らず、不足の部分も残りはするが、しかしこの構築の試みには剛直とでも呼べそうな力がこもっている。」
村上龍
男58歳
51 「わたしは(引用者中略)推さなかった。題材そのものが苦手ということの他に、物語の核となる「ユダヤ人問題」の取り上げ方について違和感を持ったからだった。」「人種差別は絶対的な悪だが、悲しいことに誰もが密告者になり得るという真実は、もっと緻密に、そして抑制して書かなければいけないと思う。」
池澤夏樹
男65歳
186 「賑やかなエピソードが次々に、短いセンテンスを連ねたアレグロの文体に乗せて届けられる。それによって読む方の謎はいよいよ深まり、最後の謎解きへと収斂する。」「かくも重い主題をかくも軽い枠に盛り込んだ作者の伎倆は尋常でない。タイトル一つを取っても、「乙女」という軽い非現実的な言葉に「密告」という重い言葉をつないで訴えかけ、しかも内容を見事に要約している。このような力ある知的な作家の誕生を喜びたい。」
川上弘美
女52歳
23 「全体にただよう諧謔が、とても好きです。」「アイデンティティーを否定しなければアンネが生きてゆけなかった、という(引用者中略)その苦しみと、「乙女」であることについての主人公のアイデンティファイのしかたのつながりにかんしては、わたしはほんの少しの危惧を感じました。「乙女」という言葉だけで、「乙女性」を表現しているから、ではないでしょうか。」
石原慎太郎
男77歳
19 「今日の日本においてアンネなる少女の悲しい生涯がどれほどの絶対性を持つのかは知らぬが、所詮ただ技巧的人工的な作品でしかない。こんな作品を読んで一体誰が、己の人生に反映して、いかなる感動を覚えるものだろうか。アクチュアルなものはどこにも無い。」「日本の現代文学の衰弱を表象する作品の一つとしか思えない。」
山田詠美
女51歳
14 「久し振りに、言葉が一番! の小説を読んだ気持。机上の空論ならぬ机上の暴論が、あちこちに出現して、おもしろくって仕方なかった。小説の世界だけに存在するユーモアは稀少価値。」
高樹のぶ子
女64歳
24 「知的でテクニカルな才能を感じさせるけれど、生死のかかったアンネの世界に比べて、女の園の出来事が趣味的遊戯的で、違和感がぬぐえなかった。頭で考えられ、嵌め込まれた二つの世界だが、差別が発生する本質は同じだ、という他の委員の意見が印象に残った。」
宮本輝
男63歳
32 「巧みに戯画化されたユーモア小説として読んだが、多分にデフォルメされているのであろう女子大生たちやドイツ人教授が展開する一種のドタバタと、アンネ・フランクという実在した十四歳の少女とをリンクさせる手法を支持できなかった。」「ついに収容所で死んだ十四歳のアンネの居場所を密告したのが、ほかならぬアンネ自身であったという小説には、私はその造りが正しいか正しくないかの次元とは別の強い抵抗を感じて授賞に賛同しなかった。」
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他の候補作
鹿島田真希
「その暁のぬるさ」
柴崎友香
「ハルツームにわたしはいない」
シリン・ネザマフィ
「拍動」
広小路尚祈
「うちに帰ろう」
穂田川洋山
「自由高さH」
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候補者・作品
鹿島田真希女33歳×各選考委員 
「その暁のぬるさ」
短篇 120
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女48歳
8 「『その暁のぬるさ』の語り手は、徹底的に自意識の中に閉じこもる。外の世界はすべて、彼女の回路で処理された残骸として描写されてゆく。ここまで頑なに自意識過剰になれるのならば、それはもう立派と言えるだろう。」
黒井千次
男78歳
18 「話は共に暮していたらしい愛する男性を失った女性保育士の心情を追う形で進められるが、当の男性の輪郭がほとんど描かれず、なぜ主人公の女のもとから姿を消したのかも書かれずに全く空白のままであるため、そこに聖なるものに近い雰囲気が溜められていくところは面白い。ただ、女主人公の抱える内面と周囲の同僚保育士達の振舞いとの間に落差があり、人の動きが鈍いような印象を受けた。」
村上龍
男58歳
0  
池澤夏樹
男65歳
6 「力作であることはわかったのだが、残念ながらぼくは王朝女房文学の文体を受け付けない。」
川上弘美
女52歳
16 「わたしは一番に推しました。」「古代現代訳調の文体が、「女」という身体と精神を持つことのあれこれ、についての語りに、客観性を与えているのだと思います。考えて書いている。そしてまた、考えすぎないで、書いている。両方なのが、いいのです。今まで見たことのない驚きが、生まれ得ていると思いました。」
石原慎太郎
男77歳
0  
山田詠美
女51歳
11 「この作品の素敵なところは、主人公の大いなる思い込みの愉快さ。」「ただ、古典作品の題名は出した方が良かったように思う。その方が下世話で、格調高さを笑える。」
高樹のぶ子
女64歳
47 「意識的に選び取られた文体が中身に相応しく、今回の候補作の中では一番良かった。」「文体に新奇なものを求めたのではなく、この現実を表現するために、是非とも女房文学のテイストが必要だったのだと思う。」「私達が女房文学を雅と感じるのは、流れるような仮名和文の韻律があるからで、その仮装束をあえて纏わせたこの作品を私は強く推したが、あと一歩及ばなかった。」
宮本輝
男63歳
12 「かつての王朝における女房の繰りごとを記した日記文学の上手な踏襲の成果だという意見を認めるとしても、そこにいったい何の意味があるのか。」「私は鹿島田氏の前作に大きな成長を見ただけに、今作を推すことはできなかった。」
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他の候補作
赤染晶子
「乙女の密告」
柴崎友香
「ハルツームにわたしはいない」
シリン・ネザマフィ
「拍動」
広小路尚祈
「うちに帰ろう」
穂田川洋山
「自由高さH」
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候補者・作品
柴崎友香女36歳×各選考委員 
「ハルツームにわたしはいない」
短篇 64
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女48歳
3 「柴崎さんの書き進む道は一貫している。その迷いのなさは貴重である。」
黒井千次
男78歳
8 「東京と大阪の違いや住む土地の感触の描き方は面白くても、中心を欠いて力が集中せぬ形に終ったのは残念だった。」
村上龍
男58歳
0  
池澤夏樹
男65歳
0  
川上弘美
女52歳
33 「「好感の持てない人たち」は、たんなる「いやな人」なのではありません。わたしたちがいつも知っているあの人、この人と、小説の中のこの人たちは、実のところとても似ているのではないかと、この小説はわたしに感じさせたのです。大仰な表現ではない、静かな静かな表現でもって。こわい小説です。ところどころに出てしまう荒っぽい書きようがなければ、推したかった小説です。」
石原慎太郎
男77歳
0  
山田詠美
女51歳
12 「自分の立ち位置が、きちんと定まっている作者だと感じた。」「そして、目が良いと思った。それらを有効なツールとして街を移動している。けれども、仲間内の会話が、そこに寄り添っていない気がする。結果、不揃いな印象が残る。」
高樹のぶ子
女64歳
0  
宮本輝
男63歳
14 「場所と人間が変わっただけで、これまでの氏の作品から一歩二歩と踏み出しているものはないように思われた。」「ハルツームという場所が主人公にとって何であるのかさえ、最後までわからなかった。」
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他の候補作
赤染晶子
「乙女の密告」
鹿島田真希
「その暁のぬるさ」
シリン・ネザマフィ
「拍動」
広小路尚祈
「うちに帰ろう」
穂田川洋山
「自由高さH」
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候補者・作品
シリン・ネザマフィ女30歳×各選考委員 
「拍動」
短篇 129
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女48歳
9 「じっくり腰を据えて通訳の視点で状況を描写してゆけば、『拍動』はもっと深みのある小説になったはずだ。」
黒井千次
男78歳
10 「人物の描き方が平坦に過ぎる。」「小説の人物は、特に語り手の主人公は、もっと揺れて動かねばなるまい。」
村上龍
男58歳
0  
池澤夏樹
男65歳
0  
川上弘美
女52歳
8 「「山本先生」のきもち悪さに注目しました。」「(引用者注:「うちに帰ろう」「自由高さH」と共に)足りないのは、「やむにやまれず、書いてしまうのだ。誰が何と言っても」という切羽つまったなにか、なのではないでしょうか。」
石原慎太郎
男77歳
21 「部分的には、こなれていない表現もあるが、作者が提示している問題は現代における文学にとっての新しい主題ともいえる。日本における現代文学のこれからの一つの方向性を暗示していると思う。」「私はこの二つの作品(引用者注:「うちに帰ろう」と「拍動」)を当選作として推したものだ。」
山田詠美
女51歳
17 「描写が、いちいちくど過ぎる。」「それと、このテーマを扱うにしては、登場人物の誰もが、あまりにナイーヴ(英語本来の意味で)。」
高樹のぶ子
女64歳
11 「前回の内戦と恋愛のテーマよりずっと良い作品になっている。ただ、異文化の問題をテーマにするなら、脳死状態が家族に伝えられた後に起きる問題が、描かれるべきだろう。」
宮本輝
男63歳
10 「小説として書かれてある筋書以上のものが、読後、何も立ちあがってこない。読んでいくうちに私は、なぜか作者の「上から目線」のようなものを感じた。」
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他の候補作
赤染晶子
「乙女の密告」
鹿島田真希
「その暁のぬるさ」
柴崎友香
「ハルツームにわたしはいない」
広小路尚祈
「うちに帰ろう」
穂田川洋山
「自由高さH」
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候補者・作品
広小路尚祈男38歳×各選考委員 
「うちに帰ろう」
短篇 125
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女48歳
5 「主人公はピント外れの男だ。その外れ具合にユーモアを感じられるかどうかが、分かれ道になった。」
黒井千次
男78歳
0  
村上龍
男58歳
5 「中年男の生きにくさを描いていて好感を持ったが、好感だけで受賞作として推すことはできない。」
池澤夏樹
男65歳
0  
川上弘美
女52歳
10 「主夫としてのことこまかな悩みの書きぶりが、とってもよかった。」「(引用者注:「自由高さH」「拍動」と共に)足りないのは、「やむにやまれず、書いてしまうのだ。誰が何と言っても」という切羽つまったなにか、なのではないでしょうか。」
石原慎太郎
男77歳
27 「この主人公の心得は太宰治的な滅入り方ではなしに、当人は居直り割り切っている潔よさまであって、おそらく現代ではある種の強い共感さえ呼ぶのではなかろうかと思い推薦したものだったが。」「私はこの二つの作品(引用者注:「うちに帰ろう」と「拍動」)を当選作として推したものだ。」
山田詠美
女51歳
14 「今、話題のイクメンくんががんばるハートウォーミングなちょっと良い話だが、他愛なさ過ぎる。「オール讀物」の育児小説特集に載れば、白一点で目立つかもしれない。」
高樹のぶ子
女64歳
6 「女たちには叶わない、という結論の裏に、何か邪悪な棘か、絶対的悲哀のようなものが欲しかった。」
宮本輝
男63歳
4 「スノビッシュなものを行間から漂わせていて、その臭みが鼻についた」
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他の候補作
赤染晶子
「乙女の密告」
鹿島田真希
「その暁のぬるさ」
柴崎友香
「ハルツームにわたしはいない」
シリン・ネザマフィ
「拍動」
穂田川洋山
「自由高さH」
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候補者・作品
穂田川洋山男35歳×各選考委員 
「自由高さH」
短篇 116
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
小川洋子
女48歳
10 「自由高さ、の意味を知った時、その秘密めいた香りにうっとりしてしまった。小さなバネの中にもちゃんと世界があり、書かれるべき物語が隠されている。穂田川さんは人間との関係ではなく、物へのこだわりから立ち現れてくる何かを追い求めている。その方向は間違っていないと思う。」
黒井千次
男78歳
16 「物に対するこだわりの強烈さは間違いなく伝わってくるし、そこに大切な何かが埋められているのではないかと想像されるが、それと人間の関係がはっきりしない。重量のあるごつごつと固いものを手渡されたという感触は伝わっても、それが何であるかがわからぬままでは作品は読む者に届かない。」
村上龍
男58歳
0  
池澤夏樹
男65歳
5 「ひたすらモノへの信頼を書いておもしろかったけれど、人の側がいかにも薄かった。」
川上弘美
女52歳
9 「きもちよくけむにまかれました。」「(引用者注:「うちに帰ろう」「拍動」と共に)足りないのは、「やむにやまれず、書いてしまうのだ。誰が何と言っても」という切羽つまったなにか、なのではないでしょうか。」
石原慎太郎
男77歳
0  
山田詠美
女51歳
13 「読み進めても、読み進めても、惹き付けられるところがない。読者に親切であれ、なんて、もちろん言うつもりはない。けれども、渋柿にもばね業界にも縁のない私のような人間にも、最低限の興味は持たせて欲しかった。」
高樹のぶ子
女64歳
0  
宮本輝
男63歳
5 「もったいぶった文章で何を書こうとしたのか首をかしげざるを得なかった。」
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他の候補作
赤染晶子
「乙女の密告」
鹿島田真希
「その暁のぬるさ」
柴崎友香
「ハルツームにわたしはいない」
シリン・ネザマフィ
「拍動」
広小路尚祈
「うちに帰ろう」
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