芥川賞のすべて・のようなもの
第148回
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平成24年/2012年下半期
(平成25年/2013年1月16日決定発表/『文藝春秋』平成25年/2013年3月号選評掲載)
選考委員  高樹のぶ子
女66歳
小川洋子
女50歳
宮本輝
男65歳
山田詠美
女53歳
川上弘美
女54歳
奥泉光
男56歳
堀江敏幸
男49歳
村上龍
男60歳
島田雅彦
男51歳
選評総行数  90 90 89 88 91 100 135 64 104
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
黒田夏子 「abさんご」
94
女75歳
62 27 37 21 19 52 37 54 32
小野正嗣 「獅子渡り鼻」
213
男42歳
13 13 15 16 44 18 27 10 15
北野道夫 「関東平野」
112
男28歳
6 15 16 22 11 11 26 0 26
高尾長良 「肉骨茶」
116
女20歳
9 19 11 19 9 10 21 0 14
舞城王太郎 「美味しいシャワーヘッド」
110
不明39歳
0 16 10 10 13 11 24 0 17
        欠席
書面回答
       
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『文藝春秋』平成25年/2013年3月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
高樹のぶ子女66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
言葉の解体と再構築 総行数90 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
黒田夏子
女75歳
62 「苦労して読み終えたとき、a=1、b=2という等価な意味交換ではなく、a=アバウト1、b=アバウト2、という、従来からの価値観では曖昧さと誤解を生むとして否定されてきた授受が、逆に日本語の豊穣さに繋がることを発見させてもくれる。」「これはテーマと冒険心と、長年にわたる大和言葉の研鑽が作り出した奇蹟の一作」
小野正嗣
男42歳
13 「限られた土地をめぐる閉鎖的な人間たちと宿痾のような出来事は、濃密な匂いを発している。」「その完成度を認めるも、この虚構世界が現実の我々とどう繋がっているのかが解らない。」
北野道夫
男28歳
6 「「故郷は失われてしまったのか」という壮大なテーマが空回りしている印象だった。」
高尾長良
女20歳
9 「限られた登場人物と舞台設定、人格をひっくり返して見せる物語性、そして何より「食べる」ということを通して表現される身体感覚は、作者が将来、強く魅力的な作品を生み出すだろう予感を与えた。」
舞城王太郎
不明39歳
0  
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他の選考委員
小川洋子
宮本輝
山田詠美
川上弘美
奥泉光
堀江敏幸
村上龍
島田雅彦
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選考委員
小川洋子女50歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
語っているのは誰なのか 総行数90 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
黒田夏子
女75歳
27 「身についた言葉を一旦忘れて、あるいは忘れた振りをして書く、とは何と不思議な試みだろうか。たとえ語られる意味は平凡でも、言葉の連なり方や音の響きだけで小説は成り立ってしまうと、『abさんご』は証明している。この小説を読むことは、私にとって死者の語りに身を委ねるのに等しかった。」
小野正嗣
男42歳
13 「八百万円の外車を傷つけるのに十円玉では釣り合わない、やっぱり五百円玉でなければ、と考えるような瑞々しい感性と、兄にイルカを会わせられなかったのは自分のせいだ、と信じ込む優しさを持った尊のそばに、私はただ黙って寄り添っていたかった。」
北野道夫
男28歳
15 「もどかしかったのは、理不尽な世界が描かれているにもかかわらず、袋小路に追い込まれてゆくような息苦しさ、空恐ろしさをあまり感じなかった点だ。一シーン一シーンはどこかよそよそしく、初対面の人から聞かされる夢の話のごとく平板に通り過ぎてゆく。」
高尾長良
女20歳
19 「主人公のカロリー消費への執念は当然奇妙なのだが、やがてゾーイーの狂気が、そんなものを易々と呑み込んでゆく様が面白い。」「切実さを抱えた人間の滑稽さが、描き出されている。その点はもっと高く評価されるべきだったと思う。」
舞城王太郎
不明39歳
16 「この果てにどんな歪んだ場所が待っているかと期待していたら、行き着いた先は案外退屈な安全地帯で拍子抜けした。本当は読者を置き去りにして唖然とさせるだけの運動能力を持った作品のはずなのに、と残念に感じた。」
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他の選考委員
高樹のぶ子
宮本輝
山田詠美
川上弘美
奥泉光
堀江敏幸
村上龍
島田雅彦
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選考委員
宮本輝男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
影と本体 総行数89 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
黒田夏子
女75歳
37 「物言わぬ家と長い時間が、心を持つ生き物と化して、淡く静かに人々の営みを照らしている。それが、観念的にではなく、夢のなかの確かな皮膚感覚として心のどこかで長くたゆたうのだ。」「強固な文学観を土台とした稀に見る特異な才能だと思い、私は受賞作として推した。」
小野正嗣
男42歳
15 「黒田さん(引用者注:「abさんご」)に次いで票が集まった。登場人物がみな生彩を放ってよく書けているが、クレオール文学の手法としてしばしば使われる「語り部」が、この小説では作者自身になっているために、語り部が主人公の少年の心を説明するだけの存在でしかない。」
北野道夫
男28歳
16 「東日本大震災が作品の根っこのところにあるのだろうが、あれほどの大災害を観念で抽象化するには、よほどの力量と技術が必要だ。」「乾き切った関東平野にあって、主人公ひとりがいつも全身濡れそぼっているというメタファでは、どうにも手の届きようのない領域だと思う。」
高尾長良
女20歳
11 「小説の長い序章を読んだだけという印象を持った。さあ、ここから拒食症の女性がどうなっていくのか、というところで終わってしまっているのだ。」
舞城王太郎
不明39歳
10 「これまでの舞城さんの作品と比してシンプルになっているが、毒気も抜けてしまった。既作から一歩も前進していない。」「何を書きたいのか、何を書こうとしているのか、ご自分でもわからなくなっているのではないだろうか。」
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高樹のぶ子
小川洋子
山田詠美
川上弘美
奥泉光
堀江敏幸
村上龍
島田雅彦
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選考委員
山田詠美女53歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「選評」 総行数88 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
黒田夏子
女75歳
21 「正直、私には、ぴんと来ない作品で、何かジャンル違いのような印象は否めなかったし、漂うひとりうっとり感も気になった。選考の途中、前衛という言葉が出たが、その言葉を使うなら、私には昔の前衛に思える。洗練という言葉も出たが、私には、むしろ「トッポい」感じ。」
小野正嗣
男42歳
16 「時々、もう少し文章を整理して書いてくれないかなー、と苛々した。」「後半のバスの中のシーンを軸にして構築し直したら、緊張感のある良い作品になったと思う。」
北野道夫
男28歳
22 「自己表現(これ、小説においてはけなし(傍点)用語ね)のために、圧倒的な現実を利用してはいけないよ。むしろ、小説の方から奉仕するべきね。いっそ、傑作SF映画の『第9地区』みたいなものに仕立て上げれば良かったのに……なんて、それは無理か。同じ人類立入り禁止区域を描くにしても、あちらは、知性とアイロニーの元手をかけている。」
高尾長良
女20歳
19 「読み終えた後に呟いたのは、「で?」のひと言。」「拒食という使い古されたモチーフを選びながらも、独自の奇譚に持って行くのに必要なのは、徹底したリアリティ、もしくは、そんなものをこれまた徹底的に無視した虚構性のパワー。ここでは、そのどちらも中途半端」
舞城王太郎
不明39歳
10 「この作者は、どうでも良さげなエピソードで、読み手の心をきゅっとつかむのが上手だなあ、といつも思う。そして、とってもモラリスト。主人公だけが使い方を知るおかしくって少し悲しい、魅力的なシャワーヘッドのカタログだ。」
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他の選考委員
高樹のぶ子
小川洋子
宮本輝
川上弘美
奥泉光
堀江敏幸
村上龍
島田雅彦
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選考委員
川上弘美女54歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
涙の谷 総行数91 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
黒田夏子
女75歳
19 「この家庭に入りこんでくるいやらしい女に対して、あまりに元々の家の住み手が無批判すぎません? などと思う自分は、卑俗なのかなあと不安になったりもしつつ、やはりここにある日本語はほんとうに美しいなあと、うっとりしたことでした。」「(引用者注:「獅子渡り鼻」とともに)○をつけました。」
小野正嗣
男42歳
44 「作中に書かれている「大きな力」。これはつまり、自然そのものであると、わたしは解釈しました。本作は、自然そのものの不思議を描こうとした作品なのではないでしょうか。」「(引用者注:「abさんご」とともに)○をつけました。」
北野道夫
男28歳
11 「舞台が東北ではなく、福島に近いと思われる関東地方であり、壊滅的な被害にあったのではないけれど、明らかな被害が生活の中にそくそくとただよっているという、震災との微妙な距離を描いて、興味深かったです。もう一つ突き抜けていれば。」
高尾長良
女20歳
9 「主人公が拒食症、という設定から想像される展開を裏切る、不可思議なおかしみのある作品でした。装飾的な文章のつくり(おそらくわざとやっていると思われるのですが)が、効果をあげていなかったように思います。」
舞城王太郎
不明39歳
13 「最後の数ページのような、ストレートな文章を書く、作者の率直さが、私は大好きです……というか……やっぱり少しうかつなのかも……というか。」
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他の選考委員
高樹のぶ子
小川洋子
宮本輝
山田詠美
奥泉光
堀江敏幸
村上龍
島田雅彦
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選考委員
奥泉光男56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
選評 総行数100 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
黒田夏子
女75歳
52 「横書きが用いられ、通常は漢字やカタカナで表記されるべき言葉がひらがなで表記されるなど、一見して特異な書法で書かれている。」「黒田氏の工夫はただ一つ、小説を読者にゆっくりした速度で読ませることにある。」「横書きされたひらがなの放つふてぶてしさのようなものが感得されて、このふてぶてしさは、物語をただ消費すればよいとする風潮への、幽かに悪意の匂いのする批評につながっているとも感じられた。」
小野正嗣
男42歳
18 「本作を編むにあたって作者はいくつかの「物語」を導入するのだが、その結果、定型性の匂いがしてしまうのは、覚悟の上とはいえ、どうだったのか。」「他に推す選考委員があれば、こちらも受賞作でよいのではと自分は考えていたのだが、そういう展開には残念ながらならなかった。」
北野道夫
男28歳
11 「放射線物質に汚染された関東平野のイメージを、少しずつずれていく断章の積み重ねのなかで定着させようと云う、方法意識のある一篇」「ここで方法は功を奏さず、全体が平板な印象となってしまったのは残念だった。」
高尾長良
女20歳
10 「エネルギーを感じた。が、そのエネルギーの向かう先が自分にはいまひとつ捉えられず、相対的に低い評価になってしまった。」
舞城王太郎
不明39歳
11 「目に見える方法の支えなしに小説を推進して行く作者のセンスのよさにはあらためて感心させられた。」「本篇のごとく、一種の思弁に落とし込んでまとまりをつけるのは、作品の凄味を消してしまうようには思う。」
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他の選考委員
高樹のぶ子
小川洋子
宮本輝
山田詠美
川上弘美
堀江敏幸
村上龍
島田雅彦
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選考委員
堀江敏幸男49歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
時間を凝縮してなお瑞々しい声 総行数135 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
黒田夏子
女75歳
37 「質のよい磨りガラス越しに世界を見ている印象だ。」「もってまわった言い方で一般的な言葉遣いを回避しようとする文体上の屈折には、蚊帳の内と外を見極める洗練の力と同等のあやうさがある。しかし、このあやうさがなかったら、つまり書法・書記法への意識がなかったら、何十年かの時間を凝縮してなお瑞々しい声は聞こえてこなかっただろう。」
小野正嗣
男42歳
27 「母の故郷である海辺の集落で夏の休みを過ごすためにやってきた、十歳の少年。(引用者中略)当時の日々を描く部分のリアリズムと、ラストに置かれた、過去における未来のお告げの、非日常的な飛躍が心に残る。ただ、前者の濃度をもう少し薄くしても、この物語は十分成立し得たかもしれない。」
北野道夫
男28歳
26 「全体に漂う寓話性と、男女のやりとりを挟んでの、ちょっと大袈裟にいえば哲学的な踏み込みに特徴がある。」「女性のイニシャルIは、「俺」と「私=I」のやりとりに関わってくる。一人称が関東平野のなかで性差を超え、時間を掻き乱してくれているのに、いまだ時空の「すきま」が埋め切れていない。」
高尾長良
女20歳
21 「全体に固い文章で、意識的な反復のわずらわしさもあるけれど、十七歳の少女の妄想的な部分が、彼女自身の名(赤猪子)の響きに、そして言葉の煮詰まりそのものに救われている。また、同時に煮こごりの食感も残る。」
舞城王太郎
不明39歳
24 「語り手は、(引用者中略)独りよがりなところがある一方で、他人の話によく耳を傾け、それでいながら物事の中に踏み込まず、距離を保つ。」「明るさの質がよすぎるのではないかという、読み手としてとても贅沢な不満も感じられた。」
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他の選考委員
高樹のぶ子
小川洋子
宮本輝
山田詠美
川上弘美
奥泉光
村上龍
島田雅彦
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選考委員
村上龍男60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
選評 総行数64 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
黒田夏子
女75歳
54 「推さなかった。ただし、作品の質が低いという理由ではない。これほど高度に洗練された作品が、はたして新人文学賞にふさわしいのだろうかという違和感のためである。」「その作品の受賞に反対し、かつその作品の受賞を喜ぶという体験は、おそらくこれが最初で最後ではないだろうか。」
小野正嗣
男42歳
10 「作者には、今後、たとえばル・クレジオのような作品を期待したい。「正統な音楽教育を受けた歌手がなぜかあえて演歌を歌う」というような作品ではなく、演歌が成立するような地平から堂々とアリアを聞かせる、というような作品を読みたいと思う。」
北野道夫
男28歳
0  
高尾長良
女20歳
0  
舞城王太郎
不明39歳
0  
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他の選考委員
高樹のぶ子
小川洋子
宮本輝
山田詠美
川上弘美
奥泉光
堀江敏幸
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選考委員
島田雅彦男51歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
レンズを磨くようにコトバを…… 総行数104 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
黒田夏子
女75歳
32 「ひらがなを多用した横書きは読み進める速度を落とさせ、手ずから編み込んだコトバの綾の鑑賞を強いるようになっている。」「素材としてのコトバをレンズのように磨き上げ、思い出の背後に潜んでいる無意識を透視しようともしている。」
小野正嗣
男42歳
15 「少年の意識に大人の分析的介入があり、そこがどうも気になる。」「本作では(引用者注:作者のこれまでの作品より)もっと子ども視点に寄り添った素朴な物語の構築を試みたであろうことはよくわかる。しかし、そのことで人物像が類型化してしまったように感じられた。」
北野道夫
男28歳
26 「妙にまったりとして退廃感は悪くない。映画によくある手法だが、こういう再会の仕方もある、こういう展開もあり得たという具合に、同じようなシチュエーションを何度も繰り返し描いている。」「同じ場面を何度も書き直し、それをまとめて百枚くらいの作品に仕立てたような安易さの方が目立ってしまった。」
高尾長良
女20歳
14 「個人的にはこの種のテイストは大好きだが、現実界におけるダイエット事情はもっとグロテスクかつ偏執狂的で、時に生活の破綻や生存の危機をももたらしていることを思うと、まだ本作一篇では序章を書いたに過ぎないとの印象を拭い去れない。」
舞城王太郎
不明39歳
17 「いつものどうでもよいことに拘泥した饒舌な屁理屈がやや影を潜め、物語的明快さが前面に出たことで、パワーが落ちてしまったのは惜しい。」「舞城には「丸くなる」ことを徹底的に拒んで欲しい、と注文を付けるのは読者の身勝手であろうか?」
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他の選考委員
高樹のぶ子
小川洋子
宮本輝
山田詠美
川上弘美
奥泉光
堀江敏幸
村上龍
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受賞者・作品
黒田夏子女75歳×各選考委員 
「abさんご」
短篇 94
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高樹のぶ子
女66歳
62 「苦労して読み終えたとき、a=1、b=2という等価な意味交換ではなく、a=アバウト1、b=アバウト2、という、従来からの価値観では曖昧さと誤解を生むとして否定されてきた授受が、逆に日本語の豊穣さに繋がることを発見させてもくれる。」「これはテーマと冒険心と、長年にわたる大和言葉の研鑽が作り出した奇蹟の一作」
小川洋子
女50歳
27 「身についた言葉を一旦忘れて、あるいは忘れた振りをして書く、とは何と不思議な試みだろうか。たとえ語られる意味は平凡でも、言葉の連なり方や音の響きだけで小説は成り立ってしまうと、『abさんご』は証明している。この小説を読むことは、私にとって死者の語りに身を委ねるのに等しかった。」
宮本輝
男65歳
37 「物言わぬ家と長い時間が、心を持つ生き物と化して、淡く静かに人々の営みを照らしている。それが、観念的にではなく、夢のなかの確かな皮膚感覚として心のどこかで長くたゆたうのだ。」「強固な文学観を土台とした稀に見る特異な才能だと思い、私は受賞作として推した。」
山田詠美
女53歳
21 「正直、私には、ぴんと来ない作品で、何かジャンル違いのような印象は否めなかったし、漂うひとりうっとり感も気になった。選考の途中、前衛という言葉が出たが、その言葉を使うなら、私には昔の前衛に思える。洗練という言葉も出たが、私には、むしろ「トッポい」感じ。」
川上弘美
女54歳
19 「この家庭に入りこんでくるいやらしい女に対して、あまりに元々の家の住み手が無批判すぎません? などと思う自分は、卑俗なのかなあと不安になったりもしつつ、やはりここにある日本語はほんとうに美しいなあと、うっとりしたことでした。」「(引用者注:「獅子渡り鼻」とともに)○をつけました。」
奥泉光
男56歳
52 「横書きが用いられ、通常は漢字やカタカナで表記されるべき言葉がひらがなで表記されるなど、一見して特異な書法で書かれている。」「黒田氏の工夫はただ一つ、小説を読者にゆっくりした速度で読ませることにある。」「横書きされたひらがなの放つふてぶてしさのようなものが感得されて、このふてぶてしさは、物語をただ消費すればよいとする風潮への、幽かに悪意の匂いのする批評につながっているとも感じられた。」
堀江敏幸
男49歳
37 「質のよい磨りガラス越しに世界を見ている印象だ。」「もってまわった言い方で一般的な言葉遣いを回避しようとする文体上の屈折には、蚊帳の内と外を見極める洗練の力と同等のあやうさがある。しかし、このあやうさがなかったら、つまり書法・書記法への意識がなかったら、何十年かの時間を凝縮してなお瑞々しい声は聞こえてこなかっただろう。」
村上龍
男60歳
54 「推さなかった。ただし、作品の質が低いという理由ではない。これほど高度に洗練された作品が、はたして新人文学賞にふさわしいのだろうかという違和感のためである。」「その作品の受賞に反対し、かつその作品の受賞を喜ぶという体験は、おそらくこれが最初で最後ではないだろうか。」
島田雅彦
男51歳
32 「ひらがなを多用した横書きは読み進める速度を落とさせ、手ずから編み込んだコトバの綾の鑑賞を強いるようになっている。」「素材としてのコトバをレンズのように磨き上げ、思い出の背後に潜んでいる無意識を透視しようともしている。」
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他の候補作
小野正嗣
「獅子渡り鼻」
北野道夫
「関東平野」
高尾長良
「肉骨茶」
舞城王太郎
「美味しいシャワーヘッド」
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候補者・作品
小野正嗣男42歳×各選考委員 
「獅子渡り鼻」
中篇 213
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高樹のぶ子
女66歳
13 「限られた土地をめぐる閉鎖的な人間たちと宿痾のような出来事は、濃密な匂いを発している。」「その完成度を認めるも、この虚構世界が現実の我々とどう繋がっているのかが解らない。」
小川洋子
女50歳
13 「八百万円の外車を傷つけるのに十円玉では釣り合わない、やっぱり五百円玉でなければ、と考えるような瑞々しい感性と、兄にイルカを会わせられなかったのは自分のせいだ、と信じ込む優しさを持った尊のそばに、私はただ黙って寄り添っていたかった。」
宮本輝
男65歳
15 「黒田さん(引用者注:「abさんご」)に次いで票が集まった。登場人物がみな生彩を放ってよく書けているが、クレオール文学の手法としてしばしば使われる「語り部」が、この小説では作者自身になっているために、語り部が主人公の少年の心を説明するだけの存在でしかない。」
山田詠美
女53歳
16 「時々、もう少し文章を整理して書いてくれないかなー、と苛々した。」「後半のバスの中のシーンを軸にして構築し直したら、緊張感のある良い作品になったと思う。」
川上弘美
女54歳
44 「作中に書かれている「大きな力」。これはつまり、自然そのものであると、わたしは解釈しました。本作は、自然そのものの不思議を描こうとした作品なのではないでしょうか。」「(引用者注:「abさんご」とともに)○をつけました。」
奥泉光
男56歳
18 「本作を編むにあたって作者はいくつかの「物語」を導入するのだが、その結果、定型性の匂いがしてしまうのは、覚悟の上とはいえ、どうだったのか。」「他に推す選考委員があれば、こちらも受賞作でよいのではと自分は考えていたのだが、そういう展開には残念ながらならなかった。」
堀江敏幸
男49歳
27 「母の故郷である海辺の集落で夏の休みを過ごすためにやってきた、十歳の少年。(引用者中略)当時の日々を描く部分のリアリズムと、ラストに置かれた、過去における未来のお告げの、非日常的な飛躍が心に残る。ただ、前者の濃度をもう少し薄くしても、この物語は十分成立し得たかもしれない。」
村上龍
男60歳
10 「作者には、今後、たとえばル・クレジオのような作品を期待したい。「正統な音楽教育を受けた歌手がなぜかあえて演歌を歌う」というような作品ではなく、演歌が成立するような地平から堂々とアリアを聞かせる、というような作品を読みたいと思う。」
島田雅彦
男51歳
15 「少年の意識に大人の分析的介入があり、そこがどうも気になる。」「本作では(引用者注:作者のこれまでの作品より)もっと子ども視点に寄り添った素朴な物語の構築を試みたであろうことはよくわかる。しかし、そのことで人物像が類型化してしまったように感じられた。」
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他の候補作
黒田夏子
「abさんご」
北野道夫
「関東平野」
高尾長良
「肉骨茶」
舞城王太郎
「美味しいシャワーヘッド」
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候補者・作品
北野道夫男28歳×各選考委員 
「関東平野」
短篇 112
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高樹のぶ子
女66歳
6 「「故郷は失われてしまったのか」という壮大なテーマが空回りしている印象だった。」
小川洋子
女50歳
15 「もどかしかったのは、理不尽な世界が描かれているにもかかわらず、袋小路に追い込まれてゆくような息苦しさ、空恐ろしさをあまり感じなかった点だ。一シーン一シーンはどこかよそよそしく、初対面の人から聞かされる夢の話のごとく平板に通り過ぎてゆく。」
宮本輝
男65歳
16 「東日本大震災が作品の根っこのところにあるのだろうが、あれほどの大災害を観念で抽象化するには、よほどの力量と技術が必要だ。」「乾き切った関東平野にあって、主人公ひとりがいつも全身濡れそぼっているというメタファでは、どうにも手の届きようのない領域だと思う。」
山田詠美
女53歳
22 「自己表現(これ、小説においてはけなし(傍点)用語ね)のために、圧倒的な現実を利用してはいけないよ。むしろ、小説の方から奉仕するべきね。いっそ、傑作SF映画の『第9地区』みたいなものに仕立て上げれば良かったのに……なんて、それは無理か。同じ人類立入り禁止区域を描くにしても、あちらは、知性とアイロニーの元手をかけている。」
川上弘美
女54歳
11 「舞台が東北ではなく、福島に近いと思われる関東地方であり、壊滅的な被害にあったのではないけれど、明らかな被害が生活の中にそくそくとただよっているという、震災との微妙な距離を描いて、興味深かったです。もう一つ突き抜けていれば。」
奥泉光
男56歳
11 「放射線物質に汚染された関東平野のイメージを、少しずつずれていく断章の積み重ねのなかで定着させようと云う、方法意識のある一篇」「ここで方法は功を奏さず、全体が平板な印象となってしまったのは残念だった。」
堀江敏幸
男49歳
26 「全体に漂う寓話性と、男女のやりとりを挟んでの、ちょっと大袈裟にいえば哲学的な踏み込みに特徴がある。」「女性のイニシャルIは、「俺」と「私=I」のやりとりに関わってくる。一人称が関東平野のなかで性差を超え、時間を掻き乱してくれているのに、いまだ時空の「すきま」が埋め切れていない。」
村上龍
男60歳
0  
島田雅彦
男51歳
26 「妙にまったりとして退廃感は悪くない。映画によくある手法だが、こういう再会の仕方もある、こういう展開もあり得たという具合に、同じようなシチュエーションを何度も繰り返し描いている。」「同じ場面を何度も書き直し、それをまとめて百枚くらいの作品に仕立てたような安易さの方が目立ってしまった。」
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他の候補作
黒田夏子
「abさんご」
小野正嗣
「獅子渡り鼻」
高尾長良
「肉骨茶」
舞城王太郎
「美味しいシャワーヘッド」
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候補者・作品
高尾長良女20歳×各選考委員 
「肉骨茶」
短篇 116
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高樹のぶ子
女66歳
9 「限られた登場人物と舞台設定、人格をひっくり返して見せる物語性、そして何より「食べる」ということを通して表現される身体感覚は、作者が将来、強く魅力的な作品を生み出すだろう予感を与えた。」
小川洋子
女50歳
19 「主人公のカロリー消費への執念は当然奇妙なのだが、やがてゾーイーの狂気が、そんなものを易々と呑み込んでゆく様が面白い。」「切実さを抱えた人間の滑稽さが、描き出されている。その点はもっと高く評価されるべきだったと思う。」
宮本輝
男65歳
11 「小説の長い序章を読んだだけという印象を持った。さあ、ここから拒食症の女性がどうなっていくのか、というところで終わってしまっているのだ。」
山田詠美
女53歳
19 「読み終えた後に呟いたのは、「で?」のひと言。」「拒食という使い古されたモチーフを選びながらも、独自の奇譚に持って行くのに必要なのは、徹底したリアリティ、もしくは、そんなものをこれまた徹底的に無視した虚構性のパワー。ここでは、そのどちらも中途半端」
川上弘美
女54歳
9 「主人公が拒食症、という設定から想像される展開を裏切る、不可思議なおかしみのある作品でした。装飾的な文章のつくり(おそらくわざとやっていると思われるのですが)が、効果をあげていなかったように思います。」
奥泉光
男56歳
10 「エネルギーを感じた。が、そのエネルギーの向かう先が自分にはいまひとつ捉えられず、相対的に低い評価になってしまった。」
堀江敏幸
男49歳
21 「全体に固い文章で、意識的な反復のわずらわしさもあるけれど、十七歳の少女の妄想的な部分が、彼女自身の名(赤猪子)の響きに、そして言葉の煮詰まりそのものに救われている。また、同時に煮こごりの食感も残る。」
村上龍
男60歳
0  
島田雅彦
男51歳
14 「個人的にはこの種のテイストは大好きだが、現実界におけるダイエット事情はもっとグロテスクかつ偏執狂的で、時に生活の破綻や生存の危機をももたらしていることを思うと、まだ本作一篇では序章を書いたに過ぎないとの印象を拭い去れない。」
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他の候補作
黒田夏子
「abさんご」
小野正嗣
「獅子渡り鼻」
北野道夫
「関東平野」
舞城王太郎
「美味しいシャワーヘッド」
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候補者・作品
舞城王太郎不明39歳×各選考委員 
「美味しいシャワーヘッド」
短篇 110
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高樹のぶ子
女66歳
0  
小川洋子
女50歳
16 「この果てにどんな歪んだ場所が待っているかと期待していたら、行き着いた先は案外退屈な安全地帯で拍子抜けした。本当は読者を置き去りにして唖然とさせるだけの運動能力を持った作品のはずなのに、と残念に感じた。」
宮本輝
男65歳
10 「これまでの舞城さんの作品と比してシンプルになっているが、毒気も抜けてしまった。既作から一歩も前進していない。」「何を書きたいのか、何を書こうとしているのか、ご自分でもわからなくなっているのではないだろうか。」
山田詠美
女53歳
10 「この作者は、どうでも良さげなエピソードで、読み手の心をきゅっとつかむのが上手だなあ、といつも思う。そして、とってもモラリスト。主人公だけが使い方を知るおかしくって少し悲しい、魅力的なシャワーヘッドのカタログだ。」
川上弘美
女54歳
13 「最後の数ページのような、ストレートな文章を書く、作者の率直さが、私は大好きです……というか……やっぱり少しうかつなのかも……というか。」
奥泉光
男56歳
11 「目に見える方法の支えなしに小説を推進して行く作者のセンスのよさにはあらためて感心させられた。」「本篇のごとく、一種の思弁に落とし込んでまとまりをつけるのは、作品の凄味を消してしまうようには思う。」
堀江敏幸
男49歳
24 「語り手は、(引用者中略)独りよがりなところがある一方で、他人の話によく耳を傾け、それでいながら物事の中に踏み込まず、距離を保つ。」「明るさの質がよすぎるのではないかという、読み手としてとても贅沢な不満も感じられた。」
村上龍
男60歳
0  
島田雅彦
男51歳
17 「いつものどうでもよいことに拘泥した饒舌な屁理屈がやや影を潜め、物語的明快さが前面に出たことで、パワーが落ちてしまったのは惜しい。」「舞城には「丸くなる」ことを徹底的に拒んで欲しい、と注文を付けるのは読者の身勝手であろうか?」
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他の候補作
黒田夏子
「abさんご」
小野正嗣
「獅子渡り鼻」
北野道夫
「関東平野」
高尾長良
「肉骨茶」
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