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井上ひさし
Inoue Hisashi
生没年月日【注】 昭和9年/1934年11月16日~平成22年/2010年4月9日
在任期間 第88回~第142回(通算27.5年・55回)
在任年齢 48歳1ヶ月~75歳1ヶ月
経歴 本名=井上廈(イノウエ・ヒサシ)。山形県生まれ。上智大学文学部卒。
受賞歴・候補歴
  • 第13回芸術祭賞[脚本奨励賞](昭和33年/1958年度)「うかうか三十・ちょろちょろ四十」井上廈名義《戯曲》
  • |候補| 第16回「新劇」岸田戯曲賞(昭和46年/1971年)「表裏源内蛙合戦」《戯曲》
  • 第7回斎田喬戯曲賞(昭和46年/1971年)『十一ぴきのネコ』《戯曲》
  • 第17回「新劇」岸田戯曲賞(昭和47年/1972年)「道元の冒険」《戯曲》
  • 第22回芸術選奨文部大臣新人賞[演劇部門](昭和46年/1971年度)『道元の冒険』《戯曲》
  • 第67回直木賞(昭和47年/1972年上期)「手鎖心中」
  • 第6回小説現代ゴールデン読者賞(昭和47年/1972年下期)「いとしのブリジット・ボルドー」
  • |候補| 第9回吉川英治文学賞(昭和50年/1975年)『いとしのブリジット・ボルドー』
  • |候補| 第10回吉川英治文学賞(昭和51年/1976年)『ドン松五郎の生活』
  • |候補| 第11回吉川英治文学賞(昭和52年/1977年)『偽原始人』『新釈遠野物語』
  • 第31回読売文学賞[戯曲賞](昭和54年/1979年)『しみじみ日本・乃木大将』『小林一茶』《戯曲》
  • 第14回紀伊国屋演劇賞[個人賞](昭和54年/1979年)『しみじみ日本・乃木大将』『小林一茶』《戯曲》
  • |候補| 第15回吉川英治文学賞(昭和56年/1981年)『下駄の上の卵』
  • 第2回日本SF大賞(昭和56年/1981年)『吉里吉里人』
  • 第33回読売文学賞[小説賞](昭和56年/1981年)『吉里吉里人』
  • 第13回星雲賞[日本長編部門](昭和57年/1982年)『吉里吉里人』
  • 第20回吉川英治文学賞(昭和61年/1986年)『腹鼓記』『不忠臣蔵』
  • |候補| 第40回日本推理作家協会賞[評論その他部門](昭和62年/1987年)『「ブラウン神父」ブック』
  • 第15回テアトロ演劇賞(昭和63年/1988年)「昭和庶民伝」《戯曲》
  • 土木学会賞著作賞(平成2年/1990年)『四千万歩の男』
  • 第27回谷崎潤一郎賞(平成3年/1991年)『シャンハイムーン』
  • |候補| 第1回鶴屋南北戯曲賞(平成9年/1997年度)『紙屋町さくらホテル』《戯曲》
  • 第47回菊池寛賞(平成11年/1999年)
  • 第9回イーハトーブ賞(平成11年/1999年)
  • 朝日賞(平成12年/2000年度)"知的かつ民衆的な現代史を総合する創作活動"
  • 第3回織部賞(平成13年/2001年)
  • 第44回毎日芸術賞(平成14年/2002年度)『太鼓たたいて笛吹いて』
  • 第6回鶴屋南北戯曲賞(平成14年/2002年度)『太鼓たたいて笛ふいて』《戯曲》
  • 文化功労者(平成16年/2004年)
  • 第60回NHK放送文化賞(平成20年/2008年度)
  • 第65回日本藝術院賞[+恩賜賞][文芸](平成20年/2008年度)"戯曲を中心とする広い領域における長年の業績"
直木賞候補歴 第67回受賞 「手鎖心中」(『別冊文藝春秋』119号[昭和47年/1972年3月])
サイト内リンク 直木賞受賞作全作読破への道Part3
備考
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下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。

直木賞 88 昭和57年/1982年下半期   一覧へ
選評の概要 掠奪されつつ 総行数67 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男48歳
候補 評価 行数 評言
赤瀬川隼
男51歳
33 「文章は平明な上に心象を捕まえる力が強く、しかも一人よがりの飾りもなく、一等賞だと思います。」「作者の世代にとって野球と平等主義とは一対をなすものであったにちがいなく、たとえ片腕を失おうとも、このゲームの善き平等主義をどこかで支えようという意地は失っていないぞ、と低い声でであるが、たしかにうたっているところに、さわやかな感動をおぼえました。」
  「かねてから、「娯楽小説の大切な部分が、他から掠奪されつづけている」という感想を抱いています。」「いずれにせよ言葉、文、文章が大事。」
選評出典:『オール讀物』昭和58年/1983年4月号
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直木賞 89 昭和58年/1983年上半期   一覧へ
選評の概要 粒ぞろい 総行数58 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男48歳
候補 評価 行数 評言
連城三紀彦
男35歳
20 「もっとも気に入った」「作者の作風の変化は、わたしには好ましくおもわれた。」「この作品では、トリックは低みから、武骨で(原文傍点)善良な老女の人柄から発せられている。このトリックの仕掛け方がじつにトリッキイであって、作品は厚みをもった。」
北方謙三
男35歳
20 「もっとも気に入った」「平明で速度感のある文体のせいで、彼(引用者注:主人公)の感慨には読者を吸い寄せる力がある。ただ結末が悲劇で終るのは「切ない」気もするが、とにかくこの作者の才能には敬意をもつ。」
男58歳
21 「主人公がいくら単純でも無邪気でもかまわないが、それを見つめている作者に、主人公を戦場へ引きずり出した国家や、主人公にこれほどの苦しみを強いる戦争に対する勘考がほとんどない。このことにかすかに不審の念をいだいた。ただしこの気持は、作者の物語づくりにかける執念に圧倒されて、ときおりどこかへ消え去ってしまうのであるが。」
山口洋子
女46歳
11 「むやみにうまい。女主人公をみつめる作者の目は、鋭さとあたたかさの両極を持ち合せており、うまさはそこから発しているようである。」
選評出典:『オール讀物』昭和58年/1983年10月号
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直木賞 90 昭和58年/1983年下半期   一覧へ
選評の概要 選評 総行数90 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男49歳
候補 評価 行数 評言
男54歳
13 「物語はパターン通りに進行するが、それが読む者には非常に快いのである。パターン通り、定石通りの物語が、言葉を信じさえすれば(原文傍点)、骨太な神話になることを作者はよく知っていた。」「今回はこれだと思いながら、わたしは会場へ向ったのだった。」
男55歳
15 「そういう日常(引用者注:よく吟味された日常)の積み重ねによって培われた趣味が、これらの数篇を作者に書かせたのである。ただし十七篇全部を見わたすと凸凹ありすぎる。たとえば「警戒水位」(凸)と「季節労働者」(凹)とが同じ作者によるものとは、ほとんど信じがたい。」
選評出典:『オール讀物』昭和59年/1984年4月号
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直木賞 91 昭和59年/1984年上半期   一覧へ
選評の概要 達意の文章を 総行数73 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男49歳
候補 評価 行数 評言
男36歳
11 「まさにそのような文章(引用者注:伝達力があって、表現そのものとしても魅力がある文章)で書かれています。しかも物語は、人間心理への深い洞察に支えられていて、新鮮です。」
男47歳
15 「素朴すぎるほど素朴な文章で、癖のないのが癖、とでもいったような不思議な味わいがあります。」「どうしてその芸が観客の拍手を得ることができたのか、小説の読者にはよくわからないところに強い不満をおぼえました。けれどもいくつかの感動的な人生断片が最後にその不満を退けてしまいました。」
山口洋子
女47歳
12 「伝達と表現という二つの文章条件を満足させています。」「作者の目が神の目に近づきすぎ、すべてが綺麗に割り切れすぎているところにかすかな異和感をおぼえました。しかし作者は頭抜けて巧者です。」
選評出典:『オール讀物』昭和59年/1984年10月号
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直木賞 92 昭和59年/1984年下半期   一覧へ
選評の概要 選評 総行数65 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男50歳
候補 評価 行数 評言
赤瀬川隼
男53歳
46 「審判たちはそのへんのスター選手など及びもつかない起伏に富んだ人生経験を持っているが、その人生経験がゲームの展開へ微妙な影を落すことを、作者はきびきびした文体でみごとに表現している。」「野球という国民的ゲームを新しい視座から見ようとする冒険がある。」「内容、型式、文体、三拍子そろった傑作である。」
選評出典:『オール讀物』昭和60年/1985年4月号
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直木賞 93 昭和60年/1985年上半期   一覧へ
選評の概要 小説づくりの巧みさ 総行数80 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男50歳
候補 評価 行数 評言
女48歳
20 「「老梅」は完璧すぎて作者の仕掛けたことが逆にかえってあらわになってしまった。「演歌の虫」は捨身の力作で欠点も多いかわりに、美点もまた多い。」「この賞の性格として「作家賞」というものが許されるのであれば、山口洋子さんがその筆頭であるだろうと思った。」
  「今回はこれはと思う作品がなかった。」
選評出典:『オール讀物』昭和60年/1985年10月号
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直木賞 94 昭和60年/1985年下半期   一覧へ
選評の概要 上質な微苦笑 総行数70 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男51歳
候補 評価 行数 評言
男60歳
17 「各所にいささか傷はあるものの、これは名作である。どんな端役にも人間の血が色濃く、あたたかく流れている。構成もすこぶる知的である。この構成法がひとつの作品を人情物語にも、諧謔小説にも、また推理小説にもした。これは稀有のことである。」
落合恵子
女41歳
12 「はじめて候補にのぼった時分とくらべて、失礼だが大変な腕の上げようだと舌を巻いた。もっとも技術が洗練されるにつれて登場人物たちが小綺麗に、まとまりよく仕上ってしまうという危険もないではない。しかし筆者はこの作品に九十点はさしあげたい。」
女31歳
12 「じつに巧者である。けれどもどちらの作品でも、女主人公は世故くて薄汚い。」「ただし四期連続して強力な候補作を書きつづけるという力量は上々吉であって、これには素直に脱帽すべきだろう。」
選評出典:『オール讀物』昭和61年/1986年4月号
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直木賞 95 昭和61年/1986年上半期   一覧へ
選評の概要 田之助の扱いの妙 総行数60 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男51歳
候補 評価 行数 評言
女56歳
52 「作者の最近の仕事ぶりは丁寧で細心、じつに用意周到である。」「たとえば一代の人気役者で、脱疽で両手両足を切断することになるあの沢村田之助の使い方(原文傍点)ひとつを見てもよくわかる。」「いまだに筆者は三作(引用者注:「恋紅」「忍火山恋唄」「百舌の叫ぶ夜」)に甲乙をつけられないでいる。」
逢坂剛
男42歳
29 「気合いの入った剛直な出来栄えで、結末の、関係者が一堂に会しての謎解き場面には胸が躍った。」「いまだに筆者は三作(引用者注:「恋紅」「忍火山恋唄」「百舌の叫ぶ夜」)に甲乙をつけられないでいる。」
泡坂妻夫
男53歳
29 「新内を扱いながら、じつは作品全体が新内そのもののように仕上ったという巧緻をきわめた作品である。」「いまだに筆者は三作(引用者注:「恋紅」「忍火山恋唄」「百舌の叫ぶ夜」)に甲乙をつけられないでいる。」
選評出典:『オール讀物』昭和61年/1986年10月号
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直木賞 96 昭和61年/1986年下半期   一覧へ
選評の概要 一頭地抜けた三作 総行数70 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男52歳
候補 評価 行数 評言
男55歳
28 「一見、素気ない作品のように見えるが、各所に仕組まれた小説的仕掛けは特筆に値いする。」「登場人物たちを描出する手際もあざやかだ。たとえば父親。ここ十年来の日本の小説にあらわれた父親像の、これは白眉である。」
男43歳
23 「日本編におけるユーモアは稀代のものすごさ、これにはただただ舌を巻くしかない。」「スペイン編では、作品という名の小宇宙を統べるルールが崩れて惨々たる展開になるが、それでもまだたっぷりお釣りがくる。」
  「三作授賞(引用者注:「遠いアメリカ」「カディスの赤い星」「ダウンタウン・ヒーローズ」)ということでもいいと思って選考会に出かけたのである。」
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年4月号
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直木賞 97 昭和62年/1987年上半期   一覧へ
選評の概要 小説の伝統を生かした二作 総行数79 (1行=14字)
選考委員 井上ひさし 男52歳
候補 評価 行数 評言
男55歳
36 「こういう仕立ての大小説の場合、主人公の魅力もさることながら脇役たちがおもしろくなければどうにもならない。しかしこの作品には小金吾という千両役者がいた。評者は、じつをいえばこの小金吾に一票を投じたのである。」
女28歳
58 「悪文も徹底すればいつしか詩を孕み、機智の稔りをもたらし、そして揺ぎない個性と化す。その典型的な例(引用者中略)である。」「物語の部分のコード進行はびっくりするほど古風で正統的であり、むかし読んだ「セブンティーン」誌掲載の好短編を思い出したりした。」
  「(引用者注:受賞の二作は)両極端とも思えるほど様子のちがう作品である。」「だがその二作品が同時に受賞するところに直木賞のすばらしい間口の広さがある。」
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年10月号
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直木賞 98 昭和62年/1987年下半期   一覧へ
選評の概要 謎の解明が生む感動について 総行数169 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男53歳
候補 評価 行数 評言
男54歳
29 「(引用者注:「それぞれの終楽章」「オールド・ルーキー」「幽霊記」のうち)どれが受賞しても妥当であると考えた。」「思いもかけない強い感動があった。高校時代の親友の謎めいた急死が、《人々によって自分は影響をあたえられ、つくりあげられた。(引用者中略)自分はこれらの人々の人生を文字にする仕事をはじめなければならない。彼らを生かすことで自分も生きる。》という発見によって解明されるとは、なんと意外で、快いことだろう。」
長尾宇迦
男61歳
10 「(引用者注:「それぞれの終楽章」「オールド・ルーキー」「幽霊記」のうち)どれが受賞しても妥当であると考えた。」「熱気ある筆はときどき筆者をして、「これこそ小説だ」と叫ばしめた。」
赤瀬川隼
男56歳
12 「(引用者注:「それぞれの終楽章」「オールド・ルーキー」「幽霊記」のうち)どれが受賞しても妥当であると考えた。」「低くて謙虚な姿勢から諧謔をまじえて実人生をとらえる作風はかねてから傾倒するところ」
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年4月号
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直木賞 99 昭和63年/1988年上半期   一覧へ
選評の概要 読み手のよろこび 総行数137 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男53歳
候補 評価 行数 評言
男48歳
27 「私は推す作品を、景山、西木、小松の三作品に決めていた。」「小説といえど社会の函数であるとする作者の覚悟に心を打たれた。」「とくに『端島の女』の仕掛けはみごと! のひとことに尽きる。」「詩情もあり、この作家はやがて現代日本の叙事詩を書くかもしれない。」
男41歳
47 「私は推す作品を、景山、西木、小松の三作品に決めていた。」「もっとも感心した」「文体の変化と呼応して、物語の質がまた変る。」「チャランポランに書かれているように見えて、じつは細心の計算がなされているようである。」「くり返しになるが、私は景山氏の、のびのびとした素質のよさに、ほんとうに感心してしまった。」
小松重男
男57歳
20 「私は推す作品を、景山、西木、小松の三作品に決めていた。」「コツコツ働くものは装置をもった人間どもに結局は敗れるが、しかしそれでもコツコツ働くしかないという庶民の歌には泣かされた。」「私はとても好きだ。」「「話が古い」という評言もあり、その意味もわかるが、なんだか惜しい。」
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年10月号
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直木賞 100 昭和63年/1988年下半期   一覧へ
選評の概要 七つの冒険 総行数96 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男54歳
候補 評価 行数 評言
女39歳
38 「小説としてどうかということになれば、(引用者中略)ひとつもふたつも抜き出ていたように思われる。」「人物たちの関係の微妙な反響の仕合い、その関係の移り渡りの鮮やかさはどうであろう。」「さらに云えば、この小説には物語を完成させることをすくなからず拒否しているところがある。」「作者のその姿勢に寄り添うことができれば、これはじつに上等な小説として読める。」
女35歳
32 「小説としてどうかということになれば、(引用者中略)ひとつもふたつも抜き出ていたように思われる。」「すこぶる気持のよい作品である。最後の頁を読み終えたときの至福感、これをなににたとえようか。」「これほど励まされた小説は近ごろ稀である。」
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年3月号
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直木賞 101 平成1年/1989年上半期   一覧へ
選評の概要 二つの奇蹟 総行数81 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男54歳
候補 評価 行数 評言
男40歳
29 「物語になりそうもない小事件の背景を捜査して骨太の物語をつくりあげた」「たしかにこの作者の文章は型どおりである。」「われわれ日本人の深層に根深くひそむアジア蔑視をなんとしてでもえぐり出そうという作者の意思力が、型どおりの感動をすべて黄金に変えてしまったのだ。」
男41歳
23 「日常生活がドラマそのものだということを発見した」「作者の使いこなす小説言語のみごとさがすべての欠点を覆いかくしてしまった。正確でありながら柔軟、厳密でありながら自在、指示機能や記述機能を十全に果しながら、どの文のなかでも言葉は生き生きと跳ねている。」
  「使い古された表現にたよって云えば、今期の候補作は「粒揃い」であったと思う。」
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年9月号
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直木賞 102 平成1年/1989年下半期   一覧へ
選評の概要 一燃料補給員の弁 総行数117 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男55歳
候補 評価 行数 評言
男68歳
26 「短い枚数で三つの人生を描きつくすという困難な事業が、静かに(原文傍点)成就しているところ、上々吉である。」「三つの文体が、書き手によって選ばれたのではなく、題材そのものがそれらの文体で書くように要求しているかの如くに見えるところ、結局は作者がそれを書くのにちがいないが、しかし題材から自然にその文体が選ばれたように見せる工夫――そこに唸ったのである。」
男43歳
17 「いくら瀕死の状態にあるとはいえ、母がわが子の《細い首に両手をかけて……》(二七一ページ)楽にしてやるかどうか、これは大いに議論の分れるところだろう。しかしわたしは、そこまでのすばらしい出来栄えを買った。文章がいい。ユーモアの感覚がいい。」「たくさんの長所と大きな欠陥とを秤にかけて、長所の方を慶賀すべきだろうと考えたのである。」
選評出典:『オール讀物』平成2年/1990年3月号
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直木賞 103 平成2年/1990年上半期   一覧へ
選評の概要 読者の存在 総行数112 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男55歳
候補 評価 行数 評言
樋口有介
男40歳
22 「今回、もっとも堪能した」「風俗の活写、青春群像の彫琢、みんなうまく行っている。」「だが、この作品はじつは推理小説のスタイルで書かれており、そうなると、たとえば睡眠薬の錠数といったことが問題にならざるを得ない。どう勘定しても数が合わぬのである。そこで推薦の辞も自然弱くなる。この作品と心中してもいいと思っていただけにとても残念である。」
男57歳
10 「名人芸の所産である。名人芸だけに、たまに凡百の読者を置き去りにして独走するところがある。そこに微かな不安もなくはなく、また、作者の恋愛観にも多少の不満はある。がしかし圧倒的な名人芸がそういった不安や不満を押し流してしまった。」
選評出典:『オール讀物』平成2年/1990年9月号
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直木賞 104 平成2年/1990年下半期   一覧へ
選評の概要 おもしろく、かつ深く 総行数72 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男56歳
候補 評価 行数 評言
男65歳
33 「藤原義江が人生の転機にさしかかるたびに現われる善意の人びとを入念に描くことで、作者は「人が人を創る」という人生の真実の一つを読者に分かち与えることにみごとに成功した。」「また、読後の読者は「人生とはものさびしいものだ」という感想を抱かれるかもしれない。この一種の哀感は、作者の年輪が自然に紡ぎ出したものにちがいない。」
宮城谷昌光
男45歳
18 「構想は中国古代に材を仰いですこぶる広大、文章は格調高く、かつ融通無碍、しかもそのおもしろさは彼の三国志をさえ凌ぐかとおもわれ、「これは大変な書き手が現われたものだ」と度胆を抜かれた。」「最後まで、この作品と「漂泊者のアリア」(古川薫)との二作受賞にこだわらざるを得なかった。」
  「「読んでいるあいだはとてもたのしく、そのなかからこれはという一作にしぼるのは、かなりむずかしかった」というのが、評者の率直な感想である。」
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年3月号
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直木賞 105 平成3年/1991年上半期   一覧へ
選評の概要 行儀のよさ、わるさ 総行数117 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男56歳
候補 評価 行数 評言
男46歳
18 「ちょっと押しつけがましい文明批評や人物批評、それから、むやみに雑知識をひけらかすところなど、作者の筆はずいぶん行儀が悪いが、しかし、おおもとにある情熱が純なので、その行儀の悪さがみごとに愛敬のよさに転化している。この情熱の強さと熱さと量とに脱帽する。」
男41歳
33 「前半がすばらしい。」「さまざまな登場人物たちを一筆でさっと印象的に描いてしまうところにも才能を感じた。ところが、物語が終わりに近づくにつれて、すべての回転が弱まってくる。」「だが、作者は、後半のこの大失点を補って余りある大量の得点を、すでに前半で挙げていた。それほど、この作品の前半はすばらしい。」
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年9月号
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直木賞 106 平成3年/1991年下半期   一覧へ
選評の概要 粒よりの力作揃い 総行数110 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男57歳
候補 評価 行数 評言
男46歳
19 「平凡な非凡さで光る。」「いやなやつのよさ、いいやつのよわさ、作者は登場人物ひとりひとりのいろんな面に描写の光を当てる。その方法が人生の深さと重さとを摘出させるわけで、評者は、作者の長年の努力がここに見事に結実したことを喜ぶ。」
男44歳
21 「物凄い秀作があった。「ねじれた記憶」がそれで、深夜、ひとり個室で合わせ鏡の中の自分の姿を見たときのような怖ろしさを味わった。」「小説の題材も形式もすべて書きつくされたという噂さえあるのに、これはまったく新手の物語構造である。」
  「今回の候補作はどれもみな読み応えがあった。」
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年3月号
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直木賞 107 平成4年/1992年上半期   一覧へ
選評の概要 言葉と企み 総行数131 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男57歳
候補 評価 行数 評言
男42歳
30 「多言を要すまい。とてもよくできている。」「作者の駆使する言葉は、その一つ一つがいい意味で情緒に濡れていて読む側の心を動かす。」「つつましくキラリと光るものを持ち、かつ巧みに企まれた小傑作が七つも収められているのだから、これは立派な一冊と言わねばならない。」
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年9月号
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直木賞 108 平成4年/1992年下半期   一覧へ
選評の概要 練達の作 総行数164 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男58歳
候補 評価 行数 評言
男48歳
41 「文章にやや臭み(「いかにも玄人の、プロならではの」という言い方も出来るが)はあるものの、単に意味を伝達するだけではない徳、つまり作者の駆使する言葉そのものがおもしろさと美しさを備えており、かつ的確(とくに、主人公が彫物をする場面)でもある。」「読者はとても気分よく巻を閉じることができるわけで、すべてをひっくるめて作者はまことに練達である。」
宮部みゆき
女32歳
47 「大いに感心し、選考という立場を忘れて夢中で読んだ(文章がいいから読者の邪魔をしない)。」「じつによく出来た風俗小説として読んだ。たとえばバルザックのようなという形容句を呈しても褒め過ぎにはならないだろう。持てる力と才能を振り絞って「現在そのもの」に挑戦し、立派に成功をおさめたその驚くべき力業に何度でも最敬礼する。」
選評出典:『オール讀物』平成5年/1993年3月号
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直木賞 109 平成5年/1993年上半期   一覧へ
選評の概要 圧倒的な膂力 総行数101 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男58歳
候補 評価 行数 評言
女40歳
24 「圧倒的な膂力の持主である。それ以外に評言の用意がない。」「この作品で作者は、真知子という善悪をはるかに超えた「人生の泥と涙にまみれて人を愛する女」を創造し、読者との関係をしっかりと付けた。彼女の愛は、推理小説だの警察小説だのといった狭い枠を越えて、はるか普遍の愛にまで達している。」
中島らも
男41歳
18 「作者の才筆は今回も読者を堪能させてくれる。」「その手腕に喝采を惜しむものではないが、今回は物語の勘どころに破綻があったようだ。」「それでもこの作品に合格点をつけたのはおもしろさでは際立っていたからであるが、やはり支持する声は少なかった。」
女55歳
16 「彼女たち(引用者注:登場人物たち)の自立が、常に自分より劣った男性を踏み台にして成し遂げられるところに軽い不満を抱いていたが、選考者の皆さんの熱い支持の言葉に耳を傾けているうちに、その不満はきれいに消えた。読み直せば、爽やかさがゆっくりと立ち上ってくるような佳品揃い、結末も定型を外していて気品がある。」
選評出典:『オール讀物』平成5年/1993年9月号
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直木賞 110 平成5年/1993年下半期   一覧へ
選評の概要 高い水準 総行数132 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男59歳
候補 評価 行数 評言
男37歳
26 「物語の展開は快調、とにかくおもしろい。舌を巻くばかりの筆力である。」「登場人物たちの織り出す人生の織物は厚くて豪奢である。もちろん欠点はある。たとえば今回の悪玉には「悪の哲学」がない。あるとしても弱い。」「現在感覚に溢れて生き生きとした作品だ。今回は水準が高かったが、その高い水準をこの作品はさらに頭ひとつ抜いている。」
内海隆一郎
男56歳
19 「過去の重い時間を引き摺りながら、現在、出来うる限りの努力をし、未来に一条の希望の光を見ようとする人たちが大勢、登場する。」「さらにもう一つ、作者はそれらの人びとに「心のやさしさ」を与えている。ここがいわば議論の分れ目で、だから印象が淡い、美談仕立てだという意見があり、だから気持がいいという意見も生まれる。今回の評者は後者の立場、しかし力が及ばなかった。」
男52歳
13 「なによりもその着眼で光っている。」「物語そのものは常套で、また会話と地の文の関係が手拍子で進行する個所も多く、ハテと思うところは少くなかったけれども、そういった疵をすべて着眼のすばらしさが消した。勉強になる小説だ。」
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年3月号
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直木賞 111 平成6年/1994年上半期   一覧へ
選評の概要 俊英、勢揃い 総行数175 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男59歳
候補 評価 行数 評言
男45歳
52 「六作中、もっとも感心した」「たとえ会津物に抵抗がある読者でもここまで巧みに仕組まれれば文句のつけようがあるまい。」「なによりもめざましいのは、氏が会津という固有の土地を掘っているうちに日本人の普遍的な行動原理に突き当たったこと。」
久世光彦
男59歳
18 「文章のすばらしさについてはすでに定評がある。」「大正期に生まれて昭和初期に都市大衆のものとなった「文化」生活の微細な陰影、それを文章としてここまでしっかりと取り出した氏の力量はだれもが認めるところであろう。この一点だけでも充分、受賞に価すると考えたのだが……。」
男44歳
21 「二千語か三千語程度の平易な言葉だけで人生の真実を描き出そうとする氏の文体改革の熱意に深い敬意を抱いている。」「しかし登場人物たち、とくに女性に対する作者の甘い媚びに抵抗がある。もちろんこれは趣味の問題であって、評者の女性観の方がかえって歪んでいるのかもしれないが。」
  「今回の予選通過作品を見て、「俊英たちが今ここに勢揃いしている」という戦慄にも似た思いを抱き、すこぶる緊張した。」
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年9月号
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直木賞 112 平成6年/1994年下半期   一覧へ
選評の概要 名作あり 総行数100 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男60歳
候補 評価 行数 評言
志水辰夫
男58歳
29 「「赤いバス」は掛け値なしの名作、新作にしてすでに古典であると云ってもいい。」「この短編集の主調音を、たとえば「さまざまな死」と捉えることができようが、残念なことにその後は同工異曲がつづく。しかし一編でもこのような名作があるなら受賞してもおかしくないと考えたが、強い支持が得られなかった。」
選評出典:『オール讀物』平成7年/1995年3月号
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直木賞 113 平成7年/1995年上半期   一覧へ
選評の概要 野球小説の白眉 総行数144 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男60歳
候補 評価 行数 評言
男63歳
28 「氏のすぐれた資質がよくあらわれている。すなわち、行儀よく均整のとれた物語をつくる技量、それを支える良質の文章。中でも「陽炎球場」は、氏のもう一つの長所である無垢で軽やかな幻想性を散りばめながらひときわまぶしく光っている。(引用者中略)これは名作だ。」
梁石日
男58歳
25 「大村収容所送りになる金を命がけで待つ女、初子がすばらしい。」「読者は、漢語を数多く駆使した独特の文体に最初のうちはてこずるが、先へ進むにつれて、そのごつごつした文体が金と初子の運命を描くのに最適であったことを理解する。」「『白球残映』とともに受賞に値すると考えて選考の席に臨んだ」
選評出典:『オール讀物』平成7年/1995年9月号
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直木賞 114 平成7年/1995年下半期   一覧へ
選評の概要 文章を思案すると 総行数164 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男61歳
候補 評価 行数 評言
女43歳
35 「文章力において(引用者中略)最高の達成をみている」「死者が語るという工夫は巧者なものであった。」「読み終わったとき、読者に『恋』という題名が、ちがった意味に見えてくる。凝縮度の高い華麗な文体で語られた不思議な恋の始まりと行く末、読んだかいがあった。」
男47歳
45 「文章力において(引用者中略)最高の達成をみている」「活発な精神の往復運動が独特の、得難いヒューモアを生み出している。話は深刻なのに、作品はどこを切り取っても質のいい諧謔で満たされているのだ。」「結尾の、関係者一同が寄り合ってすべてが解決するというご都合主義も、「謎解き」がこの作品の題目の一つであることを思えば、読者は喜んでこれを許すにちがいない。」
選評出典:『オール讀物』平成8年/1996年3月号
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直木賞 115 平成8年/1996年上半期   一覧へ
選評の概要 二作受賞の夢 総行数98 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男61歳
候補 評価 行数 評言
女35歳
64 「(引用者注:「蒼穹の昴」との)二作受賞を心から願っていた。」「たしかに話の作り方では成功したとは言いかねるが、主役と狂言回しとをかねた二人組の警官の人間創出に、高い水準でみごとに成功している。」
浅田次郎
男44歳
56 「(引用者注:「凍える牙」との)二作受賞を心から願っていた。」「李春雲と玲玲の兄妹がとくに生き生きと跳ねていて、たしかにここには「人間」がいた。」「ここで説かれている「浅田版清朝史」のおもしろさは格別であり、こんな大作を書き下ろしで書いてしまった作者の逞しい膂力にも脱帽した。」
選評出典:『オール讀物』平成8年/1996年9月号
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直木賞 116 平成8年/1996年下半期   一覧へ
選評の概要 てるという妖しい女 総行数121 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男62歳
候補 評価 行数 評言
女38歳
32 「御都合主義が目につく第三部と大きな欠点があるのに読了後、思わず物語の余韻に耳を澄ませてしまうのは、厚塗りの文章に導かれながら悲痛この上ない人間たちの営みをたしかに見たからにちがいない。とりわけ鍵蔵の妻てる(じつは山妣の娘)に感心した。」
  「なによりもまず評者は、最近の新鋭たちの奔馬空を行くが如き旺盛な筆力に、満腔の敬意を表するものである。」
選評出典:『オール讀物』平成9年/1997年3月号
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直木賞 117 平成9年/1997年上半期   一覧へ
選評の概要 粒選りの中の粒選り 総行数146 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男62歳
候補 評価 行数 評言
女41歳
35 「粒選りの中でも、さらに高い質を誇っていた。」「なにより感心するのは、現代女性が自分の人生をどう選ぶのか、あるいは選んでしまうのかを、人生の関頭に立つその姿を、もっと云えば、彼女たちの人生の大切な瞬間を、生き生きとしたリズムを内蔵する文章と弾みに弾む会話と軽やかなユーモアをもって描き出したことで、そこにこの作品の栄光がある。」
男45歳
27 「粒選りの中でも、さらに高い質を誇っていた。」「八つの短編が収められているが、うち四つは大傑作であり、のこる四つは大愚作である。大傑作群に共通しているのは、「死者が顕われて生者に語りかける」という趣向で、この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ。たとえば「角筈にて」を読まれよ。(引用者中略)この一編で、大愚作群の欠損は充分に埋められたと信じる。」
  「今回は粒選りが揃った。」
選評出典:『オール讀物』平成9年/1997年9月号
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直木賞 118 平成9年/1997年下半期   一覧へ
選評の概要 度がすぎれば毒 総行数176 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男63歳
候補 評価 行数 評言
桐野夏生
女46歳
55 「今回、評者がもっとも高い評点をつけた」「冒頭の弁当工場の夜勤の光景から第一の死体解体のあたりまでは快調そのものの運びで、まったく完璧である。」「クライマックスは、作者の意図は充分に尊重しながらも、一読者としては、「話をややこしくしすぎて、最後が絵空事になってしまったのでは……。惜しい」と呟やかざるを得なかった。」「評者は最後までこの作品を推したが、しかし最後の最後に折れてしまった」
  「最近の新鋭たちは謎を作りすぎていないか。」「物語を複雑にしすぎているように見える。もう一つ云えば、物語をできるだけややこしく作ろうとする癖がある。」
選評出典:『オール讀物』平成10年/1998年3月号
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直木賞 119 平成10年/1998年上半期   一覧へ
選評の概要 秀作を得てよろこぶ 総行数153 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男63歳
候補 評価 行数 評言
男53歳
33 「(引用者注:「血と骨」を)凌駕する秀作」「小説は、ことばで人間を、そしてその人間と他の人間との関係を映し出す仕事だが、その完璧な見本がここにある。」「心中未遂は、いったん「死」を通って「生」へ再生する儀式である。その儀式を終えたアヤちゃんが、「たとえそこが地獄でも生きねばならぬ」と思い定める結末に、人間という存在に寄せる作者の深い愛を読んで、思わず涙がこぼれた。」
梁石日
男61歳
20 「リチャード三世とリア王を合わせたような神話的人物を創造し得た傑作である。」「瑕は多いのだが、それでもとにかく、金俊平という途方もない巨人をみごとに出現させ、十二分に生きさせ、そして完膚なきまでに老いぼれさせたところは、一つの文学的偉業であった」
選評出典:『オール讀物』平成10年/1998年9月号
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直木賞 120 平成10年/1998年下半期   一覧へ
選評の概要 巨きな作品 総行数124 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男64歳
候補 評価 行数 評言
女38歳
35 「バブル期の日本人のいくつかの典型を、もっと言えば、「世間が怖い、隣人が怖い」とおびえる日本人の現在を真正面から書き切った秀作である。」「つねに進んで現在と取り組もうという気丈な作家魂と、新工夫を怠たらぬ精進と、作者得意の定番の三つが一つになって、ここに巨きな作品が生まれたのである。」
選評出典:『オール讀物』平成11年/1999年3月号
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直木賞 121 平成11年/1999年上半期   一覧へ
選評の概要 「王妃の離婚」を推す 総行数159 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男64歳
候補 評価 行数 評言
男31歳
49 「わたしは、「王妃の離婚」(佐藤賢一)の作者の、すべてを知的な諧謔で処理しようという姿勢を支持するものの一人である。」「おもしろくて、痛快で、おまけに文学的な香気と情感も豊か。この作品を推すことに、わたしはいささかもためらわなかった。」
女47歳
32 「作者はついに読者に幼女失踪の真相を明らかにしようとしない。その意図はどうであれ、作者は読者を欺いている。……たしかにそう思わないわけでもないが、わたしは、作者の人間の死を徹頭徹尾モノとして扱う態度に心を動かされた。」「これはやはり一個の確固たる作品である。」
選評出典:『オール讀物』平成11年/1999年9月号
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直木賞 122 平成11年/1999年下半期   一覧へ
選評の概要 小説の古さと新しさ 総行数181 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男65歳
候補 評価 行数 評言
男61歳
46 「仕立ては古風である。」「それは四千曲に及ぶ歌詞の実作で得た作者独自の「歌論」をふんだんに盛り込むための作家的な戦略だったと思われる。」「歌を発掘するしか生きようがなかった二人の幸福な、しかしある意味では不幸な人生が、読む者の胸を打たずにはおかない。」
福井晴敏
男31歳
35 「滅法おもしろい冒険小説であり、同時に景気のいい国家論でもある。」「登場人物の大量生産と大量消費、そこにおもしろさの源泉があり、同時に底の浅さの原因もあった。」「国家論も扁平で、「攻撃的に平和を?むこともできるのではないか」という観点が欠けているが、とにかく評者は、作者の圧倒的な筆力を買って、「長崎ぶらぶら節」(なかにし礼)と並べて受賞作に推した。」
選評出典:『オール讀物』平成12年/2000年3月号
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直木賞 123 平成12年/2000年上半期   一覧へ
選評の概要 強く二作を推す 総行数151 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男65歳
候補 評価 行数 評言
男56歳
26 「壮大な主題を、無数の、豊かでおもしろい細部が支えて、じつに読み応えがある。」「闘士の感化を受けながら、自分の内にゆるやかに「志」を育てて行く少年の成長ぶりもさわやかで潔く、評者はこの作品を『GO』(金城一紀)と並べて強く推した。」
男31歳
20 「美点が数多くあるが、なによりも作者は、小説という表現形式を発見して嬉しがっている。小説と恋をしている。その喜びが、いたるところで踊っている。」「どこを取っても新鮮で生き生きしていて、とくに少年の〈オヤジ〉の造形の鮮やかさは特筆に値する。」
選評出典:『オール讀物』平成12年/2000年9月号
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直木賞 124 平成12年/2000年下半期   一覧へ
選評の概要 受賞作二作の魅力 総行数138 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男66歳
候補 評価 行数 評言
女38歳
22 「なによりもまず文章のよさで傑出している。」「加えて主題がいい。〈なぜ人は働かなければならないのか〉は、漱石の『それから』の代助以来の大主題。この根源的な主題を扱いながら、歯切れのよい文章で、小さいけれど魅力的な短篇群を紡ぎ出してみせた山本さんの作家的膂力に、感嘆符のたくさん咲いた花冠を差し出さずにはいられない。」
男37歳
26 「人間には今のままの人生しかない、大切なことは、これまでの営為に、今日もなにがしかの努力をささやかに重ねて行くことだと、自分を、そして読者を説得する。その小説的手続きのみごとさを買って、最終投票で一票投じた、もちろん重松さんのこれまでの質の高い仕事に敬意を表しながら。」
選評出典:『オール讀物』平成13年/2001年3月号
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直木賞 125 平成13年/2001年上半期   一覧へ
選評の概要 比類なく美しい構造 総行数147 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男66歳
候補 評価 行数 評言
男51歳
21 「どこをとっても寸分の瑕もない、みごとな作品」「過去と現在の、二つの時間が一つになるという構造が比類なく美しい。」「なによりも淳蔵という得恋の五十男が紙の中から立ち上がり、いまにも読者の体の寸法を採ってくれそうなほど、よく書かれている。」
奥田英朗
男41歳
28 「刮目し、歎服もした」「おもしろい細部、巧みな会話で、東京の衛星都市に住む、ある平凡な一家庭の転落過程が活写され、それだけでも元のとれる小説だが、この作者は途方もない描写トリックを仕掛けている。」「結末へ近づくにつれて、一人の刑事の再生物語の様相を呈しはじめる。なんという描写トリック、なんというあざやかさ。『愛の領分』(藤田宜永)と併せてこの作品を推した」
選評出典:『オール讀物』平成13年/2001年9月号
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直木賞 126 平成13年/2001年下半期   一覧へ
選評の概要 二つの家族小説 総行数176 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男67歳
候補 評価 行数 評言
男53歳
29 「江戸深川とそこで生きる人びとをひたと見据える気合い、それが全編に漲っていて、その劇しい気合いがいくつかの欠点(時代考証の勘違い、都合のよすぎる筋立て、凹凸のある描写)をきれいに消してしまってもいる。」「家族間の愛情の微妙なもつれを、第二部でいちいち訂正して行く構成がとても知的だ。」「とにかくすてきに気分のいい小説である。」
女46歳
35 「作者は、切れ味のいい対話や愉快な会話、女性に対する辛辣きわまりない批評、そしてラ・ロシュフコー張りの箴言を駆使しながら、軽快に物語を展開して行く。」「結末で、読者にこころの底から、「三人とも頑張って」と願わせてしまう力量はただものではない。軽さの中に骨太の主題を隠した快作である。」
選評出典:『オール讀物』平成14年/2002年3月号
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直木賞 127 平成14年/2002年上半期   一覧へ
選評の概要 小説の勝利 総行数215 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男67歳
候補 評価 行数 評言
男49歳
39 「(引用者注:「イン・ザ・プール」と)もう一つ、一番に推したのは、『生きる』(乙川優三郎)に収められた「安穏河原」という短篇、これもまたすばらしい作品である。」「母子二代にわたる二つの川岸の光景=記憶は、読者をこころからしあわせにし、同時に、人生の深みへ誘いもする。こんなことは他の表現方法ではできない。これこそ小説の勝利である。」
奥田英朗
男42歳
45 「現代人の病患を、恐るべき作意ときびしい自己凝視によって、みごとな作品に仕上げている。」「診る者と診られる者の逆転が、毎回、大量の笑いと良質の社会風刺を生む。じつに上等な滑稽小説で、この連作集を一番に推した。」
選評出典:『オール讀物』平成14年/2002年9月号
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直木賞 128 平成14年/2002年下半期   一覧へ
選評の概要 会社家庭小説の発明 総行数158 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男68歳
候補 評価 行数 評言
奥田英朗
男43歳
24 「この作者の場合、文章はつねに幾分かの諧謔味を含む。今回の作品も、一見平凡な会社小説のように見えて、そのじつは会社家庭小説という新形式であり、つねに頬笑む文章はその新冒険を柔らかく包んで、読む者をあきさせない。」「評者は、つねに頬笑む文章と会社家庭小説という発明が好みに合ったので、最後まで『マドンナ』を推した。」
  「粒選りの作品が集まると、あとは自分の好みで決めるしかない。」
選評出典:『オール讀物』平成15年/2003年3月号
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直木賞 129 平成15年/2003年上半期   一覧へ
選評の概要 傑作二作 総行数194 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男68歳
候補 評価 行数 評言
男43歳
37 「滑走感が快い。活字がさわやかな風となって読者へ吹き込んでくるかのようだ。」「なによりもすばらしかったのは、(引用者中略)風俗の泡の中に呑み込まれているかに見える少年たちが、じつは真っ当な、古典的ともいえる友情にもとづいて行動していることだった。」
女39歳
32 「〈限りなく一人称に近い三人称による多視点〉という語りをさりげなく駆使しながら、家族という運命共同体の罪深さ、その懐かしさを、明確でしなやかで滋味にあふれた文章でみごとに書き切った。」「物語の起点ですでに亡く、不在であるはずの母親が、構成員たちの話が進むにつれて次第に姿を現して来、ついには圧倒的な存在感を示す。」
選評出典:『オール讀物』平成15年/2003年9月号
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直木賞 130 平成15年/2003年下半期   一覧へ
選評の概要 巨大と堅緻と 総行数153 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男69歳
候補 評価 行数 評言
女39歳
45 「十二の短編には、すみずみにまで巧緻な工夫がほどこされている。」「作者はあなたの恋愛物語(個人的で絶対的な真実)の爆発に点火するだけですよと。これまであまり例のなかった〈読者参加の恋愛小説〉が、作者の緻密な言葉遣いによって、ここにみごとに成就した。」
男40歳
41 「もう多言を弄する愚は犯すまい、言葉だけでこれほど不思議な世界を、同時に明快な世界観を創り出した事業に拍手を送るばかりである。」「(引用者注:作者独特の文体が生み出す)リズムが読者を自然に作中へ導き入れてくれるが、まさにこのとき、読者は、物語が自分の中で発生していることを発見するにちがいない。」
選評出典:『オール讀物』平成16年/2004年3月号
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直木賞 131 平成16年/2004年上半期   一覧へ
選評の概要 秀作と快作 総行数185 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男69歳
候補 評価 行数 評言
男44歳
38 「物語構造そのものがすばらしい発明であるが、今回、作者はこの構造に絢爛たる笑いの花を満開に咲かせた。とりわけ、「ハリネズミ」と「義父のヅラ」には、さんざん笑ったあとに人生の真実にふれたような感動をおぼえ、前作同様に強く推した。」
田口ランディ
女44歳
22 「評者は買った。」「主題展開の軸を「富士山」に据えたのは、めざましい工夫だった。中でも「樹海」は、三人の少年の冒険を語りながら、森の夜のおそろしさを新鮮な文章で書き切っていて、胸おどる読書体験だった。」
男46歳
39 「狩りを生涯の仕事にした一人の男の人生を、揺るぎのない筆致で堂々と書き切った秀作である。」「とりわけ感服したのは、主人公が山の主であるコブグマに向かっていう次のような言葉である。〈俺はおめえの仲間をさんざん殺めてきたからの。かまわねえがら俺を喰え。俺を喰って力ばつけて生きながらえろ。(引用者中略)〉この視点を持つことによって、本作は二十一世紀の小説になった。」
選評出典:『オール讀物』平成16年/2004年9月号
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直木賞 133 平成17年/2005年上半期   一覧へ
選評の概要 作者の知恵 総行数158 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男70歳
候補 評価 行数 評言
男42歳
38 「いろとりどりだが、大切なのは六篇とも佳品であること、一篇の無駄打ちもないところに値打ちがある。」「中でも感心したのは「送りん婆」である。(引用者中略)呪文を知ったわたしたちが、それを使って病者をあの世送りできるかというと、じつはそうは行かない。そうは行かない理屈が揮っていて、そこに作者一流の知恵がある。」
古川日出男
男39歳
22 「戦後のアジア史そして世界史を丸ごと、軍用犬の眼から描くという離れ業、そこに作者の逞しい文学的腕力があらわれている。たしかに欠点がないでもないが、全編にみなぎる「小説は言葉で創るものだ」という気合いに、この作者の豊かな未来を視たようにおもう。」
三崎亜記
男34歳
22 「(引用者注:戦争を公共事業として捉えるという)視点の新鮮さに打たれた。」「この視点を発見しただけでも、作者の手柄は大きい。作中に、「公務によるラブシーン」が現れるが、この場面の透徹した美しさは、作者のすぐれた資質を証し立てている。」
選評出典:『オール讀物』平成17年/2005年9月号
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直木賞 134 平成17年/2005年下半期   一覧へ
選評の概要 力量は十分 総行数158 (1行=13字)
選考委員 井上ひさし 男71歳
候補 評価 行数 評言
男47歳
24 「(引用者注:「死神の精度」とともに)二作を推すことに決めていた。」「主人公の数学教師はホームレスを殺す。(引用者中略)他人の生命を踏みつけにしておいて愛もへったくれもないではないか……しかし、作者の力量は疑いもなく十分、そこで最後の一票を東野作品に投じた。」
伊坂幸太郎
男34歳
31 「(引用者注:「容疑者Xの献身」とともに)二作を推すことに決めていた。」「美点を満載した小説である。」「人間をよく知らない調査部員(死神)がつい幼稚な質問を発して、じつはそれが人間の営みに対する根源的な質問になっているという工夫には脱帽した。もっとも死神が常に全能であるのは疑問で、「死神の失敗や誤算が書かれていたら」という渡辺淳一委員の意見に同感した。」
選評出典:『オール讀物』平成18年/2006年3月号
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直木賞 135 平成18年/2006年上半期   一覧へ
選評の概要 この二作 総行数192 (1行=12字)
選考委員 井上ひさし 男71歳
候補 評価 行数 評言
女29歳
40 「感服した。」「街のたたずまいや人びとの息吹きがよく書けている。」「友情小説としても上出来である。」「本作は、ため息が出るほどみごとで爽やかな成長小説でもあった。」
女38歳
38 「感服した。」「どの登場人物たちも、このところ流行の「自分探し」という辛気くさい、不毛の蛸壺から這い出そうとしている。そこがとても清新だ。」「小説技法はとても巧み、それは、「ジェネレーションX」を読めば明らかだろう。」
  「今回は粒選りの作品が揃った」
選評出典:『オール讀物』平成18年/2006年9月号
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直木賞 136 平成18年/2006年下半期   一覧へ
選評の概要 三つの経験則 総行数127 (1行=12字)
選考委員 井上ひさし 男72歳
候補 評価 行数 評言
池井戸潤
男43歳
22 「いちばんいい点をつけて選考会に臨んだ。」「まことに古典的な物語設計だが、しかし細部が新鮮である。」「「文学的香気に乏しい」という批判の火が燃え上がり、評者はこれに十分に反駁できなかった。今は評者の力不足を嘆くばかりである。」
選評出典:『オール讀物』平成19年/2007年3月号
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直木賞 137 平成19年/2007年上半期   一覧へ
選評の概要 抜群の一作 総行数154 (1行=12字)
選考委員 井上ひさし 男72歳
候補 評価 行数 評言
女53歳
38 「『吉原手引草』のおもしろさと、そのみごとな仕上がりに勇んで票を投じた。」「読者はやがて、「遊里は一から十までウソの拵えものだが、その拵えものが、自分を拵え上げた現実に一矢むくいる」という、その現場に立ち合うことになる。ウソで世界の筋目を正すというのだから、痛快である。」「読み手を興奮させる小説の構造と小説の言葉があった、それも飛び切り上等の。」
  「今回の候補作はみんな上出来の作だった」
選評出典:『オール讀物』平成19年/2007年9月号
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直木賞 138 平成19年/2007年下半期   一覧へ
選評の概要 壮大な試み 総行数173 (1行=12字)
選考委員 井上ひさし 男73歳
候補 評価 行数 評言
女36歳
50 「試みは巨きく、そしてその試みはほとんど成功している。」「章が変わるにつれて時間が逆行して行き、そのつど読者はそのときどきの真相を知って絶句することになる。」「これを起きた順に書けば、あいだに二つの殺人もあるし、どろどろの近親相姦モノに成り果てて読むに耐えなかっただろうが、作者は(たぶん)ギリシャ悲劇の「オイデプス王」の構造をかりて時間を遡行させてどろどろ劇をりっぱな悲劇に蘇生させた。」
選評出典:『オール讀物』平成20年/2008年3月号
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直木賞 139 平成20年/2008年上半期   一覧へ
選評の概要 楔の問題 総行数166 (1行=12字)
選考委員 井上ひさし 男73歳
候補 評価 行数 評言
女47歳
42 「よく企まれた恋愛小説ではあるが、評者には退屈だった。あんまり話がなさすぎる。」「けれども、ここで実現された九州方言による対話は、これまでに類を見ないほど、すばらしいものだった。これほど美しく、たのしく、雄弁な九州方言に、これまでお目にかかったことがあっただろうか。」「最終投票で、評者は、この九州方言による対話に票を投じた。」
選評出典:『オール讀物』平成20年/2008年9月号
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直木賞 140 平成20年/2008年下半期   一覧へ
選評の概要 意中の三作 総行数146 (1行=12字)
選考委員 井上ひさし 男74歳
候補 評価 行数 評言
男48歳
29 「前半はすばらしい。しかし後半はやや落ちるかもしれない。(引用者中略)みんないい人になって、構造(ルビ:つくり)に微かなひびが入った。」「いずれにもせよ、作者は、名もなき死者を悼む人を設定して、人生と死と愛という人間の三大難問に正面から挑戦した。」「ドストエフスキーも顔負けの、この度胸のある文学的冒険に脱帽しよう。」
男52歳
22 「臨済禅が利休に与えた影響について書かれていないことを(大徳寺は出てくるけれども)不満に思ったが、しかし、時間を巧妙に逆行させながらなにもかも、高麗からの流浪の麗人と、彼女の持っていた緑釉の香合に、焦点を絞ってみせた、作者の力業に喝采を送る。」「おしまいの、利休の妻が香合を石灯籠に叩きつけて砕くところは、この長編を締めくくるにふさわしい名場面だった。」
道尾秀介
男33歳
19 「一に人物造型のたしかさ面白さ、二に伏線の仕込み方の誠実さ、三に物語の運びの精密さと意外さ、四に社会の機能を抉りだすときの鋭さ、五に質のいい笑いを創り出すときの冴えにおいて、出色の小説だった。評者も、すっかり騙された口の一人である。」
  「評者は推すべき作品を以下の(引用者注:「利休にたずねよ」「悼む人」「カラスの親指」の)三作品に定めた。」
選評出典:『オール讀物』平成21年/2009年3月号
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直木賞 141 平成21年/2009年上半期   一覧へ
選評の概要 一つの達成 総行数201 (1行=12字)
選考委員 井上ひさし 男74歳
候補 評価 行数 評言
男59歳
19 「局番ちがいの間違い電話――こんな安易な手はほかにないが、『鷺と雪』(北村薫)では、この手が、二度と逢うことがないはずの反乱軍の青年将校と良家令嬢の、この世で一度の魂の通い道になる。」「見えないものを見えるようにするのが、詩や劇や絵や小説など芸術本来の働きであるとすれば、周到に書かれたこの場面こそは、まさにその芸術の達成そのものと言ってよいだろう。」
選評出典:『オール讀物』平成21年/2009年9月号
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