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平成3年/1991年上半期
(平成3年/1991年7月15日決定発表/『オール讀物』平成3年/1991年9月号選評掲載)
選考委員  田辺聖子
女63歳
山口瞳
男64歳
陳舜臣
男67歳
五木寛之
男58歳
黒岩重吾
男67歳
井上ひさし
男56歳
渡辺淳一
男57歳
平岩弓枝
女59歳
藤沢周平
男63歳
選評総行数  109 118 96 111 116 117 86 66 118
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
宮城谷昌光 『夏姫春秋』
945
男46歳
23 15 42 21 50 18 18 9 29
芦原すなお 『青春デンデケデケデケ』
414
男41歳
33 50 16 90 22 33 16 8 16
高橋義夫 『風吹峠』
419
男45歳
11 23 11 0 39 26 18 29 27
宮部みゆき 『龍は眠る』
820
女30歳
10 14 11 0 5 20 5 15 22
篠田達明 『法王庁の避妊法』
402
男53歳
32 11 16 0 0 20 11 5 24
                 
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
田辺聖子女63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
芦原氏と宮城谷氏を推す 総行数109 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光
男46歳
23 「この作ではまた夏姫という不思議な美女を拉してきて、その興味で読者をうまく乗せ、(あるいはいっぱいはめ)玄妙な小説宇宙を紡ぎ出された。」「作者の奥の手は、まだいくつもあるんじゃないかというような、悠々たる余裕である。」「芦原氏と甲乙つけがたい愛着を感じさせ、私は二本受賞を主張しないではいられなかった。」
芦原すなお
男41歳
33 「この作者の端倪すべからざるところはコトバに対する物凄い嗜好、舌なめずりするような偏執狂ぶりである。」「テーマや人物造型との呼吸の合い具合、輝くばかりの面白いエピソードの羅列、それらがコトバへの強い思いこみとめでたく合成して、美酒が醸しだされた。」「これ一作だけで、あとはお書きにならなくても、別にかまわないんじゃないか――と思わせるような小説もあるのだ、ということを発見した。」
高橋義夫
男45歳
11 「最後まで受賞作と争い、かなり烈しい接戦になった。私は書き出しの老練な巧さに感じ入った。あと味いい佳品であるが、文句のつけようのないところがすこし、困った。」
宮部みゆき
女30歳
10 「超能力のテーマと、あとの誘拐事件の推理小説風テーマの乖離がやや苦しい。」「私には主人公の新聞記者が魅力があった。シリーズで読みたくなった。」
篠田達明
男53歳
32 「主人公の生きかたや執念に感動させられたが、それは文学的感動とはやや異質のもののような気がして、当惑した。」「抉り方がもっと深ければ文学的感動が生まれたかもしれないと思ったりする。」「嫁姑の葛藤に筆を割いて、やや集中力が散漫になり、かんじんのテーマが淡々としすぎてしまったせいだろうか。」
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山口瞳
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選考委員
山口瞳男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
田舎暮しの精髄 総行数118 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光
男46歳
15 「この方面も私は全く不案内であって、陳さんの推挙がなかったら、受賞に反対する立場になったかもしれない。それでも前回候補作の『天空の舟』に較べれば文章はずっと滑らかになってきて大物感が漂う。」
芦原すなお
男41歳
50 「ロックやオートバイに夢中になっている田舎の面皰だらけの阿呆面した少年というのに常に興味があったが、とうてい私には書けないと思っていた。それをこんなに見事に小説化した作家がいたわけで私としては尊敬し脱帽するほかはない。」「全体にウキウキするような湧き立つような感じがあって、日本文学には滅多にはあらわれない種類の快作であると思う。」
高橋義夫
男45歳
23 「人物でも風景でも丹念に書き込んで押して押してゆくタイプで好感が持てる。」「これを良しとする考えと直木賞としては現代性に乏しいという考えの間で苦しんだが、見送ることにした。千花という女性は真面目で小太りで地肌の匂う人だと思うのだが、もう少し強く匂ってこないと小説にはならない。」
宮部みゆき
女30歳
14 「力のある作家だ。文章の密度が濃い。ただ私としては超能力とか輪廻転生には拒絶反応が働き、そもそもこれは反則ではないかという考えがある。それに女流作家が男を主人公にすると、男が子供っぽくなって、そのぶん少女小説や童話に近くなって、ゴツンとくるものがなくなる。」
篠田達明
男53歳
11 「几帳面で真摯な力作であるが嫁姑の争いなどが月並で興趣をそがれる。全体に平板で、妻を相手の荻野式の実験で、いよいよ妊娠させる段になると妻がイソイソとしてしまう件りなんかが面白いが、こういうエピソードがあと三つか四つないと直木賞の対象となりにくい。」
  「今回は「低調で受賞作ナシ」の声もあったが、私には力作ぞろい快作ぞろいで楽しく読めた。」
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田辺聖子
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黒岩重吾
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平岩弓枝
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選考委員
陳舜臣男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
期待 総行数96 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光
男46歳
42 「宮城谷氏は『春秋左氏伝』の忠実な読者として、夏姫の部分を小説化したといえる。」「このたびは史実の骨組みがきっちりと記録されている時代を、情熱的に肉づけした作品である。両作(引用者注:前回候補の「天空の舟」と今回の「夏姫春秋」)をあわせて、作者は想像力も構成力もともにすぐれていることを証明してみせた。」
芦原すなお
男41歳
16 「たしかにおもしろいが、少年たちのハートを揺すったのがなにであったか、それを知りたいとおもう。」「知的な文章が、登場人物の知的レベルと微妙に食いちがい、私にはそれがおもしろかった。」
高橋義夫
男45歳
11 「作風がまっとうすぎたのか、強い支持が得られなかった。かといって、積極的な反対もなかったのである。」「たとえば「秘宝月山丸」にあった作品のさわがしさが、今回の作にすこしのりうつっておればと、おもったほどである。」
宮部みゆき
女30歳
11 「プロットが巧妙であり、文章もすぐれている。超能力の問題をとりあげた勇気を評価したい。冒険した分だけ減点されたかんじだが、向こう傷とおもってほしい。日本のミステリー界に新しい星が誕生したとおもう。」
篠田達明
男53歳
16 「興味あるテーマだが、それを平板に語りすぎている。伝記のダイジェストを物語りふうにしたかんじがする。」「それでも篠田氏の文章は、かつての候補作にくらべてずいぶん進歩している。あるいは作風の垢抜けが、作品を平板にみせたのかもしれない。」
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田辺聖子
山口瞳
五木寛之
黒岩重吾
井上ひさし
渡辺淳一
平岩弓枝
藤沢周平
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選考委員
五木寛之男58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
実力二作家の登場 総行数111 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光
男46歳
21 「すでに堂々たる作家である。独得の世界を描いて一家を成した感のある氏に、あえて妄言を書きつらねる勇気は私にはない。」
芦原すなお
男41歳
90 「一読おもわず破顔一笑、といった好感のもてる少年小説で、しかも周到な方法論に支えられた佳作である。」「この作者の最大の美点は、上機嫌なユーモアの感覚だろう。」「芦原氏のユーモアは地方の少年を描きながら、妙に都会的だ。そんな外部の視点を体得していればこそ方言を魅力的に使うことができたのではあるまいか。」
高橋義夫
男45歳
0  
宮部みゆき
女30歳
0  
篠田達明
男53歳
0  
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田辺聖子
山口瞳
陳舜臣
黒岩重吾
井上ひさし
渡辺淳一
平岩弓枝
藤沢周平
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選考委員
黒岩重吾男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「風吹峠」を推す 総行数116 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光
男46歳
50 「前作に較べると人物に躍動感がある。」「春秋時代を小説に仕上げた腕力は見事だが、私は作者が男女の関係や、小説を構築する上で大事なディテールについて、どのように考えているのだろうか、と疑問を抱いた。」
芦原すなお
男41歳
22 「作家志望なら一度は書いてみたい、と望むテーマである。それだけにこの種の小説には、衝撃また感動が伴わなければ意味がない、と私は考えている。本小説にはそれがない。」「登場人物に悩みもなければ、作者が何かを訴えようとする意欲も感じられない。」「読んでいるうちに一人の若者のコピーが踊っているような空しさを覚えた。」
高橋義夫
男45歳
39 「最も惹かれた。」「人間模様が鮮やかに迫って来るのも、作者の慈愛の眼が総てに行き届いているからである。」「票が集まりながら受賞を逸したのは、優等生的な作品と評価されたせいである。」「だが現在、これだけの筆力で寒村僻地を描ける作家は少ない。」
宮部みゆき
女30歳
5 「最初の展開は面白いが、話が二つに割れたため、読むのが辛くなった。」
篠田達明
男53歳
0  
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田辺聖子
山口瞳
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五木寛之
井上ひさし
渡辺淳一
平岩弓枝
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選考委員
井上ひさし男56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
行儀のよさ、わるさ 総行数117 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光
男46歳
18 「ちょっと押しつけがましい文明批評や人物批評、それから、むやみに雑知識をひけらかすところなど、作者の筆はずいぶん行儀が悪いが、しかし、おおもとにある情熱が純なので、その行儀の悪さがみごとに愛敬のよさに転化している。この情熱の強さと熱さと量とに脱帽する。」
芦原すなお
男41歳
33 「前半がすばらしい。」「さまざまな登場人物たちを一筆でさっと印象的に描いてしまうところにも才能を感じた。ところが、物語が終わりに近づくにつれて、すべての回転が弱まってくる。」「だが、作者は、後半のこの大失点を補って余りある大量の得点を、すでに前半で挙げていた。それほど、この作品の前半はすばらしい。」
高橋義夫
男45歳
26 「しっかりした取材と調査、正確な方言、たしかな文章力、(引用者中略)作者の目配りのきいた計算には脱帽するほかはない。がしかし、すべての道具立てが行儀よく整っているのに、読者の心が大きくゆすぶられるには至らない。」「一言でいば、だれもかれもが、とても窮屈なのだ。」
宮部みゆき
女30歳
20 「随所にユーモアの感覚が閃き、会話もうまく、その上、作者は、破綻を恐れることなく(ということは、行儀作法を無視して)誘拐ものと超常能力者ものとの二つのジャンルを一つの物語にまとめあげようとしている。この知的冒険心を高く評価したい。」「ただし、物語の裏でひそかに進行している別の物語(引用者中略)の目鼻立ちがやや曖昧だったのは残念である。」
篠田達明
男53歳
20 「とても勉強になることが書かれているが、作者はすべてを行儀よく自己の管理下においてしまった。作中のどこにも火花が散っていない。」「作者は少し行儀がよすぎるのではあるまいか。小説家としての企みがもっとあればとおもった。」
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田辺聖子
山口瞳
陳舜臣
五木寛之
黒岩重吾
渡辺淳一
平岩弓枝
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選考委員
渡辺淳一男57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
長篇の問題点 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光
男46歳
18 「もっとも長篇らしい長篇で、戦争あり色模様ありで読者を飽きさせない。」「スケールの大きさを評価する声もあったが、春秋の史伝を追えばむしろ当然のことで、それを埋める人物や風景なぞ、ディテールの描写が浅く、作品のふくらみを欠く。」
芦原すなお
男41歳
16 「候補作中、もっとも文章のセンスがよく、人物のデッサンもたしかで、この文章だけでプロの作家として充分の資格がある。しかし強いて難点をいうと、全体に洒落てはいるが風俗描写に終始し、そこからつき抜けた、心にこたえるものがない。」「わたしは受賞作なしを主張し、最後は「青春デンデケデケデケ」一本の支持に廻った。」
高橋義夫
男45歳
18 「人物の描写も適確で、伊作を偲んで旅館で一人で酒を飲むところなぞ秀逸である。」「医学校は出ても実地の研修を積んでいない女医の問題点は多々あったはずで、そのあたりのことを書き込んでいないところが、作品を平板なものにしてしまった。」
宮部みゆき
女30歳
5 「かなりの長篇であるが、長さに甘えて冗長で、オカルトとしても推理としても中途半端で終っている。」
篠田達明
男53歳
11 「荻野博士の研究と嫁姑の問題と話が二つに割れているのが興を殺ぐ。」「たんに話の面白さや奇抜さだけで小説を書くかぎり、読者を感動させることは難しい。」
  「このところ直木賞の候補作が長篇に集中し、魅力的な短篇が見られないのはいささか淋しいことである。」
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他の選考委員
田辺聖子
山口瞳
陳舜臣
五木寛之
黒岩重吾
井上ひさし
平岩弓枝
藤沢周平
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選考委員
平岩弓枝女59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「風吹峠」に共感 総行数66 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光
男46歳
9 「中国の古代史に取り組んでいる作者の労作であることは充分に評価されてよいと思う一方で、宮城谷さんには歴史をわかりやすく紹介することよりも、人間を描くことにより多くのエネルギーを費して頂きたいと思う。」
芦原すなお
男41歳
8 「気持のいい作品であった。底抜けに明るく、屈託のない主人公達の青春物語には好感が持てたが、楽しい思い出ばかりが強調されて、青春の翳りの部分に筆が及ばないのが物足りなく感じた。」
高橋義夫
男45歳
29 「推したいと思った。」「如何にも高橋さんらしい素材だが、今までと違うのは、暗さの中の明るさの発見が見事なことである。」「例えば、美しい雪国の四季の描写であり、翁屋旅館の女将と女主人公との交流である。」
宮部みゆき
女30歳
15 「面白さにおいては五作の中の随一だった。殊に前半のマンホールの殺人に関しては秀逸で、息を詰めて読まされてしまった。超能力者を、ミステリーに扱うことの是非はともかくとして、後半の高校の副理事長夫人の事件がややお手軽になってしまったのは残念至極。」
篠田達明
男53歳
5 「オギノ式とはこういうことだったのかとびっくりさせられた。」「好短編だが、あとがきで損をしてしまった。」
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他の選考委員
田辺聖子
山口瞳
陳舜臣
五木寛之
黒岩重吾
井上ひさし
渡辺淳一
藤沢周平
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選考委員
藤沢周平男63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
魅力的な二作品 総行数118 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光
男46歳
29 「前回の候補作「天空の舟」に比較すると、作品に艶が出たように思った。」「この作家の興味はいまのところは模索して歴史を述べるところにあるようで、その場合の、骨格がただしく、言いつくして渋滞のない文章が見事である。」「弱点もふくめて何かしら大きな完成を予感させる将来性と、作品にそなわる魅力に一票を投じたいと思った。」
芦原すなお
男41歳
16 「ユーモアあふれる才筆で高校生たちの青春を描いた佳作。」「「渚のデート」というわりあいしんみりした一章がまたよく書けていて、このひとのすぐれた資質の一端を示しているように思った。ここに書かれているのは青春以外の何ものでもないと思わせる稀有な小説。ただし、文章が軽快に過ぎて再読すると白けるところがあるのは、一考を要するだろう。」
高橋義夫
男45歳
27 「僻地ともいうべき山村の医療にしたがうことになった若い女医とその周辺は、そつなく描かれているけれども、そこから読む者の心を打ってくるものが不足しているように思えた。小説のおもしろさ、よさは、私が言うまでもなく、書かれていることのほかにプラス・アルファが感じられるかどうかにかかっているわけで、手堅いだけでは読者を感動させることはむずかしい。」
宮部みゆき
女30歳
22 「主題が分裂している印象をあたえる作品だった。」「読者は迷路のような超能力者の内面よりは、すっきりした物語を読みたがるのではなかろうか。宮部さんは構想にすぐれうまい文章の推理小説を書くひとだが、この作品ではどこか計算違いがあって、せっかくの文章も生きなかったように思えた。」
篠田達明
男53歳
24 「二つの作品(引用者注:「法王庁の避妊法」と「ウサギの耳」)ともに書くべきことを書いているものの、それ以上ののびが感じられない点が物足りなかった。感動的な場面も書かれているけれど、その感動が読み手に伝わってこないのである。」
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他の選考委員
田辺聖子
山口瞳
陳舜臣
五木寛之
黒岩重吾
井上ひさし
渡辺淳一
平岩弓枝
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受賞者・作品
宮城谷昌光男46歳×各選考委員 
『夏姫春秋』
長篇 945
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女63歳
23 「この作ではまた夏姫という不思議な美女を拉してきて、その興味で読者をうまく乗せ、(あるいはいっぱいはめ)玄妙な小説宇宙を紡ぎ出された。」「作者の奥の手は、まだいくつもあるんじゃないかというような、悠々たる余裕である。」「芦原氏と甲乙つけがたい愛着を感じさせ、私は二本受賞を主張しないではいられなかった。」
山口瞳
男64歳
15 「この方面も私は全く不案内であって、陳さんの推挙がなかったら、受賞に反対する立場になったかもしれない。それでも前回候補作の『天空の舟』に較べれば文章はずっと滑らかになってきて大物感が漂う。」
陳舜臣
男67歳
42 「宮城谷氏は『春秋左氏伝』の忠実な読者として、夏姫の部分を小説化したといえる。」「このたびは史実の骨組みがきっちりと記録されている時代を、情熱的に肉づけした作品である。両作(引用者注:前回候補の「天空の舟」と今回の「夏姫春秋」)をあわせて、作者は想像力も構成力もともにすぐれていることを証明してみせた。」
五木寛之
男58歳
21 「すでに堂々たる作家である。独得の世界を描いて一家を成した感のある氏に、あえて妄言を書きつらねる勇気は私にはない。」
黒岩重吾
男67歳
50 「前作に較べると人物に躍動感がある。」「春秋時代を小説に仕上げた腕力は見事だが、私は作者が男女の関係や、小説を構築する上で大事なディテールについて、どのように考えているのだろうか、と疑問を抱いた。」
井上ひさし
男56歳
18 「ちょっと押しつけがましい文明批評や人物批評、それから、むやみに雑知識をひけらかすところなど、作者の筆はずいぶん行儀が悪いが、しかし、おおもとにある情熱が純なので、その行儀の悪さがみごとに愛敬のよさに転化している。この情熱の強さと熱さと量とに脱帽する。」
渡辺淳一
男57歳
18 「もっとも長篇らしい長篇で、戦争あり色模様ありで読者を飽きさせない。」「スケールの大きさを評価する声もあったが、春秋の史伝を追えばむしろ当然のことで、それを埋める人物や風景なぞ、ディテールの描写が浅く、作品のふくらみを欠く。」
平岩弓枝
女59歳
9 「中国の古代史に取り組んでいる作者の労作であることは充分に評価されてよいと思う一方で、宮城谷さんには歴史をわかりやすく紹介することよりも、人間を描くことにより多くのエネルギーを費して頂きたいと思う。」
藤沢周平
男63歳
29 「前回の候補作「天空の舟」に比較すると、作品に艶が出たように思った。」「この作家の興味はいまのところは模索して歴史を述べるところにあるようで、その場合の、骨格がただしく、言いつくして渋滞のない文章が見事である。」「弱点もふくめて何かしら大きな完成を予感させる将来性と、作品にそなわる魅力に一票を投じたいと思った。」
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他の候補作
芦原すなお
『青春デンデケデケデケ』
高橋義夫
『風吹峠』
宮部みゆき
『龍は眠る』
篠田達明
『法王庁の避妊法』
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受賞者・作品
芦原すなお男41歳×各選考委員 
『青春デンデケデケデケ』
長篇 414
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女63歳
33 「この作者の端倪すべからざるところはコトバに対する物凄い嗜好、舌なめずりするような偏執狂ぶりである。」「テーマや人物造型との呼吸の合い具合、輝くばかりの面白いエピソードの羅列、それらがコトバへの強い思いこみとめでたく合成して、美酒が醸しだされた。」「これ一作だけで、あとはお書きにならなくても、別にかまわないんじゃないか――と思わせるような小説もあるのだ、ということを発見した。」
山口瞳
男64歳
50 「ロックやオートバイに夢中になっている田舎の面皰だらけの阿呆面した少年というのに常に興味があったが、とうてい私には書けないと思っていた。それをこんなに見事に小説化した作家がいたわけで私としては尊敬し脱帽するほかはない。」「全体にウキウキするような湧き立つような感じがあって、日本文学には滅多にはあらわれない種類の快作であると思う。」
陳舜臣
男67歳
16 「たしかにおもしろいが、少年たちのハートを揺すったのがなにであったか、それを知りたいとおもう。」「知的な文章が、登場人物の知的レベルと微妙に食いちがい、私にはそれがおもしろかった。」
五木寛之
男58歳
90 「一読おもわず破顔一笑、といった好感のもてる少年小説で、しかも周到な方法論に支えられた佳作である。」「この作者の最大の美点は、上機嫌なユーモアの感覚だろう。」「芦原氏のユーモアは地方の少年を描きながら、妙に都会的だ。そんな外部の視点を体得していればこそ方言を魅力的に使うことができたのではあるまいか。」
黒岩重吾
男67歳
22 「作家志望なら一度は書いてみたい、と望むテーマである。それだけにこの種の小説には、衝撃また感動が伴わなければ意味がない、と私は考えている。本小説にはそれがない。」「登場人物に悩みもなければ、作者が何かを訴えようとする意欲も感じられない。」「読んでいるうちに一人の若者のコピーが踊っているような空しさを覚えた。」
井上ひさし
男56歳
33 「前半がすばらしい。」「さまざまな登場人物たちを一筆でさっと印象的に描いてしまうところにも才能を感じた。ところが、物語が終わりに近づくにつれて、すべての回転が弱まってくる。」「だが、作者は、後半のこの大失点を補って余りある大量の得点を、すでに前半で挙げていた。それほど、この作品の前半はすばらしい。」
渡辺淳一
男57歳
16 「候補作中、もっとも文章のセンスがよく、人物のデッサンもたしかで、この文章だけでプロの作家として充分の資格がある。しかし強いて難点をいうと、全体に洒落てはいるが風俗描写に終始し、そこからつき抜けた、心にこたえるものがない。」「わたしは受賞作なしを主張し、最後は「青春デンデケデケデケ」一本の支持に廻った。」
平岩弓枝
女59歳
8 「気持のいい作品であった。底抜けに明るく、屈託のない主人公達の青春物語には好感が持てたが、楽しい思い出ばかりが強調されて、青春の翳りの部分に筆が及ばないのが物足りなく感じた。」
藤沢周平
男63歳
16 「ユーモアあふれる才筆で高校生たちの青春を描いた佳作。」「「渚のデート」というわりあいしんみりした一章がまたよく書けていて、このひとのすぐれた資質の一端を示しているように思った。ここに書かれているのは青春以外の何ものでもないと思わせる稀有な小説。ただし、文章が軽快に過ぎて再読すると白けるところがあるのは、一考を要するだろう。」
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他の候補作
宮城谷昌光
『夏姫春秋』
高橋義夫
『風吹峠』
宮部みゆき
『龍は眠る』
篠田達明
『法王庁の避妊法』
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候補者・作品
高橋義夫男45歳×各選考委員 
『風吹峠』
長篇 419
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女63歳
11 「最後まで受賞作と争い、かなり烈しい接戦になった。私は書き出しの老練な巧さに感じ入った。あと味いい佳品であるが、文句のつけようのないところがすこし、困った。」
山口瞳
男64歳
23 「人物でも風景でも丹念に書き込んで押して押してゆくタイプで好感が持てる。」「これを良しとする考えと直木賞としては現代性に乏しいという考えの間で苦しんだが、見送ることにした。千花という女性は真面目で小太りで地肌の匂う人だと思うのだが、もう少し強く匂ってこないと小説にはならない。」
陳舜臣
男67歳
11 「作風がまっとうすぎたのか、強い支持が得られなかった。かといって、積極的な反対もなかったのである。」「たとえば「秘宝月山丸」にあった作品のさわがしさが、今回の作にすこしのりうつっておればと、おもったほどである。」
五木寛之
男58歳
0  
黒岩重吾
男67歳
39 「最も惹かれた。」「人間模様が鮮やかに迫って来るのも、作者の慈愛の眼が総てに行き届いているからである。」「票が集まりながら受賞を逸したのは、優等生的な作品と評価されたせいである。」「だが現在、これだけの筆力で寒村僻地を描ける作家は少ない。」
井上ひさし
男56歳
26 「しっかりした取材と調査、正確な方言、たしかな文章力、(引用者中略)作者の目配りのきいた計算には脱帽するほかはない。がしかし、すべての道具立てが行儀よく整っているのに、読者の心が大きくゆすぶられるには至らない。」「一言でいば、だれもかれもが、とても窮屈なのだ。」
渡辺淳一
男57歳
18 「人物の描写も適確で、伊作を偲んで旅館で一人で酒を飲むところなぞ秀逸である。」「医学校は出ても実地の研修を積んでいない女医の問題点は多々あったはずで、そのあたりのことを書き込んでいないところが、作品を平板なものにしてしまった。」
平岩弓枝
女59歳
29 「推したいと思った。」「如何にも高橋さんらしい素材だが、今までと違うのは、暗さの中の明るさの発見が見事なことである。」「例えば、美しい雪国の四季の描写であり、翁屋旅館の女将と女主人公との交流である。」
藤沢周平
男63歳
27 「僻地ともいうべき山村の医療にしたがうことになった若い女医とその周辺は、そつなく描かれているけれども、そこから読む者の心を打ってくるものが不足しているように思えた。小説のおもしろさ、よさは、私が言うまでもなく、書かれていることのほかにプラス・アルファが感じられるかどうかにかかっているわけで、手堅いだけでは読者を感動させることはむずかしい。」
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他の候補作
宮城谷昌光
『夏姫春秋』
芦原すなお
『青春デンデケデケデケ』
宮部みゆき
『龍は眠る』
篠田達明
『法王庁の避妊法』
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候補者・作品
宮部みゆき女30歳×各選考委員 
『龍は眠る』
長篇 820
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女63歳
10 「超能力のテーマと、あとの誘拐事件の推理小説風テーマの乖離がやや苦しい。」「私には主人公の新聞記者が魅力があった。シリーズで読みたくなった。」
山口瞳
男64歳
14 「力のある作家だ。文章の密度が濃い。ただ私としては超能力とか輪廻転生には拒絶反応が働き、そもそもこれは反則ではないかという考えがある。それに女流作家が男を主人公にすると、男が子供っぽくなって、そのぶん少女小説や童話に近くなって、ゴツンとくるものがなくなる。」
陳舜臣
男67歳
11 「プロットが巧妙であり、文章もすぐれている。超能力の問題をとりあげた勇気を評価したい。冒険した分だけ減点されたかんじだが、向こう傷とおもってほしい。日本のミステリー界に新しい星が誕生したとおもう。」
五木寛之
男58歳
0  
黒岩重吾
男67歳
5 「最初の展開は面白いが、話が二つに割れたため、読むのが辛くなった。」
井上ひさし
男56歳
20 「随所にユーモアの感覚が閃き、会話もうまく、その上、作者は、破綻を恐れることなく(ということは、行儀作法を無視して)誘拐ものと超常能力者ものとの二つのジャンルを一つの物語にまとめあげようとしている。この知的冒険心を高く評価したい。」「ただし、物語の裏でひそかに進行している別の物語(引用者中略)の目鼻立ちがやや曖昧だったのは残念である。」
渡辺淳一
男57歳
5 「かなりの長篇であるが、長さに甘えて冗長で、オカルトとしても推理としても中途半端で終っている。」
平岩弓枝
女59歳
15 「面白さにおいては五作の中の随一だった。殊に前半のマンホールの殺人に関しては秀逸で、息を詰めて読まされてしまった。超能力者を、ミステリーに扱うことの是非はともかくとして、後半の高校の副理事長夫人の事件がややお手軽になってしまったのは残念至極。」
藤沢周平
男63歳
22 「主題が分裂している印象をあたえる作品だった。」「読者は迷路のような超能力者の内面よりは、すっきりした物語を読みたがるのではなかろうか。宮部さんは構想にすぐれうまい文章の推理小説を書くひとだが、この作品ではどこか計算違いがあって、せっかくの文章も生きなかったように思えた。」
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他の候補作
宮城谷昌光
『夏姫春秋』
芦原すなお
『青春デンデケデケデケ』
高橋義夫
『風吹峠』
篠田達明
『法王庁の避妊法』
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候補者・作品
篠田達明男53歳×各選考委員 
『法王庁の避妊法』
中篇集2篇 402
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女63歳
32 「主人公の生きかたや執念に感動させられたが、それは文学的感動とはやや異質のもののような気がして、当惑した。」「抉り方がもっと深ければ文学的感動が生まれたかもしれないと思ったりする。」「嫁姑の葛藤に筆を割いて、やや集中力が散漫になり、かんじんのテーマが淡々としすぎてしまったせいだろうか。」
山口瞳
男64歳
11 「几帳面で真摯な力作であるが嫁姑の争いなどが月並で興趣をそがれる。全体に平板で、妻を相手の荻野式の実験で、いよいよ妊娠させる段になると妻がイソイソとしてしまう件りなんかが面白いが、こういうエピソードがあと三つか四つないと直木賞の対象となりにくい。」
陳舜臣
男67歳
16 「興味あるテーマだが、それを平板に語りすぎている。伝記のダイジェストを物語りふうにしたかんじがする。」「それでも篠田氏の文章は、かつての候補作にくらべてずいぶん進歩している。あるいは作風の垢抜けが、作品を平板にみせたのかもしれない。」
五木寛之
男58歳
0  
黒岩重吾
男67歳
0  
井上ひさし
男56歳
20 「とても勉強になることが書かれているが、作者はすべてを行儀よく自己の管理下においてしまった。作中のどこにも火花が散っていない。」「作者は少し行儀がよすぎるのではあるまいか。小説家としての企みがもっとあればとおもった。」
渡辺淳一
男57歳
11 「荻野博士の研究と嫁姑の問題と話が二つに割れているのが興を殺ぐ。」「たんに話の面白さや奇抜さだけで小説を書くかぎり、読者を感動させることは難しい。」
平岩弓枝
女59歳
5 「オギノ式とはこういうことだったのかとびっくりさせられた。」「好短編だが、あとがきで損をしてしまった。」
藤沢周平
男63歳
24 「二つの作品(引用者注:「法王庁の避妊法」と「ウサギの耳」)ともに書くべきことを書いているものの、それ以上ののびが感じられない点が物足りなかった。感動的な場面も書かれているけれど、その感動が読み手に伝わってこないのである。」
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他の候補作
宮城谷昌光
『夏姫春秋』
芦原すなお
『青春デンデケデケデケ』
高橋義夫
『風吹峠』
宮部みゆき
『龍は眠る』
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